(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081924
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】[11C]標識非環式レチノイド、中枢神経系活性化剤及びそれらの製造方法。
(51)【国際特許分類】
C07C 57/03 20060101AFI20220525BHJP
C07C 403/20 20060101ALI20220525BHJP
C07C 51/09 20060101ALI20220525BHJP
C07C 67/343 20060101ALI20220525BHJP
C07C 69/587 20060101ALI20220525BHJP
A61K 31/202 20060101ALI20220525BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220525BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
C07C57/03 CSP
C07C403/20
C07C51/09
C07C67/343
C07C69/587
A61K31/202
A61P25/00
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193167
(22)【出願日】2020-11-20
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】510108858
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118706
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 陽
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】木村 泰之
(72)【発明者】
【氏名】小縣 綾
(72)【発明者】
【氏名】池沼 宏
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木村 展之
(72)【発明者】
【氏名】古山 浩子
(72)【発明者】
【氏名】石井 英樹
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
(72)【発明者】
【氏名】河村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】南本 敬史
(72)【発明者】
【氏名】永井 裕司
(72)【発明者】
【氏名】香月 博志
【テーマコード(参考)】
4C206
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA05
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4H006AA01
4H006AB20
4H006AB21
4H006AC24
4H006AC29
4H006AC46
4H006AC84
4H006BA05
4H006BA25
4H006BA39
4H006BA48
4H006BE60
4H006BS10
4H006KA31
4H039CA11
4H039CD20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】短時間に収率良く合成が可能であり、PET用として脳内動態を解明するのに好適に用いることのできる
11C標識非環式レチノイド、及びそれを用いたPETプローブ、並びにそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】下記化学式(a)で示されることを特徴とする
11C標識非環式レチノイド、並びに、非プロトン性溶媒中に於て
11Cで標識化されたヨウ化メチルと下記有機スズ化合物(b)(式中R
1、R
2は分枝を有してもよいアルキル基を示す)とをパラジウム錯体、ホスフィン配位子、及びハロゲン化第1銅の存在下でクロスカップリングさせるカップリング工程によって、該レチノイド(a)を製造する方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(a)で示される化合物、又はそのエステル若しくは塩からなる
11C標識非環式レチノイド。
【化1】
【請求項2】
請求項1の11C標識非環式レチノイドを含有するPETプローブ。
【請求項3】
非プロトン性溶媒中において、
11Cで標識化されたヨウ化メチルと、下記有機スズ化合物(b)(ただし、式中の-COOR
1はエステル基、R
2は分枝を有してもよいアルキル基を示す。)とを、パラジウム錯体、ホスフィン配位子、及びハロゲン化第1銅の存在下でクロスカップリングさせるカップリング工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の
11C標識非環式レチノイドの製造方法。
【化2】
【請求項4】
下記化学式(c)で示される非環式レチノイド、又はそのエステル若しくは塩を有効成分として含有する中枢神経系活性化剤 。
【化3】
【請求項5】
下記化学式(d)で示されるホスホン酸エステル(式中のR
1はアルキル基)と、下記化学式(e)で示されるカルボン酸エステルとをホーナー・ワズワース・エモンズ反応によって化学式(f)の非環式レチノイド(式中の-COOR
2はエステル基)とすることを特徴とする非環式レチノイドの製造方法。
【化4】
【請求項6】
請求項5に記載の方法で製造した前記化学式(f)の非環式レチノイドのエステル基を加水分解してペレチノインとすることを特徴とするペレチノインの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[11C]標識非環式レチノイド、中枢神経系活性化剤及びそれらの製造方法に関する。本発明の[11C]標識非環式レチノイドは脳内移行性を有するため、非環式レチノイドの脳内動態を研究するためのPETプローブとして、好適に用いることができる。また、本発明の中枢神経系活性化剤は、本発明の[11C]標識非環式レチノイドの非標識体である非環式レチノイドを含有しており、脳内移行して中枢神経系を活性化する効果を有する。このため、中枢神経変性疾患の治療剤や、その開発のためのリード化合物として利用することができる。ここで「中枢神経変性疾患」とは中枢神経の変性を原因とする全ての疾患(例えばAlzheimer型認知症、前頭側頭型認知症、Lewy小体型認知症、Parkinson病、進行性核上性麻痺、Huntington病、嗜銀顆粒性認知症、神経原線維変化型老年期認知症、脳腫瘍等)をいい、脳内出血による中枢神経の変性等の脳血管系疾患も含む概念である。
【背景技術】
【0002】
全-trans-レチノイン酸(ATRA)は六員環の炭素骨格を有する環式レチノイドの一種であり、核内のレチノイン酸受容体のリガンドとなり、抗がん活性を示すことが知られている。さらに、ATRAおよびその人工的な類縁体がアルツハイマー病(AD)に対して改善効果を示すことが報告され、大きな注目を集めている。
【0003】
【0004】
ADなどの脳を標的とした治療薬を開発するためには、創薬候補化合物の脳内動態を解析することが重要であり、そのための手段としては、陽電子断層画像撮像法(PET)が極めて有効である。このため、本発明者らは11Cで標識したATRAを合成し、これをPET用プローブとする研究を発表した(非特許文献1)。
【0005】
しかし、11C標識ATRAをPET用プローブとするためには、次のような多くの問題があることが明らかとなった。
1)標識前駆体を合成するための工程数が多い。2)11C標識ATRAが光や標識化反応条件下において不安定である。3)11C標識化過程で複数の幾何異性体が生成し、その分離精製が煩雑である。4)in vivoにおいて数多くの代謝産物が生成し、脳内動態解析が複雑となる。
【0006】
こうした問題を解決するため、ATRAに類似した構造を有し、化学的に比較的安定な11C標識人工レチノイドもいくつか合成されている。例えば、非特許文献2では11C標識人工レチノイドとして11C標識Am80が合成された。しかしながら、11C標識Am80をPETプローブとして用いたところ、脳内移行性は認められず、脳内動態解析を行うことはできなかった。また、非特許文献3では、11C標識人工レチノイドとして、11C標識CBt-PMN を合成し、そのPETプローブとして用いたところ,11C標識ベキサロテンより高い脳内移行性が観測されている。しかし,11C標識CBt-PMNを全合成した場合の最終的な収率が0.33%と極めて低いため、PETによる画像撮影は小動物にしか利用されておらず、kineticsや脳内分布の解析など脳内動態の解明もなされていない。
【0007】
【0008】
なお、特許文献1には、非環式レチノイドの一種であるペレチノイン(peretinoin)が抗がん剤に利用できることが記載されている。しかし、ペレチノインが脳内移行性を有することについてはこれまで全く知られておらず、中枢神経系(CNS)を活性化することや、中枢神経変性疾患用薬剤として利用可能であることも知られていない。また、従来知られているペレチノインの合成は工程数が多く、手間のかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Suzuki M, Takashima-Hirano M, Ishii H, Watanabe C, Sumi K, Koyama H, Doi H. Bioorg Med Chem Lett. 2014;243:3622-3625.
【非特許文献2】Takashima-Hirano M, Ishii H, Suzuki M. ACS Med Chem Lett. 2012;3:804-807.
【非特許文献3】O. Shibahara, M. Watanabe, S. Yamada, M. Akehi, T. Sasaki, A. Akahoshi, T. Hanada, H. Hirano, S. Nakatani, H. Nishioka, Y. Takeuchi, H. Kakuta, J. Med. Chem. 2017, 60, 7139-7145.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題に鑑みなされたものであり、次の1)、2)のいずれかを達成することを課題とする。
1)短時間に収率良く合成が可能であり、PETプローブとして脳内動態を解明するのに好適に用いることのできる11C標識非環式レチノイド、及びそれを用いたPETプローブ、並びにそれらの製造方法を提供すること。
2)非環式レチノイドの新たな製造方法、及び非環式レチノイドを含有する中枢神経系活性化剤を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記従来の問題を解決するため、鎖状の炭素骨格を有する非環式レチノイドに注目した。非環式レチノイドの一種であるペレチノイン(peretinoin)は末梢系の肝臓癌の治療薬として知られているが、非環式レチノイドが脳内に移行することについての報告例はなく、
11C標識化された例もない。しかしながら、非環式レチノイドは環式レチノイドが開環した構造を有しており、化学構造に関連性がある。このため、環式レチノイドに替えて非環式レチノイドを
11C標識化してPETプローブとして用いることを試みた。
【化3】
【0013】
その結果、驚くべきことに、非環式レチノイドは脳内に移行することが判明し、脳内動態を解明するのに好適であることが分かった。しかも、これらの11C標識非環式レチノイドは環式レチノイドに比べて合成が容易であり、化学的にも安定であるという利点もある。
【0014】
すなわち、本発明の
11C標識非環式レチノイドは、下記化学式(a)で示される化合物(すなわち3位のメチル基が
11Cで標識されたペレチノイン)、又はそのエステル若しくは塩からなる。
【化4】
【0015】
本発明のPETプローブは、上述した本発明の11C標識非環式レチノイドを含有することを特徴とする。本発明者らの試験結果によれば、このPETプローブは脳内移行性を有するため、脳内動態を解明するPETプローブとして用いることができる。カルボキシ基を有する化学式(a)の11C標識非環式レチノイドは、それがエステル化された11C標識非環式レチノイドよりも脳内移行速度が速く、特にPETプローブとして優れている。
【0016】
本発明の
11C標識非環式レチノイドは、非プロトン性溶媒中において、
11Cで標識化されたヨウ化メチルと、下記有機スズ化合物(b)(ただし、式中の-COOR
1はエステル基、R
2は分枝を有してもよいアルキル基を示す。)とを、パラジウム錯体、ホスフィン配位子、及びハロゲン化第1銅の存在下でクロスカップリングさせることによって製造することができる。さらには、連続して同一の反応容器内でカップリング生成物のエステル基を加水分解することにより、容易にカルボン酸とすることができる。加水分解には水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどの強塩基を用いることができ、加水分解後にギ酸等の酸を加えて遊離のカルボン酸とする。
【化5】
【0017】
この製造方法では、パラジウム錯体に立体的にホスフィン配位子が不飽和的に配位して活性な反応場を創出し、さらに、このホスフィン配位子が配位したパラジウム錯体に11Cで標識化されたヨウ化メチルが酸化的付加をして[11C]CH3PdIにホスフィン配位子が配位したパラジウム錯体が形成される。
一方、有機スズ化合物(b)は、ハロゲン化第1銅と金属交換反応を行い、求核性に富んだ有機銅化合物となる。
そして、[11C]CH3PdIにホスフィン配位子が配位したパラジウム錯体と有機銅化合物とが置換反応を行い、さらに還元的脱離が起こって[11C]CH3とのカップリング反応が終了する。
【0018】
パラジウム錯体としては特に限定はなく、例えばPd(OAc)2を還元して得られるパラジウム0価錯体や、Pd2(dba)3等を用いることができる。
また、本明細書において、ホスフィン配位子とは3価のリン原子に有機置換基が3つ結合しており、さらに非共有電子対を有する化合物をいう。具体的には、例えばトリメチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリブチルホスフィン、ジメチルオクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィンや、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリキシリルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリス(テトラメチルフェニル)ホスフィン、ジフェニル-p-クロロフェニルホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニルエチルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、ビス(ジフェニルホスフィノ)メタン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ジオクチルオクトキシホスフィン、ジブチルブトキシホスフィン、ジフェニルフェノキシホスフィン、ジトリルトリルオキシホスフィン、ジキシリルキシリルオキシホスフィン、ジフェニルエトキシホスフィン、ジエチルフェノキシホスフィン、オクチルジオクトキシホスフィン、ブチルブトキシホスフィン、フェニルジフェノキシホスフィン、トリルジトリルオキシホスフィン、キシリルジキシリルオキシホスフィン、フェニルジエトキシホスフィン、エチルジフェノキシホスフィン、トリオクチルホスファイト、トリブチルホスファイト、ジメチルオクチルホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリトリルホスファイト、トリキシリルホスファイト、ジフェニルエチルホスファイト、ジメチルフェニルホスファイト、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、(2-ビフェニルイル)ジシクロヘキシルホスフィン、トリ-(1-ナフチル)ホスフィン等が挙げられる。
【0019】
非プロトン性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、ヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等を用いることができる。これらの中でも、ホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系極性溶媒が好ましい。
【0020】
また、カップリング工程で炭酸塩、アルカリ金属のフッ化物、及びアスコルビン酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種を添加することが好ましい。こうであれば、カップリング工程において副生するトリアルキルスズハロゲン化物が炭酸塩、アルカリ金属のフッ化物、及びアスコルビン酸のアルカリ金属塩の少なくとも1種と反応して中和もしくは沈殿により(炭酸塩の場合はトリアルキルスタニル炭酸塩として、アルカリ金属のフッ化物の場合はトリアルキルスタニルフルオライドとして、アスコルビン酸のアルカリ金属塩の場合はアスコルビン酸塩として沈殿する)、反応系から除外される。このため、SnからCuへの金属交換反応が促進され、収率を高めることもできる。
【0021】
本発明の中枢神経系活性化剤は、下記化学式(c)で示される非環式レチノイド(慣用名:ペレチノイン)、又はそのエステル若しくは塩を有効成分として含有する。
【化6】
【0022】
本発明の11C標識非環式レチノイドは脳内移行性を有することから、11C標識化されていないペレチノイン、又はそのエステル若しくは塩も、同様に脳内移行性を有する。さらに、本発明者らの試験結果によれば、上記化学式(c)で示される非環式レチノイドであるペレチノイン及びそのエステルは、脳出血後のマウスの運動機能を向上させたり、血腫周辺部のミクログリアの活性を抑制したりする。これらの事実から、上記化学式(c)で示される非環式レチノイドであるペレチノイン、又はそのエステル若しくは塩は、中枢神経系(CNS)活性化剤として利用することができる。さらには、中枢神経変性疾患治療薬剤に用いたり、中枢神経変性疾患治療薬剤を開発するためのリード化合物として、新たな診断・治療薬の開発を促したりすることができる。
【0023】
本発明の非環式レチノイドの製造方法は、下記化学式(d)で示されるホスホン酸エステル(式中のR
1はアルキル基)と、下記化学式(e)で示されるカルボン酸エステルとをホーナー・ワズワース・エモンズ反応によって化学式(f)の非環式レチノイド(式中の-COOR
2はエステル基)とすることを特徴とする。
【化7】
【0024】
この製造方法における用いられる化学式(d)のホスホン酸エステルは、trans,trans-ファルネソールを出発物質とし、その水酸基を塩化物に変換し、さらに酸トリメチルを用いたミカエリス・アルブゾフ反応により容易かつ高収率で得ることができる。また、化学式(e)で示されるカルボン酸エステルはヒドロキシアセトンからWittigオレフィン合成によりE異性体のヒドロキシエステルとし、これを酸化することによりE配置を保持したまま得ることができる。そして、本発明の製造方法により、下記化学式(d)のホスホン酸エステルと化学式(e)のアルデヒドとをHWE反応によって炭素炭素二重結合で結合させることにより、特許文献1に記載されている製造方法よりも少ない工程で化学式(f)の非環式レチノイドを製造することができる。
【0025】
さらに、こうして得られた化学式(f)の非環式レチノイドを加水分解することにより、高い立体選択的収率でペレチノイン(peretinoin)を得ることができる。加水分解には水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の強塩基を用いることができる。加水分解後にギ酸等の酸を加えて遊離のカルボン酸とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法で得られた11C標識非環式レチノイドは、PET画像を得るのに十分な放射能を有しており、PETプローブとして利用することができる。また、本発明の11C標識非環式レチノイドは、11C 標識位置が代謝的に安定であるため、再現性が高く、品質の高いPETプローブが提供される。さらには、カップリング工程後のエステル基の加水分解は迅速かつ容易に進むため、一般的な放射性薬剤自動合成装置の使用による合成が可能である。また、脳移行性を有するため、中枢系の癌である神経膠腫(グリオーマ)を標的とした非環式レチノイド類の新たな脳内癌診断・治療薬の開発を促す等、中枢神経変性疾患治療薬剤の開発過程での有用な支援分子ツールとなる。
また、本発明の中枢神経系活性化剤は、脳内移行して中枢神経系を活性化する効果を有するため、中枢神経変性疾患の治療剤や、その開発のためのリード化合物として利用することができる
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ラットに
11C標識ペレチノイン [
11C]-3を投与した時のPET画像(a)及び脳内放射能のグラフ(b)である。
【
図2】カニクイザルに
11C標識ペレチノイン [
11C]-3を投与した時のPET画像(a)及び脳内放射能のグラフ(b)である。
【
図3】ラットに
11C標識非環式レチノイド[
11C]-4cを投与した時のPET画像(a)及び脳内放射能のグラフ(b)である。
【
図4】カニクイザルに
11C標識非環式レチノイド[
11C]-4cを投与した時のPET画像(a)及び脳内放射能のグラフ(b)である。
【
図5】ラットに
11C標識非環式レチノイド[
11C]-4bを投与した場合のPET画像(a)及び脳内放射能のグラフ(b)である。
【
図6】トロンビンにより誘発される脳組織障害に対するペレチノイン 3の抑制効果を示すPI蛍光画像である。
【
図7】トロンビンにより誘発される大脳皮質細胞死の割合を示すグラフである。
【
図8】トロンビンにより誘発される線条体組織萎縮の割合を示すグラフである。
【
図9】peretinoin 3の脳組織保護効果に対するK252aの作用を示すPI蛍光画像である。
【
図10】K252aにより誘発される大脳皮質細胞死の割合を示すグラフである。
【
図11】K252aにより誘発される線条体組織萎縮の割合を示すグラフである。
【
図12】運動機能テスト中のマウスの体重の変化を示すグラフである。
【
図13】ビーム歩行試験の結果を示すグラフである。
【
図14】改変型四肢反射試験の結果を示すグラフである。
【
図15】運動機能テスト終了後の脳組織のミクログリアの画像及びその評価を示すグラフである。
【
図16】運動機能テスト終了後の神経細胞の画像及び神経細胞の脱落の評価を示すグラフである。
【
図17】幹細胞から神経細胞への分化誘導を示すイメージである。
【
図18】NMDAに対する反応性を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
非環式レチノイド4a,4b,4c及びperetinoin 3(下記化学式参照)並びにそれらの
11C標識化合物である[
11C]- 4a, [
11C]- 4b, [
11C]- 4c及び[
11C]- 3を以下の手順で合成した。なお、非環式レチノイド4a,4b,4c及びperetinoin 3 が本発明の中枢神経系活性化剤に含有されている非環式レチノイドであり、[
11C]-4a, [
11C]-4b, [
11C]- 4c及び[
11C]- 3が本発明の
11C標識非環式レチノイドである。以下、詳述する。
【化8】
【0029】
(実施例において用いられた薬品、分析装置等)
THFを除くすべての化学物質と溶媒は、Sigma-Aldrich Japan,、和光純薬、東京化成工業、Kanto、及びNacalai Tesqueから購入したものを精製することなくそのまま使用した。1H、13C、および19F核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、JEOL JNM 400-400分光計で測定した。化学シフトはTMSを基準とした場合これを0.00ppmと、CHCl3を基準とした場合これを1H NMRでは7.26、13C NMRでは77.0とした。略語s、d、t、q、およびmは、それぞれ一重項、二重項、三重項、四重項、および多重項を示す。高分解能質量スペクトル(HRMS)は、PE Biosystems MarinerシステムとJEOL JMS-700 / GIで測定された。 [11C]CO2はYPRIS HM-18サイクロトロン(住友重工業製)を用いて14N(p、α)11C核反応によって製造した。[11C]ヨウ化メチル及び11C標識化合物の製造には、反応混合物の加熱、希釈、HPLCインジェクション、分別回収、蒸発からなる独自の自動放射性標識システムを使用した。放射能は、ATOMLABTM500線量キャリブレーター(Biodex Medical Systems、Inc.)で定量化した。[11C]メチル化生成物に使用される分析用HPLCシステムは、増幅器とバイアス電源925-SCINT(AMETEK Co.、Ltd.)、linear count rate meter 7131-1(Ohyo Koken Kogyo Co.Ltd.)、Shimadzuシステムコントローラー(SPD-10Avp)、オンラインデガッサ(DGU-12A)、溶媒送液ユニット(LC-10ATvp)、カラムオーブン(CTO-10A)、フォトダイオードアレイ検出器(SCL-10Avp)を備えたHPLCシステム、およびソフトウェア(LCソリューション)を用いた。分析用および分取用HPLCに使用したカラムは、CAPCELL PAK C18 4.6×250 mmおよびCAPCELL PAK C18 MG 5μm 10×250 mm(資生堂株式会社製)を用いた。
【0030】
<
11C標識非環式レチノイドの合成>
次に示す合成方法によって非環式レチノイド14a及び非環式レチノイド14bを合成した。
【化9】
【0031】
(2E、6E)-3,7,11-トリメチル-2,6,10-(ドデカトリエニル)ホスホン酸ジエチルエステル14bの合成
丸底フラスコ50 mLに、trans,trans-ファルネシルブロミド13(2.7 mL、10 mmol)、亜リン酸トリエチル(1.9 mL、11 mmol)、および乾燥トルエン(20 mL)を入れ。混合物を20時間還流した後、室温に戻した。溶液を減圧下で濃縮し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/アセトン= 5:1から1/2)によって精製して、化合物14b(2.82g、8.23mmol、82%)を黄色のオイルとして得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 1.30 (t, J = 7.0 Hz, 6H, 2CH3), 1.59 (s, 6H, 2CH3), 1.65 (d, J = 3.6 Hz, 3H, CH3), 1.67 (s, 3H, CH3), 1.89-2.14 (m, 8H, 4CH2), 2.56 (dd, J = 7.6, 2J(1H-31P) = 21.6 Hz, 2H, CH2), 4.00-4.16 (m, 4H, 2CH2), 5.03-5.13 (m, 2H, 2C=CH), 5.14-5.24 (m, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 16.06, 16.40, 16.56 (d, 3J(13C-31P) = 5.7 Hz, 2C), 17.76, 25.76, 26.49, 26.53, 26.46 (d, 1J(13C-31P) = 139.2 Hz), 26.81, 39.78, 61.81 (d, 2J(13C-31P) = 5.8 Hz, 2C), 112.51 (d, 2J(13C-31P) = 11.5 Hz), 123.88, 124.39, 131.39, 135.37, 140.34 (d, 3J(13C-31P) = 13.4 Hz); HR-MS (EI+,100% acetone): m/z: calcd for C19H35O3P ([M-C4H9]+) 342.2324; found, 342.2319.
【0032】
亜リン酸トリエチルの代わりに亜リン酸トリメチルを用い、化合物14bの合成方法と同様の方法により化合物14aを得た。
【0033】
次に示す合成方法によって化合物4a,4b, 4cを合成した。
【化10】
【0034】
・非環式レチノイド4a,及び4bの合成
(2E、4E、6E、10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸エチルエステル4bの合成
(E)-3-メチル-4-オキソ-2-ブテン酸エチルエステルは(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテン酸エチルエステル(72.2 mg、0.500 mmol)から公知の文献(G. E. Magoulas,et.al. J. Med. Chem. 2011, 46, 721-737.)に基づいて合成した。こうして得られた(E)-3-メチル-4-オキソ-2-ブテン酸エチルエステルを精製することなく使用した。二口丸底フラスコ30 mLに化合物14b(171 mg、0.500 mmol)と乾燥THF(2 mL)を入れ、ドライアイス/アセトン浴で-78°Cに冷却し、この温度にてビス(トリメチルシリル)アミドカリウム(1.0 M THF溶液、500μL、0.5 mmol)を加えた。反応混合物を1時間撹拌した後、-78°CでTHF(2 mL)に溶解した(E)-3-メチル-4-オキソ-2-ブテン酸エチルエステルを滴下した。室温で1時間撹拌した後、得られた混合物を0℃に冷却し、飽和NH4Cl水溶液(2 mL)を加え、ジエチルエーテル(3×5 mL)で抽出した。有機層を水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧下で留去させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル= 50:1}で精製して、黄色のオイルとして非環式レチノイド4b(43mg、0.13mmol、26%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 1.27 (t, J = 7.2 Hz, 3H, CH3), 1.58 (s, 3H, CH3), 1.59 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.66 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.84 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 2.31 (d, J = 1.2 Hz, 3H, CH3), 4.15 (q, J = 7.2 Hz, 2H, CH2), 5.00-5.20 (m, 2H, 2C=CH), 5.73 (s, 1H, C=CH), 5.95 (d, J = 11.2 Hz, 1H, C=CH), 6.16 (d, J = 15.6 Hz, 1H, C=CH), 6.83 (dd, J = 15.6 11.2, Hz, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 13.88, 14.44, 16.10, 17.24, 17.77, 25.78, 26.49, 26.77, 39.76, 40.33, 59.67, 118.12, 123.62, 124.35, 125.02, 131.10, 131.43, 133.52, 135.70, 143.97, 153.09, 167.33; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C22H34O2 ([M-C4H9]+) 330.2559; found, 330.2561.
【0035】
(2E、4E、6E、10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸メチルエステル4aの合成
化合物(4a)は化合物14b(35.5 mg、0.104ミリモル)と(E)-3-メチル-4-オキソ-2-ブテン酸メチルエステル((E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテン酸から合成した。手順は非環式レチノイド(4b)の合成法と同様の方法で行い、黄色のオイルとして化合物4a(18.0 mg、56.9μmol、55%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 1.58 (s, 3H, CH3), 1.59 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.66 (s, 3H, CH3), 1.84 (s, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 2.32 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 3.69 (s, 3H, CH3), 5.00-5.20 (m, 2H, 2C=CH), 5.73 (s, 1H, C=CH), 5.95 (d, J = 11.6 Hz, 1H, C=CH), 6.17 (d, J = 14.8 Hz, 1H, C=CH), 6.83 (dd, J = 14.8, 11.6 Hz, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 13.90, 16.10, 17.26, 17.77, 25.78, 26.49, 26.77, 39.76, 40.33, 51.01, 117.58, 123.61, 124.35, 125.00, 131.29, 131.45, 133.43, 135.71, 144.15, 153.43, 167.75; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C21H32O2 (M+) 316.2402; found, 316.2415.
【0036】
(2E,4E,6E,10E)-3,7,11,15-tetramethyl-2,4,6,10,14-hexadecapentaenoic acid benzyl ester 4cの合成
5 mLの試験管に4,5-ジデヒドロゲラニルゲラノイン酸(18.2 mg、60.2μmol)と乾燥DMF(600μL)を入れ、K2CO3(12 mg、90μmol)と臭化ベンジル(7.8μL、11 mg、66μmol)を加えた。 50℃で2時間攪拌した後、得られた混合物を室温まで冷却した。 混合物をジエチルエーテル(3×3 mL)で抽出し、抽出物を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。抽出液を減圧下で濃縮し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/アセトン= 100:1}により精製して、化合物4c(16.8mg、42.8μmol、71%)を黄色のオイルとして得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 1.58 (s, 3H, CH3), 1.59 (s, 3H, CH3), 1.67 (s, 3H, CH3), 1.84 (s, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 2.34 (s, 3H, CH3), 5.02-5.14 (m, 2H, 2C=CH), 5.15 (s, 2H, CH2), 5.79 (s, 1H, C=CH), 5.95 (d, J = 11.2 Hz, 1H, C=CH), 6.16 (d, J = 15.2 Hz, 1H, C=CH), 6.89 (dd, J = 15.2, 11.2 Hz, 1H, C=CH), 7.26-7.42 (m, 5H, C6H5); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 14.01, 16.11, 17.27, 17.77, 25.78, 26.49, 26.77, 39.76, 40.33, 65.61, 117.63, 123.60, 124.34, 125.01, 128.12, 128.23 (2C), 128.59 (2C), 131.42 (2C), 133.40, 135.73, 136.57, 144.30, 153.89, 167.05; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C27H36O2 (M+) 392.2715; found, 392.2734.
【0037】
次に示す合成ルートによって有機スズ化合物15a,15b及び15cを合成した。
【化11】
【0038】
(Z)-4-(tert-ブチル-ジメチルシリルオキシ)-3-ブロモ-2-ブテン酸エチルエステル9bの合成
(2Z)-3-ブロモ-4-ヒドロキシ-2-ブテン酸エチルエステル(8b)を公知の文献(M. Shengming, L. Xiyan, Org. Synth. 1995, 72 , 112-115.)の手順に従って合成した。2 50 mLの丸底フラスコに5a(1.56 g、7.46 mmol)及び乾燥DMF(10 mL)を入れ、0℃に冷却しイミダゾール(663 mg、9.75 mmol)およびtert-ブチルジメチルシリルクロライド(1.24 g、8.25 mmol)を加えた。室温で4時間撹拌した後、反応混合物を水(10 mL)でクエンチし、ジエチルエーテル(3×10 mL)で抽出した。有機層を水(30mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル= 10:1}に供して、黄色のオイルとして化合物9b(2.40g、7.41mmol、99%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.10 (s, 6H, 2CH3), 0.92 (s, 9H, 3CH3), 1.30 (t, J = 7.2 Hz, 3H, CH3), 4.22 (q, J = 7.2 Hz, 2H, CH2), 4.29 (d, J = 2.4 Hz, 2H, CH2), 6.69 (t, J = 2.4 Hz, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), -5.38 (2C), 14.30, 18.38, 25.84 (3C), 60.66, 68.50, 117.16, 139.42, 164.59; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C8H14
79BrO3Si ([M-C4H9]+) 264.9896; found, 264.9905.
【0039】
(Z)-4-(tert-ブチル-ジメチルシリルオキシ)-3-(トリブチルスタンニル)-2-ブテン酸エチルエステル10bの合成
50 mLの2口の丸底フラスコにシアン化銅(537 mg、6 mmol)と乾燥THF(10 mL)を入れ、n-ブチルリチウム溶液(1.89 Mヘキサン溶液、3.17 mL、6.00 mmol)を-78°Cで滴下し、混合物を15分間撹拌した。混合物にビス(トリブチルスズ)(3.03 mL、6.00 mmol)を-78℃で滴下した。0°Cで1時間撹拌した後、得られた銅アート錯体の混合物に、-78°Cで乾燥THF(10 mL)中の臭化物9b(646 mg、2.00 mmol)の溶液を加え、混合物を30分間撹拌した。-78°Cで食塩水、NH4Cl aq(10 mL)および28%NH4OHでクエンチした。得られた混合物をジエチルエーテル(3×10 mL)で抽出し、抽出物を水(30 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル= 150:1}に供して、黄色のオイルとして化合物10b(995mg、1.87mmol、94%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.07 (s, 6H, 2CH3), 0.86 (t, J = 7.2 Hz, 9H, 3CH3), 0.90-0.98 (m, 6H, 3CH2), 0.92 (s, 9H, 3CH3), 1.20-1.34 (m, 9H, 3CH2 and CH3), 1.35-1.51 (m, 6H, 3CH2), 4.18 (q, J = 7.2 Hz, 2H, CH2), 4.26-2.26 (m, 2H, CH2), 6.56-6.82 (m, 1H, C=CH); 13C NMR(100 MHz, CDCl3),-5.32 (2C), 10.89 (3C), 13.81 (3C), 14.43, 18.61, 26.05 (3C), 27.48 (3C), 29.29 (3C), 60.32, 68.70, 124.70, 168.40, 171.93; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C20H41O3Si120Sn ([M-C4H9]+) 477.1847; found, 477.1824.
【0040】
(Z)-4-ヒドロキシ-3-(トリブチルスタンニル)-2-ブテン酸エチルエステルの合成(11b)
50 Mlの丸底フラスコに10b(687 mg、1.29 mmol)と乾燥DMSO(4 mL)を入れ、18-クラウン-6-エーテル(1.03 g、3.90 mmol)とフッ化カリウム(226 mg、3.89 mmol)を0°Cで加えた。室温下で3.5時間撹拌した後、リン酸緩衝液(pH 7.4)を0°Cで加え、ジエチルエーテル(3×10 mL)で抽出し、抽出物を水(30 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル=15:1}で分離し、黄色のオイルとして化合物11b(425mg、1.01mmol、78%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.86 (t, J = 7.2 Hz, 9H, 3CH3), 0.90-1.07 (m, 6H, 3CH2), 1.20-1.34 (m, 9H, 3CH2 and CH3), 1.34-1.54 (m, 6H, 3CH2), 1.61 (t, J = 6.0 Hz, 1H, OH), 4.18 (q, J = 7.2 Hz, 2H, CH2), 4.44-4.49 (m, 2H, CH2), 6.53-6.80 (m, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 10.97 (3C), 13.79 (3C), 14.40, 27.48 (3C), 29.25 (3C), 60.47, 68.56, 124.77, 168.06, 172.25; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C14H27O3
120Sn ([M-C4H9]+) 363.0982; found, 363.1002.
【0041】
(2E、4E、6E、10E)-7,11,15-トリメチル-3-(トリブチルスタンニル)-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸エチルエステル(15b)の合成
フラスコの丸底20 mLに11b(168 mg、0.401 mmol)およびヘキサン(3 mL)を入れた。溶液にMnO 2(1.04 g、12.0 mmol)を加えた。得られた懸濁液を40℃で1.5時間撹拌し、その後セライトパッドに通した。濾液を蒸発させると、(Z)-4-オキソ-3-(トリブチルスタンニル)-2-ブテン酸エチルエステル(12b)が黄色のオイルとして得られた。 12bはそれ以上精製せずに使用した。フラスコの2口丸底30 mLに1(137 mg、0.328 mmol)と乾燥THF(2 mL)を入れた。溶液をドライアイス/アセトン浴で-78°Cに冷却し、ビス(トリメチルシリル)アミドカリウム(1.0 M THF溶液、400μL、0.4 mmol)をこの温度で加えた。反応混合物を1時間撹拌し、-78°CでTHF(2 mL)に溶解した12bを滴下しました。 RTで1時間撹拌した後、得られた混合物を0℃に冷却し、リン酸緩衝液(pH 7.4)を加え、ジエチルエーテル(3×5 mL)で抽出した。有機層を水(10mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサンのみ)に供して、黄色のオイルとして化合物15b(18.6mg、30.7μmol、7.7%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.86 (t, J = 7.4 Hz, 9H, 3CH3), 0.91-1.12 (m, 6H, 3CH2), 1.20-1.35 (m, 9H, 3CH2, CH3), 1.35-1.57 (m, 6H, 3CH2), 1.59 (s, 3H, CH3), 1.60 (s, 3H, CH3), 1.67 (s, 3H, CH3), 1.82 (s, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 4.17 (q, J = 7.4 Hz, 2H, CH2), 5.00-5.20 (m, 2H, 2C=CH), 5.92 (d, J = 10.8 Hz, 1H, C=CH), 6.44 (d, J = 15.6 Hz, 1H, C=CH), 6.46 (s, 1H, C=CH), 6.71 (dd, J = 15.6, 11.4 Hz, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 12.43 (3C), 13.79 (3C), 14.46, 16.10, 17.24, 17.77, 25.78, 26.57, 26.79, 27.48 (3C), 29.21 (3C), 39.78, 40.29, 60.30, 123.74, 124.39, 125.44, 127.73, 131.43, 132.36, 135.62, 136.21, 142.94, 168.33, 168.42; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C29H49O2
120Sn ([M-C4H9]+) 549.2755; found, 549.2747.
【0042】
(2E、4E、6E、10E)-7,11,15-トリメチル-3-(トリブチルスタンニル)-2,4,6,10,16-ヘキサデカペンタエン酸メチルエステル15a及びエチルエステル15bの合成
(2E、6E)-3,7,11-トリメチル-2,6,10-(ドデカトリエニル)ホスホン酸ジメチルエステル(14a)(11.7 mg、37.2μmol)および(Z)-4-oxo-(13.8 mg、34.2 μmol)から15aを合成した(7.9 mg、13.4 μmol、39%)。また、3-(トリブチルスタンニル)-2-ブテン酸メチルエステル((Z)-4-ヒドロキシ-3-(トリブチルスタンニル)-2-ブテン酸メチルエステル(127 mg、0.313 mmol)から、同様の手順により黄色の油としての15bを得た(10.0 mg、17.0μmol、15%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.86 (t, J = 7.4 Hz, 9H, 3CH3), 0.93-1.10 (m, 6H, 3CH2), 1.24-1.33 (m, 6H, 3CH2), 1.42-1.51 (m, 6H, 3CH2), 1.585 (s, 3H, CH3), 1.594 (s, 3H, CH3), 1.67 (s, 3H, CH3), 1.82 (s, 3H, CH3), 1.93-2.26 (m, 8H, 4CH2), 3.72 (s, 3H, CH3), 5.06-5.10 (m, 2H, 2C=CH), 5.92 (d, J = 10.8 Hz, 1H, C=CH), 6.44 (d, J = 15.6 Hz, 1H, C=CH), 6.46 (s, 1H, C=CH), 6.71 (dd, J = 15.6, 11.4 Hz, 1H, C=CH); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 12.40 (3C), 13.81 (3C), 16.10, 17.26, 17.77, 25.80, 26.55, 26.79, 27.48 (3C), 29.21 (3C), 39.80, 40.29, 51.56, 123.72, 124.37, 125.42, 127.33, 131.43, 132.51, 135.64, 136.23, 143.13, 168.67, 168.78; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C28H47O3
120Sn ([M-C4H9]+) 535.2598; found, 535.2603.
【0043】
(2E、4E、6E、10E)-7,11,15-トリメチル-3-(トリブチルスタンニル)-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸16の合成
5 mLの試験管に、15aと15bの混合物(1:1のモル比、22.7 mg、38.4μmol)、メタノール(200μL)、および2-プロパノール(200μL)を入れました。 CH3OH / H2O(2:1、v / v)、100μL、1.00 mmol中の10 M KOHを添加した後、反応混合物を100°Cで30分間撹拌しました。 ギ酸(1 mL)で中和した後、得られた混合物をジエチルエーテル(3×3 mL)で抽出し、抽出液を脳(10 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させました。 溶媒を減圧下で蒸発させた。 粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル= 10:1}に供して、黄色のオイル(15.6mg、27.0μmol、71%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.86 (t, J = 7.4 Hz, 9H, 3CH3), 0.91-1.12 (m, 6H, 3CH2), 1.20-1.35 (m, 6H, 3CH2), 1.35-1.54 (m, 6H, 3CH2), 1.59 (s, 3H, CH3), 1.60 (s, 3H, CH3), 1.67 (s, 3H, CH3), 1.83 (s, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 5.02-5.20 (m, 2H, 2C=CH), 5.93 (d, J = 11.6 Hz, 1H, C=CH), 6.47 (d, J = 16.0 Hz, 1H, C=CH), 6.50 (s, 1H, C=CH), 6.71 (dd, J = 16.0, 11.6 Hz, 1H, C=CH), 8.82-9,78 (br s, 1H, COOH).
【0044】
(2E、4E、6E、10E)-7,11,15-トリメチル-3-(トリブチルスタンニル)-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸ベンジルエステル15cの合成
5 mLの試験管に(2E、4E、6E、10E)-7,11,15-トリメチル-3-(トリブチルスタンニル)-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸(15.6 mg、27.0 μmol)および乾燥DMF(200μL)。 溶液にK2CO3(5.60 mg、40.5μmol)と臭化ベンジル(3.50μL、5.08 mg、29.7μmol)を加えた。 50℃で1時間攪拌した後、得られた混合物を室温まで冷却した。混合物をジエチルエーテル(3×3 mL)で抽出し、抽出物をブライン(10 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させました。 溶液を減圧下で濃縮し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/アセトン= 100:1}によって精製して、化合物15c(13.5mg、20.2μmol、75%)を黄色のオイルとして得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 0.86 (t, J = 7.6 Hz, 9H, 3CH3), 0.91-1.12 (m, 6H, 3CH2), 1.20-1.35 (m, 6H, 3CH2), 1.35-1.54 (m, 6H, 3CH2), 1.58 (s, 3H, CH3), 1.59 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.66 (s, 3H, CH3), 1.81 (s, 3H, CH3), 1.90-2.19 (m, 8H, 4CH2), 5.02-5.14 (m, 2H, 2C=CH), 5.17 (s, 2H, CH2), 5.91 (d, J = 11.6 Hz, 1H, C=CH), 6.44 (d, J = 15.2 Hz, 1H, C=CH), 6.52 (s, 1H, C=CH), 6.72 (dd, J = 15.2, 11.6 Hz, 1H, C=CH), 7.27-7.42 (m, 5H, C6H5); 13C NMR (100 MHz, CDCl3), 12.45 (3C), 13.83 (3C), 16.10, 17.28, 17.77, 22.80, 26.55, 26.79, 27.50 (3C), 29.22 (3C), 39.80, 40.31, 66.10, 123.72, 124.37, 125.44, 127.29, 128.18, 128.32 (2C), 128.59 (2C), 131.43, 132.63, 135.64, 136.16, 136.38, 143.25, 168.23, 169.37; HR-MS (EI+, 100% acetone): m/z: calcd for C34H51O2
120Sn ([M-C4H9]+) 611.2911; found, 611.2915.
【0045】
次に示す合成方法によって[
11C]-4a, [
11C]-4b,[
11C]-4c及び[
11C]-3を合成した。
【化12】
【0046】
非放射性ヨウ化メチルを用いたC-メチル化による(2E、4E、6E、10E)-3,7,11,15-テトラメチル-2,4,6,10,14-ヘキサデカペンタエン酸エチルエステル4bの合成
アルゴン置換をした1 mLのシュレンクフラスコに[Pd2(dba)3](11.5 mg、12.6μmol)、P(o-tolyl)3(27.7 mg、91.1μmol)、CuBr(6.50 mg 、45.3μmol)、およびCsF(17.3 mg、114μmol)を入れた。スタンニル前駆体15b(13.3 mg、22.0μmol)のDMF(2mL)溶液を-10°Cでステンレスカニューレを通してシュレンクフラスコに移し、ヨウ化メチル(220μL、DMF中0.10 M、22μmol)を添加した後、混合物を60°Cで1時間加熱した後、得られた混合物を水でクエンチし、ジエチルエーテル(3×3 mL)で抽出した。抽出された有機層を合わせ、水および飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、濃縮した。 粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー{ヘキサン/酢酸エチル= 100:1}で分離して、非環式レチノイド4bを淡黄色オイルとして得た(5.80mg、17.5μmol、80%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3), 1.27 (t, J = 7.2 Hz, 3H, CH3), 1.58 (s, 3H, CH3), 1.59 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.66 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.84 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 1.90-2.20 (m, 8H, 4CH2), 2.32 (d, J = 0.8 Hz, 3H, CH3), 4.15 (q, J = 7.2 Hz, 2H, CH2), 5.00-5.17 (m, 2H, 2C=CH), 5.73 (s, 1H, C=CH), 5.95 (d, J = 11.2 Hz, 1H, C=CH), 6.16 (d, J = 15.6 Hz, 1H, C=CH), 6.83 (dd, J = 15.6, 11.2 Hz, 1H, C=CH).
【0047】
放射性ヨウ化メチルを用いた迅速なC- [11C]メチル化による[11C] 4cの合成
[Pd2(dba)3](1.0 mg、1.1μmol)、P(o-tolyl)3(2.4 mg、8μmol)、CuBr(0.6mg、4μmol)、およびCsF(1.5mg、10μmol)、およびDMF(400μL)中のスタンニル前駆体15c(1.1 mg、1.6μmol)は、[11C] CH3Iの調製を待つ間、冷却することによって-10°C未満に維持されました。[11C] CO2から従来のLiAlH4メソッドを使用して形成された[11C] CH3Iを反応混合物にトラップし、冷却を停止し、その後急速に65°Cに加熱し、2分間放置してからバブリングしました。 N2ガスで2分間。突沸を回避するために、反応混合物を10秒間冷却した。CH3CN(600μL)で希釈した後、混合物をファインフィルターF(F162、Forte Grow Medical co.、ltd.)に石英ガラスウール(Tosho co.、ltd.)で通過させ、分取HPLC(移動相、CH3CNのみ、カラム、CAPCELL PAK C18 UG 120 5μm、10 mm(内径)×250 mm、流速、5 mL / min、UV検出、280 nm、保持時間、7.37~8.31分)。反応混合物のラジオ-HPLCのピーク面積からHPLC分析収率は97%と算定された。所望の画分をフラスコに集め、減圧下で有機溶媒を除去した。所望の放射性トレーサーを生理食塩水(3.0mL)中のポリソルベート80の0.25%溶液に溶解した。HPLCによる精製と静脈内投与用の放射性医薬品製剤の調製を含めて総合成時間は31分であった。分離された放射能は合成終了時に2.87 GBqであり、比放射能は144 GBqμmol-1であった。崩壊補正放射化学収率は57%であり、これは溶液にトラップされた[11C] CH3Iの放射能に基づいて計算された。[11C] 4cの同定は、分析用HPLCで非放射性標識4cの本物のサンプルと同時注入することで確認された(移動相、CH3CNのみ、カラム、CAPCELL PAK C18、4.6 mm(id)×250 mm、流速、1 mL /分; UV検出、280 nm;保持時間、8.0分)。280 nmで分析された化学純度と放射化学純度は、それぞれ> 99%と>97%であった。
【0048】
放射性ヨウ化メチルを用いた迅速な[11C]メチル化による[11C]-3の合成
[Pd2(dba)3](1.0 mg、1.1μmol)、P(o-tolyl)3(2.4 mg、8μmol)、CuBr(0.6mg、4μmol)、CsF(1.5 mg、10μmol)、およびDMF(300μL)中のスタンニル前駆体15a(0.9 mg、1.5μmol)は、[11C] CH3Iの調製を待つ間、冷却することにより-10°C未満に維持された。[11C] CO2から従来のLiAlH4メソッドを使用して形成された[11C] CH3Iを反応混合物にトラップし、冷却を停止し、その後急速に65°Cに加熱し、2分間放置してからバブリングした。N2ガスで2分間。突沸を回避するために、反応混合物を10秒間冷却した。8M KOHaq.(500μL)溶液を混合物に加えた後、100°CでN2ガスを6分間バブリングした。10秒間冷却した後、アスコルビン酸ナトリウム(2.2 mg、11μmol)を含むCH3CN / CH3CN / H2O(60:36:4 v / v / v、1 mL)で反応混合物を希釈し、混合物をファインフィルターF(F162、Forte Grow Medical co.、ltd.)と石英ガラスウール(Tosho co。、ltd.)を使用し、分取HPLC(移動相、CH3CN/0.2%HCOOH in water = 90:10;カラム)、CAPCELL PAK C18 UG 120 5 μm、10(id)×250 mm、流速、5 mL/min、UV検出、280 nm、保持時間、8:45-9:32分)。反応混合物のradio-HPLCのピーク面積はからHPLC分析収率(%)を求めた。所望の画分をフラスコに集め、減圧下で有機溶媒を除去した。所望の放射性トレーサーを、生理食塩水(3.0mL)中のポリソルベート80の0.25%溶液に溶解した。HPLC精製と静脈内投与用の放射性医薬品製剤の調製を含む総合成時間は40分であった。分離された放射能は合成終了時に0.94 GBqで、比放射能は186 GBq μmol-1であった。崩壊補正放射化学収率は25%であり、これは溶液に閉じ込められた[11C] CH3Iの放射能に基づいて計算されました。[11C] 3の化学的同一性は、分析用HPLCで非放射性標識3のサンプルと同時注入することで確認された(移動相、CH3CN / 0.2%HCOOH水溶液= 90:10、カラム、CAPCELL PAK C18、4.6(id)×250 mm、流速、1 mL / min、UV検出、280 nm、保持時間、7.7分)。280 nmで分析された化学純度と放射化学純度はそれぞれ83%と99%であった。
【0049】
以上のようにして合成した[
11C]-4a,[
11C]-4b, [
11C]-4c及び[
11C]-3の放射能、放射能のモル活性、及び崩壊補正放射化学収率(decay-corrected radiochemical yield)を表1に示す。この表から[
11C]-4a,[
11C]-4b, [
11C]-4c及び[
11C]-3はPETプローブ用として十分な放射能を有していることが分かる。
【表1】
【0050】
<peretinoin 3の合成>
11Cで標識されていないperetinoin 3は、[
11C]-3を合成するときの前駆体となったホスフェート14aから、E体高選択的なオレフィンの形成が可能なホーナー・ワズワース・エモンズ(HWE)反応を適用して合成した。
まず、trans,trans-ファルネソール16を塩化物17に変換し(収率51%)、次に亜リン酸トリメチルを用いたミカエリス・アルブゾフ反応により、ホスフェート14aを収率64%で合成した。
【化13】
【0051】
一方、目的の非環式レチノイド合成のための、もう一方の化合物であるアルデヒド体20は次のように合成した。すなわち、ヒドロキシアセトン18を出発原料にしたWittigオレフィン合成により収率57%でE異性体のヒドロキシエステル19を合成し、二酸化マンガンを用いた酸化によりE配置を保持したアルデヒド体20として収率43%で合成した。
【化14】
【0052】
上記の合成方法によって合成したホスフェート14aとアルデヒド20とをHWE反応によって炭素炭素二重結合で結合させてperetinoin 3とした。すなわち、14aからイリドを調整するための塩基としてカリウムヘキサメチルジシラジド(KHMDS)を選択し、14a/KHMDS/14 (1:1:1 モル比)の条件で4,5-didehydro GGA (peretinoin)のメチルエステル体4aを合成し、これを強塩基によって加水分解して目的とするperetinoin 3を3工程で収率26%で合成した。
【化15】
【0053】
以下にperetinoin 3の合成の手順及び分析データについて詳述する。
(2E,6E)-1-Chloro-3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-triene (17)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 1.60 (s, 6H, 2CH3), 1.68 (s, 3H CH3), 1.73 (s, 3H, CH3), 1.98-2.11 (m, 8H, 4CH2), 4.10 (d, J = 7.6 Hz, CH2), 5.06-5.14 (m, 2H, olefine), 5.45 (t, J = 7.6 Hz, olefine).
【0054】
Dimethyl ((2E,6E)-3,7,11-trimethyldodeca-2,6,10-trien-1-yl)phosphonate (14a)
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 1.60 (s, 6H, 2CH3), 1.66 (s, 3H, CH3), 1.69 (s, 3H, CH3), 1.95-2.10 (m, 8H, 4CH2), 2.58 (dd, J = 22.0, 7.6 Hz, CH2), 3.74 (d, J = 10.4 Hz, 6H, 2CH3O), 5.08-5.20 (m, 3H, olefines); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 16.00, 16.26 (d, JP-C = 1.9 Hz) 17.67, 25.45 (d, JP-C = 139.2 Hz), 25.69 (2C), 26.35 (d, JP-C = 3.8 Hz), 26.70, 39.69, 52.57 (d, JP-C = 6.7 Hz, 2C), 111.98 (d, JP-C = 10.5 Hz), 123.72, 124.28, 131.32, 135.32, 140.57 (d, JP-C = 14.3 Hz).
【0055】
Methyl (E)-4-hydroxy-3-methylbut-2-enoate (19)
300-mLナスフラスコにヒドロキシアセトン (6.16 mL, 6.65 g, 89.8 mmol)、ベンゼン (90 mL)、(トリフェニルホスホラニリデン)酢酸メチル (30.0 g, 89.8 mmol)を室温で順に加え、24 時間加熱還流した。減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3/1)で精製し、黄色油状の目的物 19 (6.63 g, 51.0 mmol, 57%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 2.10 (s, 3H, CH3), 3.72 (s, 3H, CH3), 4.15-4.16 (m, 2H, CH2), 5.99-6.01 (m, 1H, olefine) ; 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 15.60, 51.01, 67.04, 113.24, 157.50 167.19.
【0056】
Methyl (E)-3-methyl-4-oxobut-2-enoate (20)
1-Lナスフラスコに13 (6.45 g, 49.6 mmol)を加え、ヘキサン (500 mL)に溶かした後、二酸化マンガン (129 g, 1.48 mol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、セライト濾過により酸化剤を除去し、ろ液を減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 3/1)で精製し、黄色油状の目的物 20 (2.75 g, 21.5 mmol, 43%)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 2.18 (d, 1.2 Hz, 3H, CH3), 3.84 (s, 3H, CH3), 6.52 (t, 1.2 Hz, 1H, olefine), 9.57 (s, 1H, CHO); 13C NMR (100 MHz, CDCl3): δ = 10.85, 52.00, 135.00, 150.70, 165.92, 194.43.
【0057】
(2E,4E,6E,10E)-3,7,11,15-tetramethylhexadeca-2,4,6,10,14-pentaenoic acid (3)
アルゴン雰囲気下2本の250-mLシュレンクに14a (6.12 g, 19.5 mmol) のTHF (170 mL)溶液を加え、-78 ℃でヘキサメチルジシラザンカリウム(1.0 M THF溶液, 19.5 mL, 19.5 mmol)を加えた。30 分間撹拌した後、-78 ℃でTHF (30 mL)に溶解させた20 (2.49 g, 19.5 mmol)を加え、その後、室温まで徐々に昇温させながら15 時間撹拌した。その後、氷冷下、飽和塩化アンモニウム水溶液 (100 mL)を加え、酢酸エチルで抽出した (3× 40 mL)。続いて、有機層を飽和食塩水 (100 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 50/1)で精製し、粗生成物 (3.91 g)を得た。
100-mLナスフラスコに粗生成物 (3.91 g)を加え、2-プロパノール (24 mL)に溶かした後、10 M 水酸化カリウム水溶液 (40 mL)を加え、1.5 時間加熱還流した。その後、氷冷下でギ酸 (32 mL)を加え、減圧濃縮した後、酢酸エチルで抽出した (3× 20 mL)。続いて、有機層を飽和食塩水 (40 mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧濃縮後、ヘキサン(8.7 ml)に溶解し、-20 °Cにて結晶化した。ろ液を濃縮して減圧濃縮後、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (ヘキサン/酢酸エチル = 10/1)で精製し、再結晶による生成物とあわせ、淡黄色針状結晶としてperetinoin 3 (1.50 g, 4.97 mmol, 26%, 3 steps)を得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ= 1.60 (s, 3H, CH3), 1.61 (s, 3H, CH3), 1.68 (s, 3H, CH3), 1.86 (s, 3H, CH3), 1.98-2.16 (m, 8H, 2CH2), 2.34 (s, 3H, CH3), 5.09-5.10 (m, 2H, olefines), 5.77 (s, 1H, olefine), 5.98 (d, J = 10.8 Hz, 1H, olefine), 6.21 (d, J = 14.8 Hz, 1H, olefine), 6.90 (dd, J = 15.2, 10.8 Hz, 1H, olefine), 9.35-11.97 (br s, 1H, COOH).
【0058】
<
11C標識非環式レチノイドの体内動態試験>
前述の方法により合成した11C標識非環式レチノイド4c及び11C標識peretinoin 3をPETプローブとしてSprague-Dawleyラット及びカニクイザルに静脈投与(i.v.)し、PET画像を撮影した。
【0059】
・
11
C標識peretinoin 3を投与した場合について
11C標識peretinoin 3をラットに投与した場合のPET画像を
図1(a)に、カニクイザルに投与した場合のPET画像を
図2(a)に示す。これらの図から、
11C標識peretinoin 3は、ラット及びカニクイザルの両方で脳内に移行することが分かった。また、
図1(b)及び
図2(b)に示す脳内の時間ごとの放射能の強度測定から、
11C標識peretinoin 3は脳内に数分以内に移行が始まり、時間経過とともに脳内濃度が上昇し続け、全身に均一に分布するときの濃度に比較して、ラットでは1.3倍、カニクイザルでは3.0倍の濃度にまで蓄積することが分かった。以上の体内動態試験の結果から、
11C標識peretinoin 3は、迅速に血液脳関門を透過する物質であり、脳内に蓄積されることが明らかとなった。このことから
11C標識peretinoin 3は脳内のイメージング用としてのPETプローブとして特に好適に利用できることが分かった。
【0060】
・
11
C標識非環式レチノイド4cを投与した場合について
11C標識非環式レチノイド4cをラットに投与した場合のPET画像を
図3(a)に、カニクイザルに投与した場合のPET画像を
図4(a)に示す。
11C標識非環式レチノイド4cは、どちらの動物種でも脳内に移行することが分かった。以上の結果から、
11C標識非環式レチノイド4cは脳内に移行することが可能であり、PETプローブとして用いることができ、脳内のイメージングに使用できることが分かった。
また、
図3(b)及び
図4(b)に示す脳内の時間ごとの放射能の測定から、ベンジルエステル体である
11C標識非環式レチノイド4cは遊離カルボン酸である
11C標識peretinoin 3と比較して、投与直後は脳内への移行がし難く、10分以上の時間を経たのちに脳内移行が始まることが分かった。この理由として、ベンジルエステル体である
11C標識非環式レチノイド4cは、遊離カルボン酸である
11C標識peretinoin 3に代謝された後、脳内に移行するのではないかと推定される。
【0061】
・
11
C標識非環式レチノイド4bを投与した場合について
11C標識非環式レチノイド4bをラットに投与した場合のPET画像を
図5aに示す。この画像から、
11C標識非環式レチノイド4bはラットの脳内に移行することが可能で、PETプローブとして有用であり、脳内のイメージングに使用できることが分かった。また、
図5(b)に示す脳内放射能の測定から、エチルエステル体である
11C標識非環式レチノイド4bは遊離カルボン酸である
11C標識peretinoin 3と比較して、投与直後は脳内へ移行し難く、10分以上の時間を経たのちに脳内移行が始まることが分かった。この理由は、エチルエステル体である
11C標識非環式レチノイド4bは、遊離カルボン酸である
11C標識peretinoin 3に代謝された後、脳内に移行するとではないかと推定された。
【0062】
<peretinoin 3の作用効果>
11C標識化されていない非環式レチノイドであるperetinoin 3の作用効果を、評価した。
【0063】
(トロンビン毒性の抑制効果)
トロンビンは大脳皮質細胞死と線条体組織萎縮を誘導することが知られている。このためトロンビン毒性を評価する実験を行った。すなわち、生後2~3日齢のWistar/ST系ラット脳より厚さ300μmの冠状切片を作成し、大脳皮質・線条体を含む扇型の組織片を切り出した後、多孔質膜(Millicell-CM,ミリポア社)上に静置し、34℃/5% CO2条件下、気液界面にて培養維持した(培地組成:50% minimal essential medium, 25% Hanks’ balanced salt solution, 25%ウマ血清)。培養12日目に5 μg/ml propidium iodide (PI)を含む無血清培地(培地組成:75% minimal essential medium, 25% Hanks’ balanced salt solution)に交換し、peretinoin等の薬物処置を開始し、その24時間後にトロンビン(100 U/ml)を培地に添加した。トロンビン処置開始72時間後に蛍光顕微鏡(キーエンス)を用いてPI蛍光画像を取得し、皮質領域の蛍光強度を指標として細胞死の程度を評価した(実験毎に100μM NMDAを72時間処置する切片を設け、そのPI蛍光強度を100%として標準化した)。また、トロンビン処置前と処置後に取得した培養組織片の明視野画像から、個々の組織片における線条体領域の面積を測定し、トロンビン処置による組織萎縮率を定量化した。
【0064】
・結 果
トロンビン処置開始72時間後のPI蛍光画像を
図6に示す。この図から、トロンビンを与えた場合においても、同時にperetinoin 3を与えた場合においてその濃度が10μM、20μM、30μMと高くなるほど蛍光が弱くなり、トロンビンによる脳組織障害がperetinoin 3によって抑制されることが分かった。また、これらの画像から求めたトロンビンにより誘発される大脳皮質細胞死の割合を
図7に、線条体組織萎縮の割合を
図8に示す。
図7及び
図8のグラフから、大脳皮質-線条体組織切片において、トロンビンにより誘発される大脳皮質細胞死および線条体組織萎縮は、peretinoin 3により濃度依存的かつ有意に抑制されることが分かった。
【0065】
(K252aを用いた評価)
K252a (3μM)は神経栄養因子BDNFの受容体であるTrkBを阻害することが知られている。そこで、K252aがperetinoin 3の細胞保護効果に対してどのように影響するについて、トロンビン毒性に対する効果を調べた方法と同様の方法により調べた。
【0066】
・結 果
control、トロンビンのみを投与、トロンビン+peretinoin 3を投与、トロンビン+peretioin3を投与、トロンビン+peretioin 3+K252aを投与、トロンビン+K252aを投与、及びK252aのみを投与という条件で実験を行った後のPI蛍光画像を
図9に示す。さらに、これらの画像から求めた大脳皮質細胞死の割合を
図10に、線条体組織萎縮の割合を
図11に示す。
図9、
図10及び
図11から次のことが分かった。すなわち、1)peretinoin 3の大脳皮質細胞保護効果はK252aによって遮断されたことから、BDNF-TrkBシグナル系の関与が示唆される。2)peretinoin 3の線条体萎縮抑制効果はK252aによって遮断されなかったことから、 BDNF-TrkBシグナル系以外の機序によるものであることが示唆される。すなわち、peretinoin 3は大脳皮質と線条体とでは、異なる作用機序を介して細胞・組織保護効果を発揮すると考えられる。
【0067】
(脳出血病態に対する効果)
8~10週齢の雄性ICRマウスを三種混合麻酔下で脳定位固定装置に置き、30ゲージ針を用いて線条体内の一定座標(正中から2.3mm側方、bregma縫合から0.2 mm後方、頭蓋から3.5 mm下方)に0.035UのVII型コラゲナーゼ(Sigma社)を2.5分間かけて注入することによって、出血を誘発した。その後、頭蓋表面を歯科用セメントで整復し、飼育を継続した。peretinoin 3 (40mg/kg)は0.5%カルボキシメチルセルロースと共に水中に懸濁し、出血誘発3, 27, 51時間後の計3回経口ゾンデを用いて胃内投与した。なお、比較のためにperetinoin 3 を加えていない0.5%カルボキシメチルセルロースも同様にして胃内に投与した。マウスの運動機能障害の程度は、出血誘発6, 24, 48, 72時間後に2種類の運動機能テスト(ビーム歩行試験beam walking test、改変型四肢反射試験modified limb-placing test)を行うことによって評価した。また、72時間後の運動機能テスト終了後にマウスを麻酔下で灌流固定し、脳を摘出して厚さ16 μmの凍結冠状切片を作成した。Iba1、GFAP、NeuNに対する抗体を用いた免疫組織化学により脳組織内のミクログリア、アストロサイト、ニューロンをそれぞれ同定し、一定面積内の細胞数あるいは免疫反応陽性面積を定量化することにより、peretinoin 3の効果を評価した。
【0068】
(結 果)
試験中の体重の変化を
図12に示す。ここで、Vehicleとはperetinoin 3を含んでいない0.5%カルボキシメチルセルロースを投与した場合を示す。この図からperetinoin 3は脳出血後のマウスの体重減少を抑制することが示された。
また、Beam-walking test では、
図13に示すように、peretinoin 3の投与により落下率の低下、歩行幅の増加、及びスコアの増加が示された。
さらに、modified limb-placing testdehaでは、
図14に示すように、peretinoin 3の投与によりdeficit scoreの減少が示された。
以上の結果から、peretinoin 3は出血24~72時間後の運動機能障害を有意に軽減することが分かった。
【0069】
また、運動機能テスト終了後の脳組織の免疫組織化学による観察の結果を
図15及び
図16に示す。
図15からperetinoin 3は血腫周縁部への活性化型ミクログリアの集積を有意に抑制することが分った。また、
図16からperetinoin 3は血腫内の神経細胞の脱落を抑制することが分かった。以上の結果は、peretinoin 3の脳出血治療薬としての可能性を示唆するものである。
【0070】
<幹細胞から神経細胞への分化誘導を示す実験>
peretinoin 3がATRAと同様に幹細胞から神経細胞への分化誘導を示すか否かを調べるために、次の実験を行った。
ヒト多能性胎生期癌由来であるNTERA-2cl.D1[NT2/D1]細胞(ATCC CRL-1973)(以下、「NT2細胞」と記載する)を、維持培養培地(高グルコースD-MEM(シグマ・アルドリッチ、D6429)、10%FBS、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン)中、37℃、5%CO2条件下、3~4日間、10cmプラスチックディッシュ上でコンフルエントになるまで接着培養した。Accutase(Innovative Cell Technologies、#AT104)によりNT2細胞を剥離し、継代し、50日間にわたり維持培養した。培地は、週に3回交換した。維持培養されたNT2細胞を、1.5×106~2.5×106/ディッシュの濃度で低付着微生物用ペトリディッシュ(STAR SDish9015、理科研)に分散し、37℃、5%CO2条件下、振動機上で(100rpm)浮遊培養し、1日後に1μM又は10μMのATRAを添加して分化を誘導し、スフェロイドを形成させた。14日後、スフェロイドを回収し、5μg/mlのポリ-D-リジン(PDL)(シグマ・アルドリッチ)/ラミニン(LAM)(iMatrix-511、ニッピ)によりコートされた10cmディッシュに播き、37℃、5%CO2条件下で接着培養した。翌日から、3種類の細胞分裂阻害剤(10μMのウリジン、10μMのフロクスウリジン、1μMのAraC)を添加して培養し、3日後に細胞を剥離し、0.1×106/ディッシュの濃度でPDL/LAMコートされた35mmディッシュに播きなおし、3種類の細胞分裂阻害剤の存在下で4日間培養することにより、神経細胞への分化誘導を行った。
【0071】
分化誘導後の細胞を、0.2%NeuroCult(商標)SM1 Neuronal Supplement含有BrainPhys(商標)Neuronal Mediu m(STEMCELL Technologies)中、37℃、5%CO2条件下、2~3ヶ月維持培養した。培地は、週に3回、半量交換した。これにより、神経細胞マーカーMAP2陽性の細胞が得られ、これをNT2-N細胞とした。
【0072】
成熟した細胞におけるシナプス受容体の発言を確認するためにNMDA型グルタミン酸受容体を介したカルシウム流入の測定を次の様に行った。
蛍光カルシウム指示薬Fluo-8 AM(AAT Bioquest)を、0.1μMグリシン含有MgフリーHHBS(Hepes-buffered Hanks’balanced salt solution(1.26mMのCaCl2、5.33mMのKCl、0.44mMのKH2PO4、4.17mMのNaHCO3、137.93mMのNaCl、0.34mMのNa2HPO4、5.56mMのD-グルコース、20mMのHEPES、pH7.4))に溶解した(それぞれ4μM、2μM)。この溶液(1ml)を、37℃、5%CO2条件下、NT2-N細胞にロードした(それぞれ2時間、30分間)、fluo8を細胞内にロードした。その後、細胞外液を0.1μMグリシン含有MgフリーHHBSに置換し、生細胞タイムラプスイメージング装置(BioStation IM-Q、ニコン)のインキュベーター内(37℃、5%CO2)に1時間以上放置したものを以下の測定に用いた。装置内に配置したNT2-N細胞について、解析を行う5~10視野を手動で設定し、各視野につき、励起波長480nm/蛍光波長520nmで、2秒ごとに連続して5分間、蛍光強度を記録した。また、記録開始から一定時間経過後に、上記で調製した100μMNMDA溶液(0.1μMグリシン含有MgフリーHHBS)を100μl投与した。
【0073】
誘導後培養開始後2~3ヶ月の標本の一部を4%パラホルムアルデヒドPBS溶液にて固定した(室温30分)。固定後、注意深くPBSで洗浄し、1%Triton-X100PBS溶液にて10分間処理した。処理後、十分にPBSにて洗浄した後、1%BSA・3%正常ヤギ血清PBS溶液にてブロッキングし、anti-MAP2抗体(1:1000、Millipore#AB5622)及びanti-Nestine抗体(1:1000。ab22035)溶液に浸し、さらに洗浄後、蛍光ラベルされた2次抗体(Jackson immun laboratory,115-545-146及び111-585-144、それぞれ1:5000)によって染色した。
【0074】
・結 果
図17に示すように、peretinoin 3はATRA と同様に10μMの投与で神経前駆細胞マーカであるネスチンを発現することなく神経細胞マーカであるMAP2発現する細胞が増加しており、神経細胞への分化誘導が認められた。また、
図18に示すカルシウムイメージングから、ATRA およびperetinoin 3で分化誘導した神経細胞は、NMDA型グルタミン酸受容体を発現し、これによりシナプスを形成していることが示唆された。
【0075】
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の11C標識環式レチノイドは短時間に収率良く合成が可能であり、PETプローブとして脳内動態を解明するのに好適に用いることができる。また、本発明の中枢神経系活性化剤は中枢神経変性疾患の治療剤やそのためのリード化合物として利用することができる。