(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081353
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】薬剤懸濁液製造装置及び薬剤懸濁液の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61J 3/00 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
A61J3/00 312
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192860
(22)【出願日】2020-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】593129342
【氏名又は名称】株式会社タカゾノ
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】道端 善之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 嵩匡
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047AA27
4C047HH06
(57)【要約】
【課題】懸濁法による薬剤の投与に必要な手間を低減する。
【解決手段】薬剤懸濁液製造装置1は、保持筒28と、ヒータユニット20と、モータ42と、を備える。保持筒28は、水及び固形の薬剤を収容するシリンジ80を保持可能である。ヒータユニット20及びモータ42は、保持筒28によって保持されたシリンジ80内で、薬剤の水への崩壊懸濁を促進する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及び固形の薬剤を収容する容器を保持可能な保持部と、
前記保持部によって保持された前記容器内で、前記薬剤の前記水への崩壊懸濁を促進する崩壊懸濁促進部と、
を備えることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
前記崩壊懸濁促進部は、前記保持部によって保持された前記容器を加熱する加熱部を備えることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
前記崩壊懸濁促進部は、前記保持部によって保持された前記容器の収容物を撹拌する撹拌部を備えることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
前記崩壊懸濁促進部は、
前記保持部によって保持された前記容器を加熱する加熱部と、
前記保持部によって保持された前記容器の収容物を撹拌する撹拌部と、
を備えることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項5】
請求項2又は4に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
前記加熱部は、前記容器を加熱した後に、前記容器の加熱を弱める又は停止するように制御されることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
崩壊懸濁の完了を報知する報知部を備えることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の薬剤懸濁液製造装置であって、
前記容器はシリンジであることを特徴とする薬剤懸濁液製造装置。
【請求項8】
薬剤懸濁液の製造方法であって、
水及び固形の薬剤を収容する容器を装置の保持部に保持させた状態で、前記容器内での前記薬剤の前記水への崩壊懸濁を前記装置によって促進する崩壊懸濁促進工程を含むことを特徴とする薬剤懸濁液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形の薬剤の水への溶解又は懸濁化に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病、老化等の何らかの原因により、飲食物の咀嚼及び飲込みが困難になっている人は、錠剤等を飲み込むことも難しい。
【0003】
このような嚥下障害の患者には、錠剤やカプセル剤をお湯に溶かして経管投与している。その1つの方法として、簡易懸濁法が提案されている。簡易懸濁法とは、錠剤やカプセル剤を粉砕・開封せず、そのまま温湯に入れ崩壊懸濁させたあと経管投与する方法である。この簡易懸濁法では、コップに入れた55℃程度の温湯に錠剤等をそのまま入れ、5~10分程度放置して錠剤等を膨潤及び崩壊させ、その後、温湯を掻き混ぜることにより薬の懸濁液を得る。
【0004】
特許文献1は、簡易懸濁法に代わる薬剤懸濁液化方法を開示している。この薬剤懸濁液化方法では、シリンジ内に水を固形の製剤とともに入れた後、シリンジを電子レンジにかけて水を製剤とともに加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の構成は、シリンジ内の水を加熱するために、電子レンジの加熱室に入れる必要がある。加熱室内にシリンジを入れる際にシリンジが転がってしまう可能性もあり、シリンジの出し入れ等の取扱いが煩雑であった。加熱室内のどの場所に置くかによって加熱の強弱が変わるおそれもあり、崩壊懸濁の安定性の観点からも改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、懸濁法による薬剤の投与に必要な手間を低減することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の薬剤懸濁液製造装置が提供される。即ち、薬剤懸濁液製造装置は、保持部と、崩壊懸濁促進部と、を備える。前記保持部は、水及び固形の薬剤を収容する容器を保持可能である。前記崩壊懸濁促進部は、前記保持部によって保持された前記容器内で、前記薬剤の前記水への崩壊懸濁を促進する。
【0010】
これにより、装置により容器を一定の場所に保持した状態で崩壊懸濁を促進することができる。従って、多くの手間を要することなく、懸濁法による薬剤の投与を行うことができる。
【0011】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、前記崩壊懸濁促進部は、前記保持部によって保持された前記容器を加熱する加熱部を備えることが好ましい。
【0012】
これにより、薬剤を水に溶け易くすることができる。
【0013】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、前記崩壊懸濁促進部は、前記保持部によって保持された前記容器の収容物を撹拌する撹拌部を備えることが好ましい。
【0014】
これにより、薬剤を水に溶け易くすることができる。また、懸濁液の濃度ムラを防止できる。
【0015】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記崩壊懸濁促進部は、加熱部と、撹拌部と、を備える。前記加熱部は、前記保持部によって保持された前記容器を加熱する。前記撹拌部は、前記保持部によって保持された前記容器の収容物を撹拌する。
【0016】
これにより、薬剤を水に溶け易くすることができる。また、懸濁液の濃度ムラを防止できる。
【0017】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、前記加熱部は、前記容器を加熱した後に、前記容器の加熱を弱める又は停止するように制御されることが好ましい。
【0018】
これにより、水温の上がり過ぎを抑えつつ、薬剤を効率的に水に溶かすことができる。水温が高いほど薬剤が溶けやすいが、水温が高すぎると、逆に薬剤が固まったり、薬剤の成分が変質したり、分解したりすることがある。この点を考慮して、容器を加熱した後に容器の加熱を弱める又は停止することで、水温の上がり過ぎを抑えている。
【0019】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、崩壊懸濁の完了を報知する報知部を備えることが好ましい。
【0020】
これにより、装置にセットした容器の取り忘れを防止できる。
【0021】
前記の薬剤懸濁液製造装置においては、前記容器はシリンジであることが好ましい。
【0022】
これにより、取り出したシリンジを用いて、薬剤を患者に容易に投与することができる。
【0023】
本発明の第2の観点によれば、以下のような薬剤懸濁液の製造方法が提供される。即ち、この製造方法は、水及び固形の薬剤を収容する容器を装置の保持部に保持させた状態で、前記容器内での前記薬剤の前記水への崩壊懸濁を前記装置によって促進する崩壊懸濁促進工程を含む。
【0024】
これにより、装置により容器を一定の場所に保持した状態で崩壊懸濁を促進することができる。従って、多くの手間を要することなく、懸濁法による薬剤の投与を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る薬剤懸濁液製造装置の全体的な構成を示す斜視図。
【
図3】薬剤懸濁液製造装置の電気的な構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る薬剤懸濁液製造装置1の全体的な構成を示す斜視図である。
図2は、薬剤懸濁液製造装置1の4半断面斜視図である。
図3は、薬剤懸濁液製造装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
【0027】
図1に示す薬剤懸濁液製造装置1は、シリンジ(容器)80に水と固形の薬剤を入れた状態で、薬剤の懸濁液を製造する装置である。
【0028】
薬剤懸濁液製造装置1は、ベース部材10と、ヒータユニット(加熱部)20と、回転機構40と、フロントパネル50と、制御部60と、を備える。
【0029】
ベース部材10は、薬剤懸濁液製造装置1を構成する部品の土台となる部材である。ベース部材10の上に、ヒータユニット20、回転機構40、フロントパネル50等が取り付けられる。
【0030】
ヒータユニット20には、シリンジ80の先端側一部を差込み可能な穴21が形成されている。ヒータユニット20は、シリンジ80が穴21に差し込まれた状態で保持することができる。穴21の周囲にはヒータ(熱源)24が配置されている。ヒータ24は、穴21に差し込まれた状態のシリンジ80を加熱することができる。穴21の内壁を構成する部品(後述の伝熱筒26)は回転可能に支持されており、回転機構40によって回転することができる。
【0031】
ヒータユニット20は、支持部材22と、ヒータホルダ(熱伝達部)23と、ヒータ24と、断熱体25と、伝熱筒(回転部材、撹拌部材、筒部)26と、軸受27と、保持筒(保持部)28と、を備える。
【0032】
支持部材22は、側面視でU字状に形成され、ベース部材10の上面に固定される。支持部材22には、ヒータホルダ23が固定される。
【0033】
ヒータホルダ23は、伝熱性の高い材料(例えば、金属)から構成されている。ヒータホルダ23は、支持部材22で挟まれた空間に配置されている。4半断面図である
図2に示すように、ヒータホルダ23には円柱状の支持穴29が形成される。支持穴29の内部には、伝熱筒26が配置されている。
【0034】
ヒータホルダ23の表面には、温度センサ30が取り付けられている。温度センサ30は、例えば熱電対により構成することができる。温度センサ30は、ヒータホルダ23の温度を検出する。温度センサ30は、ヒータホルダ23の表面に代えて、ヒータホルダ23の内部に配置されても良い。
【0035】
ヒータ24は、ヒータホルダ23に複数(具体的には、2つ)取り付けられている。ヒータ24は、支持穴29の周囲に配置されている。ヒータ24は、支持穴29の外周を均等に分割するように、周方向に並べて配置されている。
【0036】
ヒータ24は、細長い棒状に形成され、支持穴29と平行となるように配置される。それぞれのヒータ24を収容するために、ヒータホルダ23には細長い取付孔が形成される。ヒータ24に電力を供給することにより、支持穴29の内部の伝熱筒26を、ヒータホルダ23を介して加熱することができる。
【0037】
断熱体25は、断熱性能の高い材料から構成されている。断熱体25は、ヒータホルダ23の外周を覆うように配置されている。断熱体25は、例えばテープ状の材料をヒータホルダ23に巻き付けることにより構成することができる。
【0038】
伝熱筒26は、中空円筒状の部材である。伝熱筒26は、伝熱性の高い材料(例えば、金属)から構成されている。伝熱筒26の内径は、シリンジ80の外径よりも少し大きい。伝熱筒26は、支持穴29に差し込まれた状態で、回転可能となるようにヒータホルダ23に支持される。
【0039】
図2に示すように、伝熱筒26の軸方向一端は、ヒータホルダ23の支持穴29から突出している。この突出部分には、径方向外側に突出するようにフランジ31が形成されている。このフランジ31に、保持筒28が固定される。
【0040】
軸受27は、滑り軸受の一種である。軸受27は、スリットが形成された薄い円筒状の部材である。軸受27は、支持穴29の内壁と、伝熱筒26の外壁と、の間に配置される。軸受27は、金属製のブッシュ軸受として構成されている。軸受27により、ヒータホルダ23に対して伝熱筒26を滑らかに回転させることができる。軸受27は、伝熱筒26及びヒータホルダ23の両方に密着するように配置される。軸受27は金属製であるので、ヒータホルダ23の熱を効率的に伝熱筒26へ伝えることができる。
【0041】
保持筒28は、ヒータホルダ23の外部に配置される。保持筒28は伝熱筒26に固定されており、伝熱筒26と一体的に回転する。保持筒28には貫通状の軸穴が形成されている。この軸穴は、伝熱筒26の内部空間と接続されている。軸穴の内径は、伝熱筒26の内径とほぼ等しい。
【0042】
軸穴の開口には、テーパ状の案内面32が形成されている。この案内面32により、シリンジ80を保持筒28の軸穴(言い換えれば、ヒータユニット20の穴21)に円滑に差し込むことができる。
【0043】
保持筒28の周方向一部に凹部が形成され、この凹部に押えローラ33が配置されている。押えローラ33は、保持筒28が有する円形の軸穴の接線方向に沿う軸を中心として回転可能に支持されている。押えローラ33の支軸は、保持筒28の外周に形成された図略の溝に配置されている。従って、押えローラ33は、支軸とともに溝に沿ってスライド移動することができる。
【0044】
図1に示すように、保持筒28には、弾性部材であるバネ34が1対で取り付けられている。2つのバネ34は、押えローラ33の支軸の両端を引っ張る。これにより、押えローラ33は、その一部が保持筒28の軸穴の内側へ突出するように付勢される。
【0045】
押えローラ33は、シリンジ80が穴21に差し込まれた状態で、シリンジ80に接触し、バネ34の力で押さえる。これにより、シリンジ80が穴21から不意に抜けないようにすることができる。
【0046】
回転機構40は、支持スタンド41と、モータ(撹拌部)42と、伝動軸43と、を備える。
【0047】
支持スタンド41は、モータ42を支持するための部材である。支持スタンド41は、ベース部材10の上面に固定されている。
【0048】
モータ42は、伝熱筒26及び保持筒28を回転させるための動力を発生させる。モータ42のハウジングが、支持スタンド41に固定される。モータ42の出力軸がハウジングから突出している。
【0049】
伝動軸43は、細長い丸棒状の部材である。
図2に示すように、伝動軸43の一端は、モータ42の出力軸に対して継手45を介して連結される。伝動軸43の他端は、ヒータユニット20の伝熱筒26に対して、連結フランジ44を介して固定される。
【0050】
以上の構成で、モータ42を駆動すると、その出力軸の回転が伝動軸43を介して伝熱筒26に伝達される。これにより、伝熱筒26及び保持筒28を回転させることができる。
【0051】
フロントパネル50は、装置の正面側を覆うように配置される。フロントパネル50は、ベース部材10の上面に固定される。フロントパネル50には、ヒータユニット20の穴21に対応した開口51が形成されている。この開口51を通じて、シリンジ80をヒータユニット20の穴21に差し込むことができる。
【0052】
開口51の近傍の適宜の位置には、シリンジセンサ52が配置されている。シリンジセンサ52は、開口51にシリンジ80が差し込まれたことを検知することができる。シリンジセンサ52は、例えば反射型の光センサとして構成することができる。
【0053】
ベース部材10は傾斜状の脚部を備えているので、ベース部材10の上面は傾斜状となっている。これに伴い、ヒータユニット20の穴21は、シリンジ80の差込方向奥側となるにつれて下となるように傾斜している。伝熱筒26及び保持筒28の回転中心である軸線も、同様の傾斜を有している。この軸線は、鉛直方向に対して交差する向きとなっている。
【0054】
ヒータユニット20の穴21に差し込まれたシリンジ80は、先端が下方となる傾斜姿勢で、伝熱筒26及び保持筒28とともに回転する。このときの回転中心である軸線は、シリンジ80の軸線とほぼ一致する。
【0055】
シリンジ80が傾斜姿勢となっているので、シリンジ80の内部の薬剤は、自重により、シリンジケースの円筒部分と先端テーパ部分との接合部付近の底部に留まる。薬剤が外周側にある状態でシリンジ80が中心軸を中心として回転するので、良好な撹拌効果を得ることができ、薬剤を早期に崩壊懸濁させることができる。
【0056】
フロントパネル50の適宜の位置には、操作部53が取り付けられている。操作部53は、液晶等からなるディスプレイと、ハードウェアキーと、を備える。ただし、操作部53の構成は任意であり、例えばタッチパネル式ディスプレイとして構成することもできる。
【0057】
制御部60は、CPU、ROM、RAM、タイマ回路等を備える公知のコンピュータとして構成されている。ROMには、本発明に係る薬剤懸濁液の製造方法を実現するためのプログラム等、適宜のソフトウェアが記憶される。制御部60は、モータ42、ヒータ24、温度センサ30、シリンジセンサ52、操作部53等に電気的に接続されている。
【0058】
以上の構成で、薬剤懸濁液製造装置1の電源が投入されると、制御部60はヒータ24を、ヒータホルダ23の温度が例えば40℃付近を維持するように制御する。
【0059】
オペレータ(例えば、看護師)は、シリンジ80に所定の量の水と固形薬剤を入れた状態で、そのシリンジ80を薬剤懸濁液製造装置1の開口51から穴21に差し込む。続いて、オペレータは、フロントパネル50の操作部53を操作し、懸濁液の製造開始を指示する。
【0060】
制御部60がモータ42を駆動させ、ヒータ24を発熱させるように制御する。これにより、シリンジ80は、伝熱筒26及び保持筒28とともに回転し、同時にヒータ24によって加熱される(撹拌工程、加熱工程、崩壊懸濁促進工程)。
【0061】
ヒータユニット20のシリンジ80に対する加熱作用、及び、モータ42がシリンジ80を回転させる撹拌作用によって、固形の薬剤の水への崩壊懸濁が促進される。従って、薬剤懸濁液製造装置1は、ヒータユニット20及びモータ42からなる崩壊懸濁促進部を備えるということができる。
【0062】
懸濁開始の指示直後、制御部60は、ヒータ24による加熱の目標温度を、以前の40℃から、より高い温度、例えば60℃弱に変更する。従って、シリンジ80の内部の水は急速に加熱される。所定時間が経過すると、制御部60は、ヒータ24による加熱の目標温度を、40℃に戻す。ヒータ24による加熱の目標温度にかかわらず、モータ42の回転は継続する。
【0063】
懸濁開始から所定時間(例えば、10分程度)が経過すると、制御部60は、モータ42の回転を停止させ、懸濁完了を適宜の手段で知らせる。報知の手段としては、例えば、操作部53のディスプレイにメッセージを表示したり、図略のブザーを鳴らしたり、図略のランプを点灯することが考えられる。ディスプレイ、ブザー、及びランプは、何れも報知部の一種である。
【0064】
オペレータは、開口51からシリンジ80を抜き取る。懸濁が完了した状態では、シリンジ80の内部に、固体の薬剤が良好に崩壊懸濁した状態の約40℃の溶液を得ることができる。オペレータは、薬剤懸濁液製造装置1から取り出したシリンジ80をそのままチューブに接続して、患者に投与することができる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態の薬剤懸濁液製造装置1は、保持筒28と、ヒータユニット20と、モータ42と、を備える。保持筒28は、水及び固形の薬剤を収容するシリンジ80を保持可能である。ヒータユニット20及びモータ42は、保持筒28によって保持されたシリンジ80内で、薬剤の水への崩壊懸濁を促進する。
【0066】
これにより、装置により容器を一定の場所に保持した状態で崩壊懸濁を促進することができる。従って、多くの手間を要することなく、懸濁法による薬剤の投与を行うことができる。
【0067】
また、本実施形態において、前述の崩壊懸濁促進部は、保持筒28によって保持されたシリンジ80を加熱するヒータユニット20を備える。
【0068】
これにより、薬剤を水に溶け易くすることができる。
【0069】
また、本実施形態において、前述の崩壊懸濁促進部は、保持筒28によって保持されたシリンジ80の収容物を撹拌するモータ42を備える。
【0070】
これにより、薬剤を水に溶け易くすることができる。また、懸濁液の濃度ムラを防止できる。
【0071】
また、本実施形態の薬剤懸濁液製造装置1において、ヒータユニット20は、シリンジ80を加熱した後に、シリンジ80の加熱を弱める又は停止するように制御される。
【0072】
これにより、水温の上がり過ぎを抑えつつ、薬剤を効率的に水に溶かすことができる。水温が高いほど薬剤が溶けやすいが、水温が高すぎると、逆に薬剤が固まったり、薬剤の成分が変質したり、分解したりすることがある。この点を考慮して、シリンジ80を加熱した後にシリンジ80の加熱を弱める又は停止することで、水温の上がり過ぎを抑えている。
【0073】
また、本実施形態の薬剤懸濁液製造装置1は、崩壊懸濁の完了を報知する図略のブザー又はランプ等を備える。
【0074】
これにより、薬剤懸濁液製造装置1にセットしたシリンジ80の取出し忘れを防止できる。
【0075】
また、本実施形態の薬剤懸濁液製造装置1において、容器はシリンジ80である。
【0076】
これにより、薬剤懸濁液製造装置1から取り出したシリンジ80をチューブに繋いで患者に投与できるので、作業が容易である。
【0077】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0078】
ヒータユニット20及びモータ42のうち少なくとも一方を省略することができる。ヒータユニット20を省略する場合、シリンジ80に、水の代わりに温湯を入れれば良い。モータ42を省略する場合、加熱が完了したシリンジ80をオペレータが取り出して手作業で振とうさせれば良い。
【0079】
棒状のヒータ24に代えて、バンド状のヒータを用いることができる。バンド状のヒータは、例えば、ヒータホルダ23の外周に巻き付けるように配置することができる。
【0080】
薬剤懸濁液製造装置1は、シリンジ80以外の容器、例えばカップ状の容器を対象とすることができる。
【0081】
加熱温度、加熱時間及び撹拌時間は、上述の説明に限定されず、薬剤の水への溶け易さ等を考慮して適宜変更することができる。
【0082】
薬剤懸濁液製造装置1は、シリンジ80を穴21に対して斜め下向きに差し込む構成に代えて、例えば水平に差し込む構成、又は垂直下向きに差し込む構成に変更することもできる。
【0083】
重力、又は穴21の内壁との摩擦力だけで穴21に対してシリンジ80を保持できる場合、押えローラ33を省略することができる。穴21に対するシリンジ80の保持は、押えローラ33以外、例えばパッド又は爪部材等によっても実現することができる。
【0084】
撹拌は、回転以外の方法で実現することもできる。例えば、穴21にセットされたシリンジ80に対して、適宜のストロークで往復駆動される振動子を押し当てることによって、シリンジ80の内部の水と薬剤とを撹拌することができる。
【0085】
1つの薬剤懸濁液製造装置1が、複数のシリンジ80を同時に加熱及び撹拌できるように構成することもできる。例えば、ヒータユニット20を2つ並べて備え、1つのモータ42からの動力を、2つのヒータユニット20の伝熱筒26に分配して伝達する構成とすることができる。
【0086】
薬剤懸濁液製造装置1は、上述の簡易懸濁法に用いることもできるし、それ以外の懸濁法に用いることもできる。
【符号の説明】
【0087】
1 薬剤懸濁液製造装置
20 ヒータユニット(加熱部)
28 保持筒(保持部)
42 モータ(撹拌部)
80 シリンジ(容器)