(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081537
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】制御された粒径を有するゼオライト結晶のマルチシーディングを伴う合成方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/02 20060101AFI20220524BHJP
C01B 39/14 20060101ALI20220524BHJP
C01B 39/20 20060101ALI20220524BHJP
C01B 39/36 20060101ALI20220524BHJP
C01B 39/46 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C01B39/02
C01B39/14
C01B39/20
C01B39/36
C01B39/46
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022028397
(22)【出願日】2022-02-25
(62)【分割の表示】P 2019550845の分割
【原出願日】2018-03-12
(31)【優先権主張番号】1752198
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ・ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】セシル・リュッツ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多峰性粒径分布を有し、そのサイズが0.02μm~20μmであるゼオライト結晶の調製方法を提供する。
【解決手段】a)少なくとも1つのシリカ源、少なくとも1つのアルミナ源、及び任意であるが、好ましくは、少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物水溶液又はアルカリ土類金属水酸化物水溶液を混合することにより合成ゲルを調製する工程、b)前記合成ゲルを管状反応器に供給する工程、c)前記管状反応器又は前記管状反応器の上流への1つ以上のシーディング剤の第1の導入工程、d)前記管状反応器への1つ以上の同一又は異なるシーディング剤の第2の導入工程、e)前記シーディング剤の存在下で前記合成ゲルの前記管状反応器内での結晶化反応を行い、反応媒体を形成する工程、f)製造された結晶を回収するために前記反応媒体を濾過する工程を含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多峰性粒径分布を有し、サイズが0.02μm~20μmであるゼオライト結晶を調製するための方法であって、少なくとも次の
a)少なくとも1つのシリカ源、少なくとも1つのアルミナ源、及び任意であるが、好ましくは、少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物水溶液又はアルカリ土類金属水酸化物水溶液を混合することにより合成ゲルを調製する工程、
b)前記合成ゲルを管状反応器に供給する工程、
c)前記管状反応器又は前記管状反応器の上流への1つ以上のシーディング剤の第1の導入工程、
d)前記管状反応器への1つ以上の同一又は異なるシーディング剤の第2の導入工程、
e)前記シーディング剤の存在下で前記合成ゲルの前記管状反応器内での結晶化反応を行い、反応媒体を形成する工程、
f)製造された結晶を回収するために前記反応媒体を濾過する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程d)が1、2、3回以上、好ましくは1、2、3回、より好ましくは1又は2回繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シーディング剤の第1の導入が、前記反応器の上流で行われる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記シーディング剤が、核形成ゲル、ゼオライト結晶、任意の性質の鉱物粒子など及びさらにそれらの混合物から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
結晶化反応が、60℃~200℃、好ましくは80℃~160℃の温度で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
結晶化反応が、大気圧と1.5MPaとの間の圧力で行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
合成ゲルの補足物が、前記管状反応器の1つ以上の個所で前記反応媒体に添加される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
添加されるシーディング剤の総量が、前記合成ゲルに対して0.005重量%~10重量%、開始時に前記管状反応器に導入された前記合成ゲルに対して、好ましくは0.01重量%~5重量%、より好ましくは0.01重量%~3重量%に相当する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記濾過工程f)からの母液が再利用される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゼオライト結晶が、MFIタイプのゼオライト、MORタイプのゼオライト、OFFタイプのゼオライト、MAZタイプのゼオライト、CHAタイプのゼオライト、HEUタイプのゼオライト、FAUタイプのゼオライト、EMTタイプのゼオライト、LTAタイプのゼオライト、及び他のゼオタイプから選択されるゼオライトの結晶である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトの分野、より正確には、ゼオライト結晶の工業的合成の分野に関し、より詳細には、制御された粒径を有するゼオライト結晶の工業的合成の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライト結晶の合成(又は本明細書の残りの部分ではより簡単に「ゼオライト合成」)は、一般に蒸気の注入及び/又は加熱ジャケットにより合成ゲル及び/又は反応媒体を加熱しながら、大型撹拌「バッチ」反応器で工業的に従来行われている。合成ゲルの調製は、アルミン酸ナトリウム溶液とケイ酸ナトリウム溶液とを混合することからなり、この混合は、結晶化反応器の上流の装置で、又は結晶化反応器で直接行うことが可能である。
【0003】
その後、多くの場合、一般には40℃未満の温度で、一般には所望のゼオライト構造のタイプに応じて数十分から数十時間に及ぶより長い又は短い期間、低温熟成段階を行う必要がある。この熟成段階により、結晶化段階が高温で行われた後に、その成長によりゼオライト結晶を与える種結晶を形成することが可能になる。
【0004】
しかしながら、合成ゲルへの種の添加(シーディング方法)により、この低温熟成段階を排除することが可能になる。したがって、これらの条件下で、合成ゲルに導入される種の量を調整することにより結晶の平均サイズを制御することにより、ゼオライト結晶を形成できる反応媒体を形成することが可能である。
【0005】
したがって、このように例えば数十ナノメートルから、又は数百ナノメートルから数十マイクロメートルまで変化する様々な粒径のゼオライト結晶を得ることが可能、又は少なくとも理論的には可能であり、合成反応は、この合成に好適な動作条件では、より広く又はより狭い粒径分布を特徴とする比較的よく制御された、一般に単峰性粒径のゼオライト結晶の形成をもたらすことが理解される。
【0006】
しかしながら、ゼオライトの使用分野は、今日ますます多様化しており、精巧な技術がますます必要になっているため、多くの場合、単峰性、二峰性又は多峰性分布の制御された粒径を有し、そのうち半値全幅(FWHM)を規制及び制御することができる利用可能なゼオライトを有する必要がある。
【0007】
実際、最近では、対象となる用途に応じて、例えば、コンパクトさ、密度などを高めるために、制御された粒径、より具体的には調節された粒径のゼオライト結晶を提供できることが必要になり得る。さらに、これらの用途では、多くの場合使用済みのゼオライトを交換することが必要であり、したがって、これらの使用済みのゼオライトを同じ粒径特性を有する新しいゼオライトと交換できることが不可欠である。
【0008】
したがって、十分に制御され、とりわけ調節された、すなわち経時的に再現可能な単峰性又は多峰性の粒径分布を有するゼオライトを得ることを可能にする汎用性のある合成方法が求められている。
【0009】
比較的狭い単峰性粒径分布を有するゼオライト結晶をもたらす合成方法が既知である。しかしながら、同じ粒径特性を達成するために、いくつかの同一の継続的な合成(多くの場合「バッチ」合成)を非常に正確に再現することは多くの場合困難であるという事実に加えて、これらの技術は、一般に多峰性粒径分布を得ることを可能にしない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
異なる明確に定義されたサイズのゼオライト結晶を得るために、完全に明確に定義された単峰性分布を有するゼオライト結晶の物理的混合物を製造することが想定され得る。ゼオライト結晶の混合物、すなわち乾燥粉末の物理的混合物は、実際にはかなり不十分であり;実際、数十ナノメートルから数十マイクロメートルの粒径を有する結晶の均質な混合物を得るのは非常に困難である。
【0011】
したがって、制御された粒径、調節された粒径、単峰性又は多峰性の粒径分布、調整可能なFWHM、及び数十ナノメートルから数十ナノメートルマイクロメートルの粒径を有するゼオライト結晶を調製するための方法が必要とされ続けている。
【0012】
本出願人は、本発明の第1の主題を形成する以下に記載の方法によって、上記の目的が完全に又は少なくとも非常に部分的に達成できることを今や見出した。他の利点及びさらに他の主題は、以下の本発明の説明に現れるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、第1に、多峰性粒径分布を有し、サイズが0.02μm~20μmであるゼオライト結晶を調製するための方法であって、少なくとも次の
a)少なくとも1つのシリカ源、少なくとも1つのアルミナ源、及び任意であるが、好ましくは、少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物水溶液又はアルカリ土類金属水酸化物水溶液を混合することにより合成ゲルを調製する工程、
b)前記合成ゲルを管状反応器に供給する工程、
c)前記管状反応器又は前記管状反応器の上流への1つ以上のシーディング剤の第1の導入工程、
d)前記管状反応器への1つ以上の同一又は異なるシーディング剤の第2の導入工程、
e)前記シーディング剤の存在下で前記合成ゲルの前記管状反応器内での結晶化反応を行い、反応媒体を形成する工程、
f)製造された結晶を回収するために前記反応媒体を濾過する工程
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法は、結晶化反応が行われている間に少なくとも2回のシーディング剤の導入を特徴とする。したがって、工程d)は、1回、2回、3回以上、好ましくは1回、2回又は3回、より好ましくは1回又は2回繰り返され得る。結晶化反応の異なる進行度で少なくとも2回の導入が行われる。したがって、特に連続合成の場合、例えば連続的に動作する管状反応器の場合、少なくとも2つの導入は、異なる時点で、又は反応器の異なる場所で行われ得る。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、シーディング剤の第1の導入は反応器の上流で行われ、すなわち、シーディング剤は、結晶化が起こる反応器に導入する前に合成ゲルと混合される。
【0016】
合成ゲルは、調製されるゼオライトのタイプに応じて当業者に周知の任意のタイプの組成物であり得、典型的には、少なくとも1つのシリカ源及び少なくとも1つのアルミナ源並びに/又はゼオライト骨格を構成し得る任意の他の元素源、例えばリン源、チタン源、ジルコニウム源などを含む。アルカリ金属水酸化物若しくはアルカリ土類金属水酸化物、好ましくはアルカリ金属水酸化物、典型的には水酸化ナトリウムの少なくとも1つの水溶液及び/又はさらに有機構造指向剤若しくはテンプレートを添加することも可能であり、又はさらに好ましい。
【0017】
シリカ源は、当業者に周知の任意の供給源、特に溶液、好ましくはケイ酸塩、特にアルカリ金属のケイ酸塩若しくはアルカリ土類金属のケイ酸塩、又はコロイダルシリカの水溶液を意味することが理解される。
【0018】
アルミナ源は、当業者に周知の任意のアルミナ源、特にアルミネート、特にアルカリ金属アルミネート若しくはアルカリ土類金属アルミネート、例えばアルミン酸ナトリウムの溶液、好ましくは水溶液を意味すると理解される。
【0019】
シリカ及びアルミナの様々な溶液の濃度は、シリカ源、アルミナ源の性質、アルカリ金属水酸化物溶液若しくはアルカリ土類金属水酸化物溶液及び/又は1つ以上の有機構造指向剤が添加される、アルミナ源とシリカ源とのそれぞれの割合に応じて当業者の知識に従って、適合される。特に、例えば、国際ゼオライト協会(www.iza-online.org)のウェブサイトで合成されるゼオライトの機能として任意に使用される有機構造指向剤及び非限定的に、テトラメチルアンモニウム(TMA)、テトラ-n-プロピルアンモニウム(TPA)、メチルトリエチルアンモニウム(MTEA)の化学的性質に関する情報が見出される。
【0020】
様々なシリカ及びアルミナ溶液のそれぞれの割合及び濃度は、当業者に既知であるか、又は文献中のデータから調製することが望ましいゼオライトの性質に応じて当業者によって容易に適合され得る。
【0021】
工程a)からの合成ゲルは、塩基性媒体でシリカ源とアルミナ源とを混合することにより上記のように調製される。この混合は、ローターステーターせん断ミキサー、すなわち、高速で回転し、混合物をステーターを通過させるローターを備えるせん断ミキサーで行うことが有利であり、その形状は変化し得る。
【0022】
せん断の程度は、s-1のせん断速度γによって定義され、これは、ローターの先端速度をローターとステーターとの間のギャップの厚さで割った値に等しい。先端速度Vpは、回転速度Vr及びローターの直径dから式:Vp=Vrπdr(m.s-1で表される)に従って計算され、Vrはrev.s-1で表される回転速度であり、drはローターの直径(mで表される)であり、γはVp/eに等しく、式中eはローターとステーターとの間のギャップの距離(mで表される)を表す。
【0023】
一般に適用されるせん断速度は、10000s-1~200000s-1、好ましくは10000s-1~100000s-1である。
【0024】
合成ゲルは、例えば重力流、吸い上げ又はポンプ輸送により流体を移送するための任意の好適な手段により、管状反応器に導入される。反応器の入口での合成ゲルの流量及び/又は反応器の出口での結晶の製造の監視は、当業者に既知の任意の手段に従って、好ましくは任意に流量調整器と組み合わせたポンプによって、得られてもよい。
【0025】
「管状反応器」は、これらが、撹拌スピンドル、バッフル、制限、リング若しくはデフレクターなどの受動システム、又は振動若しくは脈動システム(反応媒体の前後の動きを例えばピストン、膜などの手段によって生成することを可能にする)など、及びさらにこれらの技術のうちの2つ以上を組み合わせたものであるかに関わらず、3より大きい、好ましくは10より大きい、より好ましくは50より大きい長さ対直径(又は等価直径)比を有し、少なくとも部分的に撹拌手段に用いられる結晶化反応ゾーンを画定する反応器又は反応器のシステムを意味すると理解される。本発明の好ましい実施形態では、例えばNiTechによる出願のUS2009/0304890に記載されているように、管状反応器には制限が設けられ、反応器内を循環する流体にパルスを付与することを可能にするシステムが装備される。
【0026】
合成ゲルへの1つ以上のシーディング剤の第1の導入は、管状反応器の上流で行うことが好ましい。この場合、シーディング剤は、管状反応器に導入される前に、工程a)で調製された合成ゲルと混合される。シーディング剤は、所望のゼオライトへの合成の方向付けを促進する液体形態、又はゲル、固体若しくは液体の形態での溶液又は懸濁液を意味すると理解される。所望のゼオライトへの合成の方向付けを促進するそのような固体及び液体は、当業者に周知であり、例えば、核形成ゲル、ゼオライト結晶、任意の性質の鉱物粒子など及びそれらの混合物から選択される。
【0027】
好ましい態様によれば、シーディング剤は、核形成ゲルであり、より好ましくは、前記核形成ゲルは、シリカ源(例えばケイ酸ナトリウム)、アルミナ源(例えばアルミナ三水和物)、任意であるが有利に強い無機塩基、例えば、言及する水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化カルシウムであるが、主要なもの及び最も一般的に使用されるもの並びに水の均質な混合物を含む。1つ以上の構造指向剤、典型的には有機構造指向剤も、任意に成核ゲルに導入されてもよい。
【0028】
シーディング剤は、当業者に周知の任意の技術に従って、好ましくは静的ミキサーを使用して合成ゲルと混合され得、これは前記混合物の均質化を促進する利点を有する。
【0029】
結晶化反応は一般に高温で、すなわち60℃~200℃、好ましくは80℃~160℃の温度で行われる。合成ゲルの結晶化は、管状反応器内で発生し、シーディング剤によって促進される。したがって、管状反応器は、結晶化反応媒体を含む。結晶化は、前記反応媒体に適用される温度によっても促進されるが、前述のように反応器内で前記反応媒体を撹拌する任意の静的又は動的手段によっても促進される。
【0030】
「促進した」という用語は、結晶化のより良い開始及び/又はより大きな結晶化動力学を意味すると理解される。
【0031】
結晶化反応は、圧力下、例えば自生圧力下、大気圧下又はより一般的には任意の圧力下、典型的には大気圧と1.5MPaとの間で行われ得る。
【0032】
先に示したように、本発明の方法は、シーディング剤の第1の導入(又は添加)に加えて、反応媒体における結晶化工程中にシーディング剤の少なくとも1回の他の添加が行われるという事実を特徴とする。本発明の方法中に添加されるシーディング剤は、すべて同一であっても異なっていてもよい。さらに、シーディング剤を添加するこの工程は、経時的に及び/又は管状反応器の他の箇所で繰り返されてもよい。
【0033】
本発明の方法の実施形態では、管状反応器は、管状反応器の入口の上流にシーディング剤を導入するための第1のシステムに加えて、管状反応器の少なくとも1つの箇所にシーディング剤を導入するための少なくとも1つの他のシステムを備え、管状反応器の1つ以上の箇所で1回又は数回シーディング剤の導入が行われることが理解される。
【0034】
したがって、例えば、本発明の特定の実施形態では、第1の結晶化反応の開始後、シーディング剤の第2の導入により、結晶の第2の集団の成長の開始が可能になることにより、二峰性分布を有するゼオライト結晶の合成がもたらされる。シーディング剤の第1の導入後の同じ導入箇所で、又は管状反応器の別の箇所で、シーディング剤の添加を再び繰り返すことにより、ゼオライト結晶の三峰性分布が得られる。
【0035】
本発明の非常に好ましい態様によれば、本方法は、管状反応器の1つ以上の箇所で連続的な方式で少なくとも2回のシーディング剤の添加を含む。
【0036】
当業者は、本発明の方法によって付与される大きな柔軟性を容易に理解することにより、制御及び調節された粒径分布を有するゼオライト結晶の集団を生成することを可能にする。
【0037】
また、それ自体が異なる構造のゼオライト結晶を得る目的で、異なる性質のシーディング剤及び/又は合成ゲルで動作させることが想定され得る。本発明の方法は、異なる構造のゼオライト結晶を合成するために具体的に実装され得る。しかしながら、これは、本発明の好ましい実施形態を構成しない。
【0038】
また、ゼオライト、特にシリコン及び/又はアルミニウムを形成する基本要素を提供するために、合成ゲルのサプリメントを栄養媒体として、管状反応器の1つ以上の箇所で反応媒体に添加することも想定され得る。補助的な合成ゲルは、通常、開始時に導入された合成ゲルの組成と類似又は同一の組成を有する。任意に添加され得る合成ゲルの量は、最初に導入された量に対して少量の添加、すなわち、50重量%未満、好ましくは30重量%未満を表す。
【0039】
本発明の方法は、好ましくは連続的に動作する管状反応器の異なる場所に少なくとも2段階でシーディング剤を導入することにより調整可能及び調節される結晶の多峰性サイズ分布を得ることを可能にする。好ましい実施形態では、本発明の方法は、所望の多峰性粒径分布を得るために、管の様々な場所で1つ以上のシーディング剤及び合成ゲル(栄養溶液)が導入される管状反応器で行われる連続合成方法である。
【0040】
本発明の方法で添加されるシーディング剤の総量は、合成ゲルに対して0.005重量%~10重量%、開始時に管状反応器に導入された合成ゲルに対して好ましくは0.01重量%~5重量%、より好ましくは0.01重量%~3重量%に相当する。
【0041】
管状反応器の入口のできるだけ近く、すなわち反応器の入口の直前又は直後に導入されたシーディング剤は、最大の結晶を生成するが、これはその成長が起こる時間を有するのに対して、その後及び反応器の1つ以上の他の箇所で導入されたシーディング剤は、より小さな結晶を与えるためである。
【0042】
結晶化反応の最後に、一方で製造された結晶と他方での母液とを分離するために、反応媒体が濾過される(工程f)。この濾過は、当業者に周知の任意の方法、例えば、遠心分離、フィルタープレス濾過、ベルトフィルター濾過、回転フィルター濾過などから選択される1つ以上の方法に従って行われ得る。
【0043】
工程f)の最後に得られた結晶は、洗浄、陽イオン交換、乾燥、含浸、活性化などのような当業者に周知の1つ以上の従来の処理に任意に用いられてもよく、これ又はこれらの処理が、バッチモード又は連続的に、有利には連続的に行われることが可能である。例えば、得られた結晶は、まだ存在している可能性のある残留母液を除去するために、水で1回以上洗浄されてもよい。
【0044】
得られた結晶はまた、数分から数時間、典型的には数分から10時間で変化し得る期間、例えば40℃~150℃の温度で、ゼオライト結晶を乾燥するための従来の技術に従って乾燥され得る。40℃未満の温度での乾燥動作は、はるかに長いため経済的に不利であることを証明することができるが、150℃を超える乾燥温度では、まだ湿っているゼオライト結晶の多少の劣化が生じる可能性がある。
【0045】
乾燥後、ゼオライト結晶をそのまま使用してもよいが、ここでも、例えば150℃~800℃の温度で、数分から数時間、典型的には数分から10時間で変化する期間、当業者に周知の従来の活性化技術に従って、有利に活性化される。
【0046】
濾過工程f)から生じる母液は、有利に再利用され得る。したがって、この再利用の利点のうちの1つは、母液を反応媒体又はシリケート溶液又はアルミネート溶液(典型的には、それぞれ方法の工程a)でのシリカ源及びアルミナ源である)又は合成ゲルに直接導入することにより、水酸化ナトリウムの消費量の削減が可能になることであるが、エネルギー消費量も大幅に削減可能になり得る。再利用される前に、母液は、限外濾過、再濃縮、蒸留などから選択された1つ以上の処理を任意に受けていてもよい。
【0047】
本発明の方法は、非常に有利に連続的に行われるが、バッチモードで多峰性分布を有するゼオライト結晶の合成も可能である。
【0048】
したがって、本発明の方法は、様々なレベルでのシーディング溶液のいくらかの導入を伴う、多峰性粒径分布を有するゼオライト結晶の連続合成を可能にし、これは均質で再現性があり経時的に安定な方式である。
【0049】
粒径分布の決定は、ここでは、ゼオライト結晶の直径の粒子数-サイズ分布に対応する。この決定は、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察により得られた画像から行われる。このために、少なくとも3000の倍率で一連の画像が撮影される。画像に存在するすべての結晶は、少なくとも300個の結晶を測定するために、専用ソフトウェア、例えばLoGraMiによって公開されたSmile Viewソフトウェアなどを使用して測定され、その後、数による分布は、結晶の粒径に適合したカテゴリー、例えば、マイクロメートル結晶を数える場合は0.2μmごとのカテゴリー、又は数十ナノメートルの結晶を数える場合は0.02μmごとのカテゴリーのヒストグラムの形式でプロットされる。
【0050】
「多峰性粒径分布」とは、多峰性サイズの分布、すなわち少なくとも2つの「分離した」ピーク、言い換えれば少なくとも2つの「分解した」ピークを有する分布を意味すると理解される。ピークの上部での直径の値は、「モード」又は「支配的な値」と呼ばれ、ピークの最も一般的な値を表す。分布に2つの別個の(又は分解した)ピークがある場合、その分布は、双峰性であると言われる。
【0051】
多峰性の概念は、ピークの分離又は非重畳を特徴とする「分解能係数」として既知の「基準」Rを使用して定義される。
【0052】
様々なピークをガウス分布と比較し、ガウス分布は、モードd及び半値幅δを特徴とし、そこからピークの底部の幅ω=1.7δを推定することが可能である。
【0053】
2つの隣接するピークA及びBの分解能係数Rは、次式:
R=2(dB-dA)/(ωB+ωA)、
(式中、dA及びdBは、それぞれピークA及びBのモード(μm)であり、ωA及びωBは、それぞれピークA及びBの底部の幅(μm)である)を使用して従来から定義されている(例えば、Marie-Paule Bassez:http://chemphys.u-strasbg.fr/mpb/teach/chromato1/img0.htmlによる「Notions fondamentales de chromatographie」[基本的なクロマトグラフィーの概念]を参照)。
【0054】
一般的なルールとして、Rの値が1.5より大きい場合、2つのピークは分解されているか、完全に分離しているとみなされる。本発明の文脈では、粒径分布は、分解能係数Rが0.5より大きい場合、モダリティに差がある。本説明では、少なくとも2つのピークが分解されるため、粒径分布は多峰性であるとみなされる。粒径分布が2つの分解されたピークのみを含む場合、そのとき二峰性粒径分布が参照される。
【0055】
したがって、本発明による方法は、結晶が制御又は調節された、二峰性又は多峰性の粒径分布を有するゼオライトの製造を可能にし、例えば今日既知である従来の方法による製造で観察されたものよりはるかに低い製造コストによって、この製造を工業的に非常に容易に行うことが可能であり、したがって、制御された又は調節された粒径のそのようなゼオライトの大量の製造を可能にする。
【0056】
本発明の方法に従って調製することができるゼオライトは、任意のタイプのものであってよく、例えば、非限定的に、MFIタイプのゼオライト、特にシリカライト、MORタイプ、OFFタイプ、MAZタイプ、CHAタイプ及びHEUタイプの任意のゼオライト、FAUタイプの任意のゼオライト、特にゼオライトY、ゼオライトX、ゼオライトMSX、ゼオライトLSX、EMTタイプのゼオライト、又はLTAタイプの任意のゼオライト、すなわちゼオライトA、さらに例えばチタノシリカライトなどの他のゼオタイプであってもよい。
【0057】
「ゼオライトMSX」(中型シリカX)という用語は、Si/Al原子比が約1.05~約1.15で制限が含まれるFAUタイプのゼオライトを意味する。「ゼオライトLSX」(低シリカX)という用語は、Si/Al原子比が約1に等しいFAUタイプのゼオライトを意味する。
【0058】
本発明による方法は、MFIタイプのゼオライト、特にFAUタイプのシリカライト、特にゼオライトY、ゼオライトX、ゼオライトMSX、ゼオライトLSX及びLTAタイプのゼオライト、すなわち、ゼオライトA及びさらにCHAタイプのゼオライト及びHEUタイプのゼオライトから選択されるゼオライトの調製に特に好適である。
【0059】
さらに、本発明による方法は、FAUタイプの任意のゼオライト、特にゼオライトX、ゼオライトMSX、ゼオライトLSXの調製に非常に特に好適である。MFIタイプのゼオライト、特にシリカライトも、本発明の方法に従って非常に有利に調製され得る。
【0060】
さらに、本発明の連続調製方法は、上記のゼオライトの調製に限定されず、階層的多孔性を有する対応するゼオライトも含む。階層的多孔性を有するゼオライトは、メソ細孔のネットワークに連結されたミクロ多孔性ネットワークを含む固体であり、したがって、従来技術から既知のメソ多孔性ゼオライトの活性部位へのアクセス可能性と「従来の」ゼオライト(メソ多孔性なし)の最大結晶化度及び最大ミクロ多孔性の特性とを調和させることが可能になる。この場合、特定の構造指向剤、例えば文献のFR 1 357 762に記載されているオルガノシラン型の構造指向剤が工程a)の反応媒体に導入される。
【0061】
したがって、本発明の合成方法は、少なくとも二峰性の粒径分布が均質、制御され又は調節されているゼオライト結晶の容易で経済的な工業的合成を可能にする。さらに、本発明による方法は、連続モードで行われる場合、経時的に非常に安定していることが観察された。これらのゼオライト結晶は、多くの応用分野で非常に興味深い用途を見出す。
【0062】
具体的には、本発明の方法により、様々な粒径の結晶の混合物で得られるものとは異なり、調節され均質な方式で多峰性分布のゼオライト結晶をより容易に得ることが今や可能になった。
【0063】
本発明の方法により得られたゼオライト結晶の多峰性粒径分布により、特に高いかさ密度を有し、特に単峰性の粒径分布の結晶と比較してより高い結晶を得ることが可能になる。具体的には、小さな結晶が大きな結晶間の空間を占めるとみなすことができる。
【0064】
本発明の方法で得られたゼオライト結晶のこの高いかさ密度により、特に吸着容量に関して非常に際立った吸着性能を得ることが可能になる。
【0065】
したがって、本発明の方法で得られたゼオライト結晶は、気体及び液体の吸着、分離及び精製の分野で非常に興味深い用途を見出す。非限定的な例として、本発明の方法により得られたゼオライト結晶は、工業用ガスの精製、窒素と酸素との分離、天然ガス若しくは合成ガスの精製、又は様々な石油化学留分の精製、精製中の異性体の分離などの様々な用途における、圧力スイング及び/若しくは温度スイング工程などの吸着分離若しくは精製工程、又はクロマトグラフィータイプの分離工程(固定床、移動床、模擬移動床)で使用される凝集ゼオライト吸着剤の成分としてのポリマー系複合材料における吸着剤フィラーとして有利に使用され得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多峰性粒径分布を有し、サイズが0.02μm~20μmであるゼオライト結晶を調製するための方法であって、当該多峰性粒径分布には少なくとも2つの異なったピークが存在し、当該異なったピークの分解能係数Rは0.5より大きく、当該分解能係数Rは式:R=2(dB-dA)/(ωB+ωA)、
(式中、dA及びdBは、それぞれピークA及びBのモード(μm)であり、ωA及びωBは、それぞれピークA及びBの底部の幅(μm)である)で規定され、
少なくとも次の
a)少なくとも1つのシリカ源、少なくとも1つのアルミナ源、及び任意である少なくとも1つのアルカリ金属水酸化物水溶液又はアルカリ土類金属水酸化物水溶液を混合することにより合成ゲルを調製する工程、
b)前記合成ゲルを管状反応器に供給する工程、
c)前記管状反応器又は前記管状反応器の上流への1つ以上の第1のシーディング剤の第1の導入工程、ここで、先の結晶化反応が60℃~200℃の温度で行われ、
d)前記先の結晶化反応の開始後の、前記管状反応器への1つ以上の第1のシーディング剤とは異なる第2のシーディング剤の第2の導入工程、
e)前記第1及び第2のシーディング剤の存在下で前記合成ゲルの前記管状反応器内で、60℃~200℃の温度で結晶化反応を行い、反応媒体を形成する工程、
f)製造された結晶を回収するために前記反応媒体を濾過する工程
を含み、
前記第1及び第2のシーディング剤が、独立して、核形成ゲル、ゼオライト結晶、鉱物粒子及びさらにそれらの混合物から選択され、
前記ゼオライト結晶は、MFIタイプのゼオライトの結晶、FAUタイプのゼオライトの結晶、LTAタイプのゼオライトの結晶、CHAタイプのゼオライトの結晶及びHEUタイプのゼオライトの結晶から選択される、
方法。
【請求項2】
工程d)が、1回、2回、又は3回以上行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のシーディング剤の第1の導入が、前記反応器の上流で行われる、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
結晶化反応が、大気圧と1.5MPaとの間の圧力で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
合成ゲルの補足物が、前記管状反応器の1つ以上の個所で前記反応媒体に添加される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
添加される第1及び第2のシーディング剤の総量が、開始時に前記管状反応器に導入された前記合成ゲルに対して0.005重量%~10重量%に相当する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記濾過工程f)からの母液が再利用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【外国語明細書】