(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082099
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】情報処理装置、電力供給システム、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20220525BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20220525BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20220525BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20220525BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20220525BHJP
H01M 8/04701 20160101ALI20220525BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220525BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/04701
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193461
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋元 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】岡島 敬一
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA56
5H127BA59
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB36
5H127BB37
5H127BB39
5H127CC05
5H127DB47
5H127DB53
5H127DB63
5H127DB68
5H127DC02
5H127DC04
5H127DC32
5H127DC43
5H127DC73
(57)【要約】
【課題】燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出すること。
【解決手段】情報処理装置は、燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得する取得部と、前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出する導出部と、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する導出部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得する取得部と、
前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出する処理部と、
前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する導出部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記複数の分極は、抵抗分極および濃度分極を含み、
前記処理部は、抵抗分極を導出する第1モデルに前記電流指標を適用して抵抗分極、濃度分極を導出する第2モデルに前記電流指標を適用して濃度分極を導出し、
前記導出部は、前記電圧指標が閾値未満である場合に、前記抵抗分極と前記電流指標に対して設定された基準抵抗分極との抵抗分極差異と、前記濃度分極と前記電流指標に対して設定された基準濃度分極との濃度分極差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記複数の分極は、更に活性化分極を含み、
前記処理部は、活性化分極を導出する第3モデルに前記電流指標を適用して活性化分極を導出し、
前記導出部は、前記電圧指標が閾値未満である場合に、前記抵抗分極差異と、前記濃度分極差異と、前記活性化分極と前記電流指標に対して設定された基準活性化分極との活性化分極差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記取得部は、更に前記燃料電池セルの温度を取得し、
前記複数のモデルのうち一部または全部のモデルは、前記電流指標に加え、前記取得部が取得した温度に関する指標を用いて前記分極を導出するモデルである、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記導出部は、
前記取得された電流指標および電圧指標を、電流指標を所定の範囲に区画したカテゴリに基づいて分類し、前記分類の結果に対応する1つの電流指標および1つの電圧指標に基づいて複数の分極を導出し、
前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、分類の結果に対応付けられた複数の基準分極のそれぞれと、導出した前記複数の分極のそれぞれとを比較して、前記手法を導出する、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記導出部は、前記抵抗分極差異と前記濃度分極差異とのうち大きい差異に対応付けられた手法を、前記電圧値を上昇させるための手法に決定する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記抵抗分極差異が大きい場合、前記燃料電池セルを冷却させるための制御を実行し、
前記濃度分極差異が大きい場合、前記燃料電池セルの水素の排出口を開放させ、且つ前記燃料電池セルに流入させる空気または酸素の量を調整する制御を実行する、制御部を更に備える、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記導出部は、前記抵抗分極差異と前記濃度分極差異と前記活性化分極差異とのうち最も大きい差異に対応付けられた手法を、前記電圧値を上昇させるための手法に決定する、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記抵抗分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルを冷却させるための制御を実行し、
前記濃度分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルの水素の排出口を開放させ、且つ前記燃料電池セルに流入させる空気または酸素の量を調整する制御を実行し、
前記活性化分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルに供給する水素の圧力を上昇させる制御を実行する、制御部を更に備える、
請求項8に記載の情報処理装置。
【請求項10】
請求項1から9のうちいずれか1項に記載の情報処理装置と、
複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックと、
を有する電力供給システム。
【請求項11】
前記燃料電池セルに水素を供給する第1供給設備と、
前記燃料電池セルに空気または酸素を供給する第2供給設備と、
前記燃料電池セルを冷却する冷却設備と、を更に備える、
請求項10に記載の電力供給システム。
【請求項12】
コンピュータが、
燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得し、
前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出し、
前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する、
情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータに、
燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得させ、
前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出させ、
前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、電力供給システム、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、出力電流を測定しながら出力電圧を測定することで燃料電池の電流電圧特性を取得し、電流値を大中小の領域毎に分けて、燃料電池の濃度電圧損失、抵抗電圧損失及び活性化電圧損失を個別に求め、濃度電圧損失、抵抗電圧損失及び活性化電圧損失特性に燃料電池動作のモデル式をフィッティングさせることにより、拡散層、電解質膜及び触媒層の物理パラメータを推定することを特徴とする燃料電池の物理パラメータ推定方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-026567号公報
【特許文献2】特開2010-123279号公報
【特許文献3】特開2009-117110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術は、静的な物理パラメータを推定するものであり、燃料電池の動作中に動的に変化するパラメータを推定し、動作性能を向上させるための手法を簡便・適切に導出することはできなかった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、実稼働中における燃料電池の動作を向上させるための手法を簡便または適切に導出することができる情報処理装置、電力供給システム、情報処理方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る情報処理装置、電力供給システム、情報処理方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る情報処理装置は、燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得する取得部と、前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出する処理部と、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する導出部とを備える。
【0007】
(2):上記(1)の態様において、前記複数の分極は、抵抗分極および濃度分極を含み、前記処理部は、抵抗分極を導出する第1モデルに前記電流指標を適用して抵抗分極、濃度分極を導出する第2モデルに前記電流指標を適用して濃度分極を導出し、前記導出部は、前記電圧指標が閾値未満である場合に、前記抵抗分極と前記電流指標に対して設定された基準抵抗分極との抵抗分極差異と、前記濃度分極と前記電流指標に対して設定された基準濃度分極との濃度分極差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。
【0008】
(3):上記(2)の態様において、前記複数の分極は、更に活性化分極を含み、前記処理部は、活性化分極を導出する第3モデルに前記電流指標を適用して活性化分極を導出し、前記導出部は、前記電圧指標が閾値未満である場合に、前記抵抗分極差異と、前記濃度分極差異と、前記活性化分極と前記電流指標に対して設定された基準活性化分極との活性化分極差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。
【0009】
(4):上記(1)から(3)のいずれかの態様において、前記取得部は、更に前記燃料電池セルの温度を取得し、前記複数のモデルのうち一部または全部のモデルは、前記電流指標に加え、前記取得部が取得した温度に関する指標を用いて前記分極を導出するモデルである。
【0010】
(5):上記(1)から(4)のいずれかの態様において、前記導出部は、前記取得された電流指標および電圧指標を、電流指標を所定の範囲に区画したカテゴリに基づいて分類し、前記分類の結果に対応する1つの電流指標および1つの電圧指標に基づいて複数の分極を導出し、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、分類の結果に対応付けられた複数の基準分極のそれぞれと、導出した前記複数の分極のそれぞれとを比較して、前記手法を導出する。
【0011】
(6):上記(2)の態様において、前記導出部は、前記抵抗分極差異と前記濃度分極差異とのうち大きい差異に対応付けられた手法を、前記電圧値を上昇させるための手法に決定する。
【0012】
(7):上記(6)の態様において、前記抵抗分極差異が大きい場合、前記燃料電池セルを冷却させるための制御を実行し、前記濃度分極差異が大きい場合、前記燃料電池セルの水素の排出口を開放させ、且つ前記燃料電池セルに流入させる空気または酸素の量を調整する制御を実行する、制御部を更に備える。
【0013】
(8):上記(3)の態様において、前記導出部は、前記抵抗分極差異と前記濃度分極差異と前記活性化分極差異とのうち最も大きい差異に対応付けられた手法を、前記電圧値を上昇させるための手法に決定する。
【0014】
(9):上記(8)の態様において、前記抵抗分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルを冷却させるための制御を実行し、前記濃度分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルの水素の排出口を開放させ、且つ前記燃料電池セルに流入させる空気または酸素の量を調整する制御を実行し、前記活性化分極差異が最も大きい場合、前記燃料電池セルに供給する水素の圧力を上昇させる制御を実行する、制御部を更に備える。
【0015】
(10):この発明の一態様に係る電力供給システムは、上記(1)から(9)のいずれかの態様の情報処理装置と、複数の燃料電池セルが積層された燃料電池スタックと、を有する。
【0016】
(11):上記(10)の態様において、前記燃料電池セルに水素を供給する第1供給設備と、前記燃料電池セルに空気または酸素を供給する第2供給設備と、前記燃料電池セルを冷却する冷却設備と、を更に備える。
【0017】
(12):この発明の一態様に係る情報処理方法は、コンピュータが、燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得し、前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出し、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。
【0018】
(13):この発明の一態様に係るプログラムは、コンピュータに、燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得させ、前記電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出させ、前記電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、前記複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、前記複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、前記燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出させる。
【発明の効果】
【0019】
上記(1)-(13)の態様によれば、情報処理装置が、電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、複数の分極のそれぞれに対して設定された複数の基準分極のそれぞれと、実測された複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出することにより、燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。また、情報処理装置は、燃料電池スタックが稼働している際に、複数の燃料電池セルのうち、例えば、電圧値が低下した燃料電池セルの電圧値を上昇させる手法を導出することができるため、燃料電池スタック全体の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。
【0020】
上記(4)の態様によれば、情報処理装置は、温度に関する指標を用いて分極を導出するモデルを適用して分極を導出することにより、燃料電池セルの状態や環境を考慮した燃料電池の動作を向上させるための制御手法を導出することができる。
【0021】
上記(5)の態様によれば、情報処理装置は、複数の分極のそれぞれに対して設定され且つ分類したカテゴリに対応付けられた基準分極のそれぞれと、実測された複数の分極のそれぞれとを比較して、上記の手法を導出することにより、より精度よく制御手法を導出することができる。例えば、燃料電池セルに接続された負荷によって燃料電池セルが出力する電流が変動しても、この影響が抑制されるためである。
【0022】
上記(7)、(9)によれば、制御装置は、各種設備を制御することにより、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】情報処理装置を含む燃料電池システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】初期値情報152の内容の一例を示す図である。
【
図3】モデル情報154の内容の一例を示す図である。
【
図4】理論電圧(Theoretical voltage)と、各分極(Activation loss, Concentration loss, Ohmic loss)と、燃料電池セルが出力する電圧との関係の一例を示す図である。
【
図5】検出値情報156の内容の一例を示す図である。
【
図6】制御装置100により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】制御装置100により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図8】ステップS204-ステップS208等について説明するための図である。
【
図10】燃料電池セルが出力する電圧の変位と、検出濃度分極と基準活性化分極との差異の変位との一例を示す図である。
【
図11】本実施形態の処理で得られるI-V曲線と、他の手法により得られるI-V曲線とを示す図である。
【
図12】「All data」、「Reference」および「Prоpоsed」を生成するために用いられたプロットデータを示す図である。
【
図13】電流密度が500mA/cm
2のときの各手法の分極を示す図である。
【
図14】第2実施形態の制御装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の情報処理装置、電力供給システム、情報処理方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0025】
<第1実施形態>
図1は、情報処理装置を含む燃料電池システム1の構成の一例を示す図である。燃料電池システム1は、燃料電池ユニット10と、制御装置100とを備える。燃料電池ユニット10と、制御装置100とは通信線または無線通信を介して通信可能である。
【0026】
[燃料電池ユニット]
燃料電池ユニット10は、例えば、燃料電池スタック20と、エアポンプ30と、エア流量制御機構32と、冷却ファン40と、水素タンク50と、水素流量制御機構52と、センサ群70とを備える。
【0027】
燃料電池スタック20は、例えば、固体高分子形型燃料電池である。燃料電池スタック20は、例えば、複数の燃料電池セルが積層された積層体を含む。燃料電池セルは、アノード反応ガス(例えば水素)とカソード反応ガス(例えば酸素)とを反応させることにより起電力を発生させる。燃料電池スタック20は、発生させた電力を不図示の負荷に出力する。
【0028】
エアポンプ30は、燃料電池スタック20のカソード反応ガスの供給口に空気を供給する。エア流量制御機構32は、空気バルブや、空気流量コントローラを含み、制御装置100の制御に基づいて、燃料電池スタック20に供給する空気の流量を制御する。
【0029】
冷却ファン40は、制御装置100の制御に基づいて、燃料電池スタック20に風を送り、燃料電池スタック20を冷却する。
【0030】
水素タンク50には、高圧の水素が貯蔵され、燃料電池スタック20のアノード反応ガスの供給口に水素を供給する。水素流量制御機構52は、水素バルブや、水素流量コントローラを含み、制御装置100の制御に基づいて、水素タンク50から燃料電池スタック20に供給する水素の流量を制御する。
【0031】
センサ群70は、例えば、電流センサや、電圧センサ、温度センサなどを含む。電流センサは、各燃料電池セルにより出力される電流値を検出する。電圧センサは、各燃料電池セルにより出力される電圧値を検出する。温度センサは、各燃料電池セルの温度を検出する。
【0032】
[制御装置]
制御装置100は、例えば、取得部110と、処理部120と、導出部130と、制御部140と、記憶部150とを備える。取得部110、処理部120、導出部130、および制御部140は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)やCPU(Central Processing Unit)等のコンピュータプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの機能部は、ASSP(Application Specific Standard Product)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の演算に寄与する計算用ハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。
【0033】
記憶部150は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)などの不揮発性の記憶媒体を備える記憶装置、またはRAM(Random Access Memory)等の揮発性の記憶媒体を備える記憶装置により実現される。記憶部150には、例えば、初期値情報152と、モデル情報154と、検出値情報156とが記憶されている。これらの情報の詳細については後述する。
【0034】
[初期値情報]
図2は、初期値情報152の内容の一例を示す図である。初期値情報152は、燃料電池スタック20の初期(例えば出荷時や使用を開始する基準時)の状態を示す。初期値情報152は、例えば、電流密度(mA/cm
2)のレンジであるカテゴリに対して、電流密度(mA/cm
2)、電圧(V)、温度(℃)、後述するモデル式に基づく電圧(V)、活性化分極(V)、抵抗分極(V)、および濃度分極(V)が対応付けられた情報である。ここでは「電流指標」の一例として「電流密度」を用いた。例えば、
図2に示すように、カテゴリ分けの際に、電流密度が小さい範囲では、小さい電流レンジ(2mA/cm
2)が設定され、電流密度が大きい範囲では、大きい電流レンジ(25mA/cm
2)が設定される。この理由は、各レンジの標本数(サンプルデータ数)をほぼ同数とするためである。
【0035】
[モデル情報]
モデル情報154は、例えば、下記の式(1)に示す燃料電池セルが出力する電圧等を導出するモデルを含む。「V」はフィッティング電圧であり、「E0」は理論電圧である。「ηact」は活性化分極であり、「ηоhmic」は抵抗分極であり、「ηcоn」は濃度分極である。
【0036】
【0037】
モデル情報154は、例えば、上記の式(1)に代えて(または加えて)、下記の式(2)に示す燃料電池セルが出力する電圧等を導出するモデルを用いてもよい。本実施形態では、下記の式(2)を用いるものとして説明する。「E(T)」は温度情報が加味された理論電圧である。「ηact(T)」は温度情報が加味された活性化分極であり、「ηоhmic(T)」は温度情報が加味された抵抗分極であり、「ηcоn(T)」は温度情報が加味された濃度分極である。[T]は、例えば、燃料電池セルの温度(運転温度)である。[T]は、温度センサに検出された温度または温度に基づく指標である。
【0038】
【0039】
上記の式(2)は、下記の式(3)のように表現することができる。「T[b+aln{i}-A」は活性化分極を導出する項であり、「R
(T)・i」は抵抗分極を導出する項であり、「m
(T)exp{n・i}」は濃度分極を導出する項である。
図3に示すように、モデルに用いられる各種パラメータはモデル情報154として記憶部150に記憶されている。[参考文献1]Akimoto Y, Okajima K. Semi-Empirical Equation of PEMFC Considering Operation Temperature. Energy Technology Policy. 2014; 1(1):91-96
【0040】
【0041】
【0042】
図4は、理論電圧E(Theoretical voltage)と、各分極(Activation loss, Concentration loss, Ohmic loss)と、燃料電池セルが出力する出力電圧との関係の一例を示す図である。
図4の縦軸は燃料電池セルが出力する電圧[V]を示し、
図4の横軸は燃料電池セルが出力する電流[A]を示している。
図4の一点鎖線は、理論電圧Eから活性化分極(Activation loss)が除去された電圧である。
図4の二点鎖線は、理論電圧Eから活性化分極および濃度分極(Concentration loss)が除去された電圧である。
図4の実線は、出力電圧であり、理論電圧Eから活性化分極、濃度分極、および抵抗分極(Ohmic loss)が除去された電圧である。
図4に示すように、電流が小さい領域では、活性化分極の影響が支配的であり、抵抗分極および濃度分極の影響は小さい。また、電流の小さい領域では、活性化分極が変化するが、他の領域では活性化分極の影響の変化は小さい。一方、電流が大きい領域では抵抗分極または濃度分極の影響が増大する傾向となる。
図4に示すように、フィッティング電圧は、活性化分極、抵抗分極、および濃度分極の影響が加味されて導出される。
【0043】
[検出値情報]
図5は、検出値情報156の内容の一例を示す図である。検出値情報156は、各燃料電池セルが出力する電流の電流密度(mA/cm
2)と、電圧(V)と、温度(℃)とが互いに対応付けられた情報である。検出値情報156は、センサ群70が所定周期ごとに検出した情報である。
【0044】
[機能部]
取得部110は、燃料電池セルが出力する電流値、電圧値、および温度を取得する。温度をモデルに適用しない場合は、取得部110は、温度の取得を省略してもよい。取得部110は、センサ群70が検出した情報をセンサ群70から取得し、取得した情報(検出値情報156)を記憶部150に記憶させる。
【0045】
処理部120は、電流指標および温度に基づく指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出する。処理部120は、検出値情報156の電流値に基づく指標および温度に基づく指標をモデル情報154に含まれるモデルに適用して抵抗分極を導出し、検出値情報156の電流値に基づく指標および温度に基づく指標をモデル情報154に含まれるモデルに適用して濃度分極を導出する。処理部120は、検出値情報156の電流値に基づく指標および温度に基づく指標をモデル情報154に含まれるモデルに適用して活性化分極を導出する。電流指標または電流値に基づく指標は、例えば、電流値や電流密度、またはこれらに基づいて得られて指標である。具体的な例については後述する。温度に基づく指標は、例えば、燃料電池セルの運転温度や運転温度から得られた指標である。処理部120は、温度を省略して、各分極を導出してもよい。
【0046】
導出部130は、電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。電圧指標については後述する。
【0047】
導出部130は、検出値情報156の電圧値が閾値電圧未満である場合に、抵抗分極差異と、濃度分極差異と、活性化分極差異とを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。抵抗分極差異は、抵抗分極と電流指標に対して設定された基準抵抗分極(例えば検出値情報156の電流密度のカテゴリに対応する初期値情報152の抵抗分極)との差異である。濃度分極差異は、濃度分極と電流指標に対して設定された基準濃度分極(例えば検出値情報156の電流密度のカテゴリに対応する初期値情報152の濃度分極)との差異である。活性化分極差異は、活性化分極と電流指標に対して設定された基準活性化分極(例えば検出値情報156の電流密度のカテゴリに対応する初期値情報152の活性化分極)との差異である。
【0048】
「手法」は、冷却手法、パージ手法、および水素圧力上昇手法を含む。冷却手法は、冷却ファン40を作動させて燃料電池セルを冷却することである。パージ手法は、パージ制御を実行することである。パージ制御は、燃料電池セルの水素の排出口を開放させ、且つエアポンプ30の流量を水素の量に応じて調整する制御である。水素圧力上昇手法は、水素タンク50が供給する燃料である水素を供給する際の圧力を上昇させることである。「手法を導出する」とは、冷却手法、パージ手法、水素圧力上昇手法のうち、いずれの手法を適用するかを決定することや、どの順番でどの手法を適用するかを決定することを含む。
【0049】
「閾値電圧」は、上記の比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する処理を行った場合に、燃料電池セルが出力する電圧がゼロにならないことを条件に決定される値である。「閾値電圧」は、制御サイクルを考慮して、燃料電池セルが出力する電圧がゼロにならない程度のマージンを設けて設定される値である。
【0050】
制御部140は、導出部130により導出された手法に基づいて制御を実行する。冷却手法を実行する場合、制御部140は、冷却ファン40を制御する。パージ手法を実行する場合、制御部140は、不図示の排出口を開放させる制御を実行すると共に、エア流量制御機構32を制御する。水素圧力上昇手法を実行する場合、制御部140は、水素流量制御機構52を制御する。
【0051】
以下、制御装置100が実行する処理について、フローチャートを参照して説明する。
【0052】
[フローチャート(その1)]
図6は、制御装置100により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。本処理は、燃料電池スタック20が稼働する前に実行される処理である。まず、制御装置100は、初期値情報152を設定する(ステップS100)。次に、制御装置100は、閾値電圧Vaを設定する(ステップS102)。
【0053】
初期値情報152と閾値電圧Vaとのうち一方または双方は、ユーザの操作によって設定されてもよいし、制御装置100が実行するプログラムに埋め込まれていてもよい。また、制御装置100は、ネットワークを介して取得した初期値情報を初期値情報152として設定し、ネットワークを介して取得した閾値電圧を閾値電圧Vaとして設定してもよい。ネットワークは、インターネットやLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、セルラー網などを含む。これにより、初期値情報152および閾値電圧Vaが設定されて、本フローチャートの処理が終了する。
【0054】
[フローチャート(その2)]
図7は、制御装置100により実行される処理の流れの一例を示すフローチャートである。本処理は、
図6のフローチャートの処理後に実行される処理である。
【0055】
まず、制御装置100は、燃料電池スタック20の運転が開始されたか否かを判定する(ステップS200)。燃料電池スタック20の運転が開始された場合、取得部110は、センサ群70から各燃料電池セルの電流値、電圧値、および温度を取得し、取得した情報から処理に用いる電流指標、電圧指標(電圧値V1)、および温度を取得する。(ステップS202)。
【0056】
ここで、取得部110は、例えば、所定周期ごとに取得された電流、電圧、および温度の検出値から電流指標のカテゴリごとに1つの電圧指標および1つの温度を得る。電流指標のカテゴリごとの1つの電圧指標および1つの温度は、例えば、カテゴリの範囲内の電流指標に対応する検出値が統計処理された値であって、カテゴリの範囲内の各電流指標に対応付けられた電圧指標の平均値や、温度の平均値、電圧指標の中央値、温度の中央値、外れ値を除いて統計的に得られた値等である。これらの値が以降の処理(分極を求める処理)に用いられる。例えば、ステップS202の処理において、カテゴリの範囲外の電流指標が得られた場合に、取得部110は、カテゴリの範囲外の電流指標が得られる前に得られたカテゴリの範囲内の電流指標に対応する検出値に対して統計処理を行ってカテゴリの電圧指標および温度を取得する。電流指標および温度も、上記と同様に求められてもよい。電流指標は、カテゴリに対して設定された指標であってもよい。この処理により、検出値の偏りが抑制され、以降の処理で得られる結果(例えば導出される分極)の精度が向上する。なお、以降の処理に用いる、電圧指標、電圧指標または温度は、検出値であってもよい。
【0057】
次に、処理部120が、ステップS202で取得した電圧値V1が閾値電圧Va未満であるか否かを判定する(ステップS204)。すなわち、電圧値V1が閾値電圧Va未満である燃料電池セルが存在するか否かが判定される。電圧値V1が閾値電圧Va未満でない場合、ステップS202の処理に戻る。なお、電圧値V1は、検出値でもよいし、ステップS202で得られた電流指標のカテゴリに対応する電圧値であってもよい。
【0058】
電圧値V1が閾値電圧Va未満である場合、処理部120は、各分極を求める(ステップS206)。各分極は、例えば、ステップS202で得られた各指標(電流指標および温度)に基づいて導出される。次に、導出部130は、求めた分極のそれぞれと、初期値情報152の分極との差異を導出する(ステップS208)。ステップS206およびステップS208の処理は、ステップS202とステップS204との間で実行されてもよい。上記の[ステップS204-ステップS208、および以降の判定処理(ステップS210、S214、S218)]については、
図8、
図9を参照して後述する。
【0059】
次に、導出部130は、ステップS208で導出した差異である抵抗分極差異と濃度分極差異と活性化分極差異とを比較して、これらのうち活性化分極差異が最大であるか否かを判定する(ステップS210)。活性化分極差異が最大である場合、制御部140が、水素流量制御機構52を制御して、水素を供給する際の圧力を上昇させる(ステップS212)。活性化分極は、触媒活性による運転温度と圧力の上昇により低減されるため、燃料供給圧力が上昇するように制御が実行される。
【0060】
活性化分極差異が最大でない場合、導出部130は、抵抗分極差異と、濃度分極差異と、活性化分極差異とを比較して、これらのうち抵抗分極差異が最大であるか否かを判定する(ステップS214)。抵抗分極差異が最大である場合、制御部140が、冷却ファン40を作動させて燃料電池セルを冷却させる(ステップS216)。抵抗分極は、イオン交換膜の乾燥(ドライアウト)により生じるため、乾燥を緩和させるために運転温度を低下させる処理が実行される。
【0061】
抵抗分極差異が最大でない場合、導出部130は、抵抗分極差異と、濃度分極差異と、活性化分極差異とを比較して、これらのうち濃度分極差異が最大であるか否かを判定する(ステップS210)。濃度分極差異が最大である場合、制御部140が、パージ制御を実行する(ステップS220)。濃度分極は、反応ガスの反応と反応ガスの流量との偏差や反応表面積の減少(フラッディング)により発生するため、水素の排出口の開放と、反応ガスの流量の調整とを行う制御が実行されることで低減される。
【0062】
ステップS218またはS220の処理後、制御部140は、燃料電池スタック20の運転が終了したか否かを判定する(ステップS222)。燃料電池スタック20の運転が終了していない場合、ステップS202に戻り、燃料電池スタック20の運転が終了した場合、本フローチャートの処理が終了する。
【0063】
なお、上記の処理において、活性化分極差異が第1閾値以上である場合に、水素を供給する際の圧力を上昇させる制御が実行され、抵抗分極差異が第2閾値以上である場合に、冷却ファン40が作動する制御が実行され、濃度分極差異が第3閾値以上である場合に、パージ制御が実行されてもよい。また、上記のフローチャートの処理の順序は適宜変更されてもよい。
【0064】
[ステップS204-ステップS208、および以降の判定処理(ステップS210、S214、S218)]について説明する。
【0065】
図8は、ステップS204-ステップS208等について説明するための図である。制御装置100は、検出値情報156をカテゴリに分類する。制御装置100は、カテゴリに対応する電圧値V1が閾値電圧Va未満(例えば0.25V未満)であると判定すると、カテゴリに対応する電流指標、温度をモデル情報154のモデル式(例えば上述した式(3))に適用して、活性化分極(検出活性化分極)、抵抗分極(検出抵抗分極)、および濃度分極(検出濃度分極)を求める。制御装置100は、電圧値V1が閾値電圧Va未満となったときの電流指標に対応するカテゴリを決定し、カテゴリ(
図8では100-125)に対応する電流指標、電圧指標および温度に基づいて各分極を導出する。制御装置100は、初期値情報152から上記のカテゴリに対応する、基準活性化分極、基準抵抗分極、および基準濃度分極を取得する。そして、制御装置100は、同じ種別の分極同士を比較して、分極間の差異を導出する。制御装置100は、検出活性化分極と基準活性化分極との差異、検出抵抗分極と基準抵抗分極との差異、および検出濃度分極と基準濃度分極との差異を導出する。以下、検出活性化分極、検出抵抗分極、および検出濃度分極を区別しない場合は、「検出分極」と称し、基準活性化分極、基準抵抗分極、および基準濃度分極を区別しない場合は、「基準分極」と称する場合がある。
【0066】
図9は、分極の比較結果の一例を示す図である。図示する例では、検出分極から基準分極を減算した電圧[V]を示している。例えば、本例の様に検出濃度分極と基準濃度分極との差異が他の差異に比べて大きい場合、制御部140は、前述したようにパージ制御を実行する。
【0067】
図10は、燃料電池セルが出力する電圧(セル電圧[V])の変位と、濃度分極[V]の変位との一例を示す図である。例えば、燃料電池セルに対する制御を一定(電流を20A)にし、低流量、低動作温度で燃料電池セルを稼働させることで、時間が経過するとフラッディングが生じるように実験を行った。フラッディングとは、発電時に生成される水が燃料電池内に滞留してアノードガスの供給および反応を阻害する現象である。この場合、燃料電池セルが出力する電圧は時間の経過によって減少した。燃料電池セル(CELL 5)が出力する電圧が閾値電圧Va(例えば0.25V)未満となった時刻Txに、前述した
図7のフローチャートのステップS206以降の処理が実行され、前述した
図9で示したように検出濃度分極から基準濃度分極を減算した電圧(Concentration overpotential)が最大であると判定され、制御部140は、パージ制御を実行した。パージ制御が実行されると、濃度分極が減少傾向となり、燃料電池セルが出力する電圧が上昇した。このように、実験結果では、フラッディングの障害が除去された。
【0068】
上記のように、制御装置100は、種別ごとの検出分極と基準分極との差異を比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出することにより、燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。更に、制御装置100は、導出した手法を実行することにより、燃料電池の動作を向上させることができる。
【0069】
[電流指標をカテゴリに分類する処理についての説明]
図11は、本実施形態の処理で得られるI-V曲線と、他の手法により得られるI-V曲線とを示す図である。
図10の縦軸は燃料電池セルが出力するセル電圧[V]を示し、
図10の横軸は燃料電池セルが出力する電流密度[A/cm
2]を示している。図中、「Reference」は、前述した[参考文献1]において、式(2)を用いて実験により得られたものである。「Reference」が示すI-V曲線は、燃料電池セルの特性を示す基準となるI-V曲線である。具体的には、「Reference」は、本実施形態の
図7のフローチャートの処理を適用せずに、任意の電流値のときの燃料電池セル電圧と温度を計測し、所定温度に到達した場合に、冷却ファンが作動して燃料電池セルを冷却する処理が行われて得られたI-V曲線である。「All data」は、所定周期で得られたすべてのデータを用いて本実施形態の
図7のステップS204以降の処理を実行して生成されたI-V曲線を示している。「Prоpоsed」は、前述した
図7のフローチャートの処理を行って得られたI-V曲線である。「Prоpоsed」は、本実施形態で示したように、所定の電流密度のレンジで電圧と電流との関係をプロットして得られたI-V曲線である。これらのI-V曲線は、後述する
図12に示すプロットデータを最小二乗法などの手法を用いて統計処理して得られる電流-電圧データからなる曲線である。
【0070】
「All data」のI-V曲線は、「Reference」のI-V曲線に対して大きく乖離しているが、「Prоpоsed」のI-V曲線は、「Reference」のI-V曲線と同様の傾向を示している。これは以下の理由による。
【0071】
図12は、「All data」、「Reference」および「Prоpоsed」を生成するために用いられたプロットデータを示す図である。「All data」のプロットデータは、特に低電流密度領域で他の電流密度領域よりも多くプロットデータが存在する。このため、曲線を生成する際に低電流密度領域のプロットデータや外れ値などのプロットデータの影響が大きくなるため、
図11で示したように、「All data」のI-V曲線は、「Reference」のI-V曲線に対して大きく乖離する。一方、本実施形態では、電流密度のレンジごと(カテゴリごと)のデータを用いているため、「Prоpоsed」のI-V曲線は、燃料電池セルの特性を示す基準となる「Reference」のI-V曲線と同様の傾向を示している。
【0072】
図13は、電流密度が500mA/cm
2のときの各手法の分極を示す図である。「All data」の活性化分極は過大評価され、他の分極は過小評価された。「Reference」の分極と「Prоpоsed」の分極との最大差は0.05である。このように、「Prоpоsed」の分極の傾向は、基準である「Reference」の分極の傾向と同様であり、「Prоpоsed」の分極分離精度は維持される。
【0073】
本実施形態では、電流密度をカテゴリに分類して、分類の結果を用いて各分極を比較した比較結果に基づいて、電圧を上昇させるための制御を実行する。これにより、本実施形態の制御装置100は、上述したようにプロットデータに偏りが生じる場合であっても、各電流レンジのサンプルデータの数を均一化して、検出分極と基準分極との差異に基づく制御を行うことにより、精度の向上と処理負荷の軽減とを実現することができる。
【0074】
以上説明した第1実施形態によれば、制御装置100は、電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出し、電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させるための手法を導出することにより、燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。より具体的には、制御装置100は、燃料電池セルが稼働している際の温度を、各分極を導出するモデルのパラメータとして取り入れることで、各検出分極をより精度よく導出することができる。更に、制御装置100は、電流密度をカテゴライズして、カテゴライズした電流密度に対応する電圧および温度を用いて燃料電池が稼働中に燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させる適切な手法を導出し、導出した手法を適用する。これにより、制御装置100は、計算コストを抑制して運転中の燃料電池セルの状態をより適切に診断し、燃料電池セルが出力する電圧値を上昇させることができる。
【0075】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について説明する。第1実施形態では、活性化分極、抵抗分極、および濃度分極を求め、これらの分極と対応する初期値の分極とを比較し、比較結果に基づく制御を実行した。これに対して、第2実施形態では、活性化分極を求める処理、および活性化分極と対応する初期値の活性化分極とを比較する処理が省略される。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0076】
[フローチャート]
図14は、第2実施形態の制御装置100が実行する処理の流れの一例を示すフローチャートである。前述した
図7のフローチャートとの相違点を中心に説明する。
図14では、
図7のステップS206の処理に代えて、ステップS207の処理が実行され、ステップS210およびステップS212の処理が省略される。
【0077】
ステップS204で電圧値V1が閾値電圧Va未満であると判定された場合、処理部120は、抵抗分極、および濃度分極を求める(ステップS207)。次に、処理部120は、求めた分極と、初期値情報152の分極との差異を導出する。処理部120は、求めた抵抗分極と初期値情報152の抵抗分極との差異、および求めた濃度分極と初期値情報152の濃度分極との差異を導出する。そして、ステップS214-S222の処理が実行される。
【0078】
ステップS204で電圧値V1が閾値電圧Va未満であると判定されるような状況では、比較的に抵抗分極差異または濃度分極差異が生じやすい傾向であり、活性化分極差異は生じにくい傾向である。このため、
図14のフローチャートのように、活性化分極の差を導出する処理および活性化分極の差が最大であるか否かを判定する処理は省略されてもよい。
【0079】
以上説明した第2実施形態によれば、より簡便に燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。
【0080】
なお、本実施形態では、一例として固体高分子形型燃料電池に適用するものとして説明したが、本実施形態の処理は固体高分子形型燃料電池以外の燃料電池に適用されてもよい。この場合、制御装置100が、固体高分子形型燃料電池以外の燃料電池セルが出力する電流に関する電流指標および電圧に関する電圧指標を取得し、取得した電流指標を複数のモデルに適用して複数の分極を導出する。そして、制御装置100は、電圧に関する電圧指標が閾値未満である場合に、複数の分極のそれぞれに対して設定された基準分極のそれぞれと、複数の分極のそれぞれとの差異とを比較して、比較結果に基づいて、燃料電池が出力する電圧値を上昇させるための手法を導出する。
【0081】
[まとめ]
これまで燃料電池の安定稼働を実現するには、多数のセンサや高精度の計測が必要であり高コストであった。また、分極を評価するためには運転を停止してインピーダンスアナライザなどの専用の装置を用いる必要があった。これに対して、本実施形態では、取得する情報は、多くの燃料電池で検出されている電流、電圧、温度であり、付加的にセンサや計測器を備える必要がなく、コストを抑制しつつ、燃料電池の動作を向上させるための制御手法を簡便または適切に導出することができる。更に、本実施形態では電圧閾値を設けているので、制御が頻繁に生じて電力消費量が増大することを抑制することができる。このように、本実施形態では、燃料電池の安定稼働とライフタイムの向上を実現し、システムの信頼性の向上、および普及に貢献することができる。
【0082】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0083】
1‥燃料電池システム、10‥燃料電池ユニット、20‥燃料電池スタック、30‥エアポンプ、32‥エア流量制御機構、40‥冷却ファン、50‥水素タンク、52‥水素流量制御機構、70‥センサ群、100‥制御装置、110‥取得部、120‥処理部、130‥導出部、140‥制御部、150‥記憶部、152‥初期値情報、154‥モデル情報、156‥検出値情報