(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082109
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】魚介類の養殖システムおよび養殖方法
(51)【国際特許分類】
A01K 63/04 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
A01K63/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193472
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】510247113
【氏名又は名称】株式会社坂本技研
(71)【出願人】
【識別番号】592192907
【氏名又は名称】日建リース工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】秦 隆志
(72)【発明者】
【氏名】西内 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】多田 佳織
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正興
(72)【発明者】
【氏名】関山 正勝
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104EB05
2B104EB19
2B104EB20
(57)【要約】
【課題】水槽内に供給する地下海水の溶存酸素濃度をより効率良く高めること。
【解決手段】地下海水を用いた掛け流し式の養殖システムであって、井戸から地下海水を汲み上げるポンプと、養殖対象の魚介類を収容する水槽との間の配管に、前記地下海水に対してファインバブルの酸素気体を供給する、微細気泡発生器を介設しておくことで、配管内の地下海水に酸素気体を効率良く溶解させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下海水を用いた掛け流し式の養殖システムであって、
井戸から地下海水を汲み上げるポンプと、養殖対象の魚介類を収容する水槽との間の配管に、前記地下海水に対してファインバブルの酸素気体を供給する、微細気泡発生器を介設してあることを特徴とする、
養殖システム。
【請求項2】
前記配管が、途上で複数本に分岐されており、
この分岐後の配管が、
前記微細気泡発生器を介設した、第1の配管と、
前記微細気泡発生器を介設させない、第2の配管と、
を少なくとも含むことを特徴とする、
請求項1に記載の養殖システム。
【請求項3】
前記第1の配管を複数本設けてあることを特徴とする、
請求項2または3に記載の養殖システム。
【請求項4】
魚介類を収容した水槽に地下海水を掛け流し式で供給してなる魚介類の養殖方法であって、
井戸から地下海水をポンプで汲み上げ、
前記ポンプの吐出口に接続した微細気泡発生器で、前記地下海水にファインバブルの酸素気体を導入し、
前記微細気泡発生器から前記水槽までの配管内で、前記ポンプの吐出圧力を用いて前記酸素気体を前記地下海水に溶け込ませることを特徴とする、
魚介類の養殖方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類を収容した水槽に地下海水を掛け流し式で供給してなる魚介類の養殖システムおよび養殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、魚介類の陸上養殖装置において、水槽内の海水の溶存酸素濃度の上昇のために当該海水へと酸素ガスを供給するにあたり、水槽内の酸素ガスの供給口に、海水中の塩分が付着することを防止するべく、酸素ガスを加湿する手段を設ける技術が開示されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、貝類又は魚類を養殖対象とする養殖装置として、海水を貯留した水槽の内部にマイクロバブルとナノバブルとを供給するバブル発生装置を備えた技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-97879号公報
【特許文献2】特開2019-33729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、水槽内の海水の溶存酸素濃度を調整するにあたり、何れも水槽の内部に直接酸素ガスを供給している。そのため、酸素が水槽内の水に溶け込まずに大気中へ放出されてしまい、無駄が生じていた。
この無駄を改善するための方法として、特許文献2のように、水槽内に直接供給する酸素を微細気泡化して溶存効率を上げる方法が見出されていたが、やはり、水槽内の水に直接酸素ガスを吹き出して供給するという前提が維持されており、改善の余地が残されていた。
【0006】
したがって、本発明は、水槽内に供給する地下海水に対する溶存酸素濃度をより効率良く高めることが可能な手段の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、地下海水を用いた掛け流し式の養殖システムであって、井戸から地下海水を汲み上げるポンプと、養殖対象の魚介類を収容する水槽との間の配管に、前記地下海水に対してファインバブルの酸素気体を供給する、微細気泡発生器を介設してあることを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記配管が、途上で複数本に分岐されており、この分岐後の配管が、前記微細気泡発生器を介設した、第1の配管と、前記微細気泡発生器を介設させない、第2の配管と、を少なくとも含むことを特徴とする。
また、本願の第3発明は、前記第2発明において、前記第1の配管を複数本設けてあることを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、魚介類を収容した水槽に地下海水を掛け流し式で供給してなる魚介類の養殖方法であって、井戸から地下海水をポンプで汲み上げ、前記ポンプの吐出口に接続した微細気泡発生器で、前記地下海水にファインバブルの酸素気体を導入し、前記微細気泡発生器から前記水槽までの配管内で、前記ポンプの吐出圧力を用いて前記酸素気体を前記地下海水に溶け込ませることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)水槽内の海水に対して直接酸素気体を吹き出して溶存酸素濃度の調整を行うのではなく、地下海水を汲み上げるポンプと水槽との間の配管に微細気泡発生器を介設させることで、ポンプの吐出圧力(揚程力)による配管の流れを活かして地下海水に効率良く酸素溶解を施すことができる。
(2)ポンプの直後に微細気泡発生器を設置することで、ファインバブルが配管内圧力によって地下海水と接触する時間がより長くなり、酸素の溶解効率がさらに向上する。
(3)第1の配管側に生じる圧損を、微細気泡発生器を設けない第2の配管側で補償することで、圧損に起因する地下海水の流量低下を抑えることができる。
(4)微細気泡発生器を介設した第1の配管を複数設けておくことで、微細気泡発生器の洗浄や保守を行う際に、残りの配管で運転を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る養殖システムの全体構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例0011】
<1>全体構成
本発明に係る養殖システムは、
図1に示すように、地下海水を取水するための井戸10と、井戸10から地下海水を汲み上げるポンプ20と、ポンプ20で汲み上げた地下海水を送る配管30と、配管30の途上に設ける微細気泡発生器40と、酸素溶解した地下海水を供給する水槽50と、を少なくとも具備する。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0012】
<2>井戸
井戸10は、地下海水を取水するための要素である。
本発明では、井戸10で汲み上げる対象を地下海水とし、井戸10の構造、態様等は特段限定しない。
なお、井戸10の取水口11を砂礫層Aに設置しておくと、地下海水が砂礫層Aでもって濾過されて水の中の不純物やゴミなどが取り除かれるため、後述するポンプ20や微細気泡発生器40の目詰まりなどを防止する点で好ましい。
また、例えば一定の水深以下にある地下海水は一年を通して水温の変動が小さいため、温度調整のコストを低く抑えられる点で好ましい。
【0013】
<3>ポンプ
ポンプ20は、井戸10から地下海水を汲み上げるための要素である。
ポンプ20の諸元は、井戸10の取水深さに起因する必要揚程や、養殖システムで要する流量などの現場条件に応じて適宜決定すれば良い。
【0014】
<4>配管
配管30は、ポンプ20で汲み上げた地下海水を水槽50まで送るための要素である。
配管30の諸元は、水槽50に供給する地下海水の必要流量等の現場条件に応じて適宜決定すればよい。
なお、本実施例では、配管30を途上で一度4本に分岐したのち再度集約した態様としている。
より詳細に説明すると、分岐後の4本の配管30は、後述する微細気泡発生器40を介設させる第1の配管31と、当該微細気泡発生器40を介設させない第2の配管32とで構成しており、分岐後の4本のうち3本に前記第1の配管31を割り当て、残る1本に前記第2の配管32を割り当てている。
【0015】
<4.1>第1の配管を複数本とした理由
魚介類を掛け流し式で養殖するにあたっては、安定して運転を継続可能とする点が極めて重要である。
そのため、微細気泡発生器40を介設した第1の配管31を複数並列に設けておくと、微細気泡発生器40の保守を行う際にも、残りの第1の配管31で運転を継続させることができ、養殖作業を中断する必要がなくなる。
また、地下海水に混じった不純物やゴミなどによって、微細気泡発生器40の動作が突如不調になる場合も考えられるため、このような不具合にも余裕を持った対応が可能となる。
【0016】
<4.2>第2の配管を設けた理由
第1の配管31では、後述する微細気泡発生器40の介設によって、必然的に圧損が生じてしまう。そのため第1の配管31側に生じる圧損を、微細気泡発生器40を設けない第2の配管32側で補償することで、圧損に起因する地下海水の流量低下を抑えることができる。
【0017】
<5>微細気泡発生器
微細気泡発生器40は、ポンプ20で汲み上げた地下海水に対し、ファインバブルの酸素を供給するための要素である。
微細気泡発生器40は、公知のファインバブル発生装置を用いることができる。
本実施例では、微細気泡発生器40として、管内の縮径により地下海水の流速増とあわせて圧力降下したケーシングの内部に、外部の液体酸素ボンベから吐出した酸素ガスを、圧力調整器を経由させてなる酸素気体を導入し、当該酸素気体が地下海水によってせん断されることにより微細気泡が生成される装置を用いている。
【0018】
<5.1>微細気泡発生器の取付位置
本発明において、微細気泡発生器40は、ポンプ20と水槽50の間の配管30に取り付けることを必須とする。
これは、微細気泡発生器40経由後の配管30に、「気体溶解ヘッダ」としての機能を期待するためである。
この「気体溶解ヘッダ」の機能とは、主として、気体を水中に溶け込ませることを指す。
水に溶け込まれていない微細気泡は、養殖対象の魚介類(特に稚魚の場合)にとっては、ガス病の誘発原因として有害なものと考えられている。
そのため、水槽50に供給する前の地下海水に対し、ファインバブルの酸素気体をできる限り溶け込ませておくことが望ましい。
本発明では、微細気泡発生器40経由後の配管30内は、ポンプ20の吐出圧力(揚程力)によって加圧されているため、溶解の促進機能が発揮される。
【0019】
なお、前記した気体溶解ヘッダの効果を実現する方法として、加圧タンクを設ける方法などもあるが、加圧タンクを設けるスペースが必要になる点でデメリットがある。
一方、本願発明によれば、井戸10から汲み上げた地下海水を水槽50に供給する際に、微細気泡発生器40経由後の配管30が、ポンプ20の吐出圧力によって加圧された状態となり、気体溶解効率の高い気体溶解ヘッダとして機能するため、別途加圧タンクを設けるスペースを要しない点でメリットがある。
【0020】
<5.2>ポンプとの位置関係
さらに、微細気泡発生器40は、特にポンプ20の吐出口の直後に接続しておくと好適である。
これは、ポンプ20の吐出口の直後に微細気泡発生器40を接続した場合、配管30内の圧力損失をできる限り押さえた状態で地下海水を微細気泡発生器40に通すことができるため、酸素のファインバブルの生成効率が高く、また水槽50までの配管内において、ファインバブルが配管内圧力によって地下海水と接触する時間が長くなることから、より酸素の溶解効率の向上にも寄与するためである。
【0021】
一方、微細気泡発生器40を水槽50側に近い場所に設置すると、上記の効果が期待できず、圧力損失が大きい状態で地下海水が微細気泡発生器40を経由するため、酸素の溶解効率が低下するものと考えられる。
上記した酸素の溶解効率の差は、ポンプ20と水槽50の間の配管長が長い場合により顕著となる。
【0022】
<6>水槽
水槽50は、養殖対象となる魚介類を収容しておいて生息させるための要素である。
本発明において、水槽50のサイズや構造は特段限定しないが、前記した微細気泡発生器40によって、溶存酸素濃度の高い地下海水が供給されることから、特許文献2で記載されるように、溶存酸素濃度を積極的に高める目的で設けるバブル発生装置は不要である。
ただし、本発明は、水槽50内の地下海水を循環させて滞留水の発生を防ぐことなどを目的としたエアレーション装置を水槽50に設けることを除外するものではない。
【0023】
<7>比較例1
従来例として、水槽50内に直径1~5mmの気泡を供給可能な散気管を設けた場合(ケース1)と、本願発明のようにポンプ20の吐出口側に微細気泡発生器40設けた場合(ケース2)の溶存酸素濃度の時間変化についてのシミュレーション結果の対比表を表1に示す。
【0024】
【0025】
表1に示すように、ケース2と比較してケース1が、より短期間で所定の溶存酸素濃度に到達させることができた。
【0026】
<8>比較例2
次に、配管30を4分岐した場合において、4本全てを第1の配管31とした場合(ケース3)と、3本を第1の配管31、1本を第2の配管32とした場合(ケース4)との、流量に対する圧力損失のシミュレーション結果を表2に示す。
【0027】
【0028】
表2に示すように、ケース3と比較してケース4が、より流量に対する圧力損失が低く、良好な結果を得ることができた。