IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京工業大学の特許一覧

<>
  • 特開-光偏向デバイス 図1
  • 特開-光偏向デバイス 図2
  • 特開-光偏向デバイス 図3
  • 特開-光偏向デバイス 図4
  • 特開-光偏向デバイス 図5
  • 特開-光偏向デバイス 図6
  • 特開-光偏向デバイス 図7
  • 特開-光偏向デバイス 図8
  • 特開-光偏向デバイス 図9
  • 特開-光偏向デバイス 図10
  • 特開-光偏向デバイス 図11
  • 特開-光偏向デバイス 図12
  • 特開-光偏向デバイス 図13
  • 特開-光偏向デバイス 図14
  • 特開-光偏向デバイス 図15
  • 特開-光偏向デバイス 図16
  • 特開-光偏向デバイス 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082100
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】光偏向デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20220525BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20220525BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20220525BHJP
   G02F 1/295 20060101ALI20220525BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/022
H01S5/026 610
G02F1/295
G01S7/481 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193462
(22)【出願日】2020-11-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発/次々世代加工に向けた新規光源・要素技術開発/高出力・高ビーム品質動作を可能とする新型面発光レーザーの研究開発」平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)、「スローライト構造体を利用した非機械式ハイレゾ光レーダーの開発」、「短・中距離用TOF方式光レーダー要素開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小山 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】顧 暁冬
(72)【発明者】
【氏名】ルイシャオ リ
【テーマコード(参考)】
2K102
5F173
5J084
【Fターム(参考)】
2K102BA07
2K102BC01
2K102BD09
2K102DA04
2K102DD03
2K102EB08
2K102EB20
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC42
5F173AC61
5F173AD15
5F173AR59
5F173AR99
5F173AS01
5F173MA10
5F173MD62
5F173ME22
5F173ME32
5F173MF13
5F173MF26
5J084BA04
5J084BA49
5J084BA50
5J084BB15
(57)【要約】
【課題】偏向角度を拡大し、あるいは分解能を高めた光偏向デバイスを提供する。
【解決手段】光偏向デバイス100において、第1VCSEL構造体110は、入射端にコヒーレントな入射光2を受け、入射光2を垂直方向に多重反射させながら、水平な第1方向にスローライト伝搬させ、その上面の出射口122から出射光6を取り出すよう構成される。DOE130は、第1VCSEL構造体110の上側に設けられる。DOE130は、第1VCSEL構造体110の出射光6を、第1方向に回折する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射端にコヒーレントな入射光を受け、前記入射光を垂直方向に多重反射させながら、水平な第1方向にスローライト伝搬させ、その上面の出射口から出射光を取り出すよう構成される第1VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)構造体と、
前記第1VCSEL構造体の上側に設けられた回折光学素子と、
を備えることを特徴とする光偏向デバイス。
【請求項2】
前記回折光学素子は、前記第1VCSEL構造体の出射光を、前記第1方向に回折することを特徴とする請求項1に記載の光偏向デバイス。
【請求項3】
前記回折光学素子は、前記第1VCSEL構造体の出射光を前記第1方向およびそれと垂直な第2方向に回折することを特徴とする請求項1に記載の光偏向デバイス。
【請求項4】
前記回折光学素子は、前記第1VCSEL構造体の出射光を前記第1方向に垂直な第2方向に回折することを特徴とする請求項1に記載の光偏向デバイス。
【請求項5】
前記第1VCSEL構造体の入射端に前記第1方向に結合される第2VCSEL構造体を含む光源をさらに備え、
前記光源は、発振波長が制御可能に構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光偏向デバイス。
【請求項6】
前記第1VCSEL構造体および前記第2VCSEL構造体は、それぞれのDBR(Distributed Bragg Reflector)同士、活性層同士が連続して形成されることを特徴とする請求項5に記載の光偏向デバイス。
【請求項7】
前記光源は、前記第2VCSEL構造体に注入する駆動電流が可変に構成されることを特徴とする請求項5または6に記載の光偏向デバイス。
【請求項8】
前記第1VCSEL構造体に対して、前記第1方向と垂直な第2方向に配置されており、その入射端にコヒーレントな入射光を受け、前記入射光を垂直方向に多重反射させながら、前記第1方向と逆向きにスローライト伝搬させ、その上面の出射口から出射光を取り出すよう構成される第3VCSEL構造体をさらに備え、
前記回折光学素子は、前記第1VCSEL構造体と前記第3VCSEL構造体の上側に設けられることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光偏向デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ビームの方向を制御する光偏向デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、ドローン、ロボットなどに搭載されるレーザレーダ(LIDAR)、パソコンやスマートホンに搭載して周囲環境を手軽に取り込む3Dスキャナ、近赤外安全監視システム、製造現場での自動検査装置などで、光偏向デバイスが用いられている。
【0003】
光偏向デバイスとしては、大きく、機械式のものと非機械式のものに分類される。前者としては、ポリゴンミラー、ガルバノミラー、あるいはモータによる機械的駆動系を用いたものが実用化されている(非特許文献1)。機械式の偏向デバイスは、モジュールサイズ、偏向スピード、信頼性に課題がある。
【0004】
非機械式の光偏向デバイスとしては、マイクロマシンによるMEMSミラー(非特許文献2)、電気光学結晶を用いたもの(非特許文献3)、フォトニック結晶レーザを用いたもの(非特許文献4)、フェーズアレイアンテナを用いたもの(非特許文献5)などが報告されている。
【0005】
また本発明者らは、Bragg反射鏡から構成されるスローライト導波路を用いて、その巨大な構造分散により、光の波長を掃引することで高解像度のビーム偏向を提案している(特許文献1、非特許文献6,7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-016591号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Matsuda, F. Abe, and H. Takahashi, "Laser printer scanning system with a parabolic mirror" Appl. Opt., vol. 17, no. 6, pp. 878-884, Mar. 1978.
【非特許文献2】P. F. V. Dessel, L. J. Hornbeck, R. E. Meier, and M. R. Douglass, "A MEMS-based projection display," Proc. IEEE, vol. 86, no. 8, pp. 1687-1704, Aug. 1988.
【非特許文献3】K. Nakamura, J. Miyazu, M. Sasaura, and K. Fujiura, "Wide-angle, low-voltage electro-optic beam deflection based onspace-charge-controlled mode of electrical conduction in KTa1xNbxO3," Appl. Phys. Lett., vol. 89, no. 3, pp. 131115-1-131115-3, Sep. 2006.
【非特許文献4】Y. Kurosaka, S. Iwahashi, Y. Liang, K. Sakai, E. Miyai, W. Kunishi, D. Ohnishi, and S. Noda, "On-chip beam-steering photonic-crystal lasers," Nat. Photon., vol. 4, no. 7, pp. 447-450, May 2010.
【非特許文献5】J. K. Doylend, et.al., "Two-dimensional free-space beam steering with an optical phased array on silicon-on-insulator," Optics Express, vol. 19, no.22, pp.21595-21604, 2011.
【非特許文献6】X. Gu, T. Shimada, and F. Koyama, "Giant and high-resolution beam steering using slow-light waveguide amplifier,"Opt. Exp., vol. 19, no. 23, pp. 22 675-22 683, Nov. 2011.
【非特許文献7】M. Nakahama, X. Gu, T. Shimada, and F. Koyama, "On-Chip high-resolution beam scanner based on Bragg reflector slow-light waveguide amplifier and tunable micro-electro-mechanical system vertical cavity surface emitting laser," Jpn. J. Appl. Phys., vol. 51, no. 4, pp. 040208-1-040208-3, Mar. 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の非機械式の光偏向デバイスは、視野、言い換えると偏向角度が10°程度に制限されており、いくつかのアプリケーションでは十分とはいえず、さらなる拡大が望まれている。
【0009】
本開示はかかる状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、偏向角度を拡大し、あるいは分解能を高めた光偏向デバイスの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示のある態様の光偏向デバイスは、入射端にコヒーレントな入射光を受け、入射光を垂直方向に多重反射させながら、水平な第1方向にスローライト伝搬させ、その上面の出射口から出射光を取り出すよう構成される第1VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)構造体と、第1VCSEL構造体の上側に設けられた回折光学素子と、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本発明の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本開示のある態様によれば、偏向角度を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る光偏向デバイスの斜視図である。
図2】光偏向デバイスにおけるスローライトモード波の伝搬を説明する図である。
図3図3(a)、(b)は、DOEの構造および動作を説明する図である。
図4】光偏向デバイスの動作を説明する図である。
図5図5(a)、(b)は、DOEがない場合と、ある場合の、遠視野におけるビームの掃引を説明する図である。
図6図6(a)~(d)は、光偏向デバイスの遠視野像を示す図である。
図7】DOEによるビームの分割数と、偏向角度および解像点の関係を示す図である。
図8】実施形態2に係る光偏向デバイスの斜視図である。
図9図9(a)~(d)は、図7の光偏向デバイスの遠視野像を示す図である。
図10】実施形態3に係る光偏向デバイスの斜視図である。
図11図11(a)、(b)は、図10の光偏向デバイスの遠視野像を示す図である。
図12図10の光偏向デバイスの変形例の斜視図である。
図13】実施形態4に係る光偏向デバイスの斜視図である。
図14図14(a)、(b)は、図13の光偏向デバイスの遠視野像を示す図である。
図15】実施形態5に係る光偏向デバイスの斜視図である。
図16図15の光偏向デバイスの遠視野像を示す図である。
図17図17(a)~(d)は、光偏向デバイスを備えるLIDARを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0015】
一実施形態に係る光偏向デバイスは、入射端にコヒーレントな入射光を受け、入射光を垂直方向に多重反射させながら、水平な第1方向にスローライト伝搬させ、その上面の出射口から出射光を取り出すよう構成される第1VCSEL(垂直共振器面発光レーザ)構造体と、第1VCSEL構造体の上側に設けられた回折光学素子と、を備える。
【0016】
第1VCSEL構造体の出射口からは、入射光(シード光)の波長λと第1VCSEL構造体の共振波長λの相対的な関係にもとづく出射角θで、ビームが出射され、λとλを相対的に変化させることにより出射角θを変化させ、ビームを掃引することができる。このビームは、回折光学素子によって回折され、複数のビームにスプリットして放射される。これにより、偏向角度を拡大し、あるいは分解能を高めることができる。
【0017】
2つの波長は、λ<λを満たすことが好ましい。第1VCSEL構造体から入射端を介しての戻り光を抑圧することができ、第1VCSEL構造体から出射されるビーム品質を改善できる。
【0018】
一実施形態において、回折光学素子は、第1VCSEL構造体の出射光を、第1方向に回折してもよい。この場合、回折光学素子から放射される複数のビームそれぞれの出射角は、θ+m・θsep(mは0,-1,+1,-2,+2…)で表される。
【0019】
θの掃引範囲をΔθとするとき、2θsep≦Δθを満たすことが好ましい。この場合、隣接するビーム同士を連続して掃引することができる。
【0020】
一実施形態において、回折光学素子は、第1VCSEL構造体の出射光を第1方向に垂直な第2方向に回折してもよい。この場合、第2方向に複数のビームを分岐して放射でき、それらを第1方向に掃引することができるため、解像度を高めることができる。
【0021】
一実施形態において、回折光学素子は、第1VCSEL構造体の出射光を第1方向およびそれと垂直な第2方向に回折してもよい。これにより、偏向角度を拡大するとともに、解像度を高めることができる。
【0022】
一実施形態において、光偏向デバイスは、第1VCSEL構造体の入射端に第1方向に結合される第2VCSEL構造体を含む光源をさらに備えてもよい。光源は、発振波長が制御可能に構成されてもよい。光源の発振波長に応じて、ビームの出射角を制御することができる。
【0023】
一実施形態において、第1VCSEL構造体および第2VCSEL構造体は、それぞれのDBR(Distributed Bragg Reflector)同士、活性層同士が連続して形成されてもよい。第1VCSEL構造体と第2VCSEL構造体を集積化することで、光偏向デバイスを一層、小型化、低コスト化できる。
【0024】
一実施形態において光源は、第2VCSEL構造体に注入する駆動電流が可変に構成されてもよい。駆動電流に応じて光源の発振波長を変化させることができ、ひいては出射角θを制御できる。
【0025】
一実施形態において、第1VCSEL構造体には発振しきい値を超える駆動電流が注入されてもよい(アクティブ動作)。これにより第1VCSEL構造体において、高効率に光を増幅することができる。出射光は、波面の揃ったコヒーレントな光となり、微小スポットに結像させることができ、長尺化させることで高出力化も同時に実現できる。
【0026】
一実施形態において、第1VCSEL構造体は発振しきい値以下の駆動電流が注入されてもよい(パッシブ動作)。この場合でも、ビームを掃引することができる。
【0027】
第1VCSEL構造体と第2VCSEL構造体の少なくとも一方は、エアギャップ層を有し、マイクロマシン構造により、エアギャップ層の厚みが可変に構成されてもよい。これにより、第1VCSEL構造体あるいは第2VCSEL構造体のキャビティ長を変化させることができ、λあるいはλを制御することができ、出射角θを制御できる。
【0028】
(実施形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
図1は、実施形態1に係る光偏向デバイス100Aの斜視図である。光偏向デバイス100Aは、光ビーム(出射光)6を垂直方向に放射し、出射光6を水平第1方向(図中、x方向)に掃引する。
【0030】
光偏向デバイス100Aは、第1VCSEL構造体110および回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)130を備える。
【0031】
第1VCSEL構造体110は、基板102上に垂直方向(図中、z方向)に積層されており、上部DBR層112、活性層114、下部DBR層116を含む。この第1VCSEL構造体110は、ビームのスキャン方向である水平第1方向(図中、x方向)を長手として構成される。第1VCSEL構造体110は、垂直方向の共振器長で定まる固有の共振波長λを有している。第1VCSEL構造体110は、酸化狭窄層118を含むことを特徴とするができ、酸化狭窄の幅に応じて、活性領域のサイズが定められる。
【0032】
第1VCSEL構造体110は、第1方向(x方向)の一端側に設けられた入射口(結合領域ともいう)120にコヒーレントな入射光(レーザ光)2を受ける。第1VCSEL構造体110の内部で、レーザ光3は垂直方向(z方向)に多重反射しながら、第1方向にスローライト伝搬する。入射口120には、光ファイバを用いて、外部光源200からの光を結合させてもよい。
【0033】
第1VCSEL構造体110の表面には、電極124が形成されており、電極124に囲まれる領域が、出射口(出射アパーチャ)122となる。第1VCSEL構造体110の内部を伝搬するスローライトモード波4の一部は、第1VCSEL構造体110の上面の出射口122から出射光6として放射される。
【0034】
電極124には電流を供給せず、第1VCSEL構造体110を不活性状態とし、単なる導波路として動作させてもよい(パッシブモード)。但しこの場合、第1VCSEL構造体110の内部においてレーザ光3は一部が放射されながら、x方向に伝搬していくため、入射口120から離れるに従って、出射光6の強度が弱くなる。
【0035】
好ましくは電極124に、しきい値を超える電流を注入し、第1VCSEL構造体110を活性化した状態で動作させてもよい(アクティブモード)。これにより、出射光6の強度分布は、第1方向に関して、実質的に一定となり、その強度もきわめて大きくなる。また出射光6は,波面の揃ったコヒーレントな光となり、微小スポットに結像させることができ、長尺化させることで高出力化も同時に実現できる。
【0036】
光偏向デバイス100Aは、入射光2の波長λと、第1VCSEL構造体110の共振波長λとの相対的な関係に応じて定まる出射角θで、出射光6を放射する。
【0037】
図2は、光偏向デバイス100Aにおけるスローライトモード波4の伝搬を説明する図である。右向きのスローライトモード波4を考える。波長λの入射光2は、第1VCSEL構造体110内を垂直方向に多重反射しながら、右方向にスローライト伝搬する。垂直方向に多重反射する光3の波数ベクトルkは、式(1)で表される。nは屈折率である。
k=2πn/λ …(1)
【0038】
また、第1VCSEL構造体110の垂直方向(z方向)に安定である共振波長(カットオフ波長ともいう)をλとするとき、共振波長λに関する波数ベクトルkcは、式(2)で表される。
kc=2πn/λ …(2)
【0039】
スローライトモード波4についても、波数ベクトルに相当するスローライト伝搬定数βSLを観念することができ、有効屈折率neffを用いて、式(3)で表される。
βSL=2πneff/λ …(3)
【0040】
また3つの波数ベクトルに関して、式(4)が成り立つ。
=kc+βSL …(4)
【0041】
式(1)~(3)を式(4)に代入して整理すると、式(5)を得る。
eff=n×√(1-(λ/λ) …(5)
これがスローライトモード波4に対する有効屈折率である。
【0042】
レーザ光2の入射角をθ、出射角をθとすると、式(6)が成り立つ。
sinθ=nsinθ …(6)
【0043】
また、式(7)が成り立つ。
sinθ=βSL/k …(7)
【0044】
式(5)~(7)より、出射角θは式(8)を満たし、出射光6は、2つの波長λとλの比に応じた角度で出射する。
sinθ=n√(1-(λ/λ) …(8)
【0045】
図1に戻る。第1VCSEL構造体110の上側には、透過型のDOE130が設けられる。本実施形態においてDOE130は一次元であり、下面に第1VCSEL構造体110の出射光6を受け、第1方向(x方向)に回折し、複数本(この例では3本)にスプリットした回折ビームBM0th、BM-1st,BM+1stを放射する。
【0046】
図3(a)、(b)は、DOE130の構造および動作を説明する図である。図3(a)に示すように、DOE130は、x方向に周期的な溝を有する。
【0047】
図3(b)に示すように、シングルスポット光源10から出射したビームは、DOE130において回折され、0次光は、そのまま透過し、+1次光はx方向に+θsep離れた角度に、-1次光はx方向に-θsep離れた角度に放射される。図3(b)には仮想的なスクリーン12上の強度分布が示される。
【0048】
以上が光偏向デバイス100Aの構成である。続いてその動作を説明する。
【0049】
図4は、光偏向デバイス100Aの動作を説明する図である。外部光源200により、光偏向デバイス100の入射光2の波長λを、λからλに変化させたとする。実線は、λ=λのときの、破線はλ=λのときの光線を示す。
【0050】
波長λの光を入射したときの放射角θは、
θ=arcsin(n√(1-(λ/λ))
であり、波長λの光を入射したときの放射角θは、
θ=arcsin(n√(1-(λ/λ))
となる。
【0051】
入射光2の波長λがλであるとき、DOE130からは、θ,θ+θsep,θ-θsepの3方向にビームBM0th、BM-1st,BM+1stが放射される。また入射光2の波長λがλであるとき、DOE130からは、θ,θ+θsep,θ-θsepの3方向にビームBM0th、BM-1st,BM+1stが放射される。
【0052】
入射光の波長λに応じて、3つのビームの照射位置を制御できるため、波長λを掃引することにより、3つのビームをx方向に走査することができる。
【0053】
図5(a)、(b)は、DOEがない場合と、ある場合の、遠視野におけるビームの掃引を説明する図である。図5(a)に示すように、DOEが無い場合には、ビームは、θ~θの範囲で走査され、偏向角度はθ-θである。
【0054】
これに対してDOEを設けることで、図5(b)に示すように、走査範囲は、(θ-θsep)~(θ+θsep)に拡大され、偏向角度は、(θ-θ)+2θsepとなり、2θsep分、大きくなる。
【0055】
1個のビームの掃引角Δθ=θ-θは、θsepと同程度にするとよく、波長λの掃引幅はその条件を満たすように定められる。これにより、x方向に関して、ビームBM0thの走査範囲とビームBM-1stの走査範囲の隙間がなくなり、ビームBM0thの走査範囲とビームBM+1stの走査範囲の隙間もなくすことができる。この場合には、トータルの偏向角度は、3θsepとなる。言い換えれば、偏向角度を3倍に拡大することができる。これは、従来において、10°程度であった偏向角度を、30°まで拡大できることを意味する。
【0056】
この例では、DOE130によって、0次、+1次、-1次の3方向にビームを回折させたが、DOE130の次数は、DOE130の溝の周期や深さなどに応じて任意に回折ビームの本数を増やすように設計することが可能である。回折ビームの本数に比例して、偏光角、解像点数を増やすことができる。
【0057】
続いて、実際に作成したデバイスの評価結果を説明する。
【0058】
図6(a)~(d)は、光偏向デバイス100Aの遠視野像を示す図である。図6(a)には、DOEがない場合、図6(b)にはDOEがある場合において、入射光2の波長を固定したときの遠視野像が示される。x方向のビームの広がり角は0.02°~0.024°である。
【0059】
図6(c)には、DOEがない場合に入射光2の波長を掃引したときの遠視野像が示される。DOEがない場合の偏向角度は約10°である。
【0060】
図6(d)には、DOEを追加した場合に、入射光2の波長を掃引したときの遠視野像が示される。DOEを設けた場合の偏向角度は、約40°まで拡大されている。
【0061】
図7は、DOEによるビームの分割数と、偏向角度および解像点の関係を示す図である。DOE130による分割数を増やすに従い、偏向角度および解像点を増やすことができる。
【0062】
(実施形態2)
実施形態1では、外部光源200からの光を光偏向デバイス100Aに結合したが、実施形態2では、光偏向デバイス100Bが、光源とともに集積化される。
【0063】
図8は、実施形態2に係る光偏向デバイス100Bの斜視図である。光偏向デバイス100Bは、第2VCSEL構造体140を備える。第2VCSEL構造体140は、第1VCSEL構造体110の入射端126において第1方向に結合される。
【0064】
第2VCSEL構造体140は、外部光源200に代わる光源であり、上部DBR層142、活性層144、下部DBR層146、酸化狭窄層148を備える。
【0065】
第1VCSEL構造体110と第2VCSEL構造体140は、それぞれのDBR層116と146同士、112と142同士、活性層114と144同士が連続する態様で形成することができる。すなわち同じ基板102に、同じ半導体プロセスで第1VCSEL構造体110と第2VCSEL構造体140を同時に作成できる。
【0066】
第1VCSEL構造体110と第2VCSEL構造体140の間は、電気的に絶縁されている。たとえば第1VCSEL構造体110と第2VCSEL構造体140の境界の領域128に、イオンを注入することにより、光学的な結合を阻害せずに、電気的な絶縁が可能となる。
【0067】
なお、第1VCSEL構造体110と第2VCSEL構造体140を個別に構成し、端面同士を接合してもよい。
【0068】
駆動回路210は、第2VCSEL構造体140の電極154に電流IDRVを注入し、第2VCSEL構造体140を発振させる。なお、第2VCSEL構造体140は、一般的なVCSELとは異なり、その上面から出射光を取り出す必要がないため、上面の反射率は100%付近まで高めてよい。そのために電極154を第2VCSEL構造体140の上面全体にわたり形成し、金属反射膜として利用してもよい。
【0069】
第2VCSEL構造体140が発振すると、レーザ光が第1VCSEL構造体110に染み出す。この染み出したレーザ光は、入射光2として第1VCSEL構造体110に結合する。第1VCSEL構造体110側の構成および動作は実施形態1と同様である。
【0070】
第2VCSEL構造体140の発振波長λは、駆動回路210が注入する駆動電流IDRVに応じて制御することができる。すなわち、第2VCSEL構造体140は、駆動電流IDRVに応じた自己発熱により、その温度が変化し、温度に応じた波長λで発振する。駆動電流IDRVの電流量をIからIまで変化させると、入射光2の波長λを、電流量に応じた範囲λ~λの間で変化させることができる。
【0071】
第2VCSEL構造体140の発振波長λを制御する方法はこれに限定されない。駆動回路210から注入する電流IDRVを一定とし、ヒータによって第2VCSEL構造体140の温度を制御し、発振波長λを変化させてもよい。なお上述の駆動電流IDRVによる波長制御は、ヒータが不要であるため、簡易かつ低コストであると言える。
【0072】
図9(a)~(d)は、図7の光偏向デバイス100Bの遠視野像を示す図である。図9(a)は、DOEがない場合、図9(b)はDOEがある場合において、注入する電流IDRV、すなわち入射光2の波長λsを固定したときの遠視野像が示される。x方向のビームの広がり角は0.11°~0.12°であり、実施形態1の光偏向デバイス100Aよりも広がり角は大きい。
【0073】
図9(c)は、DOEがない場合に駆動電流IDRVの電流量を掃引したときの遠視野像が示される。DOEがない場合の偏向角度は約10°である。
【0074】
図9(d)は、DOEを追加した場合に、駆動電流IDRVを掃引したときの遠視野像が示される。DOEを設けた場合の偏向角度は、約40°まで拡大されている。
【0075】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係る光偏向デバイス100Cの斜視図である。光偏向デバイス100Cは、水平第1方向(x方向)と垂直な第2方向(y方向)に隣接する2つの光偏向デバイス100_1,100_2を備える。2個の光偏向デバイス100_1,100_2は、スローライトモード波の伝搬方向が逆向きとなるように構成される。
【0076】
2個の光偏向デバイス100_1,100_2は、実施形態1あるいは実施形態2で説明した構成を有する。領域150は、実施形態1における外部光源からの光を受ける入射口120に対応し、または実施形態2における第2VCSEL構造体140に対応する。光偏向デバイス100_1は、第1VCSEL構造体110_1を有し、光偏向デバイス100_2は、第3VCSEL構造体110_2を有する。本実施形態では、光偏向デバイス100_1と100_2は、同一基板上に集積化され、それぞれのVCSEL構造体の対応する層同士が連続している。また一枚のDOE130が、光偏向デバイス100_1と100_2の両方を覆うように配置される。
【0077】
なお、個別に構成された2個の光偏向デバイス100_1と100_2を、第2方向に隣接して配置してもよい。
【0078】
以上が光偏向デバイス100Cの構成である。続いてその動作を説明する。図11(a)、(b)は、図10の光偏向デバイス100Cの遠視野像を示す図である。
【0079】
図11(a)は、DOE130がないときの遠視野像を示す。光偏向デバイス100_1の出射ビームBM1が、角度θ~θの範囲で変化するとき、光偏向デバイス100_2の出射ビームBM2は、角度-θ~-θの範囲で変化することとなる。
【0080】
図11(b)は、DOE130によりスプリットされた複数のビームの遠視野像を示す。光偏向デバイス100_1の出射ビームBM1は、±θsep離れた角度にスプリットして放射される。同様に光偏向デバイス100_2の出射ビームBM2も、±θsep離れた角度にスプリットして放射される。これにより、正負の広い角度範囲にわたって、ビームを走査することができる。
【0081】
図12は、図10の光偏向デバイスの変形例の斜視図である。対向する2個の光偏向デバイス100_1,100_2の端部同士を折り返し構造152により結合し、1個の光偏向デバイスとして構成してもよい。
【0082】
(実施形態4)
図13は、実施形態4に係る光偏向デバイス100Dの斜視図である。実施形態4において、DOE130Dは、二次元回折素子であり、X方向とY方向の両方に周期的な構造を有している。
【0083】
DOE130Dは、第1VCSEL構造体110の出射ビームを、X方向とY方向の両方にスプリットし、複数のビームを放射する。X方向に関しては±θsepx、離れた角度に放射され、Y方向に関しては±θsepy、離れた角度に放射される。
【0084】
光源は、実施形態1で説明したように第1VCSEL構造体110の外部に設けられてもよいし、実施形態2で説明したように、第1VCSEL構造体110とともに集積化されてもよい。
【0085】
図14(a)、(b)は、図13の光偏向デバイス100Dの遠視野像を示す図である。図14(a)には、DOE130Dがない場合の遠視野像が示される。光偏向デバイス100Dの出射ビームは、x方向のビームの広がり角が非常に小さいのに対して、y方向に関して、相対的に大きい広がり角を有している。
【0086】
図14(b)にはDOE130Dがある場合の遠視野像が示されており、x方向とy方向にそれぞれに対して、ビームをスプリットさせることで、照射エリアを拡大できる。
【0087】
(実施形態5)
図15は、実施形態5に係る光偏向デバイス100Eの斜視図である。実施形態5において、DOE130Eは、一次元回折素子であり、Y方向に周期的な構造を有している。
【0088】
図16は、図15の光偏向デバイス100Eの遠視野像を示す図である。実施形態5によれば、y方向に対して、ビームをスプリットさせることで照射エリアを拡大できる。
【0089】
続いて光偏向デバイス100の用途の例を説明する。
【0090】
図17(a)~(d)は、光偏向デバイス100を備えるLIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)を示す図である。図17(a)のLIDAR300aは、デバイスチップ302と、光学系304を備える。デバイスチップ302には、光偏向デバイス100が集積化される。光偏向デバイス100は、信号光21を走査する。物体400で反射した戻り光は、デバイスチップ302を介してそれに接続されたディテクタによって検出される。ディテクタは、デバイスチップ302と同一面上に集積化されてもよい。
【0091】
図17(b)のLIDAR300bでは、光偏向デバイス100とディテクタが別々に構成される。LIDAR300bは、2つのデバイスチップ306,308と、光学系310,312を備える。デバイスチップ306上には上述のいずれかの光偏向デバイス100が集積化されている。光偏向デバイス100は、信号光21を走査する。物体400で反射した戻り光22は、デバイスチップ308を介してそれに接続されたディテクタによって検出される。
【0092】
図17(c)のLIDAR300cでは、ディテクタとしてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサが配置されている。LIDAR300cは、そのビーム偏向器側に、光偏向デバイス100が集積化されたデバイスチップ314と、光学系316を備える。受光側として、光学系320とアレイ状ディテクタ318を備える。アレイ状ディテクタ318は、CMOSセンサやCCDであってもよい。光偏向デバイス100は、信号光21を走査する。物体400で反射した戻り光22は、光学系320を介してアレイ状ディテクタ318によって検出される。
【0093】
図17(d)のLIDAR300dは、ビーム偏向器側に、光偏向デバイス100を備える。受光側として、光学系322とディテクタアレイ324を備える。ディテクタアレイ324は、CMOSセンサやCCDであってもよい。光偏向デバイス100は、実施形態4や実施形態5で説明したように、Y方向にビームをスプリット可能である。光偏向デバイス100は、信号光21を1次元方向に走査する。それと直交方向は、ビーム自身がスプリットするため、複数の対象物体402を同時に照射する。ここの対象物体で反射した戻り光22は、光学系322を介してディテクタアレイ324によって検出される。複数の対象物体402の個々の位置をディテクタアレイ324を用いて同時に検出することができる。
【0094】
上述のように、実施の形態に係る光偏向デバイス100によれば、広範囲のビームスキャンを実現できる。したがって、LIDARに用いることにより、より広範囲の物体400の3次元位置情報を検出できる。
【0095】
上述したいくつかの実施の形態では、第1VCSEL構造体110の共振波長λを固定し、入射光2の波長λを制御することにより、出射光6の出射角θを制御したが本発明はそれに限定されない。出射角θは、2つの波長λとλの相対的な関係にもとづいて定まるため、波長λに代えて、あるいはそれに加えて、共振波長λを制御することとしてもよい。この場合、第1VCSEL構造体110を、共振波長λを可変に構成すればよく、具体的には、第1VCSEL構造体110にMEMS構造とエアギャップ層を設け、エアギャップ層の厚みを制御してもよい。
【0096】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0097】
100…光偏向デバイス、110…第1VCSEL構造体、112…上部DBR、114…活性層、116…下部DBR、118…酸化狭窄層、120…入射口、122…出射口、124…電極、130…DOE、140…第2VCSEL構造体、142…上部DBR、144…活性層、146…下部DBR、148…酸化狭窄層、2…入射光、4…スローライトモード波、6…出射光、200…外部光源、210…駆動回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17