(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082143
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/32 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
G01S7/32 210
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193532
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB08
5J070AB24
5J070AC02
5J070AC06
5J070AD05
5J070AD08
5J070AF03
5J070AH14
5J070AH25
5J070AH31
5J070AH35
5J070AJ13
(57)【要約】
【課題】ピークの未抽出を抑制することができる信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号処理装置は、ピーク抽出処理のS103~S107にて、周期的に生成される観測信号に基づく強度分布に対応した強度閾値を設定する。そして、信号処理装置は、S108にて、強度分布において、強度閾値よりも大きいピークである対象ピークを、上限個数を上限として抽出し、S109にて、抽出された対象ピークの個数である抽出ピーク個数を記憶する。また、S103~S107では、先の強度分布についての抽出ピーク個数に基づき、新たな強度分布についての対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように強度閾値が設定される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体(10)に搭載され、照射された送信波の反射波に基づく観測信号を用いて、前記移動体の周辺に存在する物体を測定するための処理を行う信号処理装置であって、
周期的に生成される前記観測信号に基づく強度分布に対応した強度閾値を設定するように構成された設定部(S103~S107,S205~S209)と、
前記強度分布において、前記強度閾値よりも大きいピークである対象ピークを、予め設定された上限個数を上限として抽出するように構成された抽出部(S108,S210)と、
前記抽出部により抽出された前記対象ピークの個数である抽出ピーク個数を記憶部(13)に記憶するように構成された記憶処理部(S109,S211)と、
を備え、
前記設定部は、前記記憶部に記憶されている、先の前記強度分布についての前記抽出ピーク個数に基づき、新たな前記強度分布についての前記対象ピークの個数が前記上限個数を超えるのを抑制するように前記強度閾値を設定する、信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記設定部は、
前記記憶部に記憶されている前記抽出ピーク個数のうち、前記強度閾値を設定しようとする前記強度分布である現在強度分布の直前に生成された前記強度分布における前記抽出ピーク個数である直前抽出ピーク個数に基づき前記強度閾値を設定し、
前記直前抽出ピーク個数が所定のピーク個数閾値以上の場合、前記直前抽出ピーク個数が前記ピーク個数閾値未満の場合と比較して、前記強度閾値を高く設定する、信号処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号処理装置であって、
前記設定部が前記強度閾値を設定しようとする前記強度分布である現在強度分布における前記抽出ピーク個数を予測した値である予測個数を算出する予測部(S203,204)を更に備え、
前記予測部は、前記記憶部に記憶されている前記抽出ピーク個数のうち、前記現在強度分布よりも前に生成された前記強度分布における前記抽出ピーク個数に基づき、前記予測個数を算出し、
前記設定部は、前記予測部により算出された前記予測個数が所定のピーク予測閾値以上の場合、前記予測個数が前記ピーク予測閾値未満の場合と比較して、前記強度閾値を高く設定する、信号処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の信号処理装置であって、
前記強度分布は、前記物体と前記移動体との相対速度に応じた強度分布であり、
前記予測部は、前記移動体の速度変化量に基づき、前記予測個数を算出する、信号処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、
前記強度分布は、前記物体と前記移動体との間の距離に応じた強度分布であり、
前記抽出部は、前記強度分布から、より短い前記距離に対応する前記対象ピークから順に抽出する、信号処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、
前記強度分布は、前記物体と前記移動体との相対速度に応じた強度分布であり、
前記抽出部は、前記強度分布から、より小さい前記相対速度に対応する前記対象ピークから順に抽出する、信号処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、
前記強度分布は、前記物体と前記移動体との間の距離に応じた強度分布であり、
前記強度分布は、複数の距離範囲を有しており、前記ピークに対応する前記距離は、いずれかの前記距離範囲に含まれ、
前記設定部は、前記強度分布におけるそれぞれの前記距離範囲に対応して、前記強度閾値を設定し、
前記抽出部は、前記距離範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、それぞれの前記距離範囲に含まれるピークのうち、該距離範囲に対応する前記強度閾値よりも大きいピークを、前記距離範囲ごとに前記対象ピークとして抽出し、
前記設定部は、前記抽出部により抽出された前記距離範囲ごとの前記対象ピークの個数が前記上限個数を超えるのを抑制するように前記強度閾値を設定する、信号処理装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の信号処理装置であって、
前記強度分布は、前記物体と前記移動体との相対速度に応じた強度分布であり、
前記強度分布は、複数の相対速度範囲を有しており、前記ピークに対応する前記相対速度は、いずれかの前記相対速度範囲に含まれ、
前記設定部は、前記強度分布におけるそれぞれの前記相対速度範囲に対応して、前記強度閾値を設定し、
前記抽出部は、前記相対速度範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、それぞれの前記相対速度範囲に含まれるピークのうち、該相対速度範囲に対応する前記強度閾値よりも大きいピークを、前記相対速度範囲ごとに前記対象ピークとして抽出し、
前記設定部は、前記抽出部により抽出された前記相対速度範囲ごとの前記対象ピークの個数が前記上限個数を超えるのを抑制するように前記強度閾値を設定する、信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーダ装置から取得した信号について、CFAR処理を用いて、信号の誤検出率が一定になるように閾値を設定するレーダ信号検出装置が記載されている。なお、CFARとは、Constant False Alarm Rateの略である。一般的に、CFAR処理を用いて閾値が設定された場合、レーダ装置からの信号から、閾値を超えるピークが抽出され、抽出されたピークに基づき物体が認識される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、以下の課題が見出された。すなわち、レーダ装置からの信号に閾値を超えるピークが多く存在する場合、ピークに基づき物体を認識する際の処理負荷が増大する。しかし、その一方で、抽出されるピークの数に上限を設けると、例えば、重要な物体の存在を示すピークを抽出できない恐れがある。
【0005】
本開示の一局面は、ピークの未抽出を抑制することができる信号処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、移動体(10)に搭載され、照射された送信波の反射波に基づく観測信号を用いて、移動体の周辺に存在する物体を測定するための処理を行う信号処理装置であって、設定部(S103~S107,S205~S209)と、抽出部(S108,S210)と、記憶処理部(S109,S211)と、を備える。設定部は、周期的に生成される観測信号に基づく強度分布に対応した強度閾値を設定するように構成される。抽出部は、強度分布において、強度閾値よりも大きいピークである対象ピークを、予め設定された上限個数を上限として抽出するように構成される。記憶処理部は、抽出部により抽出された対象ピークの個数である抽出ピーク個数を記憶部(13)に記憶するように構成される。設定部は、記憶部に記憶されている、先の強度分布についての抽出ピーク個数に基づき、新たな強度分布についての対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように強度閾値を設定する。
【0007】
上記構成によれば、強度分布の全域から対象ピークの抽出を行う前に、抽出された対象ピークの個数が上限個数に達し、対象ピークの抽出が途中で終了するのを抑制できる。したがって、ピークの未抽出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】信号処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】レーダ装置が車両の前方に搭載される場合における検知エリアの一例を示す図である。
【
図3】レーダ装置が車両の前方以外にも搭載される場合における検知エリアの一例を示す図である。
【
図4】2次元のFFT処理の概要を示す説明図である。
【
図5】第1実施形態におけるピーク抽出処理のフローチャートである。
【
図6】第2実施形態におけるピーク抽出処理のフローチャートである。
【
図7】距離スペクトラムにおいて第1閾値を設定した場合の一例を示す説明図である。
【
図8】距離スペクトラムにおいて第2閾値を設定した場合の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
図1に示す信号処理装置1は、移動体に搭載され、後述する観測信号を用いて、移動体の周辺に存在する物体を測定するための処理を行う装置である。移動体とは、例えば、車両、航空機、船舶等である。移動体には、信号処理装置1の他に、レーダ装置2が搭載されている。本実施形態では、信号処理装置1及びレーダ装置2は、車両10に搭載される。
【0010】
図2に示すように、レーダ装置2は、車両10の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載され、車両10の前方中央の領域を検知エリアRdとしてもよい。また、
図3に示すように、レーダ装置2は、車両10の前方中央、左前側方、右前側方、左後側方、及び右後側方の5箇所に搭載され、車両10の前方中央、左前方、右前方、左後方、及び右後方の領域を検知エリアRdとしてもよい。車両10に搭載するレーダ装置2の個数及び搭載位置は、適宜選択すればよい。
【0011】
レーダ装置2は、ミリ波レーダであり、送信アレーアンテナと、受信アレーアンテナと、を含む。より詳しくは、レーダ装置2は、一例として、FCM方式のミリ波レーダとして構成されている。なお、FCMは、Fast Chirp Modulationの略である。
【0012】
レーダ装置2は、予め定められた周期Tcyで到来する各処理サイクルに、チャープ信号である送信波を検知エリアRdに照射する。各処理サイクルでは、レーダ装置2は、予め定められた周期Tにてチャープ信号をN回にわたり送信する。そして、レーダ装置2は、各チャープ信号が物体の反射点で反射されて生じた反射波を受信する。
【0013】
さらに、レーダ装置2は、送信したチャープ信号と、該チャープ信号の反射波に基づく反射信号と、を混合したビート信号を生成し、ビート信号をサンプリングすることで生成した観測信号を信号処理装置1へ出力する。
【0014】
図1に示すように、信号処理装置1は、CPU11、ROM12、RAM13、フラッシュメモリ14等を有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。CPU11は、非遷移的実体的記録媒体であるROM12に格納されたプログラムを実行する。当該プログラムが実行されることで、当該プログラムに対応する方法が実行される。信号処理装置1は、高速フーリエ変換(以下、FFT)処理等を実行するコプロセッサを備えてもよい。
【0015】
[1-2.処理の概要]
信号処理装置1は、各処理サイクルで生成されたN個のビート信号(以後、観測信号)に基づき、検知エリアRdに存在する物体を測定するための処理を行う。
【0016】
すなわち、CPU11は、
図4に示すように、各処理サイクルで生成されたN個の観測信号の各々に対しFFT処理を実行し、N個の距離スペクトラムを生成する。距離スペクトラムは、距離に対するパワーを表すスペクトラムである。距離スペクトラムは、移動体と物体(換言すれば、反射点)との間の距離に応じた周波数成分を持つため、生成された距離スペクトラムの周波数BINは、距離BINに相当する。さらに、CPU11は、生成したN個の距離スペクトラムの各距離BINに対してFFT処理を実行して、距離速度スペクトラムを生成する。距離速度スペクトラムは、距離、及び、移動体に対する物体の相対速度に対するパワーを表す2次元のスペクトラムである。CPU11は、距離速度スペクトラムを強度分布として用い、強度分布からピークを抽出する。強度分布のピークは、物体を示しており、抽出したピークに対応する速度BIN及び距離BINに基づき、物体の相対速度及び距離が測定される。
【0017】
CPU11は、強度分布から、強度閾値よりも大きいピークである対象ピークを、予め設定された上限個数を上限として抽出し、抽出された対象ピークの個数である抽出ピーク個数をRAM13に記憶する。強度閾値は、対象ピークを新たに抽出する際に設定される。すなわち、CPU11は、先の強度分布についての抽出ピーク個数に基づき、新たな強度分布についての対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように、強度閾値を設定する。
【0018】
[1-3.処理の詳細]
信号処理装置1のCPU11が実行するピーク抽出処理を、
図5に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本処理は、処理サイクルごとに繰り返し起動する。
【0019】
まず、S101で、CPU11は、レーダ装置2から出力されたN個の観測信号を取得する。
続いて、S102で、CPU11は、N個の観測信号の強度分布として、距離速度スペクトラムを生成する。
【0020】
続いて、CPU11は、今回の処理サイクルで新たに生成された強度分布(以後、現在強度分布)から、強度閾値よりも大きい対象ピークを抽出する。以後、直前の処理サイクルで生成された強度分布から抽出された対象ピークの数を、直前抽出ピーク個数と記載する。
【0021】
すなわち、S103では、CPU11は、直前抽出ピーク個数が上側閾値以上であるか否かを判定する。なお、上側閾値とは、上限個数よりも小さい値である。そして、CPU11は、肯定判定が得られた場合には(S103:Yes)、S106に移行し、否定判定が得られた場合には(S103:No)、S104に移行する。
【0022】
S104では、CPU11は、直前抽出ピーク個数が下側閾値以下であるか否かを判定する。なお、下側閾値とは、上側閾値よりも小さい値である。そして、CPU11は、肯定判定が得られた場合には(S104:Yes)、S105に移行し、否定判定が得られた場合には(S104:No)、S107に移行する。
【0023】
S105で、CPU11は、第1閾値を強度閾値として設定する。本実施形態では、第1閾値は、CFAR処理を用いて算出される。なお、第1閾値として、予め設定された所定の閾値が用いられてもよい。
【0024】
S106で、CPU11は、第2閾値を強度閾値として設定する。本実施形態では、第2閾値は、S105と同様にCFAR処理を用いて算出された第1閾値に、所定の加算値が加算された値である。つまり、第2閾値は第1閾値よりも大きい。
【0025】
S107で、CPU11は、直前の処理サイクルと同じ方法で強度閾値を設定する。本実施形態では、直前の処理サイクルにおいて強度閾値として第1閾値が設定されていた場合、今回の処理サイクルにおいても第1閾値を算出し、強度閾値として設定する。一方、直前の処理サイクルにおいて強度閾値として第2閾値が設定されていた場合、今回の処理サイクルにおいても第2閾値を算出し、強度閾値として設定する。
【0026】
続いて、S108で、CPU11は、強度分布から、対象ピークを抽出する。本実施形態では、CPU11は、より小さい相対速度に対応する速度BINのピークから順に、強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出する。さらに、速度BINが同じである複数のピークが存在する場合には、CPU11は、該複数のピークについてより短い距離に対応する距離BINのピークから順に強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出する。
【0027】
なお、CPU11は、距離速度スペクトラムにおいて、より短い距離に対応する距離BINのピークから順に強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出してもよい。さらに、距離BINが同じである複数のピークが存在する場合には、CPU11は、該複数のピークについてより小さい相対速度に対応する速度BINのピークから順に、強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出してもよい。
【0028】
続いて、S109で、CPU11は、S108で抽出した対象ピークの個数である抽出ピーク個数を記憶部に記憶する。
なお、抽出された対象ピークに基づき、物体までの距離及び物体との相対速度が求められる。
【0029】
[1-3.変形例]
強度分布である距離速度スペクトラムは、複数の距離範囲と、複数の相対速度範囲との双方又は一方を有していてもよい。なお、複数の距離範囲は、距離速度スペクトラムにおける距離BINを複数の範囲に分割することで形成される。つまり、ピークに対応する距離BINは、いずれか1つの距離範囲に含まれる。また、複数の相対速度範囲は、距離速度スペクトラムにおける速度BINを複数の範囲に分割することで形成される。つまり、ピークに対応する速度BINは、いずれか1つの相対速度範囲に含まれる。
【0030】
そして、各距離範囲及び/又は各相対速度範囲に対応する強度閾値を設け、各強度閾値が固有に設定されてもよい。すなわち、例えば、各距離範囲に対応して固有の強度閾値を設けてもよいし、各相対速度範囲に対応して固有の強度閾値を設けてもよい。また、例えば、各距離範囲と各相対速度範囲との組合せにより特定される距離速度スペクトラム上の領域を、組合せ範囲とし、各組合せ範囲に対応して固有の強度閾値を設けてもよい。
【0031】
つまり、ピーク抽出処理のS103,S104では、CPU11は、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲ごとの直前抽出ピーク個数と、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲ごとの上側閾値及び下側閾値と、を比較する。また、ピーク抽出処理のS105~S107では、CPU11は、CFAR処理により、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲に対応する第1又は第2閾値を算出する。そして、CPU11は、それぞれの第1又は第2閾値を、当該第1又は第2閾値と同一の距離範囲、相対速度範囲、又は、組合せ範囲に対応する強度閾値に設定する。
【0032】
そして、S108では、CPU11は、各距離範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、距離範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各距離範囲に対応するピークのうち、その強度が該距離範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。なお、距離範囲に対応するピークとは、対応する距離BINが該距離範囲に含まれるピークを意味する。また、CPU11は、各相対速度範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、相対速度範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各相対速度範囲に対応するピークのうち、その強度が該相対速度範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。なお、相対速度範囲に対応するピークとは、対応する速度BINが該相対速度範囲に含まれるピークを意味する。また、CPU11は、各組合せ範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、組み合わせ範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各組合せ範囲に対応するピークのうち、その強度が該組合せ範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。なお、組合せ範囲に対応するピークとは、対応する距離BIN及び速度BINが該組合せ範囲に含まれるピークを意味する。
【0033】
[1-4.効果]
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)信号処理装置1は、先の強度分布についての抽出ピーク個数に基づき、対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように強度閾値を設定する。
【0034】
ここで、信号処理装置1が対象ピークを抽出する際に、上限個数を超えるまでは強度分布において対象ピークがサーチされるが、上限個数を超えた場合には、それ以上サーチが行われない。つまり、対象ピークの個数が上限個数を超えた場合、強度分布においてサーチされない範囲が生じ、該範囲には、例えば先行車両等の重要な物体を示すピークが含まれ得る。そこで、対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように強度閾値を設定すると、対象ピークの個数を減らすことができ、強度分布においてより広い範囲がサーチされることになる。これにより、対象ピークの個数が上限個数を超えた場合には抽出されない対象ピークが抽出され得る。したがって、前述した構成によれば、対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制するように強度閾値を設定しない場合と比較して、重要な物体を示すピークの未抽出を抑制することができる。
【0035】
(1b)信号処理装置1は、直前抽出ピーク個数が上側閾値以上の場合、直前抽出ピーク個数が上側閾値未満の場合と比較して、強度閾値を高く設定する。
ここで、例えば、移動体の周辺に静止物が多い環境においては、ピークの個数が多くなる傾向にあるといったように、ピークの個数は、移動体の周辺の環境に依存する傾向にある。また、移動体の周辺の環境は徐々に変化するものであり、ピークの個数は瞬時的には大きく変化しない。
【0036】
すなわち、直前抽出ピーク個数が上側閾値以上であるということは、直前の処理サイクルにおいてすでに抽出ピーク個数が上限個数に迫っていた可能性がある。そのため、今回の処理サイクルにおいては、抽出ピーク個数が上限個数に迫らないようにすることが好ましい。そこで、信号処理装置1は、今回の処理サイクルにおいて対象ピークの個数を減らすように、強度閾値を高く設定する。これにより、対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制することができるため、重要な物体を示すピークの未抽出を抑制することができる。
【0037】
(1c)信号処理装置1は、強度分布から、より短い距離に対応する対象ピークから順に抽出する。このような構成によれば、信号処理装置1は、移動体に接近する可能性の高いものから優先して抽出することができる。
【0038】
(1d)信号処理装置1は、強度分布から、より小さい相対速度に対応する対象ピークから順に抽出する。このような構成によれば、信号処理装置1は、移動体に接近する可能性の高いものから優先して抽出することができる。
【0039】
(1e)例えば、強度分布において、より短い距離に対応する距離BINのピークの方が強度が強くなりやすいといったように、距離BIN及び/又は相対速度BINに応じて強度が変化する可能性がある。このため、全範囲にわたって一律に強度閾値が定められると、特定の範囲の距離BIN及び/又は相対速度BINに偏って対象ピークが抽出される恐れがある。
【0040】
これに対し、第1実施形態の変形例では、各距離範囲及び/又は各相対速度範囲に対応する強度閾値が設けられており、各強度閾値の値が固有に設定される。これにより、特定の距離範囲や相対速度範囲に、対象ピークが集中することを抑制できる。
【0041】
したがって、強度分布の全域から、好適に対象ピークを抽出できる。
なお、第1実施形態では、S103~S107が設定部としての処理に相当し、S108が抽出部としての処理に相当し、S109が記憶処理部としての処理に相当し、上側閾値がピーク個数閾値に相当する。
【0042】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0043】
前述した第1実施形態では、ピーク抽出処理において、CPU11は、直前抽出ピーク個数に基づき、強度閾値を設定した。一方、第2実施形態では、ピーク抽出処理において、CPU11は、現在強度分布における抽出ピーク個数を予測した値である予測個数に基づき、強度閾値を設定する。
【0044】
[2-2.処理]
第2実施形態の信号処理装置1が、第1実施形態のピーク抽出処理に代えて実行するピーク抽出処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
S201,S202は、
図5のS101,S102と同様の処理である。
続いて、S203で、CPU11は、所定時間内における移動体の速度変化量を算出する。なお、CPU11は、図示しない速度センサにより取得された車両10の速度に基づいて、車両10の速度変化量を算出しても良い。
【0046】
続いて、S204で、CPU11は、予測個数を算出する。本実施形態では、CPU11は、記憶部に記憶されている抽出ピーク個数のうち、直前の処理サイクルを含む一定の期間内における抽出ピーク個数、つまり直前の処理サイクルを含む過去の複数の処理サイクルにおける抽出ピーク個数に基づき、予測個数を算出する。すなわち、例えば、過去の複数の処理サイクルにおいて抽出ピーク個数が増加傾向だった場合、今回の処理サイクルにおける抽出ピーク個数は直前の処理サイクルにおける抽出ピーク個数よりも増加すると考えられる。そこで、CPU11は、過去の複数の処理サイクルにおける抽出ピーク個数の増減の割合に応じて、予測個数を算出する。
【0047】
このとき、CPU11は、S203で算出した移動体の速度変化量も加味して、予測個数を算出する。すなわち、例えば、移動体の周辺の環境が同じような場合であっても、移動体の速度が速いほど、ピークが増加する傾向にある。よって、CPU11は、移動体の速度変化量が大きいほど、より多くの予測個数を算出する。なお、CPU11は、速度変化量を加味せずに予測個数を算出してもよい。この場合、CPU11は、S203の処理を実施しなくてもよい。
【0048】
続いて、S205で、CPU11は、予測個数が上側予測閾値以上であるか否かを判定する。なお、上側予測閾値として、上限個数よりも小さい値が設定されている。そして、CPU11は、肯定判定が得られた場合には(S205:Yes)、S208に移行し、否定判定が得られた場合には(S205:No)、S206に移行する。
【0049】
S206で、CPU11は、予測個数が下側予測閾値以下であるか否かを判定する。なお、下側予測閾値として、上側予測閾値よりも小さい値が設定されている。そして、CPU11は、肯定判定が得られた場合には(S206:Yes)、SS207に移行し、否定判定が得られた場合には(S206:No)、S209に移行する。
【0050】
S207で、CPU11は、
図5のS105と同様に、第1閾値を強度閾値として設定する。
S208で、CPU11は、
図5のS106と同様に、第2閾値を強度閾値として設定する。
【0051】
S209で、CPU11は、
図5のS107と同様に、直前の処理サイクルと同じ方法で強度閾値を設定する。
続いて、S210で、CPU11は、
図5のS108と同様に、強度分布から、対象ピークを抽出する。
【0052】
続いて、S211で、CPU11は、
図5のS109と同様に、S210で抽出した対象ピークの個数である抽出ピーク個数を記憶部に記憶する。
[2-3.変形例]
第1実施形態と同様に、強度分布である距離速度スペクトラムは、複数の距離範囲と、複数の相対速度範囲との双方又は一方を有していていもよい。
【0053】
そして、各距離範囲及び/又は各相対速度範囲に対応する強度閾値を設け、各強度閾値が固有に設定されてもよい。
つまり、ピーク抽出処理のS205,S206では、CPU11は、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲ごとの予測個数と、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲ごとの上側予測閾値及び下側予測閾値と、を比較する。また、ピーク抽出処理のS207~S209では、CPU11は、CFAR処理により、各距離範囲、各相対速度範囲、又は、各組合せ範囲に対応する第1又は第2閾値を算出する。そして、CPU11は、それぞれの第1又は第2閾値を、当該第1又は第2閾値と同一の距離範囲、相対速度範囲、又は、組合せ範囲に対応する強度閾値に設定する。
【0054】
そして、S210では、CPU11は、各距離範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、距離範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各距離範囲に対応するピークのうち、その強度が該距離範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。また、CPU11は、各相対速度範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、相対速度範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各相対速度範囲に対応するピークのうち、その強度が該相対速度範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。また、CPU11は、各組合せ範囲に対応して固有の強度閾値を設ける場合であれば、組合せ範囲ごとに予め設定された上限個数を上限として、各組合せ範囲に対応するピークのうち、その強度が該組合せ範囲に設定された強度閾値を超えるものを、対象ピークとして抽出する。
【0055】
[2-4.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0056】
(2a)信号処理装置1は、予測個数が上側予測閾値以上の場合、予測個数が上側予測閾値未満の場合と比較して、強度閾値を高く設定する。
ここで、ピークの個数は瞬時的には大きく変化しないことに鑑みると、過去の複数の処理サイクルにおける抽出ピーク個数の増減の傾向から、今回の処理サイクルにおける対象ピークの個数を予測することが可能である。
【0057】
そして、予測個数が上側予測閾値以上であるということは、予測個数が上限個数に迫っている可能性がある。そのため、今回の処理サイクルにおいて、対象ピークの個数が上限個数に迫らないように調整することが好ましい。そこで、信号処理装置1は、今回の処理サイクルにおいて対象ピークの個数を減らすように、強度閾値を高く設定する。これにより、対象ピークの個数が上限個数を超えるのを抑制することができるため、重要な物体を示すピークの未抽出を抑制することができる。
【0058】
(2b)信号処理装置1は、移動体の速度変化量に基づき、予測個数を算出する。このような構成によれば、移動体の速度変化量を加味せず予測個数を算出する構成と比較して、信号処理装置1は、今回の処理サイクルにおける対象ピークの個数をより精度良く予測することができる。
【0059】
なお、第2実施形態では、S203,204が予測部としての処理に相当し、S205~S209が設定部としての処理に相当し、S210が抽出部としての処理に相当し、S211が記憶処理部としての処理に相当し、上側予測閾値がピーク予測閾値に相当する。
【0060】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0061】
(3a)上記実施形態では、強度分布として距離速度スペクトラムが用いられた。しかし、強度分布の種類はこれに限定されず、距離スペクトラムが強度分布として用いられてもよい。
【0062】
すなわち、第1実施形態のピーク抽出処理のS102において、観測信号の距離スペクトラムを現在強度部分として生成し、S103~S108において、該現在強度分布から強度閾値を超える対象ピークを抽出してもよい。例えば、CPU11は、S105で、
図7に示すように、第1閾値71を強度閾値として設定してもよい。また例えば、CPU11は、S106で、
図8に示すように、第1閾値71よりも高い第2閾値72を強度閾値として設定してもよい。また、S108では、より短い距離に対応する距離BINのピークから順に、強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出してもよい。そして、抽出された対象ピークに基づき、物体までの距離が求められてもよい。
【0063】
また、第2実施形態のピーク抽出処理においても、同様に、S202において観測信号の距離スペクトラムを現在強度部分として生成し、S203~S210において、該現在強度分布から強度閾値を超える対象ピークを抽出してもよい。また、S210では、より短い距離に対応する距離BINのピークから順に、強度閾値を超えているか否かを判定し、強度閾値を超えているピークを対象ピークとして抽出してもよい。そして、抽出された対象ピークに基づき、物体までの距離が求められてもよい。
【0064】
(3b)第1実施形態では、S103及びS104のように、上側閾値と下側閾値とが用いられた。しかし、例えば、S104及びS107を省略し、上側閾値に基づき強度閾値を設定してもよい。すなわち、直前抽出ピーク個数が上側閾値未満の場合には、強度閾値として第1閾値を設定するようにしても良い。
【0065】
また、第2実施形態においても、S206及びS209を省略し、予測個数が上側予測閾値未満の場合には、強度閾値として第1閾値を設定するようにしてもよい。
(3c)上記実施形態では、レーダ装置2として、FCM方式のミリ波レーダが用いられた。しかし、レーダ装置2の種類はこれに限定されるものではない。例えば、FMCW方式や多周波CW方式等のミリ波レーダが用いられてもよい。
【0066】
(3d)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…信号処理装置、10…車両、11…CPU、13…RAM。