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特開2022-82209海藻類の生育促進方法、海藻類の生育促進材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082209
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】海藻類の生育促進方法、海藻類の生育促進材
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/02 20060101AFI20220525BHJP
   C05G 5/40 20200101ALI20220525BHJP
   C05G 3/00 20200101ALI20220525BHJP
   C05B 17/00 20060101ALI20220525BHJP
   C05G 3/40 20200101ALI20220525BHJP
【FI】
A01G33/02
C05G5/40
C05G3/00 A
C05B17/00
C05G3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193636
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000149457
【氏名又は名称】株式会社オーツボ
(74)【代理人】
【識別番号】100177220
【弁理士】
【氏名又は名称】小木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】大坪 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】春野 卯一郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 駿
(72)【発明者】
【氏名】上甲 勲
【テーマコード(参考)】
2B026
4H061
【Fターム(参考)】
2B026AA01
2B026AC01
2B026EA03
2B026EB01
4H061BB21
4H061EE01
4H061EE44
4H061FF08
4H061HH03
4H061KK10
(57)【要約】
【課題】リン不足に関する海藻類の成長阻害現象や磯焼けといった課題を解決するための海藻類の生育促進方法、海藻類の生育促進材を提供する。
【解決手段】リン酸カルシウム化合物2を細孔部に担持した多孔質材料1を、3か所以上の開口部を有する容器に収容して海藻類、例えば海苔の養殖場海域に浸漬することで、容器の開口部から海水が流入し、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料と接触するため、海水中にリン酸イオンの微小量を継続的に安定的に溶出させることができる。容器の固定位置は、海苔網が海水に対して浸漬、干出する高さと同様にすることが好ましい。このような位置に固定することによって、干潮時は容器も海苔網同様に大気中に干出され、海水浸漬時のみリンを供給するため経済的である。リン酸イオンを安定して供給することで、海藻類の生育を促進するとともに、磯焼けの課題解決にも寄与する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を養殖網施設の海水中に浸漬して、リン酸イオンを海水中に溶出させることを特徴とする海藻類の生育促進方法。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料が、天然ゼオライト又は竹炭であることを特徴とする請求項1に記載の海藻類の生育促進方法。
【請求項3】
前記リン酸カルシウム化合物が、難溶性のリン酸カルシウム化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の海藻類の生育促進方法。
【請求項4】
前記難溶性のリン酸カルシウム化合物が、ヒドロキシアパタイトであることを特徴とする請求項3に記載の海藻類の生育促進方法。
【請求項5】
前記海藻類が海苔であって、前記リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料の海苔網敷設海域への敷設が、海苔網の海水中浸漬時の水深幅と同じ水深となるように、海苔網支柱に取り付けることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の海藻類の生育促進方法。
【請求項6】
前記リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を収容する容器が3か所以上の開口部を有し、その内の一つは容器の底部に位置する構造の容器であり、各開口部は収容するリン担持多孔質材料の粒径よりも小さい網目状構造をとなっていることを特徴とする容器に収容して海水中に浸漬することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の海藻類の生育促進方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の海藻類の生育促進方法に用いられる多孔質材料である生育促進材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類の養殖における生育促進方法、海藻類の生育促進材に関し、更に具体的には、海苔養殖網施設周辺海域への汚染がなく、海藻類の生育を促進し、良質な海藻類を増収させるための海藻類の養殖産業における海藻類の生育促進技術、及び沿岸海域において海藻類の群落が消失する磯焼けの解消技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海藻類、例えば、海苔の養殖は沿岸海域に海苔養殖網を敷設し、海水中に含まれる栄養成分を利用して海苔原藻を成長させる方法で実施されている。海水中に含まれる栄養塩類濃度は漁場環境の影響を受けるため、栄養塩類濃度の変動により海苔の生育が大きく影響される。
【0003】
このような海苔の生育に関する技術として、例えば、下記特許文献1~5や、非特許文献1~3に記載の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-360090号公報
【特許文献2】特開2013-9601号公報
【特許文献3】特開2012-250893号公報
【特許文献4】特開2002-84904号公報
【特許文献5】特開平11-79876号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「有明海奥部における栄養塩濃度分布の季節変化」土木学会論文集B2(海岸工学)、voL.B2-65、No.1、2009、991-995
【非特許文献2】「新海苔ブック基礎編」、川村嘉応、p39-42
【非特許文献3】山本民次、川口修:“有明海の栄養塩環境とノリ養殖―ノリの不作は何故起こったのか?”、水環境学会誌、27(5)、293-300(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
海苔原藻の成長には海水中の栄養分が安定して供給される必要がある。主たる栄養成分として、窒素、リン、カリウム等が必要であり、最重要要素である窒素に関しては色落ち海苔発生時に施肥を行っている。
【0007】
2番目に重要なリンは、その必要量が窒素に比べて少量であることと、海水中に含まれている濃度から判断して問題ないとされており、リンの施肥は行われていない。しかし、漁場環境によってはリン不足による成長阻害現象が起こっているとの指摘もある。
【0008】
本発明は以上の点に鑑み、リン不足に関する海藻類の成長阻害現象や磯焼けといった課題を解決するための海藻類の生育促進方法、生育促進材を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を養殖網施設の海水中に浸漬して、リン酸イオンを海水中に溶出させることを特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料が、天然ゼオライト又は竹炭であることを特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、前記リン酸カルシウム化合物が、難溶性のリン酸カルシウム化合物であることを特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0012】
更に、本発明は、前記難溶性のリン酸カルシウム化合物が、ヒドロキシアパタイトであることを特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0013】
更に、本発明は、前記海藻類が海苔であって、前記リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料の海苔網敷設海域への敷設が、海苔網の海水中浸漬時の水深幅と同じ水深となるように、海苔網支柱に取り付けること特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料であることを特徴とする海藻類の生育促進材を提供する。
【0015】
また、本発明は、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料が網目状構造を有する容器に収容して海水中に浸漬することを特徴とする海藻類の生育促進方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を海藻類養殖網施設の海水中に浸漬して、リン酸イオンを海水中に溶出させることとしたので、海藻類の成長に欠かせないリン酸イオンを安定して供給し、海藻類養殖網設周辺海域への汚染がなく、海苔の生育を促進し、良質な海藻類を増収することができる。
【0017】
干潮時は容器も海苔網同様に大気中に干出されるため、海水浸漬時のみリンを供給し、経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態のリン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料のイメージを示す模式図である。
図2】調製したリン酸カルシウム化合物のXRD結果図である。
図3】通水時間と溶出液リン濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、海藻類養殖網施設周辺海域への汚染がなく、海藻類の生育を促進し、良質な海藻類(例えば、海苔)を増収させるための海藻類の生育促進技術である。以下では、海藻は、海苔を最良の実施形態として説明するが、海苔以外の海藻類、例えば、わかめ、昆布、ヒジキ、もずく、寒天等であってもよい。また、海苔養殖産業に限らず、沿岸地域において海藻類の群落が消失する磯焼けの問題対策としても有効な技術である。
【0020】
海苔原藻の成長には海水中の栄養分が安定して供給される必要がある。主たる栄養成分として、窒素、リン、カリウム等が必要であり、最重要要素である窒素に関しては色落ち海苔発生時に施肥を行っている。2番目に重要なリンは、その必要量が窒素に比べて少量であることと、海水中に含まれている濃度から判断して問題ないとされており、リンの施肥は行われていない。しかしながら、漁場環境によってはリン不足による成長阻害現象が起こっているのが現状である。本発明は、このようなリン不足により生じる課題を解決するものである。
【0021】
<海藻類養殖海域におけるリン濃度について>・・・海苔漁獲期における養殖海域のリン濃度の調査結果(1965~2000年、福岡、佐賀、熊本県下海苔養殖漁場での調査結果)によると、リン濃度は、0.003~0.02mg/Lとなっている。この濃度範囲で海苔養殖が行われており、この範囲でリン濃度が変動し、濃度の低い環境となった場合に、リン濃度が海苔の生育に必要な栄養塩の制限要因となり、海苔不作の原因となっていると考えられる。したがって、海苔養殖には0.01mg/L程度のリン濃度を維持できるようにリン徐放材から継続したリンの供給を行うことで、少なくともリン濃度が制限因子となった海苔の不作を防止できると考えられる。
【0022】
<多孔質材料について>・・・まず、海苔生育促進材の製造方法について説明する。本発明で用いられる多孔質材料は、天然ゼオライトや竹炭が好適であるが、これに限らず、木質系活性炭や石油系活性炭等の炭素素材、合成ゼオライト、活性アルミナ、炭酸カルシウム、サンゴ化石などの多くの多孔質材料を用いることができる。また、炭化処理前の生竹の細孔部にリン酸カルシウムを析出担持させる操作を行った後で加熱して炭化させるとともにリン酸カルシウムの結晶化反応を促進させることで徐放効果の高いリン徐放材料を調整することも可能である。
【0023】
図1には、本実施形態のリン酸カルシウム化合物担持多孔質材料粒子の断面を局所的に顕微鏡で拡大して撮影した場合のイメージを示す模式図が示されている。図1に示すように、天然ゼオライトや竹炭などの多孔質材料1の細孔部に、リン酸カルシウム化合物2が担持されている。
【0024】
<多孔質材料へのリン酸カルシウム化合物の担持量について>・・・次に、担体に用いる多孔質材料へのリン酸カルシウムの担持量は、用いる多孔質材料の細孔容積とリン酸イオンとカルシウムイオンの反応条件によって任意に調整できる。例えば、担体に活性炭を用いた場合では、1g活性炭当り最高で3g程度までのリン酸カルシウムの担持も可能である。実用上の担持量をどの程度にするかは調整時の反応効率と現場への適用性を考慮し、最も経済性の良い条件として調整すればよい。
【0025】
<多孔質材料の細孔部のリン酸カルシウム化合物の析出反応操作条件について>・・・本発明の特徴は、多孔質材料の細孔部にリン酸カルシウム化合物を生成させることでリン酸カルシウム化合物の溶解反応によるリン酸イオンの細孔部からの溶出速度を低くすることにある。したがって、リン酸イオンとカルシウムイオンを細孔内部で反応させる必要がある。リン酸イオンを含む溶液とカルシウムイオンを含む溶液が細孔外で接触した場合には、リン酸カルシウム化合物の生成物が細孔部に入る前に生成するため、その生成物を細孔内に取り込むことは難しい。すなわち、反応操作のポイントはリン酸イオンとカルシウムイオンが細孔内において接触する反応条件とする必要がある。
【0026】
その方法の1つは、あらかじめリン酸イオンを含む溶液を細孔部に浸透保持させたのちにカルシウムイオンを含む液を細孔部に浸透させて反応させる操作である。2つ目の方法としては、先にカルシウムイオンを含む溶液を細孔部に浸透保持させた後でリン酸イオンを含む液を細孔部に浸透させて反応させる操作である。いずれの方法においても、細孔内部でリン酸カルシウム化合物を生成させることができる。この操作において、どちらを選ぶかは、用いる多孔質材料の細孔内の表面の化学的特性によって判断し、適した方法を選ぶことが大切である。例えば、ゼオライト構造の材料を用いる場合では、細孔を形成する表面は、ゼオライトの結晶組成に起因する陽イオン交換能を保持しているため、カルシウムイオン含有液の浸透操作を先に行う手順の方法が効率的である。
【0027】
この操作におけるリン酸イオンとカルシウムイオンを含む液の細孔部への浸透時間は3~100時間に設定して行うことができる。浸透時間が短い場合には、浸透が不十分となるため最終的なリン酸カルシウム化合物の析出担持量が低くなる。また、それぞれ長時間をかけて操作した場合には反応工程の時間が長くなるため生産効率が低下する要因となる。したがって、目標とする最終製品のリン酸カルシウム担持量をどの程度とするかによってこれらの条件を決めることができる。
【0028】
リン酸カルシウム生成物は溶液のpH条件、反応時間によって結晶化反応が進む。リン酸カルシウム化合物の結晶は、反応直後は無定形であるが結晶化反応の進行に伴って難溶性の結晶へと変化し、最終的にはヒドロキシアパタイト構造に成長していく。本発明の方法においては、リン酸カルシウム生成物のすべてをヒドロキシアパタイトにまで成長させる必要はない。この反応操作条件も最終的目標品質を考慮して設定すればよい。
【0029】
例えば、1つ目の方法として、天然ゼオライトや竹炭などの多孔質材料をリン酸二水素ナトリウムなどのリン化合物を含む溶液に浸漬させる。浸漬時間は3時間~100時間に設定することができる。浸漬時間が短い場合には浸透が不十分となるため、リンの析出担持量が低くなる。また、長時間かけて浸漬させた場合は生産性が悪くなる。
【0030】
次に、リンを担持した天然ゼオライトや竹炭などの多孔質材料を塩化カルシウムなどのカルシウム化合物を含む溶液に浸漬させる。その後、アパタイト形態の結晶にするためアルカリ性条件へpH調整する。浸漬時間は3時間~100時間に設定することができる。浸漬時間が短い場合には浸透が不十分となるため、リン酸カルシウム化合物の析出担持量が低くなる。また、長時間かけて浸漬させた場合は徐放材料の生産性が悪くなる。なお、リン含有溶液とカルシウム含有溶液の浸漬順序は多孔質材料によって選択する。細かい反応操作条件は最終的目標品質を考慮して設定すればよい。
【0031】
なお、リン酸カルシウム化合物の中でも、ヒドロキシアパタイトは、水中での溶解度が極めて低いという特徴がある。ヒドロキシアパタイト結晶の粒子をそのまま使用することもできるが、ヒドロキシアパタイト結晶を天然ゼオライト又は竹炭等の多孔質材料の細孔部に析出担持させた材料を使うことで、リン酸イオンの徐放効果を高めることができるため、より有効である。
【0032】
ヒドロキシアパタイト結晶を担持させた天然ゼオライト粒子又は竹炭を充填した容器を海苔養殖場海域に浸漬すると、容器の開口部から海水が流入しヒドロキシアパタイト結晶粒子担持天然ゼオライト粒子又は竹炭と接触するため、海水中にリン酸イオンの微小量を継続的に溶出させることができる。リンを含んだ海水は、流れに従って海苔養殖場海域に流出し、成長する海苔原藻の栄養分として吸収される。このように、常に微小量のリンが供給されるため、海苔原藻の成長促進に効果がある。
【0033】
<施肥の方法について>・・・リン酸カルシウム化合物担持多孔質材料を収容している容器を、海苔敷設海域の海苔網や支柱等に、紐等で固定する。固定位置は、例えば、海苔網が海水に対して浸漬、干出する高さと同様にすることが好ましい。このような位置に固定することによって、干潮時は収容容器も海苔網同様に大気中に干出され、海水浸漬時のみリンを供給するため経済的である。また、収容容器は海水と接する壁面に3か所以上の開口部を持った構造で開口部は多孔質材料の粒径よりも小さい開口径を有する網目構造として粒子の流出を防止する。また、3か所以上の開口部の内の1か所は容器底部に位置した構造とすることが望ましい。そのような構造とすることで容器が海水面から干出した際、容器内部の海水が容器外に溶出することになる。その結果リン担持多孔質材は海水との接触を断つことになる。このことはリン酸カルシウムの結晶の安定化につながるためリンの溶出持続性が高まることが期待できる。
【0034】
<実験例>・・・以下、実験例と比較例について説明する。実験例1~4と比較例1~2の内容は、次の通りである。
[実験例1]天然ゼオライト粒子へのリン酸カルシウム化合物の担持処理
[実験例2]カラム通水法によるリン酸カルシウム化合物担持ゼオライトと海水接触処理におけるリン溶出確認実験
[実験例3]竹炭粒子へのリン酸カルシウム化合物の担持処理
[実験例4]カラム通水法によるリン酸カルシム化合物担持竹炭と海水接触処理におけるリン溶出確認実験
[比較例1]リン酸カルシウム化合物の調製
[比較例2]カラム通水法によるリン酸カルシウム化合物の海水接触処理におけるリン溶出確認実験
【0035】
[実験例1]天然ゼオライト粒子へのリン酸カルシウム化合物の担持処理
粒径0.5~1.18mmに整粒した天然ゼオライト(クリノプチロライト系、サン・ゼオライト工業製、商品名:サン・ゼオライトM)16.8gに対してリン酸二水素ナトリウム二水和物を用いて調製したリン濃度80g/Lの溶液20mLを加えて3時間浸漬させた。その間、随時攪拌を繰り返した。3時間後にデカンテーション法によって天然ゼオライトと溶液を分離した。その後、塩化カルシウム二水和物を用いて調製したカルシウム濃度23g/Lの塩化カルシウム溶液20mLを加えて3時間浸漬させた。その間、随時攪拌を繰り返した。3時間後にデカンテーション法によってゼオライトと溶液を分離した。その後、水酸化ナトリウムを用いて、水酸化ナトリウム濃度28.2g/Lに調製した水酸化ナトリウム溶液を20mL加えた。その後3時間浸漬した。浸漬後、デカンテーション法で固液分離し、150mLの純水で洗浄した。洗浄後のリン酸カルシウム化合物担持ゼオライトは15時間減圧乾燥し、調製を終えた。
【0036】
[実験例2]カラム通水法によるリン酸カルシウム化合物担持ゼオライトと海水接触処理におけるリン溶出確認実験
実験例1で調製したリン酸カルシウム化合物担持ゼオライトをカラム内の充填リン含有量が50mgとなるようにカラム(内径1.8cm、カラム長 約10cm)に充填した。人工海水1L/hの流量でカラムに上向流で通水し、通水時間に対する溶出液リン濃度を求めた。
【0037】
[実験例3]竹炭粒子へのリン酸カルシウム化合物の担持処理
粒径0.5~1.18mmに整粒した後に水洗して濁質を除去した竹炭4gにリン酸二水素ナトリウム二水和物を用いて調製したリン濃度80g/Lの溶液20mLを加えて3時間浸漬させた。その間、随時攪拌を繰り返した。3時間後に吸引ろ過法によって竹炭と溶液を分離した。その後、塩化カルシウム二水和物を用いて調製したカルシウム濃度23g/Lの塩化カルシウム溶液20mLを加えて3時間浸漬させた。その間、随時攪拌を繰り返した。3時間後に吸引ろ過法によって竹炭と溶液を分離した。その後、水酸化ナトリウムを用いて、水酸化ナトリウム濃度28.2g/Lに調製した水酸化ナトリウム溶液を20mL加えた。その後3時間浸漬した。浸漬後、吸引ろ過法で固液分離し、ろ紙上の竹炭を150mLの純水で洗浄した。洗浄後のリン酸カルシウム化合物担持竹炭は15時間減圧乾燥し、調製を終えた。
【0038】
[実験例4]カラム通水法によるリン酸カルシウム化合物担持竹炭と海水接触処理におけるリンの溶出確認実験
実験例3で調製したリン酸カルシウム化合物担持竹炭をカラム内の充填リン含有量が50mgとなるようにカラム(内径1.8cm、カラム長 約10cm)に充填した。人工海水(原料濃度3wt%、pH8.1~8.4)を1L/hの流量でカラムに上向流で通水し、通水時間に対する溶出液リン濃度を求めた。
【0039】
[比較例1]リン酸カルシウム化合物の調製
リン酸二水素ナトリウム二水和物を用いて調製したリン濃度約80g/L溶液23mLに、塩化カルシウム二水和物を用いて調製したカルシウム濃度66g/L溶液40mLを加え、さらに水酸化ナトリウムを用いて調製した水酸化ナトリウム濃度80g/Lの溶液を加え、3時間浸漬反応させた。3時間後、5Cろ紙を用いて固液分離し、純水150mLで洗浄した。洗浄後、15時間減圧乾燥し、さらに8時間の自然乾燥を行い、調製を終えた。
【0040】
[比較例2]カラム通水法によるリン酸カルシウム化合物の海水接触処理におけるリン溶出確認実験
実験例2と同様の通水条件で、充填材を比較例1で調製したリン酸カルシウム化合物に置き換えた実験を行った。
【0041】
実験例1、実験例3及び比較例1に対して粉末X線回折分析を行った。実験例1と実験例3での調製試料の分析結果ではリン酸カルシウム化合物の検出は出来なかった。リン酸カルシウム結晶の含有量が検出限界以下であったためと考えられる。比較例1での調製試料の分析結果では、図2に示したX線回折図より、ヒドロキシアパタイトとリン酸水素カルシウム二水和物の混合物であることが確認できた。
【0042】
実験例2、実験例4、比較例2の結果として、表1に通水時間に対する溶出液リン濃度を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
図3に、実験例2、実験例4、比較例2の通水時間に対する溶出液リン濃度の推移を示した。
【0045】
リン酸カルシウム析出物をそのままの状態で充填して行った比較例2に対してリン酸カルシウムを天然ゼオライトあるいは竹炭の細孔内に析出担持させる方法で調製した材料を充填して実施した実験例2と4の結果では、溶出液リン濃度が低い値を示している。このことからリン酸カルシウム粒子を多孔質材料の細孔部に析出担持させる方法で調製したリン酸カルシウム担持多孔材料を用いることで長時間にわたってリンを溶出させることができることを確認できた。即ち、リン酸カルシウム化合物の結晶単体をそのままの状態で用いるよりも多孔質材料の細孔内にリン酸カルシウムの結晶を析出担持させる方法で調製した材料を用いる方がリン徐放効果に有効であることが確認できた。
【0046】
さらに、リン担持多孔質材料としての天然ゼオライトと竹炭との比較では、竹炭より天然ゼオライトの場合の方が溶出液中のリン濃度が低くなっている。この結果より同じリン含有量に調製した場合を考えると天然ゼオライトを担体に用いた場合の方が長時間にわたって徐放効果が持続すると判断できる。
【0047】
<効果>・・・以上説明した実施形態によれば、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を養殖網施設の海水中に浸漬して、リン酸イオンを海水中に溶出させる本発明の方法によって海苔の成長に欠かせないリン酸イオンを安定して供給でき、海苔養殖網施設周辺海域への汚染がなく、海苔の生育を促進し、良質な海苔を増収することができる。
【0048】
また、干潮時は容器も海苔網同様に大気中に干出されるため、海水浸漬時のみリンを供給し、経済的である。
【0049】
なお、上述した実施形態は一例であり、同様の効果を奏する範囲内で適宜変更が可能である。例えば、上述した担持させるリン酸カルシウム化合物や多孔質材料は一例であり、同様の効果を奏する範囲内で適宜変更可能である。また、上述した担持処理も一例であり、必要に応じて適宜変更可能である。また、上述した徐放確認実験も一例であり、他の方法により徐放確認を行うようにしてもよい。また、本発明は、海苔の生育促進のみならず、沿岸海域において海苔群落が消失する磯焼けの問題解決手段としても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、リン酸カルシウム化合物を担持した多孔質材料を養殖網施設の海水中に浸漬して、リン酸イオンを海水中に溶出させることとしたので、海藻類の成長に欠かせないリン酸イオンを安定して供給することができるため、海藻類の生育促進の色落ち対策として有効である。
【符号の説明】
【0051】
1:多孔質材料
2:リン酸カルシウム化合物
3:リン酸水素カルシウム二水和物のXRD代表ピーク
4:ヒドロキシアパタイトのXRD代表ピーク

図1
図2
図3