(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081868
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】蓄電モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20220525BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220525BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220525BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220525BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/485
H01M4/587
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193071
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】秋山 泰有
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029BJ01
5H029BJ12
5H029DJ05
5H029HJ01
5H029HJ12
5H029HJ18
5H029HJ19
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン蓄電セルの内部短絡を抑制できる蓄電モジュールを提供すること。
【解決手段】蓄電モジュール10は、複数のリチウムイオン蓄電セル20を電気的に直列接続し、かつ積層方向に積み重ねた組電池12と、組電池12の積層方向の第1端面12aに接触する正極通電板40、及び組電池12の積層方向の第2端面12bに接触する負極通電板50と、を有する。複数のリチウムイオン蓄電セル20は、積層方向において負極通電板50に隣接して配置された第1蓄電セル31と、積層方向における第1蓄電セル31と正極通電板40との間に配置された複数の第2蓄電セル32と、を含む。第1蓄電セル31の第1負極24aは、第2蓄電セル32の第2負極24bが備える負極活物質層26に比べて電流集中箇所でのリチウム析出の抑制された第1負極活物質層26aを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のリチウムイオン蓄電セルが積層方向に積み重ねられ、かつ電気的に直列接続された組電池と、
前記組電池における前記積層方向の第1端面に接触する正極通電板と、
前記組電池における前記積層方向の第2端面に接触する負極通電板と、を有する蓄電モジュールであって、
複数の前記リチウムイオン蓄電セルは、前記積層方向において前記負極通電板に隣接して配置された第1蓄電セル、
及び前記積層方向における前記第1蓄電セルと前記正極通電板との間に配置された少なくとも1つの第2蓄電セルと、を含み、
前記第1蓄電セルは、前記積層方向において前記負極通電板に接触する第1負極と、前記積層方向において当該第1負極と第1電解質層を挟んで対向する第1正極と、を備え、
前記第2蓄電セルは、第2負極と、当該第2負極と第2電解質層を挟み、かつ前記積層方向における前記第2負極よりも前記正極通電板寄りに配置された第2正極と、を備え、
前記第1蓄電セルの前記第1負極は、前記第2蓄電セルの前記第2負極が備える負極活物質層に比べて、電流集中箇所でのリチウム析出の抑制された析出抑制負極活物質層を備えることを特徴とする蓄電モジュール。
【請求項2】
前記析出抑制負極活物質層に用いられる負極活物質は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層に用いられる負極活物質に比べて作動電位が高い請求項1に記載の蓄電モジュール。
【請求項3】
前記第1蓄電セルの負極容量は、前記第2蓄電セルの負極容量より大きい請求項1又は請求項2に記載の蓄電モジュール。
【請求項4】
前記析出抑制負極活物質層に用いられる負極活物質の材料は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層に用いられる負極活物質の材料と同じであり、かつ前記析出抑制負極活物質層の目付量は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層の目付量より大きい請求項3に記載の蓄電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のリチウムイオン蓄電セルが積層方向に積み重ねられ、かつ電気的に直列接続された組電池と、組電池の積層方向の第1端面に接触する正極通電板と、組電池の積層方向の第2端面に接触する負極通電板と、を有する蓄電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン蓄電セルは、正極と、負極とを有する。正極は、正極集電体の第1表面に正極活物質層を有する。負極は、負極集電体の第2表面に負極活物質層を有する。リチウムイオン蓄電セルにおいて、正極と負極は、正極活物質層と負極活物質層が電解質層を介して対向する。
【0003】
また、例えば、特許文献1に開示されるように、複数のリチウムイオン蓄電セルが積層方向に積み重ねられ、かつ電気的に直列接続された蓄電モジュールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
蓄電モジュールに充電電流が流れるとき、充電電流は、蓄電モジュールにおける正極端子や負極端子などの電流取り出し部に集中する。このため、特許文献1のような直列接続型の蓄電モジュールにおいても、蓄電モジュールを平面視した際の正極端子や負極端子から遠い箇所と近い箇所とで部分的な電流密度が異なる、所謂、電流ムラが発生する場合がある。すなわち、充電中の蓄電モジュールにおいては、正極端子や負極端子の近傍に、局所的に電流が集中して電流密度の大きくなる電流集中箇所が発生することとなる。特に、蓄電モジュールの負極における電流集中箇所は、その他の箇所に比べてリチウムが析出しやすくなるという問題が発生する。リチウム析出が発生すると、析出したリチウムを原因としてリチウムイオン蓄電セルの正極と負極が短絡する内部短絡が生じて好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための蓄電モジュールは、複数のリチウムイオン蓄電セルが積層方向に積み重ねられ、かつ電気的に直列接続された組電池と、前記組電池における前記積層方向の第1端面に接触する正極通電板と、前記組電池における前記積層方向の第2端面に接触する負極通電板と、を有する蓄電モジュールであって、複数の前記リチウムイオン蓄電セルは、前記積層方向において前記負極通電板に隣接して配置された第1蓄電セル、及び前記積層方向における前記第1蓄電セルと前記正極通電板との間に配置された少なくとも1つの第2蓄電セルと、を含み、前記第1蓄電セルは、前記積層方向において前記負極通電板に接触する第1負極と、前記積層方向において当該第1負極と第1電解質層を挟んで対向する第1正極と、を備え、前記第2蓄電セルは、第2負極と、当該第2負極と第2電解質層を挟み、かつ前記積層方向における前記第2負極よりも前記正極通電板寄りに配置された第2正極と、を備え、前記第1蓄電セルの前記第1負極は、前記第2蓄電セルの前記第2負極が備える負極活物質層に比べて、電流集中箇所でのリチウム析出の抑制された析出抑制負極活物質層を備えることを要旨とする。
【0007】
これによれば、蓄電モジュールの充電時、負極通電板における電流取り出し部への局所的な電流集中を原因として、蓄電モジュールの第1蓄電セルには電流ムラが発生する。このとき、第1蓄電セルの析出抑制負極活物質層は、第2蓄電セルの負極活物質層に比べて電流集中箇所でのリチウム析出が抑制された構成であるため、第1負極でのリチウム析出が抑制され、析出したリチウムが第1電解質層を貫通することによって第1正極と第1負極とが内部短絡することを抑制できる。
【0008】
蓄電モジュールについて、前記析出抑制負極活物質層に用いられる負極活物質は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層に用いられる負極活物質に比べて作動電位が高くてもよい。
【0009】
これによれば、負極活物質の材料を異ならせるといった、簡単な変更で第1蓄電セルの第1負極でのリチウム析出を抑制できる。
蓄電モジュールについて、前記第1蓄電セルの負極容量は、前記第2蓄電セルの負極容量より大きくてもよい。
【0010】
これによれば、第1蓄電セルの第1負極でのリチウム析出を抑制できる。
蓄電モジュールについて、前記析出抑制負極活物質層に用いられる負極活物質の材料は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層に用いられる負極活物質の材料と同じであり、かつ前記析出抑制負極活物質層の目付量は、前記第2蓄電セルの前記負極活物質層の目付量より大きくてもよい。
【0011】
これによれば、全てのリチウムイオン蓄電セルの負極活物質の材料を同じにしながら、第1蓄電セルの第1負極でのリチウム析出を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウムイオン蓄電セルの内部短絡を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態の蓄電モジュールを示す断面図。
【
図4】第2の実施形態の蓄電モジュールを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、蓄電モジュールを具体化した第1の実施形態を
図1~
図3にしたがって説明する。
【0015】
図1又は
図2に示すように、蓄電モジュール10は、組電池12と、正極通電板40と、負極通電板50と、を備える。組電池12は、複数のリチウムイオン蓄電セル20が積層方向に積み重ねられ、かつ電気的に直列接続されて構成される。以下の説明では、複数のリチウムイオン蓄電セル20が積み重ねられた方向を積層方向と称することがある。また、以下の説明では、積層方向の外側から蓄電モジュール10を見る平面視を、単に蓄電モジュール10の平面視と称することがある。
【0016】
また、
図3に示すように、蓄電モジュール10を含む蓄電装置11は、リレースイッチ60と、温度センサ61と、制御装置62と、を備える。蓄電モジュール10は機器に放電する。機器は、例えば、モータジェネレータである。また、蓄電モジュール10の充電時、蓄電モジュール10は、充電器63に接続される。
【0017】
図1に示すように、複数のリチウムイオン蓄電セル20の各々は、正極21と、負極24と、を有する。また、各リチウムイオン蓄電セル20は、第1電解質層及び第2電解質層としてのセパレータ27と、スペーサ28と、図示しない電解質と、を備える。
【0018】
正極21は、正極集電体22と、正極活物質を含み、かつ正極集電体22に設けられる正極活物質層23と、を備える。正極集電体22は、例えばアルミニウム箔である。正極集電体22は、正極活物質層23を有する第1表面22a、及び第1表面22aと積層方向の反対側に位置する第1裏面22bを備える。
【0019】
蓄電モジュール10の平面視では、正極活物質層23は、第1表面22aにおいて正極集電体22の縁から離れた位置に配置される。正極集電体22は、第1表面22aの周縁部に正極未塗工部22cを有する。正極未塗工部22cは、第1表面22aが露出する部分である。正極未塗工部22cは、蓄電モジュール10の平面視において正極活物質層23の周囲を囲む。
【0020】
正極活物質は、リチウムイオンを受け入れて吸蔵する。また、正極活物質は、受け入れたリチウムイオンを放出する。正極活物質としては、例えば、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、及びポリアニオン系化合物が挙げられる。正極活物質としては、リチウムイオン蓄電セル20の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。
【0021】
負極24は、負極集電体25と、負極活物質を含み、かつ負極集電体25に設けられる負極活物質層26と、を備える。負極集電体25は、例えば銅箔である。負極集電体25は、負極活物質層26を有する第2表面25a、及び第2表面25aと積層方向の反対側に位置する第2裏面25bを備える。
【0022】
蓄電モジュール10の平面視では、負極活物質層26は、第2表面25aにおいて負極集電体25の縁から離れた位置に配置される。負極集電体25は、第2表面25aの周縁部に負極未塗工部25cを有する。負極未塗工部25cは、第2表面25aが露出する部分である。負極未塗工部25cは、蓄電モジュール10の平面視において負極活物質層26の周囲を囲む。
【0023】
負極活物質層26は負極活物質を含む。負極活物質は、リチウムイオンを受け入れて吸蔵する。また、負極活物質は、受け入れたリチウムイオンを放出する。負極活物質は、例えば、リチウム、炭素材料、金属化合物、及びリチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。負極活物質については後に詳述する。
【0024】
セパレータ27は、絶縁性を有するとともにリチウムイオンを通過させる部材である。セパレータ27は、例えば、電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ27を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルが挙げられる。セパレータ27は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0025】
セパレータ27は、正極活物質層23と負極活物質層26との間に配置される。セパレータ27は、正極活物質層23と負極活物質層26の接触による短絡を防止する。正極活物質層23と負極活物質層26は、セパレータ27を介して対向する。つまり、正極活物質層23と負極活物質層26は、電解質層を介して対向する。蓄電モジュール10の平面視において、正極活物質層23の形成領域の全体が負極活物質層26の形成領域内に位置する。
【0026】
スペーサ28は、絶縁性を有するとともに、正極集電体22と負極集電体25との間の距離を保持する部材である。スペーサ28は、正極集電体22と負極集電体25との接触による短絡を防止する。スペーサ28は、蓄電モジュール10の平面視において、正極集電体22及び負極集電体25の周縁に沿って設けられる。スペーサ28は、正極活物質層23及び負極活物質層26の周囲を取り囲む枠状である。スペーサ28は、互いに対向する正極集電体22の正極未塗工部22cと、負極集電体25の負極未塗工部25cとの間に配置される。
【0027】
リチウムイオン蓄電セル20は、正極21と負極24とスペーサ28とによって画定される密閉空間Sを備える。密閉空間Sには電解質が収容される。スペーサ28によって、正極21と負極24との間に電解質が封入される。電解質には、例えば、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。なお、セパレータ27は、積層方向から見て、その周縁が矩形枠状のスペーサ28に重複するように配置されている。そして、セパレータ27は、その周縁が、例えば正極集電体22とスペーサ28とで挟み込み保持されている。
【0028】
スペーサ28は、正極集電体22及び負極集電体25とともに密閉空間Sを封止しており、密閉空間Sに収容された電解質の密閉空間Sの外部への漏出を抑制する。また、スペーサ28は、リチウムイオン蓄電セル20の外部から密閉空間S内への水分の侵入を抑制する。スペーサ28は、例えば、リチウムイオン蓄電セル20の充放電反応により正極21又は負極24から発生したガスが密閉空間Sの外部に漏れることを抑制する。
【0029】
組電池12の積層方向に隣り合うリチウムイオン蓄電セル20において、一方のリチウムイオン蓄電セル20の正極集電体22の第1裏面22bと、他方のリチウムイオン蓄電セル20の負極集電体25の第2裏面25bとは接触している。正極集電体22の第1裏面22bと、負極集電体25の第2裏面25bとの接触により、積層方向に隣り合うリチウムイオン蓄電セル20同士は電気的に接続され、組電池12を構成する複数のリチウムイオン蓄電セル20が電気的に直列接続される。
【0030】
組電池12は、バイポーラ電極29を備えている。組電池12においては、積層方向に隣り合う2つのリチウムイオン蓄電セル20の互いに接する正極集電体22及び負極集電体25により、その正極集電体22及び負極集電体25を一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極29が構成されている。疑似的なバイポーラ電極29は、正極集電体22及び負極集電体25が重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方面に配置された正極活物質層23と、他方面に配置された負極活物質層26とを含む。
【0031】
なお、バイポーラ電極29は、正極集電体22及び負極集電体25が1つの集電体から構成されていてもよい。この場合、1つのリチウムイオン蓄電セル20の正極集電体22は、積層方向に隣り合う別のリチウムイオン蓄電セル20の負極集電体25を兼ねることとなる。このため、正極集電体22の第1裏面22bは、負極活物質層26が位置する負極集電体25の第2表面25aを構成し、負極集電体25の第2裏面25bは、正極活物質層23が位置する正極集電体22の第1表面22aを構成する。
【0032】
セル間封止材30は、積層方向と垂直な方向から組電池12の全周を囲む。セル間封止材30は、全てのリチウムイオン蓄電セル20の正極集電体22及び負極集電体25の外周を覆う。セル間封止材30により、積層方向に隣り合う正極集電体22の第1裏面22bと負極集電体25の第2裏面25bの間が封止される。セル間封止材30は、積層方向に隣り合うリチウムイオン蓄電セル20同士の間を封止する。
【0033】
組電池12は、積層方向の第1端に位置する第1端面12aと、積層方向の第2端に位置する第2端面12bとを有する。組電池12の第1端面12aは、組電池12の積層方向の一端に位置するリチウムイオン蓄電セル20の正極集電体22の第1裏面22bによって構成される。組電池12の第2端面12bは、組電池12の積層方向の他端に位置するリチウムイオン蓄電セル20の負極集電体25の第2裏面25bによって構成される。
【0034】
正極通電板40は、組電池12の第1端面12aを構成する正極集電体22に対し積層方向に隣接して配置されており、正極通電板40と、その正極通電板40に隣接配置された正極集電体22とは電気的に接続されている。正極通電板40は金属製の導体で構成される。正極通電板40は、例えば、正極集電体22と同材料の金属で構成される。正極通電板40は、正極端子41を備える。正極端子41は、正極通電板40と電気的に接続される。各リチウムイオン蓄電セル20の放電時、正極端子41は、機器の正側に接続され、放電電流の取り出し部となる。また、各リチウムイオン蓄電セル20の充電時、正極端子41は、充電器63の正側に接続される。
【0035】
負極通電板50は、組電池12の第2端面12bを構成する負極集電体25に対し積層方向に隣接して配置されており、負極通電板50と、その負極通電板50に隣接配置された負極集電体25とは電気的に接続されている。負極通電板50は金属製の導体で構成される。負極通電板50は、例えば、負極集電体25と同材料の金属で構成される。負極通電板50は、負極端子51を備える。負極端子51は、負極通電板50と電気的に接続される。各リチウムイオン蓄電セル20の放電時、負極端子51は、機器の負側に接続される。各リチウムイオン蓄電セル20の充電時、負極端子51は、充電器63の負側に接続され、充電電流の取り出し部となる。
【0036】
図2に示すように、蓄電モジュール10の平面視では、正極端子41は、正極通電板40の一つの角寄りに配置される。蓄電モジュール10の平面視では、負極端子51は、負極通電板50の一つの角寄りに配置されている。蓄電モジュール10の平面視において、正極端子41と負極端子51は、蓄電モジュール10の一つの辺の両端に配置される。
【0037】
図1に示すように、組電池12を構成する複数のリチウムイオン蓄電セル20は、第1蓄電セル31と、第2蓄電セル32と、を含む。第1蓄電セル31は、積層方向において負極通電板50に隣接して配置されたリチウムイオン蓄電セル20である。第1蓄電セル31は、組電池12の第2端面12bを構成するリチウムイオン蓄電セル20である。このため、積層方向において、第1蓄電セル31の負極集電体25の第2裏面25bには負極通電板50が接触している。
【0038】
第1蓄電セル31の負極24は、積層方向において負極通電板50に接触する第1負極24aである。また、第1蓄電セル31の正極21は、積層方向において第1負極24aとセパレータ27を挟んで対向する第1正極21aである。第1蓄電セル31のセパレータ27は、電解質を保持している。セパレータ27と、当該セパレータ27に保持された電解質とから第1電解質層が構成されている。第1蓄電セル31において、第1負極24aと第1正極21aは、セパレータ27を挟んで積層方向に対向する。
【0039】
第2蓄電セル32は、複数のリチウムイオン蓄電セル20のうち、積層方向における第1蓄電セル31と正極通電板40との間に配置されたリチウムイオン蓄電セル20である。本実施形態では、組電池12は、複数の第2蓄電セル32を有する。
【0040】
第2蓄電セル32の負極24を第2負極24bとし、第2蓄電セル32の正極21を第2正極21bとする。各第2蓄電セル32では、第2負極24bは、第2正極21bとセパレータ27を挟む。また、複数の第2蓄電セル32の各々では、第2正極21bは、積層方向において第2負極24bよりも正極通電板40寄りに配置されている。第2蓄電セル32のセパレータ27は、電解質を保持している。セパレータ27と、当該セパレータ27に保持された電解質とから第2電解質層が構成されている。
【0041】
複数の第2蓄電セル32のうち、組電池12における積層方向の第1端に位置する第2蓄電セル32は、正極通電板40に隣接している。このため、積層方向の第1端に位置する第2蓄電セル32の正極集電体22の第1裏面22bに正極通電板40が接触している。
【0042】
第1蓄電セル31の第1正極21aが備える正極活物質と、第2蓄電セル32の第2正極21bが備える正極活物質は同じ材料である。積層方向への正極活物質層23の寸法を、正極活物質層23の厚さとすると、第1蓄電セル31における第1正極21aの正極活物質層23の厚さは、第2蓄電セル32における第2正極21bの正極活物質層23の厚さと等しい。また、第1蓄電セル31における第1正極21aの正極集電体22に対する正極活物質層23の塗工面積は、第2蓄電セル32における第2正極21bの正極集電体22に対する正極活物質層23の塗工面積と等しい。なお、この説明における「同じ」及び「等しい」とは、不確かさの範囲内で同じ又は等しいことを意味し、必ずしも厳密に同じ又は等しい場合に限られない。
【0043】
正極活物質層23の単位面積当たりの質量を「目付量」とすると、第1正極21aの正極活物質層23における目付量は、第2正極21bの正極活物質層23における目付量と等しい。したがって、第1正極21aの正極活物質の質量は、第2正極21bの正極活物質の質量と等しい。なお、この説明における「同じ」及び「等しい」とは、不確かさの範囲内で同じ又は等しいことを意味し、必ずしも厳密に同じ又は等しい場合に限られない。
【0044】
第1蓄電セル31における第1負極24aが備える負極活物質層26と、第2蓄電セル32における第2負極24bが備える負極活物質層26とは、用いられる材料が異なる。以下の説明において、第1蓄電セル31における第1負極24aが備える負極活物質層26と、第2蓄電セル32における第2負極24bが備える負極活物質層26とを識別するため、第1蓄電セル31における第1負極24aが備える負極活物質層26を第1負極活物質層26aと称することがある。また、第2蓄電セル32における第2負極24bが備える負極活物質層26を第2負極活物質層26bと称することがある。また、
図1では、第1蓄電セル31における第1負極24aが備える第1負極活物質層26aを、第2蓄電セル32における第2負極24bが備える第2負極活物質層26bと識別するため、第1負極活物質層26aのみドットハッチングを付している。
【0045】
本実施形態における第1蓄電セル31の第1負極24aが備える第1負極活物質層26aには、作動電位がリチウム析出電位に対して十分高く、電荷が過剰な状態が生じた場合でも負極24でのリチウム析出が発生しにくい負極活物質が用いられ、例えばチタン酸リチウムを用いることができる。なお、電荷が過剰な状態を「過電荷状態」と記載する。
【0046】
一方、第2蓄電セル32の第2負極24bが備える第2負極活物質層26bには、第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aに用いられる材料よりも理論容量の高い材料であって、リチウムイオンを吸蔵及び放出する単体、合金、又は化合物であれば、特に限定なく用いることができる。第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bに用いられる材料としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、及びソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)などの炭素材料を挙げることができる。また、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bに用いられる材料としては、例えばシリコン(ケイ素)やスズなどのリチウムと合金化可能な元素を挙げることができる。本実施形態では、第2蓄電セル32の第2負極24bが備える第2負極活物質層26bには、黒鉛が用いられている。つまり、第1蓄電セル31の第1負極24aが備える負極活物質の材料は、第2蓄電セル32の第2負極24bが備える負極活物質の材料と異なる。
【0047】
本実施形態の第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aに用いられるチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)は、スピネル構造を有する材料である。チタン酸リチウムの作動電位は、リチウム析出電位に対して十分高く、また、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bに用いられる黒鉛よりも高い。つまり、第1蓄電セル31の第1負極24aに用いられる負極活物質は、作動電位がリチウム析出電位に対して十分に高い材料であるため、第2蓄電セル32の第2負極24bに用いられる負極活物質と比較して、過電荷状態になってもリチウム析出が発生しにくい材料であるといえる。また、チタン酸リチウムの作動電位は、電解質の溶媒として一般的に使用されるカーボネート系溶媒の電位窓の範囲内にあることが知られている。
【0048】
このため、チタン酸リチウムを負極活物質とした第1蓄電セル31の第1負極24aは、黒鉛を負極活物質とした第2蓄電セル32の第2負極24bに比べてリチウム析出が抑制されているといえる。すなわち、本実施形態の、第1蓄電セル31における第1負極24aの第1負極活物質層26aは、負極活物質にリチウム析出しにくい材料であるチタン酸リチウムを用いることでリチウム析出が抑制された析出抑制負極活物質層であるといえる。第1負極活物質層26aは、第2蓄電セル32の第2負極24bにおける第2負極活物質層26bに比べて電流集中箇所でのリチウム析出の抑制された負極活物質層である。
【0049】
また、チタン酸リチウムは、理論容量が黒鉛と比べると小さいことが知られている。仮に、第1蓄電セル31に積層される複数の第2蓄電セル32の負極活物質としてチタン酸リチウムを用いた場合には、蓄電モジュール10のエネルギー密度が下がってしまう。しかしながら、本実施形態では第2蓄電セル32の負極活物質として、第1蓄電セル31の負極活物質であるチタン酸リチウムよりも作動電位が低く、かつチタン酸リチウムよりも理論容量が高い材料である黒鉛を用いている。
【0050】
本実施形態では、第1蓄電セル31の負極活物質のみチタン酸リチウムを用いて、その他の第2蓄電セル32の負極活物質を黒鉛とすることで、全てのリチウムイオン蓄電セル20の負極活物質をチタン酸リチウムとした場合のように、蓄電モジュール10のエネルギー密度が低くなることを抑制している。
【0051】
第1蓄電セル31における負極集電体25に対する第1負極活物質層26aの塗工面積は、第2蓄電セル32における負極集電体25に対する第2負極活物質層26bの塗工面積と等しい。
【0052】
負極活物質層26の単位面積当たりの質量を「目付量」とすると、第1蓄電セル31における第1負極活物質層26aの目付量は、第2蓄電セル32における第2負極活物質層26bの目付量より大きくなっている。リチウムイオン蓄電セル20の負極容量は、負極活物質の物質量の増加に応じて大きくなる。第1負極24aにおける第1負極活物質層26aの塗工面積は、各第2負極24bにおける第2負極活物質層26bの塗工面積と等しい。このため、第1負極24aにおける第1負極活物質層26aの目付量を大きくすることで第1蓄電セル31の第1負極24aの負極容量を大きくしている。
【0053】
本実施形態では、第1負極活物質層26aの材料として、各第2負極24bの第2負極活物質層26bに用いられる黒鉛よりも理論容量が小さいチタン酸リチウムが用いられている。このため、第1蓄電セル31の第1負極24aの負極容量が、各第2蓄電セル32の第2負極24bの負極容量と等しくなるように、第1負極活物質層26aの目付量が、各第2負極24bにおける第2負極活物質層26bの目付量よりも大きくなっている。したがって、第1蓄電セル31の第1負極24aと第2蓄電セル32の第2負極24bとで負極活物質の材料は異なるが、負極容量は互いに等しい。ただし、第1負極24aの第1負極活物質層26aに用いられた負極活物質のチタン酸リチウムは、第2負極24bの第2負極活物質層26bに用いられた負極活物質の黒鉛よりも作動電位が高いため、第1蓄電セル31の正極負極間の電圧は、第2蓄電セル32の正極負極間の電圧より低くなっている。
【0054】
図3に示すように、蓄電装置11において、リレースイッチ60は、蓄電モジュール10の充放電を停止するためのスイッチである。リレースイッチ60は、各リチウムイオン蓄電セル20に直列に接続されている。温度センサ61は、負極通電板50の温度を検出するためのセンサである。温度センサ61は、負極通電板50における負極端子51付近の温度を検出する。
【0055】
蓄電モジュール10の充電時、負極通電板50の負極端子51から、充電器63を介して正極通電板40の正極端子41に充電電流が流れる。このため、
図2のドットハッチングに示すように、充電時は、蓄電モジュール10のうち、負極通電板50に接触配置された第1蓄電セル31においては、負極端子51に近い位置が、電流集中箇所となる。
【0056】
ここで、蓄電モジュール10のうち、負極通電板50に接触配置された第1蓄電セル31において、負極端子51の位置する角付近を、電流取り出し部としての第1箇所P1とする。また、蓄電モジュール10において、負極端子51の位置する角と対角線上に位置する角付近を第2箇所P2とする。蓄電モジュール10のうち、負極通電板50に接触配置された第1蓄電セル31においては、蓄電モジュール10の充電時における第1箇所P1に近い位置での電流密度は、第2箇所P2に近い位置での電流密度より大きくなる。したがって、第1蓄電セル31の第1箇所P1に近い位置は、充電時における電流集中箇所となる。一方、第2蓄電セル32においては、第1蓄電セル31のように充電時において部分的に電流密度が高くなるような状態は発生しない。
【0057】
第1蓄電セル31に接触配置される負極通電板50の温度は、第1蓄電セル31の影響を受ける。例えば、蓄電モジュール10の充電時において、第1蓄電セル31の第1箇所P1付近で電流集中が生じている場合、第1箇所P1付近に対応する負極通電板50の温度は、第1蓄電セル31の中で電流密度の小さい部分である第2箇所P2付近に対応する負極通電板50の温度より高くなる。つまり、負極通電板50において、第1蓄電セル31の第1箇所P1に対応する部分が、充電時に最も温度が高くなる部分である。したがって、負極通電板50の第1箇所P1付近に対応する位置に設けられた温度センサ61は、充電時に最も温度が高くなる第1蓄電セル31の第1箇所P1付近の温度を検出しているといえる。
【0058】
制御装置62は、プロセッサと、記憶部と、を備える。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。記憶部は、RAM(Random access memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部は、処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。記憶部、即ち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。制御装置62は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である制御装置62は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0059】
制御装置62は、リレースイッチ60を制御する。制御装置62は、リレースイッチ60を制御することで蓄電モジュール10の充放電を停止する。制御装置62は、温度センサ61の検出結果に応じて蓄電モジュール10の充電を停止させたり、再開させたり、終了させたりする。
【0060】
各リチウムイオン蓄電セル20は、充電により、リチウムイオンが負極側に移動して負極電位が下がっていく。ところで、過電荷状態になって負極24表面の電位がリチウム析出電位よりも低くなると、負極24にリチウムが析出する場合がある。特に、負極通電板50に接触配置された第1蓄電セル31では、充電時における電流密度がその他の部分よりも大きくなる第1箇所P1のような電流集中箇所が存在するため、このような箇所では、局所的に負極24の電位がリチウム析出電位に近づきやすくなっている。
【0061】
このような、充電時における負極24の局所的なリチウム析出を抑制するため、第1箇所P1の温度が予め設定された閾値を超えると、制御装置62は、第1蓄電セル31において局所的に過電荷状態が発生していると判断して、蓄電モジュール10の充電を停止する。
【0062】
制御装置62の記憶部には、蓄電モジュール10の充電を停止させるための温度が閾値として記憶されている。閾値は、第1蓄電セル31の第1負極24aが、リチウム析出が発生する虞のある過電荷状態になっていると推定される温度に設定されている。本実施形態では、第1蓄電セル31の負極活物質層26にチタン酸リチウムを用いている。上記したように、チタン酸リチウムの作動電位は、リチウム析出電位よりも十分に高く、また、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bに用いられている黒鉛と比較して高い。そのため、チタン酸リチウムを負極活物質とした第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aは、黒鉛を負極活物質とした第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bに比べて、リチウム析出が抑制されているといえる。
【0063】
蓄電モジュール10の各リチウムイオン蓄電セル20の充電が行われる際、各リチウムイオン蓄電セル20の負極活物質には、正極活物質から放出されたリチウムイオンが受け入れられる。蓄電モジュール10の特定セル、例えば、負極通電板50に接触配置された第1蓄電セル31では、充電時に各部分に流れる電流の密度に差が生じることで、平面視の電流ムラが生じることがある。蓄電モジュール10において、特定セルの第1箇所P1の温度が負極通電板50を介して温度センサ61によって検出される。制御装置62は、温度センサ61によって検出された特定セルの温度を取得する。制御装置62は、取得された第1箇所P1の温度を記憶部に記憶されている閾値と比較する。取得された第1箇所P1の温度が閾値を超えていなければ、制御装置62は、リレースイッチ60を切断せず、蓄電モジュール10の充電を継続する。
【0064】
ここで、第1蓄電セル31の負極活物質層26を、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bと同じ黒鉛で形成した場合を比較例とする。つまり、比較例では、組電池12の第1蓄電セル31の構成(負極活物質層26の材料や目付量)を全て第2蓄電セル32と同じ構成としている。比較例の蓄電モジュールでは、第1蓄電セル31の負極活物質層26に黒鉛を用いているため、第1蓄電セル31の負極活物質層26にチタン酸リチウムを用いた場合に比べてエネルギー密度は高くなる。
【0065】
しかしながら、黒鉛の作動電位は、実施形態の第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aに用いられているチタン酸リチウムの作動電位よりも低く、かつ、リチウム析出電位に近い。このため、比較例の構成では、局所的な電流集中が生じた場合におけるリチウム析出の虞が本実施形態よりも高くなっている。したがって、充電制御によってリチウム析出を抑制する場合に、第1蓄電セル31の状態を判断するための閾値として設定される第1蓄電セル31の特定箇所の温度は、実施形態の蓄電モジュール10に設定されている閾値よりも低い温度となる。このため、実施形態の蓄電モジュール10と、比較例の蓄電モジュールとを、同じ条件で充電を行った場合、制御装置62によってリレースイッチ60が制御されて、充電が停止される時点は、実施形態の蓄電モジュール10の方が比較例の蓄電モジュールに比べて遅くなる。つまり、実施形態の蓄電モジュール10は、比較例の蓄電モジュールに比べて充電の停止が行われにくくなり、比較例よりも短い時間で満充電まで充電することができる。
【0066】
以下、本実施形態の作用効果について説明する。
(1-1)第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aの負極活物質を、作動電位がリチウム析出電位に対して十分に高い材料であるチタン酸リチウムとした。これにより、蓄電モジュール10の充電時、蓄電モジュール10の特定セル(例えば、第1蓄電セル31)に電流ムラが発生しても、第1蓄電セル31の第1負極24aにおけるリチウム析出が抑制される。このため、第1蓄電セル31において、析出したリチウムがセパレータ27を突き破ることによって正極21と負極24が短絡することを抑制できる。つまり、第1負極24aの負極活物質を黒鉛とした場合に比べると、本実施形態ではリチウム析出を原因とした内部短絡を抑制できる。その結果として、リチウム析出の抑制を目的とした第1蓄電セル31の充電停止が行われにくくなる。よって、蓄電モジュール10を満充電までスムーズに充電できる。
【0067】
(1-2)第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aの負極活物質を、作動電位がリチウム析出電位に対して十分に高い材料であるチタン酸リチウムとした。これにより、蓄電モジュール10の充電時、蓄電モジュール10の特定セル(例えば、第1蓄電セル31)に電流ムラが発生しても、第1蓄電セル31の第1負極24aにおけるリチウム析出が抑制される。したがって、第1蓄電セル31と第2蓄電セル32とで負極容量を同じとしつつ負極活物質の材料を異ならせるといった、簡単な変更で第1蓄電セル31の第1負極24aでのリチウム析出を抑制できる。
【0068】
(1-3)第1蓄電セル31の負極活物質をチタン酸リチウムとすることで、充電時に第1蓄電セル31に電流ムラが発生しても第1蓄電セル31の第1負極24aにおけるリチウム析出を抑制している。その一方で、第2蓄電セル32の負極活物質はチタン酸リチウムにはせず、そのチタン酸リチウムよりも作動電位が低く、しかも安価な黒鉛とし、かつ負極容量を第1蓄電セル31と第2蓄電セル32とで等しくしている。これにより、第2蓄電セル32の負極活物質もチタン酸リチウムとする場合のようなエネルギー密度の低下を抑制しつつ、蓄電モジュール10のコストの上昇を抑えている。したがって、蓄電モジュール10は、2種類の負極活物質を的確に併用することでリチウム析出を抑制しつつ、エネルギー密度の低下を抑制できる。
【0069】
(1-4)第1蓄電セル31と、第1蓄電セル31に接触配置される負極通電板50との間に異物が混入した場合、異物が混入した位置での電流密度は、その他の位置での電流密度より大きくなる。このときも、第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aの負極活物質を、作動電位がリチウム析出電位に対して十分に高い材料であるチタン酸リチウムとすることで、異物混入を原因として蓄電モジュール10の特定セル(例えば、第1蓄電セル31)に電流ムラが発生しても、第1蓄電セル31の第1負極24aにおけるリチウム析出が抑制される。このため、異物混入を原因としたリチウム析出による内部短絡を抑制できる。その結果として、リチウム析出の抑制を目的とした第1蓄電セル31の充電停止が行われにくくなる。よって、蓄電モジュール10を満充電までスムーズに充電できる。
【0070】
(第2の実施形態)
蓄電モジュールを具体化した第2の実施形態を
図4にしたがって説明する。なお、第2の実施形態は、第1の実施形態の第1蓄電セル31を変更したのみの構成であるため、同様の部分についてはその詳細な説明を省略する。
【0071】
第1蓄電セル31に用いられる負極活物質の材料は、第2蓄電セル32に用いられる負極活物質の材料と同じである。
図4に示すように、第1蓄電セル31における第1負極24aの第1負極活物質層26aの塗工面積は、第2蓄電セル32における第2負極24bの第2負極活物質層26bと塗工面積と同じであるが、第1負極活物質層26aの目付量は、第2負極活物質層26bの目付量より大きくなっている。
【0072】
第1蓄電セル31の正極活物質層23は、第2蓄電セル32の正極活物質層23と塗工面積及び目付量が等しくなっている。
リチウムイオン蓄電セル20の負極容量は、負極活物質の物質量の増加に応じて大きくなる。第1蓄電セル31と第2蓄電セル32とでは、正極活物質及び負極活物質の材料が同じであるため、第1蓄電セル31及び第2蓄電セル32の負極容量は、負極活物質の質量の増加に応じたものとなる。本実施形態では、第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aは、その目付量が第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bより大きくなっている。このため、第1蓄電セル31の負極容量は第2蓄電セル32の負極容量より大きい。
【0073】
すなわち、本実施形態では、第1蓄電セル31の負極容量は第2蓄電セル32の負極容量より大きくしているため、蓄電モジュール10の充電中において、リチウムイオン蓄電セル20内に局所的な電流集中が発生した場合であっても、過電荷によってリチウム析出が生じることが抑制されている。よって、第1蓄電セル31における第1負極24aの第1負極活物質層26aは、負極容量を大きくすることでリチウム析出が抑制された析出抑制負極活物質層である。
【0074】
第1蓄電セル31の負極容量は、第1負極活物質層26aの目付量を第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bの目付量より大きくすることで第2蓄電セル32の負極容量より大きくなっている。リチウムイオン蓄電セル20の電池容量は、負極容量と正極容量によって決まり、負極容量だけ大きくしても正極容量が大きくなければ電池容量は増加しない。このため、第1蓄電セル31の負極容量だけでなく第2蓄電セル32の負極容量を大きくしても、第1蓄電セル31及び第2蓄電セル32の正極容量が大きくなっていなければリチウムイオン蓄電セル20の電池容量は増加せず、無駄な負極活物質層26の量が増加してしまう。さらにこの場合には、リチウムイオン蓄電セル20のエネルギー密度が低下してしまい好ましくない。したがって、本実施形態では、負極活物質層26の無駄を減らし、かつリチウムイオン蓄電セル20のエネルギー密度の低下を抑制するため、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bの目付量は、第1負極活物質層26aのように大きくしておらず、全ての第2負極活物質層26bの目付量は等しい。
【0075】
蓄電モジュール10の充電時、各リチウムイオン蓄電セル20は、充電により、リチウムイオンが負極側に移動して負極電位が下がっていく。第1蓄電セル31の負極容量は、第2蓄電セル32の負極容量より大きいことから、蓄電モジュール10の充電中において、リチウムイオン蓄電セル20内に局所的な電流集中が発生した場合であっても、過電荷によってリチウム析出が生じることが抑制されている。
【0076】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態に記載の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(2-1)第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aと第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bとで、同じ材料の負極活物質を用いつつ、第1蓄電セル31の負極容量を第2蓄電セル32の負極容量より大きくしている。これにより、全てのリチウムイオン蓄電セル20の負極活物質の材料を同じにしながら第1蓄電セル31におけるリチウム析出を抑制できる。
【0077】
なお、上記実施例は、以下のように変更して実施することができる。上記の各実施例及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0078】
○ 負極活物質の材料を第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aと第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bとで異ならせた第1の実施形態において、第1蓄電セル31の負極容量を、第2蓄電セル32の負極容量より大きくする。
【0079】
このように構成した場合、第1蓄電セル31において、第1負極24aの負極活物質をチタン酸リチウムとすることと、負極容量を第2蓄電セル32の第2負極24bより大きくすることの両方により、第1蓄電セル31におけるリチウム析出を抑制できる。
【0080】
○ 第1の実施形態において、第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aの負極活物質を、チタンニオブ酸化物(TiNb2O7)に変更してもよい。チタンニオブ酸化物の作動電位は、リチウム析出電位に対して十分高く、また、黒鉛よりも高い。このため、チタンニオブ酸化物は、黒鉛と比較して、過電荷状態になってもリチウム析出が発生しにくい材料であるといえる。
【0081】
また、チタンニオブ酸化物の理論容量は、黒鉛より大きく、体積当たりの理論容量は2倍である。このため、第1蓄電セル31の負極活物質としチタンニオブ酸化物を用いた場合には、蓄電モジュール10のエネルギー密度を低下させずに済む。
【0082】
このように構成した場合、第1蓄電セル31において、第1負極24aの負極活物質をチタンニオブ酸化物とすることにより、第1蓄電セル31におけるリチウム析出を抑制できる。
【0083】
○ 負極活物質の材料を、第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aと第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bとで同じにし、かつ第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aの目付量を、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bの目付量より大きくした第2の実施形態において、以下のように変更してもよい。第1蓄電セル31の第1負極活物質層26aにおける厚みを、第2蓄電セル32の第2負極活物質層26bにおける厚みと同じにしてもよい。
【0084】
このように構成した場合、全てのリチウムイオン蓄電セル20のサイズを同一にしつつ、第1蓄電セル31の負極容量を第2蓄電セル32の負極容量より大きくすることができ、第1蓄電セル31におけるリチウム析出を抑制できる。
【0085】
○ 第1の実施形態及び第2の実施形態において、第1蓄電セル31の第1電解質層をセパレータ27及び電解質の構成から高分子電解質又は固体電解質に変更してもよい。又は、セパレータ27の厚さを厚くしてもよい。このように構成した場合、万一、第1蓄電セル31にリチウム析出が発生しても、高分子電解質、固体電解質、又はセパレータ27が、析出したリチウムによって突き破られることを抑制でき、内部短絡を抑制できる。
【0086】
○ 負極集電体25について、実施形態と比べて厚さを厚くしたり、材質を変更して導電性を高めることで、負極通電板50における電流ムラの発生を抑制するようにしてもよい。
【0087】
○ 負極通電板50について、実施形態と比べて厚さを厚くしたり、材質を変更して導電性を高めることで、負極通電板50における電流ムラの発生を抑制するようにしてもよい。
【0088】
○ 蓄電モジュール10は、セル間封止材30を備えていなくてもよい。
○ 第2蓄電セル32は、1つでも設けられていればよい。
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
【0089】
(1)前記析出抑制負極活物質層に用いられる負極活物質はチタン酸リチウムである。
【符号の説明】
【0090】
10…蓄電モジュール、12…組電池、12a…第1端面、12b…第2端面、20…リチウムイオン蓄電セル、21a…第1正極、21b…第2正極、24a…第1負極、24b…第2負極、26…負極活物質層、26a…析出抑制負極活物質層としての第1負極活物質層、27…第1電解質層及び第2電解質層の一部を構成するセパレータ、31…第1蓄電セル、32…第2蓄電セル、40…正極通電板、50…負極通電板。