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特開2022-81289沿岸漂砂による堆積及び侵食を低減する沿岸構造物
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  • 特開-沿岸漂砂による堆積及び侵食を低減する沿岸構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081289
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】沿岸漂砂による堆積及び侵食を低減する沿岸構造物
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
E02B3/06 301
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192734
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】前田 勇司
【テーマコード(参考)】
2D118
【Fターム(参考)】
2D118AA02
2D118AA09
2D118AA10
2D118AA11
2D118BA03
2D118BA05
2D118CA03
2D118FB01
2D118GA07
2D118GA09
(57)【要約】
【課題】港が構築される水域の水流環境に左右されることなく、港内における堆砂の発生を防止できる手段を提供する。
【解決手段】沿岸構造物1は汀線Gから海S側に離間配置され岸沖方向に延伸し港を形成する堤体11及び堤体12と、堤体11の陸側端部と堤体12の陸側端部との間をつなぐように海底に打設された鋼矢板13と、鋼矢板13と岸Lとの間の領域の海底に打設された複数の杭と、それらの杭の上に設置された床版15を備える。堤体11、堤体12、及び鋼矢板13により形成される港は、岸Lから離間配置されているため、沿岸標砂が大きく阻害されることがない。また、床版15は上下方向に貫通する開口部O1及び開口部O2を有し、これらの開口部を介して床版15上から床版15の下方の海底に堆積した砂を容易に浚渫できる。そのため、港の外側に生じる堆砂が進行して港口から砂が港内に流れ込む状況を容易に回避できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汀線から海側に離間配置され岸沖方向に延伸し港を形成する複数の堤体と、
前記複数の堤体の陸側端部をつなぐラインと前記岸との間の領域に構築された、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持され、上下方向に貫通した開口部を有する水上構造物と
を備える沿岸構造物。
【請求項2】
前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように当該陸側端部から所定の距離をおいて陸側に構築された満潮位より上の位置に達する壁体を備える
請求項1に記載の沿岸構造物。
【請求項3】
前記開口部を塞ぐ蓋体を備える
請求項1又は2に記載の沿岸構造物。
【請求項4】
前記開口部の下方の海底に設けられた窪み部を備える
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の沿岸構造物。
【請求項5】
前記水上構造物の下方の海底に堆積した砂を吸い込み、吸い込んだ砂を砂が侵食された場所に排出する砂の移送機構を備える
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の沿岸構造物。
【請求項6】
岸と、前記岸から岸沖方向に延伸する複数の堤体とにより形成されている港において、
前記複数の堤体の各々の前記岸から海側へ所定距離までの部分を撤去する工程と、
前記撤去する工程によって前記岸から離間された前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように前記陸側端部から所定の距離をおいて陸側に壁体を構築する工程と、
前記壁体と前記岸との間の領域に、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持される水上構造物とを構築する工程と
を備える既設の港の改修方法。
【請求項7】
岸と、前記岸から岸沖方向に延伸する複数の堤体とにより形成されている港において、
前記岸の汀線から陸側へ所定距離までの地表面から前記港の水深までの土砂を撤去する工程と、
前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように前記陸側端部から所定の距離をおいて陸側に壁体を構築する工程と、
前記撤去する工程によって新たに海底となった前記壁体と新たな岸との間の領域に、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持される水上構造物とを構築する工程と
を備える既設の港の改修方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の沿岸構造物を用いて沿岸漂砂の阻害を低減する工程
を備える港の維持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は沿岸構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
岸に接するように港を設置すると、港が沿岸漂砂を阻害し、港の上流側には堆砂が起き、下流側には侵食が起きる。上流側の堆砂が進行すると、港内にも海浜流による流砂で堆砂が生じ、堆砂により港内での船舶の運航等に障害を生じ港の機能が低下する。
【0003】
港内に生じる堆砂を低減する技術が記載されている特許文献として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、港を形成する堤体の汀線に近い部分に透水孔を設けることにより、漂砂の港内への流入を低減する、という発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-183566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の発明による場合、砂は透水孔経由では港内に流れ込まないため、堤体の外側に堆砂が生じる。しかしながら、堤体の外側における堆砂が進行すると、港口経由で港内への砂の流入が始まる。この砂の流入は、透水孔経由で港内に流入し港口経由で港外へ流出する海水の水流により低減されるものの、透水孔経由で港内に流入する海水の流量が不十分であれば、港内における堆砂の発生を防ぐことはできない。すなわち、特許文献1に記載の発明は、透水孔経由で港内に流れ込む海水の流量が十分に得られるような水流環境下でなければ十分な効果が得られない、という問題がある。
【0006】
上述の背景に鑑み、本発明は、港が構築される水域の水流環境に左右されることなく、港内における堆砂の発生を防止できる手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、汀線から海側に離間配置され岸沖方向に延伸し港を形成する複数の堤体と、前記複数の堤体の陸側端部をつなぐラインと前記岸との間の領域に構築された、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持され、上下方向に貫通した開口部を有する水上構造物とを備える沿岸構造物を第1の態様として提案する。
【0008】
第1の態様に係る沿岸構造物によれば、水上構造物の下方において沿岸方向の流れ及び沿岸漂砂を阻害しづらく、堤体の湾外側における堆砂及び浸食が低減される。また、水上構造物の下方の海底に砂が堆積したとしても、水上構造物に設けられた開口部経由で陸上建設重機などにより容易に浚渫できる。その結果、港内における堆砂の発生が防止される。
【0009】
第1に係る沿岸構造物において、前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように当該陸側端部から所定の距離をおいて陸側に構築された満潮位(H.W.L.)より上の位置に達する壁体(例えば、鋼矢板)を備える、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0010】
通常の港であれば、港外に堆積した砂の漂砂がさらに進行し、いずれ港内に流入するが、第2の態様に係る沿岸構造物によれば、砂が堆積するのは水上構造物の下方であり、そのまま下手側へ流出することが期待できるため、砂が港内に流入することを低減することができる。
【0011】
第1又は第2の態様に係る沿岸構造物において、前記開口部を塞ぐ蓋体を備える、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0012】
第3の態様に係る沿岸構造物によれば、床版の下方の海底に堆積した砂を浚渫する時以外は蓋体により塞がれた開口部上の空間を利用できる。
【0013】
第1乃至第3のいずれかに係る沿岸構造物において、前記開口部の下方の海底に設けられた窪み部を備える、という構成が第4の様態として採用されてもよい。
【0014】
第4の態様に係る沿岸構造物によれば、窪み部を設けることで水上構造物の下方において沿岸方向に流れる海水に含まれる砂を特定の場所に堆積させることができる。
【0015】
第1乃至第4のいずれかに係る沿岸構造物において、前記水上構造物の下方の海底に堆積した砂を吸い込み、吸い込んだ砂を砂が侵食された場所に排出する砂の移送機構を備える、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0016】
第5の態様に係る沿岸構造物によれば、床版の下方の水中に生じる堆砂が移送機構により低減され、浚渫の頻度が低減する。
【0017】
また、本発明は、岸と、前記岸から岸沖方向に延伸する複数の堤体とにより形成されている港において、前記複数の堤体の各々の前記岸から海側へ所定距離までの部分を撤去する工程と、前記撤去する工程によって前記岸から離間された前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように前記陸側端部から所定の距離をおいて陸側に壁体を構築する工程と、前記壁体と前記岸との間の領域に、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持される水上構造物とを構築する工程とを備える既設の港の改修方法を第6の態様として提案する。
【0018】
また、本発明は、岸と、前記岸から岸沖方向に延伸する複数の堤体とにより形成されている港において、前記岸の汀線から陸側へ所定距離までの地表面から前記港の水深までの土砂を撤去する工程と、前記複数の堤体の陸側端部の間をつなぐように前記陸側端部から所定の距離をおいて陸側に壁体を構築する工程と、前記撤去する工程によって新たに海底となった前記壁体と新たな岸との間の領域に、支持体と、前記支持体により下方から水上で支持される水上構造物とを構築する工程とを備える既設の港の改修方法を第7の態様として提案する。
【0019】
第6又は第7の態様に係る改修方法によれば、既設の港に生じていた港内における堆砂が解消される。
【0020】
また、本発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の沿岸構造物を用いて沿岸漂砂の阻害を低減する工程を備える港の維持方法を第8の態様として提案する。
【0021】
第8の態様に係る維持方法によれば、港内における堆砂が防止され、港の機能が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る沿岸構造物の平面図。
図2】一実施形態に係る沿岸構造物が隣接設置された岸の断面図。
図3】一実施形態に係る沿岸構造物が隣接設置された岸の断面図。
図4】一実施形態に係る沿岸構造物を新設する方法のフロー図。
図5】一実施形態に係る沿岸構造物が新設される様子を示した図。
図6】既設の港を改修して一実施形態に係る沿岸構造物を構築する方法のフロー図。
図7】既設の港の改修により沿岸構造物が構築される様子を示した図。
図8】既設の港を改修して一実施形態に係る沿岸構造物を構築する方法のフロー図。
図9】既設の港の改修により沿岸構造物が構築される様子を示した図。
図10】一変形例に係る沿岸構造物の構成を示した図。
図11】一変形例に係る沿岸構造物の構成を示した図。
図12】一変形例に係る沿岸構造物の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る沿岸構造物1の平面図である。また、図2は、沿岸構造物1が隣接設置された岸Lを図1の矢印Aで示される方向に見た断面図であり、図3は、沿岸構造物1が隣接設置された岸Lを図1の矢印Bで示される方向に見た断面図である。
【0024】
沿岸構造物1は、岸Lから海S側に離間配置され岸Lから海S側に向かう方向(すなわち、岸沖方向)に延伸し港を形成する堤体11及び堤体12と、堤体11の陸側端部と堤体12の陸側端部の間をつなぐように所定の距離をおいて陸側の海底に打設された鋼矢板13(壁体の一例)と、鋼矢板13と岸Lとの間の領域、すなわち、堤体11の陸側端部と堤体12の陸側端部をつなぐラインと岸Lとの間の領域の海底に打設された複数の杭14(支持体の一例)と、杭14により下方から水上で支持される床版15(水上構造物の一例)を備える。杭14及び床版15は桟橋を構成する。
【0025】
床版15は、例えば、堤体11、堤体12及び鋼矢板13により形成される港と岸Lとを結ぶ渡り通路の役割を果たす。従って、床版15は、少なくともその上面が堤体11及び堤体12の上面と等しくなるように配置されている。そのため、杭14は、その上端が満潮位(以下、「H.W.L.」と記載する)より上の位置に達するように打設されている。
【0026】
床版15は、上下方向に貫通した開口部O1及び開口部O2を有している。開口部O1及び開口部O2は、床版15の下方の海底、すなわち、鋼矢板13と岸Lとの間の領域における海底に堆積した砂を床版15上から重機等を用いて浚渫できるように設けられている。
【0027】
なお、図2及び図3において符号7が付された構造物は護岸の役割を果たす矢板であり、符号8が付された構造物は梁であり、符号9が付された構造物は舗装等された港の後背地である。なお、これらの構造物は岸Lを構成する構造物の一例であって、他の種類の構造物により岸Lが形成されていてもよい。なお、図2及び図3において、床版15を構築するために杭14の上に構築される梁の図示は省略されている。
【0028】
沿岸構造物1の堤体11、堤体12及び鋼矢板13により形成される港は、岸Lから海S側に離間配置されているため、汀線Gに沿う方向、すなわち沿岸方向に生じる沿岸漂砂が大きくは阻害されない。従って、堤体11及び堤体12の湾外側に起きる堆砂が進行せず、堤体11及び堤体12の外側で堆積した砂が堤体11の海側端部と堤体12の海側端部の間に形成される港口から港内に流れ込むことがない。その結果、港の機能が維持される。
【0029】
以下に、港が設置されていない岸Lに対し、新たに沿岸構造物1を構築する方法を説明する。図4は、沿岸構造物1を新設する方法のフロー図である。図5は、沿岸構造物1が新設される様子を示した図である。
【0030】
まず、作業者は、岸Lから所定距離だけ海S側に離れた位置の海底に、汀線Gに沿った方向に延伸するように、鋼矢板13を打設する(ステップS101)。図5(A)は鋼矢板13の打設が完了した状態を示している。
【0031】
続いて、作業者は、鋼矢板13と岸Lとの間の領域の海底に、杭14を複数、打設する(ステップS102)。なお、杭14は鋼管杭が望ましい。図5(B)は杭14の打設が完了した状態を示している。
【0032】
続いて、作業者は、杭14の上に梁を構築し、続いて床版コンクリートを鋼矢板13の上部をまきこむように打設し、開口部O1及びO2を有する床版15を構築する(ステップS103)。図5(C)は床版15の構築(すなわち、桟橋の構築)が完了した状態を示している。
【0033】
なお、鋼矢板13の上方の長さをH.W.L.以上、梁以下とし、床版コンクリートの現場打設に代えプレキャスト部材を床版として設置するようにしてもよい。この場合には、鋼矢板上部は床版と縁が切れた状態となる。
【0034】
続いて、作業者は、鋼矢板13の所定の位置から海S側に延伸するように堤体11及び堤体12を構築する(ステップS104)。図5(D)は沿岸構造物1の構築が完了した状態を示している。
【0035】
なお、図5(E)は、沿岸構造物1において堤体11及び堤体12を、鋼矢板13の図5(D)の例とは異なる位置から海S側に延伸させた状態を示している。また、鋼矢板13と堤体11及び12の陸側端部との間には間隙が生ずるが、鋼矢板13を打設する際に間隙を塞ぐよう別途鋼矢板を打設しておいてもよい。
【0036】
以上が、沿岸構造物1の新設の方法である。なお、沿岸構造物1を新設する方法において、図4に示したフローは一例であり、それらの工程の順序が適宜変更されてもよい。例えば、杭14の打設(ステップS102)が、鋼矢板13の打設(ステップS101)より先に行われたり、同時並行で行われたりしてもよい。また、鋼矢板13の打設(ステップS101)や杭14の打設(ステップS102)が、堤体11及び堤体12の構築(ステップS104)の後に行われてもよい。
【0037】
沿岸構造物1は、既設の港を改修することによっても構築され得る。以下に、既設の港を改修して沿岸構造物1を構築する方法(以下、第1の方法という)を説明する。
【0038】
図6は、第1の方法のフロー図である。図7は、図6のフローに従い沿岸構造物1が構築される様子を示した図である。
【0039】
図7(A)は、岸Lから海S側に向かい延伸するように構築されている既設の堤体11及び堤体12により港が形成されている状態を示している。この港を改修し沿岸構造物1を構築するために、作業者は、まず、既設の堤体11の岸Lから海S側へ所定距離までの部分Cと、既設の堤体12の岸Lから海S側へ所定距離までの部分Dとを撤去する(ステップS201)。図7(B)は堤体11の部分Cと堤体12の部分Dの撤去が完了した状態を示している。
【0040】
続いて、作業者は、ステップS201の工程により岸Lから離間された堤体11の陸側端部と、岸Lから離間された堤体12の陸側端部との間をつなぐように2つの堤体端部から所定の距離陸側に位置した海底に鋼矢板13を打設する(ステップS202)。図7(C)は鋼矢板13の打設が完了した状態を示している。
【0041】
続いて、作業者は、鋼矢板13と岸Lとの間の領域の海底に、杭14を複数、打設する(ステップS203)。なお、杭14は鋼管杭が望ましい。図7(D)は杭14の打設が完了した状態を示している。
【0042】
続いて、作業者は、杭14の上に梁を構築し、続いて床版コンクリートを鋼矢板13の上部をまきこむように打設し、開口部O1及びO2を有する床版15を構築する(ステップS204)。図7(E)は床版15の構築(すなわち、桟橋の構築)が完了した状態を示している。
【0043】
なお、鋼矢板13の上方の長さをH.W.L.以上、梁以下とし、床版コンクリートの打設に代えプレキャスト部材を床版として設置するようにしてもよい。この場合には、鋼矢板上部は床版と縁が切れた状態となる。
【0044】
以上が、既設の港を改修して沿岸構造物1を構築する第1の方法である。なお、図6に示したフローの工程の順序が適宜変更可能である点は、沿岸構造物1を新設する場合と同様である。また、鋼矢板13と堤体11及び12の陸側端部との間には所定の距離の間隙が生ずるが、鋼矢板13を打設する際に当該間隙を塞ぐよう別途鋼矢板を打設しておいてもよい。
【0045】
続いて、既設の港を改修して沿岸構造物1を構築する別の方法(以下、第2の方法という)を以下に説明する。
【0046】
図8は、第2の方法のフロー図である。図9は、図8のフローに従い沿岸構造物1が構築される様子を示した図である。
【0047】
図9(A)は、改修が開始される前の港の状態を示している。すなわち、岸Lから海S側に向かい延伸するように構築されている既設の堤体11及び堤体12により港が形成されている。この港を改修し沿岸構造物1を構築するために、作業者は、まず、護岸の役割を果たしている鋼矢板7及び梁8と、岸Lの上面に敷設されている舗装9のうち汀線Gから陸側へ所定距離までの部分Eを撤去する(ステップS301)。図9(B)は鋼矢板7と部分Eの舗装9の撤去が完了した状態を示している。
【0048】
続いて、作業者は、撤去後の舗装9の縁部(図9(A)の部分Eの陸側の縁部)に沿って、護岸の役割を果たす新たな鋼矢板7を打設する(ステップS302)。図9(C)は新たな鋼矢板7の打設が完了した状態を示している。
【0049】
続いて、作業者は、岸Lの汀線Gから陸側へ所定距離までの部分F、すなわち、汀線Gと新たな鋼矢板7との間の部分を地表面から港の水深まで掘削し、その部分の土砂を撤去する(ステップS303)。図9(D)は、岸Lの掘削が完了した状態を示している。
【0050】
続いて、作業者は、新たな鋼矢板7の上に新たな梁8(図9において図示略)をコンクリートの打設により構築し、舗装9の海S側の縁部を補修する(ステップS304)。
【0051】
また、作業者は、岸Lの掘削により水中に露出する状態となった堤体11と堤体12の陸側端部を補修する(ステップS305)。なお、補修には端部のはつり等を含む。図9(E)は、舗装9の補修、及び、堤体11と堤体12の端部の補修が完了した状態を示している。
【0052】
続いて、作業者は、ステップS305までの工程により岸Lから離間された堤体11の陸側端部と、岸Lから離間された堤体12の陸側端部との間をつなぐように2つの堤体端部から所定の距離陸側に位置した海底に鋼矢板13(堤体11及び12と共に港を構成する鋼矢板)を打設する(ステップS306)。図9(F)は鋼矢板13の打設が完了した状態を示している。なお、このときに鋼矢板13と堤体11及び12の陸側端部との間隙を塞ぐよう別途鋼矢板を打設しておいてもよい。
【0053】
続いて、作業者は、鋼矢板13と岸Lとの間の領域の海底に、杭14を複数、打設する(ステップS307)。図9(G)は杭14の打設が完了した状態を示している。
【0054】
続いて、作業者は、杭14の上に梁を構築し、続いて鋼矢板13の上部をまきこむように床版コンクリートを打設し、開口部O1及びO2を有する床版15を構築する(ステップS308)。図9(H)は床版15の構築(すなわち、桟橋の構築)が完了した状態を示している。
【0055】
以上が、既設の港を改修して沿岸構造物1を構築する第2の方法である。なお、図9に示したフローの工程の順序が適宜変更可能である点は、沿岸構造物1を新設する場合、及び、第1の方法により既設の港を改修して沿岸構造物1を構築する場合と同様である。
【0056】
上述した第2の方法により構築される沿岸構造物1においては、改修前の港の泊地領域が改修後においても確保される。一方、第1の方法は、第2の方法と比較し作業量が少ない点で施工性がよい。また、岸Lの汀線G付近の領域上に撤去できない既設の構造物があるような場合、第2の方法は実施できないが第1の方法は実施できることから対象に合わせて第1の方法又は第2の方法を選択することができる。
【0057】
[変形例]
上述の実施形態は様々に変形され得る。以下に、それらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0058】
(1)沿岸構造物1によれば、沿岸標砂の流れが大きくは阻害されないが、杭14等により沿岸標砂の流れの阻害が生じる。従って、床版15の下方の海底には堆砂が生じる。この堆砂を放置すると、堆砂が進行して堤体11又は堤体12の湾外側に及び、さらには港口に達して港内に流れ込む、ということが起こり得る。そのため、床版15が有する開口部O1又は開口部O2を介して床版15上から必要な頻度で堆積した砂の浚渫を行う必要がある。
【0059】
上記の浚渫の頻度を低減するために、床版15の下方の海底に堆積した砂を吸い込み、吸い込んだ砂を砂が侵食された場所に排出する砂の移送機構を備えるように沿岸構造物1を構成してもよい。
【0060】
図10は、この変形例に係る沿岸構造物1の構成を示した図である。ただし、図10において、床版15及び杭14の図示は省略されている。図10に示す沿岸構造物1が設置されている水域の水流環境下では、図の右から左へ向かう方向に沿岸標砂が流れている。この場合、一般的に、港の上流側の領域R1において砂の堆積が生じ、下流側の領域R2において砂の侵食が生じる。
【0061】
そこで、この変形例においては、領域R1に堆積している砂を、砂の侵食が生じている領域R2に移送する移送機構16が設けられている。移送機構16は、領域R1に設置され、領域R1の砂を吸い込むポンプ161と、ポンプ161が吸い込んだ砂を領域R2へと導いた後に排出する管162を備える。
【0062】
ポンプ161が連続的又は断続的に運転することにより港の外側に生じる堆砂が低減され、必要な浚渫の頻度が低下する。
【0063】
また、床版15の下方の海底に堆積積する砂を開口部O1又は開口部O2を介してポンプ161で吸い込みやすいよう、開口部O1又は開口部O2の下方の海底に窪み部を設ける。これによって、窪み部に意図的に砂を堆積させ、床版15の下方の海底の他の部分における砂の堆積を妨げることができる。
【0064】
(2)上述した実施形態において、水上構造物の一例として示した床版15は杭14により下方から支持される。本発明に係る水上構造物を下方から水上で支持する支持体の種類は海底に打設された杭に限られない。例えば、杭14の打設に代えて、海底上に設置されたボックスカルバートが床版15を下方から水上で支持する支持体として採用されてもよい。図11は、この変形例に係る沿岸構造物1の構成を示した図である。図11において符号17が付された構造物がボックスカルバートである。ボックスカルバート17のトップスラブには、床版15に設けられる開口部と連通する位置に、開口部が設けられている。この場合、ボックスカルバート17のインバート及びスタンドウォールが支持体を構成し、床版15と、ボックスカルバート17のトップスラブが水上構造物を構成する。
【0065】
なお、図11に示した沿岸構造物1においては、ボックスカルバート17の上に床版15が配置されているが、ボックスカルバート17の開口部を有するトップスラブが水上構造物として用いられてもよい。この場合、水上構造物とその支持体が一体化されたものとなる。
【0066】
また、設置するボックスカルバート17の巾は、鋼矢板13と岸L間の距離内で自由に設定できる。また、鋼矢板13と堤体11及び12との間隙については、鋼矢板13を打設する際に鋼矢板13の両端部にも鋼矢板を打設して塞ぐようにしてもよい。
【0067】
(3)沿岸構造物1が、床版15が有する開口部を塞ぐ蓋体を備えてもよい。例えば、開口部の両側に位置する床版に階段状の段差を設け、蓋体を当該段差にはめ込むことで開口部を塞ぐ構成としてもよい。この変形例によれば、床版15の下方の海底に堆積した砂の浚渫が行われる期間中は蓋体が開かれ、又は取り除かれて、浚渫が行われない期間中は蓋体で開口部が塞がれることで、浚渫が行われない期間中、開口部の上の空間が通行等に利用可能となる。
【0068】
(4)上述した実施形態において、堤体11の陸側端部と堤体12の陸側端部との間をつなぐように構築される壁体は鋼矢板13であるものとしたが、他の種類の構造物により壁体が構築されてもよい。例えば、鋼矢板13を海底に打設する代わりに、ケーソンを海底上に設置することにより、壁体の構築が行われてもよい。
【0069】
(5)上述した実施形態において、床版15はコンクリートの打設により構築されるものとしたが、床版15の構築方法はこれに限られない。例えば、プレキャスト床版が杭14及び鋼矢板13の上に設置されることで、床版15が構築されてもよい。なお、プレキャスト床版を使用するときには、梁は鋼矢板13の上部を含んで構築されるようにしてもよい。
【0070】
(6)上述した実施形態において、床版15には開口部O1及び開口部O2という2つの開口部を有するものとしたが、床版15が有する開口部の数は2つに限られない。また、床版15が有する開口部の形状及び位置は図1等に示される形状及び位置に限られない。
【0071】
例えば、上述した実施形態においては、1枚の床版15に、岸沖方向において床版15の長さより短い長さの開口部O1及びO2が設けられるものとしたが、これに代えて、岸沖方向において床版15の全幅に至る開口部が設けられてもよい。図12は、この変形例に係る沿岸構造物1の一例の平面図である。図12に示す沿岸構造物1が備える床版15は、杭14及び鋼矢板13の上に設置された9枚のプレキャスト床版151により構成されている。そして、左から3番目と4番目のプレキャスト床版151はそれらの間に開口部O1が生じるように、間を空けて配置されている。同様に、左から6番目と7番目のプレキャスト床版151はそれらの間に開口部O2が生じるように、間を空けて配置されている。開口部を有する床版15が、この変形例のように構成されてもよい。なお、開口部O1及びO2の部分には杭14を打設しないので建設重機で海底に堆積した砂を撤去する際に杭が邪魔とならない。
【0072】
(7)上述した実施形態において、図4図6図8を用いて説明した沿岸構造物の改修又は新設の方法における工程(ステップ)の順序は、施工場所の状況等により適宜変更されてよい。例えば、図8に従う場合、舗装9の補修の工程(ステップS303)の先に堤体11及び12の補修の工程(ステップS304)が行われてもよい。
【0073】
(8)上述した実施形態の説明に用いた図5図7図9図10において、堤体11及び12と岸Lとの間に打設する壁体(例えば、鋼矢板13)の沿岸方向の打設長が、堤体11及び12の陸側端部の間の距離とほぼ同じ場合が図示されているが、壁体を両堤体の外側に張り出す位置まで打設するようにしてもよい。壁体を堤体の外側に張り出させることによって、堤体の外側に回り込む流砂を床版下部にガイドすることができる。
【0074】
(9)上述した実施形態において、港を構成する堤体の数は2つであるものとしたが、港を構成する堤体の数は複数であればよく、例えば3以上であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…沿岸構造物、7…鋼矢板、8…梁、9…舗装、11…堤体、12…堤体、13…鋼矢板、14…杭、15…床版、16…移送機構、17…ボックスカルバート、151…プレキャスト床版。
図1
図2
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図12