(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081308
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ブッシング、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/083 20060101AFI20220524BHJP
D01D 4/02 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C03B37/083
D01D4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192759
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 博司
(72)【発明者】
【氏名】森 博隆
【テーマコード(参考)】
4G021
4L045
【Fターム(参考)】
4G021MA00
4L045AA05
4L045BA03
4L045CB14
4L045CB16
4L045CB18
4L045CB40
(57)【要約】
【課題】小型化したベースプレートに設けられたノズルから溶融ガラスを安定して引き出すことを可能にしたブッシング、及びガラス繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ブッシング11の第1ノズルN1及び第2ノズルN2は、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm
2]、及びノズル壁の断面積A2[mm
2]の構成を有する。第1ノズルN1との列内の間隔寸法と、第2ノズルN2の列内の間隔寸法を列内の間隔寸法L1[mm]とする。第1のノズル列R1と第2のノズル列R2の列間の間隔寸法を間隔寸法L2[mm]とする。ブッシングは、下記式(1)~(6)を満たす。
y1≦Y≦y2・・・(1)
y1=4/3×X+3・・・(2)
y2=4/3×X+8・・・(3)
X=D1
4/Lt・・・(4)
Y=A3-(A1+A2)・・・(5)
A3=L1×L2・・・(6)
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有するブッシングであって、
前記ノズル群は、複数の第1ノズルが配列されてなる第1のノズル列と、
複数の第2ノズルが配列されてなり、前記第1のノズル列と隣り合って配置される第2のノズル列と、を含み、
前記第1ノズル及び前記第2ノズルは、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm2]、及びノズル壁の断面積A2[mm2]の構成を有し、
前記第1のノズル列内で隣り合う第1ノズルの中央同士の間隔寸法と、前記第2のノズル列内で隣り合う第2ノズルの中央同士の間隔寸法とを列内の間隔寸法L1[mm]とし、
前記第1のノズル列の列幅方向における中央と前記第2のノズル列の列幅方向における中央との間隔寸法を列間の間隔寸法L2[mm]とした場合、
下記式(1)~(6):
y1≦Y≦y2・・・(1)
y1=4/3×X+3・・・(2)
y2=4/3×X+8・・・(3)
X=D14/Lt・・・(4)
Y=A3-(A1+A2)・・・(5)
A3=L1×L2・・・(6)
を満たす、ブッシング。
【請求項2】
下記式(7):
0.2≦X≦3.0・・・(7)
をさらに満たす、請求項1に記載のブッシング。
【請求項3】
前記第1ノズル及び前記第2ノズルのノズル孔の内周面における算術平均粗さRaの平均値は、2μm以下である、請求項1又は請求項2に記載のブッシング。
【請求項4】
ブッシングに溶融ガラスを供給し、前記ブッシングから複数のガラスフィラメントを引き出した後、前記複数のガラスフィラメントを集束することで、ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、
前記ブッシングは、ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有し、
前記ノズル群は、複数の第1ノズルが配列されてなる第1のノズル列と、
複数の第2ノズルが配列されてなり、前記第1のノズル列と隣り合って配置される第2のノズル列と、を含み、
前記第1ノズル及び前記第2ノズルは、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm2]、及びノズル壁の断面積A2[mm2]の構成を有し、
前記第1のノズル列内で隣り合う第1ノズルの中央同士の間隔寸法と、前記第2のノズル列内で隣り合う第2ノズルの中央同士の間隔寸法とを列内の間隔寸法L1[mm]とし、
前記第1のノズル列の列幅方向における中央と前記第2のノズル列の列幅方向における中央との間隔寸法を列間の間隔寸法L2[mm]とした場合、
下記式(1)~(6):
y1≦Y≦y2・・・(1)
y1=4/3×X+3・・・(2)
y2=4/3×X+8・・・(3)
X=D14/Lt・・・(4)
Y=A3-(A1+A2)・・・(5)
A3=L1×L2・・・(6)
を満たす、ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシング、及びガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、ガラス繊維の製造には、ベースプレートとベースプレートの底面に設けられる複数のノズルとを備えるブッシングが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなブッシングでは、ベースプレートの材料使用量を削減するという観点から、隣り合うノズルをより近づけて配置することで、ベースプレートを小型化することが行われてきた。ところが、このように小型化したブッシングでは、ノズルから流出した溶融ガラスが、隣り合うノズルの間等に付着し易くなる。隣り合うノズルの間等に溶融ガラスが付着すると、ノズルから溶融ガラスを安定して引き出すことが困難となり、例えば、ガラスフィラメントの切れが発生し易くなる。
【0005】
本発明の目的は、小型化したベースプレートに設けられたノズルから溶融ガラスを安定して引き出すことを可能にしたブッシング、及びガラス繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するブッシングは、ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有するブッシングであって、前記ノズル群は、複数の第1ノズルが配列されてなる第1のノズル列と、複数の第2ノズルが配列されてなり、前記第1のノズル列と隣り合って配置される第2のノズル列と、を含み、前記第1ノズル及び前記第2ノズルは、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm2]、及びノズル壁の断面積A2[mm2]の構成を有し、前記第1のノズル列内で隣り合う第1ノズルの中央同士の間隔寸法と、前記第2のノズル列内で隣り合う第2ノズルの中央同士の間隔寸法とを列内の間隔寸法L1[mm]とし、前記第1のノズル列の列幅方向における中央と前記第2のノズル列の列幅方向における中央との間隔寸法を列間の間隔寸法L2[mm]とした場合、下記式(1)~(6)を満たす。
【0007】
y1≦Y≦y2・・・(1)
y1=4/3×X+3・・・(2)
y2=4/3×X+8・・・(3)
X=D14/Lt・・・(4)
Y=A3-(A1+A2)・・・(5)
A3=L1×L2・・・(6)
この構成によれば、Yがy1以上であるため、ノズルから流出する溶融ガラスの流出速度に対応してノズルの周囲のスペースを好適に確保することができる。これにより、ノズルから流出した溶融ガラスが、隣り合うノズルの間等に付着することを抑えることができる。また、Yがy2以下であるため、ノズルから流出する溶融ガラスの流出速度に対してノズルの周囲のスペースが過剰に広くなり、ブッシングの製造コストが高くなることを抑えることができる。
【0008】
上記ブッシングは、下記式(7)をさらに満たすことが好ましい。
0.2≦X≦3.0・・・(7)
この構成によれば、ノズルから溶融ガラスをより安定して引き出すことができる。
【0009】
上記ブッシングにおいて、前記第1ノズル及び前記第2ノズルのノズル孔の内周面における算術平均粗さRaの平均値は、2μm以下であることが好ましい。この構成によれば、ノズルから流出する溶融ガラスの流出速度をより均一化することができる。これにより、ノズルから流出した溶融ガラスが、隣り合うノズルの間等に付着することをより抑えることができる。
【0010】
ガラス繊維の製造方法は、ブッシングに溶融ガラスを供給し、前記ブッシングから複数のガラスフィラメントを引き出した後、前記複数のガラスフィラメントを集束することで、ガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、前記ブッシングは、ベースプレートと前記ベースプレートの底面に設けられるノズル群とを有し、前記ノズル群は、複数の第1ノズルが配列されてなる第1のノズル列と、複数の第2ノズルが配列されてなり、前記第1のノズル列と隣り合って配置される第2のノズル列と、を含み、前記第1ノズル及び前記第2ノズルは、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm2]、及びノズル壁の断面積A2[mm2]の構成を有し、前記第1のノズル列内で隣り合う第1ノズルの中央同士の間隔寸法と、前記第2のノズル列内で隣り合う第2ノズルの中央同士の間隔寸法とを列内の間隔寸法L1[mm]とし、前記第1のノズル列の列幅方向における中央と前記第2のノズル列の列幅方向における中央との間隔寸法を列間の間隔寸法L2[mm]とした場合、上記式(1)~(6)を満たす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型化したベースプレートに設けられたノズルから溶融ガラスを安定して引き出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態におけるガラス繊維の製造装置を示す概略図である。
【
図4】ノズルの寸法に関するパラメータと、ノズルの配置に関するパラメータとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ブッシング、及びガラス繊維の製造方法の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、ブッシング11は、ガラス繊維(ガラスストランドGS)の製造に用いられる。ガラス繊維の製造装置は、ブッシング11と、ブッシング11から引き出された多数のガラスフィラメントGFに集束剤を塗布するアプリケータ12と、集束剤が塗布された多数のガラスフィラメントGFを集束させるギャザリングシュー13とを備えている。多数のガラスフィラメントGFがギャザリングシュー13により集束されることで、ガラスストランドGSが得られる。ガラス繊維の製造装置は、ガラスストランドGSを巻き取るコレット14を備え、コレット14にガラスストランドGSが巻回されることにより、ケーキCAが得られる。なお、図示を省略するが、ガラス繊維の製造装置は、ガラスストランドGSを往復移動させるトラバースを備えている。
【0014】
ブッシング11は、溶融ガラスMGが供給されるブッシング本体11aと、ブッシング本体11aの底部に設けられたベースプレート11bとを備えている。なお、図示を省略するが、ブッシング本体11aは、溶融ガラスMGが供給される供給口、ベースプレート11b上に異物が堆積するのを抑制するスクリーン、抵抗加熱用のターミナル等を有している。
【0015】
ブッシング11は、ベースプレート11bの底面11b1に設けられるノズル群を備えている。各ノズルNには、溶融ガラスMGが供給され、ガラスフィラメントGFが引き出される。ノズル数は、800~10000本であることが好ましく、2000~8000本であることがより好ましい。なお、図面では、ブッシング11のノズル群を簡略化して示している。
【0016】
図2に示すように、ブッシング11のノズル群は、複数の第1ノズルN1が配列されてなる第1のノズル列R1と、複数の第2ノズルN2が配列されてなる第2のノズル列R2とを含む。第2のノズル列R2は、第1のノズル列R1と隣り合って配置されている。詳述すると、複数の第1ノズルN1及び複数の第2ノズルN2の配列方向は、
図2においてY軸方向に沿った水平方向である。第1のノズル列R1と第2のノズル列R2とは、
図2においてY軸方向と直交するX軸方向に沿った水平方向で隣り合って配置されている。
【0017】
図2及び
図3に示すように、第1ノズルN1及び第2ノズルN2は、それぞれノズル孔の内径D1[mm]、ノズルの流路長さLt[mm]、ノズル孔の断面積A1[mm
2]、及びノズル壁の断面積A2[mm
2]の構成を有している。第1ノズルN1及び第2ノズルN2は、
図2及び
図3においてZ軸方向に沿った鉛直方向に延びる流路を有している。
【0018】
ノズルの流路長さLtは、
図3に示すように、ブッシング11の内底面11b2からノズルNの先端までの長さである。すなわち、ノズルの流路長さLt[mm]は、ベースプレート11bの厚さ寸法Lt1[mm]と、ベースプレート11bの底面11b1からノズルNの先端までの長さ寸法Lt2[mm]との合計である。ノズル孔の断面積A1[mm
2]及びノズル壁の断面積A2[mm
2]は、
図2に梨地模様で示すように、ノズルNの横断面における断面積である。なお、本実施形態において、流路長さLt全体にわたってノズル孔の断面積はA1であり、ノズルNの長さ全体にわたってノズル壁の断面積はA2となっている。また、ノズル孔の断面形状は、円形状であり、このノズル孔から円形状の断面を有するガラスフィラメントGFが引き出される。
【0019】
ブッシング11は、下記式(1)~(6)を満たす。
y1≦Y≦y2・・・(1)
y1=4/3×X+3・・・(2)
y2=4/3×X+8・・・(3)
X=D14/Lt・・・(4)
Y=A3-(A1+A2)・・・(5)
A3=L1×L2・・・(6)
但し、第1のノズル列R1内で隣り合う、第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法と、第2のノズル列R2内で隣り合う、第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法とを列内の間隔寸法L1[mm]とする。また、第1のノズル列R1の列幅方向における中央と第2のノズル列R2の列幅方向における中央との間隔寸法を列間の間隔寸法L2[mm]とする。なお、第1のノズル列R1の列幅方向における中央を通る直線と、第2のノズル列R2の列幅方向における中央を通る直線は、平行となる。
【0020】
上記式(4)は、ノズルNから流出する溶融ガラスMGの流出速度の度合いを表す数値を求める関係式である。ノズル孔の内径D1が大きいほど溶融ガラスMGの流出速度が速まる。また、ノズルの流路長さLtが短いほど溶融ガラスMGの流出速度が速まる。
【0021】
上記式(5)は、一つのノズルNの周囲のスペースの広さを表す値を求める関係式である。詳述すると、上記式(6)では、
図2に梨地模様で示すように、ブッシング11の底面視において、一つのノズルNとそのノズルNの周囲のスペースとからなる面積であるノズルの配置面積A3を求めることができる。上記式(5)では、ノズルの配置面積A3からノズル孔の断面積A1及びノズル壁の断面積A2を減じることで、一つのノズルNの周囲のスペースの面積を求めることができる。
【0022】
ノズル孔の内径D1[mm]は、例えば、0.5mm以上、3.0mm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、0.8mm以上、2.0mm以下の範囲内である。ノズルの流路長さLt[mm]は、1.5mm以上、8.0mm以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、2.5mm以上、6.0mm以下の範囲内である。ノズル孔の断面積A1[mm2]は、0.2mm2以上、7.0mm2以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、0.5mm2以上、5.0mm2以下の範囲内である。ノズル壁の断面積A2[mm2]は、0.6mm2以上、4.9mm2以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、0.8mm2以上、3.5mm2以下の範囲内である。
【0023】
ブッシング11は、例えば、ノズルNから溶融ガラスMGをより安定して引き出すという観点から、下記式(7)をさらに満たすことが好ましい。
0.2≦X≦3.0・・・(7)
第1ノズルN1及び第2ノズルN2のノズル孔の内周面Nsにおける算術平均粗さRaの平均値は、2μm以下であることが好ましい。この算術平均粗さRaの平均値は、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上、1.5μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0024】
ノズル孔の内周面Nsにおける算術平均粗さRaの平均値は、ノズル孔の孔開け加工に用いるドリルの形状や、ドリルの振動により調節することが可能である。また、ノズル孔の内周面Nsにおける算術平均粗さRaの平均値は、ノズル孔の内周面Nsにドリルを接触させたり、焼きなましを施したりすることでも調節することが可能である。
【0025】
算術平均粗さRaの平均値は、溶融ガラスMGを流通させる前の未使用の状態における値である。算術平均粗さRaの平均値は、以下のように測定することができる。
まず、ノズルNを同一の作製条件の下で複数作製した後、これら複数のノズルNの中から測定対象となるノズルNをサンプルとして抜き取る。次に、抜き取ったサンプルをノズル孔の孔軸が延びる方向(ブッシング11においてZ軸方向となる方向)に沿って切断する。次に、ノズル孔の内周面Nsについて、JIS B0601:2001に準拠し、孔軸が延びる方向に沿って算術平均粗さRaの測定を行う。
【0026】
なお、算術平均粗さRaの測定には、サーフコーダ(株式会社小坂研究所製、製品名:ET4000)を使用し、測定距離は1mmとする。また、算術平均粗さRaの測定は、相互に位置が異なる6箇所に対して実施する。
【0027】
次に、6箇所のそれぞれで測定された算術平均粗さRaの平均を算出することで、内周面Nsの算術平均粗さRaの平均値とする。算術平均粗さRaを測定したサンプル以外のノズルNについては、サンプルにおける算術平均粗さRaの平均値と同じ平均値を有するとみなす。
【0028】
本実施形態のブッシング11は、ベースプレート11bの底面11b1に設けられる冷却用部材15をさらに備えている。冷却用部材15は、ノズルNから引き出された溶融ガラスMGを冷却する。冷却用部材15としては、例えば、冷却用フィン、内部に冷却媒体を流通する流路を有する冷却用パイプ等が挙げられる。
【0029】
冷却用部材15は、長手方向を有し、第1のノズル列R1と第2のノズル列R2とに沿って延びるように配置されている。冷却用部材15は、所定の間隔で配置される複数から構成されている。本実施形態のブッシング11では、隣り合う冷却用部材15の間に第1のノズル列R1と第2のノズル列R2とからなる2列のノズル列が配置されているが、隣り合う冷却用部材15の間に3列以上のノズル列が配置されていてもよい。
【0030】
ブッシング本体11a、ベースプレート11b、ノズルN、及び冷却用部材15の材料としては、例えば、貴金属又は貴金属合金が挙げられる。貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、又はオスミウムである。ブッシング本体11a、ベースプレート11b、ノズルN、及び冷却用部材15の材料は、耐久性を高めるという観点から、白金、又は白金合金であることが好ましい。白金合金としては、例えば、白金ロジウム合金が挙げられる。
【0031】
次に、ガラス繊維の製造方法について説明する。
ガラス繊維の製造方法では、上述したブッシング11に溶融ガラスMGを供給し、ブッシング11から複数のガラスフィラメントGFを引き出した後、複数のガラスフィラメントGFを集束することで、ガラスストランドGSを製造する。
【0032】
ガラスフィラメントGFを成形する成形温度における溶融ガラスMGの粘度は、102.0~103.5dPa・sの範囲内であることが好ましく、より好ましくは、102.5~103.3dPa・sの範囲内である。ここで、この溶融ガラスMGの粘度は、ノズルNに流入する位置における溶融ガラスの粘度をいう。
【0033】
ガラス繊維の形態としては、例えば、ガラスストランドGSを巻回したケーキCAが挙げられる。ガラスストランドGSは、例えば、所定長さにカットされたチョップドストランド、ミルドファイバ、ロービング、ヤーン、マット、クロス、テープ、又は組布等として利用することができる。ガラス繊維の用途としては、例えば、車両用途、電子材料用途、建材用途、土木用途、航空機関連用途、造船用途、物流用途、産業機械用途、及び日用品用途が挙げられる。
【0034】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ノズルNから流出する溶融ガラスMGの流出速度がより速く、またノズルNの周囲のスペースがより狭いほど、ノズルNから流出した溶融ガラスMGが、隣り合うノズルNの間等に付着し易くなる。ここで、本実施形態のブッシング11は、上記式(1)~(6)を満たす。すなわち、本実施形態のブッシング11では、Yがy1以上であるため、ノズルNから流出する溶融ガラスMGの流出速度に対応してノズルNの周囲のスペースを好適に確保することができる。これにより、ノズルNから流出した溶融ガラスMGが、隣り合うノズルNの間等に付着することを抑えることができる。また、本実施形態のブッシング11では、Yがy2以下であるため、ノズルNから流出する溶融ガラスMGの流出速度に対してノズルNの周囲のスペースが過剰に広くなり、ブッシング11の製造コストが高くなることを抑えることができる。従って、小型化したベースプレート11bに設けられたノズルNから溶融ガラスMGを安定して引き出すことが可能となる。これにより、例えば、ガラスフィラメントGFの切れの発生を抑えることができる。
【0035】
(2)ブッシング11は、上記式(7)をさらに満たすことが好ましい。この場合、ノズルNから溶融ガラスMGをより安定して引き出すことができる。
(3)ブッシング11において、第1ノズルN1及び第2ノズルN2のノズル孔の内周面Nsにおける算術平均粗さRaの平均値は、2μm以下であることが好ましい。この場合、ノズルNから流出する溶融ガラスMGの流出速度をより均一化することができる。これにより、ノズルNから流出した溶融ガラスMGが、隣り合うノズルNの間等に付着することをより抑えることができる。従って、小型化したベースプレート11bに設けられたノズルNから溶融ガラスMGをより安定して引き出すことが可能となる。
【0036】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0037】
・ブッシング11の冷却用部材15を省略することもできる。
・ブッシング11において、複数の第1ノズルN1及び複数の第2ノズルN2の各ノズルNにおけるノズル孔の内径は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。各ノズルNにおけるノズル孔の内径が互いに異なる場合、各ノズル孔の内径の平均値を上記式(4)中のノズル孔の内径D1[mm]とすることができる。
【0038】
・ブッシング11において、式(1)におけるYがy2以下の場合、Yは、さらに下記式(8)に示すy2a以下であってもよいし、下記式(9)に示すy2b以下であってもよい。
【0039】
y2a=4/3×X+7・・・(8)
y2b=4/3×X+5・・・(9)
・ブッシング11において、複数の第1ノズルN1及び複数の第2ノズルN2の各ノズルNの流路長さは、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。各ノズルNの流路長さが互いに異なる場合、各ノズルNの流路長さの平均値を上記式(4)中のノズルの流路長さLt[mm]とすることができる。
【0040】
・ブッシング11において、複数の第1ノズルN1及び複数の第2ノズルN2の各ノズルNにおけるノズル孔の断面積は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。各ノズルNにおけるノズル孔の断面積が互いに異なる場合、各ノズル孔の断面積の平均値を上記式(5)中のノズル孔の断面積A1[mm2]とすることができる。
【0041】
・ブッシング11において、複数の第1ノズルN1及び複数の第2ノズルN2の各ノズルNにおけるノズル壁の断面積は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。各ノズルNにおけるノズル壁の断面積が互いに異なる場合、各ノズル壁の断面積の平均値を上記式(5)中のノズル壁の断面積A2[mm2]とすることができる。
【0042】
・第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法が互いに異なる場合、第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法の平均値と、第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法とから算出される平均値を上記式(6)中の列内の間隔寸法L1[mm]とすることができる。
【0043】
・第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法が互いに異なる場合、第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法の平均値と、第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法とから算出される平均値を上記式(6)中の列内の間隔寸法L1[mm]とすることができる。
【0044】
・第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法の平均値と、第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法の平均値とは、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法の平均値と、第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法の平均値とが互いに異なる場合、第1ノズルN1の中央同士の間隔寸法と第2ノズルN2の中央同士の間隔寸法とから算出される平均値を上記式(6)中の列内の間隔寸法L1[mm]とすることができる。
【0045】
・上記実施形態のブッシング11では、ブッシング11の底面視で、第1ノズルN1及び第2ノズルN2の配列方向に対して直交する直線上に第1ノズルN1の中央と第2ノズルN2の中央が位置するように、第1ノズルN1と第2ノズルN2を配置している。このような配置に限定されず、ブッシング11の底面視で、第1ノズルN1の中央と第2ノズルN2の中央のいずれか一方が、第1ノズルN1及び第2ノズルN2の配列方向に対して直交する直線上からずれた位置となるように、第1ノズルN1と第2ノズルN2を配置してもよい。
【0046】
・上記実施形態のブッシング11の第1のノズル列R1では、ブッシング11の底面視で、各第1ノズルN1の中心が1本の直線上に位置するように各第1ノズルN1が配置されている。このような配置に限定されず、第1のノズル列R1において、全ての第1ノズルN1の中心が1本の直線上に位置させることができない場合、直線と各第1ノズルN1の中心との距離の和が最小となるように直線を設定すればよい。
【0047】
・上記実施形態のブッシング11の第2のノズル列R2では、ブッシング11の底面視で、各第2ノズルN2の中心が1本の直線上に位置するように各第2ノズルN2が配置されている。このような配置に限定されず、第2のノズル列R2において、全ての第2ノズルN2の中心が1本の直線上に位置させることができない場合、直線と各第2ノズルN2の中心との距離の和が最小となるように直線を設定すればよい。
【0048】
・上記実施形態のブッシング11では、第1のノズル列R1の列幅方向における中央を通る直線と、第2のノズル列R2の列幅方向における中央を通る直線とが平行であるが、平行でなくてもよい。但し、ブッシング11では、第1のノズル列R1の列幅方向における中央を通る直線と、第2のノズル列R2の列幅方向における中央を通る直線は交差しないようにする必要がある。この場合、第1のノズル列R1の列幅方向における中央を通る線と第2のノズル列R2の列幅方向における中央を通る線との間隔寸法の平均値を列間の間隔寸法L2[mm]とする。
【0049】
次に、実施例及び比較例について説明する。
(実施例1~50)
実施例1~50では、表1及び表2に示すXの値及びYの値を有するブッシングを用いてガラス繊維を製造した。ブッシングのノズル数は、100個であり、ノズル孔の内周面における算術平均粗さRaの平均値は、1.5μmである。ガラスフィラメントを成形する成形温度における溶融ガラスの粘度は、103.0dPa・sであり、ガラスフィラメントを成形する速度は、800[m/分]以上、3000[m/分]以下の範囲内である。
【0050】
(比較例1~16)
比較例1~16では、表3に示すXの値及びYの値を有するブッシングを用いた以外は、実施例1~50と同様にガラス繊維を製造した。
【0051】
(ガラス繊維の生産性)
実施例1~17のブッシング及び比較例1~16のブッシングを用いて、ガラスストランドを30日間連続で製造した。30日間のガラス繊維の製造について、以下の評価基準によりガラス繊維の生産性を評価した。その評価結果を表1~表3に示す。
【0052】
ガラスフィラメントが切れた平均回数が10回/日以下の場合:(A)生産性が高い。
ガラスフィラメントが切れた平均回数が10回/日を超え、30回/日以下の場合:(B)生産性がやや低い。
【0053】
ガラスフィラメントが切れた平均回数が30回/日を超えた場合:(C)生産性が低い。
(材料使用量の削減効果)
各例のブッシングについて、式(1)で示されるYがy2以下であるものをベースプレートの材料使用量の削減効果がある(○)と評価し、式(1)で示されるYがy2を超えるものをベースプレートの材料使用量の削減効果がない(×)と評価した。その判定結果を表1~表3に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
【表3】
図4は、表1~表3中の各例のブッシングにおけるXの値とYの値をプロットしたグラフを示している。このグラフ中では、実施例1~50のブッシングについては、“○”で示し、比較例1~16のブッシングについては、“△”で示している。また、このグラフ中には、上記式(2)の直線を実線で示し、上記式(3)の直線を破線で示している。このグラフから、実施例1~50のブッシングは、上記式(1)で表される範囲内となる構成を有することが分かる。一方、比較例1~16のブッシングは、上記式(1)で表される範囲外となる構成を有していることが分かる。
【0057】
実施例1~50のブッシングでは、ガラス繊維の生産性が高い評価結果が得られた。一方、比較例2,3,6,8,10,12,13,15のブッシングでは、ガラス繊維の生産性が低い評価結果が得られた。なお、比較例1,4,5,7,9,11,14,16のブッシングについては、ノズルから流出する溶融ガラスの流出速度に対してノズルの周囲のスペースが過剰に広くなるため、ベースプレートの材料使用量を好適に削減することができない。
【符号の説明】
【0058】
11…ブッシング
11b…ベースプレート
11b1…底面
A1…ノズル孔の断面積
A2…ノズル壁の断面積
A3…ノズルの配置面積
CA…ケーキ
D1…ノズル孔の内径
GF…ガラスフィラメント
GS…ガラスストランド
Lt…ノズルの流路長さ
L1…列内の間隔寸法
L2…列間の間隔寸法
MG…溶融ガラス
N…ノズル
N1…第1ノズル
N2…第2ノズル
Ns…内周面
R1…第1のノズル列
R2…第2のノズル列