(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081977
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】光学系及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
G02B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193248
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敏也
(72)【発明者】
【氏名】森 勇輝
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087KA02
2H087LA03
2H087MA05
2H087MA08
2H087MA09
2H087NA03
2H087PA09
2H087PA16
2H087PB13
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA14
2H087QA22
2H087QA26
2H087QA34
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA32
(57)【要約】
【課題】可視光域から近赤外域全域において諸収差が良好に補正された結像性能の高い光学系及び撮像装置を提供する。
【解決手段】合焦時における最も物体側の可変間隔を挟んで、物体側に配置される屈折力を有する第1レンズ群G1と、像側に配置される正の屈折力を有する第2レンズ群G2とから構成され、第1レンズ群G1は、像側から順に、正レンズと、少なくとも1枚以上の負レンズとを含み、第2レンズ群G2は、物体側から順に、正の屈折力を有する第2A群G2Aと、開口絞りSと、正の屈折力を有する第2B群G2Bとを有し、第2B群G2Bは、物体側から順に負レンズと、正レンズとを含み、所定の条件式を満足する光学系及び当該光学系を備えた撮像装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合焦時における最も物体側の可変間隔を挟んで、物体側に配置される屈折力を有する第1レンズ群と、像側に配置される正の屈折力を有する第2レンズ群とから構成され、
前記第1レンズ群は、像側から順に、正レンズと、少なくとも1枚以上の負レンズとを含み、
前記第2レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有する第2A群と、開口絞りと、正の屈折力を有する第2B群とを有し、
前記第2B群は、物体側から順に負レンズと、正レンズとを含み、
下記条件式を満足することを特徴とする光学系。
(1) -0.050 < θIRp-θIRn < 0.050
(2) 1.50 < F2/F < 2.60
但し、
θIRp:前記第2レンズ群に含まれる全ての正レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
θIRn:前記第2レンズ群に含まれる全ての負レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
nF:F線における屈折率
nd:d線における屈折率
n1700nm:1700nmの波長における屈折率
F2:前記第2レンズ群のd線における焦点距離
F :当該光学系の無限遠合焦時のd線における焦点距離
【請求項2】
下記の条件式を満足する請求項1に記載の光学系。
(3) -0.007< 0.00558×νd_n2B+0.531-θct_n2B < 0.000
但し、
νd_n2B :前記第2B群において最も物体側に配置される負レンズのd線におけるアッベ数
θct_n2B:前記第2B群において最も物体側に配置される負レンズのC線とt線に関する部分分散比
なお、C線からt線の部分分散比θctは以下の式で定義されるものとする。
θct=(nC-nt)/(nF-nC)
nC:C線における屈折率
nt:t線における屈折率
【請求項3】
下記の条件式を満足する請求項1又は請求項2に記載の光学系。
(4) 0.623 < θgF_p2A
但し、
θgF_p2A:前記第2A群において最も物体側に配置された正レンズのg線とF線に関する部分分散比
なお、g線からF線の部分分散比θgFは以下の式で定義されるものとする。
θgF=(ng-nF)/(nF-nC)
ng:g線における屈折率
nC:C線における屈折率
【請求項4】
以下の条件式を満足する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光学系。
(5) nd_pave <1.70
(6) νd_pave >50
但し、
nd_pave:前記第2B群に配置される全ての正レンズのd線における屈折率の平均値
νd_pave:前記第2B群に配置される全ての正レンズのd線におけるアッベ数の平均値
【請求項5】
前記第2レンズ群は、以下の条件式を満足する負レンズを少なくとも1枚以上有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光学系。
(7) θct ≧ 0.800
(8) νd ≦ 55
但し、
θct:第2レンズ群が有する負レンズのC線からt線の部分分散比
なお、C線からt線の部分分散比θctは以下の式で定義されるものとする。
θct=(nC-nt)/(nF-nC)
νd:前記第2レンズ群が有する負レンズのd線におけるアッベ数
nC:C線における屈折率
nt:t線における屈折率
【請求項6】
下記条件式を満足する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光学系。
(9) 1.50 < F2B/F < 2.60
但し、
F2B:前記第2B群のd線における焦点距離
【請求項7】
前記第2レンズ群全体を光軸に沿って移動させる、又は、前記第2A群と前記第2B群とを異なる軌跡で光軸に沿って移動させることで無限遠物体から近距離物体へ合焦する請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項8】
前記第1レンズ群は最も物体側に正レンズを有する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の光学系と、当該光学系の像側に当該光学系によって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、光学系及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一眼レフカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、監視用カメラの他、産業用カメラ等種々の分野で撮像装置が使用されている。いずれの分野においてもイメージセンサ(撮像素子)の高画素化が進み、それに伴い明るく高解像度の光学系が求められている。近年、産業用カメラ、特に、画像解析装置に接続されて画像解析による検査等に用いられるマシンビジョン用の産業用カメラ(FA/MV)の重要性が高まっている。特に、可視光域から近赤外域までの広い波長域の光線により、物体の外部構造だけではなく、その内部等についてもセンシングが可能な産業用カメラが注目されている。このような撮像装置に対しては、可視光域から近赤外域までの広い波長域において良好に収差補正された結像性能の高い光学系が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-245967号公報
【特許文献2】特開2019-53236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1には、物体側より順に負の屈折力を有する第1レンズ群と正の屈折力を有する第2レンズ群とから構成され、Fナンバーが1.4程度の明るい光学系が開示されている。
また、特許文献2には、物体側より順に屈折力を有する第1レンズ群と、正の屈折力を有する第2レンズ群とから構成され、Fナンバーが2.8程度の比較的明るい光学系が開示されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示の光学系はいずれも可視光域から近赤外域全域における諸収差の補正が十分であるとはいえない。
【0005】
そこで、本件発明の課題は可視光域から近赤外域全域において諸収差が良好に補正された結像性能の高い光学系及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本件発明に係る光学系は、合焦時における最も物体側の可変間隔を挟んで、物体側に配置される屈折力を有する第1レンズ群と、像側に配置される正の屈折力を有する第2レンズ群とから構成され、前記第1レンズ群は、像側から順に、正レンズと、少なくとも1枚以上の負レンズとを含み、前記第2レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有する第2A群と、開口絞りと、正の屈折力を有する第2B群とを有し、前記第2B群は、物体側から順に負レンズと、正レンズとを含み、下記条件式を満足することを特徴とする。
(1) -0.050 < θIRp-θIRn < 0.050
(2) 1.5 < F2/F < 2.6
但し、
θIRp:前記第2レンズ群に含まれる全ての正レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
θIRn:前記第2レンズ群に含まれる全ての負レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
nF:F線における屈折率
nd:d線における屈折率
n1700nm:1700nmの波長における屈折率
F2:前記第2レンズ群のd線における焦点距離
F :当該光学系のd線における焦点距離
【0007】
また、上記課題を解決するために本件発明に係る撮像装置は、上記光学系と、当該光学系によって形成された光学像を電気的信号に変換にする撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本件発明によれば、可視光域から近赤外域全域において諸収差が良好に補正された結像性能の高い光学系及び撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図7】本発明の一実施形態に係る撮像装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本件発明に係る光学系及び撮像装置の実施の形態を説明する。但し、以下に説明する光学系及び撮像装置は本件発明に係る光学系及び撮像装置の一態様であって、本件発明に係る光学系及び撮像装置は以下の態様に限定されるものではない。
【0011】
1.光学系
1-1.光学構成
当該光学系は、合焦時における最も物体側の可変間隔を挟んで、物体側に配置される屈折力を有する第1レンズ群と、像側に配置される正の屈折力を有する第2レンズ群とから構成される。さらに、当該光学系では、第1レンズ群は、像側から順に、正レンズと、少なくとも1枚以上の負レンズとを含む。また、第2レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有する第2A群と、開口絞りと、正の屈折力を有する第2B群とを有する。さらに、第2B群は、物体側から順に負レンズと、正レンズとを含む。このような光学構成を採用しつつ、後述する条件式を少なくとも1つ以上満足させることにより、可視光域から近赤外域まで良好に収差が補正された結像性能の高い光学系を得ることができる。
【0012】
(1)第1レンズ群
第1レンズ群は、屈折力を有し、像側から順に正レンズ、負レンズの少なくとも2枚のレンズから構成されればよく、負レンズの物体側に他のレンズを備えていてもよい。例えば、第1レンズ群の最も物体側に正レンズを備える構成とすれば、広い画角を確保しつつ、歪曲収差を良好に補正することが可能になるため好ましい。第1レンズ群の屈折力の符号は正でもよく負でもよいが、広画角化を図る上では負であることがより好ましい。
【0013】
(2)第2レンズ群
第2レンズ群は、第1レンズ群の像側に、合焦時における最も物体側の可変間隔を介して配置される。ここで、合焦時に間隔が変化するレンズ間隔を「合焦時における可変間隔」と称する。「合焦時における最も物体側の可変間隔」は、当該光学系内における「合焦時における可変間隔」のうち最も物体側のものをいう。従って、第2レンズ群は、合焦時における最も物体側の可変間隔よりも像側に配置される全てのレンズを含む。
【0014】
第2レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有する第2A群と、開口絞りと、正の屈折力を有する第2B群とを有すればよい。また、第2レンズ群には、「合焦時における可変間隔」が含まれていてもよく、例えば、第2B群の像側に、合焦時における可変間隔を介して正又は負の屈折力を有する他の群を1以上備えていてもよい。また、第2A群と第2B群との間隔は合焦時に変化しなくてもよいし、変化してもよい。但し、合焦時における可変間隔の有無によらず、第2レンズ群を第2A群及び第2B群から構成すれば、当該光学系を小型に構成することが容易になるため好ましい。
【0015】
第2A群は、全体で正の屈折力を有する限り、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではなく、少なくとも1枚以上の正レンズを含めばよい。また、第2B群は、全体で正の屈折力を有し、物体側から順に負レンズと、正レンズとを含むかぎり、その具体的なレンズ構成は特に限定されるものではない。
【0016】
1-2.動作
当該光学系では、1以上のレンズ群を光軸に沿って移動させることで、無限遠物体から近距離物体へ合焦する。例えば、第1レンズ群を光軸に沿って移動させることで、フォーカシングを行ってもよく、フォーカシングの際に移動させるレンズ群は特に限定されるものではない。しかしながら、当該光学系では、第2レンズ群全体を光軸に沿って移動させる、又は、第2A群と第2B群とを異なる軌跡で光軸に沿って移動させることで無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングを行うことが好ましい。第2レンズ群全体でフォーカシングを行えば、フォーカシングの際の駆動機構の構成が簡素になり、全体の小型化及び軽量化を図る上で好ましい。さらに、像側に配置される第2レンズ群全体でフォーカシングを行うことで、フォーカシングの際の諸収差の変動や画角の変動を抑制することができ、無限遠物体から近距離物体まで物体位置によらず良好な結像性能を得ることができる。一方、第2A群と第2B群の双方でフォーカシングを行えば、フォーカシングの際の各群の移動量を小さくすることができ、当該光学系の光軸方向の小型化を図ることがより容易になる。この場合、第2レンズ群を第2A群と第2B群とから構成することにより、当該光学系の光軸方向の小型化を図ることがより容易になり、好ましい。なお、第1レンズ群はフォーカシングの際に光軸方向に固定することがより好ましい。
【0017】
1-3.条件式
当該光学系は、上述した構成を採用すると共に、次に説明する条件式を少なくとも1つ以上満足することが好ましい。
【0018】
1-3-1.条件式(1)
(1) -0.050 < θIRp-θIRn < 0.050
但し、
θIRp:第2レンズ群に含まれる全ての正レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
θIRn:第2レンズ群に含まれる全ての負レンズの(nF-nd)/(n1700nm-nd)の平均値
nF:F線における屈折率であり、F線は486.1300nmの波長の光をいう。
nd:d線における屈折率であり、d線は587.5618nmの波長の光をいう。
n1700nm:1700nmの波長における屈折率
【0019】
上記条件式(1)は、第2レンズ群に含まれる正レンズ及び負レンズの分散特性に関する式である。条件式(1)を満足させることで、可視光域から近赤外域全域において色収差を良好に補正することができ、可視光域から近赤外域全域において諸収差が良好に補正された結像性能の高い光学系を得ることができる。なお、上記条件式(1)の値は0であってもよい。
【0020】
これに対して、条件式(1)の値が上限値以上になる場合、或いは、下限値以下になる場合のいずれにおいても、可視光域から近赤外域の全域で色収差を良好に補正することが困難になる。その結果、可視光域においては色収差を良好に補正することができても、近赤外域での色収差補正が不足する又は過剰になる、或いは、その逆に近赤外域では色収差を良好に補正することができても、可視光域においては色収差補正が不足する又は過剰になるなどするため好ましくない。
【0021】
上記効果を得る上で、条件式(1)の下限値は-0.040であることがより好ましく、-0.030であることがさらに好ましい。また、条件式(1)の上限値は0.040であることがより好ましく、0.030であることがさらに好ましい。なお、これらの好ましい下限値又は上限値を採用する場合、条件式(1)において不等号(<)を等号付不等号(≦)に置換してもよい。他の式についても原則として同様である。また、他の式において等号付不等号(≦)を不等号(<)に置換してもよい。
【0022】
1-3-2.条件式(2)
(2) 1.50 < F2/F < 2.60
但し、
F2:第2レンズ群のd線における焦点距離
F :当該光学系のd線における焦点距離
【0023】
上記条件式(2)は、当該光学系の焦点距離に対する第2レンズ群の焦点距離の比を規定した式である。条件式(2)を満足させることで、可視光域から近赤外域全域において色収差補正を良好に行うことができ、像面湾曲、非点収差などの諸収差も良好に補正することができるため、結像性能の高い光学系を得ることがより容易になる。
【0024】
これに対して、この数値が下限値以下になると第2レンズ群の屈折力が強くなり、可視光域から近赤外域全域において、色収差や、像面湾曲、非点収差を良好に補正することが困難になり、結像性能の高い光学系を得ることが困難になる。一方、この数値が上限値以上になると第2レンズ群の屈折力が弱くなり、大口径化及び小型化を図ることが困難になる。
【0025】
上記効果を得る上で、条件式(2)の下限値は1.70であることがより好ましく、1.85であることがさらに好ましい。また、条件式(2)の上限値は2.50であることがより好ましく、2.40であることがさらに好ましい。
【0026】
1-3-3.条件式(3)
第2B群において最も物体側に配置される負レンズは、下記の条件式を満足することが好ましい。
【0027】
(3) -0.007< 0.00558×νd_n2B+0.531-θct_n2B < 0.000
但し、
νd_n2B :第2B群において最も物体側に配置される負レンズのd線におけるアッベ数
θct_n2B:前記第2B群において最も物体側に配置される負レンズのC線とt線に関する部分分散比
なお、C線からt線の部分分散比θctは以下の式で定義されるものとする。
θct=(nC-nt)/(nF-nC)
nC:C線における屈折率であり、C線は656.2800nmの光をいう。
nt:t線における屈折率であり、t線は1013.9800nmの光をいう。
【0028】
上記条件式(3)は、第2B群において最も物体側に配置された負レンズの硝材を規定する式である。第2B群において最も物体側に配置された負レンズをこの条件式(3)を満足する硝材製のレンズとすることで、可視光域から近赤外光域まで色収差を良好に補正することがより容易になる。また、開口絞りの直後に配置される当該負レンズをこのような硝材製とすることで、他のレンズを当該硝材製とするよりも色収差をより効果的に補正することができる。
【0029】
上記効果を得る上で、条件式(3)の下限値は-0.006であることが好ましく、-0.005であることがより好ましい。
【0030】
1-3-4.条件式(4)
第2A群において最も物体側に配置された正レンズは、下記の条件式を満足することが好ましい。
【0031】
(4) 0.623 < θgF_p2A
但し、
θgF_p2A:前記第2A群において最も物体側に配置された正レンズのg線とF線に関する部分分散比
なお、g線からF線の部分分散比θgFは以下の式で定義されるものとする。
θgF=(ng-nF)/(nF-nC)
ng:g線における屈折率であり、g線は435.8400nmの波長の光をいう。
【0032】
上記条件式(4)は、第2A群において最も物体側に配置された正レンズの硝材を規定する式である。第2A群において最も物体側に配置された正レンズをこの条件式(4)を満足する硝材製のレンズとすることで、可視光域内の波長の光のうち、特に、短波長側の波長の光について色収差を良好に補正することが可能になる。
【0033】
上記効果を得る上で、条件式(4)の下限値は0.625であることが好ましく、0.630であることがより好ましい。
【0034】
1-3-5.条件式(5)及び条件式(6)
第2B群に配置される正レンズに関し、以下の条件式を満足することが好ましい。
(5) nd_pave <1.70
(6) νd_pave >50
但し、
nd_pave:第2B群に配置される全ての正レンズのd線における屈折率の平均値
νd_pave:第2B群に配置される全ての正レンズのd線におけるアッベ数の平均値
【0035】
上記条件式(5)は第2レンズ群に含まれる正レンズのd線におけるアッベ数の平均値を規定する式であり、条件式(6)は第2レンズ群に含まれる正レンズのd線にける屈折率の平均値を規定する式である。第2レンズ群に、条件式(5)及び条件式(6)を共に満足する硝材からなる正レンズを配置することで、第2レンズ群において正レンズにより生じる分散が大きくなり過ぎないようにすることができ、可視光域から近赤外光域まで色収差を良好に補正することができる。
【0036】
上記効果を得る上で、条件式(5)の上限値は1.67であることがより好ましい。また、条件式(6)の下限値は55であることがより好ましく、63であることがさらに好ましい。
【0037】
1-3-6.条件式(7)及び条件式(8)
第2レンズ群は、以下の条件式を満足する負レンズを少なくとも1枚以上有することが好ましい。
【0038】
(7) θct ≧ 0.800
(8) νd ≦ 55
但し、
θct:前記第2レンズ群が有する負レンズのC線からt線の部分分散比
なお、C線からt線の部分分散比θctは以下の式で定義されるものとする。
θct=(nC-nt)/(nF-nC)
νd:第2レンズ群が有する負レンズのd線におけるアッベ数
【0039】
上記条件式(7)は硝材のC線からt線の分散性を規定する式であり、条件式(8)は硝材のd線におけるアッベ数を規定する式である。第2レンズ群が上記条件式(7)及び条件式(8)を満足する硝材からなる負レンズを有する構成とすることで、可視光域から近赤外域まで色収差を良好に補正することができる。
【0040】
上記効果を得る上で、条件式(7)の下限値は0.810であることがより好ましく、0.815であることがさらに好ましい。また、条件式(8)の上限値は53であることがより好ましい。
【0041】
1-3-7. 条件式(9)
(9) 1.50 < F2B/F < 2.60
但し、
F2B:第2B群のd線における焦点距離
【0042】
上記条件式(9)は当該光学系の焦点距離に対する第2B群のd線における焦点距離の比を規定する式である。条件式(9)を満足させることにより、球面収差や色収差等の諸収差を良好に補正することが可能になり、可視光域から近赤外域までの広い波長領域において結像性能の高い光学系を実現することがより容易になる。
【0043】
これに対して、この数値が下限値以下になると第2B群の屈折力が強くなり、諸収差、主に球面収差補正や色収差補正が過剰となり、可視光域から近赤外域の全域において結像性能の高い光学系を得ることが困難になる。一方、この数値が上限値以上になると、第2B群の屈折力が弱くなり、十分に球面収差や色収差を補正することが困難になる。
【0044】
上記効果を得る上で、条件式(9)の下限値は1.70であることが好ましく、1.85であることがより好ましい。また、条件式(9)の上限値は2.50であることが好ましく、2.40であることがより好ましい。
【0045】
2.撮像装置
次に、本件発明に係る撮像装置について説明する。本件発明に係る撮像装置は、上記本件発明に係る光学系と、当該光学系によって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。なお、撮像素子は光学系の像側に設けられることが好ましい。
【0046】
ここで、本件発明に係る光学系は、可視光域から近赤外域までの広い波長域で良好な結像性能を有する。そのため、撮像素子として、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の可視光域の波長の光線に対する感度を有する可視光域用のイメージセンサは勿論、近赤外域の波長の光線に対する感度を有するSWIR(Short Wave InfraRed:短波長赤外線)センサなどを好適に用いることができる。特に、可視光域から近赤外域までの波長域全域(例えば、400nmから1700nm)の光線に対して感度を有するイメージセンサと、本件発明に係る光学系とを用いれば、従来のように可視光用の撮像装置と、近赤外光用の撮像装置の2台の撮像装置を用いることなく、1台の撮像装置で可視光域から近赤外域までの光線により、物体の外部構造だけではなく、その内部等についてもセンシングが可能な産業用カメラを実現することができてより好ましい。但し、本件発明に係る撮像装置は、材料選別、異物検査、半導体検査等の用途に用いる産業用カメラに限らず、監視カメラ、車載カメラ、ドローン搭載用カメラ等の種々の用途の撮像装置に適用可能である。
【0047】
図7は、当該撮像装置10の構成の一例を模式的に示す図である。撮像装置10は、撮像装置本体1と、当該撮像装置本体1に対して着脱可能な鏡筒2と、光学系2の像面IPに配置された撮像素子3とを有する。鏡筒2内に上記本件発明に係る光学系及びフォーカシングの際にレンズ群を駆動するための駆動機構等が収容される。
【0048】
次に、実施例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0049】
(1)光学構成
図1は、本件発明に係る実施例1の光学系の無限遠合焦時の断面図である。当該光学系は、合焦時における最も物体側の可変間隔を挟んで、物体側に負の屈折力を有する第1レンズ群G1を備え、像側に正の屈折力を有する第2レンズ群G2を備えている。第2レンズ群G2は物体側から順に正の屈折力を有する第2A群G2Aと、開口絞りSと、正の屈折力を有する第2B群G2Bとを有している。当該光学系は、第2レンズ群G2全体を光軸に沿って物体側に移動させることで、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングを行う。なお、合焦時に第1レンズ群G1は光軸方向に固定されている。以下、各レンズ群の構成を説明する。
【0050】
第1レンズ群G1は、物体側から順に、両凸レンズL1と、物体側凸形状の負メニスカスレンズL2と、両凹レンズL3と、物体側凸形状の負メニスカスレンズL4及び両凸レンズL5が接合された接合レンズとから構成されている。
【0051】
次に、第2レンズ群G2の構成を説明する。第2A群G2Aは、物体側凸形状の正メニスカスレンズL6から構成される。第2B群は両凹レンズL7及び両凸レンズL8が接合された接合レンズと、両凸レンズL9及び物体側凹形状の負メニスカスレンズL10が接合された接合レンズと、両凸レンズL11及び両凹レンズL12が接合された接合レンズと、両凸レンズL13とから構成されている。
【0052】
なお、
図1において、「I」は像面であり、具体的には、SWIRセンサ、CCDセンサ、CMOSセンサなどの撮像素子の撮像面、或いは、銀塩フィルムのフィルム面等を示す。また、SWIRセンサは可視光域から近赤外波長域までの波長の光に対して感度を有するセンサとすることが好ましい。この点は、他の実施例で示す各レンズ断面図においても同様であるため、以後説明を省略する。
【0053】
(2)数値実施例
次に、当該光学系の具体的数値を適用した数値実施例について説明する。以下に、「レンズデータ」、「諸元表」、「レンズ群データ」を示す。また、各式の値(表1)は実施例3の後にまとめて示す。
【0054】
(レンズデータ)において、「面NO.」は物体側から数えたレンズ面の順番、「r」はレンズ面の曲率半径、「d」は光軸上のレンズ肉厚又は空気間隔、「Nd」はd線(波長λ=587.5618nm)における屈折率、「νd」はd線におけるアッベ数、「θgF」はg線からF線の部分分散比((ng-nF)/(nF-nC))、「θCT」C線からt線の部分分散比((nC-nt)/(nF-nC))、「θIR」は「(nF-nd)/(n1700nm-nd)」の値を示している。また、「d」の欄において、「D(9)」、「D(23)」と示すのは、当該レンズ面の光軸上の間隔が合焦時に変化する可変間隔であることを意味する。また、曲率半径の欄の「INF」は無限大を意味し、その面が平面であることを意味する。
【0055】
(諸元表)において、「F」は当該光学系の焦点距離、「Fno」はFナンバー、「ω」は半画角、「D(9)」、「D(23)」は上記可変間隔であり、表には無限遠物体合焦時(INF)及び近距離物体合焦時(物体距離0.2m)におけるそれぞれの値を示している。
【0056】
(レンズ群データ)は、第1レンズ群G1、第2レンズ群G2、第2A群G2A、第2B群G2Bの焦点距離を示している。
【0057】
これらの各表における事項は他の実施例で示す各表においても同様であるため、以下では説明を省略する。
【0058】
また、
図2に当該光学系の無限遠合焦時の縦収差図を示す。各図に示す縦収差図は、図面に向かって左側から順に、それぞれ球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)である。球面収差図は二点鎖線が1700nmの波長の光、一点鎖線がC線(656.2800nm)、実線がd線(波長587.5618nm)、短破線がF線(波長486.1300nm)、長破線がg線(波長435.8400nm)における球面収差をそれぞれ示す。非点収差図は縦軸が半画角(ω)、横軸がデフォーカスであり、実線がd線のサジタル像面を示し、破線がd線のメリディオナル像面をそれぞれ示す。歪曲収差図は、縦軸が半画角(ω)、横軸が歪曲収差である。これらの事項は、他の実施例において示す各収差図においても同じであるため、以下では説明を省略する。
【0059】
(レンズデータ)
面NO. r d Nd νd θgF θCT θIR
1 108.811 3.000 1.8040 46.53 0.56 0.77 -0.39
2 -446.594 0.161
3 56.597 1.400 1.4970 81.54 0.54 0.83 -0.35
4 13.272 6.082
5 -356.688 1.200 1.8929 20.36 0.64 0.65 -0.53
6 16.385 12.235
7 204.061 1.200 1.5891 61.13 0.54 0.84 -0.33
8 24.678 6.250 1.7620 40.10 0.58 0.74 -0.43
9 -31.718 D(9)
10 21.216 4.970 1.8929 20.36 0.64 0.65 -0.53
11 32.712 5.034
12(絞り) INF 3.935
13 -63.937 1.000 1.7380 32.33 0.59 0.72 -0.44
14 12.933 5.150 1.4970 81.54 0.54 0.83 -0.35
15 -24.439 0.300
16 156.901 3.850 1.4970 81.54 0.54 0.83 -0.35
17 -13.080 1.000 1.8929 20.36 0.64 0.65 -0.53
18 -31.684 0.200
19 21.061 4.930 1.5952 67.73 0.54 0.79 -0.37
20 -14.693 1.000 1.5174 52.20 0.56 0.82 -0.35
21 14.693 1.602
22 28.185 3.800 1.9037 31.34 0.60 0.70 -0.47
23 -142.857 D(23)
【0060】
(諸元表)
INF 0.2m
F 12.000 -
Fno 1.60 -
ω 34.79 -
D(9) 2.141 1.486
D(23) 15.034 15.688
【0061】
(レンズ群データ)
F1 -302.112
F2 28.160
F2A 56.162
F2B 28.351
第1レンズ群G1は、物体側から順に、両凸レンズL1と、物体側凸形状の負メニスカスレンズL2と、両凹レンズL3と、両凹レンズL4及び両凸レンズL5が接合された接合レンズとから構成されている。
次に、第2レンズ群G2の構成を説明する。第2A群G2Aは、物体側凸形状の正メニスカスレンズL6から構成される。第2B群は両凹レンズL7及び両凸レンズL8が接合された接合レンズと、両凸レンズL9及び物体側凹形状の負メニスカスレンズL10が接合された接合レンズと、両凸レンズL11及び両凹レンズL12が接合された接合レンズと、両凸レンズL13とから構成されている。