(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081973
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】空孔形成剤
(51)【国際特許分類】
C08F 20/10 20060101AFI20220525BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20220525BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20220525BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C08F20/10
C08L33/10
C08F2/24
D06M23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193244
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】柏原 宮人
(72)【発明者】
【氏名】松本 和明
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
4L031
【Fターム(参考)】
4J002BG051
4J002GH01
4J002HA07
4J011AA05
4J011BB09
4J011KA06
4J100AL03P
4J100AL03Q
4J100AL66R
4J100BA08R
4J100CA01
4J100CA04
4J100DA62
4J100EA07
4J100EA09
4J100FA20
4J100JA01
4L031AB01
4L031CA01
(57)【要約】
【課題】空孔の形成が容易で、空孔の高い均一性を発現する、空孔形成剤を提供することを目的とする。
【解決手段】
下記一般式(1)に由来する構造単位を含む重合体を含む、空孔形成剤である。
(一般式(1)中、R
1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)に由来する構造単位を含む重合体を含む空孔形成剤。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【請求項2】
前記重合体を含む水分散体である請求項1に記載の空孔形成剤。
【請求項3】
繊維用である請求項1又は2に記載の空孔形成剤。
【請求項4】
空孔形成剤の製造方法であって、乳化剤の存在下、式(2)で示される単量体の少なくとも1種を水系溶媒に分散させて重合反応をおこなう乳化重合を含むことを特徴とする空孔形成剤の製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空孔形成剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種マトリクス、例えば、多孔質セラミック成型体を作製する際の空孔形成剤として、中空粒子や樹脂粒子が利用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-292596号公報
【特許文献2】特開2019-147870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空粒子の場合は、粒子の強度が低いため、例えば各種マトリクスと混錬する際に粒子が潰れ、空孔率が低下する課題があった。樹脂粒子の場合は、高温、長時間条件下であっても十分な分解・除去ができないため空孔が形成され難く、更にはマトリクスにクラックが発生する問題もあった。
【0005】
よって、本発明は、容易に空孔を形成し、形成された空孔の均一性も高い、空孔形成剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。すなわち本開示の空孔形成剤は、下記一般式(1)に由来する構造単位を含む重合体を含む、空孔形成剤である。
【0007】
【0008】
(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
【発明の効果】
【0009】
本開示の空孔形成剤は、空孔を容易に形成でき、形成された空孔の均一性を有する。よって、繊維、セラミック、塗膜、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種フィルムなどの各種分野への応用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0011】
[本開示の空孔形成剤]
<一般式(1)で表される構造単位>
本開示の空孔形成剤には重合体(以下、「本開示の重合体」とも言う。)を含み、前記重合体(以下RHMA系重合体という場合がある)は、下記一般式(1)に由来する構造単位を含む。
【0012】
【0013】
(一般式(1)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
上記R1で表される炭素数1~4のアルキル基は、炭素数1~2のアルキル基であることが好ましく、炭素数1のアルキル基(メチル基)であることがより好ましい。
【0014】
R1で表されるアルカリ金属原子は、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウム、カリウムがより好ましく、ナトリウムがより更に好ましい。
【0015】
R1で表されるアルカリ土類金属原子としては、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。
【0016】
R1で表されるアンモニウムとは、NH4+に限られず、有機アンモニウムを含む意味であると定義される。有機アンモニウムとしては、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムなどの4級アンモニウム;アミンをプロトン化することによって形成されるアンモニウム(1~3級アンモニウム)などが挙げられる。R1としては、アンモニア又はアミンのプロトン化によって形成されるアンモニウムが好ましい。前記アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどのトリアルキルアミン(好ましくはトリC1-10アルキルアミン);ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのヒドロキシアルキルアミン(好ましくはジ又はトリ(ヒドロキシC1-10アルキル)アミンなど)などが挙げられ、ヒドロキシアルキルアミンが好ましい。
【0017】
上記一般式(1)で表される構造単位は、下記一般式(2)で表される単量体が重合反応を経由することにより形成されても良いが、他の方法で形成されても良い。例えば、一般式(2)において、R1が炭素数1~4のアルキル基である単量体を重合し、加水分解をすることにより、上記一般式(1)においてR1がアルカリ金属の構造単位、アルカリ土類金属の構造単位、またはアンモニウムの構造単位を形成しても良い。
【0018】
【0019】
(一般式(2)中、R1は、炭素数1~4のアルキル基、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムを表す。)
なお、上記一般式(2)において、R1は、1種であってもよく、2種以上であっても良い。R1が2種以上の場合、2種以上の上記一般式(2)で表される単量体を重合して形成してもよく、R1が炭素数1~4のアルキル基である上記一般式(2)で表される単量体を重合した後に、エステル基を部分加水分解したり、2種以上の塩基性物質で加水分解することにより形成しても良い。
【0020】
本開示の重合体には、上記一般式(1)で表される構造単位を40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、60質量%以上含むことがさらに好ましく、70質量%以上含むことがよりさらに好ましく、80質量%以上含むことが特に好ましく、90質量%以上含むことが最も好ましい。一方、本開示の重合体は、上記一般式(1)で表される構造単位を、99.9質量%以下含むことが好ましく、99質量%以下含むことがより好ましく、97質量%以下含むことがさらに好ましく、95質量%以下含むことが最も好ましい。上記範囲で含むことにより、pHや親水性などを調整することができるため、本開示の空孔形成剤は、空孔を容易に形成でき、形成された空孔の均一性も高い傾向にある。
【0021】
本開示の重合体には多層構造を有していてもよく、例えばコア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル構造であってもよい。
【0022】
<その他の単量体に由来する構造単位>
本開示の重合体には、上記一般式(1)で表される構造単位以外の単量体に由来する構造単位(以下、「その他の単量体に由来する構造単位」ともいう)を1種または2種以上含んでいても良い。すなわち、上記一般式(2)で表される単量体以外の単量体(以下、「その他の単量体」といもいう)に由来する構造単位を1種または2種以上含んでいても良い。
【0023】
その他単量体としては、特に限定されず、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-スチリルエチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヒドロキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルヒドロキシシランなどのシラン基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリロニトリル等の窒素原子含有単量体;エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレートなどのオキソ基含有単量体;トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのフッ素原子含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-(メタ)アクリレート等の光安定化単量体;ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性単量体、ベンゾフェノン系紫外線吸収性単量体などの紫外線吸収性単量体、多官能エチレン性不飽和単量体などが例示される。
【0024】
多官能エチレン性不飽和単量体としては、エチレン性の炭素炭素二重結合を2または3以上含む化合物であれば、特に制限されないが、例えば、CH2=CH-基、CH2=CH-O-基、CH2=CH-CH2-O-基、CH2=C(CH3)-CH2-O-基、CH2=CH-CH2-CH2-O-基、CH2=C(CH3)-CH2-CH2-O-基、CH2=CH-CO-O-基、CH2=C(CH3)-CO-O-基、CH2=CH-CO-NH-基、から選択される1種または2種以上のエチレン性の炭素炭素二重結合を2または3以上含む化合物が例示される。
【0025】
本開示において、多官能エチレン性不飽和単量体としては、分子量が50以上、1000以下であることが好ましく、100以上、400以下であることがより好ましい。
【0026】
本開示において、多官能エチレン性不飽和単量体に特に制限はないが、造孔時のハンドリング性や、形成された空孔の均一性の観点から、多官能エチレン性不飽和単量体1分子に含まれるエチレン性不飽和基の数n個(nは2以上の整数)に対して、n-1個以上がCH2=CH-CO-O-基又はCH2=CH-CO-NH-基である多官能エチレン性不飽和単量体(以下、「加水分解性多官能エチレン性不飽和単量体」とも言う)であることが好ましい。
【0027】
多官能エチレン性不飽和単量体としては、多官能アクリル酸エステル、N、N’-メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0028】
多官能アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールトリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、ジペンタエリトリトールヘキサアクリレート、アクリル変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。
【0029】
その他単量体に由来する構造単位とは、その他単量体の少なくとも一つの炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造単位を表す。例えば、エチレングリコールジアクリレート、CH2=CH-CO-O-CH2CH2O-CO-CH=CH2、であれば、エチレングリコールジアクリレート由来の構造単位は、例えば、-CH2-CH-CO-O-CH2CH2O-CO-CH-CH2-、で表すことができる。その他単量体由来の構造単位は、例えば、その他単量体をラジカル重合することにより形成することができる。なお、その他単量体由来の構造単位は、その他単量体の炭素炭素二重結合が炭素炭素単結合に置き換わった構造と同じ構造であればよく、その他単量体が重合することにより形成された構造単位に限定されず、例えば重合後の反応により形成された構造単位であってもよい。
【0030】
本開示の重合体にはその他の単量体に由来する構造単位を、0.01質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましく、1質量%以上含むことがさらに好ましく、2質量%以上含むことがよりさらに好ましく、5質量%以上含むことが特に好ましい。一方、本開示の重合体には、その他の単量体に由来する構造単位を、60質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、20質量%以下含むことがさらに好ましく、15質量%以下含むことがよりさらに好ましく、10質量%以下含むことが特に好ましい。
【0031】
本開示の重合体は、多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、0.01質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましく、1質量%以上含むことがさらに好ましく、2質量%以上含むことがよりさらに好ましく、5質量%以上含むことが特に好ましい。一方、本開示の重合体には、多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、60質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、20質量%以下含むことがさらに好ましく、15質量%以下含むことがよりさらに好ましく、10質量%以下含むことが特に好ましい。
【0032】
本開示の重合体は、加水分解性多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を、0.01質量%以上含むことが好ましく、0.1質量%以上含むことがより好ましく、0.5質量%以上含むことがさらに好ましく、2質量%以上含むことがよりさらに好ましく、5質量%以上含むことが特に好ましい。一方、本開示の重合体は、60質量%以下含むことが好ましく、50質量%以下含むことがより好ましく、40質量%以下含むことがさらに好ましく、20質量%以下含むことがよりさらに好ましく、10質量%以下含むことが特に好ましい。
【0033】
本開示の重合体には、加水分解性多官能エチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を1種又は2種以上含んでいても良い。
【0034】
本開示の重合体は、粒子形状を有していても良い(以下、「本開示の重合体粒子」とも言う)。本開示の重合体粒子の好ましい粒子径は、体積平均粒子径が10nm~10μmであることが好ましく、50nm~5μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましく、150~850nmであることが特に好ましい。本開示の重合体の体積平均粒子径は、たとえば動的光散乱法により測定することができる。
【0035】
本開示の重合体は、多層構造を有していてもよく、例えばコア部とその表面に設けられたシェル部で構成されるコアシェル構造であってもよい。
【0036】
[本開示の空孔形成剤の製造方法]
<重合方法>
RHMA系重合体は、上記式(2)で表される単量体のうち、R1が炭素数1~4のアルキル基であるもの(以下、ヒドロキシメチルアクリル酸エステルという)を少なくとも1種を水系溶媒中で重合し、必要に応じ、部分的に又は完全に加水分解してR1に該当する部分の一部又は全部を、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、アンモニウムなどに変換することにより得られる。ヒドロキシメチルアクリル酸エステルにその他単量体(以下、これらをまとめて「原料単量体成分」という場合がある)を含めて重合してもよい。ヒドロキシメチルアクリル酸エステルを原料モノマーとして用いると、水系溶媒中で重合しても、生成物を粒子状にすることができる。
【0037】
重合方法としては、懸濁重合、乳化重合、分散重合等が挙げられる。中でも、乳化剤の存在下、上記原料単量体成分を反応溶媒に分散させて(ラジカル)重合反応を行う乳化重合が好ましく、具体的には、本発明の重合体の製造方法としては、乳化剤の存在下、式(2)で示される単量体の少なくとも1種を水系溶媒に分散させて重合反応を行う乳化重合を含むことが好ましい。乳化重合は、1段階のみで行ってもよく多段階で行ってもよい。
【0038】
前記乳化剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、非反応型界面活性剤であっても、ラジカル重合可能な基を構造中に有する反応型界面活性剤であってもよい。
【0039】
非反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル(アリル)スルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル硫酸塩等が挙げられ、ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキル(フェニル)エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0040】
反応型界面活性剤には、アニオン性、ノニオン性の界面活性剤が包含される。アニオン性反応型界面活性剤としては、エーテルサルフェート型反応型界面活性剤、リン酸エステル系反応型界面活性剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0041】
乳化剤は、原料単量体成分の合計100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上であり、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。
【0042】
本開示において、水系溶媒とは、水単独、または水と水混和性有機溶媒との混合溶媒が挙げられるが、水単独であることが好ましい。水系溶媒とは、典型的には、水の含有量が50体積%を超える溶媒を指す。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水、純水等を用いることができる。水混和性有機溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール等)を用いることができる。重合体中に有機溶媒が極力残存しないようにする観点から、水系溶媒の80体積%以上が水である水系溶媒が好ましく、水系溶媒の90体積%以上が水である水系溶媒がより好ましく、水系溶媒の95体積%以上が水である水系溶媒がさらに好ましく、実質的に水からなる水系溶媒(99.5体積%以上が水である水系溶媒)が特に好ましく、水単独であることが最も好ましい。
【0043】
原料単量体成分を重合する際には、例えば、重合開始剤、紫外線や放射線の照射、熱の印加等の手段が用いられ、重合開始剤を使用することが好ましく、原料単量体成分を効率よく反応させ、残存するモノマーを十分に低減させる観点から、酸化剤及び還元剤を組み合わせた重合開始剤(レドックス型重合開始剤)が好ましい。
【0044】
本開示の重合体の加水分解は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができる。さらに、加水分解液に適宜酸を添加することで、部分中和又は完全中和を行うことができる。加水分解及び中和を行うことで、式(1)のR1に該当する基を水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ金属原子またはアンモニウムにできる。重合時、加水分解時、及び中和時に用いる酸や塩基の量を調整したり、R1が水素原子である単量体単位の割合を調整することで、重合体のpHや親水性を調整することができ、造孔時の操作性や、形成された空孔の均一性を向上させることができる。
【0045】
<水分散体>
上述した水中に前記重合体を分散させた水分散体とすることにより、前記重合体を水に分散させた状態(水分散体)とした空孔形成剤も本発明の範囲に包含される。前記水分散体は、前記重合体が、ヒドロキシメチル基を有しており、親水性に優れている。また水に対する分散性が良好であり、分散体としての高い貯蔵安定性を有し、さらに容易に加水分解を行うことが可能である。加水分解及びその後、必要に応じて中和を行う場合、水分散体に含まれている重合体に対して、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、ジエタノールアミン水溶液、シクロヘキシルアミン水溶液等の塩基性水溶液を添加することで加水分解を行うことができる。さらに、加水分解液に適宜酸を添加することで、部分中和又は完全中和を行うことができる。加水分解及び中和を行うことで、式(1)のR1に該当する基を水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、またはアンモニウムにできる。重合時、加水分解時、及び中和時に用いる酸や塩基の量を調整したり、R1が水素原子である単量体単位の割合を調整することで、前記重合体の体積平均粒子径を容易に調整することができるため、空孔形成剤を幅広い用途で用いることができる。
【0046】
水分散体は、前記重合体を5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、100質量%以下含むことが好ましく、50質量%以下含むことがより好ましい。
【0047】
水分散体に含まれる前記重合体の体積平均粒子径は10nm~10μmであることが好ましく、50nm~5μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましく、150~850nmであることが特に好ましい。水分散体に含まれる重合体の体積平均粒子径は動的光散乱法により測定した。
【0048】
[本開示の空孔形成方法]
本開示の重合体、もしくは本開示の空孔形成剤(以下、「本開示の重合体等」とも言う)は、例えば樹脂などの各種マトリックスに添加後、例えばアルカリで処理することにより、温和な条件でマトリックスに空孔を形成することができる。
【0049】
各種マトリックスに、本開示の重合体等を添加する方法は限定されないが、例えば樹脂などに本開示の重合体等を溶融混合する方法や、本開示の重合体と樹脂とを含む溶剤を塗工などした後に溶剤を乾燥除去する方法が例示される。
【0050】
アルカリで処理する方法(「アルカリ洗浄工程」とも言う)は特に限定されない。例えば、アルカリ溶液と本開示の重合体等を含むマトリックスとを接触させることにより実施することが好ましいが、アルカリ溶液と、本開示の重合体と樹脂とを含む溶剤とを接触させることにより実施しても良い。
【0051】
アルカリ処理工程は、室温、加熱、冷却のいずれの条件下で実施しても良いが、40℃以下で実施することが好ましい。アルカリ処理工程は、常圧下、加圧下、減圧下、のいずれで実施しても良い。
【0052】
アルカリ処理工程で使用するアルカリ成分としては、無機塩基でも、有機塩基でも良い。アルカリ溶液としては、例えば水溶液の場合であれば、pHが7以上、13以下であることが好ましい。アルカリ溶液の濃度としては、0.1重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。アルカリの使用量としては、上記下記一般式(1)に由来する構造単位1モルに対し、0.01モル以上、200モル以下であることが好ましい。
【0053】
本開示の空孔形成方法は、アルカリ洗浄工程を必須とすることが好ましいが、本開示の重合体等の添加工程、水洗工程、溶剤洗浄工程等、任意の工程をさらに含んでいても良い。
【0054】
[本開示の空孔形成剤の用途]
本発明で用いられる空孔形成剤の用途は限定されず、高い空孔率を達成できることから、繊維の空孔形成剤として好適に用いることが出来る。繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、カーボン繊維等の無機繊維;羊毛、セルロース、麻、ナイロン、ポリエステル等の有機物の繊維;等が挙げられる。その他、セラッミク、塗膜、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、各種フィルム、固体燃料電池、二次電池用セパレータ、触媒担体、断熱材料、低反射材料などの各種分野への応用が可能となる。
【実施例0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0056】
<体積平均粒子径>
重合体分散体をイオン交換水で希釈したものを光散乱粒度分布測定機(スペクトリス社製「Zetasizer Ultra」)を用いて測定して、動的光散乱法により重合体の体積平均粒子径(nm)を求めた。
【0057】
<空孔形成評価>
(光学物性評価)
ヘイズメーター(日本電色工業社製「NDH7000」)を用いて、成膜試料のヘイズ(%)を評価した。
(空孔の有無)
成膜試料を切り出し、塗膜が形成されている面を上向きに試料台に貼り、評価用サンプルとした。電子顕微鏡(日本電子社製「JSM-7600FA」)にて当該サンプルの膜形状の観察を行った。得られた顕微鏡画像を目視にて以下の基準により定性的に評価した。
〇:空孔が形成されている。
×:空孔が形成されていない。
【0058】
<空孔均一性評価>
前記空孔形成評価にて得られた顕微鏡画像を目視にて以下の基準により定性的に評価した。
◎:空孔のサイズが揃っている。
〇:一部の空孔のサイズにばらつきがある。
×:空孔のサイズにばらつきがある、もしくは空孔が形成されていない。
【0059】
[重合体の合成]
<製造例A1>
攪拌機、温度計および冷却機を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水832.0質量部およびアニオン性反応型界面活性剤アデカリアソープSR-20(有効成分100質量%、ADEKA社製)をイオン交換水で有効成分25.0質量%に希釈したもの(以下、「SR-20(有効成分25.0質量%)」という)を0.96質量部加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。他方、上記反応釜とは異なる容器で、2-ヒドロキシメチルメタクリル酸メチル(以下「RHMA」と称する)200.0質量部にて構成される単量体組成物200.0質量部を調製した。
【0060】
上記反応釜内を窒素ガスで置換した後、上記単量体組成物40.0質量部、過酸化水素水(過酸化水素濃度1.28質量%)21.0質量部、およびL-アスコルビン酸水溶液(L-アスコルビン酸濃度1.90質量%)21.0質量部を上記反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。次いで、上記単量体組成物の残部160.0質量部、過酸化水素水(過酸化水素濃度0.22質量%)479.0質量部、およびL-アスコルビン酸水溶液(L-アスコルビン酸濃度0.33質量%)479.0質量部とSR-20(有効成分25.0質量%)7.04質量部との混合組成物486.04質量部を、各々異なる投入口より反応釜へ4時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、内温を85℃まで昇温し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、重合体(1)が分散した重合体水分散体(1a)を得た。
【0061】
<製造例A2>
製造例A1記載の単量体組成物をRHMA200質量部から、RHMA160質量部とノルマルブチルアクリレート(以下「BA」と称する)40質量部に変更した以外は製造例A1と同様にして、重合体(2)が分散した重合体水分散体(2a)を得た。
【0062】
<製造例A3>
製造例A1記載の単量体組成物をRHMA200質量部から、RHMA100質量とBA100質量部に変更した以外は製造例A1と同様にして、重合体(3)が分散した重合体水分散体(3a)を得た。
【0063】
<製造例A4>
製造例A1記載の単量体組成物をRHMA200質量部から、RHMA180質量とトリエチレングリコールジアクリレート(以下「3EG-A」と称する)20質量部に変更した以外は製造例A1と同様にして、重合体(4)が分散した重合体水分散体(4a)を得た。
【0064】
<製造例A5>
製造例A1記載の単量体組成物をRHMA200質量部から、RHMA170質量とBA10質量部と3EG-A20質量部に変更した以外は製造例A1と同様にして、重合体(5)が分散した重合体水分散体(5a)を得た。
【0065】
<製造例B1>
攪拌機、温度計および冷却機を備えたステンレス製の反応釜に、脱イオン水832.0質量部とドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(有効成分6.5質量%、以下「DBSNa(有効成分6.5質量%)」と称する)0.92質量部とを加え、内温を75℃まで昇温し、同温度に保った。他方、上記反応釜とは異なる容器で、メチルメタクリレート(以下「MMA」と称する)140.0質量部とジビニルベンゼン810(以下「DVB810」と称する)60.0質量部を混合して、単量体組成物200.0質量部を調製した。次に、上記反応釜内を窒素ガスで置換した後、上記単量体組成物40.0質量部、過酸化水素水(過酸化水素濃度1.28質量%)21.0質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(L-アスコルビン酸濃度1.90質量%)21.0質量部を上記反応釜内に添加して、初期重合反応を行った。続いて、上記単量体組成物の残部160.0質量部、過酸化水素水(過酸化水素濃度0.22質量%)479.0質量部、及びL-アスコルビン酸水溶液(L-アスコルビン酸濃度0.33質量%)479.0質量部とDBSNa(有効成分6.5質量%)6.77質量部との混合組成物485.77質量部を、各々異なる投入口より反応釜へ4時間かけて均一に滴下した。滴下終了後、内温を85℃まで昇温し、同温度で2時間保持して熟成した後、反応溶液を冷却して、架橋微粒子(6)が分散した架橋微粒子分散体(6a)を得た。
【0066】
<製造例B2>
攪拌機、滴下装置および温度計を備えた容量10Lのガラス製反応器に、有機溶媒としてのメチルアルコール4266.5gと、28重量%アンモニア水(水および触媒)333.0gとを仕込み、攪拌しながら液温を20±0.5℃に調節した。一方、滴下装置に、シリコン化合物としてのテトラメトキシシラン333.0gをメチルアルコール533.0gに溶解してなる溶液を仕込んだ。そして、滴下装置から該溶液を1時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間攪拌することにより、テトラメトキシシランの加水分解,縮合を行い、シリカ微粒子(7)の懸濁液(7a)を得た。
【0067】
[実施例1]
(塗料用組成物の調製)
アクリル樹脂エマルション(日本触媒社製「ユーダブルEF-015」、ポリマー固形分:50質量%)10.0質量部に重合体分が1.0質量部となるように重合体水分散体(1a)を配合した後、スターラーチップで十分に攪拌し、塗膜用組成物を得た。
(成膜試料の調製)
塗膜用組成物を透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」と称する、東洋紡社製、コスモシャインA4300 縦:297mm、横:210mm、厚さ:0.100mm)に、塗工後の膜厚が50μmとなるようにバーコーターで塗布し、送風定温恒温器(ヤマト科学社製「DNF400」)にて100℃10分間乾燥して、塗膜が積層されたPETフィルムを得た。前記PETフィルムを1重量%の水酸化ナトリウム水溶液に1分間浸漬させ、アルカリ処理を施し成膜試料を得た。
【0068】
[実施例2~5、比較例1、2]
配合する重合体水分散体の種類を表1に記載のものに変更する以外は、実施例1と同様にして、成膜試料を調製した。
【0069】
【0070】
表1の結果から、容易に空孔を形成し、形成された空孔の均一性も高い、空孔形成剤を提供することを目的とする。