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特開2022-82179樹脂組成物、成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082179
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20220525BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20220525BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220525BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
C08L77/06
C08G69/26
C08K5/098
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193584
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓海
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩介
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB01
4J001EB04
4J001EB09
4J001EB10
4J001EC47
4J001EC48
4J001GA12
4J001GA15
4J001GB02
4J001GB03
4J001GB05
4J001HA02
4J001JA12
4J001JA13
4J001JB06
4J001JB50
4J002CL031
4J002EG046
4J002FD206
4J002GK01
4J200AA04
4J200BA29
4J200CA06
4J200DA17
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】 生分解性に優れた樹脂組成物、前記樹脂組成物から形成された成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法の提供。
【解決手段】 ポリアミド樹脂と、コバルト塩とを含み、ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含み、キシリレンジアミンの0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンである、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、コバルト塩とを含み、
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含み、
前記キシリレンジアミンの0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンである、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物;ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。
【請求項3】
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、セバシン酸および/またはドデカン二酸を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、ドデカン二酸を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ジアミン由来の構成単位の20モル%以上がパラキシリレンジアミンに由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記コバルト塩が、コバルトのカルボン酸塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記コバルト塩が、ステアリン酸コバルトを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記コバルト塩の含有量は、コバルト原子基準で、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10~2000質量ppmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
生分解性である、請求項1~8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂組成物を、コンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の樹脂組成物:ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下保存時のCO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形体。
【請求項12】
漁網である、請求項11に記載の成形体。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物、あるいは、請求項11または12に記載の成形体を生分解させることを含む、ポリアミド樹脂の廃棄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、物理的および化学的特性に優れている。このため、電気電子機器部品、食品や医薬品の包装材料等、各種用途に幅広く使用されている。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂に有機酸コバルトなどの遷移金属塩を配合した層を設け、メタキシリレン基含有ポリアミド樹脂を触媒酸化して酸素を吸収することにより、ガスバリア性に加えて酸素吸収性を付与した、いわゆるハイバリア容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-321774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリアミド樹脂を各種用途に用いることは行われているが、近年の環境保全に対する取り組みの一環として、ポリアミド樹脂を生分解できることが求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、生分解性に優れた樹脂組成物、前記樹脂組成物から形成された成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、特定の種類のポリアミド樹脂に、コバルト塩を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂と、コバルト塩とを含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含み、前記キシリレンジアミンの0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンである、樹脂組成物。
<2>前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%である、<1>に記載の樹脂組成物;ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。
<3>前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、セバシン酸および/またはドデカン二酸を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が、ドデカン二酸を含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<5>前記ジアミン由来の構成単位の20モル%以上がパラキシリレンジアミンに由来する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記コバルト塩が、コバルトのカルボン酸塩を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記コバルト塩が、ステアリン酸コバルトを含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記コバルト塩の含有量は、コバルト原子基準で、前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10~2000質量ppmである、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9>生分解性である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<10>前記樹脂組成物を、コンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の樹脂組成物:ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。
<11><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形体。
<12>漁網である、<11>に記載の成形体。
<13><1>~<10>のいずれか1つに記載の樹脂組成物、あるいは、<11>または<12>に記載の成形体を生分解させることを含む、ポリアミド樹脂の廃棄方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、生分解性に優れた樹脂組成物、前記樹脂組成物から形成された成形体、および、ポリアミド樹脂の廃棄方法を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、ppmは質量ppmを意味する。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、コバルト塩とを含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含み、前記キシリレンジアミンの0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンであることを特徴とする。このような構成とすることにより、生分解性に優れた樹脂組成物を提供可能になる。この理由は以下の通りであると推測される。
樹脂を生分解させるため、例えば、コンポスト環境下に長期間放置すると、微生物が樹脂に作用し、樹脂の分子量を低下させる。その結果、微生物がさらに樹脂の内部まで入り込みやすくなり、生分解が進行し、オリゴマー、モノマー、さらには、さらなる低分子に分解する。しかしながら、ポリアミド樹脂は、一般的に、アミド結合が強く、また、通常、結晶性樹脂であるため、微生物の影響を受けにくく、分子量低下が起こりにくい。そのため、ポリアミド樹脂は、微生物による分解が進行しにくい。本実施形態では、ポリアミド樹脂として、所定のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、最初にキシリレンジアミンのNH2-CH2-ベンゼン環の部位が、コバルトによって酸化分解され、ベンジル部位とNH2の間で切断されると推測された。結果として、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の分子量低下が促進され、続いて微生物による生分解を促進できたと推測される。
以下、本実施形態の樹脂組成物の詳細について説明する。
【0009】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂である。このようなキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用い、コバルト塩を配合することにより、生分解性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0010】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジアミン由来の構成単位は、その50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するが、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。上限は、100モル%であってもよい。
【0011】
キシリレンジアミンは、0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンである。パラキシリレンジアミンを含むことにより、生分解性を向上させることができる。この理由の1つは、パラキシリレンジアミン骨格がメタキシリレンジアミン骨格と比較して、微生物による分解を受けやすい傾向であるためと推測される。微生物による分解の受けやすさは分子の構造に大きく依存することが一般に知られており、キシリレンジアミンにおいては直線型のパラキシリレンジアミンの方が微生物による分解を受けやすい構造であると推測される。そのため、メタキシリレンジアミンをパラキシリレンジアミンに置き換えることで樹脂としての生分解度が向上すると推測される。また、これに加えてパラキシリレンジアミン骨格が微生物による分解の起点となることで、さらに樹脂の低分子量化が進行し、その結果より生分解が促進されると推測される。
前記キシリレンジアミンにおけるパラキシリレンジアミンの割合は、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、25モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は、100モル%であるが、例えば、80モル%以下であってもよく、さらには60モル%以下、特には45モル%以下であってもよい。
本実施形態においては、前記キシリレンジアミンは、0~99.9モル%のメタキシリレンジアミンと0.1~100モル%のパラキシリレンジアミンを含むことが好ましく、0~80モル%のメタキシリレンジアミンと20~100モル%のパラキシリレンジアミンを含むことがより好ましい。また、キシリレンジアミンにおいて、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計が95モル%以上を占めることが好ましく、99モル%以上を占めることがさらに好ましく、100モル%であることが一層好ましい。
また、本実施形態においては、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂がパラキシリレンジアミン由来の構成単位を含むことにより、コバルト原子によるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の分解を促進する傾向にある。
【0012】
キシリレンジアミン以外のジアミン成分としては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0013】
前記キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂において、ジカルボン酸由来の構成単位は、その50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するが、70モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、99モル%以上であることが一層好ましい。上限は、100モル%であってもよい。
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、10以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、微生物による生分解をより受けやすくなる傾向にある。また、前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、21以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、18以下であることがさらに好ましく、14以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、親水性が向上し、微生物による分解をより受けやすくなる傾向にある。前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸における炭素数は、12であることが特に一層好ましい。
前記炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11-ウンデカン二酸、1,12-ドデカン二酸、1,13-トリデカンニ酸、1,14-テトラデカン二酸、1,15-ペンタデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,17-ヘプタデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、1,19-ノナデカンニ酸、1,20-エイコサン二酸、1,21-ヘンエイコサン二酸、1,22-ドコサン二酸が例示され、セバシン酸、1,12-ドデカン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、1,20-エイコサン二酸、1,21-ヘンエイコサン二酸、1,22-ドコサン二酸、1,14-テトラデカン二酸、1,16-ヘキサデカンニ酸、1,18-オクタデカンニ酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸がより好ましく、セバシン酸および/またはドデカン二酸がさらに好ましい。炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸が1,12-ドデカン二酸であると上記効果が特に顕著に発揮される。
【0014】
炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、アジピン酸等の炭素数7以下のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
尚、「ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み」とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成するアミド結合の少なくとも一部がジカルボン酸とジアミンの結合によって形成されていること意味し、さらに、ジカルボン酸由来の構成単位と、ジアミン由来の構成単位以外に、末端基等の他の部位を含みうる。また、ジカルボン酸とジアミンの結合に由来しないアミド結合を有する繰り返し単位や微量の不純物等が含まれる場合もあるであろう。具体的には、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する成分として、本実施形態の効果を損なわない範囲でε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましくは90質量%以上が、より好ましくは95質量%以上が、さらに好ましくは98質量%以上がジアミン由来の構成単位またはジカルボン酸由来の構成単位である。
【0016】
本実施形態で用いるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、キシリレンジアミン構造の質量比率が20~70質量%であることが好ましい。このような構成とすることにより、生分解がより進行しやすくなる傾向にある。ここで、キシリレンジアミン構造の質量比率とは、[(ポリアミド樹脂中のキシリレンジアミン構造の質量)/(ポリアミド樹脂全体の質量)]×100より算出される値である。キシリレンジアミン構造とは、「-HN-CH2-ベンゼン環-CH2-NH-」で表される部分をいう。
前記キシリレンジアミン構造の質量比率の下限値は、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。前記下限値以上とすることにより、分解の起点が増加し、生分解をより受けやすい低分子量成分が生じやすくなる傾向にある。また、前記キシリレンジアミン構造の質量比率の上限値は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。前記上限値以下とすることにより、生分解をより受けにくいキシレン骨格が減少し、樹脂全体としての生分解度がより向上する傾向にある。
【0017】
本実施形態の樹脂組成物におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが一層好ましく、99質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより(高いガスバリア性や高強度といったキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂由来の性能がより効果的に達成される傾向にある。上限値としては、コバルト塩以外のすべての成分がキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂となる量である。
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
前記他のポリアミド樹脂としては、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環式ポリアミド樹脂、半芳香族ポリアミド樹脂等の1種または2種以上が挙げられ、脂肪族ポリアミド樹脂および脂環式ポリアミド樹脂が好ましく、脂肪族ポリアミド樹脂がより好ましい。より具体的には、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6/6T、ポリアミド66/6T、ポリアミド6I、ポリアミド66/6I/6、ポリアミド66/6I、ポリアミド6T/6I、ポリアミド6T/12、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミド9T、ポリアミド9I、ポリアミド9T、9I、ポリアミド10T、1,3-BAC10I(1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンとセバシン酸とイソフタル酸から構成されたポリアミド樹脂)、1,4-BAC10I(1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサンとセバシン酸とイソフタル酸から構成されたポリアミド樹脂)が挙げられ、ポリアミド6および/またはポリアミド66が好ましい。
これらの他のポリアミド樹脂を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、5~15質量%であることが好ましい。
【0019】
<コバルト塩>
本実施形態の樹脂組成物は、コバルト塩を含む。コバルト塩を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物をコンポスト環境下等においたときに生分解を促進する。特に、コバルト塩はコンポスト環境下に置く前は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂に悪影響を殆ど与えないため、樹脂組成物の使用時には、樹脂組成物が本来的に有している性能(特に、強度)を阻害しにくい点で好ましい。
コバルト塩の種類は特に定めるものではなく、2価の塩および3価の塩のいずれであってもよいが、2価の塩が好ましい。
コバルト塩はコバルトのカルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩を用いることにより、ベンジル位の酸化分解による低分子量化がより効果的に促進される傾向にある。そして、ポリアミド樹脂を低分子化することで、その後に微生物による生分解が促進される。
コバルトのカルボン酸塩の場合、カルボン酸は、脂肪族カルボン酸であることが好ましい。前記脂肪族カルボン酸は、コバルトによる樹脂の酸化分解挙動に顕著な影響を与えないため、特に定めるものではないが、直鎖または分岐の脂肪族カルボン酸のいずれも好ましく採用でき、直鎖の脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数は、コバルトによる樹脂の酸化分解挙動に顕著な影響を与えないため、特に定めるものではないが、2以上であることが好ましく、10以上であってもよく、また、40以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、24以下であることがさらに好ましい。特に、炭素原子の数が偶数である脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
脂肪族カルボン酸の具体例としては、酢酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ネオデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリシン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸が例示され、物性面から、酢酸、ネオデカン酸、ステアリン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
本実施形態におけるコバルト塩は、ステアリン酸コバルトが好ましい。ステアリン酸コバルトは、(C1735COO)2Coが好ましい。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物におけるコバルト塩(好ましくはステアリン酸コバルト)の含有量は、コバルト原子基準で、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、10質量ppm以上であることが好ましく、50質量ppm以上であることがより好ましく、80質量ppm以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、より効果的にポリアミド樹脂が生分解を受けやすい分子量まで分解させることができる。また、本実施形態の樹脂組成物におけるコバルト塩の含有量は、コバルト原子基準で、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、2000質量ppm以下であることが好ましく、1800質量ppm以下であることがより好ましく、1500質量ppm以下であることがさらに好ましく、1200質量ppm以下であることが一層好ましく、1000質量ppm以下であることがより一層好ましく、800質量ppm以下であることがさらに一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂調製時の劣化や外観不良を効果的に抑制できる傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、コバルト塩を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0021】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の目的・効果を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂およびコバルト塩以外の他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分の具体例としては、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤、表面活性化剤、染色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載、特開2010-281027号公報の段落0021の記載、特開2016-223037号公報の段落0036の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
ポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオキシメチレン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、熱可塑性ポリエーテルイミド等が例示される。本実施形態の樹脂組成物では、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、例えば、本実施形態の樹脂組成物において、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が、ポリアミド樹脂の質量の5質量%以下であることをいう。
また、本実施形態の樹脂組成物は、ガラス樹脂組成物、炭素繊維等の充填材を含んでいてもよいが、実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、例えば、充填材の配合量が、本実施形態の樹脂組成物の3質量%以下であることをいう。
また、本実施形態の樹脂組成物はプラズマ処理を行うことで、任意の表面性を付与することができる。この詳細は、特開平06-182195号公報の0019~0022の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0022】
<樹脂組成物の特性、物性>
本実施形態の樹脂組成物は、恒温状況下においたときに、分子量が低下することが好ましい。具体的には、55℃、相対湿度90%の環境下に28日間保存したときに、樹脂組成物の数平均分子量の減少率((保存後のポリアミド樹脂のMn/保存前のポリアミド樹脂のMn)×100)が10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。また、前記減少率の下限値は、0%が理想であり、0.01%以上であっても十分に要求性能を満たす。
本実施形態の樹脂組成物は、生分解性を有することが好ましい。生分解性とは、微生物などによって、最終的に水と二酸化炭素に分解されうる性能をいい、例えば、コンポスト環境下に一定期間保存したとき、分子量の低下が認められるものが含まれる。
本実施形態の樹脂組成物は、コンポスト環境下で90日保存した後の生分解度が10%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、35%以上であることが一層好ましく、40%以上であることがより一層好ましい。生分解度の上限は100%が理想であるが、例えば80%以下、さらには70%以下でも十分に要求性能を満たすものである。ここで、生分解度(%)は、[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100である。
本実施形態の樹脂組成物は、数平均分子量が8,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。数平均分子量の上限は、特に定めるものではないが、例えば100,000以下であり、さらには50,000以下である。ここでの数平均分子量は生分解前のものである。
【0023】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法としては、任意の方法が採用される。
例えば、ポリアミド樹脂、コバルト塩、ならびに、必要に応じ配合される他の成分をV型ブレンダー等の混合手段を用いて混合し、一括ブレンド品を調製した後、ベント付き押出機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。
【0024】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常180~360℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、ストランド切れ等押出不良の原因になる場合がある。それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュー構成の選定が望ましい。
【0025】
<成形体>
本実施形態の樹脂組成物は、成形して成形体として用いられる。成形体は、部品であってもよいし、完成品であってもよい。
本実施形態における、成形体の製造方法は、特に限定されず、樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることもできる。
【0026】
本実施形態の成形体は、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品(例えば、釣り糸)、農林水産業用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム、衣類等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
特に、本実施形態の樹脂組成物ないし成形体は、生分解性に優れることから、食品包装用フィルムや濾布、レジャースポーツ用品(例えば、釣り糸、漁網に好ましく用いられ、漁網により好ましく用いられる。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物および本実施形態の成形体は生分解させることによって、廃棄できる。本実施形態の樹脂組成物および成形体は、微生物の作用によって、分子レベルまで分解し、最終的には二酸化炭素と水になって自然界へ循環させることができる。よって、自然破壊することなく、自然に廃棄することができる点で有益である。すなわち、本明細書では、本実施形態の樹脂組成物または成形体を生分解させることを含む、ポリアミド樹脂の廃棄方法も開示する。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物は55℃、相対湿度90%で28日間保存されることによって、数平均分子量が小さくなる。数平均分子量が小さくなった後の組成物(低Mn組成物)は、ポリアミド樹脂の分解物と、コバルト塩とを含み、前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を含み、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素数8~22のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含み、前記キシリレンジアミンの0.1モル%以上がパラキシリレンジアミンである、前記組成物の数平均分子量3000未満(好ましくは2000未満、より好ましくは、1000未満)である組成物である。前記低Mn組成物の数平均分子量は、950以下であることが好ましく、900以下であることがより好ましく、850以下であることがさらに好ましく、800以下であることが一層好ましい。前記数平均分子量の下限は、小さければ小さいほどよいが、150以上が実際的であり、200以上でも十分に要求する性能を満たすものである。
【実施例0029】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0030】
1.原料
<MP10の合成例>
セバシン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が7:3の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下で、ジアミンとセバシン酸とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を235℃まで上昇させた。滴下終了後、60分間反応を継続し、分子量1,000以下の成分量を調整した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。得られたポリアミドの融点は215℃であった。
【0031】
<PXD10の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤したセバシン酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で170℃まで昇温し、セバシン酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、パラキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に285℃まで昇温させ、パラキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラキシリレンジアミン滴下終了後、290℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を305℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。このペレットを真空乾燥機にて150℃5時間乾燥した。得られたポリアミド樹脂(PXD10)のDSCに従って測定した融点は290℃であった。
【0032】
<MP12の合成例>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤した1,12-ドデカン二酸60.00molを入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で180℃まで昇温し、1,12-ドデカン二酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、ジアミン成分の40mol%をパラキシリレンジアミン、60mol%をメタキシリレンジアミンとしたパラ/メタキシリレンジアミン60molを撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に250℃まで昇温させ、またパラ/メタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。パラ/メタキシリレンジアミン滴下終了後、250℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、20分間反応を継続した。この間、反応温度を260℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。得られたペレットを熱媒加熱の外套を有するタンブラー(回転式の真空槽)に、室温で仕込んだ。タンブラーを回転しながら槽内を減圧状態(0.5~10Torr)とし、流通熱媒を150℃まで加温し、ペレット温度130℃まで昇温してその温度で3時間保持した。その後、再び窒素を導入して常圧にし、冷却を開始した。ペレットの温度が70℃以下になったところで、槽からペレットを取り出し、固相重合品を得た。
得られたポリアミド樹脂(MP12)のDSCに従って測定した融点は216℃であった。
【0033】
<1,3-BAC6の合成>
撹拌機、分縮器、冷却器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付反応缶に、精秤したアジピン酸(50.8mol)を入れ、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で190℃まで昇温し、アジピン酸を溶解させ均一な流動状態とした。これに、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(シスー体/トランスー体:72.7/27.3のもの、以下1,3-BAC)(50.5mol)を撹拌下に160分を要して滴下した。この間、反応系内圧は常圧とし、内温を連続的に223℃まで昇温させ、またメタキシリレンジアミンの滴下とともに留出する水は分縮器および冷却器を通して系外に除いた。メタキシリレンジアミン滴下終了後、235℃の液温を保持して10分間反応を継続した。その後、反応系内圧を600Torrまで10分間で連続的に減圧し、その後、50分間反応を継続した。この間、反応温度を250℃まで連続的に昇温させた。反応終了後、反応缶内を窒素ガスにて0.3MPaの圧力を掛けポリマーを重合槽下部のノズルよりストランドとして取出し、水冷後ペレット形状に切断し、溶融重合品のペレットを得た。得られたポリアミド樹脂(1,3-BAC6)のDSCに従って測定した融点は230℃であった。キシリレンジアミン構造の質量比率は、0質量%である。
【0034】
ステアリン酸コバルト(StCo):関東化学社製、品番:07423-02
【0035】
2.実施例1~3、比較例1~4
<コンパウンド>
後述する表1に示す組成となるように、ポリアミド樹脂とステアリン酸コバルトをそれぞれ秤量し、タンブラーにてブレンドし、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融し、ペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、融点+20℃とした。表1における各成分は質量比で示している。ステアリン酸コバルト(StCo)の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対するコバルト原子の量(質量ppm)である。
【0036】
<55℃で28日保存後の分子量の減少>
得られたポリアミド樹脂ペレットを55℃、相対湿度90%の環境下で28日間保存した。保存前後の数平均分子量および重量平均分子量を測定した。
また、「28日後のMn(%)」とは、ポリアミド樹脂の数平均分子量の減少率を示す指標であり、(保存後のポリアミド樹脂のMn/保存前のポリアミド樹脂のMn)×100で表される値である。
【0037】
数平均分子量(Mn)は以下ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法に従って測定した。
GPC測定は、昭和電工社製Shodex GPC SYSTEM-11にて行った。溶媒にはヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、サンプルのポリアミド樹脂10mgを10gのHFIPに溶解させて測定に用いた。測定条件は、測定カラム同社製GPC標準カラム(カラムサイズ300×8.0mmI.D.)のHFIP-806Mを2本、リファレンスカラムHFIP-800を2本用い、カラム温度40℃、溶媒流量1.0mL/minとした。標準試料にはPMMA(ポリメタクリル酸メチル)を使用し、データ処理ソフトは同社製SIC-480IIを使用して数平均分子量(Mn)を求めた。
【0038】
<生分解度>
生分解度はJIS K 6953-1(好気コンポスト系生分解試験法)に従い測定した。ペレット(樹脂組成物)を凍結粉砕した後の粉末10gと乾燥質量60gのコンポストと混合し、含水率を45~50質量%とした。この混合物を58±2℃、相対湿度100%のコンポスト環境下に置き、空気を水で飽和させて二酸化炭素を除いた気体を通気し、90日間生分解試験を行った。発生した二酸化炭素量を測定し、理論二酸化炭素発生量の総量から、下記式に従って生分解度を算出した。
生分解度(%)=[(コンポスト環境下で90日間保存中の総CO2発生量)/(組成式から算出される理論二酸化炭素発生量)]×100
組成式から算出される理論二酸化炭素発生量は、あらかじめCHN分析計で測定した試験材料の全有機炭素量(TOC)と試料量10gから下記式に従って算出した。
理論二酸化炭素発生量(g)=[(試験材料の全有機炭素量(TOC)/100]×3.67×10
コンポストは、八幡物産製YK-11を用いた。二酸化炭素量の測定は、非分散型赤外線分析計(LI-COR製 LI-830)を用いた。CHN分析計はパーキンエルマー製PE2400シリーズIIを用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
上記表1から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物(実施例1~3)は、55℃、相対湿度90%で28日間保存することにより、コバルト塩が作用し、ポリアミド樹脂の数平均分子量が効果的に低下した。また、コンポスト環境下で90日間保存後することにより、コバルト塩による酸化分解の作用に加え、生分解によってポリアミド樹脂の分解がより効果的に進行した。
これに対し、コバルト塩を含まない場合(比較例1~3)、55℃、相対湿度90%で28日間保存しても、ポリアミド樹脂の数平均分子量の低下は認められなかった。さらに、生分解も進行しなかった。
一方、コバルト塩を配合しても、ポリアミド樹脂が所定のポリアミド樹脂ではない場合(比較例4)、55℃、相対湿度90%で28日間保存しても、ポリアミド樹脂の数平均分子量の低下は認められなかった。さらに、生分解も進行しなかった。