IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長谷川香料株式会社の特許一覧

特開2022-82151シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082151
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 307/33 20060101AFI20220525BHJP
   A23L 27/20 20160101ALI20220525BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220525BHJP
   C11D 3/50 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C07D307/33 100
C07D307/33 CSP
A23L27/20 G
C11B9/00 T
C11D3/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193542
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和
(72)【発明者】
【氏名】川口 賢二
【テーマコード(参考)】
4B047
4C037
4H003
4H059
【Fターム(参考)】
4B047LB08
4B047LF07
4B047LF10
4B047LG20
4B047LP20
4C037EA05
4H003DA01
4H003DA02
4H003DA05
4H003DA17
4H003FA26
4H059BA01
4H059BA12
4H059BA14
4H059BA19
4H059BA20
4H059BA30
4H059BA35
4H059BA36
4H059BC23
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
【課題】香味付与に有用なラクトン化合物を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるラクトン化合物、当該ラクトン化合物を含む香味付与組成物を提供する。式中、nは0~3の整数を表し、破線は、そのいずれか1箇所がシクロプロパン骨格であり、0~1箇所が炭素-炭素間二重結合であり、その他の箇所が単結合であることを表す。さらには、当該香味付与組成物を含む消費財、香味付与組成物を消費財に配合することを含む消費財の香味付与方法、香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合することを含む香味付与組成物の香味付与方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される、シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物。
【化1】
[式中、nは0~3の整数を表し、破線は、そのいずれか1箇所がシクロプロパン骨格であり、シクロプロパン骨格以外の0~1箇所が炭素-炭素間二重結合であり、その他の箇所が単結合であることを表す。]
【請求項2】
請求項1に記載のラクトン化合物を含む香味付与組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の香味付与組成物を含む消費財。
【請求項4】
請求項2に記載の香味付与組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
【請求項5】
請求項2に記載の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合することを含む、香味付与組成物の香味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物および当該ラクトン化合物を含む香味付与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、飲食品や香粧品における消費者の要求は高度化および多様化しているが、特に、香りに注目が集まっており、香りの特性が製品の訴求力に重要な要素となっている。例えば、製品への配合によって、当該製品の香りや味に持続性、天然感など特徴的な香味を付与できる化合物への要求が高まっている。
【0003】
例えば、本発明に係る化合物が属するラクトン類では、4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノンを有効成分とする香料組成物をシトラスやフローラル調の香味の改善に使用すること(特許文献1)、3-ヒドロキシ-4,5-ジメチル-2(5H)-フラノンなどによって甘味を増強する方法(特許文献2)が提案されている。
【0004】
また、本発明に係る化合物のようにシクロプロパン構造を有する化合物のなかでは、シス-2-ヘキシルシクロプロパン酢酸を各種柑橘などの香味付与に使用すること(特許文献3)、1-メチル-2-(1-フェニルエチル)シクロプロピルメタノールなどのシクロプロパン構造を有する側鎖を有する芳香族化合物がシトラスやフローラルなどの香気を有しており、これらの化合物を用いてミュゲ調、マリーン調の香料に対しそれぞれフローラル香気やマリーン、オゾン感を付与すること(特許文献4)が提案されている。
【0005】
しかし、飲食品や香粧品など各種物品によりよい香味を付与して、既存品の香味との差別化を可能とする新たな化合物の開発が期待されて続けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-025182号公報
【特許文献2】特開平4-8264号公報
【特許文献3】特開2019-68756号公報
【特許文献4】国際公開第2014/142025号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、物品への香味の付与に有用な新たな化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、香味付与に有効な未知の化合物を鋭意探索したところ、香りを呈することや香味の付与効果が全く知られていなかった、シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物が香味付与に有用であることを見出した。
【0009】
かくして、本発明は以下のものを提供する。
[1] 下記式(1)で表される、シクロプロパン骨格を有するラクトン化合物。
【0010】
【化1】
[式中、nは0~3の整数を表し、破線は、そのいずれか1箇所がシクロプロパン骨格であり、シクロプロパン骨格以外の0~1箇所が炭素-炭素間二重結合であり、その他の箇所は単結合であることを表す。]
[2] [1]に記載のラクトン化合物を含む香味付与組成物。
[3] [2]に記載の香味付与組成物を含む消費財。
[4] [2]に記載の香味付与組成物を消費財に配合することを含む、消費財の香味付与方法。
[5] [2]に記載の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合することを含む、香味付与組成物の香味付与方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、各種物品への香味の付与に新規に使用可能な化合物を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表すものとする。
【0013】
(式(1)で表されるシクロプロパン骨格を有するラクトン化合物)
式(1)で表されるシクロプロパン骨格を有するラクトン化合物(本明細書では、式(1)のラクトン化合物ともいうことがある)は、いずれも従来文献未記載の新規化合物であり、これまで香りがあることも消費財など各種物品への香味付与に使用可能なことも全く知られていなかった化合物群であり、本発明者らによって香味付与用途の有用性が初めて確認されたものである。
【0014】
【化2】
[式中、nは0~3の整数を表し、破線は、そのいずれか1箇所がシクロプロパン骨格であり、シクロプロパン骨格以外の0~1箇所が炭素-炭素間二重結合であり、その他の箇所は単結合であることを表す。]
好ましくは、nは1~3の整数であり、より好ましくは1または2であり、さらに好ましくは1である。好ましくは、破線において、シクロプロパン骨格が1箇所であり、1箇所が炭素-炭素間二重結合であり、その他の箇所が単結合である。さらに好ましくは、シクロプロパン骨格がラクトン環の側鎖(以下、単に側鎖ともいう)に1箇所であり炭素-炭素間二重結合がラクトン環に1箇所であり、その他の箇所が単結合であるか、シクロプロパン骨格がラクトン環に1箇所であり炭素-炭素間二重結合が側鎖に1箇所であり、その他の箇所が単結合である。例えば、好ましい態様として、nは1であり、シクロプロパン骨格が側鎖に1箇所であり炭素-炭素間二重結合がラクトン環に1箇所であり、その他の箇所が単結合であるか、シクロプロパン骨格がラクトン環に1箇所であり炭素-炭素間二重結合が側鎖に1箇所であり、その他の箇所が単結合である態様が例示できる。また、好ましくは、側鎖はラクトン環の4位に結合している。
【0015】
式(1)のラクトン化合物の好ましい具体例としては、以下の式(1-1)の化合物、式(1-2)の化合物、および式(1-3)の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
【化3】
【0017】
(式(1)のラクトン化合物の製造例)
式(1)のラクトン化合物を得る手段は特に限定されないが、例えば、下記の方法によって得ることができる。
【0018】
(合成例1)
式(1)のラクトン化合物は、二重結合を有するラクトン化合物を直接シクロプロパン化することで得られる。二重結合を有するラクトン化合物は一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。
【0019】
二重結合を有するラクトン化合物は、例えば、以下の反応経路1に記載の方法に従って合成できる。反応経路1中、Rはアルキル基またはアルケニル基である。
【0020】
【化4】
【0021】
上記反応の工程は、ヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコールA(式Aにおいて、PGは保護基を表す)を原料として、任意の塩基とクロロギ酸エチルを用いてエトキシカルボニル化し三重結合を有する不飽和エステルBとする。得られた不飽和エステルBに対し銅試薬存在下、グリニャール試薬を加えることでZ位選択的に共役付加反応させ二重結合を有する不飽和エステルCとする。得られた不飽和エステルCの脱保護を行うと環化まで進行し、目的のラクトン化合物を得ることが出来る。以下、各工程について一般的な製法を述べるが、本発明を限定するものではない。上記反応の出発物質として用いられるヒドロキシル基が保護されたプロパルギルアルコールAは、一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。保護基としてはエトキシエチル(EE)基やテトラヒドロピラニル(THP)基のようなアセタール系保護基やt-ブチルジメチルシリル(TBS)基のようなシリル系保護基などを挙げることが出来るが、EE基が好ましい。エトキシカルボニル化反応に用いる塩基は特に限定はされないが、n-ブチルリチウムが好ましい。共役付加反応に用いるグリニャール試薬は対応するハロゲン化アルキルとマグネシウムから調製することが出来る。ハロゲン化アルキルは一般的な方法に従って合成されたもの、または市販品のいずれでもよい。用いる銅試薬は臭化銅ジメチルスルフィド錯体、臭化銅、ヨウ化銅などを挙げることが出来るが、臭化銅ジメチルスルフィド錯体が好ましい。脱保護の条件は用いた保護基の種類によって適宜選択してよい。EE基のようなアセタール系保護基は一般的には酸加水分解で脱保護されるが特に限定はされない。酸加水分解に用いる酸は塩酸、硫酸などを挙げることが出来るが、塩酸が好ましい。脱保護が進行すると環化まで進行し目的物へと変換される。
【0022】
反応経路1ではラクトン環の4位に側鎖がある場合の反応経路であるが、ラクトン環の3位に側鎖のあるラクトン化合物の場合は、Biosci.Biotechnolo.Biochem.,66(1),pp.135-140(2002)に記載の方法を参照して合成でき、ラクトン環の5位に側鎖のあるラクトン化合物の場合は、Biosci.Biotechnolo.Biochem.,84(8),pp.1560-1569(2020)に記載の方法を参照して合成できる。
【0023】
以下、ラクトン化合物のシクロプロパン化の方法例として、反応経路2および反応経路3について説明するが、シクロプロパン化方法はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
シクロプロパン化の方法はシモンズ-スミス反応、コーリー-チャイコフスキー反応、ジアゾ化合物から調製した金属カルベノイドを用いる方法などが知られているが、電子豊富の二重結合のシクロプロパン化にはシモンズ-スミス反応が好ましく、α,β-不飽和カルボニル化合物のような電子不足の共役二重結合のシクロプロパン化にはコーリー-チャイコフスキー反応が好ましい。シモンズ-スミス反応には金属とジヨードメタンが用いられ、一般的に亜鉛と銅の合金が使用されるがサマリウムなどを用いることも可能である。コーリー-チャイコフスキー反応ではトリメチルスルホキソニウムヨージドを塩基で処理することでイリドへと変換し、生成したイリドをα,β-不飽和カルボニル化合物と反応させることでシクロプロパン化することが出来る。イリドの生成に用いられる塩基はt-ブトキシカリウム、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミド、水素化ナトリウムなどを挙げることが出来るが、t-ブトキシカリウムが好ましい。条件を適切に選択することで望みの位置の二重結合を選択的にシクロプロパン化することが出来る。
【0027】
(合成例2)
反応経路4や反応経路5に示すように二重結合を有するラクトン前駆体FやIに対しシクロプロパン化を行い、その後ラクトン化することでシクロプロパン骨格を有するラクトン化合物(反応経路4では式(1-1)および式(1-2)の化合物、反応経路5では式(1-3)および式(1-4)の化合物)を製造することも出来る。
【0028】
【化7】
【0029】
【化8】
【0030】
上記反応の出発物質として用いられる二重結合を有するラクトン前駆体FやIは一般的な方法に従って合成されたもの(例えば、J.Agric.Food.Chem.2019,67,pp.7410-7415に記載の方法)、または市販品のいずれでもよい。ラクトン前駆体の保護基(PG)としてはエトキシエチル(EE)基やテトラヒドロピラニル(THP)基のようなアセタール系保護基やt-ブチルジメチルシリル(TBS)基のようなシリル系保護基などを挙げることが出来るが、EE基が好ましい。ラクトン前駆体のRはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることが出来るが、エチル基が好ましい。ラクトン前駆体に対し前述の方法でシクロプロパン化し、得られたシクロプロパン骨格を有するラクトン前駆体を脱保護すると環化まで進行し目的物へと変換される。脱保護の条件は用いた保護基の種類によって適宜選択すればよい。EE基のようなアセタール系保護基は一般的には酸加水分解で脱保護されるが特に限定はされない。酸加水分解に用いる酸は塩酸、硫酸などを挙げることが出来るが、塩酸が好ましい。
【0031】
式(1)の各ラクトン化合物は、それ自体、オイリー(油様)、ワキシー(ワックス様)、ラクトン(lactone)様(ラクトン化合物から感じられるような甘さ、クリーミーさなどを含む感覚)、ハーバル、テルペン(terpenic)様(炭化水素系香料化合物が呈し得る少し石油を思わせる感覚や、シトラス果皮から感じられるワキシーさを含む感覚を含む)、シトラス様(例えば、レモン様)、シトロネラ様(植物のシトロネラの香りを想起させる感覚、例えばグリーン、シトラス様など)といった香気を含む特徴的な香気を呈し、各種物品に配合することで配合対象に香味を付与できる。配合対象としては特に限定されないが、香味付与組成物(詳細は後述する)、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財を例示できる。
【0032】
本明細書において、香味とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚および/または味覚を含む感覚を意味する。本明細書において、用語「香味を付与」とは、前記香味を新たに加える、または増強することを含み、例えば、付与の結果香味が改善されるものであってよい。さらには、香味の付与の結果、嗅覚および/または味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感、などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、本明細書において、飲食品の香味を風味と呼ぶこともある。
【0033】
(本発明の香味付与組成物)
本発明の香味付与組成物は、式(1)のラクトン化合物の1種以上を所定量含むものであり、各種物品に配合してその物品に香味を付与(香味付与の定義は上述した通りである)することのできるものである。本発明の香味付与組成物の例として、各種物品に香りを付与できる組成物、すなわちいわゆる香料;各種物品に香りおよび/または味を付与できる各種エキス;各種飲食品に香りおよび/または味を付与できるその他食品添加物;各種香粧品や医薬衛生品に香りおよび/または味を付与できる添加物;などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明の香味付与組成物は、式(1)のラクトン化合物の他にも任意の成分を含み得るが、実質的に式(1)のラクトン化合物のみからなるものであってもよい。本発明の香味付与組成物が式(1)のラクトン化合物以外の成分も含む場合、当該香味付与組成物中の式(1)のラクトン化合物の濃度は、香味付与組成物の配合対象や香気特性に応じて任意に決定できる。
【0035】
当該濃度の例として、香味付与組成物の全体質量に対して、0.01ppm~10%、好ましくは0.1ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.01ppm、0.1ppm、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、0.1ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香味付与組成物の処方や香調にも依存するが、香味付与組成物中の式(1)のラクトン化合物の濃度が0.01ppm未満の場合は配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は式(1)のラクトン化合物由来の香りが強く配合対象の香味付与組成物の香気および/または風味特性に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、配合対象の香味付与組成物の香調などによっては、式(1)のラクトン化合物を前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0036】
また、本発明の香味付与組成物において式(1)のラクトン化合物に加えて、さらに含有し得る他の任意の化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0037】
合成香料化合物のその他の例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0038】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、テルピネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0039】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、ヒドロキシシトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、アミルシンナムアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0040】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトインなどの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0041】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0042】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、3-メチル酪酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルペニルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、酪酸ベンジル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0043】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0044】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、イソバレル酸、カプロン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0045】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0046】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、およびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0047】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0048】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0049】
本発明の香味付与組成物は、式(1)のラクトン化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0050】
本発明の香味付与組成物の形態としては、式(1)のラクトン化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0051】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0052】
また、乳化製剤とするためには、式(1)のラクトン化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。式(1)のラクトン化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、式(1)のラクトン化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0053】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0054】
本発明の香味付与組成物はさらに、必要に応じて、香味付与組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0055】
(各種物品への使用)
本発明の式(1)のラクトン化合物を含む香味付与組成物は、各種物品に配合して使用することができる。各種物品への香味付与によって、香味の付与された物品が製造される。そのため、本発明において、各種物品への香味付与方法とは、香味の付与された物品の製造方法ともいえる。ここで、本発明の配合対象である各種物品は、生産者による製造途中のものであってもよく、上市され消費者が用い得るものであってもよい。例えば、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に本発明の香味付与組成物を配合することで、香味の付与された消費財が製造でき、本発明の香味付与組成物の配合は、生産者の消費財の製造中に行われてもよいし、上市された消費財に対し、消費者によって行われてもよい。また、本発明の香味付与組成物を他の香味付与組成物に配合してさらに香味を付与することで、香味の付与された新たな香味付与組成物を製造してもよく、この新たな香味付与組成物も、本発明の香味付与組成物として各種物品の製造に用いることができる。例えば、式(1)のラクトン化合物を含む香味付与組成物は、それ自体を飲食品、香粧品、医薬衛生品などの各種消費財、または他の香味付与組成物などの各種物品に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香味付与組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて各種物品に配合してもよい。
【0056】
本発明の式(1)のラクトン化合物を含む香味付与組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、抹茶、ほうじ茶、紅茶、烏龍茶、プーアル茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ワサビ、山椒などの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類(アルコール)風味;ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられるが、式(1)のラクトン化合物またはそれを含有する香料組成物によって香味を付与可能な任意の風味であってよい。好適に使用できる風味の例として、柑橘を代表とする各種果実風味;ビール風味;紅茶、緑茶に代表される各種茶風味;乳風味;油脂風味;チョコレート風味;ココア風味;ショウガやシソなどを含む各種スパイスまたはハーブ風味を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0057】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類、その他穀類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料(ビール風味飲料ともいう)、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0058】
本発明の式(1)のラクトン化合物を含む香味付与組成物を配合可能な香粧品または医薬衛生品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。使用可能な香調も特に限定されず、式(1)のラクトン化合物またはそれを含有する香味付与組成物によって香味を改善可能な任意の香調であってよいが、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、グリーン調などに好適に使用することができる。
【0059】
本発明において、本発明の香味付与組成物を配合した飲食品、香粧品、医薬衛生品などの各種消費財、他の香味付与組成物などの各種物品中の式(1)のラクトン化合物の濃度は、物品の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0060】
当該濃度の例として、他の香味付与組成物であれば、上記「本発明の香味付与組成物」の項で記載した濃度を採用できる。
【0061】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、式(1)のラクトン化合物の濃度として10ppt~10ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppmのいずれか、上限値を10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度として100ppt~100ppb、100ppt~1ppm、1ppb~100ppb、1ppb~1ppm、10ppb~100ppb、10ppb~1ppmから、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や風味にも依存するが、飲食品中の式(1)のラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、風味改善効果が低いと感じられる場合があり、10ppmを超える場合は、化合物そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の風味に好ましくない変質を与えると感じられる場合がある。
【0062】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度として10ppt~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%のいずれか、上限値を10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度として、1ppm~1000ppm、10ppm~1000ppm、10ppm~1%、100ppm~1%の各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の本発明の式(1)のラクトン化合物の濃度が10ppt未満の場合は、香気改善効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、10%を超える場合は、配合対象の香粧品の香気に好ましくない変質を与えると感じられる場合がある。
【0063】
本発明の式(1)のラクトン化合物によって、各種物品に良好な香りまたは味を付与することができ、例えば、ミドルからラストの味の厚みや余韻を増強することができる。具体的な効果の例としては、例えば、本発明の式(1)のラクトン化合物を飲食品や香粧品などの物品に有効量配合することで、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、フレッシュ感、果汁感、みずみずしさ、味の厚み、コク、油脂感などの少なくとも1種が増強され、芯のある香味となり、それが良好なバランスのまま持続する(余韻ともいう)という効果を奏する。本明細書において、味の厚みとは、香りおよび味の強さがバランスよく全体的に増強された感覚を含むものとする。
【0064】
具体例としては、果実風味であれば、果汁感、果皮感(苦さ、渋さ、ワキシーさなど)、味の厚み、コクなどを付与でき、特に柑橘類の果汁感や果皮感を増強して天然感やフレッシュ感を付与できる。茶風味であれば、茶葉感、紅茶独特の華やかな香り、風味の余韻を付与できる。ココア風味であれば、コク、味の厚みを付与できる。チョコ風味であれば、コク、味の厚みを付与できる。乳風味であれば、コク、味の厚み、乳脂感を付与できる。ビール風味であれば、ビール独特の風味の後味のよさ(アフターテースト)を付与できる。ハーブ風味であれば、フレッシュ感、コク、味の厚みなどを付与でき、特にレモングラスやローズマリーなどのハーバルな風味の付与や、ショウガのすりおろしたてのような新鮮な風味を付与することができる。アルコール類であれば、味の厚みを付与でき、飲みごたえを感じられる満足感を付与できる。フローラル調であれば、天然感や香りの余韻を付与することができる。ただし本発明の式(1)のラクトン化合物の香味付与効果はこれらに限定されるものではない。
【0065】
さらに、本発明の香味付与組成物は、香味付与の結果、苦み、渋み、えぐみ(これらを総称して収斂味ともいう)、タンパク臭などの異味異臭、アルコールに起因する刺激感(代表的には、焼け感またはバーニング感と言われる、アルコール含有飲食品を喫食した時に口中や喉で感じられる、熱いまたは焼けるような刺激感)などの不快味をマスキングすることにも使用できる。すなわち、本発明の香味付与組成物は、収斂味やタンパク臭などが突出し異味異臭として感じられることや、アルコールの過度の刺激感が問題となり得る飲食品に配合して、その飲食品の香味にコクおよび/または味の厚みなどを付与することにより、突出した異味異臭や不快味をマスキングするために使用できる。このような飲食品としては、例えばタンパク質を高含有する飲食品が例示でき、より具体的には、プロテイン飲料、濃厚流動食、高栄養飲料などの各種高栄養食品、植物性タンパク質を用いた代替肉(植物肉などとも称する)などが挙げられ、他の例としては比較的高いアルコール濃度を有する飲料や、アルコールの刺激感が感じられやすい香味のアルコール飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。当該マスキング効果を得るために飲食品に対する式(1)のラクトン化合物の濃度を調整することができる。例えば、前述の濃度範囲10ppt~10ppmにおいて、若干高い濃度で飲食品に配合することで、コクや味の厚みなどを十分に付与でき、マスキング効果を十分に得ることができる。マスキング効果が得られやすい濃度範囲の例として、下限値を0.1ppb、1ppb、10ppb、100ppb、200ppb、500ppb、1ppm、5ppmのいずれか、上限値を1ppm、500ppb、200ppb、100ppb、10ppb、1ppbのいずれかとして、これらの任意の組合せによる濃度範囲でよく、具体的には、0.1ppb~100ppbまたは1ppb~200ppbが例示できるが、これらに限定されず、所望のマスキング効果の程度や配合対象の飲食品の香味に応じて決定してよい。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
[実施例1]
式(1)のラクトン化合物の例として、以下式(1-1)~(1-3)の化合物を合成した。以下、室温とは約20℃~約30℃の範囲内の温度を意味する。
【0068】
実施例1(1):式(1-1)の化合物(5-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン-2-オン)の合成
まず、J.Agric.Food.Chem.2019,67,pp.7410-7415に記載の方法に従ってエチル(Z)-3-[(1-エトキシエトキシ)メチル]-7-メチルオクタ-2,6-ジエノエート(下記化合物α)を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0069】
【化9】
【0070】
(工程1)100mL二つ口フラスコにトリメチルスルホキソニウムヨージド(2.32g,10.5mmol)、脱水ジメチルスルホキシド(DMSO)(20mL)を入れ、ここにt-ブトキシカリウム(KOtBu)(1.14g,10.2mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で30分撹拌しイリドを調製した。
【0071】
200mL三つ口フラスコに化合物A(2.00g,7.03mmol)、脱水ジメチルスルホキシド(10mL)を入れ、アルゴン雰囲気下撹拌した。ここに調製した上記イリドを30分かけて滴下しその後室温で6時間撹拌した。反応液に20%塩化アンモニウム水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を20%食塩水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物β(1.85g)を得た。
【0072】
(工程2)100mLナスフラスコに粗精製物β(1.85g)、テトラヒドロフラン(THF)(15mL)、1M塩酸(15.0mL,15.0mmol)を入れアルゴン雰囲気下30分撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を入れ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(1.37g)を得た。得られた粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:30g,ヘキサン:酢酸エチル=13:1)にて精製し、さらにクーゲルロール(オーブン設定:~230℃/0.27kPa)で精製し式(1-1)の化合物を無色油状物として229mg(全2段階の工程の収率18%)得た。これを本発明品1とした。
【0073】
得られた式(1-1)の化合物の物性値は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ1.01(m,1H),1.22(dd,J=5.2,9.2Hz,1H),1.54(m,1H),1.62(s,3H),1.69(d,J=1.2Hz,3H),1.78-1.88(m,2H),2.08(q,J=7.2Hz,2H),4.15(dd,J=0.8,9.2Hz,1H),4.20(dd,J=1.2,9.2Hz,1H),5.08(m,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ17.6,18.1,22.9,25.6,25.6,29.7,31.7,72.7,122.8,132.9,176.5.
IR(全反射測定法):2967,2913,2855,1769,1451,1361,1174,1013,955,936,883,812cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1117[M+H] 181.1223,found 181.1226.
【0074】
実施例1(2):式(1-2)の化合物(4-[2-(2,2-ジメチルシクロプロピル)エチル]フラン-2(5H)-オン)の合成
まず、J.Agric.Food.Chem.2019,67,pp.7410-7415に記載の方法に従って4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノン(下記化合物γ)を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0075】
【化10】
【0076】
100mL三つ口フラスコに化合物γ(1.00g,6.02mmol)、脱水ジエチルエーテル(EtO)(20mL)、亜鉛-銅合金(Zn-Cu、3.92g,60.1mmol)を入れ、アルゴン雰囲気下撹拌した。ここにジヨードメタン(CH)(15.94g,59.5mmol)を穏やかに還流させながら2時間かけて加え、その後3時間加熱還流した。
【0077】
反応液を室温まで冷却後、1M塩酸を入れ、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を1M塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(4.79g)を得た。得られた粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:50g,ヘキサン:酢酸エチル=13:1→10:1)にて精製し、さらにクーゲルロール(オーブン温度:~240℃/0.27kPa)で精製し式(1-2)の化合物を淡黄色油状物として797mg(全工程の収率73%)得た。これを本発明品2とした。
【0078】
得られた式(1-2)の化合物の物性値は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ-0.05(t,J=4.4Hz,1H),0.43-0.54(m,2H),1.04(s,3H),1.05(s,3H),1.54(dq,J=14.4,7.2Hz,1H),1.66(dq,J=14.4,7.2Hz,1H),2.49(t,J=7.2Hz,2H),4.75(d,J=1.6Hz,2H),5.85(quin,J=1.6Hz,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ15.7,19.7,19.8,23.8,27.3,27.6,29.0,73.1,115.3,170.5,174.1.
IR(全反射測定法):2939,2925,2889,2865,1778,1743,1636,1451,1169,1142,1129,1026,885,849cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1117 [M+H] 181.1223,found 181.1228.
【0079】
実施例1(3):式(1-3)の化合物(5-(4-メチル-3-ペンテニル)-2-オキサビシクロ[3.1.0]ヘキサン-3-オン)の合成
まず、J.Agric.Food.Chem.2019,67,pp.7410-7415に記載の方法に従ってエチル(Z)-3-[(1-エトキシエトキシ)メチル]-7-メチルオクタ-2,6-ジエノエート(化合物α)を合成し、次いで下記の反応経路の通りに合成を行った。
【0080】
【化11】
【0081】
(工程1)100mL三つ口フラスコにアルゴン雰囲気下でジイソプロピルアミン(DIPA)(1.60mL,11.4mmol)、脱水テトラヒドロフラン(THF、15mL)を入れ-78℃で撹拌した。ここにn-ブチルリチウム(n-BuLi)(1.59Mヘキサン溶液,7.00mL,11.1mmol)を35分かけて同温下で入れ、その後-5℃で45分撹拌した。反応液を再び-78℃に冷却し、ここに化合物A(2.00g,7.03mmol)の脱水テトラヒドロフラン(4mL)溶液を10分かけて滴下し、同温下1時間撹拌した。次いで、反応液にエタノール(3mL)を-60℃以下で加え、昇温後20%塩化アンモニウム水を加えた。このものをジエチルエーテルで抽出し、得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(2.00g)を得た。得られた粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:60g,ヘキサン:酢酸エチル=50:1→30:1)にて精製し化合物δを無色油状物として1.89g(工程1の収率95%,7:3のジアステレオマー混合物)得た。
【0082】
(工程2)100mL三つ口フラスコに化合物δ(1.00g,3.52mmol)、脱水ジエチルエーテル(EtO)(10mL)、亜鉛-銅合金(259mg,3.97mmol)を入れ、アルゴン雰囲気下撹拌した。ここにジヨードメタン(CH)(0.32mL,3.97mmol)を穏やかに還流させながら20分かけて加え、その後22時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却後、シリカゲル(SiO:10g,ジエチルエーテル)に通し不溶物を除いた。留出液を水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮を経て粗精製物(1.01g)を得た。得られた粗精製物をフラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:50g,ヘキサン:酢酸エチル=40:1)にて精製した。精製物をジエチルエーテルに溶かした後に1M塩酸、飽和重曹水、飽和食塩水で順次洗浄し、その後硫酸マグネシウムによる乾燥、減圧濃縮後に再度フラッシュシリカゲルカラムクロマトグラフィー(SiO:20g,ヘキサン:酢酸エチル=35:1)で精製し、さらにクーゲルロール(オーブン設定:~210℃/0.13kPa)で精製し、式(1-3)の化合物を無色油状物として71.5mg(工程2の収率11%)得た。これを本発明品3とした。
【0083】
得られた式(1-3)の化合物の物性値は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz,CDCl):δ0.66(d,J=7.2Hz,1H),0.86(m,1H),1.39(dt,J=14.4,7.2Hz,1H),1.62(s,3H),1.69(m,1H),1.69(s,3H),2.09(q,J=7.2Hz,2H),2.57(d,J=18.8Hz,1H),2.72(dd,J=1.6,18.8Hz,1H),4.07(d,J=4.4Hz,1H),5.09(m,1H).
13C-NMR(100MHz,CDCl):δ17.6,20.4,21.9,25.7,25.7,34.4,37.1,61.3,123.0,132.6,176.9.
IR(全反射測定法):2967,2916,2855,1777,1442,1414,1377,1295,1145,1101,1065,999,984,895,862,818,768,732,556cm-1
DART-TOFMS:m/z calcd.for C1117 [M+H] 181.1223,found 181.1222.
【0084】
[実施例2]合成した式(1)のラクトン化合物の香気特性
実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物(すなわち、式(1-1)、式(1-2)、式(1-3)の各化合物)の香気評価を行った。香気評価では、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名に嗅がせ、感じられる香気についてコメントさせ、さらに、同じラクトン類である4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノン(特開2017-025182号公報)を対照品として、対照品と比較した香気強度についてもコメントさせた。代表的なコメントを下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、本発明の式(1)のラクトン化合物である式(1-1)、式(1-2)および式(1-3)の化合物(本発明品1~3)はそれぞれ特徴的な香気を呈していた。同じラクトン化合物である対照品(4-(4-メチル-3-ペンテニル)-2(5H)-フラノン)にはない特性も有しており、本発明の式(1)の各ラクトン化合物は対照品の化合物とは異なる香味も付与可能であるといえる。また、本発明の式(1)の各ラクトン化合物は対照品の化合物よりも香気強度が強く、対照品の場合よりも微量でも賦香効果を得られ、経済的であるといえる。
【0087】
[実施例3] 果実調香料組成物への配合効果
下記表2の一般的な処方に従って、レモン様基本調合香料組成物を調整した。
【0088】
【表2】
【0089】
得られた基本調合香料組成物に、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度が基本調合香料組成物全質量に対して0.1%となるように配合し、本発明の香味付与組成物(本発明品4~6)を得た。そして、上記基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香味付与組成物の香気について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト7人に評価させた。その結果、パネリスト7人全員が、本発明の香味付与組成物はいずれも、シトラス果皮様のワキシー感やオイル感、レモン果実のしぼりたてのようなフレッシュ感、および香気の余韻が顕著に増強されたと回答した。
【0090】
[実施例4] 果実風味飲食品への配合効果
市販のレモネードを用意し、このレモネードに、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度が下記表3に示す通りレモネード全質量に対し0.1ppb、0.1ppmまたは1ppmとなるように配合して、本発明の果実風味飲料を調製した。本発明の果実風味飲料の天然感について、市販の容器詰めレモネードを対照品として官能評価を行った。具体的には、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト10名に、対照品と比較した天然感について「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせた。ここで、天然感とは、素材であるレモン果実を想起させる何らかの香味が増強されており、レモンをより多く使用したような自然な香味を意味するものとした。パネリスト10名の平均点および代表的なコメントを下記表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示すように、式(1)の各ラクトン化合物は、果皮感、コクを代表とした特徴的な香味付与効果を奏することが確認された。また、少なくとも飲食品中0.1ppb~1ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られ、その結果天然感を増強できることが確認された。
【0093】
[実施例5] 茶飲料への配合効果
市販の無糖紅茶に、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度が無糖紅茶全質量に対し100ppbとなるように配合して、本発明の乳風味飲料を得た。そして、市販の無糖紅茶を対照品として、対照品と比べた本発明品の茶飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト10名による官能評価を行った。具体的には、前記パネリスト10名に、対照品と比較した好ましさについて「大きく向上した」=4点、「向上した」=3点、「わずかに向上した」=2点、「変化なし」=1点として点数付けさせるとともに、香味についてコメントさせた。ここで、好ましさとは、おいしいと感じ、次の機会にも飲みたくなるような感覚を意味するものとする。パネリスト10名の平均点および代表的なコメントを下記表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4に示すように、式(1)の各ラクトン化合物はいずれも、茶葉をふんだんに使用したような味の厚み、紅茶の華やかな香りを代表とした特徴的な香味付与効果を奏することが確認された。また、少なくとも飲食品中0.1ppb~1ppmの濃度範囲内で香味付与効果が得られることが確認された。
【0096】
[実施例6] ビール風味飲料への配合効果
市販のノンアルコールビールに、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度がノンアルコールビール全質量に対し50ppbとなるように配合して、本発明のノンアルコールビール飲料(本発明品25~27)を得た。そして、市販のノンアルコールビールを対照品として、対照品と比べた本発明品のビール風味飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行った。その結果、パネリスト5名全員が、本発明のビール風味飲料はいずれも対照品と比べてコクと味の厚みが増強され、香味の余韻がより持続するようになり、飲用後の満足感が増し、より好ましい風味になったと回答した。中でも、式(1-2)の化合物を配合した本発明品26および式(1-3)の化合物を配合した本発明品27は、ホップを思わせるシトラス様の香味も増強されて特に好ましい風味になったと回答した。
【0097】
[実施例7]チョコレート風味飲食品への配合効果
市販のチョコレートドリンク(ミルク入り)に、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度がチョコレートドリンク全質量に対し100ppbの濃度となるように配合して、本発明のチョコレート風味飲料(本発明品28~30)を得た。そして、市販のチョコレートドリンクを対照品として、対照品と比べた本発明のチョコレート風味飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明のチョコレート風味飲料はいずれも、対照品の市販のチョコレートドリンクに比べて、チョコレートの風味が全体的に増強されて味の厚みが増してより好ましい風味になったと回答した。中でも、式(1-1)の化合物を配合した本発明品28および式(1-2)の化合物を配合した本発明品29は、カカオ油脂や乳脂を思わせる油脂のコクも増強されて特に好ましい風味になったと回答した。
【0098】
[実施例8]ココア風味への配合効果
市販のミルクココアに、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度がミルクココア全質量に対し50ppbの濃度となるように配合して、本発明のココア風味飲料(本発明品31~33)を得た。そして、市販のミルクココアを対照品として、対照品と比べた本発明のココア風味飲料の香味についてよく訓練された経験年数10年以上のパネリスト5名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト5名全員が、本発明のココア風味飲料はいずれも、対照品の市販のミルクに比べて、ココアの香ばしい風味が全体的に増強されて味の厚みが増してより好ましい風味になったと回答した。中でも、式(1-1)の化合物を配合した本発明品31および式(1-2)の化合物を配合した本発明品32は、乳脂を思わせるミルクのコクも増強されて特に好ましい風味になったと回答した。
【0099】
[実施例9]各種香辛料風味への配合効果
市販のショウガ風味ペースト、レモングラス風味ペースト、およびローズマリー風味ペーストに、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度が各ペースト全質量に対し100ppbの濃度となるように配合して、本発明の香辛料風味ペースト(ショウガ風味ペースト…本発明品34~36、レモングラス風味ペースト…本発明品37~39、ローズマリー風味ペースト…本発明品40~42)を得た。そして、市販の各風味のペーストを対照品として、対照品と比べた本発明の各風味のペーストの香味についてよく訓練された経験年数15年以上のパネリスト4名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。
【0100】
その結果、ショウガ風味ペーストについては、パネリスト4名全員が、本発明品34~36はいずれもオイルのコク、味の厚みおよび余韻が増強され好ましい風味となったと回答し、中でも、式(1-3)の化合物を配合した本発明品36は、すりおろしたてのショウガのような新鮮な刺激感も増強され特に好ましい風味となったと回答した。
【0101】
レモングラス風味ペーストについては、パネリスト4名全員が、本発明品37~39はいずれもオイルのコク、味の厚みおよび余韻が増強され好ましい風味となったと回答し、中でも、式(1-2)の化合物を配合した本発明品38は、レモングラス独特の爽やかなグリーンおよびシトラス様の風味も増強され特に好ましい風味となったと回答した。
【0102】
ローズマリー風味ペーストについては、パネリスト4名全員が、本発明品40~42はいずれもオイルのコク、味の厚みおよび余韻が増強されていると回答し、中でも、式(1-2)の化合物を配合した本発明品41は、ローズマリー独特の清涼感のある風味も増強され特に好ましい風味となったと回答した。
【0103】
[実施例10]プロテイン飲料への配合効果
市販のプロテイン飲料に、実施例1(1)~(3)で得られた式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度がプロテイン飲料全質量に対し200ppbの濃度となるように配合して、本発明のプロテイン飲料(本発明品43~45)を得た。そして、市販のプロテイン飲料を対照品として、対照品と比べた本発明のプロテイン飲料の香味の変化について、よく訓練された経験年数10年以上のパネリスト4名に回答させた。その結果、パネリスト4名全員が、本発明のプロテイン飲料はいずれも、対照品の市販のプロテイン飲料に比べて味の厚みが増して、高濃度のタンパク質に感じられる独特の苦みと渋みが軽減され、いわゆるタンパク臭が弱くなり全体として飲用後の満足感が増したと回答した。
【0104】
[実施例11]ジャスミン調香料組成物への配合効果
下記表5の一般的な処方に従って、ジャスミン調基本調合香料組成物を調製した。
【0105】
【表5】
【0106】
得られたジャスミン調基本調合香料組成物に、実施例1(1)~(3)で得られた本発明の式(1)の各ラクトン化合物を、その濃度が1ppmの濃度となるように配合して、本発明の香味付与組成物(本発明品46~48)を調製した。そして、ジャスミン調基本調合香料組成物を対照品として、本発明の香味付与組成物の香気について経験年数10年以上のよく訓練されたパネリスト4名による官能評価を行い、どのような香味が増強されたかについて回答させた。その結果、パネリスト4名全員が、本発明品の香味付与組成物はいずれも、対照品の基本調合香料組成物に比べて、フローラルな香りの強度が高くなり、余韻がより長く続くようになったと回答し、また、式(1-1)の化合物を配合した本発明品46ではジャスミンの特徴のひとつである甘さも増強され、式(1-2)の化合物を配合した本発明品47および式(1-3)の化合物を配合した本発明品48は花弁を思わせるややグリーンな感覚も増強されたと回答した。
【0107】
以上に示すように、式(1)の各ラクトン化合物は、各種香味において優れた香味付与効果を奏し、物品への香味の付与に有用であることが確認された。