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特開2022-81662害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081662
(43)【公開日】2022-05-31
(54)【発明の名称】害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾール
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/06 20060101AFI20220524BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20220524BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220524BHJP
   A01N 53/06 20060101ALI20220524BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20220524BHJP
   A01N 37/10 20060101ALI20220524BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20220524BHJP
   A01N 65/00 20090101ALI20220524BHJP
   A01N 65/22 20090101ALI20220524BHJP
【FI】
A01N25/06
A01P7/02
A01P7/04
A01N53/06 110
A01N53/08 110
A01N53/08 125
A01N53/08 100
A01N37/10
A01N37/04
A01N65/00 A
A01N65/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045000
(22)【出願日】2022-03-22
(62)【分割の表示】P 2020102002の分割
【原出願日】2019-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2018234658
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】原田 悠耶
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋子
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】
【課題】害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法を提供する。
【解決手段】防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、
前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物を含み、
前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、
前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、
前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるように前記エアゾール原液を噴射する害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項2】
前記エアゾール原液の充填量をa、前記噴射剤の充填量をb、前記エアゾール原液の比重をS、前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力をFとしたとき、以下の式(1):
δ = [a/(a+b)] × S × F ・・・ (1)
で定義するδが1.0~30の範囲にあるように構成されている請求項1に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項3】
以下の式(2):
0.1 ≦ [a/(a+b)] ≦ 0.5 ・・・ (2)
を満たすように構成されている請求項2に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項4】
以下の式(3):
3.0 ≦ δ ≦ 15 ・・・ (3)
を満たすように構成されている請求項2又は3に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項5】
前記難揮散性化合物は、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びジノテフランからなる群から選択される少なくとも1種の匍匐害虫防除用化合物である請求項1~4の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項6】
前記難揮散性化合物は、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種のダニ防除用化合物である請求項1~4の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項7】
前記有機溶剤は、炭素数が2~3の低級アルコールである請求項1~6の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項8】
前記屋内空間の床面の面積は、7.5~26.6mである請求項1~7の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除用エアゾール。
【請求項9】
防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、
前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物を含み、
前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、
前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、
前記定量噴射バルブを介した一回の噴射処理により屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるように前記エアゾール原液を噴射する害虫、ダニ防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
床面や壁を徘徊するゴキブリ等の匍匐害虫や屋内塵性ダニ類を対象とし、匍匐害虫やダニ類が生息する場所や通り道に施用するタイプの殺虫剤としては、(1)燻煙剤、(2)全量噴射型エアゾール、(3)塗布型エアゾール、及び(4)ベイト剤が代表的で、それぞれ剤型上の特長を有している。
【0003】
(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールは、薬剤を一気に室内の隅々まで放散し、所定時間室内を密閉して薬剤濃度を高め、その間、人が入室できないことから、医薬品の範疇に該当する。これらの製剤は、一度施用すれば2~4週間、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する駆除効果が持続する反面、使用前の手順に手間がかかること、薬剤の安全性に格別留意する必要があること等から、手軽に頻繁に採用される剤型とは言い難い。
【0004】
一方、局所的に面処理する(3)塗布型エアゾールや、点処理の(4)ベイト剤は、人体に対する作用が緩和な医薬部外品に該当し、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールに較べると使い易いが、空間処理でないため薬剤と害虫やダニ類との接触効率が劣り、必ずしも効率的な駆除方法を提供できるものでもない。
【0005】
このように、従来、空間処理でありながら医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤の開発は困難と考えられてきた。
【0006】
ところで、特許文献1は、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、溶剤として特定の構造を有する化合物を用い、空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるべく、ピエゾ式噴霧器により殺虫液を少量ずつ時間をかけて蒸散させる匍匐害虫駆除方法を開示する。この特許文献1の方法は、液体電気蚊取りのように、微量の薬剤を継続して長時間にわたり空間に放散し、ゴキブリを駆除することを提案したものであるが、蚊に較べて数十倍薬剤に強いゴキブリを対象とする以上、強力な殺虫成分を使用せざるを得ず、人体に対する安全性の懸念が避けられない。
【0007】
本発明者らは、先に、空間処理剤であって、医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤を開発するにあたり、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールのような2~4週間に一度の頻度で使用される製剤ではなく、1回定量噴霧処理すれば実用条件下で数日間防除効果が持続する、即ち基本的に1~2日に1回使用する製剤であって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指して鋭意検討を行った。その結果、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類のみならず、噴霧当日は飛翔害虫にも有効で、極めて有用な「害虫、ダニ防除方法」(特許文献2参照)を発明した。なお、この発明は、飛翔害虫に対する実用的な駆除効果をも実現するべく、エアゾールの噴射特性として、噴射後の噴霧粒子が、浮遊性粒子と、壁面等への付着並びに床面への沈降に関わる付着性粒子とに形成されるとともに、好ましくは、全体の噴霧粒子のうちの30~80%が噴射処理1時間後までに壁面等に付着するか、もしくは床面に沈降するように設計した。また、特許文献2の発明当時、定量噴射バルブの噴射容量としては0.2~0.4mLが一般的で、当該製剤は1回の処理において数プッシュ(噴射ボタンの押下)することが基本とされた。
【0008】
一方、特許文献3には、定量噴射バルブを用いる匍匐害虫駆除用エアゾール製品及び匍匐害虫駆除方法が開示されている。このエアゾール製品は、エアゾール容器に収容される噴射剤の配合比率を高めるとともに、有効成分を溶解する溶剤の蒸気圧を低めにし、エアゾール容器から噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度を遅くすることで、当該粒子が屋内の隙間の奥まで飛散するようにしたことを特徴とする。即ち、特許文献3の方法は、定量噴射処理であるとしても(3)塗布型エアゾールによる局所処理に該当し、空間処理に当たらない。従って、一部の隙間において局所的に高い駆除効果が得られたとしても、屋内全体にわたって匍匐害虫を効率的に駆除できるわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009-143868号公報
【特許文献2】特許第5517122号公報
【特許文献3】特開2018-12676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
かかる状況を鑑み、本発明者らは、特許文献2に基づく空間定量噴射処理が最も効率的な害虫、ダニ防除方法であるとの認識に則り、それの利便性を改善するとともに、特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する更なる効能アップを目指して検討を行った。まず、近年開発されている噴射容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを採用し、必要な有効成分量をワンプッシュで噴射可能とした。そのうえで、空間処理において、匍匐害虫のなかでも特にゴキブリ等に対する防除効果をアップさせるには、噴射後の噴霧粒子を、処理空間に浮遊する浮遊性粒子と、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成するだけでは足りず、付着性粒子を特許文献2の噴射特性と比較してより一層優占的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めることが肝要との結論に達した。そして、本発明者らは、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力が、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであることを知見し、試行錯誤を重ね試験を繰返し行った結果、前記エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力につき最適な範囲を特定することによって本発明を完成するに至ったのである。
【0011】
本発明の目的は、容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
〔1〕防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、
前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、
前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、
前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、
前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるように前記エアゾール原液を噴射し、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上を前記屋内空間の床面全体に拡散させて付着させる害虫、ダニ防除方法。
〔2〕前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、前記エアゾール原液の充填量をa、前記噴射剤の充填量をb、前記エアゾール原液の比重をS、前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力をFとしたとき、以下の式(1):
δ = [a/(a+b)] × S × F ・・・ (1)
で定義するδが1.0~30の範囲にあるように構成されている〔1〕に記載の害虫、ダニ防除方法。
〔3〕前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、以下の式(2):
0.1 ≦ [a/(a+b)] ≦ 0.5 ・・・ (2)
を満たすように構成されている〔2〕に記載の害虫、ダニ防除方法。
〔4〕前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、以下の式(3):
3.0 ≦ δ ≦ 15 ・・・ (3)
を満たすように構成されている〔2〕又は〔3〕に記載の害虫、ダニ防除方法。
〔5〕前記難揮散性化合物は、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びジノテフランからなる群から選択される少なくとも1種の匍匐害虫防除用化合物である〔1〕~〔4〕の何れか一つに記載の害虫、ダニ防除方法。
〔6〕前記難揮散性化合物は、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種のダニ防除用化合物である〔1〕~〔4〕の何れか一つに記載の害虫、ダニ防除方法。
〔7〕前記有機溶剤は、炭素数が2~3の低級アルコールである〔1〕~〔6〕の何れか一つに記載の害虫、ダニ防除方法。
〔8〕前記屋内空間の床面の面積は、7.5~26.6mである〔1〕~〔7〕の何れか一つに記載の害虫、ダニ防除方法。
〔9〕防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、
前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、
前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、
前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、
前記定量噴射バルブを介した一回の噴射処理により屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるように前記エアゾール原液を噴射した場合、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上が、前記屋内空間の床面全体に拡散して付着する害虫、ダニ防除用エアゾール。
【発明の効果】
【0013】
本発明の害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールによれば、難揮散性化合物を含む特定の害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュして噴射処理するだけで、その処理区域において特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させることができる。利便的かつ効果的な害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供するので、極めて実用的である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では、防除成分として、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物が使用される。かかる防除成分は、本発明の害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュする噴射処理後、主に付着性粒子として床面に沈降し、その屋内空間において特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対して優れた防除効果を示す。なお、本発明では、ノックダウン効果や致死効果に基づく駆除効果に加え、忌避効果を合わせて防除効果と呼ぶ。駆除効果が低くても十分な忌避効果があれば、実用上、防除が達せられる場面も多い。
【0015】
即ち、本発明は、特許文献2に基づく空間定量噴射処理が最も効率的な害虫、ダニ防除方法であるとの認識に則り、それの利便性を改善するとともに、特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する更なる効能アップを目指したものである。まず、近年開発されている容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを採用し、必要な有効成分量をワンプッシュで噴射可能とした。そのうえで、空間処理において、匍匐害虫のなかでも特にゴキブリ等に対する防除効果をアップさせるには、噴射後の噴霧粒子から形成される浮遊性粒子と付着性粒子のうち付着性粒子の優占度を高め、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面へ沈降する比率を高めることが肝要との方向性に基づき達成されたのである。なお、本発明の付着性粒子は、沈降に至る過程において隙間や物陰にも進入するため、防除成分としてピレスロイド系化合物を用いた場合には、ゴキブリ等が隙間や物陰から飛び出すフラッシング効果も十分期待し得るものである。
【0016】
本発明で用いる難揮散性の防除成分としては、主にゴキブリに代表される匍匐害虫を防除するための匍匐害虫防除用化合物、及び/又は主に屋内塵性ダニ類を防除するためのダニ防除用化合物を用いることができる。匍匐害虫防除用化合物としては、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びイミプロトリン等のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、及びフェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、及びクロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他にフィプロニル、インドキサカルブ等があげられる。これらの中では、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びジノテフランが好ましい。なお、ピレスロイド系化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。
【0017】
ダニ防除用化合物としては、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジブチル、p-メンタン-3,8-ジオール、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート、フェノトリン、及びディート等があげられるが、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、p-メンタン-3,8-ジオール、フェノトリン、及びディートが好適である。
【0018】
本発明の害虫、ダニ防除方法は、防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液を少量一定量空間噴射する。エアゾール原液中の防除成分含有量は、1.0~70w/v%程度であることが好ましい。エアゾール原液中の防除成分含有量が1.0w/v%未満であると所望の防除効果が得られず、70w/v%を超えるとエアゾール原液の液性安定化の点で困難を伴う。
【0019】
本発明では、上記難揮散性の防除成分に加え、空間噴射処理後、噴霧粒子のある程度が気中に浮遊残存し、飛翔害虫に対しても防除効果を発揮し得るように、30℃における蒸気圧が2×10-4mmHg以上、1×10-2mmHg未満である常温揮散性の防除成分を加えてもよい。かかる常温揮散性防除成分としては、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、及びフラメトリン等があげられる。常温揮散性防除成分は、難揮散性の防除成分と共に一部床面や壁面に付着すると、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を相乗的に高め得ることが認められている。なお、常温揮散性防除成分には、蒸気圧や安定性、基礎殺虫効力等を考慮すると、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンが好ましく、これらの化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。
【0020】
本発明では、上記難揮散性の防除成分を溶解するために有機溶剤を配合し、エアゾール原液を構成する。かかる有機溶剤としては、炭素数が2~3の低級アルコール、ノルマルパラフィンやイソパラフィンのような炭化水素系溶剤、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)やラウリン酸ヘキシルのようなエステル系溶剤、炭素数3~10のグリコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤等があげられるが、エタノールやイソプロパノール(IPA)に代表される炭素数が2~3の低級アルコールが好ましい。
【0021】
本発明の害虫、ダニ防除方法は、難揮散性の防除成分を含む害虫、ダニ防除用エアゾールを用い、一回当たりの噴射容量を1.0~5.0mLとして屋内空間に噴射処理を行うことにより、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させるものである。屋内空間のサイズは、4.5~8畳の部屋に相当する容積18.8~33.3m(面積7.5~13.3m、高さ2.2~3.0m)であることが好ましい。
【0022】
噴射後の噴霧粒子は、処理空間に浮遊する浮遊性粒子、もしくは処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成されるが、本発明者らは、付着性粒子を一層優占的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めるための検討を行った。その結果、本発明者らは、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力が、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであることを知見し、それらの最適な範囲を特定するに至った。即ち、エアゾール原液の比重が0.85~1.15、好ましくは0.89~1.10であり、噴射処理の噴射力が噴射距離5cmにおいて10~50gf、好ましくは15~35gfであれば、噴射から1時間後までに防除成分の60%以上が屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着し、匍匐害虫、及びダニに対する優れた防除効果を奏し得ることを確認できたのである。なお、防除成分が「床面全体にわたり沈降・付着すること」について、防除成分が実際に床面全体にわたって沈降・付着しているかをその都度確認する必要はなく、エアゾールが処理空間内において本発明の趣旨に沿った態様で噴射されていれば、噴射された防除成分の床面に対する沈降・付着状態に多少の分布や偏りがあったとしても、防除成分が床面全体にわたり沈降・付着しているものと見做すことができ、このように見做しても実用上差支えはない。エアゾール原液の比重が0.85未満であると、噴霧粒子の床面への付着量が不足する傾向があり、エアゾール原液の比重が1.15を超えると、逆に噴霧粒子の沈降が速やか過ぎて床面全体への拡散性が不十分となる。また、噴射処理の噴射力が10gf未満であると、噴射力が不足して床面全体への拡散性が不十分となる傾向があり、噴射力が50gfを越えても良好な拡散性が得られない。なお、エアゾールの噴射力は、エアゾール原液の処方、エアゾールの内圧、噴口の形状等を変更することで、適宜調整することができる。
【0023】
更に、害虫、ダニ防除用エアゾールは、エアゾール原液の充填量をa、噴射剤の充填量をb、エアゾール原液の比重をS、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力をFとしたとき、以下の式(1):
δ = [a/(a+b)] × S × F ・・・ (1)
で定義するδが1.0~30の範囲にあることが好ましく、3.0~15の範囲にあることがより好ましい。
【0024】
δが1.0~30の範囲にあれば、噴霧粒子が沈降したときに十分な量の防除成分が床面全体へ均一に拡散することで、好ましい防除効果が得られる。防除成分が床面全体へ均一に拡散するのは、害虫、ダニ防除用エアゾールから噴射される噴霧粒子の初速が適切なものとなり、噴射後、速やかに噴霧粒子が屋内空間の隅々まで行きわたるためと考えられる。δが1.0未満であると、防除成分の床面への付着量が不足する場合がある。一方、δが30を越えると、床面全体への拡散性が不十分となる場合がある。そのため、δが1.0~30の範囲を外れると満足のいく防除効果を奏し得ない虞がある。
【0025】
害虫、ダニ防除用エアゾールは、害虫、ダニ防除用エアゾールの全容量(a+b)に対するエアゾール原液の充填量aの容量比率[a/(a+b)]が、以下の式(2):
0.1 ≦ [a/(a+b)] ≦ 0.5 ・・・ (2)
を満たすことが好ましい。容量比率が上記の範囲にあれば、十分な量の防除成分が床面全体へ均一に拡散する。容量比率が0.1より小さく噴射剤が多すぎると、防除成分の床面への付着量が不足する。一方、容量比率が0.5を超えると、噴霧粒子の沈降が速やか過ぎて床面全体への拡散性が不十分となる。
【0026】
本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールは少量噴射であるため、敢えて火気に対する危険性に留意する必要はないが、できる限り火気に対する危険性を低減させる観点から水性化処方を採用することもできる。この場合、エアゾール原液に含まれる水の量は20~70v/v%程度が適当であり、噴霧粒子の噴射パターンに影響を与えない範囲で、可溶化助剤として若干量の非イオン系界面活性剤を添加してもよい。非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどがあげられ、なかでも、エーテル類が適している。
【0027】
エアゾール原液には、上記成分に加え、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等を例示できる。また、芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などがあげられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明で用いられる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテルやハイドロフルオロカーボン等の液化ガス、及び窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスがあげられ、そのうちの一種または二種以上を適宜採用することができる。噴射剤は噴霧粒子の床面や壁への付着率を考慮して、適宜決定すれば良いが、通常LPGを主体としたものが使いやすい。なお、噴射剤は、ゲージ圧(20℃)を0.1~0.7MPaに調整して使用することが好ましい。
【0029】
上記害虫、ダニ防除用エアゾールは、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備え、屋内で一定量噴射処理に供される。従来、定量噴射バルブの噴射容量は0.2~0.4mLであったが、本発明で用いる定量噴射バルブにおいては容量の増量に伴い、必要な有効成分量がワンプッシュで噴射可能となった。その他、噴口、ノズル、容器等の形状については、その用途、使用目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、上から押して噴射するボタンと斜め上方向きのノズルを備えた卓上タイプとしたり、小型容器の携帯用として設計することができる。
【0030】
本発明の害虫、ダニ防除方法では、こうして得られた害虫、ダニ防除用エアゾールを用い、一回当たりの噴射容量を1.0~5.0mL、好ましくは1.0~3.0mLとして、屋内空間で空中に向けて噴射処理を行うことにより、気中への防除成分の放出量が0.1~50mg/m、好ましくは0.5~50mg/mとなるように設定されている。4.5~8畳の部屋に相当する容積が18.8~33.3m(面積7.5~13.3m、高さ2.2~3.0m)の屋内空間で噴射処理を行う場合、通常、エアゾール原液を1回噴射することにより、気中への防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるが、より容積の大きな屋内空間においては、その屋内空間の容積にあわせて気中の防除成分の放出量が0.1~50mg/mとなるようにエアゾール原液を複数回噴射することで、屋内空間の大きさに関わらず同様の防除効果を得ることができる。例えば、9~16畳の部屋に相当する容積が37.6~66.6m(面積15~26.6m、高さ2.2~3.0m)の屋内空間で噴射処理を行う場合、エアゾール原液を2回噴射することにより、気中への防除成分の放出量は0.1~50mg/mとなる。当該害虫、ダニ防除用エアゾールの使用頻度としては、基本的に1~2日に一度、防除成分の放出量が上記の範囲となるように施用すれば、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対して数日間防除効果を維持できる。また、常温揮散性の防除成分を併用することによって、飛翔害虫に対する防除効果を付与することも可能である。
【0031】
本発明の害虫、ダニ防除方法は、特に、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、アリ類、トコジラミ、ネッタイトコジラミ等のトコジラミ類、コクヌストモドキ、コクゾウムシ、シバンムシ、ダンゴムシ、ワラジムシなどの匍匐害虫、及びケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類の防除に有効である。しかしながら、これらの匍匐害虫、ダニ類に限定されず、室内で飛翔して人に被害や不快感を与える害虫、例えば、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ユスリカ類、イエバエ、チョウバエ、ブユ類、アブ類、ハチ類、ヨコバイ類などの各種害虫の防除にも十分適用されるものである。
【実施例0032】
具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを更に詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〕
フェノトリン53w/v%とメトフルトリン0.7w/v%とをエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。エアゾール原液の容量比率[a/(a+b)]が0.4となるように、このエアゾール原液(a)12mLと、噴射剤として液化石油ガス(b)18mLとを、噴射容量が1.0mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器(耐圧容器)に加圧充填して、実施例1の害虫、ダニ防除用エアゾールを得た。このエアゾール原液の比重は0.93であり、本エアゾールの噴射距離5cmにおける噴射力は26gfであった。また、δは9.0であった。
【0034】
ほぼ密閉した容積25mの部屋(6畳の部屋に相当 面積10m)の中央で、害虫、ダニ防除用エアゾールをやや斜め上方に向けてワンショットすることにより噴射処理を行った。床面への防除成分の付着率(%)は、後述するガスクロマトグラフィーによる分析結果とエアゾールからの防除成分の放出量とから算出した。その結果、この噴射処理により噴射された全体の噴霧粒子のうちの72%(すなわち、防除成分の放出量の72%)が噴射処理から1時間後までに床面全体にわたり沈降・付着したことが確認された。そして、噴射処理から数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかった。また、ほぼ密閉した容積50mの部屋(12畳の部屋に相当 面積20m)の中央で、害虫、ダニ防除用エアゾールをやや斜め上方に向けて2回噴射することにより噴射処理を行ったところ、容積25mの部屋の場合と同様に、匍匐害虫に対する防除効果を示すことも確認できた。
【0035】
〔実施例2~24、比較例1~4〕
実施例1に準じて表1に示す各種害虫、ダニ防除用エアゾールを調製した。なお、実施例2~21、23~24、比較例1、3~4の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が1.0mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用い、実施例22の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が2.2mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用い、比較例2の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が0.4mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用いた。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例1~24、比較例1~4の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、下記に示す試験を行った。屋内塵性ダニ類に対しては、まず駆除効果を調べ、駆除効果が乏しい場合、忌避効果を評価した。試験結果を纏めて表2に示す。
【0038】
(1)匍匐害虫に対する駆除効果
20×20cmのガラス板合計12枚(チャバネゴキブリ用、ワモンゴキブリ用、及びクロヤマアリ用各4枚)を閉めきった容積25mの部屋(面積10m)の4隅に設置し、各ガラス板の上に直径約20cmのプラスチックリングを置き、各リング内に所定の供試昆虫(チャバネゴキブリ:♀成虫5匹、ワモンゴキブリ:幼虫5匹、クロヤマアリ:5匹)を放って自由に徘徊させた。供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット(噴射容量:実施例1~21、23~24、比較例1、3~4 1.0mL、実施例22 2.2mL、比較例2 0.4mL)噴射した。24時間放置して薬剤に暴露させた後、ガラス板を供試昆虫を含むリングごと別部屋に移し、餌を与え、更に24時間後に供試昆虫の致死率を求めた。
【0039】
(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果
直径9cm、高さ6cmの腰高シャーレ8個(コナヒョウヒダニ用、及びケナガコナダニ用各4個)を閉めきった容積25mの部屋(面積10m)の4隅に設置し、腰高シャーレ内に所定の供試ダニ各約200匹ずつ入れて供試した。供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット噴射した。24時間放置して薬剤に暴露させた後、供試ダニの致死率を求めた。
【0040】
(3)屋内塵性ダニ類に対する忌避効果
上記「(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果」試験において、供試ダニの替わりに直径約4cmの綿布を部屋の4隅に設置し、供試エアゾールをワンショット噴射した。噴射から24時間後にこの綿布を取り出して直径4cmのシャーレにはめ込み、シャーレの中央部に誘引用培地50mgを置いた。これとは別に、直径9cmのシャーレに供試コナヒョウヒダニ、又はケナガコナダニを培地とともに約10000匹放ち、この直径9cmのシャーレの中央部に、先に用意した直径4cmのシャーレを置いた。同様に、供試エアゾールによる処理を行わなかった綿布を用いて無処理区を用意した。24時間後に綿布上に侵入したダニ数を計数し、次式に従ってダニ忌避率を算出した。
ダニ忌避率(%) = [(無処理区の侵入ダニ数-処理区の侵入ダニ数) / 無処理区の侵入ダニ数] × 100
【0041】
(4)防除成分の床面付着率
閉めきった容積25mの部屋(面積10m)の床面の6~8ヵ所に20×20cmのガラス板を部屋全体に均等に設置し、供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット噴射した。噴射処理から1時間後に全てのガラス板を取り出し、付着した防除成分をアセトンで洗い出してガスクロマトグラフィーにより分析した。得られた分析値を基に、噴射処理から1時間後までに床面に沈降・付着した防除成分の、理論上の防除成分噴射全体量に対する比率(床面付着率)を求めた。また、ガラス板に付着した防除成分について、各ガラス板間のバラツキを解析し、噴霧粒子の拡散均一性を評価した。結果を、拡散均一性の良好なものから順に、A、B、C、Dの4段階で示した。
【0042】
【表2】
【0043】
試験の結果、実施例1~24の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた本発明の害虫、ダニ防除方法によれば、噴霧粒子が床面全体に略均一に拡散し、噴射から1時間後までに防除成分の60%以上が床面に沈降・付着することが確認された。また、難揮散性の防除成分として、匍匐害虫防除用化合物を配合した実施例1~16、20~24の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた場合には、匍匐害虫、及び屋内塵性ダニ類の何れに対しても、優れた防除効果を奏することが確認された。難揮散性の防除成分として、ダニ防除用化合物を配合した実施例17~19の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた場合には、屋内塵性ダニ類に対して優れた防除効果を奏することが確認された。
【0044】
これに対し、比較例1~4では、匍匐害虫、屋内塵性ダニ類の何れに対しても十分な防除効果が得られなかった。比較例1では、防除成分として、エムペントリンのような常温揮散性ピレスロイド化合物のみを配合したエアゾールを用いたために、床面付着率が小さくなり、その結果、防除効果が低くなったと考えられる。比較例2では、噴射容量が0.4mLの定量噴射バルブを使用したために、ワンプッシュでは噴射される防除成分が必要量に達せず、その結果、防除効果が低くなったと考えられる。比較例3や比較例4のように、エアゾール原液の比重が本発明に規定する0.85~1.15の範囲から外れたものでは、噴霧粒子の拡散均一性が低かったことが、防除効果の低下の原因であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールは、屋内だけでなく広範な害虫、ダニ防除を目的として利用することが可能である。