(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081301
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】異常検出装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220524BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220524BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220524BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220524BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192750
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓嗣
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC32
3D232CC38
3D232CC39
3D232DA03
3D232DA04
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3D333CE28
3D333CE36
3D333CE39
3D333CE40
3D333CE41
(57)【要約】
【課題】転舵ユニットの異常を精度良く検出できる異常検出装置を提供する。
【解決手段】操舵制御装置は、転舵ユニットの異常を検出する異常検出処理を実行する。異常検出処理は、第1ピニオン角θp1を取得する第1状態量取得処理(ステップ103)と、第2ピニオン角θp2を取得する第2状態量取得処理(ステップ104)と、第1ピニオン角θp1と第2ピニオン角θp2との差分Δθpを演算する差分演算処理(ステップ105)と、差分Δθpの絶対値と差分閾値Δθthとの大小比較を行う判定処理(ステップ106)と、を含む。そして、差分Δθpの絶対値が差分閾値Δθthよりも大きい場合に転舵ユニットの異常を検出する。操舵制御装置は、実電流値Itの絶対値が電流閾値Ithよりも大きい場合には、判定処理を実行しない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、転舵輪に連結される転舵軸と、前記モータのトルクを前記転舵軸に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転角を検出する第1センサと、前記動力伝達機構を介して前記モータに機械的に接続される連動部材の位置情報を示す連動状態量を検出する第2センサと、前記モータに供給される実電流値を検出する電流センサと、を備える転舵ユニットの異常を検出する異常検出装置であって、
異常検出処理を実行する処理回路を備え、
前記異常検出処理は、
前記第1センサにより検出される前記回転角に基づいて、前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能部材の位置情報を示す第1状態量を取得する第1状態量取得処理と、
前記第2センサにより検出される前記連動状態量に基づいて、前記換算可能部材の位置情報を示す第2状態量を取得する第2状態量取得処理と、
前記第1状態量と前記第2状態量との差分を演算する差分演算処理と、
前記差分の絶対値と差分閾値との大小比較を行う判定処理と、を含み、
前記差分の絶対値が前記差分閾値よりも大きい場合に前記転舵ユニットの異常を検出する処理であって、
前記処理回路は、前記実電流値の絶対値が電流閾値よりも大きい場合には、前記判定処理を実行しない異常検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異常検出装置において、
前記転舵ユニットは、運転者により操舵される操舵ユニットとの間の動力伝達路が分離したものである異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵装置には、ステアリングホイールが連結される操舵ユニットと転舵輪を転舵させる転舵ユニットとの間の動力伝達路が分離されたステアバイワイヤ式のものがある。例えば特許文献1の操舵装置を構成する転舵ユニットは、駆動源であるモータと、転舵輪に連結される転舵軸と、モータのトルクを転舵軸に伝達する動力伝達機構とを備える。
【0003】
ところで、例えば動力伝達機構の異常により、モータのトルクを転舵軸に対して円滑に伝達できない状況となるおそれがある。そこで、上記特許文献1の操舵装置を制御する操舵制御装置は、モータの回転角と転舵輪の転舵角との関係に基づいて、転舵ユニットの異常を検出する。詳しくは、操舵制御装置は、動力伝達機構が正常な場合におけるモータの回転角と転舵角との関係を予め記憶している。そして、正常な場合におけるモータの回転角と転舵角の関係と、実際に検出されるモータの回転角と転舵角との関係とを比較することにより、転舵ユニットの異常を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、操舵装置の異常検出に関しては、より一層の高い正確性が要求されるようになっている。そのため、転舵ユニットの異常をより精度良く検出することのできる新たな技術の創出が求められている。なお、このような問題は、ステアバイワイヤ式の操舵装置を構成する転舵ユニットに限らず、例えば電動パワーステアリング装置を構成する転舵ユニットにおいても、同様に生じ得る。
【0006】
本発明の目的は、転舵ユニットの異常を精度良く検出できる異常検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する異常検出装置は、駆動源であるモータと、転舵輪に連結される転舵軸と、前記モータのトルクを前記転舵軸に伝達する動力伝達機構と、前記モータの回転角を検出する第1センサと、前記動力伝達機構を介して前記モータに機械的に接続される連動部材の位置情報を示す連動状態量を検出する第2センサと、前記モータに供給される実電流値を検出する電流センサと、を備える転舵ユニットの異常を検出するものであって、異常検出処理を実行する処理回路を備え、前記異常検出処理は、前記第1センサにより検出される前記回転角に基づいて、前記転舵輪の転舵角に換算可能な換算可能部材の位置情報を示す第1状態量を取得する第1状態量取得処理と、前記第2センサにより検出される前記連動状態量に基づいて、前記換算可能部材の位置情報を示す第2状態量を取得する第2状態量取得処理と、前記第1状態量と前記第2状態量との差分を演算する差分演算処理と、前記差分の絶対値と差分閾値との大小比較を行う判定処理と、を含み、前記差分の絶対値が前記差分閾値よりも大きい場合に前記転舵ユニットの異常を検出する処理であって、前記処理回路は、前記実電流値の絶対値が電流閾値よりも大きい場合には、前記判定処理を実行しない。
【0008】
第1状態量と第2状態量とは、それぞれ換算可能部材の位置情報を示す。そのため、転舵ユニットが正常である場合には、第1状態量と第2状態量との差分の絶対値は、差分閾値以下になる。ここで、モータに供給される実電流値の絶対値が大きい場合、すなわちモータが大きなトルクが出力している場合には、例えば動力伝達機構の各構成部品に大きな力が作用する。そのため、例えば動力伝達機構の各構成部品が弾性的に変形することでモータの回転角が変化しても、連動部材の位置情報を示す連動状態量が変化しないことがある。つまり、第1状態量が変化しても、第2状態量が変化しないことで、差分の絶対値が大きくなることがある。したがって、実電流値の絶対値が大きい場合には、転舵ユニットが正常でも差分の絶対値が差分閾値よりも大きくなるおそれがある。
【0009】
この点、上記構成によれば、処理回路は、実電流値の絶対値が電流閾値よりも大きい場合には、判定処理を実行しない。そのため、例えば動力伝達機構の各構成部品の弾性的な変形に起因して、転舵ユニットが正常な場合に誤って異常であると判定することを抑制できる。
【0010】
上記異常検出装置において、前記転舵ユニットは、運転者により操舵される操舵ユニットとの間の動力伝達路が分離したものであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】操舵制御装置による転舵ユニットの異常検出処理の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、異常検出装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象である操舵装置2はステアバイワイヤ式の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、ステアリングホイール3を介して運転者により操舵される操舵ユニット4と、運転者による操舵ユニット4の操舵に応じて転舵輪5を転舵させる転舵ユニット6とを備えている。本実施形態の操舵装置2は、操舵ユニット4と、転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。
【0013】
操舵ユニット4は、ステアリングホイール3が連結されるステアリングシャフト11と、ステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する操舵側アクチュエータ12とを備えている。
【0014】
操舵側アクチュエータ12は、操舵側モータ13と、減速機14とを備えている。減速機14には、例えばウォームアンドホイール機構が採用されている。操舵側モータ13は、減速機14を介してステアリングシャフト11に連結されている。これにより、操舵反力は、ステアリングシャフト11を介してステアリングホイール3に付与される。
【0015】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、ピニオン軸21に連結された転舵軸であるラック軸22と、ラック軸22を往復動可能に収容するラックハウジング23と、ピニオン軸21及びラック軸22を有するラックアンドピニオン機構24とを備えている。ラック軸22とピニオン軸21とは、ラックハウジング23内に所定の交差角をもって配置されている。ラックアンドピニオン機構24は、ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとが噛合されることで構成されている。これにより、ピニオン軸21は、ラック軸22の往復動に応じて回転する。また、ラック軸22の両端には、ボールジョイント25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0016】
また、転舵ユニット6は、ラック軸22に転舵輪5を転舵させる力である転舵力を付与する転舵側アクチュエータ31を備えている。転舵側アクチュエータ31は、駆動源である転舵側モータ32と、転舵側モータ32のトルクをラック軸22に伝達する動力伝達機構33とを備えている。本実施形態の動力伝達機構33は、ベルト機構34と、ボール螺子機構35とを備えている。
【0017】
ベルト機構34は、一対のプーリ41,42と、一対のプーリ41,42間に巻き掛けられるベルト43を含む。一対のプーリ41,42の材質は樹脂であり、ベルト43の材質はゴムである。ボール螺子機構35は、ラック軸22に形成された螺子部22bと、螺子部22bに複数のボール45を介して螺合するボール螺子ナット46とを含む。プーリ41は、転舵側モータ32の回転軸32aに連結されている。プーリ42は、ボール螺子ナット46の外周に固定されている。したがって、ピニオン軸21は、ラックアンドピニオン機構24及び動力伝達機構33を介して転舵側モータ32に機械的に連結されている。つまり、本実施形態では、ピニオン軸21が連動部材に相当する。
【0018】
転舵側アクチュエータ31は、転舵側モータ32の回転をベルト機構34を介してボール螺子機構35に伝達し、ボール螺子機構35にてラック軸22の往復動に変換することで転舵ユニット6に転舵力を付与する。
【0019】
このように構成された操舵装置2では、運転者によるステアリング操作に応じて転舵側アクチュエータ31から転舵力が付与されることで、ラック軸22が往復動し、転舵輪5の転舵角θiが変更される。このとき、操舵側アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。
【0020】
次に、本実施形態の電気的構成について説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13及び転舵側モータ32に接続されており、操舵側モータ13及び転舵側モータ32をそれぞれ操作する。また、操舵制御装置1は、転舵側モータ32のトルクをラック軸22に対して円滑に伝達できなくなるような転舵ユニット6の異常を検出する。つまり、操舵制御装置1は、異常検出装置に相当する。なお、操舵制御装置1により検出される異常には、例えば経年劣化によるベルト43の恒久的な伸びの増加が含まれる。さらに、操舵制御装置1は、警告灯やスピーカ等からなる警告装置51に接続されており、警告装置51を操作する。
【0021】
操舵制御装置1は、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、或いは(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。操舵制御装置1による各種制御は、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することによって実行される。
【0022】
操舵制御装置1には、各種のセンサの検出結果が入力される。各種のセンサには、例えば車速センサ52、トルクセンサ53、操舵側回転角センサ54、転舵側回転角センサ55、ピニオン角センサ56、操舵側電流センサ57、及び転舵側電流センサ58が含まれる。
【0023】
車速センサ52は、車両の走行速度である車速Vを検出する。トルクセンサ53は、ステアリングシャフト11に付与された操舵トルクThを検出する。操舵側回転角センサ54は、操舵側モータ13の回転軸13aの回転角θsを360°の範囲内の相対角で検出する。転舵側回転角センサ55は、転舵側モータ32の回転軸32aの回転角θtを相対角で検出する。ピニオン角センサ56は、ピニオン軸21の回転角である第2ピニオン角θp2を360°を超える範囲を含む絶対角で検出する。なお、第2ピニオン角θp2は、車両が直進するときの角度であるピニオン角中点よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負の値とする。本実施形態では、ピニオン軸21が連動部材に相当することから、第2ピニオン角θp2が連動状態量に相当する。また、転舵側回転角センサ55が第1センサに相当し、ピニオン角センサ56が第2センサに相当する。
【0024】
操舵側電流センサ57は、操舵側モータ13に供給される実電流値Isを検出する。実電流値Isは、操舵側モータ13が出力するトルクの大きさを示す。実電流値Isは、例えば右方向にステアリングホイール3を回転させるトルクを発生させる場合に正、左方向にステアリングホイール3を回転させるトルクを発生させる場合に負の値とする。転舵側電流センサ58は、転舵側モータ32に供給される実電流値Itを検出する。実電流値Itは、転舵側モータ32が出力するトルクの大きさを示す。実電流値Itは、例えば右方向に転舵輪5を転舵させるトルクを発生させる場合に正、左方向に転舵輪5を転舵させるトルクを発生させる場合に負の値とする。
【0025】
次に、操舵側モータ13の操作を通じた反力制御の概要を説明する。
操舵制御装置1は、操舵トルクTh及び車速Vに基づいて、操舵反力の目標値である目標反力トルクを演算する。そして、操舵制御装置1は、目標反力トルクに応じたモータトルクが発生するように操舵側モータ13を操作する。これにより、操舵ユニット4に操舵反力が付与される。
【0026】
次に、転舵側モータ32の操作を通じた転舵制御の概要を説明する。
操舵制御装置1は、操舵側モータ13の回転角θsに基づいて、ステアリングシャフト11の回転角である操舵角θhを演算する。具体的には、操舵制御装置1は、例えばステアリング中点からの操舵側モータ13の回転数をカウントしており、ステアリング中点を原点として回転角θsを積算した角度である積算角を演算する。なお、ステアリング中点は、ステアリングホイール3が操舵可能範囲の中心にあるときの操舵角θhである。そして、操舵制御装置1は、この積算角に減速機14の回転速度比に基づく換算係数を乗算することにより、ステアリングホイール3の操舵角θhを演算する。なお、操舵角θhは、ステアリング中点よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負の値とする。
【0027】
操舵制御装置1は、例えばピニオン角中点からの転舵側モータ32の回転数をカウントしており、ピニオン角中点を原点として回転角θtを積算した角度である積算角を演算する。そして、操舵制御装置1は、この積算角にベルト機構34の減速比、ボール螺子機構35のリード、及びラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することにより、転舵輪5の転舵角θiに換算可能な第1ピニオン角θp1を演算する。つまり、第1ピニオン角θp1は、基本的にピニオン角センサ56により検出される第2ピニオン角θp2と同一の角度になる。なお、第1ピニオン角θp1は、ピニオン角中点よりも、例えば右側の角度である場合に正、左側の角度である場合に負の値とする。
【0028】
操舵制御装置1は、操舵角θhに基づいて、第1ピニオン角θp1の目標値である目標ピニオン角θp*を演算する。なお、一例として、操舵制御装置1は、操舵角θhに対して、該操舵角θh及び車速Vに応じて変更される伝達比を除算することにより得られた値を目標ピニオン角θp*とする。操舵制御装置1は、第1ピニオン角θp1が目標ピニオン角θp*に追従するようにフィードバック制御を実行することにより、転舵力の目標値である目標転舵トルクを演算する。そして、操舵制御装置1は、目標転舵トルクに応じたモータトルクが発生するように転舵側モータ32を操作する。これにより、転舵ユニット6に転舵力が付与される。
【0029】
次に、転舵ユニット6の異常検出処理について説明する。
ここで、上記のようにピニオン軸21はラック軸22の往復動に応じて回転することから、ピニオン軸21の回転角は転舵輪5の転舵角θiに変換可能である。そのため、本実施形態では、ピニオン軸21を換算可能部材としている。そして、上記のように回転角θtに基づいて演算される第1ピニオン角θp1が第1状態量に相当する。また、ピニオン角センサ56により検出される第2ピニオン角θp2が第2状態量に相当する。
【0030】
操舵制御装置1は、異常検出処理において、第1ピニオン角θp1を取得する。第1ピニオン角θp1は、上記転舵制御の実行過程で演算したものでもよいし、当該異常検出処理において転舵側モータ32の回転角θtに基づいて別途演算したものでもよい。また、操舵制御装置1は、異常検出処理において、第2ピニオン角θp2を取得する。第2ピニオン角θp2は、上記転舵制御の実行過程で検出したものでもよいし、当該異常検出処理においてピニオン角センサ56により別途検出したものでもよい。
【0031】
操舵制御装置1は、第1ピニオン角θp1と第2ピニオン角θp2との差分Δθpを演算する。続いて、差分Δθpの絶対値と差分閾値Δθthとの大小比較を行う。そして、差分Δθpの絶対値が差分閾値Δθthよりも大きい場合に、転舵ユニット6が異常であると判定する。この判定の理由は、第1ピニオン角θp1と第2ピニオン角θp2とは、それぞれピニオン軸21の位置情報を示すため、転舵ユニット6が正常である場合には、差分Δθpの絶対値が転舵ユニット6の各構成部品の公差に基づく差分閾値Δθth以下になるからである。一例として、差分閾値Δθthは、転舵ユニット6の各構成部品の公差を積算した範囲内で生じ得る差分Δθpの最大値以上の角度に設定される。
【0032】
ところで、転舵側モータ32に供給される実電流値Itの絶対値が大きい場合、すなわち転舵側モータ32が大きなトルクが出力している場合には、例えば動力伝達機構33の各構成部品に大きな力が作用する。そのため、例えばベルト43が弾性的に伸張することで転舵側モータ32の回転角θtが変化しても、ピニオン軸21の第2ピニオン角θp2が変化しないことがある。つまり、第1ピニオン角θp1が変化しても、第2ピニオン角θp2が変化しないことで、差分Δθpの絶対値が大きくなることがある。したがって、実電流値Itの絶対値が大きい場合には、転舵ユニット6が正常でも差分Δθpの絶対値が差分閾値Δθthよりも大きくなるおそれがある。
【0033】
そこで、本実施形態の操舵制御装置1は、実電流値Itの絶対値が転舵ユニット6の各構成部品の剛性に基づく電流閾値Ithよりも大きい場合には、差分Δθpの絶対値と差分閾値Δθthとの大小比較に基づく判定処理を実行しない。換言すると、操舵制御装置1は、実電流値Itの絶対値が電流閾値Ith以下の場合にのみ判定処理を実行する。一例として、電流閾値Ithは、ベルト43の弾性変形量と一対のプーリ41,42の弾性変形量との合計が過大になるようなトルクを発生させる電流値に設定されている。弾性変形量の合計が過大になるとは、例えばベルト43及び一対のプーリ41,42の弾性変形により生じる差分Δθpの絶対値が、差分閾値Δθthの所定割合よりも大きくなる場合をいう。
【0034】
次に、操舵制御装置1による異常検出処理の処理手順の一例を
図2に示すフローチャートに従って説明する。異常検出処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
図2に示すように、操舵制御装置1は、転舵側モータ32の実電流値Itを取得すると(ステップ101)、実電流値Itの絶対値が電流閾値Ithよりも大きいか否かを判定する(ステップ102)。実電流値Itの絶対値が電流閾値Ith以下の場合(ステップ102:NO)、ステップ103に移行する。
【0035】
ステップ103において、操舵制御装置1は、第1状態量である第1ピニオン角θp1を取得する。続いて、第2状態量である第2ピニオン角θp2を取得し(ステップ104)、第1ピニオン角θp1と第2ピニオン角θp2との差分Δθpを演算する(ステップ105)。そして、差分Δθpの絶対値と差分閾値Δθthとの大小比較を行う(ステップ106)。つまり、ステップ103の処理が第1状態量取得処理に相当する。ステップ104の処理が第2状態量取得処理に相当する。ステップ105の処理が差分演算処理に相当する。ステップ106の処理が判定処理に相当する。
【0036】
そして、操舵制御装置1は、差分Δθpの絶対値が差分閾値Δθthよりも大きい場合には(ステップ106:YES)、転舵ユニット6の異常を検出した旨を運転者に警告するべく、警告装置51を作動させるための信号を出力する(ステップ107)。一方、差分Δθpの絶対値が差分閾値Δθth以下の場合には(ステップ106:NO)、転舵ユニット6が正常である判定として、異常検出処理を終了する。
【0037】
操舵制御装置1は、実電流値Itの絶対値が電流閾値Ithよりも大きい場合には(ステップ102:YES)、以降の処理を実行しない。つまり、判定処理であるステップ106を実行しない。
【0038】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)操舵制御装置1は、転舵側モータ32の実電流値Itの絶対値が電流閾値Ithよりも大きい場合には、判定処理を実行しない。そのため、例えば動力伝達機構33の各構成部品の弾性的な変形に起因して、転舵ユニット6が正常な場合に誤って異常であると判定することを抑制できる。
【0039】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、ピニオン軸21を連動部材とし、第2センサであるピニオン角センサ56により連動状態量である第2ピニオン角θp2を検出したが、これに限らない。例えばラック軸22を連動部材とし、第2センサであるストロークセンサにより連動状態量であるラック軸22のストローク位置を検出してもよい。この場合、ストロークセンサにより検出されるストローク位置に基づいて演算される第2ピニオン角θp2を第2状態量としてもよい。また、ストロークセンサにより検出されるストローク位置をそのまま第2状態量とし、転舵側モータ32の回転角θtに基づいて演算されるストローク位置を第1状態量としてもよい。
【0040】
・上記実施形態では、ピニオン軸21を換算可能部材としたが、これに限らず、例えばラック軸22を換算可能部材としてもよい。この場合、転舵側モータ32の回転角θtに基づいて演算されるストローク位置が第1状態量となり、第2ピニオン角θp2に基づいて演算されるストローク位置が第2状態量となる。
【0041】
・上記実施形態において、実電流値Itの絶対値が電流閾値Ithよりも大きいか否かの判定(ステップ102)は、差分Δθpの絶対値と差分閾値Δθthとの大小比較である判定処理(ステップ106)よりも前に実行されれば、その処理順序は適宜変更可能であり、例えば差分Δθpの演算(ステップ105)の直後に実行してもよい。
【0042】
・上記実施形態は、操舵装置2を、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、ステアバイワイヤ式の操舵装置に限らず、運転者の入力する操舵トルクが転舵ユニット6に機械的に伝達可能に構成された電動パワーステアリング装置を操舵装置2として採用してもよい。電動パワーステアリング装置では、モータのトルクが運転者の操舵を補助するためのアシスト力として付与される。
【符号の説明】
【0043】
1…操舵制御装置(異常検出装置、処理回路)
2…操舵装置
5…転舵輪
6…転舵ユニット
21…ピニオン軸(連動部材、換算可能部材)
22…ラック軸(転舵軸)
32…転舵側モータ(モータ)
33…動力伝達機構
55…転舵側回転角センサ(第1センサ)
56…ピニオン角センサ(第2センサ)
58…転舵側電流センサ(電流センサ)