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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081814
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】回転工具
(51)【国際特許分類】
   B25F 5/00 20060101AFI20220525BHJP
   B23D 47/00 20060101ALI20220525BHJP
   F16D 43/208 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B25F5/00 A
B23D47/00 C
F16D43/208
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192993
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】507351850
【氏名又は名称】育良精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 清
(72)【発明者】
【氏名】曽根 栄二
(72)【発明者】
【氏名】大槻 芳朗
【テーマコード(参考)】
3C040
3C064
3J068
【Fターム(参考)】
3C040GG41
3C064AA06
3C064AA08
3C064AB02
3C064AC01
3C064BA19
3C064BA20
3C064BB21
3C064BB80
3C064CB01
3C064CB17
3C064CB63
3C064CB69
3C064CB72
3C064CB84
3C064CB91
3J068AA02
3J068AA07
3J068BA14
3J068BB01
3J068CA05
3J068CA06
3J068CA08
3J068CB03
3J068DD01
3J068DD04
3J068DD09
3J068DD15
3J068EE05
(57)【要約】
【課題】 トルク伝達を所望の条件で解除できる回転工具を提供すること。
【解決手段】 回転軸を回転駆動させる回転駆動部と、前記回転軸に接続された回転シャフトと、前記回転シャフトに固定されたフランジ部材と、前記フランジ部材の外周面から突出すると共に、径方向に移動可能な係合凸部と、回転刃と、前記回転刃に固定されたリング部材と、前記リング部材の内周面上に設けられた係合凹部と、を備えた回転工具である。前記係合凸部は、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されている。前記フランジ部材と前記リング部材とは、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いに係合した状態で、一体的に回転可能である。前記フランジ部材と前記リング部材とは、一体的な回転状態において、前記フランジ部材と前記リング部材との間に所定値を超えるトルクがかかった時、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いから離脱して一体的な回転状態を解消するようになっている。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転駆動させる回転駆動部と、
前記回転軸に接続された回転シャフトと、
前記回転シャフトに固定されたフランジ部材と、
前記フランジ部材の外周面から突出すると共に、径方向に移動可能な係合凸部と、
回転刃と、
前記回転刃に固定されたリング部材と、
前記リング部材の内周面上に設けられた係合凹部と、
を備え、
前記係合凸部は、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、
前記フランジ部材と前記リング部材とは、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いに係合した状態で、一体的に回転可能であり、
前記フランジ部材と前記リング部材とは、一体的な回転状態において、前記フランジ部材と前記リング部材との間に所定値を超えるトルクがかかった時、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いから離脱して一体的な回転状態を解消するようになっている
ことを特徴とする回転工具。
【請求項2】
前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に複数個が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の回転工具。
【請求項3】
前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に略等間隔に設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の回転工具。
【請求項4】
前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に6個が設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載の回転工具。
【請求項5】
前記係合凸部は、弾性部材を介して、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の回転工具。
【請求項6】
前記弾性部材は、前記フランジ部材に設けられた挿入孔内に配置されたコイルバネである
ことを特徴とする請求項5に記載の回転工具トルクリミッタ装置。
【請求項7】
前記係合凸部は、円筒体または球体であり、
前記係合凹部は、断面円弧状の溝孔である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の回転工具トルクリミッタ装置。
【請求項8】
第1回転体と、
前記第1回転体に固定されたフランジ部材と、
前記フランジ部材の外周面から突出すると共に、径方向に移動可能な係合凸部と、
第2回転体と、
前記第2回転体に固定されたリング部材と、
前記リング部材の内周面上に設けられた係合凹部と、
を備え、
前記係合凸部は、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、
前記フランジ部材と前記リング部材とは、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いに係合した状態で、一体的に回転可能であり、
前記フランジ部材と前記リング部材とは、一体的な回転状態において、前記フランジ部材と前記リング部材との間に所定値を超えるトルクがかかった時、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いから離脱して一体的な回転状態を解消するようになっている
ことを特徴とするトルクリミッタ装置。
【請求項9】
前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に略等間隔に設けられており、
前記係合凸部は、弾性部材を介して、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、
前記弾性部材は、前記フランジ部材に設けられた挿入孔内に配置されたコイルバネである、
ことを特徴とする請求項8に記載のトルクリミッタ装置。
【請求項10】
前記係合凸部は、円筒体または球体であり、
前記係合凹部は、断面円弧状の溝孔である
ことを特徴とする請求項9に記載のトルクリミッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクリミッタ機能を備えた回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
回転ノコギリのような回転工具は、加工対象のワークの状態等によって、回転刃による加工中、当該回転刃に想定外の過大なトルクがかかってしまう場合がある。
【0003】
そのような状態が継続すると、回転刃が破損したり、回転駆動系のギヤが破損したりする虞がある。
【0004】
回転工具のトルク伝達系において、過大なトルクがかかった場合にトルク伝達を解除するトルクリミッタとして、2枚の摩擦板間の摩擦力を利用したものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3201964号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件発明者は、回転工具に過大なトルクがかかってしまった場合に、回転速度が低下するという現象に着目した。そして、係合凸部と係合凹部とが互いに係合し合う構造において、係合凸部を径方向に移動可能としておくことにより、回転工具に過大なトルクがかかってしまった場合に回転速度の低下に伴う遠心力の低下を有効利用することができ、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除できることを見出した。
【0007】
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、回転工具に過大なトルクがかかってしまった場合等に、回転速度の低下に伴う遠心力の低下を有効利用することで、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除できる回転工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、回転軸を回転駆動させる回転駆動部と、前記回転軸に接続された回転シャフトと、前記回転シャフトに固定されたフランジ部材と、前記フランジ部材の外周面から突出すると共に、径方向に移動可能な係合凸部と、回転刃と、前記回転刃に固定されたリング部材と、前記リング部材の内周面上に設けられた係合凹部と、を備え、前記係合凸部は、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、前記フランジ部材と前記リング部材とは、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いに係合した状態で、一体的に回転可能であり、前記フランジ部材と前記リング部材とは、一体的な回転状態において、前記フランジ部材と前記リング部材との間に所定値を超えるトルクがかかった時、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いから離脱して一体的な回転状態を解消するようになっていることを特徴とする回転工具である。
【0009】
本発明によれば、係合凸部が径方向に移動可能となっているため、回転工具に過大なトルクがかかってしまった場合等に、回転速度低下に伴う遠心力の低下を有効利用して、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除することができる。
【0010】
前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に複数個が設けられていることが好ましい。これによれば、係合凸部と係合凹部との係合状態が複数箇所で発生するため、フランジ部材とリング部材との一体的な回転状態、すなわち、回転シャフトと回転刃との一体的な回転状態が、より安定的である。更に、フランジ部材とリング部材との一体的な回転状態が解除される際の挙動、すなわち、回転シャフトと回転刃との一体的な回転状態が解除される際の挙動についても、より安定的である。
【0011】
この場合、更に、前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に略等間隔に設けられていることが好ましい。これによれば、係合凸部と係合凹部との係合状態が略等間隔で発生するため、フランジ部材とリング部材一体的な回転状態、すなわち、回転シャフトと回転刃との一体的な回転状態が、より一層安定的である。更に、フランジ部材とリング部材との一体的な回転状態が解除される際の挙動、すなわち、回転シャフトと回転刃との一体的な回転状態が解除される際の挙動についても、より一層安定的である。
【0012】
本件発明者による各種の試作機によれば、係合凸部及び係合凹部の数は、多ければ多い程に安定的となった。一体的な回転の安定度、及び、一体的な回転解除の安定度は、3個<4個<5個<6個<8個、の順であった。もっとも、より多くの数を設ければ、それだけコストもかかる。従って、6個程度が最適であると言える。
【0013】
また、前記係合凸部は、弾性部材を介して、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されていることが好ましい。これによれば、係合凸部と係合凹部との間の係合力の設計ないし調整が比較的容易である。
【0014】
この場合、更に、前記弾性部材は、前記フランジ部材に設けられた挿入孔内に配置されたコイルバネであることが好ましい。これによれば、係合凸部を径方向外方へと付勢する構成を、比較的安価に実現することができる。
【0015】
また、前記係合凸部は、円筒体または球体であり、前記係合凹部は、断面円弧状の溝孔であることが好ましい。円筒体または球体は、非常に高い寸法精度で製造され得るし、断面円弧状の溝孔も、非常に高い寸法精度で製造され得る。このため、係合凸部と係合凹部との間の係合力の設計ないし調整が比較的容易である。
【0016】
また、本発明の他の態様は、前記回転工具の一部であるトルクリミッタ装置である。すなわち、本発明は、第1回転体と、前記第1回転体に固定されたフランジ部材と、前記フランジ部材の外周面から突出すると共に、径方向に移動可能な係合凸部と、第2回転体と、前記第2回転体に固定されたリング部材と、前記リング部材の内周面上に設けられた係合凹部と、を備え、前記係合凸部は、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、前記フランジ部材と前記リング部材とは、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いに係合した状態で、一体的に回転可能であり、前記フランジ部材と前記リング部材とは、一体的な回転状態において、前記フランジ部材と前記リング部材との間に所定値を超えるトルクがかかった時、前記係合凸部と前記係合凹部とが互いから離脱して一体的な回転状態を解消するようになっていることを特徴とするトルクリミッタ装置である。
【0017】
本発明によれば、係合凸部が径方向に移動可能となっているため、第1回転体と第2回転体との間に過大なトルクがかかってしまった場合等に、回転速度低下に伴う遠心力の低下を有効利用して、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除することができる。
【0018】
本発明においても、前記係合凸部及び前記係合凹部は、それぞれ、周方向に略等間隔に設けられており、前記係合凸部は、弾性部材を介して、前記フランジ部材の径方向外方へと付勢されており、前記弾性部材は、前記フランジ部材に設けられた挿入孔内に配置されたコイルバネであることが好ましい。
【0019】
更に、前記係合凸部は、円筒体または球体であり、前記係合凹部は、断面円弧状の溝孔であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、係合凸部が径方向に移動可能となっているため、回転工具に過大なトルクがかかってしまった場合等に、回転速度低下に伴う遠心力の低下を有効利用して、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る回転工具の平面図である。
図2図1の回転工具の正面図である。
図3図1の回転工具の回転刃部分を示す平面図である。
図4図1の回転工具の回転刃部分を示す縦断面図である。
図5図4の回転刃部分のコイルバネの中心軸を含む横断面図である。
図6】上半部は、コイルバネの中心軸を含む横断面図であり、下半部は、図1の回転工具の回転刃部分を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る回転工具1の平面図であり、図2は、本実施形態の回転工具1の正面図である。また、図3は、本実施形態の回転工具1の回転刃部分を示す平面図であり、図4は、本実施形態の回転工具1の回転刃部分を示す縦断面図である。また、図5は、図4の回転刃部分のコイルバネの中心軸を含む横断面図であり、図6の上半部は、コイルバネの中心軸を含む横断面図であり、図6の下半部は、本実施形態の回転工具1の回転刃部分を示す底面図である。
【0023】
<全体構成>
図1及び図2に示すように、本実施形態の回転工具1は、チップソーカッターと呼ばれる回転工具であり、回転軸を回転駆動させる回転駆動部11を備えている。回転駆動部11は、ハウジング12によって取り囲まれており、ハウジング12の上部には、細い円筒状の把持部12hが設けられている。
【0024】
ハウジング12の一側(図1及び図2では右側)には、操作把持部13が設けられており、操作把持部13の内側には、回転駆動スイッチ13sが設けられている。
【0025】
ハウジング12の他側(図1及び図2では左側)には、アーム14が設けられており、当該アーム14には、接続回動ピン15を介して、スライドバー摺動体16が回動可能に取り付けられている。
【0026】
スライドバー摺動体16には、スライドバー摺動孔16hが設けられていて、当該スライドバー摺動孔16hにスライドバーが挿通されることにより、回転工具1の位置を当該スライドバー沿いに容易に案内できるようになっている。
【0027】
ハウジング12の下方側には、回転刃33の後方側(図1及び図2の上側)を収容する収容部を区画する折れ板部材17が設けられており、折れ板部材17の左右の折れ片部17a、17bに底板18が取り付けられている。
【0028】
底板18は、回転刃33の領域は切り欠かれており、底面側からは回転刃33の全体が視認可能である。
【0029】
本実施形態の回転工具1では、回転刃33の前方側を更に覆うように、カバー19が回動可能に折れ板部材17に取り付けられている。カバー19は、ワークの加工中、ワークによって押し戻されることで、回転刃33に対して相対的に退避するようになっている。
【0030】
<トルクリミッタ機能>
本実施形態の回転工具1では、図2乃至図4に示すように、回転駆動部11の回転軸に、回転シャフト21が固定されている。そして、回転シャフト21に、1本の固定ネジ22を介して、フランジ部材23が固定されている。本実施形態のフランジ部材23は、スチール製であり、外径がφ68mm、内周側高さが13mm、外周側高さが10mmである(高さが2段階になっている)。
【0031】
また、図5及び図6に示すように、フランジ部材23の内部には、高さ方向の略中間位置に、周方向に等間隔に、6本の挿入孔23hが放射状に設けられている。各挿入孔23hは、孔径がφ5.2mm、孔径φ5.2mmを維持する深さ(後述する縦溝部23gを含む)が15.5mm(孔径φ5.2mmの最深部とフランジ部材23の軸線との間の距離が18.5mm)である。
【0032】
そして、図4乃至図6に示すように、各挿入孔23h内に、コイルバネ24が挿入されている。コイルバネ24は、スチール製で、それぞれ円環状の両端部と、当該両端部間の螺旋部と、からなっており、線径がφ0.9mm、コイル径がφ5mm(挿入孔23hの孔径より僅かに小さくコイルバネ24は挿入孔23h内で自由に変形可能)、自然長が 20mm、バネ定数が7.7N/mmである。
【0033】
更に、図4乃至図6に示すように、各コイルバネ24の外方側端部に、円筒体25(係合凸部の一例)の側面が当接されている。円筒体25は、スチール製であり、外径がφ5 mm、高さが8mmである。すなわち、本実施形態では、円筒体25の高さが挿入孔23hの孔径よりも大きい。このため、図4に示すように、挿入孔23hの開口部近傍には、円筒体25の移動空間用の縦溝部23gが形成されている。各縦溝部23gは、平面視の幅は挿入孔23hの孔径に等しいが(図4及び図6参照)、高さが8mmで、径方向長さ(深さ)が5.3mmである。
【0034】
一方、図2及び図4乃至図6に示すように、回転刃33の上面側に、周方向に等間隔の6本の固定ネジ32を介して、リング部材31が固定されている。本実施形態のリング部材31は、スチール製であり、内径がφ68mm(フランジ部材23の外径よりも僅かに大きい)、外径がφ92mm、高さが13.5mmである。
【0035】
また、リング部材31には、フランジ部材23の外周側の上面に対して滑らかに摺動可能な内方突出部31pが設けられており、当該内方突出部31pの下面が、前記縦溝部23gの上面を規定している。
【0036】
そして、図5及び図6に示すように、リング部材31の内周面における周方向に等間隔の6箇所に、断面円弧状(本実施形態では平面視円弧状)の溝部31g(係合凹部の一例)が設けられている。各溝部31gは、断面円弧状(平面視円弧状)の曲率半径がφ4mmであり(当該曲率半径×2の直径のドリル刃で加工される)、リング部材31の内周面に対する最深部の深さが1.5mmである(前記ドリル刃の中心軸がリング部材31の中心軸から31.5mmの位置に位置決めされて加工される)。
【0037】
その他、フランジ部材23及びリング部材31の上面側には、カバー部材27が設けられている。カバー部材27は、4本の固定ネジ26を介してフランジ部材23に固定されている一方、リング部材31の上面に対しては滑らかに摺動可能となっている。
【0038】
<作用>
通常時は、各円筒体25が各溝部31gに対して係合した状態となっていて、フランジ部材23とリング部材31とが一体的に回転するようになっている。これにより、回転シャフト21の回転によって、回転刃33が回転するようになっている。
【0039】
回転駆動開始時に、各円筒体25と各溝部31gとの係合が不所望に解除してしまうことがないよう、各円筒体25は、コイルバネ24によって、フランジ部材23の径方向外方へと溝部31gに向かって付勢されている。
【0040】
回転速度が上がっていくと、各円筒体25に作用する遠心力が大きくなっていく。これにより、各円筒体25と各溝部31gとの間の係合力も増大し、フランジ部材23とリング部材31とはより安定的に一体回転する。
【0041】
加工対象のワークの状態等によって、回転刃33による加工中、当該回転刃33に想定外の過大なトルクがかかってしまう場合がある。このような場合、回転駆動部11の電流値が定格値(例えば15A)から大きく(例えば17A程度にまで)上昇する。そして、回転シャフト21及び回転刃33の回転速度が低下する。
【0042】
当該回転速度の低下によって、各円筒体25に作用していた遠心力が小さくなる。この結果、各円筒体25と各溝部31gとの間の係合力が減少して両者が互いから離脱し、各円筒体25、フランジ部材23及び回転シャフト21が、各溝部31g、リング部材31及び回転刃33に対して、一体的な回転状態を解消する。これにより、各円筒体25を伴うフランジ部材23及び回転シャフト21は、回転駆動部11の駆動による回転を継続する一方、各溝部31gを伴うリング部材31及び回転刃33は、徐々に減速して停止する(円筒体25はリング部材31の内面上に沿って回転する)。
【0043】
これにより、回転工具1に過大なトルクがかかった状態が継続することが防止され、回転刃33が破損したり、回転駆動部11の内部ギヤが破損したりする懸念を払拭できる。
【0044】
<効果>
以上のような本実施形態の回転工具1によれば、円筒体25(係合凸部)が径方向に移動可能となっているため、回転工具1に過大なトルクがかかってしまった場合等に、回転速度低下に伴う遠心力の低下を有効利用して、トルク伝達を所望の条件で比較的高精度に解除することができる。
【0045】
また、本実施形態の回転工具1によれば、円筒体25(係合凸部)及び溝部31g(係合凹部)のそれぞれが周方向に等間隔に6個設けられており、円筒体25(係合凸部)及び溝部31g(係合凹部)の係合状態が周方向に等間隔の6箇所で発生する。このため、フランジ部材23とリング部材31との一体的な回転状態、すなわち、回転シャフト21と回転刃33との一体的な回転状態が、より一層安定的である。更に、フランジ部材23とリング部材31との一体的な回転状態が解除される際の挙動、すなわち、回転シャフト21と回転刃33との一体的な回転状態が解除される際の挙動についても、より一層安定的である。
【0046】
また、本実施形態の回転工具1によれば、円筒体25(係合凸部)は、フランジ部材23に設けられた挿入孔23h内に配置されたコイルバネ24(弾性部材)を介して、フランジ部材23の径方向外方へと付勢されている。このため、円筒体25(係合凸部)と溝部31g(係合凹部)との間の係合力の設計ないし調整が比較的容易であり、また、円筒体25(係合凸部)を径方向外方へと付勢する構成が比較的安価に実現されている。
【0047】
また、円筒体25(係合凸部)と溝部31g(係合凹部)とは、一般に、非常に高い寸法精度で製造され得る。このため、円筒体25(係合凸部)と溝部31g(係合凹部)との間の係合力(係合解除力)の設計ないし調整が比較的容易である。
【0048】
<変形例>
円筒体25の代わりに、球体が用いられてもよい。球体も、一般に、非常に高い寸法精度で製造され得る。球体の直径は、コイルバネ24のコイル径と同一であってもよいし、コイルバネ24のコイル径より大きくてもよい。(後者の場合、球体の移動空間用の縦溝部の平面視の幅が、挿入孔23hの孔径よりも大きくなる。)
【0049】
また、以上の実施形態では、回転シャフト21にフランジ部材23が固定され、回転刃33にリング部材31が固定されているが、回転シャフト21にリング部材31が固定され、回転刃33にフランジ部材23が固定された態様であっても、本発明の原理は有効である。
【0050】
また、本発明は、以上の実施形態のタイプのチップソーカッターに限定されず、他の各種のチップソーカッターに適用可能である。更に、本発明は、各種のグラインダ等、他の種類の回転工具にも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 回転工具
11 回転駆動部
12 ハウジング
12h 把持部
13 操作把持部
13s 回転駆動スイッチ
14 アーム
15 接続回動ピン
16 スライドバー摺動体
16h スライドバー摺動孔
17 折れ板部材
17a 折れ片部
17b 折れ片部
18 底板
19 カバー
21 回転シャフト
22 固定ネジ
23 フランジ部材
23g 縦溝部
23h 挿入孔
24 コイルバネ
25 円筒体
26 固定ネジ
27 カバー部材
31 リング部材
31g 溝部
31p 内方突出部
32 固定ネジ
33 回転刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6