(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081461
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】形状記憶材料から成る歯列矯正部材をプログラミングするための方法
(51)【国際特許分類】
A61C 7/20 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
A61C7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021188033
(22)【出願日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】10 2020 214 587.3
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】521507176
【氏名又は名称】ディルク・ヴィーヒマン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ディルク・ヴィーヒマン
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052JJ09
(57)【要約】
【課題】大きな曲げの場合でも材料挙動の不利な変化が減少又は回避される、形状記憶材料から成る歯列矯正部材を変形させるための方法を提供する。
【解決手段】形状記憶材料から成る歯列矯正部材を初期形状から目標形状にプログラミングするための方法は、a)形状記憶材料から成る歯列矯正部材を初期形状において供給するステップ、b)歯列矯正部材のための目標焼き型を作製するステップ、c)歯列矯正部材を目標焼き型に挿入するステップ、d)歯列矯正部材を目標形状においてプログラミングするために歯列矯正部材を焼成するステップ、を含み、ステップa)の後に、e)歯列矯正部材のために少なくとも1つの暫定焼き型を作製するステップであって、暫定焼き型内では、歯列矯正部材が初期形状と目標形状との間の暫定形状を有するステップ、f)歯列矯正部材を暫定焼き型に挿入するステップ、g)歯列矯正部材を暫定焼き型内で焼成するステップ、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
形状記憶材料から成る歯列矯正部材を、前記歯列矯正部材の初期形状から出発し、前記歯列矯正部材のプログラミングされるべき目標形状にプログラミングするための方法であり、前記目標形状は、前記初期形状と比較して、少なくとも部分的に大きな曲げを有しており、
a)形状記憶材料から成る歯列矯正部材(1)を初期形状において供給するステップ、
b)前記歯列矯正部材(1)のための目標焼き型を作製するステップ、
c)前記歯列矯正部材(1)を前記目標焼き型に挿入するステップ、及び、
d)前記歯列矯正部材(1)を前記目標形状においてプログラミングするために、前記歯列矯正部材(1)を前記目標焼き型内で焼成するステップ、を含む方法において、
前記ステップa)の後に、
e)前記歯列矯正部材(1)のために、少なくとも1つの暫定焼き型を作製するステップであって、前記暫定焼き型内では、前記歯列矯正部材(1)が、前記初期形状と前記目標形状との間の暫定形状を有するステップ、
f)前記歯列矯正部材(1)を前記暫定焼き型に挿入するステップ、及び、
g)前記歯列矯正部材(1)を、前記暫定焼き型内で焼成するステップ、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
ステップ1a)では、前記歯列矯正部材(1)として、ブラケットのスロットに挿入するための歯列矯正ワイヤ、バネ、リンガルアーチとしてのワイヤ部分、又は、取り外し可能な装置の突起バネ、取り外し可能な装置の保持要素、又は、取り外し可能な装置のU字型金具が供給されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ1e)において、暫定焼き型が作製され、前記暫定焼き型を用いて、ステップ1f)及びステップ1g)が実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップ1e)において、第1の暫定焼き型が作製され、前記第1の暫定焼き型を用いて前記ステップ1f)及び前記ステップ1g)が実施され、かつ、第2の暫定焼き型が作製され、前記第2の暫定焼き型を用いて、続いて前記ステップ1f)及び前記ステップ1g)が実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ1e)において、第1の暫定焼き型が作製され、前記第1の暫定焼き型を用いて前記ステップ1f)及び前記ステップ1g)が実施され、かつ、第2の暫定焼き型が作製され、前記第2の暫定焼き型を用いて、続いて前記ステップ1f)及び前記ステップ1g)が実施され、かつ、第3の暫定焼き型が作製され、前記第3の暫定焼き型を用いて、続いて前記ステップ1f)及び前記ステップ1g)が実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
1つの暫定焼き型が用いられる場合、大きな曲げの半分は、前記暫定焼き型を用いて実施されること、2つの暫定焼き型が用いられる場合、前記第1の暫定焼き型も前記第2の暫定焼き型も用いて、それぞれ大きな曲げの3分の1が実施されること、及び、3つの暫定焼き型が用いられる場合、前記第1の暫定焼き型も前記第2の暫定焼き型も前記第3の暫定焼き型も用いて、それぞれ大きな曲げの4分の1が実施されることを特徴とする、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1つの暫定焼き型が用いられる場合、前記暫定焼き型を用いて大きな曲げの50%から90%が実施され、前記目標焼き型を用いて大きな曲げの50%から10%が実施されること、2つの暫定焼き型が用いられる場合、前記第1の暫定焼き型を用いて大きな曲げの20%から70%が、前記第2の暫定焼き型を用いて大きな曲げの20%から50%が、前記目標焼き型を用いて大きな曲げの10%から40%が実施されること、及び、3つの暫定焼き型が用いられる場合、前記第1の暫定焼き型を用いて大きな曲げの20%から70%が、前記第2の暫定焼き型を用いて大きな曲げの10%から40%が、前記第3の暫定焼き型を用いて大きな曲げの10%から40%が、前記目標焼き型を用いて大きな曲げの10%から40%が実施されること特徴とする、請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法に従ってプログラミングされた歯列矯正部材(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶材料から成る歯列矯正部材をプログラミングするための方法と、当該方法に従ってプログラミングされた歯列矯正部材と、に関する。
【背景技術】
【0002】
取り外し可能な装置を用いて患者に歯列矯正の治療を行うことは、位置異常が軽度の場合には有利であるが、治療が困難な場合には、しばしば固定式装置の使用が必要になる。取り外し可能な装置は一般的に、ブラケットと、部分的に歯列矯正ネジも設けられたステンレス鋼ワイヤから成る矯正要素と、を備えた、個別に研究室で作製されたプラスチックベースから構成されている。当該ブラケットを用いて、特に歯が斜めに生えている箇所、歯列弓の幅、及び、誤った位置決めをされている顎の位置が矯正される。
【0003】
取り外し可能な装置の歯列矯正部材は、バネ、リンガルアーチとしてのワイヤ部分、又は、突起バネ、保持要素、又は、U字型金具であってもよい。これらの要素は鋼から、特にステンレス鋼から形成され得る。しかしながら代替的に、当該要素は、形状記憶材料からも形成され得る。
【0004】
固定式ブラケットを用いて患者に歯列矯正治療を行う場合、治療の開始に際してしばしば、歯の「大体の」位置合わせを行うために、形状記憶材料から成る歯列矯正ワイヤがブラケットに挿入される。歯列矯正治療の終わり近くになって初めて、歯を可能な限り正確に所定の位置に動かすために、例えば鋼線が用いられる。
【0005】
患者の歯列矯正治療に関しては、歯を所定の方向に動かすために、歯列矯正部材によって、所定又は所望の力が、1つ又は複数の歯に加えられるように、歯列矯正部材を、歯科矯正医又は歯科技術研究室に供給される際の初期形状から、所望の目標形状に移行させることが必要である。
【0006】
1つ又は複数の歯に所望の力を加えるために、取り外し可能な装置のための、鋼から成るU字型金具又はリンガルアーチ等の歯列矯正部材を、ペンチを用いて、所望の目標形状に移行させることが知られている。
【0007】
これは、形状記憶材料から成る歯列矯正ワイヤの場合は機能しない。なぜなら、当該歯列矯正ワイヤは、変形の際に、従来の弾性的挙動を有さないからである。歯列矯正ワイヤを所望の目標形状に曲げるために、曲げ加工用ロボットを用いる方法も存在する。曲げ加工用ロボットは、歯列矯正ワイヤを曲げるために必要なデータを、歯科矯正医のプランニングソフトから獲得し、プランニングソフトには、患者の歯が、付属するブラケットと共にバーチャルに存在しており、所定の治療ステップに関して、歯列矯正アーチの延び具合が自動的に算出され、次に、曲げ加工用ロボットにエクスポートされる。
【0008】
最も重要な形状記憶材料として挙げられるのは、Cu-Zn-X(X:Si、Sn、Al)の合金と、NiTiの金属間化合物合金(ニッケルの含有量は約55重量%)と、であり、NiTi合金は、有利な特性を有しているので、技術的により大きな意義を獲得できている。
【0009】
形状記憶効果は、熱弾性マルテンサイト変態、可逆的な、格子面のせん断に起因する相変態に基づいている。オーステナイトと呼ばれる高温相を、合金固有のマルテンサイト開始温度より低い温度まで冷却することによって、鋼の場合のように、形状の変化及び不可逆的な塑性変形を伴わない相変態がもたらされる。
【0010】
形状記憶合金は、マルテンサイト状態において、容易に変形する。可逆的変形は、NiTiの場合、8%までになり得る。合金がマルテンサイト状態にある限りにおいて、当該変形は残存する。合金固有のオーステナイト開始温度より高い温度まで熱することによって、元の形状が復元する。
【0011】
形状記憶材料から成る歯列矯正部材を、目標形状にプログラミングするために、歯列矯正部材は、特別な焼き型の内で、所望の目標形状に移行し、当該形状記憶材料に固有の遷移温度にまで加熱される。次に、歯列矯正部材は再び冷却され、患者の歯列矯正装置に変形しながら挿入される。患者の口腔内で、歯列矯正部材は再び加熱され、その変形して復元しようとする目標形状を呼び出す。この変形の間、歯列矯正部材は、ブラケット又は歯に、ブラケット又は歯を所定の方向に動かすための力を加える。
【0012】
例えば遷移温度、プログラミングプロセスの長さ等の、歯列矯正部材のプログラミングに用いられるべきパラメータは、形状記憶材料に依存し、形状記憶材料又は歯列矯正部材の製造者によって決定され、例えば歯科矯正医又は歯科技術研究室等の利用者に、照会に応じて伝達される。
【0013】
形状記憶材料から成る歯列矯正部材が、初期形状から目標形状に曲げられ(及び、必要に応じてプログラミングされ)、初期形状から目標形状に移行するに際して(最大曲げ角度を超えて)、歯列矯正部材の大きな曲げが生じる場合、当該形状記憶材料は、大きな曲げの領域において塑性変形する、及び/又は、当該部分において壊れやすくなる。両方とも、当該部分における材料挙動を不利に変化させ、歯列矯正部材は、もはや歯列矯正装置において所望の力を及ぼすことができない。
【0014】
最大曲げ角度は、歯列矯正部材の様々なパラメータに依存する。すなわち、一方ではその幾何学的形状に、他方では歯列矯正部材を形成する形状記憶材料に依存する。しかしまた、最大曲げ角度は、例えば歯列矯正ワイヤ等の歯列矯正部材が曲げられるべき曲げ方向にも依存する。歯列矯正部材が例えば長方形の横断面を有する場合、歯列矯正部材が、長方形の狭い若しくは薄い側で曲げられるべきか、又は、広い若しくは厚い側で曲げられるべきかが違ってくる。
【0015】
本出願において、大きな曲げという概念は、弾性変形を超えた歯列矯正部材の曲げであると理解されるべきである。言い換えると、形状記憶材料から成る歯列矯正部材は、大きな曲げの領域において塑性変形が生じる、及び/又は、大きな曲げの領域において材料が壊れやすくなる程度に曲げられる。
【0016】
特許文献1は、形状記憶材料から成る歯列矯正ワイヤを、患者固有の装置、特に患者の歯に配置された固定式ブラケットに適切に挿入するために目標形状に変形させるための方法を開示している。この際、まず患者の該当する上顎又は下顎の患者固有の目標セットアップが作製される。次に、ブラケットが、目標セットアップにおいて、治療されるべき歯の上に配置される。それぞれの目標セットアップを上から見て、2次元の画像が作成され、例えば目標セットアップの上面図として写真が撮影される。この2次元の画像は、データ処理装置に読み込まれ、各ブラケットに関して、スロットの位置が識別される。このようにして得られたスロットの位置に関するデータは、データ処理装置からエクスポートされ、形状記憶材料から成る歯列矯正ワイヤのための焼き型が作製され、例えばアルミニウム板からフライス加工される。この際、エクスポートされたデータを用いて、焼成の間、ワイヤをスロットに対応する領域に保持するワイヤ固定部分が焼き型内に形成される。次に、プログラミングされるべき歯列矯正ワイヤが、歯列矯正ワイヤを目標形状においてプログラミングするために、焼き型に挿入され、焼成される。従って、歯列矯正ワイヤは、その初期形状から目標形状へ移行するように、ただ1つの方法ステップにおいてプログラミングされる。すなわち、直接その目標形状にプログラミングされる。これに対応して、各ワイヤに関して、ワイヤの直径及び変形/曲げの程度に依存して有効である物理的限界が、目標形状にプログラミングする際に考慮され、ワイヤのプログラミングの境界を形成する。
【0017】
特許文献2は、アライナを用いた位置異常の歯列矯正治療を出発点としている。顎の歯の現在位置と各顎の歯の付属する目標位置との間で、複数の暫定位置が算出される。次に、各暫定位置に関して、治療用レールが作製され、患者は、歯を現在位置から、各暫定位置を通って目標位置に動かすために、昇順に、各暫定位置に関して作製された治療用レールを装着する。特許文献3では、従来の複数の治療用レールは、唯一の治療用レールで代替されるべきである。この目的のために、当該発明によると唯一の、形状記憶ポリマーから成る治療用レールは、様々な温度において、例えば様々な暫定モデルへのイオン化ビームを用いて、暫定位置に対応するようにプログラミングされる。次に、患者は、この唯一の治療用レールを装着し、当該治療用レールは、各治療ステップの終わりに、各暫定位置に対応して、より高い温度に熱せられ、これによって、唯一の治療用レールの、ますます多くの結晶構造が破壊され、当該治療用レールは、次に続く治療ステップのために、最も近い暫定位置に対応してプログラミングされている。
【0018】
従って、特許文献2に記載の治療用レールのプログラミングは、目標位置におけるプログラミングで開始し、現在位置で終了する。つまり、治療の順序とは逆である。このプログラミングの逆の順序は、プログラミングの際に、形状記憶ポリマーの考慮すべき限界が存在しないゆえに可能である。
【0019】
つまり、目標形状への変形の際に歯列矯正ワイヤの物理的限界を考慮しなければならない特許文献1とは異なり、特許文献2では、治療用レールを直接目標形状においてプログラミングすることが可能である。なぜなら、形状記憶ポリマーは、物理的限界を知らないからであり、治療用レールの結晶構造は任意でプログラミング又は破壊され得るからである。
【0020】
特許文献2に記載された、形状記憶ポリマーをプログラミングするための方法は、金属から成る形状記憶材料に転用することはできない。一方では、当該方法はそれ自体、イオン化ビームに適していない。他方では、上述の方法では、治療用レールの形状記憶ポリマーの結晶構造が次第に破壊され、これによって、治療用レール自体が段階的に破壊される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0234794号明細書
【特許文献2】欧州特許第3370638号明細書
【特許文献3】欧州特許第2270638号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の課題は、形状記憶材料から成る歯列矯正部材を変形させるための方法について記載することにあり、当該方法では、大きな曲げの場合でも、材料挙動の不利な変化が減少又は回避される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によると、本課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決され、当該方法によって、独立請求項に記載の付属の歯列矯正部材がもたらされる。
【0024】
ステップ1a)では、歯列矯正部材として、ブラケットのスロットに挿入するための歯列矯正ワイヤ、バネ、リンガルアーチとしてのワイヤ部分、又は、取り外し可能な装置の突起バネ、取り外し可能な装置の保持要素、又は、取り外し可能な装置のU字型金具が供給され得る。第1の実施形態では、ステップ1e)において、暫定焼き型が作製され、暫定焼き型を用いて、ステップ1f)及びステップ1g)が実施される。
【0025】
第2の実施形態では、ステップ1e)において、第1の暫定焼き型が作製され、第1の暫定焼き型を用いてステップ1f)及びステップ1g)が実施され、第2の暫定焼き型が作製され、第2の暫定焼き型を用いて、続いてステップ1f)及びステップ1g)が実施される。
【0026】
第3の実施形態では、ステップ1e)において、第1の暫定焼き型が作製され、第1の暫定焼き型を用いてステップ1f)及びステップ1g)が実施され、第2の暫定焼き型が作製され、第2の暫定焼き型を用いて、続いてステップ1f)及びステップ1g)が実施され、第3の暫定焼き型が作製され、第3の焼き型を用いて、続いてステップ1f)及びステップ1g)が実施される。
【0027】
暫定焼き型が用いられる場合、好ましくは大きい曲げの半分は、暫定焼き型を用いて実施され、大きい曲げの残りの半分は、目標焼き型を用いて実施される。2つの暫定焼き型が用いられる場合、好ましくは、第1の暫定焼き型も第2の暫定焼き型も用いて、それぞれ大きな曲げの3分の1ずつが実施され、目標焼き型で、大きな曲げの3分の1が実施される。3つの暫定焼き型が用いられる場合、好ましくは、第1の暫定焼き型も第2の暫定焼き型も第3の暫定焼き型も用いて、それぞれ大きな曲げの4分の1ずつが実施され、目標焼き型で、大きな曲げの4分の1が実施される。
【0028】
異なる焼き型に大きな曲げを均等に分配する代わりに、大きな曲げを、異なる曲げの大きさにおいて、各焼き型に分配することが可能である。例えば、第1の暫定焼き型で、大きな曲げの大部分又は主要な部分を実施し、目標焼き型で、大きな曲げの比較的小さい、又は、主要でない部分を実施することが可能である。さらに、例えば第1の暫定焼き型で、大きな曲げの比較的小さい、又は、主要でない部分のみを実施し、目標焼き型で、大きな曲げの大部分又は主要な部分を実施することができる。
【0029】
1つの暫定焼き型のみを用いる場合、暫定焼き型で、好ましくは大きな曲げの50%から90%が実施され、目標焼き型で、大きな曲げの50%から10%が実施される。2つの暫定焼き型が用いられる場合、好ましくは、第1の暫定焼き型で大きな曲げの20%から70%が、第2の暫定焼き型で20%から50%が、目標焼き型で10%から40%が実施される。3つの暫定焼き型が用いられる場合、好ましくは、第1の暫定焼き型で大きな曲げの20%から70%が、第2の暫定焼き型で10%から40%が、第3の暫定焼き型で10%から40%が、目標焼き型で10%から40%が実施される。
【0030】
本発明のさらなる特徴、詳細及び利点は、請求項から、及び、好ましい実施形態に関する図面を用いた以下の説明から明らかになる。示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】a)、b)及びc)は、歯列矯正ワイヤを示す概略的な図である。
【
図2】a)、b)及びc)は、第1の実施形態における本発明に係る方法の異なる方法ステップにおける歯列矯正ワイヤを示す概略的な図である。
【
図3】a)、b)、c)及びd)は、第2の実施形態における本発明に係る方法の異なる方法ステップにおける歯列矯正ワイヤを示す概略的な図である。
【
図4】a)、b)、c)及びd)は、第3の実施形態における本発明に係る方法の異なる方法ステップにおける歯列矯正ワイヤを示す概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1a)は、歯列矯正の診療所又は歯科技術研究室に存在する状態の歯列矯正ワイヤ1を、概略的に示している。当該歯列矯正ワイヤは、その初期形状で図示されている。すなわち、当該歯列矯正ワイヤは、直線として、又は、真っすぐに形成されており、歯列矯正ワイヤに典型的な長さ及び横断面を有している。歯列矯正ワイヤ1は、形状記憶材料から形成されている。
【0033】
歯列矯正ワイヤは、取り外し可能な装置で歯列矯正部材として用いられるように、例えばリンガルアーチ、突起バネ、保持要素又はU字型金具として用いられるように定められている。
【0034】
この目的のために、
図1a)に示した初期形状から出発して、歯列矯正ワイヤ1には、歯列矯正ワイヤ1を患者の取り外し可能な装置に患者に合わせて挿入するために、曲げが設けられ、歯列矯正ワイヤ1は、予め所定の目標形状にプログラミングされる。
【0035】
歯列矯正ワイヤ1の焼成のために必要なプロセスパラメータは、典型的には、歯列矯正ワイヤ1の製造者及び/又は供給者によって、照会に応じて提供される。
【0036】
歯列矯正ワイヤ1を目標形状にプログラミングするために、以下のステップが実施される。すなわち、歯列矯正ワイヤのための目標焼き型を作製するステップ、歯列矯正ワイヤを目標焼き型に挿入するステップ、及び、歯列矯正ワイヤを目標形状においてプログラミングするために歯列矯正ワイヤを目標焼き型内で焼成するステップ、である。
【0037】
図1b)は、
図1a)の歯列矯正ワイヤ1を概略的に示しており、歯列矯正ワイヤ1は、歯列矯正ワイヤ1の第1の部分11と第2の部分12との間に、曲げ1Bを有している。曲げ1Bは、90°の曲げとして形成されている。
【0038】
図1c)は、
図1a)の歯列矯正ワイヤ1を概略的に示しており、歯列矯正ワイヤ1は、歯列矯正ワイヤ1の第1の部分11と第2の部分12との間に、曲げ1Bを有している。曲げ1Bは、180°の曲げとして形成されている。
【0039】
図1b)及び
図1c)は、歯列矯正ワイヤの90°又は180°の曲げ1Bを示しており、曲げ1Bは、大部分の歯列矯正ワイヤにとって、大きな曲げである。
【0040】
図1b)及び
図1c)の歯列矯正ワイヤ1は、図示された形状では、自明のことながら、患者の歯列矯正装置に挿入するためには適していない。しかしながら、この曲げ1Bのみを伴う歯列矯正ワイヤ1の簡略化した図は、本発明の原則を説明するためには十分である。なぜなら、自明のことながら、複数の曲げ1B及び異なる角度の曲げ1Bが、患者の固定式ブラケットに関して必要となるような目標形状に歯列矯正ワイヤ1を移行させるために、歯列矯正ワイヤ1において設けられ得るからである。
【0041】
以下において、
図2を参照して、本発明に係る方法の第1の実施形態について記載する。
【0042】
図2a)は、歯列矯正ワイヤ1を、その製造者によって供給される初期形状において示している。歯列矯正ワイヤ1は、例えば取り外し可能な装置でリンガルアーチとして用いられるために、90°の曲げを有する目標形状に移行すべきであり、このためには、自明のことながら、さらなる曲げが必要であり得る。歯列矯正ワイヤ1の単相プログラミングの場合、歯列矯正ワイヤ1は、目標形状に直接移行する際に塑性変形する。治療する歯科矯正医又は歯科技術研究室の曲げに関する実験は、実験室で行われたものであり、60°以上の曲げで、曲げの領域におけるワイヤ1の塑性変形が生じる。
【0043】
図2a)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない暫定焼き型に挿入され、暫定焼き型内で焼成された後、冷却される。
【0044】
このステップの結果は、
図2b)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、45°の曲げ1Bを有している。
【0045】
図2b)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない目標焼き型に挿入され、目標焼き型内で焼成された後、冷却される。このステップの結果は、
図2c)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、90°の曲げ1Bを有している。
【0046】
1つのステップでの歯列矯正ワイヤ1の、
図2a)の初期形状における0°から
図2c)の目標形状における90°への大きな曲げを回避するために、歯列矯正ワイヤ1には、暫定焼き型内で、
図2b)が示すように45°の曲げが設けられ、目標焼き型を用いて、
図2b)の当該形状からようやく、
図2c)の目標形状に移行する。このような方法で、90°の大きな曲げは回避された。
【0047】
図3を参照して、本発明に係る方法の第2の実施形態について記載する。
【0048】
図3a)は、歯列矯正ワイヤ1を、その製造者によって供給される初期形状において示している。歯列矯正ワイヤ1は、例えば取り外し可能な装置でU字型金具として用いられるために、180°の曲げを有する目標形状に移行すべきであり、このためには、自明のことながら、さらなる曲げが必要であり得る。歯列矯正ワイヤ1の単相プログラミングの場合、歯列矯正ワイヤ1は、目標形状に直接移行する際に塑性変形する。治療する歯科矯正医又は歯科技術研究室の曲げに関する実験は、実験室で行われたものであり、80°以上の曲げで、曲げの領域におけるワイヤ1の塑性変形が生じる。
【0049】
図3a)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない暫定焼き型に挿入され、暫定焼き型内で焼成された後、冷却される。
【0050】
このステップの結果は、
図3b)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、60°の曲げ1Bを有している。
【0051】
図3b)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていないさらなる暫定焼き型に挿入され、当該暫定焼き型内で焼成された後、冷却される。このステップの結果は、
図3c)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、120°の曲げ1Bを有している。
【0052】
図3c)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない目標焼き型に挿入され、目標焼き型内で焼成された後、冷却される。このステップの結果は、
図3d)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、180°の曲げ1Bを有している。
【0053】
1つのステップでの歯列矯正ワイヤ1の、
図3a)の初期形状における0°から
図3d)の目標形状における180°への大きな曲げを回避するために、歯列矯正ワイヤ1には、第1の暫定焼き型内で、
図3b)が示すように60°の曲げが設けられ、第2の暫定焼き型内で、
図3c)が示すように120°までのさらなる60°の曲げが設けられ、目標焼き型を用いて、
図3c)の当該形状からようやく、
図3d)の目標形状に移行する。当該実施形態では、合計で180°の曲げが、それぞれ60°の3つの曲げに均等に分配される。
【0054】
図4を参照して、本発明に係る方法の第3の実施形態について記載する。
【0055】
図4a)は、歯列矯正ワイヤ1を、その製造者によって供給される初期形状において示している。歯列矯正ワイヤ1は、例えば取り外し可能な装置で保持要素として用いられるために、135°の曲げを有する目標形状に移行すべきであり、このためには、自明のことながら、さらなる曲げが必要であり得る。歯列矯正ワイヤ1の単相プログラミングの場合、歯列矯正ワイヤ1は、目標形状に直接移行する際に塑性変形する。治療する歯科矯正医又は歯科技術研究室の曲げに関する実験は、実験室で行われたものであり、70°以上の曲げで、曲げの領域におけるワイヤ1の塑性変形が生じる。
【0056】
図4a)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない暫定焼き型に挿入され、暫定焼き型内で焼成された後、冷却される。
【0057】
このステップの結果は、
図4b)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、60°の曲げ1Bを有している。
【0058】
図4b)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていないさらなる暫定焼き型に挿入され、暫定焼き型内で焼成された後、冷却される。
【0059】
このステップの結果は、
図4c)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、110°の曲げ1Bを有している。
【0060】
図4c)の歯列矯正ワイヤ1は、次のステップにおいて、図示されていない目標焼き型に挿入され、目標焼き型内で焼成された後、冷却される。
【0061】
このステップの結果は、
図4d)に示されている。歯列矯正ワイヤ1は、第1の部分11と第2の部分12との間に、135°の曲げ1Bを有している。
【0062】
1つのステップでの歯列矯正ワイヤ1の、
図4a)の初期形状における0°から
図4d)の目標形状における135°への大きな曲げを回避するために、歯列矯正ワイヤ1には、第1の暫定焼き型内で、
図4b)が示すように60°の曲げが設けられ、第2の暫定焼き型内で、
図4c)が示すように110°までのさらなる50°の曲げが設けられ、目標焼き型を用いて、
図4c)の当該形状からようやく、
図4d)の目標形状に移行する。当該実施形態では、合計で135°の曲げが、不均等に、各焼き型において、60°、50°及び25°の3つの曲げに分配される。
【符号の説明】
【0063】
1 歯列矯正ワイヤ
11 歯列矯正ワイヤの第1の部分
12 歯列矯正ワイヤの第2の部分
1B 曲げ
【外国語明細書】