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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082095
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】ネコ伝染性腹膜炎の治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20220525BHJP
   A61K 31/277 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/4748 20060101ALI20220525BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20220525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220525BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220525BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220525BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220525BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K31/277
A61K31/198
A61K31/4748
A61K31/4422
A61P43/00 111
A61P31/14
A61P29/00
C12N15/113 140Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193457
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZB111
4C084ZB331
4C084ZC412
4C084ZC611
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC26
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC41
4C086ZC61
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA51
4C206HA13
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZC41
4C206ZC61
(57)【要約】
【課題】ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を効率的に阻害することが可能な医薬組成物及び当該医薬組成物を用いたネコ伝染性腹膜炎(FIP)の治療法の提供。
【解決手段】L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤を有効成分として含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎の治療又は予防剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤を有効成分として含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎の治療又は予防剤。
【請求項2】
L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項3】
ネコ科動物体内での、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する、請求項1又は2に記載の治療又は予防剤。
【請求項4】
L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤をネコ科動物に投与することを含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎を治療又は予防する方法。
【請求項5】
L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、請求項4記載の治療又は予防する方法。
【請求項6】
ネコ科動物体内での、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する、請求項4又は5に記載の治療又は予防する方法。
【請求項7】
L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤を有効成分として含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制するための医薬組成物。
【請求項8】
L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、請求項7記載の医薬組成物。
【請求項9】
L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤をネコ科動物に投与することを含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する方法。
【請求項10】
L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、請求項9記載のネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネコ伝染性腹膜炎の治療薬および治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネココロナウイルス(Feline coronavirus: FCoV)はニドウイルス目のコロナウイルス科に分類されている。コロナウイルスはウイルス学的には、エンベロープを有するプラス鎖一本鎖のRNAウイルスである。
【0003】
FCoV感染症はイエネコでは、一般的な感染症であり、とくに集団飼育施設でよく認められる。FCoVに感染したネコのほとんどは、無症状若しくは軽度の腸炎を示すのみであるが、一部のネコでは、ネコ伝染性腹膜炎(feline infectious peritonitis: FIP)を発症することがある。
【0004】
FIPは、飼いネコの7%程度の割合で発症し、神経病変や胸水・腹水が貯まり、腹膜炎や貧血で死亡する極めて致死性の高い疾患である。しかし、感染経路や発症についての詳しいメカニズムは未だに解明されておらず、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(feline infectious peritonitis virus: FIPV)の基礎研究の進展が有効な治療法および予防法の開発に必要である。FIPの病型は多発性漿膜炎と血管炎を特徴とするウエットタイプ(滲出型)と各臓器における多発性肉芽腫性病変を特徴とするドライタイプ(非滲出型)がある。また、両型の特徴を示す症例も報告されている。臨床症状は、非常に変化に富んでおり、この変化は血管炎及び肉芽腫性病変の程度に依存する。一般的な臨床症状として、抗生物質に反応しない発熱、沈鬱、食欲不振、そして、体重減少などが認められる。
【0005】
FIPVの診断は特異的な確定診断方法がない。FIPVを診断する場合、ネコの飼育背景、既往歴、前述した臨床症状、生化学的検査所見、そして、生体材料(血液や滲出液)を用いたリアルタイムPCR法によるウイルス遺伝子の解析データなどが診断の基準となり、これらをもとに総合的に判断する。
【0006】
また、FIPに対する有効な治療法は確立されていない。現在は炎症及び過剰な免疫反応の抑制を目的とした支持療法が行われているが臨床的な効果はあまり期待できない。
【0007】
ウイルス複製には多くの宿主因子が必要であり、宿主因子が抗ウイルス療法のターゲットとなる可能性がある。Ca2+は様々な細胞機能の発現と密接に関係しており、過去の報告より、エボラウイルスの細胞進入に重要であることが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
エボラウイルスは、細胞表面上の受容体との特異的な結合により細胞侵入が始まると、マクロピノサイトーシスにより細胞内に移行する。そして、エンドソーム小胞に包まれながら初期エンドソーム、後期エンドソームへと移動し、結果的にウイルス粒子は細胞質へと放出される。
【0009】
また、two-pore channel(TPCs)は、エンドソーム局在カルシウムチャネルであり、ニコチン酸アデニンジヌクレオチドリン酸(NAADP)によって活性化されることでエンドソームの小胞輸送の制御に関わる(非特許文献2)。これより、TPCsの抑制はエボラウイルス粒子の輸送を阻害することになり、エボラウイルスでは、TPCsが細胞内進入に必要となる(非特許文献1)。
【0010】
FIPVはエボラウイルス同様、エンベロープウイルスである。エンベロープウイルスは、エンベロープと細胞膜の融合により宿主細胞へ侵入する。コロナウイルスではスパイク(S)蛋白がその機能を担う。過去の報告から、コロナウイルスはS蛋白の構造変化の種類により、細胞侵入の際、細胞表面で膜融合するもの、そしてエンドソーム経由でエンドソーム膜と融合するものがあることが明らかになった。なお、FIPVのS蛋白は後者の性質を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sakurai Y. et al., Science. 2015 Feb 27;347(6225):995-8. doi: 10.1126/science.1258758
【非特許文献2】Bethan.S.Kilpatrick, Cell Reports February 14, 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来法では、FIPを十分に予防及び/又は治療することができなかったため、FIPを有効に予防及び/又は治療することができる新たな方法が望まれていた。
【0013】
本発明では、FIPVの増殖を効率的に阻害することが可能な医薬組成物及び当該医薬組成物を用いたFIPの治療法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
FIPVは細胞侵入にエンドソームを利用しているので、細胞侵入の過程でエンドソームに局在するTPCsが必要であるという可能性が示唆された。そこで、本発明者らは、ウイルス複製様式を解析した結果、エンドソームのカルシウム濃度に影響を与えるカルシウム拮抗薬が抗ウイルス活性をもつと予測し、Ca2+チャネルの阻害がウイルス複製に影響を与えるかを調べた。細胞培養実験の結果、ある種のカルシウム拮抗薬がFIPウイルス(FIPV)の増殖を劇的に阻害し、FIPVの細胞内増殖を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤を有効成分として含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎の治療又は予防剤。
[2] L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、[1]の治療又は予防剤。
[3] ネコ科動物体内での、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の複製を抑制する、[1]又は[2]の治療又は予防剤。
[4] L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤をネコ科動物に投与することを含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎を治療又は予防する方法。
[5] L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、[4]の治療又は予防する方法。
[6] ネコ科動物体内での、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の複製を抑制する、[4]又は[5]の治療又は予防する方法。
[7] L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤を有効成分として含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制するための医薬組成物。
[8] L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、[7]の医薬組成物。
[9] L型カルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤であるカルシウムチャネル阻害剤をネコ科動物に投与することを含む、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する方法。
[10] L型カルシウム拮抗薬がベラパミル、テトランドリン及びアムロジピンからなる群から選択され、カルシウムキレート剤がBAPTAである、[9]のネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の治療又は予防薬により、多くのFIP発症ネコを救命でき、特にネコのブリーダーやペットショップでのFIP死亡率を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1-1】Caチャネル阻害剤(ベラパミル、テトランドリン、ガバペンチン、アムロジピン)によるfcwf-4への毒性試験の結果を示す図である。
図1-2】Caチャネル阻害剤(ジルチアゼム、Trans-Ned19、BAPTA)によるfcwf-4への毒性試験の結果を示す図である。
図2】Caチャネル阻害剤におけるFIPV複製の影響を示す図である。
図3】TCID50法によるウイルス力価の測定結果を示す図である。
図4】ノックダウン細胞におけるTPC1遺伝子発現抑制効果を示す図である。
図5】ノックダウン細胞におけるFIPV遺伝子発現抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明は、ネコ科動物のネコ伝染性腹膜炎(feline infectious peritonitis: FIP)の治療又は予防薬及び該治療又は予防薬を用いて哺乳類ネコ科動物のFIPを治療又は予防する方法である。さらに、本発明はネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制するための医薬組成物、又はネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の増殖を抑制する方法である。
【0020】
治療対象となるネコ科動物として、イエネコ、リビアネコ、スナネコ、クロアシネコ、ヨーロッパヤマネコ、ハイイロネコ、チーター、カラカル、ジャガランディ、オセロット、マーゲイ、オオヤマネコ、ボブキャット、マヌルネコ、ベンガルヤマネコ、ピューマ、ライオン、ジャガー、ヒョウ、トラ、ユキヒョウ、ウンピョウ等が挙げられる。
【0021】
本発明の治療薬の有効成分として用いる化合物として、カルシウムチャネル阻害剤が挙げられる。カルシウムチャネル阻害剤は、血管の平滑筋に存在するカルシウムチャネルの機能を拮抗し、血管の筋肉に対するカルシウムの働きを抑える。カルシウムチャネル阻害剤としては、カルシウム拮抗薬やカルシウムキレート剤が挙げられる。カルシウム拮抗薬は、カルシウムチャネルの機能を拮抗し、カルシウムキレート剤は選択的にカルシウムに結合する。
【0022】
該カルシウム拮抗薬及びカルシウムキレート剤は、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(feline infection peritonitis virus: FIPV)の複製及び増殖を抑制することにより、ネコ伝染性腹膜炎を治療又は予防することができる。
【0023】
本発明の治療薬の有効成分として用いるカルシウム拮抗薬として、具体的には、L型カルシウム拮抗薬が挙げられる。L型カルシウム拮抗薬は、L型カルシウムチャネルを介したカルシウム流入の阻止を行うことでカルシウムチャネルの機能を拮抗する。L型カルシウム拮抗薬として、ジヒドロプロリン系のカルシウム拮抗薬、フェニルアルキルアミン系のL型カルシウム拮抗薬等が挙げられ、具体的には、ベラパミル、テトランドリン、アムロジピン、ニフェジピン、ニカルジピン、マニジピン等が挙げられる。この中でも、ベラパミル、テトランドリン又はアムロジピンが好ましい。
【0024】
また、カルシウムキレート剤としてBAPTA(1,2-ビス(o-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N',N'-テトラ酢酸)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(グリコールエーテルジアミン四酢酸)、HEDTA(N'-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N,N'-三酢酸)、NTA(ニトリロトリ酢酸)等が挙げられる。この中でもカルシウムに特異的なBAPTAが好ましい。
【0025】
本発明の治療薬の有効成分としては、これらのカルシウム拮抗薬又はカルシウムキレート剤の塩も用いることができる。
【0026】
ベラパミルは、フェニルアルキルアミン系のカルシウムチャネル阻害剤である。ベラパミルは、下式(I)で表される、(2RS)-5-[(3,4-Dimethoxyphenethyl)methylamino]-2-(3,4-dimethoxyphenyl)-2-(1-methylethyl)pentanenitrile(C27H38N2O4)であり、CAS登録番号は52-53-9である。
【0027】
【化1】
【0028】
テトランドリンは、ビス-イソキノリン系のアルカロイドである。テトランドリンは、下式(II)で表される、6,6',7,12-tetramethoxy-2,2'-dimethyl-1 beta-berbaman(C38H42N2O6)であり、CAS登録番号は518-34-3である。
【0029】
【化2】
【0030】
アムロジピンは、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬であり、下式(III)で表される、(RS)-3-ethyl 5-methyl 2-[(2-aminoethoxy)methyl]-4-(2-chlorophenyl)-6-methyl-1,4-dihydropyridine-3,5-dicarboxylate(C20H25ClN2O5)であり、CAS登録番号は88150-42-9である。
【0031】
【化3】
【0032】
BAPTAは、カルシウムとイオン形成をするアミノポリカルボン酸である。BAPTAは、下式(IV)で表される、1,2-bis(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N',N'-tetraacetic acid(C22H24N2O10)であり、CAS登録番号は85233-19-8である。
【0033】
【化4】
【0034】
上記化合物の塩として、薬理学的に許容される塩が挙げられる。例えば、酸付加塩又は塩基付加塩が挙げられ、ベシル酸塩、塩酸塩、フマ-ル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、臭化水素酸塩、カンシル酸塩、ニコチン酸塩、乳酸塩、メシル酸塩、グルコン酸塩等を含む。具体的には、ベラパミル塩酸塩、アムロジピン塩酸塩、アムロジピンベシル酸塩等が挙げられる。
【0035】
本発明の炎症性疾患の予防又は治療剤は、製薬上許容される担体や希釈剤等を含んでいてもよい。担体としては、限定されないが生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、グルコース液、緩衝生理食塩水等を挙げることができる。
【0036】
投与経路は限定されないが、経口投与、あるいは皮下、筋肉内及び静脈内、直腸内等のなどの非経口投与により投与することができる。投与形態としては、種々の形態で投与することができ、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、シロップ剤、細粒剤、噴霧剤、乳剤、座剤、注射剤、軟膏、テープ剤等が挙げられる。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤等は、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの賦形剤;デンプン、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤などを含んでいてもよい。また、乳剤、シロップ剤等の液体調製物は、水、ショ糖、ソルビトール、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;オリーブ油、ごま油、大豆油等の油脂類;p-ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤;ストロベリーフレーバー、ペパーミントなどのフレーバー類などを含んでいてもよい。さらに、注射剤は、水;ショ糖、ソルビトール、キシロース、トレハロース、果糖などの糖類;マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グルタミン酸緩衝液などの緩衝液;脂肪酸エステルなどの界面活性剤などを含んでいてもよい。本発明の炎症性疾患の予防又は治療剤は、さらにpH調整剤、抗酸化剤、安定化剤、保存剤、増粘剤、キレート化剤、保湿剤、着色剤、等張剤等を含んでいてもよい。
【0037】
投与量は、投与方法、適用するネコ科動物の年齢、体重、病状などによって適宜設定することができるが、1回投与当たり、0.005~5mg/kg体重が好ましく、0.005~1mg/kg体重がより好ましい。投与方法は限定されないが、静注する場合、一回につき0.005~5mg/kg体重を生理食塩水等に溶解して投与することができる。
【0038】
また、医薬組成物中に医薬組成物の重量基準で0.1~50(w/w)%、好ましくは5~30(w/w)%含有されていてもよい。
【0039】
所定の投与量は1回の投与で与えてもよいし、1日当たり2回、3回、4回又はそれ以上の分割投与とし、適当な間隔で与えてもよい。
【0040】
カルシウムチャネル阻害剤は、他の予防剤および/または治療剤と組み合わせて投与しても良い。「組み合わせて」とは、1つ以上の予防剤および/または治療剤との併用を意味する。「組み合わせて」という用語の使用は、投与対象にカルシウムチャネル阻害剤、ならびに予防剤および/または治療剤が投与される順序を限定しない。第1の薬剤を、投与対象に第2の薬剤を投与する前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間前)、投与と同時、または投与後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間後)に投与することができる。
【0041】
組み合わせて投与することができる他の予防剤および/または治療剤としては、FIPの治療および予防に使用することが公知である薬剤、例えばステロイド剤、抗生物質、インターフェロン、ビタミン剤、栄養剤などが挙げられるがこれらに限定されない。さらに、他の予防剤および/または治療剤として、FIPVの特定の遺伝子(例えば、マトリックス遺伝子と3CLpro遺伝子)のmRNAを標的とするRNAi分子等が挙げられる(特開2009-165356号公報および特開2009-165357号公報)。
【0042】
カルシウムチャネル阻害剤投与の効果は、FIPの症状(患部の重篤度、範囲など)がカルシウムチャネル阻害剤を投与していない個体、または投与前と比較して緩和していることを指標にして評価することが可能である。また、カルシウムチャネル阻害剤投与の効果は、投与対象におけるFIPVのコピー数(FIPVのコピー数を示すFIPVの総mRNAまたは特定遺伝子(マーカー遺伝子)のmRNAもしくはタンパク質の発現量)が、カルシウムチャネル阻害剤を投与していない個体、または投与前のものと比較して低下していることを指標にして評価することが可能である。測定対象がmRNAである場合には、ノザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、in situ hybridizationなどによって測定することができる。また、測定対象がタンパク質である場合には、ウエスタンブロッティング、ELISA、抗体を結合させたプロテインチップを用いた測定、タンパク質の活性測定などによって測定することができる。
【実施例0043】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
[実施例1] Caチャネル阻害剤によるFIPVの複製抑制試験
1.材料と方法
(1) 使用細胞株と細胞培養法
使用細胞株:fcwf-4(ネコ全胎児細胞)
培養液は、5(v/v)%又は10(v/v)%牛胎子血清加DULBECCO’S MODIFIE’S MEDIUM (D-MEM,Wako,glucose 4500 mg/L,L-glutamine,NaHCO3pyridoxine(WAKO),HCL)を用いた。10 cmディッシュ(Roche)に細胞を播腫し、37℃、5% CO2条件下で静置培養し、80%コンフルエントとなった状態で継代、維持した。
【0045】
(2) 使用した薬剤
Caチャネル阻害作用のある表1の薬剤を使用した。
【0046】
【表1】
【0047】
(3) Caチャネル阻害剤によるfcwf-4への毒性試験
96ウェルプレート(TPP)にfcwf-4を104細胞/ウェル播種し、37℃、5% CO2条件下、10(v/v)% 牛胎子血清加D-MEMで静置培養した。翌日、5(v/v)%牛胎子血清加D-MEMで薬剤濃度を100μMから0.2μMまで2段階希釈したものを培養細胞に添加し、更に20時間の静置培養を行った。そして、Cell Counting KiT-8(同仁化学研究所)10μlを各ウェルに添加し、37℃、5% CO2条件下で2時間静置培養した。その後、Thermo Scientific Multiscan FCを用いて450 nmの吸光度を調べた。結果を図1に示す。
【0048】
(4) Caチャネル阻害剤におけるFIPV複製への影響
(i) FIPV感染とCaチャネル阻害剤処置
fcwf-4細胞を12プレートに2.5×105播種し、これを37℃、5% CO2条件下で24時間培養後、MOI 0.01でFIPウイルス(79-1146株)液を500μL/ウェルに加え、37℃、5% CO2条件下で30分間静置した。静置後ウイルス感染ウェルを3回洗浄し、段階希釈により調整した各濃度のCaチャネル阻害剤を500μL/ウェル加えた。細胞変性がみられた20時間後に、細胞培養上清を回収後、Cell Lysis Buffer (100μL/ウェル)を各ウェルに添加し、細胞溶解液を回収した。
【0049】
(ii) ウエスタンブロット法によるウイルスタンパク質の検出
回収した蛋白質を表2に示すように調製し、以下に示した手順でSDS-PAGE、ウエスタンブロッティングを行った。
【0050】
【表2】
【0051】
SDS-PAGE
泳動ゲルはWako製のSuperSep Ace 12.5%-13 wellを使用し、Wako製のEasy Separatorにセットした。泳動バッファーとして1×SDS PAGE Bufferを使用し、調整したサンプル及びマーカーを各ウェルに入れ、200 V定電圧、70分間、電気泳動を行った。
【0052】
メンブレンの前処理
ブロッティング用のメンブレンとしてSP PVDFメンブレン(Wako)を使用した。前処理としてメタノールに10秒浸した後、転写バッファー[Bjerrum & Schaffer (48 mM Tris,39 mM glycine,20(w/v)% Methanol)]にて平衡化した。また、3 MM濾紙(Bio-Rad)も転写バッファーに浸した。
【0053】
ブロッティング
泳動終了後、前述のように処理した膜及び濾紙でPVDFメンブレンとゲルを挟み、これをセミドライ式ブロッティング装置(トランスブロットTurboシステム)にセットし、25 V定電圧、1.0 A、30分間通電させた。
【0054】
抗原抗体反応
(a) ブロッキング
トランスファー終了後、下記ブロッキング液10 mLとPVDFメンブレンを入れ、4℃、オーバーナイトで振盪しブロッキングを行った。ブロッキング後、PVDFメンブレンをTBSTで5分間浸透しながら洗浄した(ブロッキング液:5(w/v)%スキムミルク(森永乳業)加TBST)。
【0055】
(b) 1次抗体反応
1次抗体反応として表3に示す1次抗体をMax Blot Solution 1(TOYOBO)で各々希釈し、PVDFメンブレンと抗体希釈液を入れ、室温で1時間振蘯した。1次抗体反応後、PVDFメンブレンをTBSTで5分間振蘯しながら3回洗浄を繰り返した。
【0056】
(c) 2次抗体反応
2次抗体反応として表3に示す2次抗体をMax Blot Solution 2(TOYOBO)で希釈し、PVDFメンブレンと抗体希釈液を入れ、室温で再び30分間振蘯した。反応後、1次抗体の時と同様にPVDFメンブレンを洗浄した。
【0057】
【表3】
【0058】
ケミルミネッセンス
抗体反応させたPVDFメンブレンと抗体希釈液にImmobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(MILLIPORE)を反応させ、LA-3000 (FUJIFILM)にてバンドを可視化した。結果を図2に示す。
【0059】
(iii) TCID50法によるウイルス力価の測定
96ウェルプレート全てのウェルに、50μLずつ5(v/v)%牛胎子血清加D-MEMを入れた。そして、回収した感染細胞の培養上清を5(v/v)%牛胎子血清加D-MEMを用いて10-4に段階希釈したものを25μLずつ第1列目に加えた。続いて、第1列目のウェルから25μLを第2列目のウェルに移した。以下同じ操作を11列目まで繰り返すことで,3の段階希釈を311×10-4まで作製した。なお、12列目は非感染細胞のコントロールとした。次に、10 cmシャーレのfcwf-4細胞を5(v/v)%牛胎子血清加D-MEM6 mLに再懸濁し、この細胞溶液を50μLずつ96ウェルに加えた。そして、48時間後に細胞変性の終末点を顕微鏡で判定した。この結果からケルバーの式(下記表記)を用いてTCID50を求めた。結果を表4及び図3に示す。
【0060】
【数1】
【0061】
2.結果
(i) Caチャネル阻害剤によるfcwf-4への毒性試験結果
結果を図1に示す。ベラパミル、テトランドリン、ガバペンチン、ジルチアゼムそして、Trans-Ned19は50μM以下の濃度では毒性を示さなかった。また、アムロジピンは25μM以下、BAPTAは2.5μM以下の濃度では毒性を示さなかった。
【0062】
(ii) ウエスタンブロット法によるウイルス蛋白質の検出
fcwf-4細胞をFIPVに感染後、Caチャネル阻害剤を添加したものをウエスタンブロットにてタンパクの発現を確認した。結果を図2に示す。なお、使用した各Caチャネル阻害剤の薬剤濃度は毒性試験の結果をもとに調整した。
【0063】
(ベラパミル, ガバペンチン, ジルチアゼム, Trans-Ned19: 50μM, 25μM, 12.5μM, 6.3μM, 3.2μM, 1.6μM, 0.8μM, 0.4μM, 0.2μM, テトランドリン,アムロジピン: 25μM, 12.5μM, 6.3μM, 3.2μM, 1.6μM, 0.8μM, 0.4μM, 0.2μM, BAPTA: 5μM, 2.5μM, 1.2μM, 0.6μM, 0.3μM, 0.15μM)
ベラパミル、テトランドリン、アムロジピンそしてBAPTA添加時では、FIPV複製の抑制がみられた。一方で、ガバペンチン、ジルチアゼム、Trans-Ned19ではFIPV複製の抑制はみられなかった。
【0064】
(iii) TCID50法によるウイルス力価の測定結果
TCID50法を用いて、Caチャネル阻害剤添加時のウイルス力価を測定した。結果は表4及び図3に示す。なお、この測定はウエスタンブロット法の結果より、ウイルス抑制効果のみられた薬剤のみで行った(ベラパミル、テトランドリン、アムロジピン、BAPTA)。また、各薬剤につき独立して実験を行った。
【0065】
FIPV感染後にベラパミル、テトランドリン、アムロジピン、BAPTAをそれぞれ添加すると、FIPV複製の抑制がみられた。
【0066】
【表4】
【0067】
[実施例2] Two pore channel(TPC1)のshRNAによるノックダウン実験
1.TPC1遺伝子に対するノックダウンプラスミドの作製
Ca拮抗薬の標的で分子であるネコTPC1のコーデイング領域に対し、以下のshRNAを作製するためのオリゴヌクレオチドを合成した。
sh-fTPCN1-921-sense:GATCCAGCTGTACTTCATCATGAATTCAAGAGATTCATGATGAAGTACAGCTCGA(配列番号1)
sh-fTPCN1-921-antisense:AGCTTCGAGCTGTACTTCATCATGAATCTCTTGAATTCATGATGAAGTACAGCTG(配列番号2)
これらのオリゴヌクレオチドをアニーリング後、pSilencer 4.1 CMV-puro(Ambion)ベクターのHindIII-BamHI部位に挿入した。得られたベクターの挿入配列をシーケンス解析し挿入配列を確認した。この構築されたベクターをfcwf-4細胞に導入後、ピュロマイシンで薬剤選択し、得られた細胞コロニーをクローニングした。
【0068】
2.ネコTPC1遺伝子に対するshRNA法によるTPC1遺伝子発現抑制実験
上記の実験で得られた細胞を12ウェルプレートに2.5×105播種し、37℃、5% CO2条件下で24時間培養後に細胞を回収し、TPC1遺伝子発現量を親株のfcwf-4細胞株のものとリアルタイムPCR法で比較解析した。この結果、約30~40%の遺伝子発現抑制が認められた(図4)。
【0069】
3.ネコTPC1遺伝子ノックダウン細胞におけるFIPV遺伝子発現実験
図4で遺伝子発現抑制が認められた細胞株を12ウェルプレートに2.5×105播種し、37℃、5% CO2条件下で24時間培養後、MOI 0.01でFIPウイルス(79-1146株)液を感染させた。細胞変性がみられた20時間後に細胞を回収し、リアルタイムPCR法でウイルス遺伝子発現量を定量し、親株のfcwf-4細胞株のものと比較解析した。この結果、各細胞において61.3%から80%の割合でウイルス複製が減少した(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0070】
L型カルシウム拮抗薬やカルシウムキレート剤を、ネコ伝染性腹膜炎(feline infection peritonitis: FIP)の治療又は予防薬として用いることができる。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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