(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081422
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】車両のアクチュエータを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20220524BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20220524BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20220524BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220524BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W40/06
B60L15/20 S
B60T8/17 Z
B60T8/1755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021180143
(22)【出願日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】20206437.4
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】アディシャ・アリカー
(72)【発明者】
【氏名】レオ・レイン
(72)【発明者】
【氏名】レイ・シドハント
(72)【発明者】
【氏名】レオン・ヘンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・オスボゴード
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン・リンドバーグ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車両操縦者にとっての快適さを改善し、なおかつ操作中の全体的エネルギー消費を低減する方法を提供する。
【解決手段】車両の少なくとも1つのアクチュエータ104を制御するための方法であって、アクチュエータ104が、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成され、加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した制御機能によって決定され、方法が、車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、加えられるトルクを制御するように制御機能を構成するステップと、車両の現在の操作条件を示すデータを取得するステップと、車両の現在の操作条件に応じて制御機能の制御帯域幅を設定するステップと、制御機能を使用してアクチュエータ104を制御するステップとを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の少なくとも1つのアクチュエータ(104)を制御するための方法であって、前記アクチュエータ(104)が、前記車両(100)の少なくとも1つの車輪(102)にトルクを加えるように構成され、前記加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した制御機能によって決定され、
- 前記車輪(102)の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と前記車輪(102)の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記加えられるトルクを制御するように前記制御機能を構成するステップ(S1)と、
- 前記車両の現在の操作条件を示すデータを取得するステップ(S2)と、
- 前記車両(100)の前記現在の操作条件に応じて前記制御機能の前記制御帯域幅を設定するステップ(S3)と、
- 前記制御機能を使用して前記アクチュエータ(104)を制御するステップ(S4)と
を備える方法。
【請求項2】
車両(100)の少なくとも1つの車輪(102)にトルクを加えるために、少なくとも1つのアクチュエータ(104)を制御するためのアクチュエータ制御システム(300)において実施される方法であって、前記アクチュエータ制御システム(300)が制御機能を備え、前記加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した前記制御機能によって決定され、
- 前記車輪(102)の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定するステップ(S10)と、
- 前記第1のパラメータ値と前記車輪(102)の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記加えられるトルクを制御するように前記制御機能を構成するステップ(S20)と、
- 前記車両の現在の操作条件を示すデータを取得するステップ(S30)と、
- 前記車両の前記現在の操作条件に応じて前記制御機能の前記制御帯域幅を設定するステップ(S40)と、
- 前記制御機能を使用して前記アクチュエータを制御するステップ(S50)と
を備える方法。
【請求項3】
前記制御機能が、前記アクチュエータ(104)の速度を制御するように構成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記制御機能の増加した帯域幅が、前記アクチュエータの増加したトルク応答と関連する、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記制御機能の前記制御帯域幅が、前記アクチュエータのフィードバック利得の所定のセットを使用して制御され、各フィードバック利得が、前記車両の特定の操作条件と関連する、請求項2から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記制御機能がPIDコントローラである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記制御機能が比例コントローラであり、
前記方法が、
- 前記制御機能ための目標の帯域幅を指示する信号を取得するステップと、
- 前記目標の帯域幅および前記車両の前記現在の操作条件に関する比例パラメータを使用して、前記制御機能を構成するステップと
をさらに含む、請求項2から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
車両(100)の車両運動管理システム(200)において実施される方法であって、前記車両運動管理システムが、その間の制御信号の通信のために、アクチュエータ制御システム(300)と接続可能であり、
- 前記車両(100)の現在の速度を取得するステップ(S100)と、
- 前記車両(100)の現在の操作条件を決定するステップ(S200)と、
- 前記アクチュエータ制御システムへ制御信号(550)を伝送するステップ(S300)と
を備え、
前記制御信号は、前記アクチュエータ制御システムによって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、前記車両の前記現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と前記車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記アクチュエータ制御システムの制御機能によって前記車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加える命令を表し、前記制御帯域幅が、前記車両の前記現在の操作条件に応じて決定可能である、方法。
【請求項9】
- 前記現在の操作条件に基づいて、前記車両の目標の速度を決定するステップをさらに含み、
前記車輪の前記目標の回転速度が、前記車両の前記目標の速度に基づく、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
- 前記現在の操作条件に基づいて、前記車両の所望の操作性能を決定するステップをさらに含み、
前記制御帯域幅が、前記車両の前記所望の操作性能に応じてさらに決定可能である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
- 目的の帯域幅を決定するステップと、
- 前記決定された目標の帯域幅を含む前記制御信号を伝送するステップと
をさらに含み、
前記制御帯域幅が、前記目標の帯域幅に応じてさらに決定可能である、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記車両の前記現在の操作条件が、現在の車両条件、および前記車両が走行している現在の道路条件のうちの少なくとも1つに基づく、請求項8から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記現在の操作条件が、現在の車両質量、前記車両が走行している道路の勾配、車両速度、前記車両の前記車輪と路面との間の摩擦レベル、および現在のタイヤ剛性のうちの少なくとも1つである、請求項8から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
車両(100)のアクチュエータ制御システム(300)であって、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるために、少なくともアクチュエータ(104)を制御するように構成され、前記アクチュエータ制御システムは制御機能を備え、前記加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した前記制御機能によって決定され、前記アクチュエータ制御システムが、
- 前記車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定し、
- 前記第1のパラメータ値と前記車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記加えられるトルクを制御するように前記制御機能を構成し、
- 前記車両の現在の操作条件を示すデータを取得し、
- 前記車両の前記現在の操作条件に応じて前記制御機能の前記制御帯域幅を設定し、
- 前記制御機能を使用して前記アクチュエータを制御する
ように構成されている、アクチュエータ制御システム(300)。
【請求項15】
車両(100)の車両運動管理システム(200)であって、その間の制御信号(550)の通信のために、アクチュエータ制御システム(300)と接続可能であり、
- 前記車両の現在の速度を取得し、
- 前記車両の現在の操作条件を決定し、
- 前記アクチュエータ制御システムへ制御信号を伝送する
ように構成され、
前記制御信号は、前記アクチュエータ制御システムによって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、前記車両の前記現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と前記車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記アクチュエータ制御システムの制御機能によって前記車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加える命令を表し、
前記制御帯域幅が、前記車両の前記現在の操作条件に応じて決定される、車両運動管理システム(200)。
【請求項16】
車両(100)のアクチュエータ制御システム(300)によって実行される命令を表す制御信号(550)であって、
- 前記アクチュエータ制御システム(300)が車輪(102)の現在の回転速度を決定することを可能にする車両速度構成要素と、
- 前記アクチュエータ制御システム(300)によって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、前記車両の現在の速度に基づく前記車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と前記車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、前記アクチュエータ制御システムの制御機能によって前記車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加える命令を表す車両操作条件構成要素と
を含み、
前記制御帯域幅が、前記車両の前記現在の操作条件に応じて決定可能である、制御信号(550)。
【請求項17】
コンピュータで実行される場合に、請求項1から15のいずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【請求項18】
コンピュータで実行される場合に、請求項1から15のいずれか1項に記載のステップを実行するためのプログラム手段を含むコンピュータプログラムを格納する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御するための方法に関する。本開示はまた、アクチュエータ制御システムにおいて実施される方法、車両運動管理システムにおいて実施される方法、アクチュエータ制御システム、ならびに車両運動管理システムに関する。さらに、本開示は、アクチュエータ制御システムによって実行される命令を表す、制御信号に関する。本開示は、電動車両に適用可能である。本開示は、推進のために電気機械を使用する、貨物自動車の形態の車両に主に向けられるが、他の種類の車両にも適用可能であり得る。
【背景技術】
【0002】
車両、特に、一般に貨物自動車と呼ばれる、小型、中型、および大型車両の分野において、車両の様々な制御機能性に関する継続的な開発が行われている。特に、制御機能性は、車両の運転のしやすさ、運転者にとっての快適さ、および操作中の安全性を改善することを意図する。
【0003】
CN104228609は、車輪速度制御方法に関する。特に、モジュールが、4つの車輪の速度を使用することによって、実際の車両速度を計算する。その後、モジュールは、実際の車両速度と目標の車両速度との間の差分値を計算し、コントローラに差分値を入力する。コントローラは、駆動モータの目標トルクを出力する。それによって、駆動トルクがフィードバック型の適応調整によって得られ、アクセルペダルはモータトルクに直接的に関連しないので、運転者は運転中にアクセルペダルを絶えず調整する必要がない。
【0004】
CN104228609は、車両操作を改善する試みを提示するが、それは、特に操縦者の快適性に関して、さらなる改善を未だ必要としている。したがって、車両操縦者にとっての快適さを改善し、なおかつ操作中の全体的エネルギー消費を低減することが、望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、上記の欠点を、少なくとも部分的に克服することである。第1の態様によると、車両の少なくとも1つのアクチュエータを制御するための方法であって、アクチュエータが、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるように構成され、加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した制御機能によって決定され、方法が、車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、加えられるトルクを制御するように制御機能を構成するステップと、車両の現在の操作条件を示すデータを取得するステップと、車両の現在の操作条件に応じて制御機能の制御帯域幅を設定するステップと、制御機能を使用してアクチュエータを制御するステップとを含む方法が提供される。
【0007】
制御機能は、少なくとも1つのアクチュエータにトルクを加えるように構成された操作機能性として解釈される。制御帯域幅によって、トルクは、現在の操作条件に応じて様々な応答時間で加えられ得る。一例によると、以下にも記載されるように、減少した帯域幅は、アクチュエータへの増加したトルク応答時間と関連し得る。したがって、トルクは、増加した帯域幅でより急速に加えられる。
【0008】
さらに、車輪の現在の回転速度に関する値、ならびに車輪の目標の回転速度に関する値は、回転車輪速度、ならびに車輪スリップ、すなわち地面に対する車輪速度と実際の車輪速度との間の差、の両方に関し得る値として解釈される。後者の場合では、第1のパラメータは、したがって車輪の現在の車輪スリップであり、および第2のパラメータは、車輪の目標の車輪スリップである。
【0009】
利点は、帯域幅が現在の操作条件に基づいて制御され、それによって、要求される場合に急速なトルク応答がもたらされ、他の状況ではより低くより穏やかなトルク応答がもたらされることである。したがって、操作中の快適さが改善され、エネルギー消費の大きい急速な操作が、要求される場合にのみ行われるので、車両の全体的エネルギー消費を低減することができる。さらに、より任意に設定を変更できることにより、全般的に車両制御を最適化する場合にさらなる自由度が得られる。
【0010】
さらに、制御機能は、車輪の回転速度に関するパラメータを取得する。車輪にある特定のタイヤ力を要求する一般的手法は、上位階層の制御機能から送られたトルク要求に基づいて、アクチュエータレベルでのトルク制御を用いることである。しかしながら、異なる制御機能の間、例えばコントローラエリアネットワーク(CAN)バスにわたる通信に関わるレイテンシは、著しくスリップ制御性能を限定する。したがって、例えばトルクに基づく制御と比較して有利な、速度に基づく制御機能が得られる。特に、電気機械に関して、局所的に行われる車輪スリップの速度に基づく制御は、主にCANメッセージサイクル時間により、集中管理トルク制御と比較してより急速である。
【0011】
以下にさらに詳細に記載されるように、方法は、好ましくは車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムを使用して、実行され得る。そのような車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムを実装する場合に、帯域幅は、いくつかの異なる方式で制御され得る。例えば、車両運動管理システムは、アクチュエータ制御システムへ、目標の帯域幅ならびに車両の操作条件に関するデータを含む制御信号を伝送するように設けられる。したがって、目標の帯域幅は、車両運動管理システムによって設定/決定される。目標の帯域幅に基づいて、アクチュエータ制御システムは、目標の帯域幅を達成するための制御帯域幅を、様々なパラメータに基づいて決定する。
【0012】
別の例によると、車両運動管理システムは、現在の操作条件に基づいて制御帯域幅自体を決定するように構成され、アクチュエータ制御システムへ、決定された制御帯域幅を指示する制御信号を伝送する。その後、アクチュエータ制御システムは、車両運動管理システムから受け取った制御帯域幅を使用して、アクチュエータを制御する。
【0013】
さらに別の例によると、アクチュエータ制御システムは、複数の所定の帯域幅設定パラメータを備え得る。車両運動管理システムは、ここで、現在の操作条件に基づいて、どの帯域幅パラメータ設定が最も適しているのかを決定するように構成され、アクチュエータを制御する場合に、決定された帯域幅設定パラメータを使用するために、アクチュエータ制御システムへ制御信号を伝送する。
【0014】
制御機能および制御帯域幅のさらなる詳細は、本開示の他の態様に関して以下に記載される。
【0015】
第2の態様によると、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるために、少なくとも1つのアクチュエータを制御するためのアクチュエータ制御システムにおいて実施される方法であって、アクチュエータ制御システムが、制御機能を備え、加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した制御機能によって決定され、方法が、車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定するステップと、第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、加えられるトルクを制御するように制御機能を構成するステップと、車両の現在の操作条件を示すデータを取得するステップと、車両の現在の操作条件に応じて制御機能の制御帯域幅を設定するステップと、制御機能を使用してアクチュエータを制御するステップとを含む方法が提供される。
【0016】
現在の操作条件を示すデータを、好ましくは、上記の上位レベルの車両運動管理システムから制御信号を受け取ることによって、そこから取得することができる。
【0017】
実例の実施形態によると、制御機能は、アクチュエータの速度を制御するように構成され得る。
【0018】
上記のように、アクチュエータの速度制御は、速度に基づく制御がトルク制御と比較してより急速であるので、電気機械を使用して車両を推進する場合に特に有利である。速度に基づく制御はまた、トルクに基づく制御と比較して、スリップを制御する点でより正確であり、車輪表面と路面との間の摩擦の変化、道路のくぼみなどの外乱に対してよりロバストである。
【0019】
実例の実施形態によると、制御機能の増加した帯域幅は、アクチュエータへの増加したトルク応答と関連し得る。増加したトルク応答によって、トルク応答時間が減少すると解釈される。
【0020】
実例の実施形態によると、制御機能の制御帯域幅は、アクチュエータのフィードバック利得の所定のセットを使用して制御され、各フィードバック利得は、車両の特定の操作条件と関連する。フィードバック利得は、アクチュエータ応答の特性を表すパラメータとして解釈される。したがって、トルク応答の「鋭さ(aggressiveness)」は、利得の所定のセットに基づき、より大きなフィードバック利得値が、より急速なトルク応答、すなわちより高い帯域幅の制御挙動を生む。例えば、大きな利得は、好ましくは、急速なトルク応答を要求する操作条件のために与えられる。
【0021】
実例の実施形態によると、制御機能はPIDコントローラであり得る。
【0022】
PIDコントローラは、比例積分微分コントローラとも呼ばれ、特に、フィードバック利得を使用してアクチュエータを制御するために有用である。PIDコントローラは、第1および第2のパラメータ値間の差として誤差値を計算し、迅速な補正を行うことにおいて利点を有し得る。一例として、現在の操作条件が急速な応答を要求する場合に、PIDコントローラの比例および整数項は、より穏やかなトルク応答を要求する現在の操作条件と比較して増加する。
【0023】
実例の実施形態によると、制御機能は比例コントローラであってもよく、方法は、制御機能のための目標の帯域幅を指示する信号を取得するステップと、目標の帯域幅および車両の現在の操作条件に関する比例パラメータを使用して、制御機能を構成するステップとをさらに含む。
【0024】
比例コントローラとは、制御機能が、単に目標の帯域幅の比例値によって、アクチュエータを制御することと理解される。したがって、比例値は、好ましくは、現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差の、比例パラメータである。
【0025】
第2の態様のさらなる効果および特徴は、第1の態様に関する上記のものと大いに類似する。
【0026】
第3の態様によると、車両の車両運動管理システムにおいて実施される方法であって、車両運動管理システムが、その間の制御信号の通信のために、アクチュエータ制御システムと接続可能であり、方法が、車両の現在の速度を取得するステップと、車両の現在の操作条件を決定するステップと、アクチュエータ制御システムへ制御信号を伝送するステップとを含み、制御信号は、アクチュエータ制御システムによって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、アクチュエータ制御システムの制御機能に車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加える命令を表し、制御帯域幅が、車両の現在の操作条件に応じて決定可能である方法が提供される。
【0027】
車両の現在の速度は、車両の車輪の現在の車輪速度、または単に車両の速度であってよい。車両速度は、好ましくは速度センサまたは同等のものから、ならびに先進運転支援システム(ADAS:advanced driver assistance system)から取得され得る。したがって、車両運動管理システムは、車両運動管理システムから受け取った制御信号に基づいて車輪の特定のパラメータを決定するアクチュエータ制御システムへ、上位階層の車両パラメータを伝送する。例えば、車両運動管理システムは、車両の速度を示すデータを含む信号を伝送するが、アクチュエータ制御システムは、この車両速度を車輪の回転速度に関するパラメータ値へ変換する。アクチュエータ制御システムは、好ましくは、車輪の回転速度を決定する場合に、現在の駆動系の状態を組み入れることができる。そのような駆動系の状態とは、好ましくは、現在のギア、1つまたは複数のクラッチの接続/解除状態などである。
【0028】
したがって、車両運動管理システムは、第2の態様に関連して上記のように、アクチュエータ制御システムがアクチュエータを適切に制御することを可能にする制御信号を発する。
【0029】
実例の実施形態によると、方法は、現在の操作条件に基づいて、車両の目標の速度を決定するステップをさらに含み、車輪の目標の回転速度が、車両の目標の速度に基づく。
【0030】
したがって、目標の速度は、これにより、上位階層の車両運動管理システムによって決定される。
【0031】
実例の実施形態によると、方法は、現在の操作条件に基づいて、車両の所望の操作性能を決定するステップをさらに含み、制御帯域幅が、車両の所望の操作性能に応じてさらに決定可能である。
【0032】
所望の操作性能は、例えば、操縦者にとって好ましい運転体験および/または運転快適さに関する。
【0033】
実例の実施形態によると、方法は、目的の帯域幅を決定するステップと、決定された目標の帯域幅を含む制御信号を伝送するステップとを含み、制御帯域幅が、目標の帯域幅に応じてさらに決定可能である。したがって、制御信号は、決定された目標の帯域幅を指示する。それゆえに、アクチュエータ制御システムへ与えられる制御信号は、好ましくは上記の比例パラメータを使用して制御機能を構成する場合に、制御帯域幅としてアクチュエータ制御システムによって取得される目標の帯域幅を好ましくは指示する。
【0034】
実例の実施形態によると、車両の現在の操作条件は、現在の車両条件、および車両が走行している現在の道路条件のうちの少なくとも1つに基づくことができる。したがって、現在の操作条件は、例えば、積載している、もしくは積載していない車両などの車両の特定のパラメータから、および/または例えば、滑りにくい、もしくは滑りやすい道路状況などの道路条件に基づいて、取得され得る。
【0035】
実例の実施形態によると、現在の操作条件は、現在の車両質量、車両が走行している道路の勾配、車両速度、車両の車輪と路面との間の摩擦レベル、および現在のタイヤ剛性のうちの少なくとも1つであり得る。
【0036】
これらの操作条件は、例えば、センサ信号データに基づいて、またはセンサデータ入力などに基づくコンピュータでの計算によって、決定され得る。利点は、制御帯域幅が、車両およびその環境のいくつかのパラメータおよび要素に基づいて操作され得ることである。
【0037】
第4の態様によると、車両のアクチュエータ制御システムであって、車両の少なくとも1つの車輪にトルクを加えるために、少なくともアクチュエータを制御するように構成され、アクチュエータ制御システムは制御機能を備え、加えられるトルクが、制御帯域幅と関連した制御機能によって決定され、アクチュエータ制御システムが、車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定し、第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、加えられるトルクを制御するように制御機能を構成し、車両の現在の操作条件を示すデータを取得し、車両の現在の操作条件に応じて制御機能の制御帯域幅を設定し、および制御機能を使用してアクチュエータを制御するように構成される、アクチュエータ制御システムが提供される。
【0038】
第4の態様の効果および特徴は、第1、第2、および第3の態様、特に第2の態様に関する上記のものと大いに類似する。
【0039】
第5の態様によると、車両の車両運動管理システムであって、その間の制御信号の通信のために、アクチュエータ制御システムと接続可能であり、車両の現在の速度を取得し、車両の現在の操作条件を決定し、およびアクチュエータ制御システムへ制御信号を伝送するように構成され、制御信号は、アクチュエータ制御システムによって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、アクチュエータ制御システムの制御機能に車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加えさせる命令を表し、制御帯域幅が、車両の現在の操作条件に応じて決定される、車両運動管理システムが提供される。
【0040】
第5の態様の効果および特徴は、第1、第2、および第3の態様、特に第3の態様に関する上記のものと大いに類似する。
【0041】
第6の態様によると、車両のアクチュエータ制御システムによって実行される命令を表す制御信号が提供され、制御信号は、アクチュエータ制御システムが車輪の現在の回転速度を決定することを可能にする車両速度構成要素と、アクチュエータ制御システムによって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、アクチュエータ制御システムの制御機能に車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加える命令を表す車両操作条件構成要素とを含み、制御帯域幅が、車両の現在の操作条件に応じて決定可能である。
【0042】
車両速度構成要素は、アクチュエータ制御システムがアクチュエータの目標の回転速度を決定することを可能にする、目標の車両速度を指示するデータを含み得る。
【0043】
第7の態様によると、コンピュータで実行される場合に、第1、第2、および第3の態様に関する上記の実施形態のいずれか1つのステップを実施するためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラムが提供される。
【0044】
第8の態様によると、コンピュータで実行される場合に、第1、第2、および第3の態様に関する上記の実施形態のいずれか1つのステップを実施するためのプログラム手段を含む、コンピュータプログラムを格納する、コンピュータ読み取り可能な媒体が提供される。
【0045】
第6、第7、および第8の態様の効果および特徴は、本開示の残りの態様に関する上記のものと大いに類似する。
【0046】
さらなる特徴および利点が、添付の請求項および以下の説明を考察すると、明らかとなろう。当業者であれば、異なる特徴を組み合わせて、本開示の範囲から逸脱することなく、以下に記載されるもの以外の実施形態を作り出すこができることを理解するであろう。
【0047】
上記ならびに追加の目的、特徴、および利点は、実例としての実施形態の以下の例示的および非限定的な詳細な説明を通して、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】貨物自動車の形態の車両の実例の実施形態を例示する側面図である。
【
図2】実例の実施形態による、車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムの概略図である。
【
図3】車輪スリップとタイヤ力の関係を示すモデルの実例の実施形態を例示するグラフである。
【
図4】実例の実施形態による、
図1における車両のアクチュエータを制御するための方法のフローチャートである。
【
図5】実例の実施形態による、
図2のアクチュエータ制御システムにおいて実施される方法のフローチャートである。
【
図6】実例の実施形態による、
図2の車両運動管理システムにおいて実施される方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本開示は、実例としての実施形態が示される添付の図面を参照して、本明細書でより十分に記載される。しかしながら、本開示は、多くの異なる形態で具体化されることが可能であり、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、説明を徹底し補完するために提供される。説明の全体にわたって、同様の参照符号は同様の要素を指す。
【0050】
特に
図1を参照すると、貨物自動車の形態の車両100が示されている。車両は、複数の車輪102を備え、各々の車輪102が、それぞれのアクチュエータ104を備える。
図1に示される実施形態は、各々の車輪102のためのアクチュエータを例示するが、例えば、アクチュエータ104なしで一組の車輪102が配置され得ることは、容易に理解されるはずである。さらに、アクチュエータ104は、好ましくは、車両のそれぞれの車輪、または車軸の両輪にトルクを発生させるためのアクチュエータである。アクチュエータは、
図3に示され、以下にさらに記載されるように、例えば、車両100の車輪へ縦車輪力を与えるように構成された電気機械106であり得る。そのような電気機械は、したがって、推進トルクを発生させるように、ならびにバッテリー(図示せず)または車両100の他のエネルギー貯蔵システムに充電するための回生制動モードにおかれるように適用され得る。電気機械はまた、エネルギーを貯蔵することなく制動トルクを発生させることができる。例えば、ブレーキ抵抗器などは、制動時に電気機械から余分なエネルギーを放散するために使用され得る。
【0051】
さらに、各アクチュエータ104は、アクチュエータ104の動作を制御するために配置された、それぞれのアクチュエータ制御システム300へ接続される。アクチュエータ制御システム300は、好ましくは、分散型アクチュエータ制御システム300であるが、集中型の実装形態もまた可能である。運動支援システムのある部分が、無線接続を介して車両からアクセス可能な遠隔サーバ1000など、車両から距離を隔てた処理回路に実装され得ることは、さらに理解される。なおさらに、各アクチュエータ制御システム300は、有線、無線、または有線と無線の両方のいずれかであり得るデータバス通信配置114を介して、車両100の車両運動管理システム200へ接続される。これにより、制御信号は、車両運動管理システム200とアクチュエータ制御システム300との間で、伝送されることが可能である。車両運動管理システム200およびアクチュエータ制御システム300は、
図2を参照して以下にさらに詳細に記載される。
【0052】
車両運動管理システム200ならびにアクチュエータ制御システム300は、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、または他のプログラマブルデバイスを備え得る。システムはまた、もしくは代わりに、特定用途向け集積回路、プログラマブルゲートアレイもしくはプログラマブルアレイロジック、プログラマブルロジックデバイス、またはデジタルシグナルプロセッサを備える。システムが、上記のマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、またはプログラマブルデジタルシグナルプロセッサなどのプログラマブルデバイスを備える場合に、プロセッサは、プログラマブルデバイスの動作を制御するコンピュータ実行可能コードをさらに含み得る。
【0053】
実例の実施形態による、車両運動管理システム200およびアクチュエータ制御システム300の概略図である、
図2を参照する。このように、車両運動管理システム200およびアクチュエータ制御システム300は、車両運動システム500の一部を形成する。包括的車両制御システムは、1つまたは複数の車両ユニットコンピュータ(VUC:vehicle unit computer)に実装され得る。VUCは、ある機能が上位階層の交通状況管理(TSM:traffic situation management)ドメインに含まれ、他のある機能が下位の機能的階層にある車両運動管理(VMM:vehicle motion management)ドメインに含まれる、階層化された機能的アーキテクチャにより編成される、車両制御方法を実行するように構成され得る。
【0054】
図2は、摩擦制動装置および推進装置などの、ある実例のアクチュエータ制御システム(MSD)によって、1つまたは複数の車輪を制御するための機能を概略的に例示する。摩擦制動装置および推進装置は、車輪トルク発生装置の例であり、アクチュエータとも呼ばれることもあり、1つまたは複数のアクチュエータ制御システムによって制御され得る。制御は、例えば、車輪速度センサから、およびレーダセンサ、ライダセンサ、ならびにカメラセンサや赤外線検出器などの視覚に基づくセンサなどの他の車両状態センサから取得される測定データに基づく。本明細書で論じられる原理により制御され得る、他の実例のトルク発生アクチュエータ制御システムは、エンジンリターダおよびパワーステアリング装置を備える。
【0055】
MSD制御ユニットは、1つまたは複数のアクチュエータへ配置され得る。例えば、MSD制御ユニットが、例えばディファレンシャルを介して、所与の車軸の両方の車輪を制御するように設けられることは、珍しいことではない。
【0056】
TSM機能は、例えば10秒程度の計画対象期間で運転操作を計画する。この時間枠は、例えば、車両がカーブを通り抜けるのに要する時間に相応する。TSMによって計画され実行される車両操作は、所望の車両速度および所与の操作による旋回を表す、加速度プロファイルおよび曲率プロファイルに関連し得る。TSMは、安全で強固な方式でTSMからの要求を満たすために力の分配を行うVMM機能から、所望の加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqを、継続的に要求する。
【0057】
加速度プロファイルおよび曲率プロファイルを、ステアリングホイール、アクセルペダル、およびブレーキペダルなどの通常の制御入力装置を介して、大型車両の運転者から取得することもできる。
【0058】
VMM機能は、約1秒程度の計画対象期間で動作し、加速度プロファイルareqおよび曲率プロファイルcreqを、車両100の異なるMSDによって作動される車両運動機能を制御するための制御コマンドへと継続的に変換し、MSDは、VMMへ可能出力を報告し、それは、順次、車両制御における制約として使用される。VMM機能は、車両の状態または運動の予測を実施する、すなわち、VMM機能は、常にではないが頻繁にMSDと接続して、車両100に配置された様々なセンサを使用して、動作を監視することによって、位置、速度、加速度および車両の連係動作における異なるユニットの連接角度を含む車両状態を、継続的に測定する。
【0059】
運動予測の結果、すなわち予測された車両状態は、車両100を要求された加速度および曲率プロファイルareq、creqに従って動かすために、異なる車両ユニットに要求される包括的な力を決定する力発生モジュールへ入力される。要求される包括的な力ベクトルは、車輪力を分配し、ステアリングおよびサスペンションなどの他のMSDを調整するMSD調整機能へ入力される。調整されたMSDは、次に、車両ユニットに所望の横力Fyおよび縦力Fxならびに要求されるモーメントMzをまとめて与え、車両の連係動作によって所望の運動を得る。
【0060】
例えば全地球測位システム、視覚に基づくセンサ、車輪速度センサ、レーダセンサ、および/またはライダセンサを使用して、車両ユニットの運動を決定し、この車両ユニットの運動を所与の車輪の局所座標系に変換する(例えば、縦および横速度成分に換算して)ことによって、車輪の参照座標系における車両ユニットの運動を、車輪と接続して配置された車輪速度センサから取得されるデータと比較して、車輪スリップを正確に予測することが可能になる。
【0061】
タイヤモデルは、以下に
図3に関連してより詳細に論じられるが、所望の縦タイヤ力F
xと車輪スリップとを変換するために使用され得る。車輪スリップは、車輪の回転速度と地面に対する速度との間の差と関連する。車輪速度は、例えば、毎分回転数(rpm)または、ラジアン/秒(rad/s)または度/秒(deg/s)に換算された角速度の単位で与えられる、車輪の回転速度である。
【0062】
本明細書において、タイヤモデルは、車輪スリップの関数として、縦方向(回転方向おける)および/または横方向(縦方向と直交する)に発生する車輪力を表す、車輪挙動のモデルである。「Tire and vehicle dynamics」、Elsevier Ltd.2012、ISBN 978-0-08-097016-5、Hans Pacejkaに、タイヤモデルの基礎事項が記載されている。例えば、車輪スリップと縦力との間の関係性が論じられた第7章を参照されたい。
【0063】
要約すると、VMM機能は、力の発生およびMSD調整の両方を管理する、すなわち、VMM機能は、TSM機能からの要求を達成するため、例えば、TSMによって要求される要求加速度プロファイルに従って車両を加速するため、および/または、同様にTSMによって要求される車両によるある特定の曲線運動を行うため、車両ユニットで要求される力が何であるかを決定する。力は、例えば、ヨーモーメントMz、縦力Fxおよび横力Fy、ならびに異なる車輪に加えられる異なる種類のトルクを含み得る。
【0064】
VMMは、上位階層の制御システムとして配置され、一方でMSDは、下位階層の制御システムとして配置される。上位階層のVMM200は、したがって、以下に記載されるように、車両/車輪ドメインにおいて、すなわち車両速度などの包括的な車両条件に基づいて、様々なパラメータを決定するように構成される。他方で、下位階層のMSD300は、車輪と接続されるアクチュエータ用のパラメータを決定するように構成される。下位階層のMSDは、したがって、例えば、ギア比、駆動系の惰性などを考慮して、上位階層のVMMから受け取る信号をアクチュエータドメインに変換する。
【0065】
したがって、および以下にも記載されるように、車両運動管理システムおよびアクチュエータ制御システムは、車両の制御システムであり、各々の制御システムは、車両の動作を制御するために、特に車輪動作を制御するために、様々な制御機能を実行するように構成される。車両運動管理システムは、上記のように、上位階層の車輪パラメータを受け取りおよび決定するように構成される、すなわち、車両運動管理システムは、例えば、所望の速度をより一般化された形式で決定するが、一方で、アクチュエータ制御システムは、車両運動管理システムから受け取ったパラメータを、アクチュエータのための適切なパラメータへ変換するように構成される。
【0066】
非限定的な例によると、車両運動管理システム200は、車両条件モジュール202、車両速度モジュール204、および任意選択で帯域幅モジュール280を備える。車両運動管理システム200は、さらに、車両運動管理システム200およびその様々なモジュール202、204、280で利用されるデータを含む車両操作信号502を受け取るように構成される。例えば、車両運動管理システム200へ与えられる車両操作信号502は、車両の現在の環境、現在の交通状況、車両重量パラメータ、例えば、車両が積載しているか、積載していないか、部分的に積載しているかなど、を示す信号の形式のデータを含み得る。車両運動管理システム200はまた、以下に記載されるように、例えば、現在の車両操作条件などの特定の車両条件(vehicle condition)を示す他の信号を受け取ることができる。モジュールは、
図2に示されるものより多数のモジュールによって形成され得るが、互いの間で通信信号を伝送するように構成される、すなわち、異なるモジュールは、以下の開示によって明らかになるように、互いに通信するように構成される。車両条件モジュール202、車両速度モジュール204、および帯域幅モジュール280が、単なる例示の目的で、別個の構成要素として例示されることは、容易に理解されるはずである。車両運動管理システム200は、当然ながら、また簡潔に、以下に記載される動作を実行する、様々な制御機能を、それ自体が備えてもよい。
【0067】
以下に、車両運動管理システム200の機能的動作を記載する。特に、車両運動管理システム200は、車両の現在の速度に関する情報を有する入力信号502を受け取るように構成される。さらに、車両条件モジュール202は、車両100の現在の操作条件(operating condition)を決定するように構成される。現在の操作条件は、例えば、車両の車輪と路面との間の車輪摩擦レベル、車両の現在の重量、すなわち車両が積載していないか、積載しているか、または部分的に積載しているか、および/または車両が現在走行している道路のトポロジー(topology)などを示すデータを含み得る。したがって、車両の現在の操作条件は、現在の車両条件、および車両が走行している現在の道路条件のうちの少なくとも1つに基づく。したがって、様々な操作条件は、個々の条件として、または異なる操作条件を包括的な操作条件として併合することにより単一の条件として、車両運動管理システム200によって決定され得る。車両の現在の操作条件は、適切なセンサからのデータを受け取ることによって決定することが可能であり、そのデータは、車両運動管理システム200へ伝送される。さらに、帯域幅モジュール280は、実例の実施形態において、アクチュエータ制御システム300へ伝送される帯域幅を決定するように構成される。
【0068】
車両運動管理システム200は、アクチュエータ制御システム300へ制御信号550を伝送するように、さらに構成される。制御信号550は、車両100の現在の操作条件、および車両の現在の速度を示すデータを含む。制御信号550はまた、好ましくは、制御帯域幅を示すデータを含み、その制御帯域幅は以下にさらに詳細に記載される。
【0069】
アクチュエータ制御システム300は、好ましくは、車輪速度モジュール302および制御機能304を備える。車輪速度モジュール302は、車輪102の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定するように設けられる。第1のパラメータは、車輪102の回転車輪速度、または車輪102の現在の車輪スリップのいずれかであり得る。車輪102の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値は、車両運動管理システム200から受け取る現在の車両速度に基づく。したがって、速度モジュール302は、上位レベルの車両速度値を車輪毎の座標系(図示せず)で表示されるパラメータに変換する。
【0070】
車輪スリップに関して、縦タイヤ力と関連する車輪スリップの特性は、
図3に示される。したがって、
図3は、計算される縦車輪スリップと予測される縦車輪力値との間の関係を示すタイヤモデル350を例示する。タイヤモデル450はまた、任意選択で、所与の縦車輪スリップに対する取得可能な最大の横車輪力の関係を示す。モデル450はまた、タイヤの所定の横スリップ角についての、所与の縦車輪スリップに対して得られた横車輪力を示す。縦軸340は、車輪102を支持する面と車輪との間で発生するタイヤ力を示し、横軸330は、車輪102の縦車輪スリップを示す。
【0071】
図2に戻って参照すると、アクチュエータ制御システム300はまた、車輪102の目標の回転速度を決定するように構成される。車輪の目標の回転速度は、制御信号550からのデータに基づいて決定することが可能で、それによって、制御信号550は、所望の車両速度に関するデータを含む。アクチュエータ制御システム300は、そのような車両速度を車輪毎の座標系で表示されるパラメータに変換するように設けられる。
【0072】
さらに、アクチュエータ制御システム300は、アクチュエータ104へ加えるトルクを決定するように構成される。特に、アクチュエータ制御システム300は、現在の回転速度と目標の回転速度との間の差を減少させるために、アクチュエータ104によって加えられるトルクを制御するための制御機能304を構成するように設けられる。アクチュエータ制御システム300は、さらに、制御機能によって、車両運動管理システムから受け取った制御帯域幅を使用するように構成される。アクチュエータ制御システム300はまた、車両運動管理システム200から受け取った現在の操作条件に基づいて、制御機能304に制御帯域幅を設定するように構成され得る。アクチュエータ104は、それによって、制御機能を使用してトルクを加えるように制御される。制御機能は、好ましくはアクチュエータの速度を制御するように構成される。
【0073】
したがって、トルクは、車両100の現在の操作条件に応じて、異なる制御帯域幅を使用して、アクチュエータによって加えられる。したがって、トルクは、現在の操作条件が要求する場合には、急速に加えられ、あるいは現在の操作条件がそのような急速なトルク応答を必要としない場合には、より穏やかに加えられる。さらに、車両制御システムは、ここで、制御のための所望の目標値だけでなく、制御が実施される制御帯域幅も設定する選択肢を有するので、それにより、より自由に車両運動制御を実施することができる。大きな制御帯域幅は、通常は、変化する道路勾配、摩擦などの、変化に対するより急速な応答を含意する。より小さな帯域幅は、操作条件の変化に対するより緩慢な応答を含意するが、他方で、より小さな帯域幅によって騒音がより抑制される。
【0074】
実例の実施形態によると、制御機能の制御帯域幅は、アクチュエータのフィードバック利得の所定のセットを使用して制御され、制御機能は、好ましくはPIDコントローラである。
【0075】
さらに、制御機能は、任意選択でフィードフォワード成分を含み得る。フィードフォワード成分は、例えば、コントローラのフィードバック利得の選択のための入力データとして使用され得る。
【0076】
非限定的な例によると、アクチュエータについての予測要求トルクを計算する場合に、以下の等式(1)~(4)を使用することができ、予測要求トルクは、好ましくは、PIDコントローラのP、I、および/またはD利得を設定するために使用される。
【0077】
【数1】
式中、
λ
req,i、α
iは、目標の車輪速度から計算される、要求される縦車輪スリップ、および現在の予測車輪横スリップであり、
ω
req、R
iは、目標の車輪速度、および車輪半径であり、
i
g、i
fdは、それぞれ、車両のトランスミッションのギア比および最終減速比であり、
v
x、v
y、γは、それぞれ、車両の縦速度、横速度、およびヨーレートであり、
C
i、F
z,i、c
0、c
1は、タイヤ剛性、車輪への垂直荷重、および線形ならびに非線形タイヤ剛性垂直荷重依存パラメータであり、
T
axle,ffは、アクチュエータについての計算された予測要求トルクであり、
f
tyreは、その例が
図3に示される、タイヤモデル関数である。
【0078】
ここで、実例の実施形態による、
図1における車両のアクチュエータを制御するための方法のフローチャートである
図4を参照する。
図4に関連して記載される方法によって実行される様々な操作は、特定の1つの車両運動管理システム200またはアクチュエータ制御システム300によって実行されるようには限定されず、本開示の機能的動作の包括的な説明としての役割を果たす。
【0079】
方法は、
図1に示されるアクチュエータ104を制御するように構成される。アクチュエータは、上記のように、アクチュエータが接続される車輪にトルクを加えるように構成される。加えられるトルクは、制御帯域幅と関連する制御機能によって決定される。したがって、
図4の方法の制御機能は、車両運動管理システム200またはアクチュエータ制御システム300のいずれかの一部を形成することができる。制御機能は、上でさらに詳細に記載されたように、車輪の現在の回転速度と車輪の目標の回転速度との間の差を減少させるために、加えるトルクを制御するように構成される(S1)。
【0080】
さらに、車両の現在の操作条件を示すデータも取得される(S2)。その後、制御機能の制御帯域幅は、車両100の現在の操作条件に応じて設定され(S3)、それによって、アクチュエータは、制御機能を使用して制御される(S4)。
【0081】
上記の車両運動管理システム200およびアクチュエータ制御システム300はまた、実例の実施形態によれば、操作方法を実施するように構成される。車両運動管理システム200およびアクチュエータ制御システム300の動作は、上で記載されているが、要約のために
図5および
図6をここで参照する。
【0082】
実例の実施形態による、
図2のアクチュエータ制御システムにおいて実施される方法のフローチャートである
図5をまず参照する。
図2に関して上記のように、アクチュエータ制御システム300は、制御帯域幅と関連する制御機能を備える。アクチュエータ制御システム300は、車両100の車輪102の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値を決定する(S10)ように構成される。上記のように、第1のパラメータ値は、車輪の回転速度、または車輪の現在の車輪スリップのいずれかである。アクチュエータ制御システム300の制御機能は、その後、第1のパラメータ値と車輪102の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、トルクをアクチュエータ104へ加えるように制御されるように構成される(S20)。
【0083】
さらに、アクチュエータ制御システム300および/または車両運動管理システム200は、現在の操作条件を示すデータを取得する(S30)ように構成される。したがって、現在の操作条件は、車両運動管理システム200からアクチュエータ制御システム300によって受け取られるか、または車両運動管理システム200へ車両操作信号502によって伝送される。現在の操作条件に応じて、制御帯域幅が設定され(40)、それによって、アクチュエータ制御システム300が、制御機能を使用してアクチュエータを制御する(S50)。
【0084】
最後に、実例の実施形態による、
図2の車両運動管理システムにおいて実施される方法のフローチャートである
図6を参照する。上述のように、車両運動管理システム200は、車両100の現在の速度を取得する(S100)。車両100の現在の速度は、例えば、車両100の速度センサまたは類似の装置から、信号を受け取ることによって取得され得る。車両運動管理システム200は、さらに、車両100の現在の操作条件を決定し(S200)、アクチュエータ制御システム300へ制御信号550を伝送する(S300)。
【0085】
車両運動管理システムからアクチュエータ制御システムへ伝送される制御信号550は、アクチュエータ制御システム300によって実行される場合に、制御帯域幅と関連して、車両の現在の速度に基づく車輪の現在の回転速度に関する第1のパラメータ値と車輪の目標の回転速度に関する第2のパラメータ値との間の差を減少させるために、アクチュエータ制御システムの制御機能304に車両の少なくとも1つの車輪へトルクを加えさせる命令を表し、制御帯域幅は、車両の現在の操作条件に応じて決定可能である。
【0086】
上記の車輪102の目標の回転速度は、車両運動管理システム200によって決定される目標の車両速度に基づき得る。また、車両運動管理システム200は、例えば、操縦者にとって好ましい運転体験および/または運転快適性などの所望の操作性能を決定するように構成され得る。これにより、車両運動管理システム200は、制御帯域幅を設定する場合に、アクチュエータ制御システムのための入力パラメータとして、所望の操作性能を伝送することができる。
【0087】
したがって、
図5および
図6に関連して記載される方法は、互いに関連して機能するように調整される。
【0088】
本開示が、上記のおよび図面で例示される実施形態に限定されないことは理解されるべきであり、むしろ、当業者であれば、多くの変更および改変が添付の請求項の範囲内で行われる得ることを認識するであろう。
【外国語明細書】