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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022081983
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】インクジェット印刷機及び搬送ロール
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220525BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 123
F16C13/00 B
F16C13/00 A
F16C13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193257
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000237260
【氏名又は名称】富士機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】森川 亮
(72)【発明者】
【氏名】岩藤 浩充
(72)【発明者】
【氏名】岩本 好司
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】片岡 啓治
(72)【発明者】
【氏名】丹生谷 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 怜志
(72)【発明者】
【氏名】松永 真一
(72)【発明者】
【氏名】村上 徹
(72)【発明者】
【氏名】久保 寛次
【テーマコード(参考)】
2C056
3J103
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056EA21
2C056HA29
2C056HA33
2C056HA42
3J103AA51
3J103AA69
3J103BA41
3J103BA46
3J103FA11
3J103GA02
3J103GA32
3J103GA54
3J103GA58
3J103HA03
3J103HA12
3J103HA15
3J103HA31
3J103HA43
3J103HA51
3J103HA52
3J103HA53
3J103HA55
(57)【要約】
【課題】プレコート加工された印刷基材が搬送されることによって搬送ロールに塩素化合物が付着したとしても、搬送ロールの腐食を防止することが可能なインクジェット印刷機を提供する。
【解決手段】インクジェット印刷機1は、複数の搬送ロール6R(61,62,63),7R,8Rと、印刷部4と、を備える。複数の搬送ロール6R(61,62,63),7R,8Rは、塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送する。印刷部4は、塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する。プレコート層は、塩素化合物を含有する。複数の搬送ロール6R(61,62,63),7R,8Rのうち塗工面の側に配置されるロール61B,62B,63B及び搬送ロール8Rは、ゴムロールである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための複数の搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記複数の搬送ロールのうち前記塗工面の側に配置される搬送ロールの少なくとも一部は、ゴムロールである、
ことを特徴とするインクジェット印刷機。
【請求項2】
前記ゴムロールのゴム材質は、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンラバー(NBR)、ニトリルブタジエンラバー(NBR)とエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とのブレンドゴム、フッ素ゴム及びブチルゴムのいずれかである、
ことを特徴とする請求項1に記載のインクジェット印刷機。
【請求項3】
前記ゴムロールの外周面には、ロール表面に滑り性を付与する処理、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング及びフッ素樹脂(PFA)チューブによる被覆のいずれかが施されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット印刷機。
【請求項4】
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための複数の搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記複数の搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールには、前記塩素化合物の付着に伴う腐食を防止するための腐食防止手段が施されている、
ことを特徴とするインクジェット印刷機。
【請求項5】
前記少なくとも一部の搬送ロールの外周面には、前記腐食防止手段として、セラミックコーティング、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング及びガラスコーティングのいずれかが施されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット印刷機。
【請求項6】
前記少なくとも一部の搬送ロールの外周面には、前記腐食防止手段として、テフロンチューブが装着されている、
ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット印刷機。
【請求項7】
前記少なくとも一部の搬送ロールには、前記腐食防止手段として、外周面を自動で清掃する自動清掃機が設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載のインクジェット印刷機。
【請求項8】
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールは、前記塗工面とは反対の非塗工面の側に配置されるサクションロールである、
ことを特徴とするインクジェット印刷機。
【請求項9】
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールは、前記印刷基材に接触することなく前記印刷基材の搬送をガイドする非接触ガイドロールである、
ことを特徴とするインクジェット印刷機。
【請求項10】
インクジェット印刷機において印刷基材の搬送に用いられる搬送ロールであって、
前記印刷基材の塗工面には、塩素化合物を含有するプレコート層が形成されており、
前記搬送ロールは、前記塗工面の側に配置されるゴムロールである、
ことを特徴とする搬送ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷機に関し、より詳細には、プレコート加工された印刷基材を搬送するインクジェット印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による印刷方法として、インク剤の小滴を吐出させることによって印刷基材にインク剤を付着させて印刷する方法(以下、単に「インクジェット印刷」とも称する。)が知られている。
【0003】
近年、消費者志向の多様化によって、ラベルシートやプラスチックフィルムなど水系インクを吸収しない(または吸収し難い)印刷基材(以下、単に「非吸収性印刷基材」とも称する。)の使用が求められている。
【0004】
非吸収性印刷基材に対するインクジェット印刷では、吐出されたインク剤の小滴が印刷基材に接触した瞬間にインク剤が濡れ広がるため、適切にコントロールする必要がある。
【0005】
そこで、非吸収性印刷基材にプレコート液を塗布してプレコート層を形成し(プレコート加工し)、プレコート層にインクジェット印刷を行うことで、インク剤の濡れ広がりをコントロールすることが行われている。
【0006】
なお、上述したプレコート加工は、インクジェット印刷機において印刷基材(バージンフィルム)に施されることもあれば、印刷基材に予め施されていることもある。
【0007】
また、上述したプレコート層を形成するためのプレコート液の中には、塩素化合物を含有するものがある(例えば、特許文献1)。当該特許文献1では、塩素化PPを含有するプライマー組成物を印刷用インクと組み合わせることで、良好な印刷性に加え、高いラミネート強度やシール強度が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-104401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、プレコート加工された印刷基材は、インクジェット印刷機に設けられた複数の搬送ロールによって巻出側から巻取側に向かって搬送される。
【0010】
上述した複数の搬送ロールの中には、印刷基材の塗工面の側に配置され、当該塗工面に接触するものが存在する。印刷基材の塗工面が搬送ロールに接触すると、塗工面に形成されたプレコート層の塩素化合物が搬送ロールの表面に付着することがある。
【0011】
特に、ニップロールなど印刷基材を挟持して搬送する搬送ロールは、印刷基材の搬送時に印刷基材の塗工面に密着するため、塩素化合物が付着しやすい傾向にある。
【0012】
搬送ロールには、一般的に、硬質クロムメッキが施された金属ロール、アルミロール等が用いられている。硬質クロムメッキは、耐摩耗性や耐食性などに優れているものの、塩素化合物が付着すると容易に溶けるという弱点がある。そのため、塩素化合物が搬送ロールに付着すると、硬質クロムメッキが溶け、内部の金属ロール、アルミロール等に腐食(黒錆、白錆等)が発生するおそれがある。
【0013】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、プレコート加工された印刷基材が搬送されることによって搬送ロールに塩素化合物が付着したとしても、搬送ロールの腐食を防止することが可能なインクジェット印刷機及び搬送ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係るインクジェット印刷機は、
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための複数の搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記複数の搬送ロールのうち前記塗工面の側に配置される搬送ロールの少なくとも一部は、ゴムロールである。
【0015】
また、前記ゴムロールのゴム材質は、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ニトリルブタジエンラバー(NBR)、ニトリルブタジエンラバー(NBR)とエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とのブレンドゴム、フッ素ゴム及びブチルゴムのいずれかである、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記ゴムロールの外周面には、ロール表面に滑り性を付与する処理、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング及びフッ素樹脂(PFA)チューブによる被覆のいずれかが施されている、
こととしてもよい。
【0017】
また、本発明の第2の観点に係るインクジェット印刷機は、
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための複数の搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記複数の搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールには、前記塩素化合物の付着に伴う腐食を防止するための腐食防止手段が施されている。
【0018】
また、前記少なくとも一部の搬送ロールの外周面には、前記腐食防止手段として、セラミックコーティング、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング及びガラスコーティングのいずれかが施されている、
こととしてもよい。
【0019】
また、前記少なくとも一部の搬送ロールの外周面には、前記腐食防止手段として、テフロンチューブが装着されている、
こととしてもよい。
【0020】
また、前記少なくとも一部の搬送ロールには、前記腐食防止手段として、外周面を自動で清掃する自動清掃機が設けられている、
こととしてもよい。
【0021】
また、本発明の第3の観点に係るインクジェット印刷機は、
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート液は、塩素化合物を含有し、
前記搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールは、前記塗工面とは反対の非塗工面の側に配置されるサクションロールである。
【0022】
また、本発明の第4の観点に係るインクジェット印刷機は、
塗工面にプレコート層が形成された印刷基材を搬送するための搬送ロールと、
前記塗工面にインク剤を付着させて画像を形成する印刷部と、を備え、
前記プレコート層は、塩素化合物を含有し、
前記搬送ロールのうち少なくとも一部の搬送ロールは、前記印刷基材に接触することなく前記印刷基材の搬送をガイドする非接触ガイドロールである。
【0023】
また、本発明の第5の観点に係る搬送ロールは、
インクジェット印刷機において印刷基材の搬送に用いられる搬送ロールであって、
前記印刷基材の塗工面には、塩素化合物を含有するプレコート層が形成されており、
前記搬送ロールは、前記塗工面の側に配置されるゴムロールである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、複数の搬送ロールのうち印刷基材の塗工面の側に配置される搬送ロールに、腐食耐性を有するゴムロールが用いられている。したがって、インクジェット印刷機において、プレコート加工された印刷基材が搬送されることによって搬送ロールに塩素化合物が付着したとしても、搬送ロールの腐食を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷機を示す概略図である。
図2】ゴムロールに用いるゴム材質の6つの候補を示す図である。
図3】腐食耐性試験(ドライテスト及びウェットテスト)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係るインクジェット印刷機及び搬送ロールについて図1から図3を参照しながら説明する。以下では、本発明によるインクジェット印刷機の一例として、図1に示すインクジェット印刷機1について説明する。
【0027】
図1に示すように、インクジェット印刷機1は、プレコート部2と、プレコート乾燥部3と、印刷部4と、印刷乾燥部5と、複数の搬送ロール6R,7R,8Rと、図柄検出装置9とを備える。複数の搬送ロール6R,7R,8Rには、駆動機構を有するフィードロールと、駆動機構を有しないガイドロールとが含まれる。
【0028】
プレコート部2は、印刷基材(バージンフィルム)の塗工面にプレコート液を塗布して当該塗工面にプレコート層を形成するユニットである。なお、本実施の形態では、プレコート液の樹脂には、塩素系の物質(塩素化合物)が含まれているものとする。
【0029】
プレコート乾燥部3は、印刷基材の搬送方向に関してプレコート部2の下流側に配置されている。プレコート乾燥部3は、プレコート部2において印刷基材の塗工面に塗布されたプレコート液を乾燥させるユニットである。
【0030】
印刷部4は、印刷基材の搬送方向に関してプレコート乾燥部3の下流側に配置される。印刷部4は、印刷基材の塗工面(詳細には、塗工面に形成されたプレコート層)にインク剤を付着させて画像を形成するユニットである。
【0031】
印刷部4は、印刷基材の塗工面に向けてインク剤を吐出する複数のインクヘッド4Hを備えている。複数のインクヘッド4Hは、インク剤を印刷基材の塗工面に向けて吐出して付着させ、所望の画像を形成する。
【0032】
印刷乾燥部5は、印刷基材の搬送方向に関して印刷部4の下流側に配置される。印刷乾燥部5は、印刷部4において印刷基材の塗工面に付着したインク剤を乾燥させるユニットである。
【0033】
搬送ロール6Rは、印刷基材を挟持した状態で巻出側から巻取側に搬送する3つのニップロール61,62,63を備えて構成される。
【0034】
ニップロール61は、印刷基材を挟持するための一対のロール61A,61Bを含み、印刷基材の搬送方向に関してプレコート部2の上流側に配置されている。一対のロール61A,61Bのうち、ロール61Aは印刷基材の非塗工面(塗工面とは反対の面)の側に配置され、ロール61Bは印刷基材の塗工面の側に配置される。
【0035】
ニップロール62は、印刷基材を挟持するための一対のロール62A,62Bを含み、印刷基材の搬送方向に関してプレコート乾燥部3と印刷部4との間に配置されている。一対のロール62A,62Bのうち、ロール62Aは印刷基材の非塗工面の側に配置され、ロール62Bは印刷基材の塗工面の側に配置される。
【0036】
ニップロール63は、印刷基材を挟持するための一対のロール63A,63Bを含み、印刷基材の搬送方向に関して印刷乾燥部5の下流側に配置されている。一対のロール63A,63Bのうち、ロール63Aは印刷基材の非塗工面の側に配置され、ロール63Bは印刷基材の塗工面の側に配置される。
【0037】
上述したニップロール61,62,63のうち、印刷基材の塗工面の側に配置されるロール61B,62B,63Bは、ゴムロールによって構成されている。ゴムロールのゴム材質は、ニトリルブタジエンラバー(NBR)とエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とをブレンドしたゴム(以下、単に「ブレンドゴム」とも称する。)である。
【0038】
他方、印刷基材の非塗工面の側に配置されるロール61A,62A,63Aは、硬質クロムメッキが施されたニッケルロールによって構成されている。なお、ニッケルロールには、下地ニッケルメッキ加工(処理)が施されるようにしてもよい。
【0039】
複数の搬送ロール7Rは、印刷基材の非塗工面の側に設けられた搬送ロールであり、硬質クロムメッキが施されたアルミロールによって構成されている。
【0040】
複数の搬送ロール8Rは、印刷基材の塗工面の側に設けられた搬送ロールであり、ロール61B,62B,63Bと同様にゴムロールによって構成されている。
【0041】
図柄検出装置9は、追い刷り印刷における見当合わせにおいて、印刷基材に印刷された図柄を検出するための装置である。
【0042】
なお、ゴムロールのゴム材質に用いられているブレンドゴムは、後述する腐食耐性試験(ドライテスト及びウェットテスト)を行った上で選定されたものである。
【0043】
腐食耐性試験では、図2に示すゴムロールに用いるゴム材質の6つの候補についてそれぞれテストピースを作製し、ドライテスト及びウェットテストを実施した。
【0044】
ドライテストでは、まず、(1)各テストピースにプライマー(プレコート液)を塗布した後、自然乾燥させ、ゴム表面にドライ皮膜(プレコート層)を作製する。次に、(2)各テストピースを室温で静置する。一定時間経過した後、(3)ドライ皮膜を水洗し、IPA(イソプロピルアルコール)及びウエスで除去した後、ゴム表面をレーザ顕微鏡で拡大観察する。観察後、上記(1)から(3)を繰り返す。
【0045】
ウェットテストでは、まず、(1)プライマー(プレコート液)が入ったガラス管の中に各テストピースを浸漬する。次に、(2)各テストピースを室温で静置する。一定時間経過した後、(3)ガラス管から各テストピースを取り出し水洗し、ゴム表面をレーザ顕微鏡で拡大観察する。観察後、上記(1)から(3)を繰り返す。
【0046】
以上のようなドライテスト及びウェットテストにより、ゴムロールに用いるゴム材質の6つの候補について図3に示す結果が得られた。これらの結果と、加工コスト及び実績等を総合的に評価した結果、ゴムロールに用いるゴム材質としてブレンドゴムが選定された。
【0047】
上述した実施の形態によれば、印刷基材の塗工面の側に設けられたロール61B,62B,63B及び搬送ロール8Rに、塩素化合物に対する腐食耐性を有するゴムロールが用いられている。
【0048】
そのため、プレコート加工された印刷基材が搬送されることによってロール61B,62B,63B、搬送ロール8Rに塩素化合物が付着したとしても、これらのロールが塩素化合物によって腐食するのを防止することが可能である。
【0049】
特に、上述した実施の形態によれば、上述した腐食耐性試験の結果や加工コスト及び実績等を勘案し、ゴムロールに用いるゴム材質として、ニトリルブタジエンラバー(NBR)とエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とをブレンドしたブレンドゴムを採用した。したがって、本実施の形態に係るゴムロールは、耐性、洗浄性、ニップ適性、コストの面で優れている。
【0050】
(変形例)
本発明に係るインクジェット印刷機及び搬送ロールは、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形、改良が可能である。
【0051】
例えば、上述した実施の形態では、ゴムロールに用いるゴム材質としてニトリルブタジエンラバー(NBR)とエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)とをブレンドしたブレンドゴムが用いられる場合を例示したが、これに限定されず、その他のゴムが用いられるようにしてもよい。
【0052】
具体的には、ゴムロールに用いるゴム材質としてエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)(図2の1、2番目参照)が用いられるようにしてもよい。図3に示すように、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)は、上述したブレンドゴムに比べると、耐性や洗浄性に関しては劣るものの、ニップ適性やコストに関しては同等の結果が得られている。
【0053】
また、別の態様として、グレイテック処理(明和ゴム工業株式会社)等のコーティング処理が施されたゴムロール(図2の4番目参照)が用いられるようにしてもよい。なお、グレイテック処理とは、ロール表面に滑り性を付与する処理の1つである。図3に示すように、グレイテック処理が施されたゴムロールは、高コストになるものの、耐性や洗浄性に関しては上述したブレンドゴムと同等の性能を有する。また、グレイテック処理が施されたゴムロールは、耐薬品性を備えている。
【0054】
また、別の態様として、フッ素樹脂(PFA)チューブによって被覆されたゴムロール(図2の5番目参照)が用いられるようにしてもよい。図3に示すように、PFAチューブは、耐性や洗浄性に関しては上述したブレンドゴムよりも優れている。ただし、PFAチューブは、高コストであることやチューブ硬度がゴム硬度となるため、自由度が低いという欠点もある。
【0055】
また、別の態様として、フッ素ゴム(図2の6番目参照)が用いられるようにしてもよく、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング施されたゴムロールが用いられるようにしてもよい。また、ゴムロールに用いるゴム材料としてブチルゴムが用いられるようにしてもよく、ニトリルブタジエンラバー(NBR)が用いられるようにしてもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態では、印刷基材の塗工面の側に設けられたロール61B,62B,63B及び搬送ロール8Rとしてゴムロールが用いられている場合を例示したが、これに限定されない。
【0057】
例えば、ロール61B,62B,63B及び搬送ロール8Rとして腐食防止手段が施された金属ロール、アルミロール等が用いられるようにしてもよい。
【0058】
具体的には、腐食防止手段として、セラミックコーティング、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング及びガラスコーティングのいずれか1つが施された金属ロール、アルミロール等が用いられるようにしてもよい。
【0059】
また、腐食防止手段として、テフロンチューブが装着された(テフロンチューブに挿通された)金属ロール、アルミロール等が用いられるようにしてもよい。
【0060】
また、腐食防止手段として、外周面を自動で清掃する自動清掃機(ワイピングなど)が当該外周面の近傍に設置された金属ロール、アルミロール等が用いられるようにしてもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態では、ニップロール61,62,63によって印刷基材が挟持された状態で搬送される場合を例示したが、これに限定されない。例えば、ニップロール61,62,63の代わりに、サクションロールを非塗工面の側に配置し、当該サクションロールを用いて印刷基材が挟持されることなく搬送されるようにしてもよい。サクションロールを非塗工面の側に配置すれば、印刷基材の塗工面がサクションロールに接触しないので、サクションロールの腐食を防止することができる。
【0062】
また、ニップロール61,62,63の代わりに非接触ガイドロールを配置し、非接触ガイドロールを用いて印刷基材が非接触状態で搬送されるようにしてもよい。非接触ガイドロールは、例えば、超音波ベアリングの曲面状のソノトロードなどで構成すればよい。ソノトロードとは、高周波振動することにより周囲のガスを圧縮拡散する部材である。
【0063】
また、上述した実施の形態では、バージンフィルムに印刷することを前提に、プレコート部2でプレコート液を塗布し、プレコート乾燥部3でプレコート液を乾燥させることでプレコート加工を行う場合を例示したが、これに限定されない。例えば、プレコート済みのフィルムに印刷する場合や、既に印刷された印刷基材に更に上から印刷する追い刷り印刷を行う場合には、上述したプレコート加工を省略することができる。
【0064】
また、上述した実施の形態では、印刷基材の塗工面の側に配置される全ロールがゴムロールによって構成される場合を例示したが、これに限定されない。印刷基材の塗工面の側に配置される一部のみ(例えば、ロール61B,62B,63Bのみ)がゴムロールによって構成されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係るインクジェット印刷機及び搬送ロールは、プレコート加工された印刷基材を搬送するのに好適である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット印刷機、2 プレコート部、3 プレコート乾燥部、4 印刷部、4H インクヘッド、5 印刷乾燥部、6R,7R,8R 搬送ロール、9 図柄検出装置、61,62,63 ニップロール、61A,62A,63A 非塗工面の側のロール、61B,62B,63B 塗工面の側のロール
図1
図2
図3