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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081893
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】多目的競技場
(51)【国際特許分類】
   E04H 3/14 20060101AFI20220525BHJP
   E04H 3/22 20060101ALI20220525BHJP
   E04B 1/35 20060101ALI20220525BHJP
   E04B 1/32 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
E04H3/14 C
E04H3/22
E04H3/14 D
E04B1/35 Q
E04B1/32 102J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193116
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】517064843
【氏名又は名称】河野 久米彦
(71)【出願人】
【識別番号】502410196
【氏名又は名称】株式会社 横河システム建築
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 久米彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 智夫
(72)【発明者】
【氏名】朱 大立
(72)【発明者】
【氏名】村岡 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 卓司
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 峰義
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、フィールド全面を吊上げることなく多種多様な競技やイベントを開催することができる多目的競技場を提供することである。
【解決手段】本願発明の多目的競技場は、全体フィールドと、基礎床面、壁体、昇降装置を備えたものである。このうち全体フィールドは、上下に移動しない「固定フィールド」と昇降可能な「昇降フィールド」によって構成され、基礎床面は、昇降フィールドの下方に配置される。また壁体は、全体フィールドを挟んで対向配置される固定壁とスライド壁を含み、昇降装置は、昇降フィールドを吊上げかつ吊下ろす装置である。なお、スライド壁は、主軸方向への平面移動が可能である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に移動しない固定フィールドと、昇降可能な昇降フィールドと、によって構成される全体フィールドと、
前記昇降フィールドの下方に配置される基礎床面と、
前記全体フィールドを挟んで対向配置される固定壁とスライド壁を含む壁体と、
前記昇降フィールドを吊上げかつ吊下ろす昇降装置と、を備え、
前記全体フィールドに設定される主軸方向、及び該主軸方向に垂直な垂直軸方向のうち、該垂直軸方向に境界線が生じるように前記固定フィールドと前記昇降フィールドは分離され、
前記スライド壁は、前記主軸方向への平面移動が可能であり、
前記固定フィールドと同一又は略同一の高さに前記昇降フィールドを配置するとともに、前記全体フィールドの外側に前記スライド壁を配置すると、競技用空間が形成され、
前記昇降装置によって前記昇降フィールドを吊上げるとともに、前記境界線付近まで前記スライド壁が平面移動すると、前記壁体に囲まれた前記基礎床面の上方に前記競技用空間より狭小な限定空間が形成される、
ことを特徴とする多目的競技場。
【請求項2】
前記昇降装置は、前記昇降フィールドの上方に配置される第1天井体と第2天井体とを含んで構成され、
前記第1天井体は、前記昇降フィールドのうち前記境界線側で、前記垂直軸方向に架け渡されるように配置され、
前記第2天井体は、前記昇降フィールドのうち前記全体フィールドの端部側で、前記垂直軸方向に架け渡されるように配置され、
前記第1天井体に設けられる巻き上げ装置によって、前記昇降フィールドのうち前記境界線側が吊上げかつ吊下ろされ、
前記第2天井体に設けられる巻き上げ装置によって、前記昇降フィールドのうち前記全体フィールドの端部側が吊上げかつ吊下ろされる、
ことを特徴とする請求項1記載の多目的競技場。
【請求項3】
前記第1天井体は、前記主軸方向への平面移動が可能であり、
吊り上げられた前記昇降フィールドのうち前記境界線側の一部を、該境界線付近まで平面移動した前記スライド壁の上端に載置可能であり、
前記昇降フィールドの一部を前記スライド壁の上端に載置すると、前記第1天井体は昇降フィールドの吊り上げを解放して平面移動が可能となる、
ことを特徴とする請求項2記載の多目的競技場。
【請求項4】
前記昇降フィールドのうち前記境界線側に配置された前記第1天井体と、前記第2天井体と、の間に設置される天井屋根を、さらに備え、
前記天井屋根は、開閉可能である、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3記載の多目的競技場。
【請求項5】
前記スライド壁の前記全体フィールド側にはスタンド席が設けられ、
前記スライド壁は、前記スタンド席とともに前記主軸方向への平面移動が可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の多目的競技場。
【請求項6】
前記基礎床面は、昇降可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の多目的競技場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、サッカー、野球、陸上競技といった各種競技や、コンサート、展示会、物産展といった各種イベントを開催する施設に関するものであり、より具体的には、部分的に上下2層の床面を利用することができる多目的競技場に関するものである。
【背景技術】
【0002】
競技場は、ある特定の競技を行うため、あるいはその競技を観戦させることを目的とする施設であり、野球場やサッカー場などはその代表的な例である。ところが、競技場で行われる競技の回数(例えば試合数)は一般的に年間を通じて数十回程度であり、そのため現状では年間を通じて安定的に収益を上げることは難しい。
【0003】
そこでスポーツ庁では、官民連携によるスタジアムやアリーナの整備計画策定に対して財政支援を行うこととしており、「稼げる」という視点を重視したうえでスポーツ以外のイベントも常時開催できる多機能型・複合型の施設の整備を推し進めている。そして、「稼げる」を重視した多機能型・複合型のスタジアムやアリーナを2025年までに全国的に整備する目標を掲げている。
【0004】
野球とサッカー、そしてコンサートなどに使用することができる多目的競技場は、1年を通じて定常的に集客機会が得られることから収益面にとっては極めて好適であり、これまでにも多目的競技場に関する様々な提案が行われてきた。例えば特許文献1では、フィールドの周囲に設置された外壁のうち一部の外壁を平面移動(スライド移動)することによってフィールドの広さ(面積)を可変とする多目的競技場について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-33721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される多目的競技場は、可動壁を平面移動することによって通常の競技用の空間よりも狭小な催事用空間を形成することができ、またフィールド全体を平面移動することによってその催事用空間からフィールドを取り除くことができる競技場である。これにより、本来の競技場としての用途であるサッカー等を実施することができるうえに、狭小な催事用空間を形成することで臨場感をもってコンサート等を開催することもでき、しかもフィールドを移動していることから天然芝の損傷を気にすることなく各種催事(イベント)を執り行うことができる。このように特許文献1に開示される発明は、極めて有効に多目的を達成することができるものであるが、フィールド全体を平面移動するための設備にややコストがかかるという問題があった。
【0007】
競技やイベントなど多目的を達成するためには、競技用のフィールド(例えば、芝生のフィールド)とイベント用の床(例えば、コンクリート床やフローリング床)を用意し、これらを2層構造とすることが考えられる。サッカー等を実施するときは競技用フィールドをグランドレベルに配置し、一方、コンサート等を開催するときは、この競技用フィールドを上方高く吊上げてイベント用床の利用を可能とするわけである。しかしながら、競技用フィールド全面を吊上げるには相当規模の設備を要することが想定され、フィールド全体を平面移動するための設備にややコストがかかるという特許文献1の問題を解決することはできない。
【0008】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち、フィールド全面を吊上げることなく多種多様な競技やイベントを開催することができる多目的競技場を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、フィールド全面のうち多目的で使用する範囲のフィールドのみを吊上げる、という点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0010】
本願発明の多目的競技場は、全体フィールドと、基礎床面、壁体、昇降装置を備えたものである。このうち全体フィールドは、上下に移動しない「固定フィールド」と昇降可能な「昇降フィールド」によって構成され、基礎床面は、昇降フィールドの下方に配置される。また壁体は、全体フィールドを挟んで対向配置される固定壁とスライド壁を含み、昇降装置は、昇降フィールドを吊上げかつ吊下ろす装置である。なお、全体フィールドには主軸方向と垂直軸方向(主軸方向に垂直な軸)を設定することができ、固定フィールドと昇降フィールドは境界線が垂直軸方向に生じるように分離される。またスライド壁は、主軸方向への平面移動(スライド移動)が可能である。そして、固定フィールドと略同一(同一を含む)の高さに昇降フィールドを配置するとともに、全体フィールドの外側にスライド壁を配置すると、「競技用空間」が形成される。一方、昇降装置によって昇降フィールドを吊上げるとともに、境界線付近までスライド壁が平面移動すると、壁体に囲まれた基礎床面の上方には競技用空間より狭小な「限定空間」が形成される。
【0011】
本願発明の多目的競技場は、昇降装置が第1天井体と第2天井体とを含んで構成されたものとすることもできる。第1天井体は、昇降フィールドのうち境界線側において垂直軸方向に架け渡されるように昇降フィールドの上方に配置され、第2天井体は、昇降フィールドのうち全体フィールドの端部側において垂直軸方向に架け渡されるように昇降フィールドの上方に配置される。そして、第1天井体に設けられる巻き上げ装置によって昇降フィールドのうち境界線側が吊上げかつ吊下ろされ、第2天井体に設けられる巻き上げ装置によって昇降フィールドのうち全体フィールドの端部側が吊上げかつ吊下ろされる。
【0012】
本願発明の多目的競技場は、第1天井体が主軸方向へ平面移動することができるものとすることもできる。この場合、吊り上げられた昇降フィールドのうち境界線側の一部を、境界線付近まで平面移動したスライド壁の上端に載置可能とされる。そして、昇降フィールドの一部をスライド壁の上端に載置すると、第1天井体は昇降フィールドの吊り上げを解放して平面移動が可能となる。
【0013】
本願発明の多目的競技場は、開閉可能な天井屋根をさらに備えたものとすることもできる。この天井屋根は、第1天井体と、昇降フィールドのうち境界線側に配置された第2天井体との間に設置される。
【0014】
本願発明の多目的競技場は、スライド壁の全体フィールド側にスタンド席が設けられたものとすることもできる。この場合のスライド壁は、スタンド席とともに主軸方向への平面移動が可能である。
【0015】
本願発明の多目的競技場は、基礎床面が昇降可能であるものとすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の多目的競技場には、次のような効果がある。
(1)サッカーや野球など本来目的としている競技を行うときは競技場の領域を広く設定することができ、一方、コンサートなどのイベントを行うときは、会場領域を相当程度の広さに縮小することができる。すなわち、開催する競技やイベントに応じて、会場の広さを適宜変更することができ、その結果、競技場の稼働率を高めることができる。
(2)イベントを行うときは部分的にフィールドを吊上げたうえで基礎床面(例えば、コンクリート床やフローリング床)を利用するため、フィールドの天然芝を痛めるおそれがない。
(4)部分的にフィールドを吊上げることから、フィールド全面を吊上げるケースに比べ、吊上げ構造をはじめとする競技場全体の小規模化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本願発明の多目的競技場を上方から見た平面図。
図2】全体フィールドの主軸方向にスライド移動するスライド壁を模式的に示す平面図。
図3】スライド壁が通過している状態の多目的競技場を模式的に示す断面図。
図4】全体フィールドを上方から見た平面図。
図5】昇降フィールドを吊上げることによって限定空間が形成された多目的競技場を模式的に示す断面図。
図6】第1天井体と第2天井体を模式的に示す側面図。
図7】(a)第1下弦材から第2下弦材をやや吊下ろした状態を模式的に示す垂直軸方向の部分断面図、(b)は第1下弦材から第2下弦材をやや吊下ろした状態を模式的に示す主軸方向の部分断面図。
図8】主軸方向にスライド移動する第2天井体を模式的に示す平面図。
図9】(a)は天井屋根が完全に閉扉した状態を示す側面図、(b)は天井屋根が完全に閉扉した状態を上方から見た平面図、(c)は天井屋根が一部開扉した状態を上方から見た平面図。
図10】本願発明の多目的競技場において競技用空間が形成された状態から限定空間を形成する過程のうち「第1天井体がスライド移動するステップ」から「スライド壁がスライド移動するステップ」までを示すステップ図。
図11】本願発明の多目的競技場において競技用空間が形成された状態から限定空間を形成する過程のうち「スライド壁が指定位置までスライド移動したステップ」から「基礎床面がグランドレベルまで上昇したステップ」までを示すステップ図。
図12】第1天井体と第2天井体との間に天井屋根440を設置したステップ図。
図13】本願発明の多目的競技場において限定空間が形成された状態から競技用空間を形成する過程を示すステップ図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の多目的競技場の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本願発明の多目的競技場100を模式的に示す平面図である。この図に示すように本願発明の多目的競技場100は、中央に全体フィールド200が配置され、その全体フィールド200の周囲に壁体300が設けられ、さらに全体フィールド200の上方に昇降装置400が設置されたものである。そして、壁体300で囲まれた空間には全体フィールド200を囲むようにスタンド席STを設置することができる。なお図1では、サッカー用の全体フィールド200を備えるサッカー競技場の例を示しているが、本願発明の多目的競技場100はサッカー競技場のほか野球場や陸上競技場といった種々の競技場として実施することができる。また便宜上ここでは、全体フィールド200の長手方向に設定される軸方向(図では左右方向)のことを「主軸方向」、この主軸方向に対して垂直に設定される軸方向(図では上下方向)のことを「垂直軸方向」ということとする。以下、本願発明の多目的競技場100を構成する主な要素ごとに詳しく説明する。
【0020】
(壁体)
図1に示すように壁体300は、平面移動(スライド移動)が可能なスライド壁310と、移動しない固定壁320を含んで構成され、スライド壁310と固定壁320が全体フィールド200を挟んで対向配置される。例えば図1に示す壁体300は、スライド壁310と3つの固定壁320(第1固定壁321、第2固定壁322、第3固定壁323)によって構成されており、一方のゴールライン側(図では右側) にスライド壁310が配置され、他方のゴールライン側(図では左側)には第1固定壁321が配置され、そして双方のサイドライン側には第2固定壁322(図では上側のサイドライン)と第3固定壁323(図では下側のサイドライン)が配置されている。
【0021】
スライド壁310は、図2に示すように主軸方向へのスライド移動が可能であり、全体フィールド200を挟んで対向配置される第1固定壁321に近づくように(図では左側に)移動することも、第1固定壁321から遠ざかるように(図では右側に)移動することもできる。なお便宜上ここでは、第1固定壁321 に近づく移動のことを「前進スライド」、第1固定壁321から遠ざかる移動のことを「後退スライド」ということとする(図3)。
【0022】
このようにスライド壁310がスライド移動することから、本願発明の多目的競技場100は多目的の用途に利用できる。すなわち、スライド壁310が後退スライドすることによって競技(図1の場合はサッカー)用の空間(以下、「競技用空間」という。)を形成することができ、一方、スライド壁310が前進スライドすることによってイベント等の開催に適した比較的狭小の空間(以下、「限定空間」という。)を形成することができるわけである。特に、図2に示すようにスライド壁310と固定壁320によって限定空間を取り囲むと、適当な面積(広さ)の会場が設営され、例えばコンサートを行うときには観客が間近で演奏を鑑賞できるうえ、優れた音響効果を得ることができる。
【0023】
図3は、スライド壁310が通過している状態の多目的競技場100を模式的に示す断面図であり、図2に示す第1固定壁321側から見た図である。図3に示すスライド壁310は、本体壁310aと、地面上に配置される下部移動体310bを含んで構成されている。本体壁310aは限定空間を形成するための壁体である。なお、本体壁310aの前面(全体フィールド200側の面)には、図3に示すようにスタンド席STを設けることもでき、この場合はスタンド席STとともにスライド壁310が主軸方向にスライド移動する。
【0024】
下部移動体310bは、スライド壁310を前進スライドあるいは後退スライドさせる手段であり、台車やクローラ、レール、タイヤなど従来用いられている種々の手段を利用することができる。またスライド壁310をスライドさせる動力としては、自走するためのモータを利用することもできるし、ワイヤーロープで牽引するためのウィンチなどを利用することもできるし、ギア(ラック・ピニオン)などその他種々の手段を利用することもできる。このようにスライド壁310をスライドさせるには、駆動方式としてはウィンチワイヤー方式や、ラック・ピニオン方式、チェーン方式、ジャッキ方式などが挙げられ、走行する手段(部品)としては台車方式や、滑りシュー方式、回転軸方式、静圧軸受方式、磁気浮上方式などが例示できる。図3の例では、地面上に敷設した軌道(レール)上に車輪(下部移動体310b)を配置し、両端のウィンチ(第1固定壁321側とその反対側)が相互にワイヤーロープを牽引することによって、そのワイヤーロープに固定されたスライド壁310をスライドさせる構造としている。
【0025】
(全体フィールド)
図4は、全体フィールド200を上方から見た平面図である。この図に示すように全体フィールド200は、昇降フィールド210と固定フィールド220によって構成され、また昇降フィールド210と固定フィールド220は垂直軸方向に延びる境界線BDで平面的に分離されている。このうち昇降フィールド210は後述するように昇降装置400によって吊上げ且つ吊下ろされ、一方の固定フィールド220は上下に移動することなくグランドレベルで固定されている。なお、昇降フィールド210の下方(下層)には基礎床面500が配置されており、昇降装置400が昇降フィールド210を吊上げると基礎床面500が表出するいわば2層(昇降フィールド210と基礎床面500)構造となっている。
【0026】
上記したとおり、スライド壁310が前進スライドすることによってイベント等の開催に適した限定空間を形成することができる。しかしながら、スライド壁310の前進スライドによって平面的に狭小なスペースを形成しただけでは、全体フィールド200(特に昇降フィールド210)がグランドレベルに配置されたままであり、すなわち天然芝上でコンサート等を開催することになる。もちろん、適切な天然芝養生を施したうえでコンサート等を実施すれば天然芝を保護することはできるものの、その養生には手間やコストがかかるうえ、ある程度の天然芝の損傷は覚悟しなければならない。
【0027】
そこでイベント等を開催するために限定空間を形成する場合は、昇降装置400で昇降フィールド210を吊上げ、基礎床面500を表出するとよい。コンクリート床やフローリング床といった基礎床面500を利用することで、昇降フィールド210の天然芝の損傷を回避するわけである。そのため昇降フィールド210は、図5に示すように計画した限定空間と同等の平面形状や寸法(面積)で設計するとよい。換言すれば、全体フィールド200における境界線BDの位置、すなわち昇降フィールド210と固定フィールド220の面積比は、限定空間の利用目的に応じて設計するとよい。
【0028】
例えば図4では、限定空間での集客数等を計画した結果、ペナルティエリアよりもややハーフウェーライン側に境界線BDを設定している。このように限定空間の利用目的のみに応じて境界線BDを設定することもできるが、全体フィールド200上の種々のラインとの関係で境界線BDの位置を設定することもできる。図4ではライン全体が天然芝上に引かれているため境界線BDが際立っているが、これを気にする場合はペナルティエリアのライン上に境界線BDを設定するとよい。
【0029】
(昇降装置)
昇降装置400は、昇降フィールド210を吊上げかつ吊下ろす装置であり、昇降フィールド210を昇降させることができればウィンチやホイスト式クレーンなど従来用いられている種々の技術を利用することができる。ここでは一例として、第1天井体410と第2天井体420からなる昇降装置400について説明する。これら第1天井体410と第2天井体420は、それぞれ昇降フィールド210の上方に配置される。また図1に示すように、第1天井体410は昇降フィールド210のうち境界線BD(図1では右側)で垂直軸方向に架け渡されるように配置され、一方の第2天井体420は昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側(図1では左側)でやはり垂直軸方向に架け渡されるように配置される。より詳しくは図1図8に示すように、第1天井体410と第2天井体420の両端(図では上下端)を、所定高さに設置された支持体430や第2固定壁322、第3固定壁323上に載置し、いわゆる単純梁形式で垂直軸方向に架け渡す。
【0030】
図6は、第1天井体410と第2天井体420を模式的に示す側面図である。なお便宜上、図6では第1天井体410と第2天井体420のうち一方のみを示している。この図に示すように第1天井体410と第2天井体420は、アーチ材BAと下弦材BSを利用した梁構造であり、下弦材BSに設置されたウィンチ等(図示しない)の巻き上げ装置が吊ロープHRを巻き取りあるいは送り出すことで、吊ロープHRの下端に連結された昇降フィールド210を吊上げ、吊下ろすものである。
【0031】
また第1天井体410と第2天井体420は、図7に示すように上方に配置される第1下弦材BS1と、下方に配置される第2下弦材BS2の上下2段梁構造とすることもできる。図7は、第1下弦材BS1から第2下弦材BS2をやや吊下ろした状態を模式的に示す図であり、(a)は下弦材BSを垂直軸方向の鉛直断面で切断した部分断面図、(b)は主軸方向の鉛直断面で切断した断面図である。この場合、図7に示すように第1下弦材BS1は上下方向の移動が拘束され(つまり上下移動しない)、一方の第2下弦材BS2が上下に移動する構造とされる。以下、図7を参照しながら第1下弦材BS1と第2下弦材BS2からなる構造とその動作について詳しく説明する。
【0032】
図7に示すように、第1下弦材BS1にはウィンチ等(図示しない)の巻き上げ装置WNが固定されており、また第1下弦材BS1には複数(図では7個)の滑車(以下、便宜上「上部滑車PL1」という。)が取り付けられ、同様に第2下弦材BS2にも複数(図では7個)の滑車(以下、便宜上「下部滑車PL2」という。)が取り付けられている。そして巻き上げ装置WNからのワイヤーロープWRが、上部滑車PL1と下部滑車PL2に交互に巻き回されて、その一端(図では左端)が第1下弦材BS1に固定されている。これにより、上部滑車PL1は定滑車として機能し、一方の下部滑車PL2は巻き上げ装置WNのワイヤーロープWRの伸縮(巻き取り/送り出し)に伴って昇降する動滑車として機能する。また第2下弦材BS2には、垂下するように複数(図では8本)の吊ロープHRが取り付けられている。
【0033】
第1下弦材BS1と第2下弦材BS2は、断面寸法よりも軸寸法が卓越した長尺部材であり、H型鋼や山形鋼、鋼管といった長尺鋼材を利用した構成とすることもできるし、図7(b)に示すように2本の溝形鋼を組み合わせた構成とすることもできる。図7(b)の構成とする場合、2本の溝形鋼(第1下弦材BS1)の間に上部滑車PL1を配置し、同様に2本の溝形鋼(第2下弦材BS2)の間に下部滑車PL2を配置するとよい。なお上部滑車PL1と下部滑車PL2は、主軸方向周りに回転可能となるように取り付けられる。
【0034】
既述したとおり、第1下弦材BS1は上下方向の移動が拘束される(つまり上下移動しない)ように固定されており、一方の第2下弦材BS2は、巻き上げ装置WNからのワイヤーロープWRによって支持されて(吊られて)いる。そのため、巻き上げ装置WNのワイヤーロープWRを送出す(巻き出す)と動滑車として機能する下部滑車PL2が降下し、これに伴って下部滑車PL2が固定されている第2下弦材BS2も降下する。これに対して、巻き上げ装置WNのワイヤーロープWRを巻き取ると下部滑車PL2が上昇し、これに伴って第2下弦材BS2も上昇する。
【0035】
吊ロープHRの下端には昇降フィールド210が連結されていることから、第2下弦材BS2の昇降に伴って昇降フィールド210も昇降する。すなわち巻き上げ装置WNは、いわば第2下弦材BS2を介して昇降フィールド210を吊上げるとともに吊下ろすことができるわけである。なお吊ロープHRの下端に昇降フィールド210を連結するにあたっては、従来用いられる種々の手法を採用することができる。例えば、昇降フィールド210の所定位置(吊ロープHRの配置に対応する位置)に昇降フィールド210を貫通する小孔(以下、「貫通小孔」という。)を設け、この貫通小孔を利用して昇降フィールド210を連結することができる。つまり、吊ロープHRを貫通小孔に挿通し、さらに吊ロープHRが貫通小孔から抜け出さないようにその下端に抜け防止具(支圧板など)を固定することによって、吊ロープHRの下端に昇降フィールド210を連結するわけである。
【0036】
既述したとおり、第1天井体410は、昇降フィールド210の上方であって、昇降フィールド210の境界線BDで垂直軸方向に架け渡されるように配置され、一方の第2天井体420は、昇降フィールド210の上方であって、昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側で垂直軸方向に架け渡されるように配置される。そのため、第1天井体410はその巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち境界線BD側の端部を吊上げるとともに吊下ろし、第2天井体420はその巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側を吊上げるとともに吊下ろす。
【0037】
第1天井体410は、図8に示すように主軸方向にスライド移動する構造とすることもできる。昇降フィールド210を昇降する局面では、第1天井体410が境界線BD付近までスライド移動し、それ以外の局面では第2天井体420側にスライド移動して昇降フィールド210の上方を開放するわけである。これにより、昇降フィールド210の天然芝に向かう日光が遮られなくなり、すなわち十分な日照時間が確保されることから天然芝の育成にとって好適となる。また第1天井体410と同様、第2天井体420も主軸方向にスライド移動する構造とすることもできる。昇降フィールド210を昇降する局面では、第1天井体410と第2天井体420が昇降フィールド210上方の所定位置までスライド移動し、それ以外の局面では第1天井体410と第2天井体420が昇降フィールド210から外れる位置(図8では左側)までスライド移動するわけである。なお第1天井体410や第2天井体420がスライド移動する構成は、スライド壁310で説明した内容と同様、従来用いられている種々の手段を利用することができる。
【0038】
第1天井体410がスライド移動する場合、第1天井体410付近まで吊上げた昇降フィールド210のうち境界線BD側の端部をスライド壁310に載置することもできる。より詳しくは、第1天井体410が境界線BD付近までスライド移動するとともに、スライド壁310も境界線BD付近までスライド移動し、第1天井体410が所定高さまで吊上げた昇降フィールド210を若干吊下ろしてスライド壁310の上端に載置するわけである。昇降フィールド210の境界線BD端部をスライド壁310に載置することで、第1天井体410が負担していた昇降フィールド210の荷重(自重)はスライド壁310に預けられる。その結果、第1天井体410による昇降フィールド210の吊り上げを解放することができ、すなわち昇降フィールド210と吊ロープHRとの連結を解除することによって第2天井体420側にスライド移動することができるわけである。
【0039】
第1天井体410と第2天井体420との間には、開閉式の天井屋根440を設置することもできる。図9は天井屋根440を模式的に示す図であり、(a)は天井屋根440が完全に閉扉した状態を示す側面図、(b)は天井屋根440が完全に閉扉した状態を上方から見た平面図、(c)は天井屋根440が一部開扉した状態を上方から見た平面図である。この図に示すように天井屋根440は、第1天井体410と第2天井体420の上方を覆うように設置される。また、昇降フィールド210の境界線BDに配置された第1天井体410と、昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側に配置された第2天井体420との間に天井屋根440を設置することによって、その天井屋根440は昇降フィールド210全体を覆うことができる。なお図9では、天井屋根440全体が同方向に移動することで開閉する構造としているが、これに限らず中央を境界に分離された天井屋根440が左右2方向に移動することで開閉する構造とすることもできる。
【0040】
(使用例)
図10図11は、本願発明の多目的競技場100において競技用空間が形成された状態から限定空間を形成する過程を示すステップ図であり、図10はそのうち「第1天井体410がスライド移動するステップ」から「スライド壁310がスライド移動するステップ」までを示し、図11は「スライド壁310が指定位置までスライド移動したステップ」から「基礎床面500がグランドレベルまで上昇したステップ」までを示している。以下、図10図11を参照しながら多目的競技場100を使用して限定空間を形成する手順について説明する。
【0041】
図10(a)に示すように、第2天井体420側(図では左側)に配置されている第1天井体410を境界線BD付近(図では右側)までスライド移動する。境界線BD付近に到達した第1天井体410はそこで停止し、図10(b)に示すように、第1天井体410の巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち境界線BD側(図では右側)の端部を吊上げるとともに、第2天井体420の巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側(図では左側)を吊上げる。そして昇降フィールド210が天井付近まで吊り上がると、図10(c)に示すように、スライド壁310が第1固定壁321に向かって主軸方向へスライド移動していく。このとき、本体壁310aの前面にスタンド席STが設けられている場合、スライド壁310はスタンド席STとともに第1固定壁321に向かってスライド移動する。
【0042】
図11(d)に示すように、境界線BD付近に到達したスライド壁310はそこで停止する。そして、第1天井体410の巻き上げ装置WNが昇降フィールド210を若干吊下ろすことで昇降フィールド210の境界線BD端部をスライド壁310の上端に載置し、さらに昇降フィールド210と吊ロープHRとの連結を解除すると、図11(e)に示すように第1天井体410は第2天井体420側(図では左側)までスライド移動する。スライド壁310が境界線BD付近までスライド移動するとともに、昇降フィールド210が所定高さまで吊上げられて限定空間が形成されると、図11(f)に示すように基礎床面500をグランドレベルまで上昇させる。このように基礎床面500は、競技用空間が形成されているときは昇降フィールド210よりも下方に設けられた格納室に格納しておき、限定空間が形成される際に格納室から持ち上げることによって基礎床面500をグランドレベルに配置する構成にすることができる。なお、基礎床面500が昇降する機構は、ジャッキやウィンチなど従来用いられている種々の手段を利用することができる。
【0043】
ところで、昇降フィールド210に対して日陰を形成する、あるいは豪雨や豪雪、強風等から昇降フィールド210を保護したいこともあり、また天井高さに配置した昇降フィールド210を利用する際に降雨や降雪を避けたいこともある。このような場合、図12に示すように第1天井体410と第2天井体420との間に天井屋根440を設置するとよい。昇降フィールド210の境界線BDに配置された第1天井体410と、昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側に配置された第2天井体420との間に天井屋根440を設置することによって、天井高さに配置した昇降フィールド210に日陰を形成することができ、また豪雨や豪雪等から保護することができるわけである。ただし、天然芝を育成する点においては、天井屋根440はむしろ障壁となる。そのため、天井屋根440は図9に示すように開閉可能な構造にするとよい。
【0044】
続いて、図13を参照しながら多目的競技場100を使用して競技用空間を形成する手順について説明する。図13は、本願発明の多目的競技場100において限定空間が形成された状態から競技用空間を形成する過程を示すステップ図である。
【0045】
まず図13(a)に示すように、第2天井体420側(図では左側)に配置されている第1天井体410を境界線BD付近(図では右側)までスライド移動し、基礎床面500を降下させて昇降フィールド210の下方に設けられた格納室に格納する。境界線BD付近に到達した第1天井体410はそこで停止し、図13(b)に示すように、第1天井体410の巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち境界線BD側(図では右側)の端部を吊下ろすとともに、第2天井体420の巻き上げ装置WNによって昇降フィールド210のうち全体フィールド200の端部側(図では左側)を吊下ろす。また、スライド壁310は第1固定壁321から離れるように主軸方向へスライド移動していく。
【0046】
固定フィールド220から外れた位置(図では右端)までスライド壁310スライド移動するとともに、昇降フィールド210がグランドレベルまで吊下ろされて競技用空間が形成されると、図13(c)に示すように第1天井体410は第2天井体420側(図では左側)までスライド移動する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本願発明の多目的競技場は、サッカー競技場や野球場、陸上競技場といった種々のスポーツ競技施設や、コンサートや展示会、物産展といった種々のイベントを行う興行施設など、様々な施設で利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
100 本願発明の多目的競技場
200 (多目的競技場の)全体フィールド
210 (全体フィールドの)昇降フィールド
220 (全体フィールドの)固定フィールド
300 (多目的競技場の)壁体
310 (壁体の)スライド壁
310a (スライド壁の)本体壁
310b (スライド壁の)下部移動体
320 (壁体の)固定壁
321 (固定壁の)第1固定壁
322 (固定壁の)第2固定壁
323 (固定壁の)第3固定壁
400 (多目的競技場の)昇降装置
410 (昇降装置の)第1天井体
420 (昇降装置の)第2天井体
430 (昇降装置の)支持体
440 (多目的競技場の)天井屋根
500 (多目的競技場の)基礎床面
BA アーチ材
BD 境界線
BS 梁材
BS1 第1下弦材
BS2 第2下弦材
HR 吊ロープ
PL1 上部滑車
PL2 下部滑車
ST スタンド席
WN 巻き上げ装置
WR ワイヤーロープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13