(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082014
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】シートカバー、シートカバーの縫製方法及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20220525BHJP
A47C 31/11 20060101ALI20220525BHJP
B68G 7/10 20060101ALI20220525BHJP
B68G 7/05 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B60N2/58
A47C31/11 Z
A47C31/11 A
B68G7/10
B68G7/05 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193301
(22)【出願日】2020-11-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 健治
(72)【発明者】
【氏名】須永 敏明
(72)【発明者】
【氏名】影山 敦士
(72)【発明者】
【氏名】中村 大助
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087DE10
(57)【要約】
【課題】縫い代部を容易に横倒させることができ、縫製ラインの蛇行を抑制することが可能なシートカバー、シートカバーの縫製方法及び車両用シートを得る。
【解決手段】ヘッドレストカバー10は、複数枚の表皮片24及び布材32を備えている。複数枚の表皮片24及び布材32の縫製部を、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dを互いに縫製する縫製部28と前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dに布材32を縫製する縫製部30に分け、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dを縫製した縫製部28を起点として縫い代部26を横倒させることで縫い代部26を横倒させる起点となる縫製部28の剛性を分散させ、縫い代部26を横倒させる際の抵抗を小さくして当該縫い代部26を横倒させ易くすることができる。したがって、布材32によって縫い代部26の倒れ方向を一方向に規制することができ、縫製ライン40の蛇行を抑制することが可能となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の表皮片が互いに縫製されて袋状に形成され、車両用シートのパッド材を被覆するカバー本体と、
前記複数枚の表皮片が縫い代部を設けて互いに縫製された第1縫製部から離間して前記縫い代部に第2縫製部としてその一端部が縫製され、前記第1縫製部を起点として前記縫い代部を覆うように折返し当該縫い代部を前記パッド材の表面に沿って横倒させる布材と、
を備えたシートカバー。
【請求項2】
前記第1縫製部と前記第2縫製部の離間距離は、前記布材の厚み以上となるように設定されている請求項1に記載のシートカバー。
【請求項3】
前記第1縫製部と前記第2縫製部の離間距離は、略一定となるように設定されている請求項1又は請求項2に記載のシートカバー。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の複数枚の表皮片の表面同士を面接触させた状態で縫い代部が設けられるように前記複数枚の表皮片の端部側を前記第1縫製部で縫製させる第1工程と、
前記第1縫製部から離間して前記縫い代部の自由端側に前記複数枚の表皮片に対して請求項1~請求項3の何れか1項に記載の布材の一端部を前記第2縫製部で縫製させる第2工程と、
前記第1縫製部を起点として前記縫い代部を覆うように前記布材を折返し、当該布材によって当該縫い代部を前記パッド材の表面に沿って横倒させる第3工程と、
を有するシートカバーの縫製方法。
【請求項5】
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のシートカバーで前記パッド材が被覆されている車両用シート。
【請求項6】
前記シートカバーは前記車両用シートに着座している乗員の頭部を支持するヘッドレストに設けられている請求項5に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートカバー、シートカバーの縫製方法及び車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1に記載されたシートカバーでは、二枚の表皮片の縫い代部の縫い合わせ部分の裏面側において布材が共縫いされ、二枚の表皮片を二つに分けると共に布材における共縫い側と反対側の自由端部が縫い代部を覆うようにして布材が一方の表皮片側から他方の表皮片側に折り返されている。これにより、この先行技術では、縫い代部の倒れ方向(横倒方向)を一方向に規制することができ、縫製ラインの蛇行を防止することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術では、複数の表皮片と布材が共縫いされるため、縫製部において剛性が向上し、その分、縫い代部を横倒させる際の抵抗が大きくなってしまう。その結果、縫い代部が立ち上がる等すると、縫製ラインが蛇行する可能性が生じる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、縫い代部を容易に横倒させることができ、縫製ラインの蛇行を抑制することが可能なシートカバー、シートカバーの縫製方法及び車両用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係るシートカバーは、複数枚の表皮片が互いに縫製されて袋状に形成され、車両用シートのパッド材を被覆するカバー本体と、前記複数枚の表皮片が縫い代部を設けて互いに縫製された第1縫製部から離間して前記縫い代部に第2縫製部としてその一端部が縫製され、前記第1縫製部を起点として前記縫い代部を覆うように折返し当該縫い代部を前記パッド材の表面に沿って横倒させる布材と、を備えている。
【0007】
請求項1に記載の発明に係るシートカバーでは、カバー本体及び布材を備えている。カバー本体は、複数枚の表皮片が互いに縫製されて袋状に形成され車両用シートのパッド材を被覆する。また、複数の表皮片は、縫い代部を設けて第1縫製部で互いに縫製されている。このため、第1縫製部は、縫い代部の基部に設けられている。
【0008】
一方、布材は、当該縫い代部において、第1縫製部から離間して当該布材の一端部が第2縫製部で縫製されている。すなわち、第2縫製部は、第1縫製部よりも縫い代部の自由端側に設けられている。また、布材は、当該第1縫製部を起点として縫い代部を覆うようにして折返され、当該布材によって、縫い代部はパッド材の表面に沿って横倒する。
【0009】
一般に、縫製ラインの蛇行は、シートカバーをパッド材に被覆させる際に、縫い代部の倒れ方向が均一でないために発生する。このため、本発明では、複数枚の表皮片が互いに縫製されて形成された縫い代部を折り返す布材を設けることにより、縫い代部の倒れ方向を一方向に規制することができる。これにより、縫製ラインの蛇行を抑制することが可能となる。
【0010】
ここで、本発明では、さらに、布材は、表皮片が互いに縫製された第1縫製部によって形成された縫い代部に第2縫製部として布材の一端部が縫製され、当該第1縫製部を起点として縫い代部を覆うようにして当該布材を折り返し、当該縫い代部をパッド材の表面に沿って横倒させている。
【0011】
比較例として、例えば、複数枚の表皮片及び布材が縫製された縫製部を起点として縫い代部を横倒させようとした場合、当該縫製部では複数枚の表皮片及び布材が縫製されているため剛性が高くなり、当該縫い代部を横倒させる際の抵抗が大きくなってしまう。
【0012】
これに対して、本発明では、縫製部を、複数の表皮片を互いに縫製する第1縫製部と表皮片に布材を縫製する第2縫製部に分け、第1縫製部を起点として縫い代部を横倒させる。このように、本発明では、縫製部を2つに分けることによって、縫製部における剛性を分散させ、縫い代部を横倒させる際の抵抗を小さくすることができる。したがって、縫い代部を横倒させ易くすることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1に記載の発明に係るシートカバーにおいて、前記第1縫製部と前記第2縫製部の離間距離は、前記布材の厚み以上となるように設定されている。
【0014】
例えば、比較例として、第1縫製部と第2縫製部との離間距離が布材の厚みよりも小さい場合、第1縫製部を起点として縫い代部を覆うようにして当該縫い代部に縫製された布材を折り返す際、当該布材と第1縫製部及び第2縫製部とが干渉し、これにより縫製部では剛性が高くなってしまう。
【0015】
このため、請求項2に記載の発明に係るシートカバーでは、第1縫製部と第2縫製部の離間距離を布材の厚み以上となるように設定することによって、第1縫製部を起点として当該布材を折り返す際、少なくとも比較例よりは剛性を低くすることが可能となる。
【0016】
請求項3に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1又は請求項2に記載の発明に係るシートカバーにおいて、前記第1縫製部と前記第2縫製部との離間距離は、略一定となるように設定されている。
【0017】
請求項3に記載の発明に係るシートカバーでは、第1縫製部と第2縫製部との離間距離が略一定となるように設定されることによって、折り返し起点(第1縫製部)と布材の一端部との位置を略一定にすることができる。これにより、布材の一端部側において当該布材のよれを抑制することが可能となる。
【0018】
請求項4に記載の発明に係るシートカバーの縫製方法は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の複数枚の表皮片の表面同士を面接触させた状態で縫い代部が設けられるように前記複数枚の表皮片の端部側を前記第1縫製部で縫製させる第1工程と、前記第1縫製部から離間して前記縫い代部の自由端側に前記複数枚の表皮片に対して請求項1~請求項3の何れか1項に記載の布材の一端部を前記第2縫製部で縫製させる第2工程と、前記第1縫製部を起点として前記縫い代部を覆うように前記布材を折返し、当該布材によって当該縫い代部を前記パッド材の表面に沿って横倒させる第3工程と、を有している。
【0019】
請求項4に記載の発明に係るシートカバーの縫製方法では、まず、第1工程において、複数枚の表皮片の表面同士を面接触させた状態で縫い代部が設けられるように当該複数枚の表皮片の端部側を第1縫製部で縫製させる。次に、第2工程において、第1縫製部から離間して縫い代部の自由端側に複数枚の表皮片に対して布材の一端部を第2縫製部で縫製させる。そして、第3工程において、第1縫製部を起点として縫い代部を覆うように布材を折返し、当該布材によって当該縫い代部を車両用シートのパッド材の表面に沿って横倒させる。
【0020】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートは、請求項1~請求項3の何れか1項に記載のシートカバーで前記パッド材が被覆されている。
【0021】
請求項5に記載の発明に係る車両用シートでは、縫製ラインの蛇行が抑制されたシートカバーでパッド材を被覆することによって、車両用シートの外観が向上する。
【0022】
請求項6に記載の発明に係る車両用シートは、請求項5に記載の車両用シートにおいて、前記シートカバーは前記車両用シートに着座している乗員の頭部を支持するヘッドレストに設けられている。
【0023】
請求項6に記載の発明に係る車両用シートでは、シートカバーはヘッドレストに設けられている。ヘッドレストは、車両用シートに着座している乗員の目の高さに近いため、ヘッドレストの外観についてはより重要視される。このため、当該ヘッドレストにおいて、縫製ラインの蛇行を抑制することは重要である。本発明では、縫製ラインの蛇行を抑制することができるため、当該縫製ラインを利用してデザイン性を向上させることも可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、請求項1に記載のシートカバーによれば、縫い代部を容易に折り返すことができ、縫製ラインの蛇行を抑制することができる。
【0025】
請求項2に記載のシートカバーによれば、第1縫製部を起点として当該布材を折り返す際、縫い代部を横倒させ易くすることができる。
【0026】
請求項3記載のシートカバーによれば、当該布材のよれに伴う縫製ラインの蛇行を抑制することができる。
【0027】
請求項4に記載のシートカバーの縫製方法によれば、簡単な縫製方法で縫製ラインの蛇行を抑制して、車両用シートの外観を向上させることができる。
【0028】
請求項5に記載の車両用シートによれば、縫製ラインの蛇行を抑制して、車両用シートの外観を向上させることができる。
【0029】
請求項6に記載の車両用シートによれば、ヘッドレストの外観を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本実施形態に係るシートカバーが用いられたヘッドレストを備えた車両用シートを示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係るシートカバーが用いられたヘッドレストを示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係るシートカバーを裏返した状態を示す斜視図である。
【
図4】本実施形態に係るシートカバーを裏返した状態を示すと共に、一部を切欠き拡大した断面図である。
【
図5A】本実施形態に係るシートカバーの縫製手順を示す断面図である。
【
図5B】本実施形態に係るシートカバーの縫製手順を示す断面図である。
【
図5C】本実施形態に係るシートカバーの縫製手順を示す断面図である。
【
図5D】本実施形態に係るシートカバーの縫製手順を示す断面図である。
【
図6】
図1のF6-F6線に沿った切断面に対応した断面図である。
【
図7A】比較例としてのシートカバーの縫製手順を示す
図5Aに対応する断面図である。
【
図7B】比較例としてのシートカバーの縫製手順を示す
図5Bに対応する断面図である。
【
図7C】比較例としてのシートカバーの縫製手順を示す
図5Cに対応する断面図である。
【
図7D】比較例としてのシートカバーの縫製手順を示す
図5Dに対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に係るシートカバーについて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは、車両用シートの前方向(着座者の向く方向)を示しており、矢印UPは車両用シートの上方向を示し、矢印RHは車両用シートの右方向を示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両用シートの前後、車両用シートの上下、進行方向を向いた場合の車両用シートの左右を示すものとする。
【0032】
図1には、本発明の実施形態に係るシートカバーとしてのヘッドレストカバー10が用いられたヘッドレスト12を備えた車両用シート14をシート斜め前方側から見た斜視図が示されている。
【0033】
図1に示されるように、車両用シート14は、乗員が着座するシートクッション16と、シートクッション16の後端部から立設されシートクッション16に着座した乗員の上体を支持するシートバック18と、シートバック18の上端部に取り付けられシートクッション16に着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト12と、を備えている。
【0034】
なお、当該ヘッドレスト12は、
図1に示されるように、左右セパレートタイプの車両用シートに適用されてもよいし、図示はしないが、ベンチシートタイプの車両用シートに適用されてもよい。このため、ヘッドレスト12は、適用されるシートに応じて、その形状は適宜変更可能である。
【0035】
図2に示されるように、当該ヘッドレスト12は、骨格部材であるヘッドレストステー20と、ヘッドレストパッド(パッド材)22と、を備えており、当該ヘッドレストパッド22に対して表皮であるヘッドレストカバー10が被覆されている。
【0036】
ヘッドレストステー20は、例えば金属製のパイプ材が略逆U字状に曲げられたものであり、ヘッドレスト12の上下方向に延びる左右一対の脚部20L、20R(
図3~
図8参照)と、左右一対の脚部20L、20Rの上端部をヘッドレスト12の左右方向に繋いだ連結部(図示省略)と、備えている。
【0037】
一方、ヘッドレストパッド22は、例えばウレタンフォーム等の発泡体によって構成されている。このヘッドレストパッド22によって、ヘッドレストステー20の上部側が被覆されている。このため、ヘッドレストステー20の左右の脚部20L、20Rの下部側は、ヘッドレストパッド22から露出し、ヘッドレスト12の下方側へ延びている。そして、当該ヘッドレストステー20の左右の脚部20L、20Rの下部側は、シートバック18の上端部に連結され、これにより、ヘッドレストパッド22がシートバック18に支持される。
【0038】
(ヘッドレストカバーの構成)
まず、本実施形態に係るシートカバー10の構成について説明する。
【0039】
図4には、裏返し状のヘッドレストカバー10が示されている。
図4に示されるように、当該ヘッドレストカバー10は、カバー本体38を構成する後述する複数の表皮片24(24A~24E)を縫い合わせることにより袋体に形成される。複数の表皮片24は、裏返し状態で縫い付けられることにより表面が裏返し状の袋体となり、この裏返し状の袋体がヘッドレストパッド22に被せられながら表裏反転される。なお、表皮片24の材料としては、布材、皮革、合成皮革、その他の材料が適用される。
【0040】
複数の表皮片24として、本実施形態では、例えば、
図2に示すヘッドレスト12の前面12Aに対応する前面表皮片24A(
図4参照)、ヘッドレスト12の背面12Bに対応する背面表皮片24B、ヘッドレスト12の右側面12Cに対応する右側面表皮片24C、ヘッドレスト12の左側面12Dに対応する左側面表皮片24D及びヘッドレスト12の底面12Eに対応する底面表皮片24Eが挙げられる。なお、複数の表皮片24の構成については、これに限るものではない。
【0041】
そして、
図4に示されるように、各表皮片24は隣り合う部位同士でそれぞれ縫い代部26を設けて縫製部(第1縫製部)28で互いに縫製される。例えば、前面表皮片24Aと背面表皮片24Bとは縫い代部26Aを設けて縫製部28Aで縫製され、前面表皮片24Aと底面表皮片24Eとは縫い代部26Bを設けて縫製部28Bで縫製される。また、背面表皮片24Bと底面表皮片24Eとは縫い代部(図示省略)を設けて縫製部(図示省略)で縫製される。
【0042】
さらに、前面表皮片24A、背面表皮片24B及び底面表皮片24Eと右側面表皮片24Cとは、縫い代部26Cを設けて縫製部28Cで縫製され、前面表皮片24A、背面表皮片24B及び底面表皮片24Eと左側面表皮片24Dとは、縫い代部26Dを設けて縫製部28Dで縫製される。なお、縫製部28は外部に露出するため、飾りステッチで縫製してデザイン性を向上させるようにしている。
【0043】
また、本実施形態では、隣り合う部位同士で表皮片24が縫製されることによって形成された縫い代部26をヘッドレストパッド22の表面22Aに沿って一方向へ横倒させるため、当該縫い代部26C、26Dには、布材32の長手方向に対して直交する布材32の幅方向の一端部32Aが、縫製部(第2縫製部)30で縫製されている。
【0044】
当該縫製部30は、縫製部28から離間して設けられており、
図5Bに示されるように、縫製部30と縫製部28の離間距離tは、布材32の厚み(t1)以上となるように設定されている(t≧t1)。なお、縫製部28、30は、直線との差別化を図るため、その両端部に黒丸を付すものであり、この黒丸は玉結び等を示すものではない。
【0045】
(表皮片の縫合手順)
ここで、ヘッドレストカバー10を構成する表皮片24の縫合手順を説明する。
【0046】
図5A~
図5Dには、本実施形態における表皮片24の縫合手順を示す断面図が示されている。なお、表皮片24の断面は白抜きで示し、布材32の断面にはハッチングを付している。
【0047】
本実施形態では、
図4に示されるように、表皮片24として、前面表皮片24A、背面表皮片24B、右側面表皮片24C、左側面表皮片24D及び底面表皮片24Eがあり、隣り合う部位の表皮片24同士でそれぞれ縫い代部26を設けて縫製部28で互いに縫製される。
【0048】
つまり、特定の隣り合う部位同士の表皮片24の縫製部28は、他の隣り合う部位同士の表皮片24の縫製部28と略同じであるため、
図5A~
図5Dでは、複数の表皮片として、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dを用いて説明する。
【0049】
図5Aに示されるように、まず、前面表皮片24Aと左側面表皮片24Dとは、前面表皮片24Aの表面24A1と左側面表皮片24Dの表面24D1同士を面接触させた状態で、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dの端部側に縫い代部26が設けられるように、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dが縫製部28で縫製される(第1工程)。これにより、前面表皮片24Aと左側面表皮片24Dは一体化される。
【0050】
次に、
図5Bに示されるように、当該縫い代部26において、縫い代部26の基部となる縫製部28から離間して、縫い代部26の自由端側に前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dに対して布材32の一端部32Aが縫製部30で縫製される(第2工程)。これにより、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dと布材32は一体化される(いわゆる共縫いされる)。なお、ここでは、縫製部28と縫製部30との離間距離tは、布材32の厚み(t1)以上となるように設定されている。
【0051】
そして、
図5Cに示されるように、縫製部28を起点として前面表皮片24Aと左側面表皮片24Dを分離させる。このとき、布材32は左側面表皮片24D側に設けられる。
【0052】
次に、
図5Dに示されるように、縫製部28を起点として縫い代部26を覆うようにして、布材32を左側面表皮片24D側から前面表皮片24A側へ折返して、縫い代部26を前面表皮片24A側へ横倒させる(第3工程)。
【0053】
ここで、
図3には、裏返し状態のヘッドレストカバー10が示されている。
図3に示されるように、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dと共縫いされた布材32の一端部32Aは、布材32の長手方向に対して直交する幅方向の端部である。このため、
図4に示されるように、布材32を前面表皮片24A側へ折返した状態では、布材32の幅方向の他端部側は自由状態となっている。
【0054】
したがって、布材32を折返して縫い代部26を横倒させた後、縫製部28Dと交差する縫製部28Aと布材32を共縫いする。これにより、布材32が幅方向に沿って縫製され、布材32の幅方向の自由端側を拘束して縫い代部26の立ち上がりが抑制される。
【0055】
(ヘッドレストカバーの作用及び効果)
次に、本実施形態に係るシートカバー10の作用及び効果について説明する。
【0056】
図4に示されるように、本実施形態では、ヘッドレストカバー10は、カバー本体38及び布材32を備えており、カバー本体38は、複数枚の表皮片24が互いに縫製されて袋状に形成されてヘッドレスト12のヘッドレストパッド22を被覆する。また、複数の表皮片24は、縫い代部26を設けて縫製部28で互いに縫製されている。
【0057】
一方、布材32は、当該縫い代部26において、縫製部28から離間して布材32の一端部32Aが縫製部30で縫製されており、縫製部30は、縫製部28よりも縫い代部26の自由端側に設けられている。また、布材32は、当該縫製部28を起点として縫い代部26を覆うようにして折返され、当該布材32によって、縫い代部26をヘッドレストパッド22の表面22Aに沿って横倒させている。
【0058】
ここで、比較例として、例えば、
図7Aに示されるように、表皮片108、110及び布材112が、縫い代部114を設けて縫製部116で縫製された場合について検討する。
【0059】
図7Bに示されるように、当該縫製部116を起点として表皮片108と表皮片110を分離させると、布材112は表皮片110側に設けられる。そして、
図7Cに示されるように、布材112を表皮片110側から表皮片108側へ折返し、
図7Dに示されるように、縫い代部114を表皮片108側へ横倒させる。
【0060】
比較例では、当該縫製部116において、複数枚の表皮片108、110及び布材112が縫製されているため、当該縫製部116を起点として縫い代部114を横倒させようとした場合、当該縫製部116では剛性が高くなり、縫い代部114を横倒させる際の抵抗が大きくなってしまう。その結果、縫い代部114が立ち上がる等して縫い代部114の倒れ方向が不均一となり、
図6に示されるように、ヘッドレスト100において、縫製ライン102が蛇行してしまう。
【0061】
これに対して、本実施形態では、
図5B~
図5Dに示されるように、縫製部を、前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dを互いに縫製する縫製部28と前面表皮片24A及び左側面表皮片24Dに布材32を縫製する縫製部30に分け、縫製部28を起点として縫い代部26を横倒させる。
【0062】
このように、本実施形態では、縫製部を2つに分けることによって、縫製部28における剛性を分散させ、縫い代部26を横倒させる際の抵抗を小さくすることができる。これにより、本実施形態では、縫い代部26を横倒させ易くすることができると共に、縫い代部26を横倒させた状態を維持することが可能となる。
【0063】
したがって、本実施形態では、布材32によって縫い代部26を容易に折り返して縫い代部26の倒れ方向を一方向に規制することができ、
図2に示されるように、縫製ライン40の蛇行を抑制することが可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、
図5Bに示されるように、当該縫製部30は、縫製部28から離間して設けられており、縫製部30と縫製部28の離間距離tは、布材32の厚み(t1)以上となるように設定されている(t≧t1)。
【0065】
例えば、比較例として、図示はしないが、縫製部28と縫製部30との離間距離が布材32の厚みよりも小さい場合、縫製部28を起点として布材32を折り返す際、当該布材32と縫製部28及び縫製部30とが干渉し、これにより縫製部28では剛性が高くなってしまう。
【0066】
これに対して、本実施形態では、縫製部30と縫製部28の離間距離tが布材32の厚み以上となるように設定されることによって、縫製部28を起点として当該布材32を折り返す際、縫製部28において少なくとも比較例よりは剛性を低くすることが可能となる。
【0067】
そして、縫製部30と縫製部28の離間距離tが布材32の厚みよりも大きくなるように設定されることによって、縫製部28を起点として当該布材32を折り返す際、少なくとも布材32と縫製部28との間には隙間(t2)が設けられる。この場合、布材32と縫製部28とは干渉しない。したがって、縫製部28を起点として当該布材32を折り返す際、縫製部28ではさらに剛性が小さくなり、縫い代部26を横倒させ易くすることができる。
【0068】
また、本実施形態では、縫製部28と縫製部30との離間距離tは、略一定となるように設定されている。これにより、折り返し起点となる縫製部28と布材32の一端部32Aとの位置を略一定にすることができる。これにより、布材32の一端部32A側において当該布材32のよれを抑制することが可能となり、当該布材32のよれに伴う縫製ライン40の蛇行を抑制することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態では、当該ヘッドレストカバー10でヘッドレスト12のヘッドレストパッド22を被覆する。ヘッドレスト12は、車両用シート14に着座している乗員の目の高さに近いため、ヘッドレスト12の外観についてはより重要視される。
【0070】
このため、当該ヘッドレスト12において、縫製ライン40の蛇行を抑制することは重要であり、本実施形態により、縫製ライン40の蛇行を抑制することで、当該縫製ライン40を利用してデザイン性を向上させることも可能となり、ヘッドレスト12の外観を向上させることができる。
【0071】
(実施形態の補足説明)
以上の実施形態では、
図1に示されるヘッドレスト12へ適用した実施形態を説明したが、本発明では、これに限らず、車両用シート14のシートクッション16、シートバック18に適用されてもよい。さらには、車両用シート14に限らず、図示はしないが家具用シートに適用されてもよい。
【0072】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能である。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0073】
10 ヘッドレストカバー(シートカバー)
12 ヘッドレスト
14 車両用シート
16 シートクッション
18 シートバック
22 ヘッドレストパッド(パッド材)
22A 表面(パッド材の表面)
24 表皮片
24A 前面表皮片(表皮片)
24B 背面表皮片(表皮片)
24C 右側面表皮片(表皮片)
24D 左側面表皮片(表皮片)
24E 底面表皮片(表皮片)
26 縫い代部
26A 縫い代部
26B 縫い代部
26C 縫い代部
26D 縫い代部
28 縫製部(第1縫製部)
28A 縫製部(第1縫製部)
28B 縫製部(第1縫製部)
28C 縫製部(第1縫製部)
28D 縫製部(第1縫製部)
30 縫製部(第2縫製部)
32 布材
32A 一端部(布材の一端部)
38 カバー本体
t 離間距離
t1 布材の厚み