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特開2022-8206ニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008206
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】ニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20220105BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20220105BHJP
   B22D 21/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C22C19/05 Z
C22C1/02 503G
B22D21/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021103319
(22)【出願日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2020108971
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】505257730
【氏名又は名称】日光金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 昭博
(72)【発明者】
【氏名】郡司 泰行
(72)【発明者】
【氏名】井上 悦男
(72)【発明者】
【氏名】平山 修
(57)【要約】
【課題】真空溶解や真空鋳造等を用いた高コストの装置を用いることなく、所定の成分組成を維持し、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子をより経済的に提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である、ことを特徴とするニッケル基耐熱鋳造合金によって、上記課題を解決する。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である、ことを特徴とするニッケル基耐熱鋳造合金。
【請求項2】
質量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.27~0.73%、Mn:0.42~0.65%、Cr:20.50~23.00%、Mo:1.20~2.80%、W:13.20~14.80%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である、ことを特徴とするニッケル基耐熱鋳造合金。
【請求項3】
質量%で、Co:0~5.00%、Al:0~0.50%、Fe:0~3.00%を含有し、前記不可避不純物はP、S、Ti,V、Nb等である、請求項1又は2に記載のニッケル基耐熱鋳造合金。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなる、ことを特徴とする真空浸炭炉用部材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなる、ことを特徴とする焼却炉火格子。
【請求項6】
質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物であるニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法であって、
ニッケル基耐熱鋳造合金の原料を準備する工程と、準備した前記原料を配合して大気溶解する際に溶湯表面を不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ前記原料を溶解する工程と、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造する工程と、を有する、ことを特徴とするニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子に関する。
【背景技術】
【0002】
真空浸炭熱処理方法は、高性能なギア、シャフト等の浸炭熱処理製品を製造する優れた方法として普及が進んでいる。真空浸炭熱処理方法の特徴は、熱処理温度が980℃と高く、熱処理温度が930℃程度の従来のガス浸炭熱処理方法に比べて熱処理時間を短くすることができ、生産性を高めることができるという利点がある。
【0003】
真空浸炭熱処理での熱処理温度の上昇は、真空浸炭熱処理で用いられる熱処理用部材(例えばトレー部材等)の耐熱性に影響し、従来使用されていたSCH13やSCH21等の耐熱鋼(JISにおける耐熱鋼)では、短時間の使用であっても変形、クラック、破断等の操業トラブルや操業費用の上昇をまねくおそれがある。こうした問題を解決するため、ニッケル基耐熱鋳造合金が使用されてきている。
【0004】
ニッケル基耐熱鋳造合金にも種類があり、真空浸炭熱処理用として使用される場合には、耐熱強度を高めるNiAlの役割を活かすために、活性合金元素であるAlを多く含む組成からなるニッケル基耐熱鋳造合金が採用されていた。しかし、Alを多く含むニッケル基耐熱鋳造合金は、活性合金であるAlと酸素とを遮断する必要があるため、真空溶解や真空鋳造等の高価な装置で生産しなければならず、生産性が高くなく、高価な材料となり、最終的に製造される熱処理用部材等の生産物も高価にならざるを得なかった。
【0005】
一方、ストーカ式燃焼炉の火格子も、上記同様のSCH2、SCH11,SCH13等の耐熱鋼が用いられているが、火格子の長寿命化と低メンテナンス費用の要求から、高温腐食雰囲気中での耐食性が重視されるようになってきている。このため、ニッケル基耐熱鋳造合金の使用が検討されている。
【0006】
なお、鋳造時のアルゴンガスシールドは特許文献1等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-528943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記した背景技術を踏まえ、真空溶解や真空鋳造等を用いた高コストの装置を用いることなく、所定の成分組成を維持し、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子をより経済的に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するための研究過程で、ニッケル基耐熱鋳造合金に含まれるガス成分の量に着目し、含有するガス成分の量を所定の範囲にすることで、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金をより廉価に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
(1)本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金は、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である、ことを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、ニッケル基耐熱鋳造合金が上記範囲内で水素と酸素が含むので、このニッケル基耐熱鋳造合金は真空溶解及び真空鋳造で製造されたもの(水素と酸素の含有量が極めて少ない。)ではなく、酸素遮断した大気溶解と鋳造により製造されたものということができる。こうしたニッケル基耐熱鋳造合金は、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れているとともに、水素と酸素を所定の範囲で含む低コストの方法で製造することができる。なお、残部であるNi含有量は、質量%で56.1~65.4%の範囲内である。
【0012】
本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金の好ましい例としては、質量%で、C:0.07~0.13%、Si:0.27~0.73%、Mn:0.42~0.65%、Cr:20.50~23.00%、Mo:1.20~2.80%、W:13.20~14.80%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である。なお、残部であるNi含有量は、質量%で57.9~64.3%の範囲内である。
【0013】
本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金において、質量%で、Co:0~5.00%、Al:0~0.50%、Fe:0~3.00%を含有し、前記不可避不純物はP、S、Ti,V、Nb等である。
【0014】
(2)本発明に係る真空浸炭炉用部材は、上記本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなることを特徴とする。真空浸炭炉用部材としては、真空浸炭炉内で使用する部材や真空浸炭炉内に繰り返し投入される部材、例えばトレー、ベース部材等を挙げることができる。
【0015】
(3)本発明に係る焼却炉火格子は、上記本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなることを特徴とする。
【0016】
(4)本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法は、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物であるニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法であって、
ニッケル基耐熱鋳造合金の原料を準備する工程と、準備した前記原料を配合して大気溶解する際に溶湯表面を不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ前記原料を溶解する工程と、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ溶解するとともに取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造するので、水素と酸素を所定の範囲で含む上記組成のニッケル基耐熱鋳造合金を製造することができる。この製造方法は、真空溶解や真空鋳造の高コストの方法に比べて低コストであり、上記組成からなる耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金をより経済的に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子をより経済的に提供することができる。特に、ニッケル基耐熱鋳造合金が上記範囲内で水素と酸素が含むので、このニッケル基耐熱鋳造合金は真空溶解及び真空鋳造で製造されたものではなく、酸素遮断した大気溶解と鋳造により製造されたものということができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子について、その実施形態に基づき詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、あくまで本発明に係る一例であって、本発明はその実施形態に限定解釈されるものではない。
【0020】
[ニッケル基耐熱鋳造合金]
本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金は、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物である、ことを特徴とする。
【0021】
このニッケル基耐熱鋳造合金は上記範囲内で水素と酸素が含むので、このニッケル基耐熱鋳造合金は真空溶解及び真空鋳造で製造されたものではなく、酸素遮断した大気溶解と鋳造により製造されたものということができる。こうしたニッケル基耐熱鋳造合金は、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れているとともに、水素と酸素を所定の範囲で含む低コストの方法で製造することができる。なお、残部であるNi含有量は、質量%で56.1~65.4%の範囲内である。
【0022】
以下、各構成要素を説明する。なお、組成を表す際の「%」は、質量%(重量%)のことである。
【0023】
(C:0.05~0.15%)
C(炭素)は、炭化物の形成とマトリックスの高硬度化のために必要な元素であり、固溶硬化及びクロム炭化物の析出硬化により、耐摩耗性を高め、また鋳造性を高めるために不可欠な成分である。一方で、クロム炭化物の形成によって粒界腐食を促進するため、耐食性の観点からはその量は少ないことが好ましく、本発明では、C含有量は0.05~0.15%の範囲である。C含有量が0.05%未満では、炭化物生成量が過少となり、またマトリックスの硬さが低下するため、耐摩耗性が不十分になることがある。一方、C含有量が0.15%を超えると、炭化物量が多くなり、粒界腐食が大きくなり、耐食性が不十分になることがある。なお、好ましいC含有量は0.07~0.13%である。代表的には、C含有量が約0.10%程度である態様が望ましい。
【0024】
(Si:0.25~0.75%)
Si(ケイ素)は、溶解、精錬時に脱酸作用を発揮し、鋳造時の湯流れ性を向上させる。一方、Si含有量が一定量以上になると、前記効果が飽和し、また、より過剰に含まれると、ニッケル基耐熱鋳造合金の靱性が低下する。このため、本発明では、Si含有量の上限を0.75%とする。好ましいSi含有量は0.27~0.73%である。代表的には、Si含有量が約0.50%程度である態様が望ましい。
【0025】
(Mn:0.3~1.00%)
Mn(マンガン)は、脱酸作用と共に脱硫剤としても作用し、さらに、鋳造性、焼入れ性を向上させる元素であり、δフェライトの生成を抑制する作用がある。一方、多量のMnが含まれると、耐高温酸化性が低下し、クリープ破断強度が劣化し、耐摩耗性が低下する。このため、本発明では、Mn含有量の上限を1.00%とする。好ましいMn含有量は0.42~0.65%である。代表的には、Mn含有量が約0.50%程度である態様が望ましい。
【0026】
(Cr:20.00~24.00%)
Cr(クロム)は、高温耐食性向上のためには不可欠な元素である。雰囲気の酸素と反応し、合金表面に腐食に対して保護的な酸化クロム皮膜を形成し、母材の腐食を抑制する。しかし、その含有量が過剰となると、靱性が低下する可能性がある。このため、本発明では、Cr含有量の下限を20.00%、上限を24.00%とする。好ましいCr含有量は20.50~23.00%である。代表的には、Cr含有量が約22.0%程度である態様が望ましい。
【0027】
(Mo:1.00~3.00%)
Mo(モリブデン)は、炭化物生成元素であり、耐食性の付与及び高温強度の維持に不可欠な元素である。高温では、S、C又はSiと容易に反応してMoS、MoC、MoSi増量により効果を増す反面、合金の脆化を伴う。また、Moは、500℃以上では急速に酸化し、耐食性を悪化させるおそれが高い。また、レアメタルなので高価であり、経済的な観点から、その含有量は少ない方が望ましい。このため、本発明では、Mo含有量の下限を1.00%、上限を3.00%とする。好ましいMo含有量は1.20~2.80%である。代表的には、Mo含有量が約2.0%程度である態様が望ましい。
【0028】
(W:13.00~15.00%)
W(タングステン)は、高温強度の向上に有効な元素である。本発明では、W含有量の下限を13.00%、上限を15.00%として高温強度を実現している。好ましいW含有量は13.20~14.80%である。代表的には、W含有量が約14.0%程度である態様が望ましい。
【0029】
(H:4~35ppm)
H(水素)は、4~35ppmである。H含有量が35ppm以下なので、このニッケル基耐熱鋳造合金で作製された部材は、高温雰囲気中の使用時でのクラックの発生を抑制することができる。一方、H含有量を4ppm未満とするには、原材料の溶解、配合等の製造工程を高コストの真空中で行わなければならず、製造コストが高価になってしまうが、このニッケル基耐熱鋳造合金はH含有量が4ppm以上なので、酸素遮断した大気溶解と鋳造により低コストで製造することができる。なお、好ましいH含有量は4~32ppmである。
【0030】
(O:15~300ppm)
O(酸素)は、15~300ppmである。O含有量が300ppm以下なので、このニッケル基耐熱鋳造合金で作製された部材は、溶接補修する際のブローホールの発生を抑制することができる。一方、O含有量を15ppm未満とするには、原材料の溶解、配合等の製造工程を高コストの真空中で行わなければならず、製造コストが高価になってしまうが、このニッケル基耐熱鋳造合金はO含有量が15ppm以上なので、酸素遮断した大気溶解と鋳造により低コストで製造することができる。なお、好ましいO含有量は20~250ppmである。
【0031】
(Ni:残部)
Ni(ニッケル)は、このニッケル基耐熱鋳造合金の残部を構成するベース金属である。各成分元素を所定の範囲で含有するニッケル基合金は、耐熱性の鋳造合金として好ましく、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れている。本発明では、Ni含有量は56.1~65.4%の範囲内である。
【0032】
(Co,Al,Fe)
Co,Al,Feは、必要に応じて含まれていてもよい。Co含有量は0~5.00%であり、Al含有量は0~0.50%であり、Fe含有量は0~3.00%である。Co,Al,Feの好ましい含有量は、Co:0.50~2.00%、Al:0.20~0.40%、Fe:0.20~1.00%である。
【0033】
(不可避不純物)
不可避不純物は、原料、資材、製造設備等の状況によって不可避的に持ち込まれることがある元素であり、P、S、Ti,V、Nb等を挙げることができ、いずれも0(含まれない)~0.05%、好ましくは0~0.02%の範囲で含まれる。
【0034】
(製造方法)
ニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法は、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.25~0.75%、Mn:0.30~1.00%、Cr:20.00~24.00%、Mo:1.00~3.00%、W:13.00~15.00%、H:4~35ppm、O:15~300ppm、を含有し、残部がNi及び不可避不純物であるニッケル基耐熱鋳造合金の製造方法である。詳しくは、ニッケル基耐熱鋳造合金の原料を準備する工程と、準備した前記原料を配合して大気溶解する際に溶湯表面を不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ前記原料を溶解する工程と、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造する工程と、を有する。
【0035】
この製造方法は、不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ溶解するとともに取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造するので、水素と酸素を所定の範囲で含む上記組成のニッケル基耐熱鋳造合金を低コストで製造することができる。この製造方法は、真空溶解や真空鋳造の高コストの方法に比べて低コストであり、上記組成からなる耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金をより経済的に製造することができる。
【0036】
原料準備工程は、上記成分組成のニッケル基耐熱鋳造合金の原料を準備する工程である。原料は、それぞれ成分組成が明らかな原材料を準備し、それらを目標の成分組成となるように秤量等して原料とすることができる。
【0037】
溶解工程は、準備した前記原料を配合して大気溶解する際に溶湯表面を不活性ガスシールドして大気を遮断しつつ前記原料を溶解する工程である。この工程では、大気溶解時に溶湯表面を不活性ガスシールド手法(例えば周期表18族に属するヘリウム、ネオン、アルゴン等のガスシールド)で酸素を遮断しつつ溶解することに特徴がある。溶解する際の溶解温度等の条件は、特に限定されず、ニッケル基耐熱鋳造合金に応じた公知の手法を採用できる。
【0038】
鋳造工程は、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造する工程である。この工程では、大気鋳造時に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造することで大気に触れる時間を短縮することに特徴がある。鋳造する際の溶解温度、鋳湯温度、熱処理、徐冷等の条件は、特に限定されず、ニッケル基耐熱鋳造合金に応じた公知の手法を採用できる。
【0039】
[真空浸炭炉用部材、焼却炉火格子]
真空浸炭炉用部材は、上記本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなる。真空浸炭炉用部材としては、真空浸炭炉内で使用する部材や真空浸炭炉内に繰り返し投入される部材、例えばトレー、ベース部材等を挙げることができる。本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金で製造された真空浸炭炉用部材は、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れるので、繰り返し使用した場合でも長期間使用することができる。
【0040】
焼却炉火格子は、上記本発明に係るニッケル基耐熱鋳造合金で製造されてなる。焼却炉火格子としては、ストーカ式のごみ焼却炉に用いられる火格子を挙げることができる。焼却炉火格子の形状、タイプ等は何ら限定されるものではなく、公知の各種のものに適用可能である。例えば、火格子としては、一般的な空冷式のもののみならず、水冷式の構成のものも包含され、また、可動火格子のみならず固定火格子も包含される。
【実施例0041】
本発明を実施例よりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
質量%で、C:0.10%、Si:0.50%、Mn:0.50%、Cr:22.00%、Mo:2.00%、W:14.00%、Co:0.60%、Al:0.30%、Fe:0.30%、残部がNi:59.7%のニッケル基耐熱鋳造合金(不可避不純物:P、S、Ti,V、Nb等)になるよう、準備した原料を配合した。配合した原料を大気溶解する際に、溶湯表面をアルゴンガスシールドして大気を遮断しつつ原料を溶解(溶解温度:1540℃)した。このときのアルゴンガスシールドは、0.8kg/分の液化アルゴンを溶湯表面に連続で滴下して行った。次いで、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造(鋳造温度:1540℃)した。
【0043】
[比較例1]
実施例1と同じ組成の原料を配合した。配合した原料を真空溶解(真空度:0.1Pa、溶解温度:1500℃)した。次いで、溶解した溶湯を真空鋳造(鋳造温度:1450℃)した。
【0044】
[比較例2]
比較例1のニッケル基耐熱鋳造合金100kgを準備した。溶解する際に溶湯表面をアルゴンガスシールドして大気を遮断しつつ合金を溶解(溶解温度:1540℃)した。このときのアルゴンガスシールドは、0.8kg/分の液化アルゴンを溶湯表面に連続で滴下して行った。次いで、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造(鋳造温度:1540℃)した。
【0045】
[比較例3]
比較例1のニッケル基耐熱鋳造合金100kgを準備した。アルゴンガスシールドせずに大気溶解した。次いで、溶解した溶湯を大気鋳造する際に取鍋を使わず溶解炉から直接鋳造(鋳造温度:1540℃)した。
【0046】
【表1】
【0047】
[ガス分析]
ニッケル基耐熱鋳造合金中に含まれる水素含有量と酸素含有量を計測した。分析装置は、株式会社堀場製作所の酸素・窒素・水素分析装置(EMGA-930)により、JIS G1239(「鉄及び鋼-酸素定量方法-不活性ガス融解-近赤外吸収法」)に準拠して行った。測定試料の質量は1.0gとした。分析結果を表2,3に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
[実施例2~4]
実施例2~4は、水素と酸素の好ましい含有量の範囲を確認すべく行った実験結果であり、実施例1と同じ原料を配合し、配合した原料を実施例1と同じ条件で大気を遮断しつつ原料を溶解し、溶解した溶湯を実施例1と同じ条件で直接鋳造した結果である。ガス分析は、上記と同様の方法で行った。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表2~表5の水素と酸素の成分結果より、実施例1~4で得られたニッケル基耐熱鋳造合金は、Hが4~35ppmの範囲内で、Oが15~300ppmの範囲内であり、ニッケル基耐熱鋳造合金の特性に及ぼす影響が小さいと考えられる。また、実施例1~4のH含有量とO含有量は、比較例1よりも大きいが、比較例1のような高価な装置(真空溶解、真空鍛造)を用いることなく製造できるので、耐食性、高温強度、耐摩耗性等に優れたニッケル基耐熱鋳造合金、それを用いた真空浸炭炉用部材及び焼却炉火格子をより経済的に提供することができる。