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特開2022-81527癌を処置するための、化学療法及び放射線療法を伴う二極性トランスカロテノイドの使用
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  • 特開-癌を処置するための、化学療法及び放射線療法を伴う二極性トランスカロテノイドの使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081527
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】癌を処置するための、化学療法及び放射線療法を伴う二極性トランスカロテノイドの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20220524BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 33/24 20190101ALI20220524BHJP
   A61K 33/243 20190101ALI20220524BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220524BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20220524BHJP
   A61N 5/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K9/19
A61K31/337
A61K31/4188
A61K31/635
A61K31/704
A61K31/7068
A61K33/24
A61K33/243
A61K45/00
A61K47/40
A61K47/69
A61N5/00
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022026911
(22)【出願日】2022-02-24
(62)【分割の表示】P 2018549477の分割
【原出願日】2017-03-23
(31)【優先権主張番号】62/312,988
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504322138
【氏名又は名称】ディフュージョン・ファーマシューティカルズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ゲイナー, ジョン エル.
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、化学療法剤及び/又は放射線療法を含む化合物及び組成物、並びに膵臓癌及び脳癌を含む様々な癌を処置するためのそのような化合物の使用に関する。
【解決手段】哺乳動物における癌を処置する方法であって、特定の構造を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、および放射線療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記放射線を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における癌を処置する方法であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に放射線療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記放射線を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法。
【請求項2】
二極性トランスカロテノイドが、前記放射線療法の施行に45~60分先行して0.15~0.35mg/kgの用量で投与されるTSCである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二極性トランスカロテノイドが、0.25mg/kgの用量で投与されるTSCである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記放射線療法が外部ビーム放射線療法である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記放射線療法が、週に5回、6週間施行される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物に化学療法を施行するステップをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
化学療法を施行する前記ステップが、テモゾロミドを週に7回、6週間投与するステップである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記化学療法が、前記放射線療法の後で施行される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記癌が脳癌である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記脳癌が多形性膠芽細胞腫である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物における癌を処置する方法であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、及び
b)哺乳動物に化学療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記化学療法を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法。
【請求項12】
二極性トランスカロテノイドが、前記化学療法の施行に1~2時間先行して0.75~2.0mg/kgの用量で投与されるTSCである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が固形腫瘍である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
癌が、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頸部癌、婦人科癌、泌尿器科及び男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨癌、内分泌腺の癌(例えば、膵臓癌)、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌並びに肺癌からなる群から選択される、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
癌が膵臓癌である、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記化学療法が、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び微小管阻害剤からなる群から選択される、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記化学療法が、テモゾロミド、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、nab-パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル及びイリノテカンリポソームからなる群から選択される1つ又は複数の化合物である、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記化学療法が、ゲムシタビン、イリノテカン及びセレコキシブから選択される1つ又は複数の化合物である、請求項11~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記化学療法が、ゲムシタビン及びnab-パクリタキセルの一方又は両方である、請求項11~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記化学療法がゲムシタビンである、請求項11~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記二極性トランスカロテノイドを投与するステップが、前記化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与するステップであり、前記化学療法を施行するステップが、ゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである、請求項11~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記二極性トランスカロテノイドを投与するステップが、前記化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与するステップであり、前記化学療法を施行するステップが、nab-パクリタキセルをIV注入として、続いてゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである、請求項11~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
TSCである二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの組成物の形態である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
TSCである二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの凍結乾燥組成物の形態である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001]本出願は、その内容全体が参照により組み込まれる、2016年3月24日に出願された米国特許仮出願第62/312,988号に対する優先権を主張する。
【0002】
[002]本開示は、脳癌及び膵臓癌を含む癌を処置するための、化学療法及び/又は放射線療法を伴う二極性トランスカロテノイドの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
[003]人体では、組織への酸素の十分な供給は肺で始まり、そこではガス交換が発生し、酸素が血流に入る一方で、二酸化炭素が血流から流出して吐き出される。ガス交換のプロセスは、高濃度の領域から低濃度の領域へと分子が移動する拡散を経由して発生する。酸素が血流に入ると、酸素は、血漿を介して拡散し、次いで、赤血球に入るはずであり、そこで、酸素はヘモグロビンに結合する。次いで、酸素は、血流を介して運搬され、酸素濃度が低い体の領域に入ると、酸素は赤血球から離れ、その結果、血漿及び毛細血管壁を介して再度拡散して、組織に入ることができる。次いで、酸素は、ミトコンドリアに入り、そこでは、酸素が代謝の目的に用いられる。
【0004】
[004]酸素の全身移動に関する上記のステップのそれぞれにより、いくつかの形態の耐性が生じ、血漿を介した拡散は、酸素の全身移動における事実上の「律速」ステップであり、このステップが、全耐性の70~90%を占める。したがって、血漿を介した酸素の移動を増加できれば、この経路をいつでも通り抜けでき、低酸素の組織、例えば腫瘍を含む体内の様々な組織中に進入できる酸素の量を増加させることが可能と考えられる。
【0005】
[005]拡散のプロセスは、血漿を介した酸素拡散の速度が、1)血漿の粘度;2)酸素の濃度勾配;及び3)拡散係数として公知の(拡散率としても公知の)比例定数に依存すると述べたFickの法則に従っている。したがって、酸素の拡散を増加させるために潜在的に変更させることができるのは3つの要因である。
【0006】
[006]血漿の粘度は、動脈の解剖学的構造によって設定され、したがって、容易には変更されない。酸素の濃度勾配は、患者が呼吸する酸素の百分率(空気は21%が酸素である)の増大により、又はヘモグロビン様分子の血流内への添加を介して変更させることができる。
【0007】
[007]トランスクロセチンナトリウム(TSC)及び他の二極性トランスカロテノイドは、血漿(90%が水で構成されている)における水分子の分子配置を変更させると考えられ、変更された構造は、未処理の血漿よりも密度が低い。水は、2個の水素原子及び1個の酸素原子で構成され、水素原子で見出される正味の正電荷、及び酸素原子で見出される正味の負電荷を有する。これにより水素結合が形成され、水素結合は、簡潔には、一方の水分子の正味の負に荷電した酸素と、別の水分子の正味の正に荷電した水素原子の間における引力である。理論的には、1個の水分子は、隣接する水分子と4個の水素結合を形成し得る。しかし、文献では、水分子は、実際には、平均で2~3.6個の水素結合を形成することが指し示されている。
【0008】
腫瘍の低酸素症
[008]低酸素症は、酸素の十分な供給が不足することである。腫瘍が、低酸素症の発症に特異的に感受性があり、低酸素症は、迅速な増殖、腫瘍の微小血管の構造的異常、及び腫瘍内における乱れた循環の組合せにより起きることは、50年を優に超えて公知である。
・電離放射線への耐性の増加
・臨床的により侵攻性の表現型
・より侵襲的増殖の見込みの増大
・局所及び遠位の腫瘍の広がりの増加
を含む、腫瘍の低酸素症への影響がいくつか存在する。
【0009】
トランスクロセチンナトリウムにより低酸素腫瘍の酸素添加が増加する
[009]最初は、出血性ショック及び虚血を処置するために研究されていたが、腫瘍の酸素添加を増加させる作用剤としてのTSCの使用も研究されている。腫瘍の低酸素症は、いくつかの固形腫瘍において、放射線法及び化学療法の両方に対する耐性の最多の原因である。
【0010】
多形性膠芽細胞腫
[0010]多形性膠芽細胞腫(GBM)は、いくつかの望ましくない特質を有する不均一な細胞集団を特徴とするグレードIVの脳腫瘍である。GBM細胞は、典型的には、遺伝的に不安定(したがって変異しがちである)であり、高度に浸潤性であり、血管形成性であり、化学療法に耐性である。GBMで典型的に見出される変異は、腫瘍を増殖させ、低酸素環境において発育させる。変異の活性化及び腫瘍抑制遺伝子の欠失の両方により、疾患の性質を処置するのが高度に複雑になり、困難にする。例えば、GBM腫瘍のおよそ50%は、上皮増殖因子受容体(EGFR)を増幅させ、次いで、PI3Kシグナル伝達経路の活性化を誘導し得る。
【0011】
[0011]GBMは、臨床的性質、並びに、各分類に特有の染色体及び遺伝的変更に応じて、2つの主要なサブクラス(原発性又は続発性)に分類される。原発性GBMは、正常なグリア細胞から新たに生じ、典型的には、年齢40歳を超えた者において発生する一方、続発性GBMは、グレードが低い腫瘍の変換から生じ、通常、若い患者で見られる)。原発性GBMは、すべてのGBMのおよそ95%を占めると考えられている。
【0012】
[0012]GBMは、グリア細胞に関わる原発性脳腫瘍の最も一般的な形態である一方、2014年には、米国においておよそ24,000人が何らかの形態の悪性脳癌と診断され、依然として比較的稀である。神経膠腫は、悪性脳癌のおよそ80%を占め、GBMは、神経膠腫のおよそ45%を占める。GBM診断の年齢中央値はおよそ65歳であり、65歳を超える者におけるGBMの発生率は、1970年代の100,000人に5.1人から、1990年代の100,000人に10.6人に発生率が倍増していることで示されているように、急速に増大している。この疾患を有すると診断された者の予後はきわめて厳しく、未処置患者の生存期間の中央値がわずか4.5ヶ月である。現在の標準治療の処置では、診断後の生存期間はわずか12~14ヶ月である。
現在のGBM処置
【0013】
[0013]GBM腫瘍の標準治療は、腫瘍の位置が脳の生命中枢に近いため腫瘍が手術不可能と判断されない限り、必ず腫瘍の手術切除で始まる。これは、疾患に関連する症状を緩和するため、並びに任意の残存腫瘍細胞の処置を促進するためのいずれにも行われる。手術手技における発展があっても、腫瘍は高度に浸潤性であり、典型的には正常な脳実質に拡大するため、腫瘍を完全に除去して、端部を一切残さないのはほぼ不可能である。このため、ほぼすべてのGBM患者が腫瘍の再発を示し、90%が原発部位で発生する。
【0014】
[0014]腫瘍の侵襲的性質のため、手術切除に、化学療法剤の使用と併せた放射線療法が続く。放射線療法は、脳全体への照射の施行を伴う。ニトロソウレアは、数十年間使用されている最も一般的な化学療法剤であったが、1999年にテモゾロミド(TMZ)が、利用できるようになり、現在、標準治療の一部である。これは、手術及び放射線にTMZを加えることで、新しく診断されたGBM患者の生存率中央値が、手術及び放射線のみの群での12.1ヶ月と比較して、14.6ヶ月へと延長したことを、臨床トライアルが示したためである。
【0015】
[0015]大半の化学療法用薬物は、血液脳関門(BBB)を通過する能力が制限されており、したがって、この制限を解決する方略は、手術切除後に腫瘍床に置くことができる、溶ける化学療法ウエハ(グリアデル(Gliadel)(登録商標))の開発であった。グリアデル(登録商標)は、ニトロソウレアである化学療法剤のカルムスチンを含有するが、半減期がきわめて短い全身投与されるカルムスチンと対照的に、数週間放出される。グリアデル(登録商標)ウエハは、安全であることが示されたが、薬物を放射線及びTMZに加えても、生存率の統計的に有意な増大を引き起こさなかった。
【0016】
[0016]GBM腫瘍は、VEGF発現の増加を示し、再発性GBMを処置するためのベバシズマブは、FDAにより承認を受けている。再発性GBMを有する患者におけるベバシズマブ処置は、6ヶ月無増悪生存率を過去の9~15%から25%に増大させ、6ヶ月全生存率は54%であったことが第2相研究により見出された。低い用量だが、高い頻度で、ベバシズマブで処置された再発性GBM患者は、6ヶ月無増悪生存率がよりいっそう高い42.6%となったことを、別の第2相研究が示した。
【0017】
[0017]ベバシズマブは、再発性GBMに関しては成功したことを示しているが、別個の臨床トライアル2件により、放射線、TMZ及びベバシズマブで処置した患者における全生存期間が、放射線及びTMZのみで処置した患者と比較して差がないと示されたので、新しく診断された患者では用いられない。ベバシズマブ処置は、いずれの研究でも無増悪生存率における増大を引き起こさなかった;しかし、無増悪生存率における効果が、全生存期間の増大に転換しなかった理由は不明である。さらに、ベバシズマブで処置した患者は、症状の負荷の増大、クオリティオブライフの悪化、及び神経認知機能の減退を示したことが報告された。
【0018】
膵臓癌
[0018]2016年、米国にておよそ49,000人が膵臓癌と診断されるであろうと推定されている。これらの患者の半分超は、転移性疾患と診断されるであろう。膵臓癌を有する患者の5年生存率は低く(<14%)、転移性疾患を有する者では特に悪い(約1%)。
【0019】
[0019]膵臓癌は、男女両方におけるすべての癌による死亡のうち7%を占め、米国における癌による死亡のうち4番目に多い原因となる。膵臓癌のケースのうち40%が本質的に散発性であり、30%が喫煙に関連し、20%が食事要因に関与し得、遺伝性は5~10%に過ぎないことが、推定から指し示される。
【0020】
[0020]膵臓癌は、早期のステージで診断することが困難である。この理由は、疾患の初期症状は、本質的に非特異的且つ潜行性であることが多く、食欲不振、不快感、悪心、疲労及び背痛を含むためである。すべての膵臓癌のおよそ75%は、膵頭部又は膵頸部内に発生し、15~20%は、膵体部に発生し、5~10%は、膵尾部に発生する。
【0021】
[0021]膵臓癌に対する唯一の有望な根治的治療は、完全手術切除である。残念ながら、これは、およそ20%のケースでしか実行できず、癌が手術で切除される患者でさえ80%は、手術後2~3年以内に転移性疾患を発症する。切除できない膵臓癌を有する患者は、10~14ヶ月の全生存期間中央値を有する一方、ステージIVの疾患(転移を示す)と診断された患者の5年全生存期間は、わずか1%である。
【0022】
[0022]膵臓癌は、複数の研究結果により示されているように、高度に低酸素である。ヒト膵臓腫瘍における、手術に先行した酸素添加の直接測定について報告している研究は、腫瘍と正常な組織の間で劇的な差を示した。酸素分圧(pO2)は、腫瘍では0~5.3mmHgの間の範囲であったが、隣接した正常な組織では、酸素分圧は、9.3~92.7mmHgの範囲であった。低酸素領域は、膵臓癌のマウスモデルに由来する組織の試験を行う場合にも、頻繁に見出される。
【0023】
[0023]膵臓の外分泌細胞及び内分泌細胞は、異なるタイプの腫瘍を形成する。膵臓の外分泌癌と内分泌癌を区別することは、きわめて重要である。これらは、独特な危険因子及び原因を有し、異なる兆候及び症状を有し、異なる試験を使用して診断され、異なる手段で処置され、異なる見通しを有する。
【0024】
外分泌腫瘍
[0024]外分泌腫瘍は、間違いなく最も一般的なタイプの膵臓癌である。膵臓癌を有するという場合、通常、外分泌膵臓癌を意味する。
【0025】
膵臓腺癌
[0025]腺癌は、腺細胞において開始する癌である。外分泌膵臓癌の約95%は腺癌である。これらの癌は、通常、膵管において始まる。しかし、これらの癌は、膵臓酵素を作る細胞から発症することがあり、そのケースでは、癌は、腺房細胞癌と呼ばれる。
【0026】
一般的ではないタイプの癌
[0026]他の外分泌膵臓癌は、腺扁平上皮癌、扁平上皮癌、印環細胞癌、未分化癌及び巨細胞を有する未分化癌を含む。これらのタイプは、顕微鏡下でどのように見えるかに基づいて、互いに区別される。
【0027】
固形偽乳頭状新生物(SPN)
[0027]これらは、稀な増殖の遅い腫瘍であり、ほぼ必ず若い女性において発生する。これらの腫瘍は、遅く増殖する傾向があるにも関わらず、これらの腫瘍は体の他の部分に広がり得ることがあるので、これらの腫瘍は手術で処置されるのが最適である。これらの腫瘍を有する人々では、見通しは、通常、きわめて良好である。
【0028】
膨大部癌(ファーター膨大部癌)
[0028]この癌は、胆管及び膵管が一体になり、小腸へと入る場所であるファーター膨大部において開始する。膨大部癌は、厳密には膵臓癌ではないが、これらは、その処置がきわめて類似しているため、本文書では含まれる。
【0029】
[0029]膨大部癌は、胆管を遮ることが多いが、膨大部癌は、やはり小さく、遠くへは広がっていない。この閉塞は、体内に胆汁の蓄積を引き起こし、蓄積により、皮膚及び眼の黄ばみ(黄疸)が引き起こされ、尿の色は濃くなる。このため、これらの癌は、通常、大半の膵臓癌よりも早期のステージで見出され、これらの癌は、通常、典型的な膵臓癌よりも予後(見通し)が良好である。
【0030】
内分泌腫瘍
[0030]内分泌膵臓腫瘍は、一般的ではなく、すべての膵臓癌の4%未満を構成する。内分泌膵臓腫瘍は、グループとしては、膵臓の神経内分泌腫瘍(NET)又は島細胞腫瘍として公知なことがある。
【0031】
[0031]膵臓のNETは、良性(癌)であっても悪性(癌)であってもよい。良性腫瘍及び悪性腫瘍は、顕微鏡下で似て見えることがあるので、膵臓のNETが癌であるか否かは必ずしも明らかにならない。腫瘍が膵臓の外側に広がる場合しか診断で明らかにならないことがある。膵臓のNETには多くのタイプが存在する。
【0032】
機能性腫瘍
[0032]膵臓のNETの約半分は、血液中に放出され、症状を引き起こすホルモンを作る。これらは、機能性腫瘍と呼ばれる。各腫瘍は、ホルモンを作る細胞のタイプにちなんで名付けられ、腫瘍は、その細胞において開始する。
・ガストリノーマは、ガストリンを作る細胞に由来する。ガストリノーマの約半分は癌である。
・インスリノーマは、インスリンを作る細胞に由来する。大半のインスリノーマは良性である(癌ではない)。
・グルカゴノーマは、グルカゴンを作る細胞に由来する。大半のグルカゴノーマは癌である。
・ソマトスタチノーマは、ソマトスタチンを作る細胞に由来する。大半のソマトスタチノーマは癌である。
・VIPomaは、血管作動性腸管ペプチド(VIP)を作る細胞に由来する。大半のVIPomaは癌である。
・PPomaは、膵臓ポリペプチドを作る細胞に由来する。大半のPPomaは癌である。
【0033】
[0033]機能性NETの最も一般的なタイプは、ガストリノーマ及びインスリノーマである。他のタイプは、きわめて稀に発生する。
【0034】
非機能性腫瘍
[0034]これらの腫瘍は、症状を引き起こすほど十分過剰にはホルモンを作らない。非機能性腫瘍は、機能性腫瘍より癌になりやすい。非機能性腫瘍は、症状を引き起こす過剰なホルモンを作らないので、非機能性腫瘍は、それらが見出される前にかなりの大きさに増殖できることが多い。
【0035】
カルチノイド腫瘍
[0035]カルチノイド腫瘍は、膵臓において稀に開始することがあるNETの別のタイプであるが、カルチノイド腫瘍は、消化器系の他の部分においては、はるかに一般的である。これらの腫瘍は、セロトニン(5-HTとも呼ばれる)、又はその前駆体5-HTPを作ることが多い。
【0036】
[0036]膵臓のNETに対する処置及び見通しは、特定の腫瘍型及び腫瘍のステージ(程度)によって決まるが、見通しは、一般的に、膵外分泌癌のものよりも良好である。
【0037】
膵臓癌に対する現在の処置の選択肢
[0037]手術は、膵臓癌を有する患者を処置するための主な様式であり続けている。しかし、アジュバント(再発を防止するために与えられる)又はネオアジュバント(腫瘍を小さくして完全切除の見込みをさらに高めるために手術前に与えられる)の設定では、並びに切除できない疾患を有する患者では、化学療法及び/又は放射線療法には重要な役割がある。
【0038】
[0038]1996年のその承認以来、ゲムシタビンは、転移性膵臓癌を有する患者の処置におけるゲムシタビン単独の有効性を改善しようとする際に、後期臨床トライアルにおいて、およそ30種の様々な作用剤と連携されてきた。これらのトライアルのうちの2種のみ、エルロチニブ(タルセバ(Tarceva)(登録商標))及びnab-パクリタキセル(アブラキサン(Abraxane)(登録商標))でFDAの承認が得られた。
【0039】
[0039]転移性疾患を有する患者において、エルロチニブとゲムシタビンの使用により、ゲムシタビン単独の使用より有意に高い1年生存率が得られ(23%対17%、P=0.023)、また、全生存期間中央値も増大した(6.24ヶ月対5.91ヶ月、P=0.038)。より最近の研究では、ナノ粒子アルブミン結合(nab)-パクリタキセルをゲムシタビンに添加すると、併用療法で処置した患者における全生存期間はおよそ2ヶ月長かったので(8.5ヶ月対6.7ヶ月)、転移癌を有する処置ナイーブ患者における全生存期間が有意に改善されると示された。
【0040】
[0040]Folfirinox(ロイコボリン+5-フルオロウラシル+オキサリプラチン+イリノテカン)レジメンは、ゲムシタビンを用いた処置と比較して、全生存期間を有意に改善すると示された(11.1ヶ月対6.8ヶ月)。全生存期間を劇的に改善する一方で、Folfirinox処置は、重篤な有害事象を伴っており、したがって、良好な一般状態を有する患者に対してのみ推奨される。
【0041】
[0041]第3相トライアルで試験したゲムシタビンとシスプラチン、オキサリプラチン、イリノテカン又はドセタキセルの他の組合せは、ゲムシタビン単独の利益を上回らなかった。nab-パクリタキセル及びゲムシタビンの併用療法は、未処置の膵臓腺癌を有する患者を処置するための追加の標準治療として、最近FDAの承認を受けた。しかし、clinicaltrials.gov.によれば、現時点で、臨床的開発の全段階において92種の製品、第3相においてそのうち14種に対して、改善は控えめであり、膵臓癌の処置は、調査が盛んな分野であり続けている。
【0042】
[0042]ごく最近、FDAは、以前にゲムシタビン系化学療法で処置された、転移性膵臓癌を有する患者を処置するための、フルオロウラシル及びロイコボリンと組み合わせたオニビデ(Onivyde)(登録商標)(イリノテカンリポソーム注射)を承認した。きわめて重要な臨床トライアルでは、オニビデ(登録商標)に加えてフルオロウラシル/ロイコボリンで処置した患者は、フルオロウラシル/ロイコボリンのみで処置した患者の4.2ヶ月と比較して、平均6.1ヶ月生きた。
【0043】
脳転移
[0043]比較的稀な原発性脳癌と対照的に、脳に転移する致死的な癌は、はるかに一般的であり、多くの癌タイプの処置において、重篤な合併症を表す。成人癌患者の30%までが脳転移をきたす。米国では、転移性脳癌のケースは、毎年およそ170,000件存在する。脳転移の発生率は、原発腫瘍のタイプに応じて変動するが、肺癌は、最大の危険性を抱えると考えられる。脳転移を有する患者に対する予後は、きわめて厳しく、現在の処置の選択肢では、全生存期間中央値は1年未満にしかならない。
【0044】
[0044]脳転移に対する処置は、状態に関連する症状の管理、並びに癌の直接的な攻撃の両方に関与する。脳転移は、典型的には、ステロイドの使用で管理できる浮腫を引き起こす;しかし、長期間にわたるステロイドの使用は、典型的には、患者のクオリティオブライフを大幅に下げる副作用を引き起こす。患者のおよそ25~45%は、発作を経験し、抗てんかん薬の使用を必要とする。手術は、孤立性の脳転移性病変を有する患者のみに用いられる。放射線療法は、脳転移を有する患者の圧倒的多数で、標準治療であり続けている。化学療法を使用するための証拠は、臨床トライアルがほとんど実施されていないため、ごく限られている。脳転移の処置に関して承認された薬物は存在しない。
【0045】
化学療法
[0045]化学療法薬は、それらが作動する仕方、それらの化学構造、及び他の薬物に対するそれらの関係により群分けできる。一部の薬物は、1つ超の経路で作動し、1つ超の群に属し得る。薬物が作動する仕方を知ることは、薬物からの副作用を予測する際に重要である。この予測は、どの薬物が相性よく作動しやすいかを医師が決断する助けとなる。1つ超の薬物が使用される場合、この情報は、それぞれの薬物がいつ与えられるべきか、医師が正確にプランを立てる助けにもなる(どの順序か、及びどのくらいの頻度か)。
【0046】
アルキル化剤
[0046]アルキル化剤は、細胞のDNAを損傷することで、細胞が複製されないようにする。これらの薬物は、細胞周期のすべての相で作動し、肺癌、乳癌及び卵巣癌、並びに白血病、リンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫及び肉腫を含む多くの異なる癌を処置するために使用される。
【0047】
[0047]これらの薬物は、DNAを損傷するため、これらの薬物は、新たな血液細胞を作る骨髄の細胞に影響を与えることがある。稀なケースでは、このことは白血病を引き起こすことがある。アルキル化剤による白血病の危険性は、「用量依存的」であり、これは、低用量では危険性が低いが、使用される薬物の全量が多くなるにつれて危険性が高まることを意味する。アルキル化剤摂取後の白血病の危険性は、処置後約5~10年で最高になる。
【0048】
代謝拮抗薬
[0048]代謝拮抗薬は、RNA及びDNAの正常な構成成分を置き換えることにより、DNA及びRNA増殖に干渉する。これらの作用剤は、細胞の染色体がコピーされる相の間、細胞を損傷する。これらの作用剤は、一般的に、白血病、乳癌、卵巣癌及び腸管癌、並びに他のタイプの癌を処置するために使用される。
【0049】
抗腫瘍性抗生物質
[0049]これらの薬物は、感染症を処置するために使用される抗生物質とは違う。抗腫瘍性抗生物質は、癌細胞内部のDNAを変化させて、癌細胞を増殖及び増加しないようにすることにより作動する。
【0050】
トポイソメラーゼ阻害剤
[0050]これらの薬物は、DNAの鎖の分離を、コピーできるように助けるトポイソメラーゼと呼ばれる酵素を干渉する。(酵素は、生細胞における化学反応を引き起こすタンパク質である。)トポイソメラーゼ阻害剤は、ある白血病、並びに肺癌、卵巣癌、胃腸癌及び他の癌を処置するために使用される。
【0051】
[0051]トポイソメラーゼII阻害剤は、薬物が与えられた後2~3年の早さで、続発性癌である急性骨髄性白血病(AML)の危険性を増大させ得る。
【0052】
有糸分裂阻害剤
[0052]有糸分裂阻害剤は、天然生成物、例えば植物に由来する化合物である。これらは、細胞が分裂して、新たな細胞を形成するのを止めることにより作動するが、細胞複製に必要なタンパク質を酵素が作らないようにすることにより、すべての相で細胞を損傷する。これらは、乳癌、肺癌、骨髄腫、リンパ腫及び白血病を含む、多くの異なるタイプの癌を処置するために使用される。これらの薬物は、神経損傷を引き起こすおそれがあり、与えられる量を制限してもよい。
【0053】
他の化学療法薬
[0053]一部の化学療法薬は、若干異なる経路で作用し、任意の他の分野では十分に適合しない。例は、酵素であるL-アスパラギナーゼ、及びプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ(ベルケイド(Velcade)(登録商標))のような薬物を含む。
【0054】
[0054]米国特許第8,030,350号は、癌を処置するための、化学療法及び放射線療法と一緒の二極性トランスカロテノイドの使用について開示している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0055】
[0055]一実施形態では、本開示は、哺乳動物(例えばヒト)における癌(固形腫瘍)を処置する方法であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に放射線療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記放射線を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法を含む。
【0056】
[0056]好ましい実施形態では、二極性トランスカロテノイドは、前記放射線療法の施行に45~60分先行して0.15~0.35mg/kgの用量で投与されるTSCである。いくつかの実施形態では、対象の哺乳動物は、放射線療法に加えて化学療法、例えばテモゾロミドを週に7回、6週間投与することも施行される。
【0057】
[0057]本開示のなおさらなる実施形態は、哺乳動物(例えばヒト)における癌(固形腫瘍)を処置する方法であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に化学療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記化学療法を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法に関する。
【0058】
[0058]好ましい実施形態では、前記化学療法の施行に1~2時間先行して0.75~2.0mg/kgの用量で投与されるTSC。
【0059】
[0059]癌は、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頸部癌、婦人科癌、泌尿器科及び男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨癌、内分泌腺の癌(例えば膵臓癌)、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌並びに肺癌からなる群から選択される。化学療法は、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び微小管阻害剤からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、対象の哺乳動物は、化学療法に加えて放射線療法も施行される。
【0060】
[0060]有利な実施形態では、二極性トランスカロテノイドは、前記化学療法の施行に1~2時間先行して0.75~2.0mg/kgの用量で投与されるTSCである。化学療法は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、nab-パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル及びイリノテカンリポソームからなる群から選択される1つ又は複数の化合物である。
【0061】
[0061]一実施形態では、方法は、化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与し、化学療法を施行するステップは、ゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである。
【0062】
[0062]別の実施形態では、1.5mg/kgのTSCは、化学療法の施行に45~60分先行して投与され、化学療法を施行するステップは、nab-パクリタキセルをIV注入として、続いてゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである。
【0063】
[0063]別の実施形態では、本開示は、哺乳動物(例えばヒト)における膵臓癌を処置する方法であって:
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に化学療法を施行するステップを含み、二極性トランスカロテノイド塩が、化学療法を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法に関する。
【0064】
[0064]有利な実施形態では、二極性トランスカロテノイドは、前記化学療法の施行に1~2時間先行して0.75~2.0mg/kgの用量で投与されるTSCである。化学療法は、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、nab-パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル及びイリノテカンリポソームからなる群から選択される1つ又は複数の化合物である。
【0065】
[0065]一実施形態では、方法は、化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与し、化学療法を施行するステップは、ゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである。
【0066】
[0066]別の実施形態では、1.5mg/kgのTSCは、化学療法の施行に45~60分先行して投与され、化学療法を施行するステップは、nab-パクリタキセルをIV注入として、続いてゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである。
【0067】
[0067]本開示は、哺乳動物(例えばヒト)における脳癌(例えば膠芽細胞腫)を処置する方法であって:
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、及び
b)哺乳動物に放射線療法を施行するステップを含み、二極性トランスカロテノイド塩が、前記放射線を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法にも関する。
【0068】
[0068]二極性トランスカロテノイドがTSCである場合、二極性トランスカロテノイドは、前記施行、典型的には外部ビーム放射線療法に45~60分先行して0.15~0.35mg/kgの用量で投与される。一実施形態では、放射線療法は、週に5回、6週間施行される。別の実施形態では、方法は、哺乳動物に化学療法を施行するステップ、例えばテモゾロミドを週に7回、6週間投与するステップを含む。
【0069】
[0069]上記実施形態のすべてで、二極性トランスカロテノイド塩は、シクロデキストリンとの組成物の形態であるTSCであると有利である。
【0070】
[0070]本開示のある態様は、以下の図に関して明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】効果が高い用量のTSCの投与と比較して、効果が低い用量の投与から生じる、酸素過剰症ラットの酸素分圧の変化を例証する図である。
図2】実施例1で論じられている、TSC及びシスプラチンの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図3】T実施例2で論じられている、SC及びゲムシタビン(10mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図4】実施例2で論じられている、TSC及びゲムシタビン(5mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図5】実施例2で論じられている、TSC及びゲムシタビン(7.5mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図6】実施例3で論じられている、TSC及びテモゾロミドの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図7】実施例4で論じられている、TSC及びドキソルビシンの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図8】実施例5で論じられている、TSC及びパクリタキセルの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図9】多形性膠芽細胞腫に対する標準治療の処置と組み合わせたTSCで処置した腫瘍を保有する患者における、観察された腫瘍面積の変化を例証する図である(すべて患者の腫瘍体積中央値として示されている)。
図10】多形性膠芽細胞腫に対する標準治療の処置と組み合わせたTSCで処置した患者での、腫瘍縮小における患者の分布を例証する図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
[0081]本開示は、化学療法剤及び二極性トランスカロテノイドを含む化合物及び組成物、並びに、膵臓癌及び脳癌を含む様々な癌を処置するためのそのような化合物の使用に関する。
腫瘍は低酸素であり、多くの腫瘍型は、高度に低酸素であることは十分に認められている。以下の表1を参照されたい:
【表1】
【0073】
[0082]さらに、低酸素の腫瘍は、放射線療法及び化学療法により耐性であることが公知である。
【0074】
[0083]哺乳動物に対しては、腫瘍において、酸素分圧の増大を引き起こす二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの2つの濃度、「低」用量及び「高」用量が存在することが発見されている。ヒトでは、低用量の範囲は、0.15~0.35mg/kgであり、高用量の範囲は0.75~2.0mg/kgである。いずれの用量も、酸素分圧においてほぼ同一の最大の増大を引き起こす。高用量は最大酸素分圧の持続を引き起こすが、低用量はそうではないことが重要である。この現象の例は、図1で示されている
【0075】
[0084]本開示の方法は、ある用量の二極性トランスカロテノイドを、ある用量で、化学療法又は放射線療法の施行に先行した適正な時間で投与し、その結果、腫瘍内部で酸素分圧が上昇する一方、化学療法又は放射線療法が、癌細胞/腫瘍に対する化学療法及び、又は放射線療法の殺傷効果の増大が得られるように施行されることを対象とする。
【0076】
[0085]一実施形態では、哺乳動物(例えばヒト)における癌を処置する方法(方法A)であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に放射線療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記放射線を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法が提供される。
【0077】
[0086]以下の通りの方法Aが、さらに提供される:
A.1 二極性トランスカロテノイドがTSCである、方法A。
A.2 二極性トランスカロテノイドが、0.05~0.5mg/kgの用量で投与される、方法A又はA.1。
A.3 二極性トランスカロテノイドが、0.15~0.35mg/kgの用量で投与される、方法A又はA.1~A.2。
A.4 二極性トランスカロテノイドが、0.25mg/kgの用量で投与される、方法A又はA.1~A.3。
A.5 二極性トランスカロテノイドが、前記放射線療法の施行に30~120分先行して投与される、方法A又はA.1~A.4。
A.6 二極性トランスカロテノイドが、前記放射線療法の施行に45~60分先行して投与される、方法A又はA.1~A.5。
A.7 二極性トランスカロテノイドが、週に2~5回投与される、方法A又はA.1~A.6。
A.8 二極性トランスカロテノイドが、週に3回投与される、方法A又はA.1~A.7。
A.9 前記放射線療法が、外部ビーム放射線療法(例えば、三次元原体放射線療法、強度変調放射線療法、プロトンビーム療法、定位的放射線療法)である、方法A又はA.1~A.8。
A.10 前記放射線療法が、内部ビーム放射線療法である、方法A又はA.1~A.8。
A.11 前記放射線療法が、放射線療法セッションごとに、0.1Gy~5Gyの間の量で施行される、方法A又はA.1~A.10。
A.12 前記放射線療法が、放射線療法セッションごとに2Gyの量で施行される、方法A又はA.1~A.11。
A.13 前記放射線療法が、週に5回、6週間施行される、方法A又はA.1~A.12。
A.14 前記哺乳動物に化学療法を施行するステップをさらに含む、方法A又はA.1~A.13。
A.15 化学療法が、少なくとも週1回、少なくとも3週間施行される、方法A.14。
A.16 化学療法が、週に7回、6週間施行される、方法A.14又はA.15。
A.17 前記化学療法が、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び微小管阻害剤からなる群から選択される、方法A.14~A.16のいずれか。
A.18 前記化学療法が、テモゾロミド、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、nab-パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル及びイリノテカンリポソームからなる群から選択される1つ又は複数の化合物である、方法A.14~A.17のいずれか。
A.19 前記化学療法が、テモゾロミド、ゲムシタビン、イリノテカン及びセレコキシブから選択される1つ又は複数の化合物である、方法A.14~A.18のいずれか。
A.20 前記化学療法が、ゲムシタビン及びnab-パクリタキセルの一方又は両方である、方法A.14~A.19のいずれか。
A.21 前記化学療法がゲムシタビンである、方法A.14~A.20のいずれか。
A.22 前記化学療法がテモゾロミドである、方法A.14~A.21のいずれか。
A.23 化学療法を施行する前記ステップが、テモゾロミドを週に7回、6週間投与するステップを含む、方法A.14~A.22又はA.22のいずれか。
A.24 前記化学療法が、前記放射線療法の後で施行される、方法A.14~A.23のいずれか。
A.25 前記二極性トランスカロテノイド塩が、化学療法と共に、1.5mg/kgの用量で投与される、方法A.14~A.24のいずれか。
A.26 前記癌が脳癌である、方法A又はA.1~A.25。
A.27 前記脳癌が、多形性膠芽細胞腫である、方法A又はA.1~A.26。
A.28 二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの組成物の形態であるTSCである、方法A又はA.1~A.27。
A.29 二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの凍結乾燥組成物の形態であるTSCである、方法A又はA.1~A.28。
A.30 二極性トランスカロテノイドが、合成TSCである、方法A又はA.1~A.29。
A.31 可視光の波長範囲(すなわち、380~470nmの間)で発生する最高ピークを紫外線の波長範囲(すなわち、220~300nmの間)発生するピークの吸光度で割った二極性トランスカロテノイド塩(すなわち、TSC)の吸光度が、7超、7.5超、8.0超、8.5超である、方法A又はA.1~A.30。
A.32 得られる商が、7.5~9.0の間である方法A.31。
A.33 得られる商が、8.0~8.8の間である方法A.32。
【0078】
[0087]別の実施形態では、哺乳動物(例えばヒト)における癌を処置する方法(方法B)であって、
a)哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップ、
b)哺乳動物に化学療法を施行するステップを含み、前記二極性トランスカロテノイド塩が、前記化学療法を施行する間に腫瘍における酸素分圧を増大させる時間及び用量で投与される、方法が提供される。
【0079】
[0088]以下の通りの方法Bが、さらに提供される:
B.1 二極性トランスカロテノイドがTSCである、方法B。
B.2 前記二極性トランスカロテノイドが、0.6~2.5mg/kgの用量で投与される、方法B又はB.1。
B.3 前記二極性トランスカロテノイドが、0.75~2.0mg/kgの用量で投与される、方法B又はB.1~B.2。
B.4 前記二極性トランスカロテノイドが、1.5mg/kgの用量で投与される、方法B又はB.1~B.3。
B.5 二極性トランスカロテノイドが、前記化学療法の施行に30~120分先行して投与される、方法B又はB.1~B.4。
B.6 二極性トランスカロテノイドが、前記化学療法の施行に45~60分先行して投与される、方法B又はB.1~B.5。
B.7 二極性トランスカロテノイドが、週1回投与される、方法B又はB.1~B.6。
B.8 二極性トランスカロテノイドが、週に1回、3週間投与される、方法B又はB.1~B.7。
B.9 化学療法が、少なくとも週1回、少なくとも3週間施行される、方法B又はB.1~B.8。
B.10 化学療法が、週に7回、6週間施行される、方法B又はB.1~B.9。
B.11 前記化学療法が、アルキル化剤、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び微小管阻害剤からなる群から選択される、方法B又はB.1~B.10。
B.12 前記化学療法が、テモゾロミド、ゲムシタビン、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン、オキサリプラチン、nab-パクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)、カペシタビン、シスプラチン、エルロチニブ、パクリタキセル、ドセタキセル及びイリノテカンリポソームからなる群から選択される1つ又は複数の化合物である、方法B又はB.1~B.11。
B.13 前記化学療法が、テモゾロミド、ゲムシタビン、イリノテカン及びセレコキシブから選択される1つ又は複数の化合物である、方法B又はB.1~B.12。
B.14 前記化学療法が、ゲムシタビン及びnab-パクリタキセルの一方又は両方である、方法B又はB.1~B.13。
B.15 前記化学療法がゲムシタビンである、方法B又はB.1~B.14。
B.16 前記化学療法がテモゾロミドである、方法B又はB.1~B.15。
B.17 化学療法を施行する前記ステップが、テモゾロミドを週に7回、6週間投与するステップを含む、方法B又はB.1~B.16。
B.18 前記二極性トランスカロテノイドを投与するステップが、前記化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与するステップであり、前記化学療法を施行するステップは、ゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである、方法B又はB.1~B.17。
B.19 前記二極性トランスカロテノイドを投与するステップが、前記化学療法の施行に45~60分先行して1.5mg/kgのTSCを投与するステップであり、前記化学療法を施行するステップは、nab-パクリタキセルをIV注入として、続いてゲムシタビンをIV注入として、週に1回、3週間投与し、続いて1週間休止するステップである、方法B又はB.1~B.18。
B.20 前記癌が固形腫瘍である、方法B又はB.1~B.19。
B.21 癌が、扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頸部癌、婦人科癌、泌尿器科及び男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨癌、内分泌腺の癌(例えば、膵臓癌)、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌並びに肺癌からなる群から選択される、方法B又はB.1~B.20。
B.22 癌が膵臓癌である、方法B又はB.1~B.21。
B.23 二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの凍結乾燥組成物の形態であるTSCである、方法B又はB.1~B.22。
B.24 二極性トランスカロテノイドが、合成TSCである、方法B又はB.1~B.23。
B.25 可視光の波長範囲(すなわち、380~470nmの間)で発生する最高ピークを紫外線の波長範囲(すなわち、220~300nmの間)発生するピークの吸光度で割った二極性トランスカロテノイド塩(すなわち、TSC)の吸光度が、7超、7.5超、8.0超、8.5超である、方法B又はB.1~B.24。
B.26 得られる商が、7.5~9.0の間である、方法B.25。
B.27 得られる商が、8.0~8.8の間である、方法B.26。
【0080】
[0089]別の実施形態では、哺乳動物(例えばヒト)における卒中を防止又は処置する方法(方法C)であって、
哺乳動物に、式:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y=同一であっても異なっていてもよいカチオンであり、
Z=同一であっても異なっていてもよく、カチオンに結合している極性基であり、
TCRO=共役した炭素-炭素二重結合及び単結合を伴い、ペンダント基Xを有する直鎖状トランスカロテノイド骨格であって、同一であっても異なっていてもよいペンダント基Xが、10個以下の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐状炭化水素基又はハロゲンである)を有する二極性トランスカロテノイド塩を投与するステップを含み、
前記二極性トランスカロテノイド塩が、卒中の処置に有効な用量で投与される、方法が提供される。
【0081】
[0090]以下の通りの方法Cが、さらに提供される:
C.1 二極性トランスカロテノイドがTSCである、方法C。
C.2 二極性トランスカロテノイドが、0.05~0.5mg/kgの用量で投与される、方法C又はC.1。
C.3 二極性トランスカロテノイドが、0.15~0.35mg/kgの用量で投与される、方法C又はC.1~C.2。
C.4 二極性トランスカロテノイドが、0.25mg/kgの用量で投与される、方法C又はC.1~C.3。
C.5 前記卒中が、虚血性卒中又は出血性卒中である、方法C又はC.1~C.4。
C.6 前記卒中が虚血性卒中である、方法C又はC.1~C.5。
C.7 前記卒中が出血性卒中である、方法C又はC.1~C.6。
C.8 二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの組成物の形態であるTSCである、方法C又はC.1~C.7。
C.9 二極性トランスカロテノイド塩が、シクロデキストリンとの凍結乾燥組成物の形態であるTSCである、方法C又はC.1~C.8。
C.10 二極性トランスカロテノイドが、合成TSCである、方法C又はC.1~C.9。
C.11 可視光の波長範囲(すなわち、380~470nmの間)で発生する最高ピークを紫外線の波長範囲(すなわち、220~300nmの間)で発生するピークの吸光度で割った二極性トランスカロテノイド塩(すなわち、TSC)の吸光度が、7超、7.5超、8.0超、8.5超である、方法C又はC.1~C.10。
C.12 得られる商が、7.5~9.0の間である、方法C又はC.1~C.11。
C.13 得られる商が、8.0~8.8の間である、方法C又はC.1~C.12。
【0082】
[0091]別の実施形態では、放射線療法及び/又は化学療法を受けている患者において癌の処置に使用するための、例えば、方法A以下;方法B以下;又は方法C以下のいずれかによる方法で使用するための、二極性トランスカロテノイド塩(方法A、B又はCで定義されている)が提供される。
【0083】
[0092]別の実施形態では、放射線療法及び/又は化学療法を受けている患者において、癌を処置するための医薬の製造における、例えば、A以下;方法B以下;又は方法C以下のいずれかによる方法での、二極性トランスカロテノイド塩(方法A、B又はCで定義されている)の使用が提供される。
【0084】
[0093]別の実施形態では、放射線療法及び/又は化学療法を受けている患者における癌の処置に使用するための、例えば、方法A以下;方法B以下;又は方法C以下のいずれかによる方法で使用するための、有効量の二極性トランスカロテノイド塩(方法A、B又はCで定義されている)を含む医薬組成物が提供される。
【0085】
組成物
二極性トランスカロテノイド
[0094]本開示は、トランスカロテノイドジエステル、ジアルコール、ジケトン及び二酸を含むトランスカロテノイド、二極性トランスカロテノイド(BTC)並びに二極性トランスカロテノイド塩(BTCS)化合物、並びに構造:
YZ-TCRO-ZY
(式中:
Y(両端で同一であっても異なっていてもよい)=H、又はH以外のカチオン、好ましくはNa+又はK+又はLi+である。Yは、有利には一価金属イオンである。Yは、有機カチオン、例えばR、Rであってもよい(式中、Rは、H又はC2n+1であり、nは1~10、有利には1~6である)。例えば、Rは、メチル、エチル、プロピル又はブチルであってもよい。
Z(両端で同一であっても異なっていてもよい)=H又はカチオンに結合している極性基である。任意選択で、カロテノイド(又はカロテノイドに関連する化合物)上の末端炭素を含み、この基は、カルボキシル(COO)基若しくはCO基(例えばエステル、アルデヒド又はケトン基)、又はヒドロキシル基であってもよい。この基は、スルフェート基(OSO )若しくはモノホスフェート基(OPO )、(OP(OH)O )、ジホスフェート基、トリホスフェート基又はそれらの組合せであってもよい。この基は、RがC2n+1である場合、COORのエステル基であってもよい。
TCRO=トランスカロテノイド又はカロテノイドに関連した直鎖状骨格(有利には炭素100個未満)であり、ペンダント基(以下で定義されている)を有し、典型的には、「共役した」又は交互の炭素-炭素二重結合及び単結合(一実施形態では、TCROは、リコペンのように完全に共役していない)を含む。ペンダント基(X)は、典型的には、メチル基であるが、以下に論じるように他の基であってもよい。有利な実施形態では、骨格の単位は、分子の中心においてその配置が逆になる手段で合流する。炭素-炭素二重結合を取り巻く4個の単結合は、いずれも同一平面にある。ペンダント基が炭素-炭素二重結合の同一側面上にある場合、基は、シス(「Z」としても公知である)と指定され;ペンダント基が炭素-炭素結合の反対の側面上にある場合、基は、トランス(「E」としても公知である)と指定される。このケースを通じて、異性体は、シス及びトランスと称される)を有するそのような化合物の合成に関する。
【0086】
[0095]本開示の化合物は、トランスである。シス異性体は、典型的には、不利益であり、拡散性を増大させない。ペンダント基の配置は、分子の中心点に対して対称であってもよく、又は、ペンダント基のタイプ、若しくは中心炭素に対する空間的関係に関して分子の左側が分子の右側と同一に見えないように非対称であってもよい。
【0087】
[0096]ペンダント基X(同一であっても異なっていてもよい)は、水素(H)原子、又は10個以下、有利には4個以下の炭素を有する直鎖若しくは分岐炭化水素基(任意選択でハロゲンを含有する)、又はハロゲンである。Xは、エステル基(COO-)又はエトキシ/メトキシ基であってもよい。Xの例は、メチル基(CH3)、エチル基(C2H5)、フェニル、又は、環からのペンダント基を有する、若しくは有さない単一芳香族環構造、ハロゲン含有アルキル基(C1~C10)例えばCH2Cl、又はハロゲン、例えばCl若しくはBr若しくはメトキシ(OCH3)若しくはエトキシ(OCH2CH3)である。ペンダント基は、同一であっても異なっていてもよいが、用いられるペンダント基は、直鎖状として骨格を維持しなければならない。
【0088】
[0097]多くのカロテノイドが天然に存在するが、カロテノイド塩は存在しない。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、共同所有された米国特許第6,060,511号は、トランスクロセチンナトリウム(TSC)に関する。TSCは、自然に発生するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、続いて、主にトランス異性体を選択して抽出することにより作った。
【0089】
[0098]カロテノイド又はカロテノイド塩のシス及びトランス異性体が存在することは、水溶液中に溶解したカロテノイド試料の紫外可視スペクトルを調べることにより判定できる。このスペクトルを踏まえ、380~470nmの範囲の可視波長で発生する最高ピークの吸光度の値(使用される溶媒、及びBTC又はBTCSの鎖の長さによって決まる数。ペンダント基を付加する、又は鎖の長さを変動させると、このピーク吸光度は変化することになるが、当業者は、これらの分子の共役骨格構造に対応する可視範囲における吸光度ピークの存在を認識するであろう。)を、トランス異性体の純度レベルを判定するために使用可能な、220~300nmの範囲のUV波長で発生するピークの吸光度で割る。トランスカロテノイドジエステル(TCD)又はBTCSが、水に溶解される場合、可視波長範囲の最高ピークは、380nm~470nmの間になり(正確な化学構造、骨格の長さ及びペンダント基によって決まる)、UV波長範囲のピークは、220~300nmの間になる。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、M.Craw及びC.Lambert、Photochemistry and Photobiology、第38(2)巻、241~243(1983年)によれば、計算の結果(このケースではクロセチンを分析した)は3.1であり、これは精製後に6.6に増大した。
【0090】
[0099]共同所有された米国特許第6,060,511号(自然に発生するサフランを水酸化ナトリウムと反応させ、続いて、主にトランス異性体を選択して抽出することにより作ったTSC)の、クロセチンのトランスナトリウム塩に対してCraw及びLambertの分析が、UV及び可視波長範囲に対して設計したキュベットを使用して行われて得られた値は、約6.8が平均値となる。本開示の合成TSCに対してこの試験を行うと、比は、7.0超(例えば7.0~8.5、7.0~8.7又は7.0~9.0)となり、7.5超(例えば7.5~8.5、7.5~8.7又は7.5~9.0)が有利であり、8超が最も有利である。合成された材料は、「より純粋」な、又は高度に精製されたトランス異性体である。
【0091】
[00100]トランスクロセチンナトリウム(TSC)を作って、低酸素の組織の再酸素添加を引き起こした。TSCは、水分子の間に水素結合を増加させるコスモトロープという化合物として分類できる。これにより、続いて、水分子を、ランダムな配置から、結晶構造により類似したものに変化させる。さらなる構造は、水の密度の低下も引き起こし、酸素又はグルコースのような小分子を、液相を通してより容易に拡散させる。コスモトロープは、ある個別濃度でのみ、この構造形成を引き起こすことも公知である。
【0092】
製剤及び投与
[00101]BTCS、例えばトランスクロセチンナトリウム(TSC)含むトランスカロテノイドを、他の原料(賦形剤)と製剤する場合、BTCの溶解度(溶液における活性剤(例えばTSC)の濃度を増大させる)、安定性、バイオアベイラビリティ及び等張バランスを改善する、水溶液のpHを増大させる、並びに/又は、水溶液の浸透圧を増大させることが有利である。賦形剤は、溶液中におけるモノマーBTC単位の自己凝集を防止する、又は、BTCの早期沈殿を防止する添加剤として作用させるべきである。賦形剤の添加により、これらの側面の少なくとも1つが補助されるはずである。二極性トランスカロテノイド(BTC)分子は、多彩な手段で製剤できる。基本的な製剤は、無菌水中のBTCの混合物であり、静脈内注射により投与される。この製剤は、シクロデキストリンを含む様々な医薬品賦形剤の包含により改変できる。これらの製剤も、静脈内注射により投与されてもよい。
【0093】
[00102]上記の様々な液体製剤のいずれも、冷凍乾燥(凍結乾燥)させて、溶解度及び安定性を向上させた乾燥粉末を形成できる。そのような粉末形態は、次いで、投与のために再構成される。方法の1つは、注射のための液体、例えば生理食塩水又は無菌水中における粉末の再構成、次いで、静脈内注射での投与である。この方法は、1つの区画に粉末を含有し、他の区画に液体を含有する多区画注射器の使用を含んでもよい。同様に、生成物は、液体と粉末を隔てる障壁を含有するバイアルに詰めてもよい。投与の前に、障壁を壊し、成分を混合してから静脈内注射する。
【0094】
[00103]静脈内注射に加えて、特別に製剤されたトランスカロテノイド分子のための投与経路は、筋肉内注射、吸入による送達、経口投与及び経皮投与を含む。
【0095】
シクロデキストリン
[00104]一部の医薬品を投与するために、原薬(API)の吸収/溶解度/濃度を増大させる際に補助となる別の化合物を添加することが必要である。そのような化合物は、賦形剤と呼ばれ、シクロデキストリンが賦形剤の例である。シクロデキストリンは、デンプンに由来する環状の炭水化物鎖である。シクロデキストリンは、その構造内におけるグルコピラノース単位の数が互いに異なる。親シクロデキストリンは、6、7及び8つのグルコピラノース単位を含有し、それぞれアルファ、ベータ及びガンマシクロデキストリンと称される。シクロデキストリンは、1891年に初めて発見され、この数年は医薬品調製物の一部として使用されている。
【0096】
[00105]シクロデキストリンは、比較的疎水性の中心腔及び親水性の外表面を含有する、アルファ-D-グルコ-ピラノースの環状(アルファ-1,4)-連結オリゴ糖である。医薬品産業では、シクロデキストリンは、主に、難水溶性薬剤の水溶解度を増大させ、バイオアベイラビリティ及び安定性を増大させるために、錯化剤として使用されている。さらに、シクロデキストリンは、胃腸若しくは眼の刺激を低減する、若しくは防止するため、不快な匂い若しくは味を低減する、若しくは取り除くために、薬物-薬物若しくは薬物-添加剤相互反応を防止するために、又は、油状及び液状薬物を微結晶性若しくは非晶質粉末に変換するためにさえ使用される。
【0097】
[00106]BTC化合物は水に可溶性であるが、シクロデキストリンを使用すると、その溶解度はよりいっそう増大し、その結果、所定の投与量に対して小さい体積で薬液を投与できる。
【0098】
[00107]本開示の化合物と使用できるシクロデキストリンは、いくつか存在する。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,727,064号を参照されたい。有利なシクロデキストリンは、ガンマ-シクロデキストリン、2-ヒドロキシルプロピル-ベータ-シクロデキストリン及び2-ヒドロキシルプロピル-ベータ-シクロデキストリン、又は、BTCの溶解度を向上させる他のシクロデキストリンである。
【0099】
[00108]ガンマ-シクロデキストリンとTSCを使用すると、TSCの水中における溶解度は3~7倍増大する。これは、活性剤とシクロデキストリンの溶解度を増大させる他の一部のケースで見られるほど大きい倍数ではないが、小さい体積の投与量で、TSCのヒト(又は動物)に対する非経口投与を可能にするのに重要である。ガンマシクロデキストリンの組み込みも、筋肉内注射の場合、TSCが血流内に吸収されるのを可能にする。吸収は素早く、TSCの効果のある血液レベルに素早く達する(ラットで示されているように)。
【0100】
[00109]シクロデキストリン製剤は、他のトランスカロテノイド及びカロテノイド塩と使用できる。本開示は、塩ではないカロテノイド(例えば酸は、例としてクロセチン、クロシン又は上述の中間体化合物を形成する)及びシクロデキストリンの新規な組成物も含む。言い換えれば、塩ではないトランスカロテノイドは、シクロデキストリンと製剤できる。マンニトールは、浸透圧のために添加され得る、又は、シクロデキストリンBTC混合物は、等張生理食塩水に添加され得る(以下を参照されたい)。
【0101】
[00110]使用されるシクロデキストランの量は、トランスカロテノイドを含有するが、シクロデキストランがトランスカロテノイドを放出しない程度に多くない量である。
【0102】
シクロデキストリン-マンニトール
[00111]トランスカロテノイド、例えばTSCは、上述のシクロデキストリン、代謝されない糖、例えばマンニトール(例えば浸透圧を血液のものと同一に調整するd-マンニトール)と製剤できる。TSC約20mg/mlの溶液を含有する溶液は、この手段で作られる。この溶液は、等張生理食塩水又は他の溶液に、それを希釈するため、及び適正な浸透圧をそのまま維持するために、添加してもよい。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,030,350号の実施例12を参照されたい。
【0103】
マンニトール/酢酸
[00112]BTCS、例えばTSCは、マンニトール、例えばd-マンニトール、及び弱い酸、例えば酢酸又はクエン酸と製剤して、pHを調整できる。溶液のpHは、およそ8~8.5にすべきである。溶液は等張液に近づけるべきであり、溶液自体は、血流に直接注射され得る。
【0104】
水+生理食塩水
[00113]BTCS、例えばTSCは、水(有利には、注射可能な無菌水)中に溶解できる。この溶液は、次いで、水、正常な生理食塩水、乳酸リンゲル液又はリン酸緩衝液、及び注入又は注射される得られた混合物で希釈できる。
【0105】
緩衝液
[00114]緩衝液、例えばグリシン又はバイカーボネートは、BCT、例えばTSCの安定性のために、(グリシンのケースでは)約50mMのレベルで製剤に添加してもよい。
TSC及びガンマ-シクロデキストリン
【0106】
[00115]TSC対シクロデキストリンの比は、TSC:シクロデキストリンの溶解度データに基づく。例えば、20mg/mlのTSC、8%ガンマシクロデキストリン、50mMグリシン、2.33%マンニトール、pH8.2+/-0.5、又は、10mg/mlのTSC、及び4%シクロデキストリン、又は5mg/ml及び2%シクロデキストリン。これらの原料の比は、当業者に明らかなように多少変更され得る。
【0107】
[00116]マンニトールは、浸透圧を調整するために使用でき、その濃度は、他の原料の濃度に応じて変動する。グリシンは、一定に保たれる。TSCは、pHが高いほど安定になる。およそ8.2+/-0.5のpHは、安定性のために必要とされ、生理学的に適合性がある。グリシンの使用は、凍結乾燥と適合性がある。或いは、TSC及びシクロデキストリンは、グリシンの代わりに、50mMバイカーボネート又は他の緩衝液を使用して製剤される。
【0108】
ガンマ-シクロデキストリンのエンドトキシン除去
[00117]市販の医薬品グレードのシクロデキストリンは、静脈内注射に不適合のエンドトキシンレベルを有する。エンドトキシンレベルは、静脈内注射を意図されているBTC製剤にシクロデキストリンを使用するために、低下させなければならない。
【0109】
凍結乾燥
[00118]凍結乾燥は、再構成された注射可能な溶液を容易に生成するために使用できる。
【0110】
化学療法剤
[00119]様々な化学療法剤は、現在開示されている処置及び/又は併用療法で使用できると想定されている。化学療法剤は、数種類に分類される。これらは、アルキル化剤として列挙されることがあり、白金系化合物、代謝拮抗薬、アントラサイクリンを含む抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害剤及び微小管阻害剤(有糸分裂阻害剤)を含む。他の分類も存在する。以下の分類のいずれかは、本発明の組成物及び処置の方法と共に使用できると想定される。
【0111】
アルキル化剤
[00120]アルキル化剤は、今日使用されている化学療法薬の最古の群である。元来、第I次世界大戦で使用されたマスタードガスに由来し、現在は、使用されているアルキル化剤には多くのタイプが存在する。[1]アルキル化剤は、タンパク質、RNA及びDNAを含む多くの分子をアルキル化するその能力のため、そのように名付けられた。そのアルキル基を経由してDNAに共有結合するこの能力は、抗癌効果の主な原因である。DNAは、2本の鎖でできており、分子は、DNAの1本の鎖に2回結合してもよく(鎖内架橋)又は、両方の鎖に1回結合してもよい(鎖間架橋)。細胞分裂中に、細胞が架橋DNAの複写を試みる場合、又はそれを修復しようと試みる場合、DNA鎖は壊れることがある。これにより、アポトーシスと呼ばれるプログラム化された細胞死の一形態が引き起こされる。アルキル化剤は、細胞周期のどの時点であっても作動するので、細胞周期非依存性薬物として公知である。このため、細胞に対する効果は、用量依存性であり;死ぬ細胞の割合は、薬物の用量に正比例する。
【0112】
[00121]アルキル化剤のサブタイプは、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、テトラジン、アジリジン、シスプラチン及び誘導体、並びに非古典的アルキル化剤である。ナイトロジェンマスタードは、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、クロランブシル、イホスファミド及びブスルファンを含む。ニトロソウレアは、N-ニトロソ-N-メチルウレア(MNU)、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)及びセムスチン(MeCCNU)、フォテムスチン及びストレプトゾトシンを含む。テトラジンは、ダカルバジン、ミトゾロミド及びテモゾロミドを含む。アジリジンは、チオテパ、マイトマイシン及びジアジコン(AZQ)を含む。シスプラチン及び誘導体は、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンを含む。これらは、生物学的に重要な分子において、アミノ、カルボキシル、スルフヒドリル及びリン酸基と共有結合を形成することにより、細胞機能を損なう。非古典的アルキル化剤は、プロカルバジン及びヘキサメチルメラミンを含む。
【0113】
[00122]アルキル化剤の例は:アルトレタミン、ブスルファン、カルボプラチン、カルムスチン、クロランブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、ロムスチン、メルファラン、オキサリプラチン、テモゾロミド及びチオテパを含む。
【0114】
代謝拮抗薬
【化1】

[00123]デオキシシチジン(左)、並びに2種の代謝拮抗薬(中央及び右);ゲムシタビン及びデシタビン。薬物はきわめて類似しているが、これらは、その化学基に細かい差を有する。
【0115】
[00124]代謝拮抗薬は、DNA及びRNA合成を遅らせる分子の群である。そのうち多くは、DNA及びRNAの構成成分に類似した構造を有する。構成成分は、ヌクレオチド;ヌクレオ塩基、糖及びリン酸基を含む分子である。ヌクレオ塩基は、プリン(グアニン及びアデニン)及びピリミジン(シトシン、チミン及びウラシル)に分けられる。代謝拮抗薬は、ヌクレオ塩基又はヌクレオシド(リン酸基を伴わないヌクレオチド)のいずれかと類似するが、変更された化学基を有する。これらの薬物は、DNA合成に必要とされる酵素を遮ることにより、又は、DNA又はRNA中に組み込まれることのいずれかによりその効果を発揮する。代謝拮抗薬は、DNA合成に関与する酵素を阻害することでDNAが自らを反復できなくするため、有糸分裂を防止する。また、分子をDNA中に誤って取り込ませた後で、DNAの損傷を発生させることができ、プログラム化された細胞死(アポトーシス)が誘導される。アルキル化剤とは異なり、代謝拮抗薬は、細胞周期依存性である。これは、代謝拮抗薬が、細胞周期の特定部分、このケースではS相(DNA合成相)中にのみ作動することを意味する。このため、ある用量で効果は横ばいとなり、用量が増加するにつれて、細胞死はもはや比例的に発生しなくなる。代謝拮抗薬のサブタイプは、抗葉酸剤、フルオロピリミジン、デオキシヌクレオシド類似体及びチオプリンである。
【0116】
[00125]抗葉酸剤は、メトトレキサート及びペメトレキセドを含む。メトトレキサートは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)という、ジヒドロフォレートからテトラヒドロフォレートを再生成させる酵素を阻害する。酵素がメトトレキサートにより阻害された場合、葉酸補酵素の細胞レベルは下がる。葉酸補酵素は、チミジレート及びプリンの生成に必要とされ、そのいずれもDNA合成及び細胞分裂に不可欠である。ペメトレキセドは、プリン及びピリミジン生成に影響を与え、したがって、DNA合成も阻害する別の代謝拮抗薬である。ペメトレキセドは、主に、酵素であるチミジル酸シンターゼを阻害するが、DHFR、アミノイミダゾールカルボキサミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ及びグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼに対する効果も有する。フルオロピリミジンは、フルオロウラシル及びカペシタビンを含む。フルオロウラシルは、細胞で代謝されて、少なくとも2つの活性生成物;5-フルオロウリジンモノホスフェート(FUMP)及び5-フルオロ-2’-デオキシウリジン5’-ホスフェート(fdUMP)を形成するヌクレオ塩基類似体である。FUMPは、RNAに組み込まれ、fdUMPは、酵素であるチミジル酸シンターゼを阻害し;このいずれも、細胞死を引き起こす。カペシタビンは、細胞内で崩壊して実薬になる5-フルオロウラシルのプロドラッグである。デオキシヌクレオシド類似体は、シタラビン、ゲムシタビン、デシタビン、Vidaza、フルダラビン、ネララビン、クラドリビン、クロファラビン及びペントスタチンを含む。チオプリンは、チオグアニン及びメルカプトプリンを含む。
【0117】
[00126]代謝拮抗薬の例は:5-フルオロウラシル(5-FU)、6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン(ゼローダ(Xeloda)(登録商標))、シタラビン(アラ-C(Ara-C)(登録商標))、フロキシウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン(ゲムザー(Gemzar)(登録商標))、ヒドロキシウレア、メトトレキサート及びペメトレキセド(アリムタ(Alimta)(登録商標))を含む。
【0118】
微小管阻害剤
[00127]ビンカアルカロイドは、微小管重合を防止する一方、タキサンは、微小管の分解を防止する。いずれの機構も、有糸分裂の不全を引き起こす。
【0119】
[00128]微小管阻害剤は、微小管機能を防止することにより細胞分裂を遮る、植物に由来する化学物質である。微小管は、2つのタンパク質;α-チューブリン及びβ-チューブリンで構成される重要な細胞構造である。これらは、細胞機能の中でも、細胞分裂に必要とされる、中空桿状構造である。微小管は、動的構造であり、これは、微小管が永続的に重合及び分解の状態にあることを意味する。ビンカアルカロイド及びタキサンは、微小管阻害剤の2つの主な群であり、これらの薬物群のいずれも微小管の機能不全を引き起こすが、これらの薬物群の作用機構はまったく正反対である。ビンカアルカロイドは、微小管の形成を防止する一方、タキサンは、微小管分解を防止する。そのようにすることで、これらは、癌細胞の有糸分裂完了を防止する。これに続き、プログラム化された細胞死(アポトーシス)を誘導する細胞周期停止が発生する。また、これらの薬物は、血管増殖;腫瘍が増殖するために利用する不可欠なプロセスに影響を与え得る。これらの薬物は、S相においてチューブリン分子に結合し、M相に必要とされる微小管の形成を適正に防止する。
【0120】
[00129]タキサンは、天然及び半合成の薬物である。こうした分類の最初の薬物は、パクリタキセルであり、元来はタイヘイヨウイチイであるタキススブレビオフォリア(Taxus brevifolia)から抽出された。この薬物、及びこの分類の別のもの、ドセタキセルは、別のイチイ;タキススバッカタ(Taxus baccata)の樹皮で見出された化学物質から半合成で生成される。これらの薬物は、微小管の安定性を促進し、微小管の分解を防止する。パクリタキセルは、G2-Mの境界で細胞周期を防止する一方、ドセタキセルは、S相中で効果を発揮する。タキサンは、水中における可溶性に乏しいため、薬としての製剤には問題がある。
【0121】
[00130]ポドフィロトキシンは、主にアメリカメイアップル(ポドフィルムペルタツム(Podophyllum peltatum))及びヒマラヤメイアップル(ポドフィルムヘキサンドルム(Podophyllum hexandrum)又はポドフィルムエモジ(Podophyllum emodi))から得られる抗新生物薬のリグナンである。ポドフィロトキシンは、抗微小管活性を有し、その機構は、それらがチューブリンに結合し、微小管形成を阻害するビンカアルカロイドのものと同様である。ポドフィロトキシンは、異なる作用機構を有する2つの他の薬物:エトポシド及びテニポシドを生成するために使用される。
【0122】
[00131]有糸分裂阻害剤の例は:ドセタキセル、エストラムスチン、イクサベピロン、パクリタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビンを含む。
【0123】
トポイソメラーゼ阻害剤
[00132]トポイソメラーゼ阻害剤は、2つの酵素:トポイソメラーゼI及びトポイソメラーゼIIの活性に影響を与える薬物である。例えば、ねじれたロープの真ん中を開くように、DNA複写又は転写中に、DNA二本鎖らせんが巻き戻されれば、開かれていない隣接したDNAがよりきつく巻き付けられる(スーパーコイル)。この効果によって引き起こされるストレスは、トポイソメラーゼという酵素により部分的に補助される。この酵素は、一本鎖又は二本鎖切断を起こしてDNAにし、DNA鎖の張力を低下させる。これにより、DNAの正常な巻き戻しが、複写又は転写中に発生する。トポイソメラーゼI又はIIの阻害は、これらのプロセスの両方に干渉する。
【0124】
[00133]2つのトポイソメラーゼI阻害剤、イリノテカン及びトポテカンは、カンプトテシンに半合成的に由来し、カンプトテンシンは、カンレンボク(カンプトテカアクミナータ(Camptotheca acuminata))から得られる。トポイソメラーゼIIを標的とする薬物は、2つの群に分けられる。トポイソメラーゼIIの毒は、DNAに結合する酵素のレベルの増大を引き起こす。これにより、DNA複写及び転写が防止され、DNA鎖切断が生じ、プログラム化された細胞死(アポトーシス)が引き起こされる。これらの作用剤は、エトポシド、ドキソルビシン、ミトキサントロン及びテニポシドを含む。第2の群である、触媒阻害剤は、トポイソメラーゼIIの活性を遮り、したがって、DNAが適正に巻き戻せなくなるため、DNA合成及び翻訳を防止する薬物である。この群は、他の有意な作用機構も有するノボビオシン、メルバロン及びアクラルビシンを含む。
【0125】
[00134]トポイソメラーゼ阻害剤は、トポイソメラーゼ阻害剤が影響を与える酵素のタイプに従って群分けされる:
【0126】
[00135]トポイソメラーゼI阻害剤は:トポテカン及びイリノテカン(CPT-11)を含む。
【0127】
[00136]トポイソメラーゼII阻害剤は:エトポシド(VP-16)、テニポシド及びミトキサントロン(抗腫瘍抗生物質としても作用する)を含む。
【0128】
細胞毒性抗生物質
[00137]細胞毒性抗生物質は、様々な作用機構を有する様々な薬物群である。この群は、アントラサイクリン、並びに、アクチノマイシン、ブレオマイシン、プリカマイシン及びマイトマイシンを含む他の薬物を含む。ドキソルビシン及びダウノルビシンは、最初の2つアントラサイクリンであり、細菌ストレプトマイセスピウセチウス(Streptomyces peucetius)から得られた。これらの化合物の誘導体は、エピルビシン及びイダルビシンを含む。アントラサイクリン群における他の臨床的に使用される薬物は、ピラルビシン、アクラルビシン及びミトキサントロンである。アントラサイクリンの機構は、DNAインターカレーション(DNAの2つの鎖間における分子の挿入)、細胞内分子を損傷する高度に反応性のフリーラジカルの生成、及びトポイソメラーゼの阻害を含む。アクチノマイシンは、DNAをインターカレーションし、RNA合成を防止する錯体分子である。ブレオマイシン、グリコペプチドは、ストレプトマイセスベルチシルス(Streptomyces verticillus)から単離され、やはりDNAをインターカレーションするが、DNAを損傷するフリーラジカルを生成する。これは、ブレオマイシンが金属イオンに結合し、化学的に還元され、酸素と反応する場合に発生する。マイトマイシンは、DNAをアルキル化する能力を有する細胞毒性抗生物質である。
【0129】
[00138]アントラサイクリン:アントラサイクリンは、細胞周期中のDNAのコピーに関与する酵素を干渉する抗腫瘍性抗生物質である。(酵素は、細胞における化学反応を開始し、助け、又はその速度を上げるタンパク質である。)これらは、多彩な癌に幅広く使用される。
【0130】
[00139]アントラサイクリンの例は:ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン(Adriamycin)(登録商標))、エピルビシン及びイダルビシンを含む。
【0131】
[00140]薬物は、高用量で与えられるなら、永続的に心臓を損傷するおそれがあるということは、これらの薬物を与える場合の重大な懸念である。このため、生涯用量制限が、これらの薬物に設けられることが多い。
【0132】
[00141]アントラサイクリンではない抗腫瘍性抗生物質は:アクチノマイシン-D、ブレオマイシン、マイトマイシン-C及びミトキサントロン(トポイソメラーゼII阻害剤としても作用する、以下を参照されたい)を含む。
【0133】
他の薬物
[00142]別の実施形態では、1つ又は複数のベンゾ[c]クロメン-6-オン誘導体、例えばSG-529は、放射線療法及び/又は化学療法に先行して、その間、又はその後に投与される。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第8,475,776号を参照されたい。
【0134】
放射線療法
[00143]放射線療法は、二極性トランスカロテノイド塩(例えば、TSC)と共に、腫瘍又は癌の処置において使用され得ると想定される。以下は、開示されている組成物と共に、また、開示されている処置方法において、使用され得る放射線療法のタイプの簡単な説明である。
【0135】
外部ビーム放射線療法
[00144]外部ビーム放射線療法は、最も一般的な放射線処置のタイプである。外部ビーム放射線療法は、体外に位置した機械から放射線を送達する。外部ビーム放射線療法は、必要に応じて体の広い面積を処置できる。放射線ビームを作り出すために使用される機械は、線型加速器又はリニアックと呼ばれる。特殊なソフトウェアを備えたコンピュータにより、ビームの大きさ及び形状が調整される。コンピュータは、ビームに、腫瘍を標的とするように振り向けもするが、癌細胞付近の健常組織は避けられる。外部ビーム放射線療法により、放射能を帯びることはない。
【0136】
[00145]外部ビーム放射線療法のタイプは、以下を含む:
三次元原体放射線療法(3D-CRT):この処置の一部として、特殊なコンピュータが、癌の詳細な立体画像を作り出す。これにより、処置チームは、放射線をより正確に向けることができる。こうすることで、処置チームは、より高用量の放射線を使用しつつ、健常組織を損傷する危険性を低下させることができる。研究により、3D-CRTは、副作用の危険性をより低くできることが示されている。例えば、頭頸部癌を有する者が放射線療法を受ける場合、3D-CRTによりドライマウスを引き起こし得る唾液腺への損傷を制限できる。
【0137】
強度変調放射線療法(IMRT):この処置は、ビームの強度を変化させることで、3D-CRTよりも適切な放射線量を腫瘍に振り向ける。IMRTは、健常組織を、3D-CRTよりも適切に放射線から保護する。
【0138】
プロトンビーム療法:この処置は、X線ではなくプロトンを使用して、いくつかの癌を処置する。プロトンは、高エネルギーで、癌細胞を破壊できる原子の一部である。プロトンを腫瘍に振り向けることで、健常組織の近傍に送られる放射線量は低下し、この組織への損傷は抑制される。この治療は比較的新しく、特殊な設備を必要とするため、すべての医療施設で利用できるわけではない。プロトン療法の潜在的な利益は、IMRTと比較すると、いくつかの癌、例えば前立腺癌に対して認められていない。
【0139】
定位的放射線療法:この処置は、多く、正味の放射線量を小さい腫瘍面積に送達する。このタイプの処置には正確さが欠かせないため、患者は、まったく静止したままでいなければならない。移動を制限するために、頭部のフレーム又は個別の胴型が使用される。この治療は、単回処置として行われることが多いが、一部の患者は、数回の放射線処置を必要とすることがある。
【0140】
内部放射線療法
[00146]このタイプの放射線処置は、小線源療法としても公知である。放射性材料は、癌自体、又はそれを取り巻く組織の中に置かれる。これらの移植片は、永続的であっても一時的であってもよく、入院を必要とし得る。永続的な移植片は、放射性材料を含有する、米粒ほどの大きさの小さいスチールシード(steel seed)である。これらのカプセルが、体内における腫瘍部位に置かれる。シードは、移植片がある領域の周囲で多くの放射線を送達する。しかし、一部の放射線は、患者の体から放出され得る。これは、患者は、シードは活性であるが、使用上の注意を理解して、他者を放射線曝露から保護するべきことを意味する。移植片は経時的にその放射活性を失うが、不活性になったシードは体内に残る。
【0141】
処置の方法

[00147]本開示は、様々な腫瘍及び/又は癌(すなわち、膠芽細胞腫、膵臓癌など)の処置に関する。腫瘍は低酸素であり、多くの腫瘍型が高度に低酸素ということは十分に認められている。さらに、低酸素の腫瘍は、放射線療法及び化学療法に、さらに耐性ということが公知である。HIF1アルファの上方調節を介し、低酸素症は、侵攻性の腫瘍表現型を引き起こす複数の悪影響に関連する。これらの効果は、血管形成の増大、転移の増大、並びに化学療法及び放射線療法に対する耐性の増大を含む。HIF1aを介した低酸素症は、癌の増悪に関与する多くの遺伝子に影響を与える。二極性トランスカロテノイド、例えばTSCは、低酸素状態で、HIF1の標的遺伝子発現を変更する。例えば、研究により、低酸素症で上方調節されるVEGF A 遺伝子は、TSCで下方調節されることが示されている。
【0142】
[00148]本開示の方法は、ある用量の(上で論じたように)二極性トランスカロテノイド、例えばTSCを、ある用量で、化学療法又は放射線療法の施行に先行した適正な時間で投与し、その結果、腫瘍内部で酸素分圧が上昇する一方、化学療法又は放射線療法が、癌細胞/腫瘍に対する化学療法及び、又は放射線療法の殺傷効果の最大限の増大が得られるように施行されることを対象とする。二極性トランスカロテノイドの投与は、低酸素症を抑制するその能力のため、血管形成も減少させ、転移も減少させ、腫瘍におけるHIF1a生成も下方調節することができる。
【0143】
[00149]化学療法(ケモ)は、静脈内注射される、又は口腔摂取される抗癌薬を使用する。これらの薬物は、血流に入り、体の全域に達し、この処置は、自らが生じた器官を超えて広がった癌に有用になる。
【0144】
化学療法は、腫瘍を小さくするために手術前に行われ得る(放射線と一緒のことがある)。これは、ネオアジュバント処置として公知である。
【0145】
化学療法は、手術後に使用して、取り残された(が見ることはできない)癌細胞の殺傷を試みることができる(放射線と一緒のことがある)。アジュバント処置と呼ばれるこのタイプの処置は、癌が後に復活する可能性を低下させる。
【0146】
化学療法は、癌が進行し、手術では完全に除去できない場合に一般的に使用される。
【0147】
[00150]化学療法が放射線と一緒に行われる場合、化学放射線又は化学放射線療法として公知である。これは、放射線の有効性を改善できるが、さらに重度の副作用を引き起こすおそれがある。
【0148】
[00151]医師は、化学療法をサイクルとして行い、処置の各期間の後、体を回復させる休止期間が続く。各化学療法サイクルは、典型的には数週間継続する。
【0149】
[00152]二極性トランスカロテノイド、例えばTSCでは、動物又はヒトにおいて最大の酸素分圧を引き起こす効能を生む個別濃度が存在する。2つのそのような効果のある投与量:「低用量」及び「高用量」が存在することが、試験したすべての動物(ヒトを含む)で見出された。ヒトでは、低用量である0.15~0.35mg/kg、例えば0.25mg/kgにより、注射後50分で、低酸素の組織で最大の再酸素添加が引き起こされ、持続する変化は短時間である一方、高用量である0.75~2.0mg/kg、例えば1.5mg/kgにより、同じく最大の変化が引き起こされるものの、変化は1時間超持続する。癌組織における酸素レベルを増大させながら、化学療法又は放射線療法を施行することにより、上部の癌組織(腫瘍)が殺傷される。
【0150】
[00153]腫瘍における、化学療法剤の細胞毒性の向上に加えて、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの投与により、化学療法剤が引き起こすおそれがある神経毒性又は神経障害が低減、又は処置される。
【0151】
膵臓癌
[00154]本明細書では、既に様々なタイプの膵臓癌が論じられている。化学療法は、これらの膵臓癌の任意のステージで使用してもよい。
【0152】
[00155]膵臓腫瘍は、通常、高度に低酸素である。低酸素症により、代謝拮抗薬、例えばゲムシタビンを含む化学療法剤に反応する腫瘍が害を受ける。
【0153】
[00156]ゲムシタビン(ゲムザー(登録商標))、5-フルオロウラシル(5-FU)、イリノテカン(カンプトサル(Camptosar)(登録商標))、オキサリプラチン(エロキサチン(Eloxatin)(登録商標))、アルブミン結合パクリタキセル(nab-パクリタキセル)(アブラキサン(登録商標))、カペシタビン(ゼローダ(登録商標))、シスプラチン、パクリタキセル(タキソール(Taxol)(登録商標))、ドセタキセル(タキソテール(Taxotere)(登録商標))及びイリノテカンリポソーム(オニビデ(登録商標))を含む多くの異なるケモドラッグが、膵臓癌を処置するために使用できる。
【0154】
[00157]十分に健常な者では、2種以上の薬物が通常一緒に与えられる。転移性膵臓癌を有する患者に対する現在の標準治療は、エルロチニブ又はnab-パクリタキセルと組み合わせたゲムシタビンを含む。エルロチニブは、転移性非小細胞性肺癌及び転移性膵臓癌の処置に関して、承認されている。Nab-パクリタキセルは、乳癌、非小細胞性肺癌及び転移性膵臓癌の処置に関して承認されている。
【0155】
[00158]組合せ療法の他の例は、ゲムシタビン及びカペシタビン(ゼローダ)、又はゲムシタビン、イリノテカン及びセレコキシブ(関節炎薬)である。別の組合せレジメンは、Folfirinox(ロイコボリン+5-フルオロウラシル+オキサリプラチン+イリノテカン)レジメンである。
【0156】
[00159]併用処置に十分なほど健常ではない者では、単独薬(通常ゲムシタビン、5-FU又はカペシタビン)を使用してもよい。
【0157】
[00160]そのような腫瘍の有利な処置は、1つ又は複数の化学療法剤の投与に1~2時間先行した、高用量、0.75~2.0mg/kgの二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの投与を含む。典型的なサイクルは、TSC及び化学療法剤(例えばゲムシタビン)又は複数の化学療法剤(ゲムシタビン、直後にnab-パクリタキセル)の、週に1回、3週間の投与、続いて1週間の休止であろう。このサイクルは、1ヶ月又は数ヶ月繰り返してもよい。
【0158】
[00161]有利な実施形態では、2つの化学療法剤(nab-パクリタキセル及びゲムシタビン)が連続して与えられる場合、TSC(1.5mg/kg)は、125mg/m2のnab-パクリタキセル(30~40分)の注入を始める45~60分前に、ボーラスとしてIVで与えられる。1000mg/m2のゲムシタビン(30~40分。)のIV注入は、nab-パクリタキセルのIV注入のすぐ後で開始する。例えば、週1回、3週間、TSCが、nab-パクリタキセルのIV注入を開始する60分前に、ゲムシタビンのIV注入の開始に90分先行してIVボーラス投与される(化学療法剤のそれぞれの投与に30分割り当てる)。その結果、TSCの効果(腫瘍における酸素分圧が増大する)は、両方の化学療法薬の継続時間にわたって持続する。上記3週間の投与に続いて、1週間休止する。
【0159】
[00162]RTの施行に先行して0.15~0.35mg/kgの用量のTSCを利用する放射線療法は、膵臓癌の処置にも使用できる。
【0160】
多形性膠芽細胞腫
[00163]膠芽細胞腫は、高度に低酸素である。TSCは、放射線療法(RT)及び化学療法(例えばアルキル化剤、又は代謝拮抗薬、例えばテモゾロミド(TMZ))の両方の効果を向上させるために使用できる。GBM腫瘍の有利な処置は、放射線療法の施行に先行して、有利には45~60分先行して、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの、0.15~0.35mg/kgの用量での投与を含む(任意選択で、化学療法剤、例えばテモゾロミドが、通常、RT前夜に投与される)。TMZは、典型的には、RTセッションの継続時間にわたって1日1回投与される。放射線療法中の、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの投与量は、放射線療法の45分前に0.25mg/kg投与されると有利である。
【0161】
[00164]化学療法中(放射線療法なし)の二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの投与量は、化学療法剤の1~2時間前に1.5mg/kg投与されると有利である。テモゾロミド投与(月1回化学療法の週に1日5回投与する)に関しては、二極性トランスカロテノイドは、典型的には、月1回週に2~5回(有利には3回)投与される。月1回の二極性トランスカロテノイド及びケモサイクルは、6ヶ月以上続けてもよい。
【0162】
[00165]有利な実施形態では、GBM腫瘍部分は、除去手術後、都合よく除去され、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCは、放射線療法(2Gy)に45~60分先行して、0.25mg/kgの用量で週に5日、6週間注入される。テモゾロミドは、RTの継続時間中に、1日に(例えば75mg/m2のテモゾロミド)を、週に7日投与される。TSC処置は、週に3回、6週間発生する。1~4週間の休止期間後、化学療法(例えば月の第1週に5日間連続でテモゾロミド150~200mg/m2)に1~2時間先行して、もう6ヶ月TSCを1.5mg/kgの用量で注入する。このTSC投与は、月の第1週に、週に3回発生し、6ヶ月続く。6週間の放射線療法レジメンには、6ヶ月の化学療法レジメンが続き、これにより、36回のTSC投与、放射線/化学療法(6週間)中に18回、また、化学療法(6ヶ月)中に18回が生じる。
【0163】
脳転移
[00166]脳転移に対する処置は、状態に関連する症状の管理、並びに癌の直接的攻撃の両方に関与する。脳転移は、典型的には、ステロイドの使用で管理できる浮腫を引き起こす;しかし、長期間にわたるステロイドの使用は、典型的には、患者のクオリティオブライフを大幅に下げる副作用を引き起こす。患者のおよそ25~45%は、発作を経験し、抗てんかん薬の使用を必要とする。手術は、孤立性の脳転移性病変を有する患者のみに用いられる。放射線療法は、脳転移を有する患者の圧倒的多数で、標準治療であり続けている。
【0164】
[00167]脳転移は、典型的には低酸素である。放射線療法は、脳転移を有する患者の圧倒的多数で、標準治療であり続けている。そのような腫瘍の有利な処置は、放射線療法の施行に45~60分先行した、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの、0.15~0.35mg/kg、例えば0.25mg/kgの用量での投与を含む。別の実施形態では、GBMに対する上記の方法、すなわちケモ作用剤並びに放射線療法の使用は、脳転移の処置にも適用可能である。
【0165】
他の癌
[00168]本開示の方法に従って処置できる他の癌は、固形腫瘍、例えば扁平上皮癌、黒色腫、リンパ腫、肉腫、サルコイド、骨肉腫、皮膚癌、乳癌、頭頸部癌、婦人科癌、泌尿器科及び男性生殖器癌、膀胱癌、前立腺癌、骨癌、内分泌腺の癌(例えば、膵臓癌)、消化管の癌、主な消化腺/器官の癌、CNS癌並びに肺癌を含む。
【0166】
[00169]上記の癌を処置する有利な様式は、化学療法の施行に先行して、追加の二極性トランスカロテノイド、例えばTSCを0.75~2.0mg/kg、例えば1.5mg/kgの用量で、及び放射線療法の施行に先行して、TSCを0.15~0.35mg/kg、例えば0.25mg/kgの用量で投与することにより補われる、所定の癌の兆候に対する標準治療を含む。
【0167】
癌以外の使用
[00170]また、以下に記載するように、いくつかの癌ではない障害が、二極性トランスカロテノイド、例えばTSCの投与レジメンを利用して、有益に処置されると判定されている。TSCを使用した前臨床的な効能の研究は、以下を実証した:
状態 最適な投与量
ラット 出血性ショック 低
ラット 虚血性卒中 低
ラット 出血性卒中 低
ラット 癌:放射線増感剤 低
ラット 癌、化学療法増感剤 高
ラット パーキンソン病 高
ラット 想起 高
マウス 癌:放射線増感剤 低
マウス 致死性の肢虚血 高
ウサギ 虚血性卒中 低
ブタ 出血性ショック 低
ブタ 心筋梗塞 低
ブタ 創傷治癒 高
【0168】
[00171]ヒトでは、卒中、心筋梗塞又は出血性ショック(血液損失)を含む心血管性事象を処置するために、低用量、例えば0.15~0.35mg/kg、例えば0.25mg/kgのTSCがIV投与される。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,919,527号を参照されたい。
【0169】
[00172]高用量、0.75~2.0mg/kg、例えば1.5mg/kgのTSCは、CNS状態(アルツハイマー病、パーキンソン病、記憶喪失)を処置するために、並びに、創傷治癒を促進するために、及び重症の肢虚血を軽減するために、ヒトに対する神経保護剤として作用し得る。そのそれぞれが、その全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,759,506号及び第8,293,804号を参照されたい。有利な投与は、経口的に週に2~5回、IVで与えられる0.75~2mg/kgに等しいTSCレベルを達成する用量である。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、共同所有された米国特許第8,974,822号を参照されたい。
【0170】
[00173]以下の実施例が実証されているが、本開示の化合物、組成物及び方法は制限されない。当業者に明らかな、普通目にする多彩な状態及びパラメータの他の適切な改変及び適応は、本開示の精神及び範囲内である。
【実施例0171】
DMBA腫瘍
[00174]メスラットの乳房組織下にDMBA(ジメチルベンズアントラセン)の注射を介して乳房腫瘍を誘導した。腫瘍は、通常、大半のラットで増殖し、10日後に測定可能な状態に達する。
【0172】
[00175]以下の研究は、最初に、ヒマワリ種子油(mL溶液当たり20mg DMBA)に溶解した1mlのDMBAで3mL注射器を満たす方法を使用した。これに続いて、2mLの空気を注射器に入れる。次いで、注射器の針を後肢付近の乳房組織下に挿入し、注射器内の空気を慎重に注射する。空気の注射により「ポケット」が形成され、次いで、1mLのDMBA溶液をこのポケットに注射する。
【0173】
[00176]腫瘍が増殖した(約10日)後で、形成されたフットボール形腫瘍の直径(d)及び長さ(L)を測定することでその体積を推定する。測定は、指で腫瘍を触ってからキャリパーを使用して行った。腫瘍の体積を推定するために、直径の2乗と長さをかけ、2で割る:
腫瘍体積(mm3単位)={(d、mm単位)/2}×(L、mm単位)
【0174】
[00177]ラットの尾静脈にTSC又は生理食塩水(対照)を0.1mLの体積で注射し、化学療法剤がラットの腹腔内(IP)に注射される約1~2時間前に、0.25mg/kgのTSCを投与した。
【0175】
実施例1:白金含有化合物(シスプラチン)
[00178]化学療法で使用される場合、どの投与量に効果があるかを理解するために、乳房腫瘍のラットモデルを使用した。モデルは、メスSprague-Dawleyラットの乳腺下で、化学物質のメチルベンズアントラセン(DMBA)の注射を伴う。数日後、腫瘍は、増殖を始め、指で皮膚下のフットボール形腫瘍を触ることにより測定でき、キャリパーを使用して測定できる。
【0176】
[00179]この研究では、白金系化合物を使用した(シスプラチン)。化学療法の50分前に与えられる(IV)低用量(ラットに対し)、0.1mg/kgのTSCは、この研究では有効ではなかったが、化学療法の2時間前に与えられる高用量(ラットに対し)、0.25mg/kgのTSCは、以下の図で示されているように効果があった。
【0177】
[00180]1mg/kgシスプラチンの2時間前に与えられる高用量のTSC。シスプラチン(1mg/kg)を0、4、11、18日目にIP注射した。図2で示されているように、ラットを高用量TSCで処置し、シスプラチンは、腫瘍体積において対照を上回る有意な改善を示した。
【0178】
実施例2 代謝拮抗薬(ゲムシタビン)
[00181]この研究では、代謝拮抗薬(ゲムシタビン)を使用した。化学療法の50分前に与えられる低用量のTSCは、この研究では有効ではなかったが、化学療法の2時間前に与えられる高用量のTSCは、図3で示されているように効果があった。低用量TSC及び高用量TSCの濃度は、実施例1で定義されているものと同一である。
【0179】
[00182]10mg/kgゲムシタビンの2時間前に与えられる高用量のTSC。ゲムシタビン(10mg/kg)を、0、3日目にIP注射した。図3で示されているように、高用量TSC及びゲムシタビンで処置したラットは、3日目に、腫瘍体積において有意な減少を示した。比較として、対照群におけるラットは、腫瘍体積におけるわずかな増大しか示さなかった。両方の群で大半のラットが6日目に死亡した。ゲムシタビンの用量を半減させ、同一の挙動が見られた。
【0180】
[00183]5mg/kgゲムシタビンの2時間前に与えられる高用量のTSC。ゲムシタビン(5mg/kg)を、0、3日目にIP注射した:両方の群で大半のラットが7日目に死亡した。結果は、図4で示されている。高用量のTSC及びゲムシタビンを与えたラットは、対照群におけるものよりも実質的に少ない腫瘍増殖を示した。%腫瘍増殖は、両方の群で、10mg/kgのゲムシタビン投与量に対するものよりも高いことに注目されたい。
【0181】
[00184]化学療法剤の注射時間と比較したTSCの注射時間は、7.5mg/kgの用量のゲムシタビンで試みたが、ラットにおける毒性のため、データは、ゲムシタビンの注射後2日間に対してのみ得られた。すべての方法が、対照と比較して腫瘍増殖を低減したが、化学療法の2時間前の投与が最適である。
【0182】
[00185]7.5mg/kgゲムシタビンの2時間前に与えられる高用量のTSC。ゲムシタビン(7.5mg/kg、IVで与えられる)とi)同時に、ii)1時間前に、及びiii)2時間前に与えられる高用量TSC。図5で示されているように、化学療法剤に2時間先行したTSC投与のタイミングにより、すべての研究で最適な結果が得られる。
【0183】
実施例3 アルキル化剤(テモゾロミド)
[00186]実施例1で定義されているTSCの高用量は、テモゾロミドを用いる化学療法に2時間先行して与えられる。結果は、図6で要約されている。この研究では、7日目にテモゾロミドと共にTSCを投与された対象での腫瘍体積における増大の主要因になるスードプログレッションが見られたことに注目されたい。スードプログレッションは、テモゾロミドを放射線増感剤及び化学増感剤として使用する場合、膠芽細胞腫のヒト化学療法でも見られる。
【0184】
実施例4 抗腫瘍性抗生物質 - アントラサイクリン(ドキソルビシン)
[00187]実施例1で定義されている高用量のTSCは、ドキソルビシンを用いる化学療法に2時間先行して与えられる。この研究では、7日目にドキソルビシンと共にTSCを投与された対象での腫瘍体積における増大の主要因になるスードプログレッションも見られた。結果は、図7で要約されており、対照群と比較して、腫瘍増殖における顕著な低下を示す。
【0185】
実施例5 有糸分裂阻害剤 - タキサン(パクリタキセル)
[00188]実施例1で定義されている高用量のTSCは、パクリタキセルを用いた化学療法に2時間先行して与えられる。化学療法及びTSCは、0、4、8、14日目に投与する。スードプログレッションもこの研究で見られた。結果は、図8で要約されており、対照群と比較して、腫瘍増殖における顕著な低下を示す。
【0186】
実施例6 GBMにおける、第1/2相臨床トライアルのトランスクロセチンナトリウム
[00189]今まで、TSCは、第1相及び第2相臨床トライアルで148人のヒト対象に使用されており、重篤な有害事象は報告されていない。GBMを有する患者におけるTSCを試験する第1/2相臨床トライアルが、最近完了した。GBMに関する第1/2相臨床トライアルは、疾患が新たに診断され、放射線療法(RT)及びテモゾロミド(TMZ)と共にTSCを受けた患者59人を登録した。トライアルの第I相部では、最初にTSCを、放射線に先行して、患者3名に半分量を週に3回投与した。追加患者6人は、放射線と組み合わせて、全量のTSCを6週間受けた。用量制限毒性は、トライアルの第I相部中に、患者9人で確認されなかった。追加患者50人を、第II相トライアルにおいて、TMZ及びRTと組み合わせた全量のTSCで登録した。RTの完了から4週間後、すべての患者が、TMZを4週間ごとに5日間再度摂ったが、TSCはそれ以上投与しなかった。
【0187】
[00190]より具体的には、新たに診断されたGBMを有する患者59人を登録した。患者は、腫瘍の手術切除が可能な場合、そのような手術の後、5週間以内に開始する標準治療(SOC)の放射線療法(RT)(2Gy/日、5日/週、6週間)及びTMZ(75mg/m2)を受けた。針生検のみを受けた(すなわち手術なし)患者も登録した。
【0188】
[00191]SOCに加えて、RTセッションに約45分先行して、週に3回、0.25mg/kgのTSCも通常月曜日、水曜日及び金曜日にIV投与した。
【0189】
[00192]RTが完了してから4週間後、患者は、4週間サイクルの第1週にTMZを用いて化学療法を5日間始めた。これは、そのようなサイクルを6回続けた。この化学療法中にTSCは投与しなかった。
【0190】
全生存期間
[00193]SOC分析では、特定の時点で報告されている値を使用した(Stupp Rら:Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N.Engl.J.Med.352:987~996頁、2005年)、以下の表2で示されているように、TSCトライアル(すなわち、本研究)における生存率は、2005年にGBMに対するSOCを確立した過去のトライアルにおける生存率より、1及び2年の両方で、10%高かったと判定した。
【表2】
【0191】
[00194]当トライアルにおける1年及び2年生存率のいずれも統計差を示唆する時点でStuppの信頼区間外にある。つまり、本トライアルにおける生存率は、SOCを確立したものとは統計的に異なるということが、95%信頼できる。
【0192】
[00195]以前の研究により、生存率は、最初の切除の程度と正に相関し得ることが示されており、これは、手術不可能な腫瘍を有する患者は、生存率がより低くなる見込みがあることを意味する。GBMに対し、TSCをSOC、RT及びTMZに組み込む当トライアルは、本質的に等しい数の完全切除(14)を施された患者、及び切除なしの患者(15)を登録した。これらの患者は、トライアルで登録された患者59人のうちおよそ50%を占める。他の50%は、部分切除を施された患者であった。
【0193】
[00196]完全切除を行った患者は、針生検(すなわち部分切除)のみを行った患者より高い生存率を示すことが予想された。しかし、この予想に反して、2年での生存率は、本トライアルにおける両方の群でかなり類似していた。手術不可能と考えられる患者のサブグループにおいて、TSCを受けた患者の2年での生存の可能性は、対照における20パーセント未満と比較して、TSC群における40%が、2年生きたので、100%超増大した。比較として、生検のみの患者の生存性は、2年で42.9%であることを観察した。SOC処置に加えてTSCを投与されたすべての群の患者は、過去の対照で見られた全生存率より良好な2年での生存率を示した。
【0194】
腫瘍の大きさ
[00197]本研究の特に想定外であった結果の1つは、処置が腫瘍の大きさを縮小する効果であった。トライアルでは、56人の患者が全用量のTSC治療を受けた。こうした患者のうち、4人は、ベースライン後にMRI研究を受けるのに十分長く生きず、1人の患者は打ち切り、14人の患者に完全切除を施した。したがって、37人の患者は、部分切除を受け、又は切除を受けず(生検のみ)、これらの患者の腫瘍は経時的に追跡できた。図9は、これらの37人の腫瘍を保有する患者における観察した腫瘍面積の変化を例証する(全患者の全腫瘍体積として示されている)。図10で示されているように、これらの37人の患者の圧倒的多数は、腫瘍の大きさの縮小を示し、全量患者のほぼ20%が、腫瘍の完全な排除を示し、これにより、この兆候に関するTSCの有益な使用が強調される。この効果は、当技術分野ではヒトで実証されていない。
【0195】
[00198]したがって、TSCは、放射線が施行される45分前に低用量(0.25mg/kg)で与えられる場合、多形性膠芽細胞腫に対して有効であることが示される。
【0196】
[00199]本化合物及び組成物の両方、並びに関連した方法の多数の改変及び付加が、開示されている方法及び組成物から逸脱することなく行われ得ることは、当業者に容易に明らかになる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
図1】効果が高い用量のTSCの投与と比較して、効果が低い用量の投与から生じる、酸素過剰症ラットの酸素分圧の変化を例証する図である。
図2】実施例1で論じられている、TSC及びシスプラチンの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図3】T実施例2で論じられている、SC及びゲムシタビン(10mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図4】実施例2で論じられている、TSC及びゲムシタビン(5mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図5】実施例2で論じられている、TSC及びゲムシタビン(7.5mg/kg)の併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図6】実施例3で論じられている、TSC及びテモゾロミドの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図7】実施例4で論じられている、TSC及びドキソルビシンの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である。
図8】実施例5で論じられている、TSC及びパクリタキセルの併用療法が腫瘍体積で示す、観察された効果を例証する図である
【外国語明細書】