(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082013
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】セリウム12ホウ化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 35/04 20060101AFI20220525BHJP
H01F 1/01 20060101ALI20220525BHJP
H01F 1/34 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C01B35/04 A
H01F1/01 170
H01F1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193300
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100111707
【弁理士】
【氏名又は名称】相川 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 文俊
【テーマコード(参考)】
5E040
5E041
【Fターム(参考)】
5E040AB10
5E040HB11
5E040NN06
5E041AB20
5E041HB11
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】これまで合成することができなかった多ホウ化セリウムであって、機能性材料としてポテンシャルの高い多ホウ化セリウムを生成する。
【解決手段】一般式がCeB
12で表すことができる結晶を含むCeB
n化合物であって、9<n<15であることを特徴とするホウ化セリウム化合物を提供する。多ホウ化セリウム化合物は、半導性、超伝導性、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、光吸収性、熱電性、又は硬質性のような種々の機能性を備えると考えられる。セリウムは重希土類元素よりもイオン半径などが大きく、これまで合成されてこなかった。そこで、超高圧及び高温条件下で、12ホウ化セリウムを含む多ホウ化セリウム化合物を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式がCeBnで表すことができる化合物であって、CeB12結晶を含み、9<n<15であることを特徴とするホウ化セリウム化合物。
【請求項2】
前記CeB12結晶中のCeが3を超える価数であることを特徴とする請求項1に記載のホウ化セリウム化合物。
【請求項3】
前記CeB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ化セリウム化合物。
【請求項4】
前記CeB12結晶において、格子定数a=7.54±0.4Åであってもよいことを特徴とする請求項3に記載のホウ化セリウム化合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の化合物を含むことを特徴とする磁性材料。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の化合物を含むことを特徴とする近藤絶縁体材料。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の化合物を含むことを特徴とする熱電材料。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の化合物を含むことを特徴とする超伝導材料。
【請求項9】
1種以上のCeBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がCeBn(9<n<15)で表され、CeB12結晶を含むことを特徴とする化合物の製造方法。
【請求項10】
超高圧が、15GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム12ホウ化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素は、ホウ素過剰ホウ化物を形成することが知られている。これらは、高温でも比較的安定で、難溶性であり、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料として注目されている。例えば、6ホウ化ランタンは、耐熱性があり、不活性及び難溶性化合物で、電極の放出のための低い仕事関数のために熱カソードに適しており、また、光吸収材として優れることが知られている(例えば、特許文献1)。また、ホウ化イットリウム(YB6、YB12、YB25、YB50、YB66)は、硬質の固体で高い融点を有することが知られており、特に、YB6は、比較的高い温度(8.4 K)で超電導を示し、LaB6と同じく陰極線管に適しているが、LaB6などの他の六ホウ化物と同じ構造を持つ。また、YB12の構造は立方晶で、その密度は3.44 g・cm-3であり、ピアソン記号はcF52、空間群はFm-3m(No.225)、格子定数はa=0.7468 nmであり、優れた熱電材料とされている。他の希土類ホウ化物も、その特性から、半導体、超伝導体、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性の材料並び光吸収材及び熱電材料(例えば、特許文献2)、更には、硬質材料(又は硬質物質)として用いられている(例えば、特許文献3)。
【0003】
しかるに、希土類元素の中のイットリウム、ランタン等の限られた元素のみにこれらの材料が依存するのは生産性を考えると好ましくはなく、希土類元素の希少性を考慮すれば、他の種類の希土類元素のホウ化物も利用できるようにすることが好ましい。希土類元素は、互いに共通性質があり、代替可能と考えられる。
【0004】
特に、ホウ素により骨格が形成される多ホウ化物結晶においては、結晶の硬さ等、性質が共通するため、含まれる希土類元素の種類により、機能性の高さが増すこともある。例えば、TbB12、DyB12、HoB12、ErB12、TmB12等では、反強磁性転移温度が、それぞれ、TN=19.2、16.5、7.5、6.7、3.4 Kとなっている(例えば、非特許文献1)。これらの希土類元素のイオン半径は、この順で小さくなっている。
【0005】
上述のように、希土類多ホウ化物の研究は、磁性体や電界放射電子源等の研究から古くから合成研究がおこなわれてきたが、ホウ素の融点(2180℃)が高いため高温の発生が可能なFZ(フロートゾーニング)法により、一気圧下で合成されてきた。希土類ホウ素化合物は、極めて硬い物質であるが、これはホウ素のカゴ状構造の極めて高い安定性に起因すると考えられる。しかしながら、希土類十二ホウ化物に関して、セリウム12ホウ化物(CeB
12)等の軽希土類化合物の合成はできたとの報告を本願の発明者らは聞いたことがなかった。その理由のひとつは、セリウム(Ce)等の原子・イオン半径が重希土類元素、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロニウム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イットリビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)に比べ、大きいことにあると考えられる(
図9)。ランタニド収縮により重い元素ほどイオン半径が小さくなっていくからと考えられる。5~10GPaの高圧力下でGdB
12及びSmB
12の合成が報告された(例えば、非特許文献2、非特許文献3)。RB
6やRB
12(Rは希土類元素)といったホウ素濃度の大きな多ホウ化物は、切頂立方体や切頂八面体のホウ素ケージ構造をとり、その中心に希土類元素が位置する構造となるため、大きな元素は取り入れにくいということが考えられる。PrB
12やCeB
12は、合成できていないが、多極子秩序が期待されたり、電子ホール対称性から近藤絶縁体が期待されたりしている(例えば、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。また、高圧をかけるにしても、どこまで圧力をかければこの物質が合成できるかという見通しがたっていない。特に、20GPa以上の超高圧は、装置において種々の問題を引き起こし易く、容易には達成できない。尚、特許文献4には、熱電子放射陰極がCeB
12を含むことを特徴とするX線検査装置が請求項にあるが、実施可能ではない。従って、実質的に記載されていない。また、YB
12において、Yの一部を他の元素(例えば、Ce、Pr、Nd)に置換することも試みられているが、Yの置換率はあまり大きくなく、CeB
12が製造されたとはとても言えない状態である(非特許文献9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-84385号公報
【特許文献2】特開2012-44201号公報
【特許文献3】特開2002-294384号公報
【特許文献4】特開2005-207945号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Handbook on the Physics and Chemistry of Rare Earths」, Vol. 38 2008年 Elsevier B.V. ISSN 0168-1273
【非特許文献2】「希土類ホウ化物の高圧合成」 高圧力の科学と技術 vol.26, No.3 216-224 (2016)
【非特許文献3】「High Pressure Syntheses of SmB2 and GdB12」 Journal of the Less-Common Metals, 56 (1977) 83-90
【非特許文献4】科学研究費助成事業 16K05431 研究成果報告書 「新規カゴ状希土類ホウ化物の超高圧合成と極限条件物性」(令和2年6月26日)
【非特許文献5】日本物理学会第74回年次大会(2019年) 「新規希土類12ホウ化物(Y,R)B12(R=Ce,Pr,Nd)の高圧合成と物性」
【非特許文献6】令和1年度物性研究所短期研究会 「高圧合成による新規材料開発と高圧下測定技術の集結」 2019年7月5日-7月6日 C8「高圧合成による近藤絶縁体置換合金の開発と物性」
【非特許文献7】日本物理学会秋季大会(2019)ポスターセッション 「軽希土類12ホウ化物(R=Ce~Gd)の超高圧合成による物質開発と基礎物性」
【非特許文献8】日本高圧力学会第60回高圧討論会 2019年10月23日 「近藤絶縁体YbB12の置換合金及び新規希土類12ホウ化物の作製と物性」
【非特許文献9】日本物理学会第74回年次大会(2019年) 「高圧合成による置換合金Y1-xRxB12(R=Ce,Pr,Nd)の作製の試み」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、希土類元素のホウ化物は、磁性材料、半導体、トポロジカル絶縁体、超伝導体材料のような電子材料、その他の電磁気材料等として期待されており、特に、CeB12は、近藤絶縁体のような電子材料として優れていると考えられる。しかるに、各希土類元素の融点の高さ及びサイズから、製造が容易ではなく、これまでサイズが小さいものから常圧、加圧条件(低)から、順に製造が実現されてきた。そして、プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)については、未だ作成したとの報告を聞いていない。これはこれまでにないより高い圧力が必要であるからであると考えられる。このような困難な条件を克服して、特に、近藤絶縁体として期待されるCeB12を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施例に係る多ホウ化物は、CeB
12を含んでよい。
図9にあるように、希土類元素のイオン(Ln
3+)のサイズは、配位数6又は9において、Ho、Dy、Tb、Gd、Eu、Sm、Pm、Nd、Prの順に大きくなる。サイズが小さいものは、その12ホウ化物は一気圧下でもフローティングゾーン法でも可能であるが、例えば、GdB
12、SmB
12では、5~10GPaの高圧力下での製造が報告された。従って、CeB
12では50GPaの圧力をかけて製造を行うことが考えられる。しかしながら、そのような圧力を実現し、かつ、必要な温度まで昇温することは、極めて困難である。
【0010】
そこで、少なくとも20GPa以上の超高圧をかけて、高温に昇温できる装置を用いてCeB12の製造を試みたところ、十二ホウ化セリウムの製造に成功した。この化合物は、CeB12で表現される結晶(以下、「CeB12結晶」)を含む化合物であってもよい。ホウ素原子による14面体構造(切頂八面体)内にCeが囲まれたものであってもよい。このようなCeB12結晶を含む化合物は、半導性、反磁性、常磁性、強磁性、反強磁性、光吸収性、熱電性、又は硬質性のような種々の機能性を備え得る。そのため、半導体材料、超伝導体材料、反磁性材料、常磁性材料、強磁性材料、反強磁性材料、光吸収性材料、熱電性材料、又は硬質性材料を構成することができると考えられる。これらの材料は、所定の処理を行い、賦形して、それぞれの素子を形成することができる。
【0011】
セリウムホウ化物としては、CeB4及びCeB6がそれぞれ正方晶及び立方晶として知られる。一方、想定されるCeB12結晶は、ホウ素のカゴ状構造に特徴があり、種々の機能を有する硬質材料として期待されているが、本発明者らの知る限りにおいて、CeB12結晶は、本発明者らを除き、未だ合成に至っていない。また、他の希土類ホウ化物から類推されるこのカゴ状構造以外の構造を有するCeBn結晶(n>6、例えば、n=12)は、より好ましい機能を備えることも期待される。CeBn化合物は、これらの可能性のある結晶構造を有するものを含んでよい。
【0012】
ホウ素原子による14面体構造は、硬質であり、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロニウム(Dy)、ホロニウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イットリビウム(Yb)、又はルテチウム(Lu)に比べ、Ceは原子・イオン半径が大きい。例えば、Shanon (1976) [(R.D.Shanon, Acta Cryst. A32, 751 (1976))]において開示される原子半径及び3価のイオン半径をプロットすると、
図9のようになる。特に、イオン半径は、いわゆるランタニド収縮により、原子番号が大きくなると、小さくなる傾向があることが分かる。従って、CeB
12で表現される結晶において、セリウム(Ce)の場合は、その中に入るのが特に困難であると考えられる。CeB
12といったホウ素濃度の大きな多ホウ化物結晶は、切頂八面体のホウ素ケージ構造をとり、その中心にCeが位置する構造となるためである。
【0013】
重希土類元素に比べて、サイズの大きな軽希土類元素をホウ素ケージ構造に取り込むためには、原子サイズを縮めた状態での合成法が適していると考えられる。しかしながら、高圧下では、原子サイズだけでなく、ホウ素ケージ構造もサイズを縮めるとも考えられる。一方、一気圧での合成法と同様に、ホウ化物合成はホウ素の融点が高いので、高圧下での合成でも、より高い温度が求められる。そこで、高圧下でレーザー加熱を組み合わせることにより、高圧高温状態を発生させることでセリウム多ホウ化物の合成を行った。
【0014】
より具体的には、以下のものを提供することができる。
一般式がCeBnで表すことができる化合物であって、CeB12結晶を含み、9<n<15であることを特徴とするホウ化セリウム化合物。
前記CeB12結晶中のCeが3を超える価数であることを特徴とする上述するホウ化セリウム化合物。
前記CeB12結晶の結晶構造は、Fm-3mの空間群に属する立方晶構造であってもよく、空間群番号は225であってもよいことを特徴とする上述するいずれかのホウ化セリウム化合物。
前記CeB12結晶において、格子定数a=7.54±0.4Åであってもよいことを特徴とする上述するいずれかのホウ化セリウム化合物。
上述するいずれかのホウ化セリウム化合物を含むことを特徴とする磁性材料。
上述するいずれかのホウ化セリウム化合物を含むことを特徴とする近藤絶縁体材料。
上述するいずれかのホウ化セリウム化合物を含むことを特徴とする熱電材料。
上述するいずれかのホウ化セリウム化合物を含むことを特徴とする超伝導材料。
1種以上のCeBm化合物(0<m≦6)及びホウ素を所定の比率で混合した原料を、超高圧下で、2000K以上の温度に加熱する、一般式がCeBn(9<n<15)で表され、CeB12結晶を含むことを特徴とする化合物(特に、ホウ化セリウム化合物)の製造方法。
超高圧が、15GPa以上の圧力であってもよいことを特徴とする上述する化合物の製造方法。
ダイヤモンドアンビルセルを用いレーザー加熱することを特徴とする上述するいずれかの化合物の製造方法。
ここで、上述するnについて、11<nであってもよく、n<13であってもよく、11<n<13と、表現されてもよい。また、3を超える価数とは、Ce3+及びCe4+が混在する状態を意味してもよい。特に、両者を合わせたものに対するCe4+の相対モル%が、10%以上が好ましく、20%以上が好ましく、40%以上が好ましく、又は50%以上が好ましい。100%以下若しくは100%未満が好ましい。価数は、具体的には、3.1以上、3.2以上、又は3.3以上であってもよい。また、4以下若しくは4未満であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
超高圧下(例えば、15GPa以上)でセリウム多ホウ化物の原料となり得る化合物を閉じ込め、更にレーザーにより高温に加熱することにより、高温(例えば、2000~3000K)の条件下で、セリウム多ホウ化物を合成することができる。合成されるセリウム多ホウ化物は、常圧常温下で取り出しても安定である。そのセリウム多ホウ化物において、主にCeB12結晶が含まれ得る。これらのCeB12結晶はいずれもこれまでに報告がなされていない新規な結晶であり、化合物でもある。このようにセリウム多ホウ化物は、常圧常温下で安定であるので、種々の形態でその機能を活用する分野の素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例において、CeB
12の結晶構造を示す模式図である。
【
図2】ダイヤモンドアンビルを備えたダイヤモンドアンビルセルの全体を示す模式図である。
【
図3】
図2のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。
【
図4】X線構造解析のための測定系を示す図である。
【
図5】本発明の実施例において、実験例2の試料のX線回折結果を示す図である。
【
図6】X線吸収端近傍構造(X-ray Absorption Near Edge Structure)の測定系を概説する図である。
【
図8】本願の発明者らが合成してきた希土類12ホウ化物結晶のa軸サイズをプロットしたグラフである。
【
図9】La系希土類元素の3価のイオン半径(配位数6及び配位数9の場合)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0018】
これまで、希土類ホウ化物は、例えば、希土類酸化物粉末及びホウ素粉末を所定の割合で混合し、圧粉し、真空中又は不活性ガス中で加熱することにより、得られてきた。この時の化学反応は、次の式が期待される。ここで、Rは希土類元素である。
R2O3+(2n+3)B → 2RBn+3BO↑
このときnを変化させながら、希土類ホウ化物を製造することができる。しかしながら、nが大きいと、充分に反応しないこともある。そこで、ここでは、CeB6をまず製造する。反応式は以下の通りである。3価のCe酸化物も利用可能であるが、ここでは、4価のCe酸化物を用いる。
CeO2+8B → CeB6+2BO↑
【0019】
具体的には、CeO2粉末と、B粉末とを当量秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌・混合を行い、混合粉末をラバープレス等で圧粉し、真空や不活性ガス等の非酸化性雰囲気下で、1000℃以上の温度で所定時間焼成する。そして、反応後のCeB6を粉砕し、粉末化する。この時、不純物が入っている場合、未反応の反応物が残っている場合は、塩酸等で洗浄する。そして、以下の式に従って秤量し、B粉末と混合することでCeB12合成のための混合粉末原料とする。
CeB6+6B → CeB12
混合粉末原料は、ラバープレス等で圧粉し、非酸化性雰囲気下で、1000℃以上の温度で所定時間焼成する。この時の圧力等の条件は、後述する。得られた反応後のCeB12は、X線回折解析で単一相であることを確認できる。
尚、CeB6の代わりに或いは加えてCeB4を用いることもできる。CeB4は例えば以下の式に合わせて原料を混合し、圧粉し、焼成して得ることも可能である。
CeO2+6B → CeB4+2BO↑
そして、CeB12は例えば以下の式に合わせて原料を混合し、圧粉し、同様に焼成して得ることも可能である。
CeB4+8B → CeB12
【0020】
上述するように、高圧下でなければ、目的のホウ化物は得られないので、超高圧と高温を両立させる方法及び装置を用いる。即ち、所定の量のCeB6粉末及びB粉末の原料粉末を超高圧下で高温にすることにより、CeBn(n=12)化合物を製造することに成功した。製造された12ホウ化セリウムは、これまで報告されていない化合物(結晶構造を含む)で、本願発明者らが新規に合成に成功した化合物であり、構成成分及びその結晶構造から、新規結晶化合物であることが確認された。
【0021】
本発明の実施例において、
図1は、12ホウ化セリウム(CeB
12)の結晶構造を図解する。本発明者らが合成したCeB
12結晶について行った単結晶構造解析によれば、CeB
12結晶は、立方晶系に属し、Fm-3m(ここで、“-”は、3のオーバーラインを示す)空間群(International Talbes for Crystallographyの225番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータ及び原子座標位置を占める。この結晶構造は、切頂八面体となる14面体の24個の頂点にBが配置された14面体構造の中にCeが入っているような構造となっている。表1において、格子定数aは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を示す。格子定数は、a=7.54±0.4Å(又は±5%)の範囲内であってもよい。単位格子の軸間の角度α、β、γは、それぞれ、90度±4度の範囲内あってもよい。
【0022】
【0023】
CeB12で示される結晶(CeB12結晶)は、構成成分であるCeとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることによって格子定数が変化し得るが、結晶構造と、原子が占めるサイト及びその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはない。ここで、CeとBとの比率が変わったり、他の元素で置き換わったりすることにより、その一般式が、CeB12±dEe(d及びeは0以上の実数、Eは置換する元素)であってもよい。本発明の実施例において、対象となる物質のX線回折等の結果をFm-3mの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたCe-Bの化学結合の長さが、表1に示すCeB12結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と判定できる。化学結合の長さが±5%を超えると、化学結合が切れて別の結晶となり得る。別の簡易的な判定方法として、CeB12結晶のX線回折の主要ピーク(例えば、回折強度の強い10本程度)と、対象となる物質のそれとを比較してもよい。本発明の実施例において、ホウ化セリウム化合物は、CeB12結晶を含んでもよい。CeB12結晶が主成分であってもよい。
【0024】
このような観点から、本発明の実施例のホウ化セリウム化合物において、CeB12で示される結晶は、CeB12それ自身、CeとBとのモル比がその当量からずれているもの(即ち、Ceリッチ又はBリッチ)、又は、Ce及びBの一部が他の元素(例えば、C、N、O、H等)で置き換わったものも含むことができる。本発明の実施例において、CeB12で示される結晶は、表1に示すように、立方晶系の結晶であり、空間群Fm-3mの対称性を有するが、格子定数aは、a=7.54±0.4Å(又は±5%)の範囲内であってもよい。この範囲内であれば、結晶が安定であると考えられる。
【0025】
本発明の実施例において、ホウ化セリウム化合物に含まれる12ホウ化セリウム(CeB12)化合物は、CeB12結晶を主成分としてよい。12ホウ化セリウム(CeB12)化合物は、CeB12結晶を70重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは、90重量%以上含有する。更に、好ましくは、95重量%以上含有する。
【0026】
本発明の実施例において、12ホウ化セリウム化合物は、CeB12で示される結晶から構成されてよいが、CeB12で示される結晶以外に、CeBx(9<x<12又は12<x<15)で示されるホウ化セリウム結晶若しくは化合物を含有してもよい。また、CeBxにおいて、11<x<12又は12<x<13であってもよい。このようなCeBxの含有量は、0重量%以上であってもよい。また、5重量%未満であってもよい。
【0027】
本発明の実施例において、12ホウ化セリウム化合物は、好ましくは、Ceに対するBのモル比が9以上であってもよく、15以下であってもよい。また、Ceに対するBのモル比が11以上であってもよく、13以下であってもよい。また、Ceに対するBのモル比が11.5以上であってもよく、12.5以下であってもよい。
【0028】
本発明の実施例において、CeBy化合物を製造する例示的な方法を説明する。
【0029】
本発明の実施例において、原料粉末として、Ce単体及び/又はCeを含む酸化物、炭酸塩等の化合物及びB単体(例えば、結晶性ホウ素)及び/又はBの化合物を利用することができる。また、一旦、低ホウ化セリウムを調製し、それを原料とする。原料粉末は、100nm以上500μm以下の粒径を有する粉末が好ましい。これにより、反応を更に促進させることができる。好ましくは、200nm以上200μm以下の粒径を有する粉末であってもよい。粒径は、マイクロトラックやレーザー散乱法によって測定される体積基準のメディアン径(d50)としてもよい。原料粉末は、12ホウ化セリウム(CeB12)を合成する反応式に従う当量を秤量し、乳鉢等により撹拌混合してもよい。この混合原料粉末は、CIP等により圧粉してもよく、そのまま次の高温高圧処理を行ってもよい。
【0030】
本発明の実施例において、製造工程で、出発原料に低ホウ化セリウム(CeBm(m≦6))及びホウ素を用いてもよい。例えば、CeB6(例えば、自作、或いは、株式会社高純度化学研究所社、12008-02-5、CeB6)を用いることができる。本願発明者らは、切頂八面体のホウ素ケージ構造は非常に強固であり、高温及び超高圧条件下では、ホウ素ケージ構造を構成するホウ素相互の結合長の変化が、少なくとも相対的に小さいことを見出した。そのため、同条件下で、セリウム原子又はイオンが、相対的に小さくなり、ホウ素ケージ構造内に取り込まれるため、高ホウ化セリウム化合物が生成することを見出した。
【0031】
高温高圧処理の時間は、原料の量や用いる装置によって異なるが、例示的には、5分以上24時間以下の時間であってもよい。このような処理工程は、例えば、ダイヤモンドアンビルセル、マルチアンビル装置、及びベルト型高圧装置からなる群から選択される少なくとも1種類の装置を用いた高温高圧処理法又は衝撃圧縮法によって行われてもよい。これらの方法は、例えば、2000K以上、2200K以上、又は2500K以上の温度の温度範囲を実現できるものであってよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、3300K以下、3100K以下、又は3000K以下の温度範囲を実現できるものであってもよい。また、10GPa以上、20GPa以上、30GPa以上、又は40GPa以上の圧力範囲を実現できるものであってもよい。上限は特にないが、工業的観点から若しくは生産性から、100GPa以下、80GPa以下、又は60GPa以下の圧力範囲を実現できるものであってもよい。但し、所定の温度及び圧力が達成される限りは、上述する装置に限定される必要はない。
【0032】
ここで、原料粉末をダイヤモンドアンビルセルに充填し、処理する場合を説明する。
図2は、ダイヤモンドアンビルセル(Diamond Anvil Cell(DAC))の全体を示す模式図である。
図3は、
図2のダイヤモンドアンビルセルの細部を示す模式図である。ダイヤモンドアンビルセルは既存のものを使用でき、
図2に示すように、底面が平らになるよう研磨されたダイヤモンドアンビル10が、底面を対向した状態で設置されており、この底面に圧力が印加される。
図3に示すように、12ホウ化セリウム(CeB
12)の原料となる原料粉末を、ガスケット12とダイヤモンドアンビルとで保持する。高圧部には、塩化ナトリウム14が充填されており、内部にセットされる加熱部分16に温度及び圧力を伝達する媒体として機能する。特に、反応試料(原料)18が青/黒等の有色に対して、塩化ナトリウムは無色であるので、レーザービーム20からのエネルギーは、もっぱら反応試料又は反応試料を包含するキャプセル等による加熱部分に集中する。そのため高温を局所に達成し易い。
【0033】
次いで、ダイヤモンドアンビルセルに上述の圧力を印加し、ファイバーレーザー等のレーザービームを原料粉末に照射すればよい。加熱温度は、色温度から判断され、レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分~数十分等であってもよい。上述の処理を
図2や
図3に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であり、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。本発明の実施例においては、加熱前(処理前)の圧力と加熱後(処理後)の圧力とが大きく異なり得ることが分かっており、これらの圧力がそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することにより、上述の12ホウ化セリウム(CeB
12)結晶を有する多ホウ化セリウムを製造することができる。更に好ましくは、圧力範囲は、処理前において、25GPa以上50GPa以下の範囲であってよく、処理後において、20GPa以上55GPa以下の範囲を満たしてもよい。加熱前の圧力と加熱後の圧力とがそれぞれ上述の範囲を満たすように調整することができる。このようにして、上述の12ホウ化セリウム(CeB
12)結晶を含む多ホウ化セリウムを主成分とする化合物を製造することができる。尚、圧力範囲として、例えば、45GPa以下、40GPa以下、35GPa以下、又は30GPa以下としてもよい場合がある。工業的には、低圧の方がコスト的に又は生産効率的に好ましい。
【0034】
また、上述の処理を
図2や
図3に示すダイヤモンドアンビルセル又はマルチアンビル装置を用いた高温高圧処理法によって行う場合、好ましくは、温度範囲は、1000K(727℃)以上4000K(3727℃)以下の温度範囲であってもよい。この範囲内において、上述の12ホウ化セリウム(CeB
12)結晶を含む多ホウ化セリウムを製造することができる。更に好ましくは、温度範囲は、1500K(1227℃)以上3500K(3227℃)以下の温度範囲であってもよい。また、圧力範囲は、処理前において、20GPa以上55GPa以下の範囲であってもよい。また、処理後において、15GPa以上60GPa以下の範囲を満たしてもよい。このような条件を選択することができる。このようにして、上述の12ホウ化セリウム(CeB
12)結晶を含む多ホウ化セリウムを主成分とする化合物を高収率で製造することができる。
【0035】
本発明の実施例について、以下に示す例によって更に詳しく説明するが、これはあくまでも本発明の実施例において、容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
[使用した原料]
用いた原料粉末は、酸化セリウム粉末(CeO2、純度:99.99%、平均粒径:8μm、株式会社レアメタリック製)及びホウ素粉末(形態:crystalline、純度:99%、株式会社高純度化学研究所製)であった。
【0037】
[CeB6の調製]
CeB6は、次のような反応式により生成されてよい。後述するように、このような反応は、反応効率が高く、どちらかをより過剰に混合しなくてもよい。
CeO2+8B → CeB6+2BO↑
上記酸化セリウム粉末及びホウ素粉末を、上記式の当量に合わせて秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。この混合粉末を、φ8mm、長さ5~10cmのイマムラのラテックススリーブに棒状に詰め、株式会社日機装製CIPにより、2500気圧で粉末試料の圧粉体を形成した。この圧粉体をラバーから取り出し、高周波誘導加熱炉(株式会社セレック製の真空炉。加熱用電源:トランジスタインバータ方式(200kHz、20kW、株式会社日新技研製)。)内に配置した石英管中に加熱用の原料棒+BN筒+カーボンるつぼ+カーボンフェルトを挿入した。真空雰囲気下で、約1700℃の温度で1時間誘導加熱を行った。その後、室温近くまで冷却し、大気圧下で原料棒を取り出した。この原料棒を粉砕して、以下のように調べると、多結晶試料が生成したことが、粉末のX線回折解析により分かった。尚、未反応の酸化セリウム等が残っていた場合は、試料粉末は塩酸で1日洗浄して除去してもよい。或いは、イメージ炉に焼成後の原料棒をFZ法により帯域溶融を行い純良化することもできる。本実験例では、何れも未反応の酸化セリウムは残っていなかったことをX線回折解析により確認した。
【0038】
[CeB
12の調製(実験例1~13)]
上述のCeB
6粉末及びホウ素粉末(フルウチ化学株式会社製、純度:99%)を以下の反応式の当量に合わせて秤量し、自動乳鉢で30分間、攪拌混合を行った。
CeB
6+6B → CeB
12
この混合粉末を、レニウムガスケット中に充填し、
図3に示すレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルの試料部(加熱部分)にセットした。ダイヤモンドアンビルセルの処理前(加熱前)の圧力を印加し、100Wのファイバーレーザーからレーザービームを原料粉末に照射した。なお、レーザービームは、20μmφに集光されており、原料粉末全体をスキャンし、表2に示す温度範囲内とした。なお、加熱温度は色温度から判断した。レーザーの照射時間は、温度が一定になってから数分(5分~10分)であった。また、処理後(加熱後)の圧力が表2に示す圧力となるよう制御した。なお、圧力値は、DAC高圧観察実験の場合はダイヤモンドアンビルのラマン散乱スペクトルと試料に混合した塩化ナトリウムのX線回折線を用いて測定した。
【0039】
図4は、X線構造解析のための測定系を示す図である。処理後の試料について、
図4に示すように、ダイヤモンドアンビルセルを減圧することなくそのまま測定系セルに使用し、X線構造解析を行った。例えば、放射光(KEK Photon Factory)からのX線をシリコンで単色化し(λ=0.61210Å)、X線回折パターンを得た。得られたX線回折パターンからX線構造解析を行い、格子定数等結晶構造パラメータを求めた。
【0040】
次いで、処理後の試料について、ダイヤモンドアンビルセルを1気圧に減圧し、セルから試料を取り出し、X線構造解析を行い、格子定数等の結晶構造パラメータを求めた。このようにして、表2の例1~13の試料を準備した。例1及び例2において、例1にある圧力(34.7GPa)とレーザー加熱温度(2000-3000K)により得られた試料の高圧下でのX線構造解析から得たaの長さは、7.2241(11)Åであったが、例1の試料を取り出して1気圧下で得たaの長さは、7.5412(3)Åであった。同様なことが、例3及び例4、例8及び例9、例10及び例11、例12及び例13において得られた。高圧下では、aの長さは、例1及び例2並びに例3及び例4において、約4.2%及び約4.7%縮んだことになる。体積も同様に縮んだ。このため、超高圧下で安定と考えられるCeB12は、常圧下でも安定であることが分かる。製造工程の圧力は、例1、例3、例5-8、例10、及び例12において、34.7GPa、30.4GPa、35.5GPa、30.1GPa、28.2GPa、29.8GPa、及び26.5GPaであり、20GPa以上、25GPa以上、又は30GPa以上が好ましいと考えられる。製造温度は、2000-3000K(1727-2727℃)の範囲であり、1500K以上、1750K以上、又は2000K以上が好ましいと考えられる。
【0041】
【0042】
例2で得られた試料のXRDパターンを
図5に示す。特筆すべきピークには、帰属する結晶構造及び面指数が記載されている。NaClの強いピークは、混入した媒体である塩化ナトリウムに帰属する。特筆すべきピークは全てCeB
12に帰属する。従って、第2成分としてのセリウム多ホウ化物は検出されなかったことがわかる。但し、第2成分が含まれる場合は、既知の方法で分離も可能である。得られた例7のCeB
12及びその原料であるCeB
6の体積弾性率を測定し、それぞれ、204 GPa及び172 GPaという結果を得た。測定は、高輝度光科学研究センターSPring-8 BL10XUで行った。これにより、従来のホウ化セリウムより剛性の高いホウ化セリウムを得ることができた。剛性の高い化合物は、硬度等の機械的性質に優れ、また、フォノンの伝達や熱の伝達にも優れることが期待される。そして、本発明の実施例にかかるCeB
12結晶を含む化合物は、音響用材料、センサ材料、伝熱材料としても使用され得るかもしれない。
【0043】
以上より、原料粉末としてCeを含む化合物及びホウ素を用い、2000K以上の温度範囲で、25GPa以上の圧力範囲で処理することによって、少なくともCeB
12結晶を含む多ホウ化セリウム化合物が製造されたことが分かる。このことは、従来技術からすると、意外に感じられる。即ち、
図9に示すように、Ceのサイズは、他の希土類元素よりも大きいからである。
【0044】
また、得られたCeB12結晶は、表1に記載の結晶パラメータを有するが、これはこれまで報告されていない新規な結晶であり、多ホウ化セリウム化合物を示している。切頂立方体や切頂八面体のホウ素ケージ構造は非常に強固であり、それ自身は希土類元素に比べて縮みにくいとされる。そのため、高圧下では相対的に希土類元素のサイズが小さくなるため、12ホウ化物の合成が可能になっただけではないかもしれない。
【0045】
そこで、X線吸収を利用したX線吸収分光法によるX線吸収微細構造解析をCe周りについて行った。具体的には、
図6に模式的に示すようなXAFS(Extended X-ray Absorption Fine Structure)用の装置を用いて、XANES(X-ray Absorption Near Edge Structure)解析を行った。二結晶分光器により単色化したX線をイオンチャンバーに通して、その強度等をモニタしつつ、試料に入射X線として照射した。試料を透過したX線をイオンチャンバーに通して更にモニタし、分光結果を得た。具体的には、あいちシンクロトロン光センターBL11S2で行った。XANESでは、スペクトルの形状を見て解析されるが、例えば、カチオンの原子価数が大きい程、高エネルギー側に吸収単がシフトすると考えられる。そのため、一般に、原子の化学状態(電子状態)、配位の対称性等が解析できるとされる。
図7は、本実験例1、CeO
2、CeB
6のスペクトルを示すグラフである。Ceの4価として、CeO
2が、Ceの3価として、CeB
6が示されており、本実験例1では、その中間に位置することが分かる。即ち、本実験例1のCeB
12は、3価と4価の間にあることが分かる。単純ピーク位置を読めば、それぞれ5727.2eV、5726.2eV、5731.2eVであるので、仮に比例計算でその割合が計算できるとすれば、CeB
12のCeは、20%の4価と、80%の3価からなるものと考えることもできる。
【0046】
以上より、Ceの価数が3より大きいことが分かった。通常、カチオンの価数が大きいと、イオン半径は小さくなる。Ceの価数が3より大きいので、CeB12のCeはイオン半径が小さいことが予想される。そして、仮にイオン半径が小さいとするならば、B元素により強固なケージ構造に予想より入り易いものと考えられる。従って、上述した意外さは、このことによって説明できると考えられる。逆に言えば、比較的低い超高圧条件で製造されるCeB12は、Ceの価数が3より大きくなり易くてもよい。また、含まれるCeの価数が3より大きいと、比較的低い超高圧条件でCeB12が製造され易い。
【0047】
図8は、これまで本願の発明者等が、製造してきた希土類12ホウ化物(立方晶)の格子定数を原子番号の大きいものから順に並べてプロットしたものである。このグラフのLuからPr迄は、右肩上がりに上昇しており、
図9の3価のイオン半径の上昇と同じ傾向を示す。しかしながら、CeB
12においては、NdB
12やPrB
12よりも格子定数が小さく、CeB
12におけるCeイオンの半径が小さいこと(価数が3よりも大きいことによるかもしれないこと)を示唆している。
【0048】
このように、本願の発明の実施例においては、Ceの価数を3より大きくすることにより、予想よりも低圧(例えば、40GPa以下、35GPa以下、又は30GPa以下)であっても、CeB12を製造できることを示すことができた。また、製造されたCeB12は、CeB6とは異なり、Ceの価数が3より大きいものであることが分かった。即ち、Ceの価数が3と4の間の状態にあるCeB12を新規に製造し、その構造を特定することに成功した。そして、それは、立方晶という結晶構造において、格子定数aが、7.58Å以下、7.57Å以下、7.56Å以下、又は7.55Å以下のCeB12を新規に製造し、その構造を特定することに成功したことになる。
【0049】
また、B元素により強固なケージ構造を取り、その中心に希土類元素が位置する構造を容易に実現するためには、希土類元素が共通して有するとされる3価よりも高い価数と少なくとも部分的になるようにする、希土類ホウ化物の比較的低圧での製造方法を提供できる。或いは、3価よりも高い価数となり易い希土類元素を用いた希土類ホウ化物の比較的低圧での製造方法を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の実施例において、少なくともCeB12結晶を含む多ホウ化セリウム化合物は、磁性材料として、電子材料として、他の希土類多ホウ化物と同様使用することができる。また、価数が異なることにより、特異な性質が予想され、スイッチング材料としても利用できるかもしれない。また、少なくともCeB12結晶を含む多ホウ化セリウム化合物は、光吸収材としてガラスに使用され得る。更に、熱電特質から、熱電材料や半導体としての応用が期待される。また、B元素により強固なケージ構造を取り、硬質物質として硬質材料に適用され得る。