IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社小野測器の特許一覧

特開2022-82002自動車試験システム及び実路走行シミュレータ
<>
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図1
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図2
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図3
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図4
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図5
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図6
  • 特開-自動車試験システム及び実路走行シミュレータ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082002
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】自動車試験システム及び実路走行シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
G01M17/007 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193283
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(72)【発明者】
【氏名】長塩 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】新田 夕紀
(72)【発明者】
【氏名】前岨 康祐
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏治
(57)【要約】
【課題】ダイナモメータから自動車のドライブシャフトに負荷を加える自動車試験システムにおいて、実際の自動車の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力を正しく模擬する。
【解決手段】ダイナモメータ3は、回転可能に支持された自動車6のハブに連結され、当該ハブを介してドライブシャフト73にトルクを加える。ステアリング負荷装置5は、自動車6のハブとの連結を切り離された自動車6のタイロッド74に連結され、当該タイロッド74を介して自動車6のステアリングシステムに力を加える。試験制御システム1は、ドライブシャフト73に加わる負荷が、実際の自動車6の走行時の走行負荷相当の負荷となるようにダイナモメータ3を制御すると共に、ステアリングシステムに加わる力が、実際の自動車6の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力相当の力となるようにステアリング負荷装置5を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の試験に用いられる自動車試験システムであって、
前記自動車の車輪もしくはハブベアリングのハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるトルク負荷装置と、
前記自動車のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結され、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えるステアリング負荷装置とを備えたことを特徴とする自動車試験システム。
【請求項2】
請求項1記載の自動車試験システムであって、
前記トルク負荷装置は、回転可能に支持された自動車のハブベアリングのハブシャフトに連結され、当該ハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるダイナモメータであることを特徴とする自動車試験システム。
【請求項3】
請求項2記載の自動車試験システムであって、
前記ダイナモメータは、少なくとも前記自動車の駆動輪である車輪の各々に対応して複数設けられており、各ダイナモメータは、対応する車輪のハブベアリングのハブシャフトに連結され、当該ハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加え、
前記ステアリング負荷装置は、前記自動車の操舵対象の車輪の各々に対応して設けられており、各ステアリング負荷装置は、対応する車輪のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結され、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えることを特徴とする自動車試験システム。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の自動車試験システムであって、
前記ステアリング負荷装置は、前記連結対象物に連結する連結部と、当該連結部を少なくとも前記自動車の左右方向に移動するアクチュエータとを有することを特徴とする自動車試験システム。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載の自動車試験システムであって、
前記連結対象物は、タイロッドエンドを取り外した状態のタイロッドであることを特徴とする自動車試験システム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の自動車試験システムであって、
設定された試験条件が示す条件で前記自動車が実走行したときに前記ドライブシャフトに加わる負荷と同じ負荷が前記ドライブシャフトに加わるように前記トルク負荷装置が発生するトルクを制御すると共に、前記試験条件が示す条件で前記自動車が実走行したときに前記車輪からステアリングラックに加わる力が当該ステアリングラックに加わるようにステアリング負荷装置が発生する力を制御する制御部を有することを特徴とする自動車試験システム。
【請求項7】
自動車の実走行状態を模擬する実路走行シミュレータであって、
前記自動車の車輪もしくはハブベアリングのハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるトルク負荷装置と、
前記自動車のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結され、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えるステアリング負荷装置と、
前記トルク負荷装置が発生するトルクと前記ステアリング負荷装置が発生する力を、前記自動車の状態に応じて制御する制御部とを備えたことを特徴とする実路走行シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車を試験する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車を試験する技術としては、模擬ホイールと、模擬ホイールに装着したタイヤと、模擬ホイールのセンター部に設けた軸受によって回動可能に軸支された連結シャフトとを備えた模擬車輪を用いた試験装置を用いて自動車の試験を行う技術が知られている。この技術では、模擬車輪の連結シャフトの一端を自動車ハブベアリングに連結し、連結シャフトの他端をトルクセンサを介してダイナモメータに接続する、または、模擬車輪の連結シャフトの一端をトルクセンサを介して自動車ハブベアリングに連結し、連結シャフトの他端をダイナモメータに接続することにより、自動車を同じ場所に留めた状態で、ダイナモメータから自動車のドライブシャフトに負荷を加えながらトルクセンサでドライブシャフトから出力されるトルクを計測する(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、自動車を試験する技術としては、自動車から車輪を取り外した状態で、自動車のハブベアリングにダイナモメータを連結し、ダイナモメータでハブベアリングを床面に対して支持しながら、ダイナモメータから自動車のドライブシャフトに負荷を加える技術も知られている(たとえば、特許文献2)。
【0004】
この技術では、ダイナモメータはキャスタを介して床面上に支持されており、自動車のハンドルの操作によるハブベアリングの転舵角の変化に追従してダイナモメータは床面上を移動する。また、操舵に対する反力を模擬するために、床面には傾斜が、ハブベアリングの転舵角に応じた大きさの舵角中立位置方向の荷重がダイナモメータの自重によってハブベアリングに加わるように設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-101958号公報
【特許文献2】特許第6377311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した、ハブベアリングの転舵角の変化に追従してダイナモメータが移動する床面に傾斜を設けることにより操舵に対する反力を模擬する技術によれば、模擬される反力はダイナモメータの自重によるものであるため、自動車のステアリングシステムに加わる力は、実際の自動車の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力とはかけ離れたものとなってしまう。また、模擬される力は、転舵角とダイナモメータの自重と床の傾斜角によって一義的に定まるため、多様な状況について車輪から自動車のステアリングシステムに加わる力を模擬することもできない。
【0007】
本発明は、ダイナモメータから自動車のドライブシャフトに負荷を加えながら試験を行う自動車試験システムにおいて、実際の自動車の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力を正しく模擬することを課題とする。
【0008】
また、本発明は、実走行時の走行負荷やステアリング反力を模擬した実路走行シミュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題達成のために、本発明は、自動車の試験に用いられる自動車試験システムに、前記自動車の車輪もしくはハブベアリングのハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるトルク負荷装置と、前記自動車のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結され、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えるステアリング負荷装置とを備えたものである。
【0010】
この自動車試験システムにおいて、前記トルク負荷装置は、回転可能に支持された自動車のハブベアリングのハブシャフトに連結され、当該ハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるダイナモメータであってよい。
【0011】
この場合、前記ダイナモメータは、少なくとも前記自動車の駆動輪である車輪の各々に対応して複数設けられ、各ダイナモメータは、対応する車輪のハブベアリングのハブシャフトに連結され、当該ハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるものであることが好ましく、前記ステアリング負荷装置は、前記自動車の操舵対象の車輪の各々に対応して設けられ、各ステアリング負荷装置を、対応する車輪のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結し、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えることが好ましい。
【0012】
以上の自動車試験システムにおいて、前記ステアリング負荷装置は、前記連結対象物に連結する連結部と、当該連結部を少なくとも前記自動車の左右方向に移動するアクチュエータとを有するものであってよい。
【0013】
また、前記連結対象物は、タイロッドエンドを取り外した状態のタイロッドとしてよい。
また、以上の自動車試験システムには、設定された試験条件が示す条件で前記自動車が実走行したときに前記ドライブシャフトに加わる負荷と同じ負荷が前記ドライブシャフトに加わるように前記トルク負荷装置が発生するトルクを制御すると共に、前記試験条件が示す条件で前記自動車が実走行したときに前記車輪からステアリングラックに加わる力が当該ステアリングラックに加わるようにステアリング負荷装置が発生する力を制御する制御部を備えることが好ましい。
【0014】
以上のような自動車試験システムによれば、ハブベアリングとステアリングシステムの連結を切り離した状態で、ドライブシャフトへの負荷の付与と、ステアリングラックへの力の付与とを、車両における相互の干渉を排して独立に行うことができるので、トルク負荷装置によって実際の自動車の走行時にドライブシャフトに加わる負荷を精度よく模擬しつつ、ステアリング負荷装置によって当該実際の自動車の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力を正しく模擬することができる。
【0015】
また、併せて、本発明は、自動車の実走行状態を模擬する実路走行シミュレータとして、前記自動車の車輪もしくはハブベアリングのハブシャフトにトルクを加えることによりドライブシャフトに負荷を加えるトルク負荷装置と、前記自動車のハブベアリングを支持する当該自動車のナックルのナックルアームとの連結を解除した当該自動車のタイロッドまたはステアリングラックを連結対象物として、当該連結対象物に連結され、当該連結対象物に力を加えることにより当該自動車のステアリングラックに力を加えるステアリング負荷装置と、前記トルク負荷装置が発生するトルクと前記ステアリング負荷装置が発生する力を、前記自動車の状態に応じて制御する制御部とを備えた実路走行シミュレータを提供する。
【0016】
このような実路走行シミュレータによれば、実車を用いることでドライバにとってより現実感ある形態で、実走行時の走行負荷やステアリング反力を模擬したシミュレーションを実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ダイナモメータから自動車のドライブシャフトに負荷を加えながら試験を行う自動車試験システムにおいて、実際の自動車の走行時に車輪からステアリングシステムに加わる力を正しく模擬することができる。
【0018】
また、本発明によれば、実走行時の走行負荷やステアリング反力を模擬した実路走行シミュレータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る自動車試験システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る模擬車輪の構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るステアリング負荷装置を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係るステアリング負荷装置の作用を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るステアリング負荷装置の他の使用例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係るステアリング負荷装置の他の構成例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る試験制御システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1a、bに、本実施形態に係る自動車試験システムの構成を、試験対象の自動車が前輪操舵、前輪駆動の自動車である場合を例にとり示す。
図示するように、自動車試験システムは、試験制御システム1、センサ2、ダイナモメータ3、模擬車輪4、ステアリング負荷装置5を備えている。
試験制御システム1は、センサ2や自動車6のECUや自動車6が備える各種の車載センサから、エンジンの回転速度やギヤシフト状態やアクセル開度や操舵角や操舵トルクなどの自動車6の各種状態や、自動車6の周囲の温度などの環境の各種状態を取得しながら、自動車試験システム全体の動作の制御や、試験対象の自動車6に関わる各種計測を行う。
【0021】
次に、模擬車輪4とダイナモメータ3のセットは、自動車6の4つのハブベアリングの各々に対応して4セット設けられており、模擬車輪4は、車輪に代えて対応するハブベアリングに装着されてハブベアリングを回転可能に支持する。また、ダイナモメータ3は、対応するハブベアリングに連結されており、対応するハブベアリングにトルクを加えることができる。
【0022】
ここで、模擬車輪4の構成を図2を用いて説明する。
図2aは、標準状態の自動車6の駆動輪(前輪)のハブベアリングの周辺のようすを表したものである。なお、標準状態とは、自動車6が実走可能な本来の状態を指す。
図示するように、標準状態において、ハブベアリング71の外輪はナックル72に固定され、ナックル72を介して車体に対して連結されている。また、ハブベアリング71の外輪はハブシャフト(内輪)を回転可能に軸支しており、このハブシャフトに自動車6のドライブシャフト73が共に回動するように挿入されている。また、ハブシャフトの車体外側に設けられているフランジに固定されているハブボルトを用いて、車輪のホイールが、ハブベアリング71のハブシャフトに固定されており、車輪は、ドライブシャフト73、ハブベアリング71のハブシャフトと共に回動する。
【0023】
図2bは、このような自動車6の車輪を模擬車輪4に換装した試験実施時のようすを表している。
図示するように、模擬車輪4は、模擬ホイール41と、模擬ホイール41の外周側に装着したタイヤ42と、模擬ホイール41の中央部に回転可能に軸支した連結シャフト43とを有する。
【0024】
連結シャフト43の車体内側の端は、ハブボルトを用いてハブベアリング71のハブシャフトに固定され、連結シャフト43の車体外側の端は、カップリング31を用いて、ダイナモメータ3に接続されたシャフト32に連結される。
【0025】
ダイナモメータ3もしくは模擬車輪4は、ダイナモメータ3とハブベアリング71のハブシャフトとの間で作用するトルクを検出するトルクセンサ(図示省略)を備えており、試験制御システム1は、トルクセンサで検出したトルクを参照しつつ、ダイナモメータ3とハブベアリング71のハブシャフトとの間で作用するトルクを制御することができる。
【0026】
なお、図示は省略したが、試験実施時には、模擬車輪4は模擬車輪4に掛け回したベルト等により床面に固定する。
このような模擬車輪4によれば、自動車6のハブベアリング71を床面に対して支持しつつ、ハブベアリング71のハブシャフトやドライブシャフト73を回転させながら、ダイナモメータ3から所要の負荷をドライブシャフト73に与えることができる。
【0027】
自動車6の従輪(後輪)のハブベアリング71に対応する模擬車輪4の構成や、従輪のハブベアリング71と模擬車輪4やダイナモメータ3との連結関係は、従輪のハブベアリング71にはドライブシャフト73が連結されていないことを除き、図2bに示したものと同様であり、ダイナモメータ3によって、所要の回転速度で従輪(後輪)を回転させることができる。
【0028】
図1に戻り、ステアリング負荷装置5は、操舵の対象となる2つの前輪の各々に対応して設けられており、対応する前輪用のタイロッドに負荷を加える。
ここで、ステアリング負荷装置5の構成を図3を用いて説明する。
図3a1は、上方より見た標準状態における自動車6のハブベアリング71とタイロッド74の周辺のようすを表しており、図3a2は、自動車6前方より見た標準状態における自動車6のハブベアリング71とタイロッド74周辺のようすを表している。
【0029】
図示するように標準状態において、ハブベアリング71の外輪に固定されたナックル72は、所定の転舵軸廻りに揺動可能に、自動車6のストラットやロアアーム等に直接または間接的に連結されている。ナックル72のナックルアーム721には、自動車6のハンドルの操舵に伴い、左右方向に移動するタイロッド74が連結されている。そして、タイロッド74の左右方向の移動に伴い、ナックル72、ハブベアリング71、車輪が転舵軸廻りに転舵する。
【0030】
次に、図3bに示すように、ステアリング負荷装置5は、アクチュエータ51と、延長部材52と、連結部53を備えている。
アクチュエータ51は、当該アクチュエータ51が備える直動可能なシャフト/ロッドに力を加える装置であり、このようなアクチュエータ51としては、油圧シリンダやエアシリンダや電動シリンダ等のリニアアクチュエータを用いることができる。
【0031】
延長部材52は、アクチュエータ51のシャフトの先端から上方に延びる部材でありシャフトと共に直動する。連結部53は、延長部材52の上方端部に設けられており、自動車6のタイロッド74に連結可能な構造を備えている。
【0032】
そして、図3c1、c2は、このようなステアリング負荷装置5を自動車6のタイロッド74に連結した試験実施時のようすを表しており、図3c1は上方より見たようすを、図3c2は自動車6前方より見たようすを表している。
【0033】
図示するように、試験時には、自動車6のナックル72のナックルアーム721からタイロッド74を取り外して両者の連結を切り離す。また、図3a1、a2に示すようにタイロッド74の先端部分を構成する、一般的には交換等のためにネジ込み式に脱着可能に設けられているタイロッドエンド741を取り外し、タイロッドエンド741を取り外した後のタイロッド74にステアリング負荷装置5の連結部53を連結する。ここで、ステアリング負荷装置5は、アクチュエータ51から延長部材52、連結部53を介して、タイロッド74に自動車6の左右方向の力を加えられるように配置する。また、連結部53のタイロッド74への連結は、たとえば、タイロッド74先端部分にタイロッドエンド741取り付け用に設けられている雌ネジを利用して行う。
【0034】
図4aに、図3c1、c2に示したようにステアリング負荷装置5を、自動車6の左右の前輪用のタイロッド74に連結した状態における、自動車6のステアリングシステムとステアリング負荷装置5との関係を示す。
【0035】
自動車6のステアリングシステムにおいて、自動車6のハンドル81の回転に伴いステアリングコラム82が回転し、この回転運動がステアリングギアボックス83の内部でステアリングラックの左右方向への直動運動に変換される。ステアリングラックの左右端にはタイロッド74が連結されており、ステアリングラックの左右の移動に伴いタイロッド74も左右に移動する。
【0036】
そして、タイロッド74がナックルアーム721に連結されている標準状態においては、タイロッド74の左右の移動に伴いナックル72、ハブベアリング71、前輪が転舵軸廻りに回転し、この結果、ハンドル81の操舵に応じて前輪が転舵する。
【0037】
一方、試験時には、図4aに示すように、タイロッド74はナックルアーム721から外され、ステアリング負荷装置5に連結されるので、ハンドル81の操舵に応じて、ハブベアリング71や模擬車輪4が転舵することはない。また、図4a、b、cに示すように、タイロッド74やステアリングラックの移動を許容しつつ、ステアリング負荷装置5から自動車6のステアリングシステムに所要の力を加えることができる。
【0038】
ここで、ステアリング負荷装置5は、アクチュエータ51とタイロッド74との間で作用する力を検出するロードセルなどの荷重センサを備えており、試験制御システム1は、荷重センサで検出した力を参照しつつ、ステアリング負荷装置5から自動車6のステアリングシステムに加える力を制御することができる。
【0039】
以上では、タイロッドエンド741を取り外したタイロッド74に連結部53を連結したが、タイロッドエンド741を取り外さなくても、転舵に伴うナックルアーム721やナックル72とタイロッド74との干渉を回避できる場合には、タイロッドエンド741を装着したままのタイロッド74に連結部53を連結するようにしてよい。
【0040】
たとえば、図5a1の上方から見たようす、図5a2の自動車6前方から見たようすで示すように、転舵に伴うナックルアーム721やナックル72とタイロッド74との干渉が回避できるように、タイロッド74を自動車6の前後方向に傾けた上で、タイロッド74に連結部53を連結してもよい。
【0041】
または、図5bの自動車6前方から見たようすで示すように、転舵に伴うナックルアーム721やナックル72とタイロッド74との干渉が回避できるように、タイロッド74を自動車6の上下方向に傾けた上で、タイロッド74に連結部53を連結してもよい。
【0042】
一般的には、タイロッド74は、ステアリングギアボックス83内のステアリングラックにボールジョイントで連結されており、一定の範囲でステアリングラックに対する傾きを変更することができる。
【0043】
どのようにしても転舵に伴うナックルアーム721やナックル72とタイロッド74との干渉が回避できない場合には、タイロッド74をステアリングギアボックス83のステアリングラックから取り外し、ステアリング負荷装置5の連結部53をタイロッド74の代わりにステアリングラックに連結してもよい。
【0044】
以上では、ステアリング負荷装置5のアクチュエータ51としてリニアアクチュエータを用いた場合について示したが、おおよその直動運動を実現するアクチュエータであればリニアアクチュエータ以外のアクチュエータを用いることができる。
【0045】
たとえば、ロータリアクチュエータと、ロータリアクチュエータの回転運動を直線運動に変換する機構をアクチュエータ51として用いることができる。
図6a1は、このようなアクチュエータ51の例を、上方から見たものあり、このアクチュエータ51は、回転運動するロータリアクチュエータ91と、原動リンク92と2つの中間リンク93と従動リンク94よりなるリンク機構を備えており、図6a2、a3に示すように、従動リンク94の運動方向がおおよそ図の左右方向に規制されている場合には、ロータリアクチュエータ91によって原動リンク92が回転すると、従動リンク94がおおよそ図の左右方向に直線運動を行う。
【0046】
ここで、図6bの前方より見たようすで表すように、ロータリアクチュエータ91を用いたアクチュエータ51を備えたステアリング負荷装置5においては、従動リンク94の先端から上方に延びるように延長部材52を設け、延長部材52の上方端部に自動車6のタイロッド74に連結する連結部53を設ける。
【0047】
アクチュエータ51は、ロータリアクチュエータ91による原動リンク92の回転に伴い従動リンク94が、おおよそ自動車6の左右方向に移動するように配置されており、タイロッド74の運動方向が左右方向に規制されている場合、ロータリアクチュエータ91によって原動リンク92に回転方向の力を加えることにより、従動リンク94、延長部材52、連結部53を介してタイロッド74におおよそ自動車6の左右方向の力が加わる。なお、ボールジョイントによるステアリングラックとの連結のために、ナックルアーム721から切り離した状態では、タイロッド74の運動方向が充分に左右方向に規制されない場合等には、従動リンク94、もしくは、タイロッド74の運動方向を自動車6の左右方向におおよそ規制するガイドを設け、ロータリアクチュエータ91によって原動リンク92に回転方向の力を加えることにより、ロータリアクチュエータ91からタイロッド74におおよそ自動車6の左右方向の力が加わるようにしてよい。
【0048】
次に、試験制御システム1の構成を図7に示す。
図示するように、試験制御システム1は、シミュレーション制御部11と、計測部12とを有する。
シミュレーション制御部11は、試験条件設定部111、車両モデル112、ダイナモメータ制御部113、ステアリング負荷制御部114を備えている。
試験条件設定部111は、路面の状態や傾斜や気温や風速などの試験条件を車両モデル112に設定する。
車両モデル112は、試験対象の自動車6をモデル化したものであり、試験条件が示す各条件と、センサ2や自動車6から取得したエンジンの回転速度やギヤシフト状態やアクセル開度や操舵角や操舵トルクなどの自動車6の各種状態を入力として、自動車6の挙動や自動車6に加わる外力をシミュレーションし、試験条件が示す条件下において、自動車6の各種状態やその変化に対して自動車6の各前輪から各ドライブシャフト73に加わる負荷と、自動車6の各後輪の回転状態と、自動車6の各前輪からステアリングシステムに加わる力を算出する。
【0049】
そして、ダイナモメータ制御部113は、車両モデル112が算出した各前輪から各ドライブシャフト73に加わる負荷と同じ負荷が、各ドライブシャフト73に加わるように、各前輪のハブベアリング71に対して設けた各ダイナモメータ3で発生するトルクを、ダイナモメータ3が備えるトルクセンサ又はハブベアリングとダイナモメータ3との間に設けたトルクセンサで検出したトルクを参照しつつ制御する。また、ダイナモメータ制御部113は、車両モデル112が算出した各後輪の回転状態に整合する回転状態で各後輪のハブシャフトが回転するように、各後輪のハブベアリング71に対して設けた各ダイナモメータ3の回転速度を制御する。
【0050】
また、ステアリング負荷制御部114は、車両モデル112が算出した自動車6の各前輪からステアリングラックに加わる力と同じ力が、ステアリングラックに加わるように、各アクチュエータ51で発生する力を、ステアリング負荷装置5が備える荷重センサで検出した力を参照しつつ制御する。
【0051】
このようなシミュレーション制御部11の動作により、ダイナモメータ3を用いて自動車6の実際の走行時の走行負荷を模擬しつつ、アクチュエータ51を用いて、実際の自動車6の走行時の操舵に対する反力等の、各車輪からステアリングシステムに加わる力を正しく模擬することができる。
【0052】
次に、計測部12は、試験実行中、センサ2や自動車6から取得した自動車6の各種状態や、車両モデル112が示す挙動などを計測すると共に、計測結果に対する所要の解析などを行う。
【0053】
本実施形態に係る自動車試験システムによれば、自動車6の操舵が関わる各種試験を行うことができる。
たとえば、自動運転特性試験のように、車両が駆動された状態でのステアリング反力を考慮することができることから、目標値への追従・応答性から制御ロジックの検証(EPS等の検証も含む)やドラビリの検証、燃費/電費/排出ガスなどを、再現性良くより実路走行と近い状態で試験できるようになる。
【0054】
それ以外にも、定常円旋回試験、加速円旋回試験、旋回パワーオフ試験、手放し安定試験、レーンチェンジ試験、スラローム試験、直進安定性試験、周波数応答試験、横風安定性試験、Jターン試験、限界安定度試験-転覆試験、操舵力試験、その他各種試験(各種走行シーンにおける燃費/電費、ドライバビリティ、各種制御ロジック、排出ガスの検証、評価など)において、車両挙動をシミュレーションにより走行負荷やステアリング反力に反映することで、車両を固定した状態においても試験を実施することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上では、試験対象の自動車6が前輪操舵の自動車6である場合について示したが、試験対象の自動車6が後輪操舵の自動車6である場合には、ステアリング負荷装置5を後輪に対して設け、試験対象の自動車6が四輪操舵の自動車6である場合にはステアリング負荷装置5を前輪に加え後輪に対しても設ける。
【0056】
また、以上では、自動車6の車輪の全てに対してダイナモメータ3を設けたが、自動車6の従輪が停止していても自動車6の制御等に問題が生じない場合には、駆動輪に対してのみダイナモメータ3を設けてよい。
【0057】
また、操舵される車輪の全てに対してステアリング負荷装置5を設けるものとして説明したが、1つのステアリングラックに連結される2つの車輪の一方のみに対してステアリング負荷装置5を設け、この1つのステアリング負荷装置5によって、実走行時に、左右の車輪/タイロッドからステアリングラックに加えられる力を模擬してもよい。
【0058】
以上の実施形態では、ハブシャフトに連結したダイナモメータ3によって路面等の外部からの自動車6の車輪への作用を模擬する場合について説明したが、本実施形態のステアリング負荷装置5によってステアリングシステムに加わる力を模擬する構成は、車輪が載せ置かれるローラとローラに連結したダイナモメータとを備えたシャシーダイナモメータなどの、他の構成によって路面等の外部からの自動車6の車輪への作用を模擬する自動車試験システムに同様に適用できる。
【0059】
また、以上の自動車試験システムの実走行時の走行負荷やステアリングシステムに加わる力を模擬する構成を、実走行時のドライバの視野を模擬する視野模擬装置や実走行時にドライバに聞こえる音響を模擬する音響模擬装置や実走行時にドライバに加わる振動を模擬する振動模擬装置などと組み合わせて、自動車6を用いた実路走行シミュレータ(ドライビングシミュレータ)を構成することができる。このような実路走行シミュレータによれば、実車を用いて、実走行時の走行負荷やステアリング反力を模擬できるので、ドライバの自動車の仮想の運転体験をより現実感あるものにできる。
【符号の説明】
【0060】
1…試験制御システム、2…センサ、3…ダイナモメータ、4…模擬車輪、5…ステアリング負荷装置、6…自動車、11…シミュレーション制御部、12…計測部、31…カップリング、32…シャフト、41…模擬ホイール、42…タイヤ、43…連結シャフト、51…アクチュエータ、52…延長部材、53…連結部、71…ハブベアリング、72…ナックル、73…ドライブシャフト、74…タイロッド、81…ハンドル、82…ステアリングコラム、83…ステアリングギアボックス、91…ロータリアクチュエータ、92…原動リンク、93…中間リンク、94…従動リンク、111…試験条件設定部、112…車両モデル、113…ダイナモメータ制御部、114…ステアリング負荷制御部、721…ナックルアーム、741…タイロッドエンド。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7