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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081299
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/26 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
G01R27/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192748
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100194858
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 久子
(72)【発明者】
【氏名】西島 克俊
【テーマコード(参考)】
2G028
【Fターム(参考)】
2G028AA01
2G028CG07
2G028DH04
2G028DH05
2G028DH11
2G028FK01
2G028GL03
(57)【要約】
【課題】広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができる測定装置を提供すること。
【解決手段】互いに異なる周波数でN個(Nは2以上の自然数)の検出用交流信号を生成する交流信号生成部(1)と、前記N個の検出用交流信号を重畳する重畳部(4)と、前記重畳した検出用交流信号を被測定対象物(7)へと出力し、前記検出用交流信号が印加された被測定対象物(7)が出力する測定用交流信号に対して、前記N個の異なる周波数の検出用交流信号をそれぞれ乗算してN個の同期検波信号にする乗算処理部(12a、12b)と、前記N個の同期検波信号をローパスフィルタ処理してN個の直流電圧信号を得るローパスフィルタ処理部(13a、13b)と、前記N個の直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する静電容量測定部(15)とを備える、測定装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる周波数でN個(Nは2以上の自然数)の検出用交流信号を生成する交流信号生成部と、
前記N個の検出用交流信号を重畳する重畳部と、
前記重畳した検出用交流信号を被測定対象物へと出力する出力端子と、
前記検出用交流信号が印加された前記被測定対象物が出力する測定用交流信号を入力する入力端子と、
前記測定用交流信号に対して、前記N個の異なる周波数の検出用交流信号のうちの対応する検出用交流信号をそれぞれ乗算してN個の同期検波信号にする乗算処理部と、
前記N個の同期検波信号をローパスフィルタ処理してN個の直流電圧信号を得るローパスフィルタ処理部と、
前記N個の直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する静電容量測定部とを備えている、
測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の測定装置であって、
前記交流信号生成部は、それぞれ互いに異なる第1から第Nの周波数で第1から第Nの検出用交流信号を生成するN個の周波数信号生成部である第1から第Nの周波数信号生成部を有し、
前記重畳部は、前記第1から第Nの周波数信号生成部でそれぞれ生成した第1から第Nの検出用交流信号を重畳する、
測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の測定装置であって、
第n(n=1からNまで変化する整数)の期間に、前記乗算処理部は、前記入力端子から入力された測定用交流信号に対して、第nの前記検出用交流信号を乗算して第nの同期検波信号にし、前記ローパスフィルタ処理部は、前記第nの同期検波信号をローパスフィルタ処理して第nの直流電圧信号を得て、前記静電容量測定部は、第1の期間から第nの期間までに時分割で得られたN個の直流電圧信号から静電容量値を測定する、
測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の測定装置であって、
前記静電容量測定部は、前記N個の直流電圧信号の電圧値をそれぞれ検出して、検出したN個の電圧値の加算値に対応する静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する、
測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の測定装置であって、
前記静電容量測定部は、前記N個の直流電圧信号を重畳して得られる信号の電圧値に対応する静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する、
測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の測定装置であって、
前記交流信号生成部は、前記静電容量値の変動に対する前記電圧値の変動の大きさが所定値以上となる高感度領域が重複しないN個の異なる周波数を設定する、
測定装置。
【請求項7】
請求項5記載の測定装置であって、
前記N個の直流電圧信号を重畳して前記静電容量測定部に出力するアナログ加算回路をさらに備える、
測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置に関し、例えば、電圧を印加し、電流を測定することで被測定対象物の容量を測定することができる測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トランジスタのゲート・ソース間のc成分およびr成分を同時に検出してその値を得るために用いられるインピーダンス検出装置が記載されている。このインピーダンス検出装置は、検出対象に交流信号を加えるための交流信号発生部と、検出対象のインピーダンスに応じて生じる電流を電圧に変換する変換部と、変換部の出力信号に対し同期検波を行って検出対象のc成分、l成分、r成分のいずれかである第1の成分を検出する同期検波部を備えている。この特許文献1には、変換部の出力信号から第1の成分を差し引いて第1の成分を低減した後の出力信号に対して同期検波を行うことにより、インピーダンスを正確に検出ができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-242718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象物のインピーダンスを測定する装置としては、図5に示すような装置も知られている。図5に示す測定装置は、信号源101と、分周器102と、波形整形フィルタ103と、出力インピーダンス調整回路104と、端子105,107と、電流電圧変換機108と、増幅器109と、乗算器110と、ローパスフィルタ111と、静電容量測定器112とを備えている。なお、図5では、測定装置が端子105,107を介して被測定対象物106に接続されている状態が示されている。
【0005】
図5に示す測定装置では、信号源101と分周器102と波形整形フィルタ103とにより生成した所定の周波数の交流信号を、端子105により被測定対象物106に印加している。被測定対象物106から得られた出力信号を端子107により取得して、乗算器110において同期検波を行なう。さらに静電容量測定器112において、同期検波した信号の電圧値を検出することにより、被測定対象物の静電容量値を測定する装置が記載されている。
【0006】
このような測定装置においては、測定対象となる被測定対象物が近年多様化しており、従来想定されていなかった静電容量値も測定対象とすることが望まれている。ところが被測定対象物106は、絶縁抵抗と寄生容量との並列回路として構成されるものであることが多いため、単純に測定対象の静電容量値を拡大することは問題となることが明らかとなった。
【0007】
このような測定装置では、被測定対象物106の寄生容量の静電容量値が従来想定されていた範囲を外れた小さい値であると、図6に示すように、絶縁抵抗の大きさによって、同じ容量に対応して異なる電圧値が検出されてしまう。この影響は、図7に示すように、容量の小さい領域では最大で85%以上の違いとなって表れる。その結果、従来想定されていた範囲を外れた小さい静電容量値の寄生容量を有する被測定対象物106を検出対象とした場合は測定精度が低下してしまうこととなる。
【0008】
また、このような測定装置では、被測定対象物106の寄生容量の静電容量値が従来想定されていた範囲を外れた大きい値であると、端子105、107と被測定対象物106の端子との接触抵抗の影響が検出する電圧値の誤差となって現れてしまう。この接触抵抗の影響を相殺するために、交流信号の出力インピーダンスの容量値を従来よりも大きい値に設定することが考えられる。しかしながら交流信号の出力インピーダンスの容量値を従来よりも大きい値に設定すると、静電容量値に対する検出電圧レベルが低下してしまう。その結果、測定精度が低下してしまうこととなる。
【0009】
上記のように、静電容量値が従来想定されていた範囲を外れてしまうと、小さい値、大きい値のいずれの領域でも、測定精度が低下してしまうといえる。その結果、被測定対象物106の従来の測定装置では、図8に示すように、従来想定されていた範囲を外れた静電容量値を含めると、一様の検出感度でなくなる。したがって、従来想定されていた範囲を外れた静電容量値を含むように測定対象の静電容量値を拡大すると、測定精度が低下してしまうこととなる。
【0010】
本発明は上記従来の問題に鑑みなされたものであって、本発明の課題は、広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができる測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の代表的な実施の形態に係る測定装置は、互いに異なる周波数でN個(Nは2以上の自然数)の検出用交流信号を生成する交流信号生成部と、前記N個の検出用交流信号を重畳する重畳部と、前記重畳した検出用交流信号を被測定対象物へと出力する出力端子と、前記重畳した検出用交流信号が印加された前記被測定対象物が出力する測定用交流信号を入力する入力端子と、前記測定用交流信号に対して、前記N個の異なる周波数の検出用交流信号をそれぞれ乗算してN個の同期検波信号にする乗算処理部と、前記N個の同期検波信号をローパスフィルタ処理してN個の直流電圧信号を得るローパスフィルタ処理部と、前記N個の直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する静電容量測定部とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る測定装置によれば、広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
図2】第1の実施形態の測定装置で用いられる容量-検出電圧特性を示す図である。
図3】第1の実施形態の測定装置構成おける異なる絶縁抵抗値ごとの容量-検出電圧特性の変化を示す図である。
図4】第1の実施形態の測定装置構成における測定電圧に対する絶縁抵抗値の影響を示す図である。
図5】従来の測定装置の構成を示す図である。
図6】従来の測定装置における検出感度を示す図である。
図7】従来の測定装置構成おける異なる絶縁抵抗値ごとの容量-検出電圧特性の変化を示す図である。
図8】従来の測定装置構成における測定電圧に対する絶縁抵抗値の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、図1における発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0015】
〔1〕代表的な実施の形態に係る測定装置は、互いに異なる周波数でN個(Nは2以上の自然数)の検出用交流信号を生成する交流信号生成部(1,2,3a,3b)と、前記N個の検出用交流信号を重畳する重畳部(4)と、前記重畳した検出用交流信号を被測定対象物(7)へと出力する出力端子(6)と、前記重畳した検出用交流信号が印加された前記被測定対象物(7)が出力する測定用交流信号を入力する入力端子(8)と、前記測定用交流信号に対して、前記N個の異なる周波数の検出用交流信号をそれぞれ乗算してN個の同期検波信号にする乗算処理部(12a、12b)と、前記N個の同期検波信号をローパスフィルタ処理してN個の直流電圧信号を得るローパスフィルタ処理部(13a、13b)と、前記N個の直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定する静電容量測定部(15)とを備える。
【0016】
この態様によれば、互いに異なる周波数のN個の検出用交流信号を1つに重畳した信号を被測定対象物に印加し、前記N個の検出用交流信号と前記被測定対象物が出力する測定交流信号を乗算した上でローパスフィルタ処理してN個の直流電圧信号を求め、前記N個の直流電圧信号から求めた電圧値に応じた静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値とすることにより、静電容量値を互いに異なる周波数の複数の検出用交流信号に基づいて求めることができるため、広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができる。
【0017】
〔2〕上記〔1〕記載の測定装置において、前記交流信号生成部は、それぞれ互いに異なる第1から第Nの周波数で第1から第Nの検出用交流信号を生成するN個の周波数信号生成部である第1から第Nの周波数信号生成部とを有し、前記重畳部は、前記第1から第Nの周波数信号生成部でそれぞれ生成した第1から第Nの検出用交流信号を重畳することとしてもよい。
【0018】
この態様によれば、N個の系統で並列して生成したN個の検出用交流信号を重畳することにより、分周器を使わずにすむため、その分簡易な構成でN個の検出用交流信号を生成することができる。
【0019】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕記載の測定装置において、第n(n=1からNまで変化する整数)の期間に、前記乗算処理部は、前記入力端子から入力された測定用交流信号に対して、第nの前記検出用交流信号を乗算して第nの同期検波信号にし、前記ローパスフィルタ処理部は、前記第nの同期検波信号をローパスフィルタ処理して第nの直流電圧信号を得て、前記静電容量測定部は、第1の期間から第nの期間までに時分割で得られたN個の直流電圧信号から静電容量値を測定してもよい。
【0020】
この態様によれば、信号処理装置を用いN個の検出用交流信号と1つの測定用交流信号を時分割で処理してN個の直流電圧信号を求めることにより、2つの乗算処理部と2つのローパスフィルタ処理部を使わずにすむため、その分簡易な構成にすることができる。
【0021】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕のいずれか1つに記載の測定装置において、前記静電容量測定部は、前記N個の直流電圧信号の電圧値をそれぞれ検出して、検出したN個の電圧値の加算値に対応する静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定してもよい。
【0022】
この態様によれば、N個の検出用交流信号による直流電圧信号をN個の電圧検出回路でそれぞれ検出することにより、合波器を使わずにすみ、合波器とその周辺回路にかかる構成をなくすことができるため、その分簡易な構成にすることができる。
【0023】
〔5〕上記〔1〕乃至〔3〕のいずれか1つに記載の測定装置において、前記静電容量測定部は、前記N個の直流電圧信号を重畳して得られる信号の電圧値に対応する静電容量値を前記被測定対象物の静電容量値として測定してもよい。
【0024】
この態様によれば、N個の直流電圧信号を重畳することにより、複数の検出用交流信号による電圧値を1回検出するだけですみ、電圧検出回路を1つですませることができるため、その分簡易な構成にすることができる。
【0025】
〔6〕上記〔1〕乃至〔5〕のいずれか1つに記載の測定装置において、前記交流信号生成部は、前記静電容量値の変動に対する前記電圧値の変動の大きさが所定値以上となる高感度領域が重複しないN個の異なる周波数を設定してもよい。
【0026】
この態様によれば、静電容量値の変動に対する電圧値の変動の大きさが所定値以上となる複数の検出用交流信号の領域を重複しないように用いることにより、検出感度の高い領域を無駄にせず使用することができるため、検出感度の高い領域をできるだけ広範囲にして静電容量値を検出することができる。
【0027】
〔7〕上記〔5〕記載の測定装置において、前記N個の直流電圧信号を重畳して前記静電容量測定部に出力するアナログ加算回路をさらに備えていてもよい。
【0028】
この態様によれば、ADコンバータでデジタル化してから加算する方法に比べて、回路規模を小さくすることができる。
【0029】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0030】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【0031】
本実施形態の測定装置は、被測定対象物(DUT:Device Under Test)7に対して、検出用信号を出力する出力端子6と、被測定対象物7からの信号を測定装置に入力する入力端子8とを物理的に接触させるようにした状態で、静電容量値の大きさを測定する。測定装置が測定した静電容量値の大きさに基づいて、被測定対象物7に出力端子6と入力端子8とが電気的に正しく接続されているかを判定することができる。例えば、被測定対象物7の端子部分に錆が発生したりすることが原因で、2つの端子6、8と被測定対象物7との間が電気的・物理的に接触がされていないことがある。
【0032】
測定装置は、図1に示すように、被測定対象物7への出力側において、信号源1と、分周器2と、2つの波形整形フィルタ3a、3bと、合波器4と、インピーダンス調整回路5と、出力端子6とを備えている。測定装置は、図1に示すように、被測定対象物7からの入力側において、入力端子8と、電流電圧変換回路9と、分岐器10と、2つの増幅器11a、11bと、2つの乗算器12a、12bと、2つのローパスフィルタ13a、13bと、合波器14と、静電容量測定部15とを備えている。
【0033】
信号源1は、特定の周波数の交流信号を出力する発振器である。信号源1としては、例えば、特定の周波数として1MHzの交流信号を出力する水晶振動子を用いることができるがこれに限定されない。
【0034】
分周器2は、信号源1から出力された特定の周波数の交流信号を被測定対象物7の測定に適した周波数に変換する。分周器2としては、アナログ分周回路を用いることができる。分周器2は、例えば、信号源の周波数を2つの異なる周波数f1、f2に変換することができる。2つの異なる周波数f1、f2は、測定対象とする被測定対象物7の寄生容量の静電容量値が測定範囲内に含まれるような周波数が選択され、あらかじめ設定されている。
【0035】
波形整形フィルタ3a、3bは、分周器2によって生成された互いに異なる周波数f1、f2の2つの交流信号の波形を、矩形波状から正弦波状に波形整形するフィルタである。波形整形フィルタ3a、3bとしては、帯域制限回路を用いることができる。波形整形フィルタ3a、3bによって交流信号を正弦波状にすることによって、検出を容易にすることができる。
【0036】
合波器(重畳部の一例)4は、2つの波形整形フィルタ3a、3bから出力された互いに周波数の異なる2つの交流信号を1つの交流信号に合波(重畳)してインピーダンス調整回路5に出力する。合波器4としてはアナログ加算回路を用いることができる。
【0037】
インピーダンス調整回路5は、被測定対象物7に適合した交流信号を出力できるように、検出用に生成された交流信号の出力インピーダンスを調整する回路である。インピーダンス調整回路5としては、例えば、抵抗や容量素子を接続した回路を用いることができる。
【0038】
出力端子6は、被測定対象物7の入力端子に接続される信号出力用の端子である。出力端子6は、被測定対象物7の入力端子に正しく接続されたときに、インピーダンス調整された交流信号を検出用交流信号として被測定対象物7に出力する。
【0039】
入力端子8は、被測定対象物7の出力端子に接続される入力用の端子である。入力端子8は、被測定対象物7の出力端子に正しく接続されたときに、前記検出用交流信号が印加された被測定対象物7が出力する測定用交流信号が入力される。
【0040】
電流電圧変換回路9は、測定用交流信号の電流を電圧に変換する回路である。電流電圧変換回路9で電圧に変換することにより、測定用交流信号の電流を電圧として検出することができる。
【0041】
分岐器10は、電流電圧変換回路9から出力された測定用交流信号を分岐して、一方を第1の増幅器11aに入力し、他方を第2の増幅器11bに入力する。
【0042】
2つの増幅器11a、11bは、測定用交流信号のうち、それぞれ所定の周波数の信号成分について増幅する増幅器である。第1の増幅器11aは、測定用交流信号の周波数f1の信号成分について増幅する。第2の増幅器11bは、測定用交流信号の周波数f2の信号成分について増幅する。
【0043】
2つの乗算器(乗算処理部の一例)12a、12bは、2つの増幅器11a、11bで所定の周波数の信号成分が増幅された測定用交流信号に対して、対応する周波数f1、f2の検出用交流信号をそれぞれ乗算して2つの同期検波信号を得る。第1の乗算器12aでは、周波数f1の検出用交流信号を、周波数f1の信号成分が増幅された測定用交流信号に乗算して1つの同期検波信号を得ることができる。第2の乗算器12bでは、周波数f2の検出用交流信号を、周波数f2の信号成分が増幅された測定用交流信号に乗算して、もう1つの同期検波信号を得ることができる。すなわち、2つの乗算器12a、12bによって、周波数f1、f2の2つの周波数での同期検波信号が得られる。
【0044】
2つのローパスフィルタ(ローパスフィルタ処理部の一例)13a、13bは、2つの同期検波信号に対して、それぞれローパスフィルタ処理を行い、2つの直流電圧信号を得るフィルタである。ローパスフィルタ処理は、同期検波に用いた周波数f1、f2に応じた周波数f1’、f2’未満の周波数成分のみを通過させる処理である。2つのローパスフィルタ13a、13bにより、交流のリプル分を取り除いて測定に必要な直流信号成分を抽出することができる。
【0045】
合波器14は、2つの直流電圧信号を合波して、静電容量測定部15に入力する。合波器14としてはアナログ加算回路を用いることができる。
【0046】
静電容量測定部15は、合波器14から入力された直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を被測定対象物7の静電容量値として測定する。静電容量測定部15は、合波した直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を、容量-検出電圧特性に基づいて決定することができる。容量-検出電圧特性は、測定対象として想定される被測定対象物7の特性(例えば、所定の絶縁抵抗)に応じて決定されるフィッティング曲線である。容量-検出電圧特性は、測定装置の図示しない記憶部にあらかじめ格納しておくことができる。容量-検出電圧特性は、工場出荷時までに測定装置の記憶部にあらかじめ格納されているが、工場出荷後の任意の時点で更新されてもよい。
【0047】
ここで合波した直流電圧信号の電圧値に応じた静電容量値を決定するために用いられる容量-検出電圧特性について説明する。
【0048】
図2は、第1の実施形態の測定装置で用いられる容量-検出電圧特性を示す図である。図2には、第1の実施形態の測定装置で用いられる容量-検出電圧特性fと、第1の周波数f1における容量-検出電圧特性fと、第2の周波数f2における容量-検出電圧特性fとが示されている。
【0049】
本実施形態の測定装置で用いられる容量-検出電圧特性fは、図2に示すように、2つの周波数f1、f2のそれぞれにおける容量-検出電圧特性f、fを重畳した特性を有している。ここで2つの周波数f1、f2は、分周器2において生成された検出用交流信号の周波数f1、f2と等しい周波数である。
【0050】
静電容量測定部15は、2つの直流電圧信号を加算して得られる信号の電圧値を検出すると、容量-検出電圧特性fにおいて、検出した電圧値に対応する静電容量値を特定して、特定した静電容量値に測定値を決定することができる。
【0051】
周波数f1における容量-検出電圧特性fは、容量値C1から容量値C3の期間においては、静電容量値の変動に対する電圧値の変動が大きいので、容量値C1から容量値C3に対する検出感度が高いといえる。周波数f2における容量-検出電圧特性fは、容量値C2から容量値C4の期間においては、静電容量値の変動に対する電圧値の変動が大きいので、容量値C2から容量値C4に対する検出感度が高いといえる。これらの2つの周波数f1、f2のそれぞれにおける容量-検出電圧特性f、fを重畳した特性を有する容量-検出電圧特性fは、図2に示すように、C1からC4までの傾きが比較的大きくなっているため、単一周波数を用いた場合よりも検出感度が高い領域が広くなっている。したがって、本実施形態の測定装置によれば、従来よりも広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができるといえる。
【0052】
本実施形態の測定装置において用いられる周波数f1、f2は、容量-検出電圧特性の傾きが大きい領域に所望の静電容量値が含まれるように選択することができる。さらに、周波数f1、f2は、静電容量値の変動に対する電圧値の変動の大きさが所定値以上となる高感度領域が互いに重複しない周波数を設定することが好ましい。
【0053】
図3は、第1の実施形態の測定装置構成おける異なる絶縁抵抗値ごとの静電容量-検出電圧特性の変化を示す図である。図3では、絶縁抵抗値が100kΩ、200kΩ、500kΩ、1MΩ、100MΩであるときの静電容量-検出電圧特性が示されている。本実施形態の測定装置構成では、図6に示した従来の測定装置の時に比べて、低容量領域においても、絶縁抵抗値ごとの静電容量-検出電圧特性のずれは減少している。
【0054】
図4は、第1の実施形態の測定装置構成おける測定電圧に対する絶縁抵抗値の影響を示す図である。図4では、静電容量値が1nFであるときに検出される検出電圧の絶縁抵抗値ごとの変化と、絶縁抵抗値が100MΩであるときに検出される検出電圧との差の割合の影響を示している。図4では、静電容量値が1nFであるときに検出される検出電圧は絶縁抵抗が100MΩであるときに比べて最大でも28%ほどの差しかない。これは、最大で85%以上の差となる図7に示した従来の測定装置のときに比べて、絶縁抵抗の影響はかなり低下しており、実用上問題ないといえる。
【0055】
このように本実施形態の測定装置によれば、従来の測定装置に比べて絶縁抵抗の影響を抑えることができ、広い範囲の静電容量値を感度良く検出することができるといえる。
【0056】
(実施形態の変形例)
以上の実施形態の測定装置について具体的な例を挙げて説明したが、これに限定されず、様々な変形形態を採用することができる。例えば、分周器2において生成される異なる周波数の信号は、2つ以上の異なる周波数の信号であってもよい。この場合、波形整形フィルタ3a、3bと、増幅器11a、11bと、乗算器12a、12bと、ローパスフィルタ13a、13bとは異なる周波数の信号の数に対応した数のものが設けられる。
【0057】
以上の実施形態では、測定用交流信号の電流を電流電圧変換回路9により電圧に変換して測定を行っていたが、これに限定されない。例えば出力端子6と入力端子8の間の電圧を検出することにより、被測定対象物7による測定用交流信号の電圧をそのまま測定してもよい。
【0058】
以上の実施形態でアナログ回路により構成されていた構成をデジタル回路により構成してもよい。例えば、分岐器10と、2つの増幅器11a、11bと、2つの乗算器12a、12bと、2つのローパスフィルタ13a、13bと、合波器14と、静電容量測定部15との機能を実現するようにプログラムされたFPGAを用いてもよい。または、FPGAに代えて、CPU等のプロセッサ、ROMやRAM等の各種メモリ、タイマ(カウンタ)、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU)によって構成されていてもよい。その場合、プログラム処理装置のプロセッサがメモリ等のフラッシュメモリ21に記憶されたプログラムに従って各種演算を行うとともにA/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって上記各機能部の構成を実現することができる。
【0059】
また、以上の実施形態では、信号源1が出力する信号を分周器2で分周してN個の検出用交流信号を生成しているが、これに限定されない。例えば、N個の検出用交流信号を生成するために、N個の信号源を使用してもよい。
【0060】
また、以上の実施形態では、静電容量測定部15は、2つの直流電圧信号を加算して得られる信号の電圧値を検出し、検出した電圧値に対応する静電容量値を容量-検出電圧特性ftに基づいて決定していたが、これに限定されない。例えば、静電容量測定部15は、2つの直流電圧信号の電圧値をそれぞれ検出して、検出した2つの電圧値の加算値に対応する静電容量値を被測定対象物7の静電容量値として測定してもよい。
【0061】
また、以上の実施形態では、2つ以上の異なる周波数の信号を同時に生成して2つ以上の系統で処理する形態を例に挙げて説明しているが、2つ以上の異なる周波数の信号を時分割で生成して時分割で処理してもよい。一例としては、前記測定用交流信号を複数の期間に分けて逐次処理する。この場合、前記測定用交流信号を入力してから、分岐器10、増幅器11a、11b、乗算器12a、12b、ローパスフィルタ13a、13bが行う処理を時分割で行うように構成する。具体的には、増幅器11a、11b、乗算器12a、12b、ローパスフィルタ13a、13bに代えて不図示の信号処理装置を用いることができる。この信号処理装置が、デジタル信号処理またはアナログ信号処理により、第n(n=1からNまで変化する整数)の期間において、第nの検出用交流信号と測定用交流信号の波形データを入力し、その第nの検出用交流信号と測定用交流信号のデータを乗算しフィルタリングによりローパスフィルタ処理をすることにより、N個の直流電圧信号を求める処理を時分割で行う。そして、求められたN個の直流電圧信号を加算し、得られた信号の電圧値から静電容量値を求める。なお、時分割においては各時間に前記測定用交流信号を処理させることで分岐器10は不使用にできる。また、増幅器11a、11bは信号処理装置内に設けてもよいし、信号処理装置外に設けてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 信号源、2 分周器、3a、3b 波形整形フィルタ、4 合波器、5 インピーダンス調整回路、6 出力端子、7 被測定対象物、8 入力端子、9 電流電圧変換回路、10 分岐器、11a、11b 増幅器、12a、12b 乗算器、13a、13b ローパスフィルタ、14 合波器、15 静電容量測定部、101 信号源、102 分周器、103 波形整形フィルタ、104 出力インピーダンス調整回路、105,107 端子、106 被測定対象物、108 電流電圧変換機、109 増幅器、110 乗算器、111 ローパスフィルタ、112 静電容量測定器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8