(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082175
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】演算モデル生成システムおよび演算モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20220525BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20220525BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C11/24 Z
B60C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193580
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
(72)【発明者】
【氏名】土本 壮至
(72)【発明者】
【氏名】中島 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 政弘
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131LA34
(57)【要約】
【課題】タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる演算モデル生成システムおよび演算モデル生成方法を提供する。
【解決手段】蓄積部13は、複数の車両ごとに複数の期間のそれぞれにおいて取得された物理情報、およびタイヤで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する。データ抽出部15は、蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出する。摩耗量算出部14は、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する学習型の演算モデル14aを有し、物理情報を入力して演算モデル14aにより摩耗量を算出する。学習処理部16は、複数の期間に亘って学習用データセットに基づいて摩耗量算出部14により算出される摩耗量と教師データとを比較して演算モデル14aを学習させ、検証用データセットに基づいて演算モデル14aを検証する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを装着した複数の車両における物理情報を取得する情報取得部と、
複数の前記車両ごとに複数の期間のそれぞれにおいて前記情報取得部で取得された前記物理情報、および各車両のタイヤで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する蓄積部と、
前記蓄積部により蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出するデータ抽出部と、
入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する学習型の演算モデルを有し、前記物理情報を入力して前記演算モデルにより摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
複数の前記期間に亘って前記学習用データセットに基づいて前記摩耗量算出部により算出される摩耗量と教師データとを比較して前記演算モデルを学習させ、前記検証用データセットに基づいて前記演算モデルを検証する学習処理部と、
を備えることを特徴とする演算モデル生成システム。
【請求項2】
複数の前記車両は、複数の種類に分類されており、
前記検証用データセットは、複数の前記期間ごとに、複数の前記種類の全てについて少なくとも1つの車両における前記データセットを含むことを特徴とする請求項1に記載の演算モデル生成システム。
【請求項3】
前記情報取得部は、更にタイヤで計測される加速度情報および位置情報を含む物理情報を取得することを特徴とする請求項1から2のいずれか1項に記載の演算モデル生成システム。
【請求項4】
タイヤを装着した複数の車両における物理情報を取得する情報取得ステップと、
複数の前記車両ごとに複数の期間のそれぞれにおいて前記情報取得ステップで取得された前記物理情報、および各車両のタイヤで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する蓄積ステップと、
前記蓄積ステップにより蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出するデータ抽出ステップと、
入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する学習型の演算モデルを有し、前記物理情報を入力して前記演算モデルにより摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、
複数の前記期間に亘って前記学習用データセットに基づいて前記摩耗量算出ステップにより算出される摩耗量と教師データとを比較して前記演算モデルを学習させ、前記検証用データセットに基づいて前記演算モデルを検証する学習処理ステップと、
を備えることを特徴とする演算モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算モデル生成システムおよび演算モデル生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ摩耗推定システムが記載されている。このタイヤ摩耗推定システムは、第1の予測変数を生成するためにタイヤに取り付けられた少なくとも1つのセンサと、第2の予測変数に関するデータを記憶するルックアップテーブルおよびデータベースの少なくとも一方と、少なくとも1つの乗物影響を含む予測変数のうちの一方と、予測変数を受け取り、少なくとも1つのタイヤに関する推定摩耗率を生成するモデルと、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ摩耗推定システムは、例えばホイール位置およびドライブトレーンを乗物影響として用い、多重線形回帰モデルによってタイヤ摩耗を推定する。ところで学習型モデルを用いた推定では、学習型モデルの学習過程で精度評価のための各種の手法が用いられる。本発明者は、複数の車両において計測される物理情報に基づいて、学習型モデルによるタイヤ摩耗量の推定の精度を向上するうえで、特許文献1の開示技術に改良の余地があるとの認識を得た。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる演算モデル生成システムおよび演算モデル生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は演算モデル生成システムである。演算モデル生成システムは、タイヤを装着した複数の車両における物理情報を取得する情報取得部と、複数の前記車両ごとに複数の期間のそれぞれにおいて前記情報取得部で取得された前記物理情報、および各車両のタイヤで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する蓄積部と、前記蓄積部により蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出するデータ抽出部と、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する学習型の演算モデルを有し、前記物理情報を入力して前記演算モデルにより摩耗量を算出する摩耗量算出部と、複数の前記期間に亘って前記学習用データセットに基づいて前記摩耗量算出部により算出される摩耗量と教師データとを比較して前記演算モデルを学習させ、前記検証用データセットに基づいて前記演算モデルを検証する学習処理部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は演算モデル生成方法である。演算モデル生成方法は、タイヤを装着した複数の車両における物理情報を取得する情報取得ステップと、複数の前記車両ごとに複数の期間のそれぞれにおいて前記情報取得ステップで取得された前記物理情報、および各車両のタイヤで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する蓄積ステップと、前記蓄積ステップにより蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出するデータ抽出ステップと、入力された情報に基づいてタイヤの摩耗量を算出する学習型の演算モデルを有し、前記物理情報を入力して前記演算モデルにより摩耗量を算出する摩耗量算出ステップと、複数の前記期間に亘って前記学習用データセットに基づいて前記摩耗量算出ステップにより算出される摩耗量と教師データとを比較して前記演算モデルを学習させ、前記検証用データセットに基づいて前記演算モデルを検証する学習処理ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤの摩耗量の推定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る演算モデル生成システムの全体構成を説明するための模式図である。
【
図2】車載計測装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】演算モデル生成装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】蓄積部に蓄積したデータの一例を示す図表である。
【
図5】演算モデルの学習について説明するための模式図である。
【
図6】データ抽出部によるデータセットの抽出の一例を示す図表である。
【
図7】データ抽出部による車両種類を考慮したデータセットの抽出について説明するための模式図である。
【
図8】演算モデル生成システムによる演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに
図1から
図9を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る演算モデル生成システム100の全体構成を説明するための模式図である。演算モデル生成システム100は、車両7に搭載された車載計測装置70と、車両に装着された個々のタイヤ7aの摩耗量を計測するタイヤ摩耗量計測装置8と、各車両7から取得した情報に基づいてタイヤ7aの摩耗量を推定する演算モデルを生成する演算モデル生成装置10とを備える。
【0013】
演算モデル生成装置10は、例えばインターネット等の通信ネットワーク9を介して複数の車両7に搭載された車載計測装置70から車両7の加速度および位置情報等の物理情報を収集する。また演算モデル生成装置10は、タイヤ摩耗量計測装置8によって計測されたタイヤ7aの実際の摩耗量を収集し、演算モデル生成時に教師データとして用いる。演算モデル生成装置10は、複数の期間ごとに複数の車両7において取得された物理情報、および教師データとしてのタイヤ7aの実際の摩耗量に基づいて、タイヤ7aの摩耗量を推定する演算モデルを生成する。
【0014】
図2は、車載計測装置70の機能構成を示すブロック図である。車載計測装置70は、車両計測部71、タイヤ計測部72、情報取得部73および通信部74を備える。車載計測装置70における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0015】
車両計測部71は、車両7に搭載された加速度センサ71aおよびGPS受信機71bを有する。加速度センサ71aは、車両7の3軸方向の加速度を計測する。GPS受信機71bは、車両7の現在位置情報(緯度、経度および高度)を計測する。
【0016】
タイヤ計測部72は、温度センサ72aおよび圧力センサ72bを有する。温度センサ72aおよび圧力センサ72bは、車両7に装着されたタイヤ7aのエアバルブ等に配設されており、それぞれタイヤ7aの温度および空気圧を計測する。温度センサ72aは、タイヤ7aのインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0017】
情報取得部73は、車両計測部71およびタイヤ計測部72で計測された物理情報を取得し、通信部74から演算モデル生成装置10へ送信する。情報取得部73で取得する物理情報は、車両7の加速度情報および位置情報、タイヤ7aの温度および空気圧の情報を含む。情報取得部73は、車両7にデジタルタコメータ等の装置が搭載されている場合には、当該装置において収集した車両7の加速度情報および位置情報を取得するようにしてもよい。通信部74は、例えばWiFi(登録商標)等の無線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、情報取得部73が取得した物理情報を通信ネットワーク9を介して演算モデル生成装置10へ送信する。
【0018】
図1を参照し、タイヤ摩耗量計測装置8は、タイヤ7aのトレッドに設けられた溝の深さを直接計測する。作業者が計測器具やカメラ、目視等によって各溝の深さを計測し、タイヤ摩耗量計測装置8は、作業者が入力する計測データを記憶するものであってもよい。また、タイヤ摩耗量計測装置8は、機械的あるいは光学的な方法によって溝の深さを計測して記憶する専用の装置であってもよい。具体的には、タイヤ摩耗量計測装置8は、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測する。タイヤ摩耗量計測装置8によって計測されたタイヤ7aの摩耗量は、通信ネットワーク9を介して演算モデル生成装置10へ送信され、演算モデル14aの学習過程における教師データとして用いられる。
【0019】
図3は、演算モデル生成装置10の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成装置10は、通信部11、情報取得部12、蓄積部13、摩耗量算出部14、データ抽出部15および学習処理部16を備え、摩耗量算出部14における学習型の演算モデル14aを学習させて生成する。演算モデル生成装置10における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0020】
通信部11は、無線または有線通信によって通信ネットワーク9に通信接続し、車載計測装置70の通信部74との間で通信する。また、通信部11は、タイヤ摩耗量計測装置8からタイヤ7aの摩耗量の情報を受信する。情報取得部12は、複数の車両7に搭載された車載計測装置70から送信された物理情報、タイヤ摩耗量計測装置8で計測されたタイヤ7aの摩耗量を取得する。蓄積部13は、例えばSSD(Solid State Drive)、ハードディスク、CD-ROM、DVD等によって構成される記憶装置であり、情報取得部12によって取得した車両7ごとの物理情報およびタイヤ7aの摩耗量を記憶する。
【0021】
図4は蓄積部13に蓄積したデータの一例を示す図表である。蓄積部13は、各車両7に付された識別情報(C001,C002,C003等)に対応し、データ取得の期間T1,T2,T3およびT4ごとに車載計測装置70で計測された物理情報A、およびタイヤ摩耗量計測装置8で計測されたタイヤ7aの摩耗量Bの情報を蓄積する。
【0022】
例えば、識別情報01の車両7に対応して、期間T1で計測された物理情報A11および摩耗量B11、期間T2で計測された物理情報A12および摩耗量B12のように各期間ごとにデータが蓄積される。車両ごとに各期間において蓄積部13に蓄積されるデータをそれぞれデータセットとして扱う。即ち、識別情報C001の車両7に対応して、期間T1で計測された物理情報A11および摩耗量B11を1つのデータセットとし、同様に物理情報A12および摩耗量B12を1つのデータセットとする。
【0023】
例えば、演算モデル生成装置10は、全期間4ヶ月間で蓄積したデータに基づいて演算モデル14aを学習させ、全期間を4分割して各期間T1~T4を1ヶ月とする。物理情報A11は、期間T1において識別符号C001の車両7で時系列的に計測された物理情報である。摩耗量B11は、識別符号C001の車両7に装着されたタイヤ7aの期間T1における摩耗量である。尚、演算モデル生成において設定する全期間および各期間の長さは、この例に限られるものではない。
【0024】
摩耗量算出部14は、演算モデル14aを有し、入力情報を演算モデル14aに与えてタイヤ7aの摩耗量を出力する。
図5は、演算モデル14aの学習について説明するための模式図である。演算モデル14aへの入力情報は、車両7での計測情報である加速度情報および位置情報、並びにタイヤ7aでの計測情報であるタイヤ温度および空気圧を含む。演算モデル14aへの入力情報には、これらの他、気象データなどを用いてもよい。気象データは、例えば走行地域の気温、降水量などである。
【0025】
演算モデル14aは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル14aは、例えばDNN(Deep Nueral Network)や、決定木などの手法を用いて構築される。また演算モデル14aは、例えば入力情報に対する多重線形回帰モデルとし、学習によってモデル生成されるものであってもよい。演算モデル14aの学習過程では、入力情報に基づいて演算モデル14aによって出力データとしてのタイヤ7aの摩耗量を推定し、教師データと比較する。教師データは、上述のようにタイヤ摩耗量計測装置8によって計測されたタイヤ7aの摩耗量を用いる。演算モデル14aは、推定したタイヤ7aの摩耗量と教師データとを比較し、重みづけ等の演算過程における各種係数を新たに設定し、モデルの更新を繰り返すことで学習が実行される。尚、演算モデル14aは、勾配ブースティングなどの公知の学習方法を用いることができる。また演算モデル14aの検証には、ランダムデータサンプリングや交差検証などの公知の検証方法を用いることができる。
【0026】
データ抽出部15は、蓄積部13に蓄積された物理情報Aおよび摩耗量Bの各データセットから、期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを所定の比率でランダムに抽出する。
図6は、データ抽出部15によるデータセットの抽出の一例を示す図表である。例えば、データ抽出部15は、期間T1からT4の各期間における全データセットのうち学習用データセットが80%、検証用データセットが20%となるように抽出する。データ抽出部15は、抽出した学習用データセットおよび検証用データセットを学習処理部16へ出力する。
【0027】
またデータ抽出部15は、車両の種類に対応して検証用データセットを抽出する。
図7は、データ抽出部15による車両種類を考慮したデータセットの抽出について説明するための模式図である。複数の車両7が複数の種類に分類されている場合に、データ抽出部15は、期間ごとに、複数の種類の全てについて少なくとも1つの車両におけるデータセットを検証用データセットとして抽出する。
図7に示す例では、対象車両をトラックとし、車両の種類を車輪数によって分類している。データ抽出部15は、例えば、期間ごとに、10輪の車両54台のうち11台の車両に対応して蓄積されたデータセットを検証用データセットとして抽出する。各期間において、車両の種類の全てについて同じ比率で検証用データセットを抽出する必要はなく、例えば種類ごとに検証用データセットが20%程度となるように抽出する。
【0028】
学習処理部16は、データ抽出部15において抽出された学習用データセットに基づいて、演算モデル14aを学習させる。学習処理部16は、学習が完了した演算モデル14aに対して、検証用データセットに基づいてRMSE(二乗平均平方根誤差)、および決定係数R2を求めて検証する。
【0029】
次に演算モデル生成システム100の動作を説明する。
図8は、演算モデル生成システム100による演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。各車両7の情報取得部73は、車両計測部71およびタイヤ計測部72から物理情報を取得する(S1)。タイヤ摩耗量計測装置8は、車両7のタイヤ7aの摩耗量を期間ごとに計測する(S2)。演算モデル生成装置10の蓄積部13は、複数の期間のそれぞれにおいて、車両ごとに物理情報およびタイヤ7aの摩耗量を含むデータセットを蓄積する(S3)。
【0030】
データ抽出部15は、蓄積部13に蓄積されたデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出する(S4)。摩耗量算出部14は、演算モデル14aによって摩耗量を算出する(S5)。学習処理部16は、学習用データセットに基づいて算出された摩耗量と計測された摩耗量を比較して演算モデル14aの学習を実行する(S6)。学習処理部16は、演算モデル14aの学習が完了した後、検証用データセットに基づいて演算モデル14aを検証し(S7)、処理を終了する。
【0031】
図7に示したトラック車両について、演算モデル14aを生成した結果について説明する。蓄積部13に蓄積するデータセットは、例えば1ヶ月間を1期間として、車両ごとにデータセットを蓄積し、4ヶ月分のデータセットを準備する。データ抽出部15は、期間ごとに検証用データセットが20%程度となるように学習用データセットと検証用データセットをランダムに抽出する。データ抽出部15は、期間ごとに
図7に示すように車両の種類ごとに少なくとも1つの車両に対応するデータセットを検証用データセットに含むように抽出する。
【0032】
学習処理部16は、データ抽出部15によって抽出した学習用データセットに基づいて演算モデル14aを学習させる。以下に示す実施例では、学習処理部16は、車両計測部71によって計測された車両7の加速度情報および位置情報、並びにタイヤ計測部72によってタイヤ7aで計測されたタイヤの温度および空気圧を含む物理情報に基づいて演算モデル14aを学習させる。
【0033】
図9は、演算モデル14aの検証結果を示す図表である。
図9では、比較例として車両の走行距離を説明変数とした単回帰モデルを作成し、演算モデル14aの検証結果と、実施例とを比較している。実施例では、上述のように加速度情報、位置情報、タイヤの温度および空気圧を物理情報に含む。学習処理部16は、位置情報に基づいて車両の走行距離および高度の標準偏差を求めて演算モデル14aを学習させている。また実施例では、車両の位置情報に基づいて、車両の通過ルートを求め、通過ルートにある気象庁観測地点における気象データ(天候、気温、降水量など)を演算モデル14aへの入力情報として用いる。
図9に示すように実施例では、比較例よりもRMSEおよびR
2の双方で良好な結果が得られ、タイヤ7aの摩耗量の推定精度が向上している。
【0034】
演算モデル生成システム100は、期間ごとに学習用データセットと検証用データセットを抽出することによって、例えば4ヶ月間における気候の変化などの摩耗に寄与する要因の期間中における変動を考慮した学習をすることができ、摩耗量の推定精度を向上することができる。摩耗に寄与する要因は、期間中の気候の変化に限らず、例えばトラック運送の多寡、積載量や走行距離の変動なども挙げられる。
【0035】
演算モデル生成システム100は、特定の種類の車両で摩耗量の推定誤差が大きく出ているにも関わらず当該種類の車両に対応する検証用データセットを抽出していない場合、演算モデル14aに対する検証が不十分になる可能性がある。演算モデル生成システム100は、各期間において車両の種類ごとに少なくとも1つの車両に対応するデータセットを検証用データセットに含めることで、車両の種類による摩耗量推定のばらつきを検証に反映することができる。
【0036】
次に実施形態に係る演算モデル生成システム100の特徴について説明する。
実施形態に係る演算モデル生成システム100は、情報取得部73、蓄積部13、データ抽出部15、摩耗量算出部14および学習処理部16を備える。情報取得部73は、タイヤ7aを装着した複数の車両7における物理情報を取得する。蓄積部13は、複数の車両7ごとに複数の期間のそれぞれにおいて情報取得部73で取得された物理情報、および各車両7のタイヤ7aで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する。データ抽出部15は、蓄積部13により蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出する。摩耗量算出部14は、入力された情報に基づいてタイヤ7aの摩耗量を算出する学習型の演算モデル14aを有し、物理情報を入力して演算モデル14aにより摩耗量を算出する。学習処理部16は、複数の期間に亘って学習用データセットに基づいて摩耗量算出部14により算出される摩耗量と教師データとを比較して演算モデル14aを学習させ、検証用データセットに基づいて演算モデル14aを検証する。これにより、演算モデル生成システム100は、期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出することによって、期間中における摩耗に寄与する要因の変動を考慮した学習をすることができ、摩耗量の推定精度を向上することができる。
【0037】
また複数の車両7は、複数の種類に分類されている。検証用データセットは、複数の期間ごとに、複数の車両7の種類の全てについて少なくとも1つの車両7におけるデータセットを含む。これにより、演算モデル生成システム100は、車両の種類による摩耗量推定のばらつきを検証に反映することができる。
【0038】
また情報取得部73は、更にタイヤ7aで計測される加速度情報および位置情報を含む物理情報を取得する。これにより、演算モデル生成システム100は、タイヤの摩耗量の推定精度を更に向上することができる。
【0039】
演算モデル生成方法は、情報取得ステップ、蓄積ステップ、データ抽出ステップ、摩耗量算出ステップおよび学習処理ステップを備える。情報取得ステップは、タイヤ7aを装着した複数の車両7における物理情報を取得する。蓄積ステップは、複数の車両7ごとに複数の期間のそれぞれにおいて情報取得ステップで取得された物理情報、および各車両7のタイヤ7aで計測される教師データとしての摩耗量を含むデータセットを蓄積する。データ抽出ステップは、蓄積ステップにより蓄積したデータセットから期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出する。摩耗量算出ステップは、入力された情報に基づいてタイヤ7aの摩耗量を算出する学習型の演算モデル14aを有し、物理情報を入力して演算モデル14aにより摩耗量を算出する。学習処理ステップは、複数の期間に亘って学習用データセットに基づいて摩耗量算出ステップにより算出される摩耗量と教師データとを比較して演算モデル14aを学習させ、検証用データセットに基づいて演算モデル14aを検証する。この演算モデル生成方法によれば、期間ごとに学習用データセットと検証用データセットとを抽出することによって、期間中における摩耗に寄与する要因の変動を考慮した学習をすることができ、摩耗量の推定精度を向上することができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0041】
7 車両、 7a タイヤ、 73 情報取得部、 13 蓄積部、
14 摩耗量算出部、 14a 演算モデル、 15 データ抽出部、
16 学習処理部、 100 演算モデル生成システム。