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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082258
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】シールリング及び密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/18 20060101AFI20220525BHJP
   F16J 15/48 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F16J15/18 A
F16J15/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193719
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】特許業務法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 航也
(72)【発明者】
【氏名】有働 崇都
【テーマコード(参考)】
3J043
【Fターム(参考)】
3J043AA12
3J043BA04
3J043CA20
3J043CB13
3J043DA03
3J043DA20
3J043FB12
(57)【要約】
【課題】シールリングとこのシールリングと接触する相手側の部材との間のフリクションを低減する。
【解決手段】シールリング10Aは、摺動部11、溝底部12、加圧側面13及び非加圧側面14を有する。非加圧側面14は、シールリング10Aにおいて加圧側面13とは反対側に位置する。溝底部12は、シールリング10Aの中心線Oに対して傾斜する傾斜面16を含む。シールリング10Aは、非加圧側面14から張り出す凸部15を有する。傾斜面16は、傾斜面16の加圧側面13から遠い方の端部16bが、加圧側面13に近い方の端部16aよりも、摺動部11の近くに位置するように傾斜する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部、溝底部、加圧側面及び非加圧側面を有するシールリングであって、
前記非加圧側面は、前記シールリングにおいて前記加圧側面とは反対側に位置し、
前記溝底部は、前記シールリングの中心線に対して傾斜する傾斜面を含み、
前記シールリングは、前記非加圧側面から張り出す凸部を有し、
前記傾斜面は、前記傾斜面の前記加圧側面から遠い方の端部が、前記加圧側面に近い方の端部よりも、前記摺動部の近くに位置するように傾斜する、
シールリング。
【請求項2】
前記シールリングの径方向における前記凸部の長さLaは、前記シールリングが装着される装着溝の溝深さH以下であり、
前記シールリングの前記中心線が延在する方向の長さLbは、前記装着溝の溝幅G以下である、
請求項1に記載のシールリング。
【請求項3】
前記シールリングの周方向と交差する断面において、前記シールリングの径方向の長さである肉厚LAは、前記シールリングが装着される装着溝の溝幅Gより大きい、
請求項1又は2に記載のシールリング。
【請求項4】
前記傾斜面の前記加圧側面から遠い方の端部は、前記凸部の傾斜面に含まれる、
請求項1~3のいずれか一項に記載のシールリング。
【請求項5】
前記凸部は、前記シールリングの周方向において全周に形成される請求項1~4のいずれか一項に記載のシールリング。
【請求項6】
第1部材と、
前記第1部材が配置される内部空間を有する第2部材と、
前記第1部材の外周面と前記第2部材の内周面との間の隙間を封止する請求項1~5のいずれか一項に記載のシールリングと、を備える、
密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シールリング及び密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
相対移動する2つの部材のうち、一方の部材に設けられた装着溝に装着されて、他方の部材に摺動自在に密着するシールリングがある(例えば、特許文献1,2参照)。このようなシールリングとしては、Oリングや、Dリングが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-24712号公報
【特許文献2】特開2011-163438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シールリングの使用状態において、シールリングの一方の部材側の周面は、装着溝の底面によって押圧され、シールリングの他方の部材側の周面は、他方の部材によって押圧される。シールリングは、シールリングの径方向の両側から押圧されて圧縮された状態で、他方の部材に対して摺動する。この状態において、シールリングに圧縮反力が生じ、シールリングと他方の部材と間のフリクションが大きくなる。本開示は、フリクションを低減することが可能なシールリング及び密封装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のシールリングは、摺動部、溝底部、加圧側面及び非加圧側面を有するシールリングであって、非加圧側面は、シールリングにおいて加圧側面とは反対側に位置し、溝底部は、シールリングの中心線に対して傾斜する傾斜面を含み、シールリングは、非加圧側面から張り出す凸部を有し、傾斜面は、傾斜面の加圧側面から遠い方の端部が、加圧側面に近い方の端部よりも、摺動部の近くに位置するように傾斜する。
【0006】
本開示の密封装置は、第1部材と、第1部材が配置される内部空間を有する第2部材と、第1部材の外周面と第2部材の内周面との間の隙間を封止する前述のシールリングと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係るシールリングを備える密封装置を示す断面図である。
図2】第1実施形態に係るシールリングを示す平面図である。
図3図2中のA-A線に沿う断面を示す断面図である。
図4】ピストンの装着溝に装着されたシールリングを示す断面図である。
図5】加圧時のシールリングを示す断面図である。
図6】無圧時のシールリングを示す断面図である。
図7】実施例及び比較例に係るシールリングのFEM解析結果を示す表である。
図8】第2実施形態に係るシールリングを備える密封装置を示す断面図である。
図9】第2実施形態に係るシールリングを示す平面図である。
図10図9中のB-B線に沿う断面を示す断面図である。
図11】従来技術に係るOリングの中心軸に沿う断面を示す断面図である。
図12】従来技術に係るDリングの中心軸に沿う断面を示す断面図である。
図13】加圧時のDリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
図1図6を参照して第1実施形態に係るシールリング10Aについて説明する。第1実施形態では、シールリング10Aを備える密封装置1Aについて説明する。図1は、シールリング10Aを備える密封装置1Aを示す断面図である。図2は、シールリング10Aを示す平面図である。図3は、図2中のA-A線に沿う断面を示す断面図である。図4は、ピストン2の装着溝4に装着されたシールリング10Aを示す断面図である。各図において、軸方向X及び径方向Yが矢印で示される。軸方向Xは、シールリング10Aの中心線Oに沿う方向である。径方向Yは、シールリング10Aの径方向である。なお、図1図3及び図4に示される断面図は、中心線Oに沿う断面図である。
【0010】
図1に示される密封装置1Aは、シールリング10Aの他に、ピストン2と、シリンダー3と、を備える。ピストン2は第1部材の一例であり、シリンダー3は第2部材の一例である。
【0011】
密封装置1Aは、油圧シリンダーであり、動力伝達機構として使用され得る。密封装置1Aは、例えば自動車のオートマチックトランスミッションのクラッチ部において、クラッチ板を接続する際の動力を伝達する。ピストン2は、シリンダー3の内部空間に保持されて、軸方向Xに往復動する。シリンダー3の内部には、油圧作動油が充填され、油圧作動油が昇圧されて、油圧を発生させる。この油圧によってピストン2が駆動される。ピストン2には、ピストンロッド6が接続される。軸方向Xにおいて、ピストン2からみて一方側に位置する空間に、油圧作動油が充填される。図1において、ピストン2の左側の空間であり、ピストンロッド6とは反対側に位置する内部空間に、油圧作動油が充填される。
【0012】
なお、シールリング10Aは、自動車のオートマチックトランスミッションに使用されるものに限定されず、例えば自動車のその他の機構に使用できる。シールリング10Aを備える密封装置1Aは、例えば、建設機械、又は産業機械等に使用できる。シールリング10Aによって封止される流体としては、油、水、空気、又はその他ガス等が挙げられる。
【0013】
ピストン2は、油圧によって加圧され、ピストン2はX1方向に押し出される。図1では、X1方向が右向きの矢印で図示され、X2方向が左向きの矢印で図示されている。X1方向及びX2方向は、軸方向Xに沿い、互いに反対向きである。シリンダー3内の油圧が低下すると、ピストン2は、図示しない圧縮コイルばねによって押され、X2方向に移動する。
【0014】
ピストン2の外周面2aには装着溝4が形成されている。シールリング10Aは、装着溝4に装着される。シールリング10Aは、ピストン2の外周面2aと、シリンダー3の内周面3aとの間の隙間5を封止する。
【0015】
図1図4に示されるシールリング10Aは、外周面11と、内周面12と、側面13と、側面14とを有する。側面13及び側面14は、軸方向Xに交差する面を含む。図2は、側面14側からシールリング10Aを示す図である。側面13は、シールリング10Aにおいて側面14の反対側の側面である。シールリング10Aが、密封装置1Aのピストン2に装着される場合、外周面11が摺動面となる。外周面11は摺動部の一例であり、内周面12は溝底部の一例である。溝底部は、シールリング10Aの径方向Yにおいて、摺動部とは反対側の周面である。
【0016】
「摺動面」とは、2つの物体が接触しながら相対的に移動する場合において、互い接触する面をいう。2つの物体が相対的に移動していない状態であっても、相対的に移動する際に接触するのであれば、それらの面は摺動面に含まれる。外周面11は、シリンダー3の内周面3aに対して摺動する面である。
【0017】
側面13は、シールリング10Aの加圧側面(第1面)の一例である。側面14は、シールリング10Aの非加圧側面(第2面)の一例である。シールリング10Aは、例えばゴム材料から形成される。
【0018】
図3及び図4に示されるように、シールリング10Aは、側面14から張り出す凸部15と、傾斜面16と、を有する。傾斜面16は、内周面12に設けられている。
【0019】
図3及び図4では、基準線Lx及び基準線Lyが図示されている。基準線Lxは軸方向Xに平行な仮想の直線である。基準線Lxは径方向Yに平行な仮想の直線である。基準線Lxは、図3及び図4に示される断面のうち、外周面11の頂部11aと内周面12の頂部12aとの中間の位置を通る直線である。外周面11の頂部11aは、径方向Yにおいて、最も中心線Oから離れた位置である。内周面12の頂部12aは、径方向Yにおいて、最も中心線Oに近い位置である。基準線Lyは、軸方向Xにおいて、側面13と側面14と間の中間の位置を通る。
【0020】
側面13は、シールリング10Aの使用状態において、軸方向Xにおけるシールリング10Aの両側に位置する2つの空間のうち、圧力が高い方である加圧側の空間に接する。軸方向Xにおいて、基準線Lyを基準として、側面13が位置する方が、加圧側であり、側面14が位置する方が非加圧側である。なお、加圧側は、油圧によって加圧される方である。非加圧側は、軸方向Xにおいて、加圧側の反対側である。
【0021】
密封装置1Aの使用状態においてシールリング10Aは変形するが、図3では、変形していない状態のシールリング10Aが図示されている。シールリング10Aが装着溝4に装着された状態において、シールリング10Aの内周面12は、装着溝4の底面4aに接触し、シールリング10Aの外周面11は、シリンダー3の内周面3aに接触する。
【0022】
シールリング10Aの断面において、外周面11は、半円形状を成している。外周面11の頂部11aは、外周面11のうち、シールリング10Aの径方向において最も外側に位置する。
【0023】
シールリング10Aの内周面12は、装着溝4の底面4aに接触可能な面を含む。底面4aは、シールリング10Aの使用状態において、装着溝4の底面4aに対して、部分的に接触してもよい。内周面12の頂部12aは、内周面12のうち、シールリング10Aの径方向Yにおいて最も内側に位置する。シールリング10Aの断面において、内周面12のうち頂部12aに対して側面13に近い方の部分は、湾曲形状を成す。内周面12のうち頂部12aに対して側面13から遠い方の部分は、傾斜面16である。
【0024】
次に、シールリング10Aの凸部15について説明する。凸部15は、シールリング10Aの周方向において全周にわたり形成されている。凸部15は、側面15aと、内側傾斜面15bと、外側傾斜面15cとを有する。内側傾斜面15bは、側面15aの内周側に位置し、外側傾斜面15cは、側面15aの外周側に位置する。側面15aは、径方向Yにおいて、基準線Lxよりも内周側に位置する。径方向Yにおいて、側面15aは側面14よりも内周側に位置する。
【0025】
凸部15の側面15aは、軸方向Xに交差する面を含む。凸部15の側面15aは、軸方向Xにおいて、側面14よりも側面13から遠い方に位置する。凸部15の内側傾斜面15bは、中心線Oに対して傾斜する。凸部15の外側傾斜面15cは、中心線Oに対して傾斜する。
【0026】
次に、シールリング10Aの傾斜面16について説明する。傾斜面16は、中心線Oに対して傾斜する。傾斜面16は、シールリング10Aの周方向と直交する断面において、直線的に形成されている。傾斜面16は端部16a及び端部16bを含む。端部16aは、軸方向Xにおいて、端部16bよりも側面13に近い方に位置する。端部16bは、端部16aよりも中心線Oから離れた位置に配置される。換言すると、傾斜面16は、中心線Oから端部16bまでの距離が、中心線Oから端部16aまでの距離よりも長くなるように傾斜する。端部16bは、径方向Yにおいて、端部16aよりも外周面11の近くに位置する。端部16bは、凸部15の内側傾斜面15bに含まれる。傾斜面16は、凸部15の内側傾斜面15bを含む。
【0027】
次に図4を参照して、シールリング10Aの寸法と、装着溝4の寸法との関係について説明する。ピストン2に装着されていない状態におけるシールリング10Aの内径は、装着溝4の底面4aの外径以下である。ピストン2の中心線は、シールリング10Aの中心線Oに沿う。ピストン2の径方向Yは、シールリング10Aの径方向Yと同じ方向である。装着溝4は、底面4a、側面4b及び側面4cを含む。ピストン2の周方向と直交する装着溝4の断面は、矩形状を成す。底面4aは、ピストン2の径方向Yと交差する面である。側面4b及び側面4cは、軸方向Xにおいて対向する。
【0028】
シールリング10Aの径方向Yにおける凸部15の長さLaは、装着溝4の溝深さH以下である。装着溝4の溝深さHとは、径方向Yにおいて、外周面11が接触する相手側の部材のシリンダー3の内周面3aから底面4aまでの長さである。図4において、シリンダー3の内周面3aは2点鎖線で示されている。シールリング10Aの径方向Yにおける凸部15の長さLaとは、凸部15の側面15aの径方向Yに沿う長さである。長さLaは、側面15aに隣接するR部を含んだ長さでもよい。
【0029】
中心線Oの方向におけるシールリング10Aの長さLbは、装着溝4の溝幅G以下である。長さLbは、軸方向Xにおいて、側面13から凸部15の側面15aまでの長さである。装着溝4の溝幅Gは、軸方向Xにおいて、側面4bから側面4cまでの長さである。
【0030】
シールリング10Aの周方向と直交する断面において、シールリング10Aの径方向Yの長さである肉厚LAは、装着溝4の溝幅Gより大きい。肉厚LAは、径方向Yにおける内周面12の頂部12aから外周面11の頂部11aまでの長さである。肉厚LAは、シールリング10Aの周方向と直交する断面において、径方向Yにおける最大長さである。肉厚LAは、装着溝4の溝深さHよりも大きい値である。
【0031】
傾斜面16の中心線Oに対する傾斜角θは、例えば25°である。傾斜角θは、20°以上でもよい。傾斜角θは30°以下でもよい。傾斜面16の軸方向Xにおける長さL16xは、例えば、シールリング10Aの軸方向Xの長さLbよりも短い。傾斜面16の径方向Yにおける長さL16yは、例えば、凸部15の径方向Yの長さLaより短い。
【0032】
軸方向Xにおいて、側面14から側面15aまでの長さL15xは、シールリング10Aの長さLbの例えば30%以下の長さである。軸方向Xにおける側面14から側面15aまでの長さL15xは、凸部15の高さである。軸方向Xにおいて、側面14から側面15aまでの長さL15xは、傾斜面16の軸方向Xにおける長さL16xの例えば50%以下の長さである。凸部15の長さLaは、シールリング10Aの肉厚LAの例えば30%以下の長さである。
【0033】
次に、図5を参照して、加圧時におけるシールリング10Aの動作について説明する。図5は、加圧時のシールリング10Aを示す断面図である。「加圧時」とは、シリンダー3の油圧が昇圧されて、ピストン2がX1方向に移動する状態であり、シールリング10Aに油圧が作用している状態である。図5において、油圧による圧力Pが作用する向きを矢印で図示している。
【0034】
加圧時において、シールリング10Aは、外周面11がX1方向にずれるように変形する。外周面11の頂部11aは、内周面12の頂部12aよりも、X1方向にずれる。側面13は、シリンダー3の内周面3aと直交する法線方向L3に対して傾斜する。側面13の外周面11側の端部13aは、内周面12側の端部13bよりもX1方向にずれている。
【0035】
加圧時において、シールリング10Aの傾斜面16は装着溝4の底面4aに接触している。傾斜面16の端部16aから端部16bまでが、装着溝4の底面4aに接触する。
【0036】
加圧時において、シールリング10Aの非加圧側の一部は、押しつぶされて、装着溝4の側面4cに接触する。シールリング10Aの側面14は、装着溝4の側面4cに沿って変形する。凸部15の側面15a及び外側傾斜面15cは、装着溝4の側面4cに沿うように変形する。加圧時において、シールリング10Aは、図5に示されように変形した状態で、X1方向にピストン2とともに移動する。
【0037】
シールリング10Aは、外周面11の頂部11aが、内周面12の頂部12aよりも、X1方向にずれた状態で移動する。図5では、加圧時のシールリング10Aの反力増加方向F1が図示されている。例えば、反力増加方向F1は、内周面12の頂部12aと、外周面11の頂部11aとを結ぶ仮想の直線に沿う方向である。図5では、比較のため、反力増加方向F0が示されている。この反力増加方向F0は、シリンダー3の内周面3aの法線方向L3に沿っている。反力増加方向F0は、従来のDリング60における反力増加方向である。従来のDリング60における反力増加方向については、図13を参照して後述する。
【0038】
シールリング10Aでは、加圧時において、反力増加方向F1がシリンダー3の内周面3aの法線方向L3に対して傾斜する。一方、従来のDリング60の反力増加方向F0は、法線方向L3と同じ方向である。反力増加方向F1は、法線方向L3に対して傾斜しているので、従来と比較して、シリンダー3の内周面3aに対する反力が弱くなっている。そのため、加圧時におけるシールリング10Aとシリンダー3との間のフリクションが弱められる。
【0039】
次に、図6を参照して、無圧時のシールリング10Aの動作について説明する。図6は、無圧時のシールリング10Aを示す断面図である。「無圧時」とは、シリンダー3の油圧が解放されて、ピストン2がX2方向に移動する状態であり、シールリング10Aに油圧が作用していない状態である。
【0040】
無圧時において、シールリング10Aには油圧による圧力Pが作用していない。無圧時において、シールリング10Aは、傾斜面16が装着溝4の底面4aに接触している。傾斜面16の端部16aから端部16bまで、装着溝4の底面4aに接触する。
【0041】
無圧時において、シールリング10Aの側面13は、シリンダー3の内周面3aと交差する法線方向L3に対して傾斜する。側面13の外周面11側の端部13aは、内周面12側の端部13bよりもX1方向にずれている。シールリング10Aは、外周面11の頂部11aが、内周面12の頂部12aよりもX1方向にずれるように傾いている。無圧時において、シールリング10Aは、図6に示されるように傾いた状態でX2方向に移動する。
【0042】
無圧時において、シールリング10Aは、傾斜面16が装着溝4の底面4aに接触するように傾いている。これにより、反力増加方向が、法線方向L3に対して傾斜するので、従来と比較してシリンダー3の内周面3aに対する反力が弱くなっている。なお、無圧時における反力は、加圧時における反力と比較して、極めて弱い。そのため図6では、反力増加方向を図示していない。
【0043】
シールリング10Aによれば、加圧時及び無圧時におけるシールリング10Aとシリンダー3との間のフリクションを低減できる。シールリング10Aでは、簡素な構成で、コストの増加を抑えつつ、シールリング10Aとシリンダー3との間のフリクションを低減できる。
【0044】
次に、実施例1に係るシールリング10AのFEM(Finite Element Method、有限要素法)解析結果について説明する。実施例1のシールリング10Aの内径Diは、50.5mm、肉厚LAは、3.4mm、長さLBは、1.7mmである。シールリング10Aのつぶし代σは0.23mmであり、装着溝4の溝幅Gは、2.6mmである。内径Diは、径方向Yにおける内周面12間の距離である。長さLBは、軸方向Xにおいて側面13から側面14までの長さである。つぶし代σは、肉厚LAと溝深さHとの差分である(σ=LA-H)。
【0045】
シールリング10Aの径方向Yにおける凸部15の長さLaは、0.8mm、軸方向Xの長さLbは、2.3mm、傾斜面16の傾斜角θは、25°である。
【0046】
シールリング10Aのゴム材料は、アクリルゴム(ACM)(HA70)である。アクリルゴムは、アクリル酸アルキルエステル系ゴムである。使用条件として、加圧時の圧力Pは、2MPa、無圧時の圧力は、0MPa、使用温度は、常温(25℃)、摺動距離3mmである。摺動距離とは、加圧時におけるシールリング10Aの軸方向Xの移動距離である。アクリルゴムのタイプAのデュロメータ硬度は、70である。タイプAのデュロメータ硬度は、ISO 18517に対応するJIS K6253-1:2012に規定されている。
【0047】
これらの条件で、実施例1のシールリング10Aについて、FEM解析を実施した。FEM解析では、加圧時及び無圧時のシールリング10Aによる反力を算出した。算出した反力の方向は、径方向Yである。FEM解析の結果、加圧時のシールリング10Aによる反力は、250Nであった。FEM解析の結果、無圧時のシールリング10Aによる反力は、6Nであった。
【0048】
次に、比較例1に係るOリング50及び比較例2に係るDリング60のFEM解析結果について説明する。図13は、Oリング50の中心軸に沿う断面を示す断面図であり、図14は、Dリング60の中心軸に沿う断面を示す断面図である。
【0049】
比較例1のOリング50の内径Diは、50.5mm、肉厚LAは、3.4mm、長さLBは、1.7mmである。Oリング100のつぶし代σは0.23mmであり、装着溝4の溝幅Gは、2.6mmである。
【0050】
比較例2のDリング60の内径Diは、50.5mm、肉厚LAは、3.4mm、長さLBは、1.7mmである。Dリング60のつぶし代σは0.23mmであり、装着溝4の溝幅Gは、2.6mmである。
【0051】
Oリング50及びDリング60のゴム材料及び使用条件は、上記の実施例1と同じである。
【0052】
これらの条件で、比較例1及び比較例2について、実施例1と同様に、FEM解析を実施した。FEM解析では、加圧時及び無圧時の反力を算出した。算出した反力の方向は、径方向Yである。FEM解析の結果、加圧時の比較例1のOリング50による反力は、294Nであった。無圧時の比較例1のOリング50による反力は、56Nであった。FEM解析の結果、加圧時の比較例2のDリング60による反力は、383Nであった。無圧時の比較例2のDリング60による反力は、101Nであった。
【0053】
FEM解析の結果によれば、実施例1の加圧時の反力Nは、比較例1及び比較例2の加圧時の反力Nと比較して、小さくなった。FEM解析の結果によれば、実施例1の無圧時の反力Nは、比較例1及び比較例2の無圧時の反力Nと比較して、小さくなった。
【0054】
次に、図8図10を参照して第2実施形態に係るシールリング10Bについて説明する。第2実施形態では、シールリング10Bを備える密封装置1Bについて説明する。なお、第2実施形態のシールリング10Bの説明において、前述の第1実施形態のシールリング10Aと同様の説明は省略する。図8は、シールリング10Bを備える密封装置1Bを示す断面図である。図9は、第2実施形態に係るシールリング10Bを示す平面図である。図10は、図9中のB-B線に沿う断面を示す断面図である。
【0055】
密封装置1Bは、シールリング10Bの他に、円柱状を成すピストンロッド6と、筒状を成すブッシュ7と、を備える。ピストンロッド6は第1部材の一例であり、ブッシュ7は第2部材の一例である。ピストンロッド6は、ブッシュ7の内部空間に保持されて、軸方向Xに往復動する。ブッシュ7の内周面7aには装着溝4が形成されている。シールリング10Bは、装着溝4に装着される。シールリング10Bは、ピストンロッド6の外周面6aと、ブッシュ7の内周面7aとの間の隙間5を封止する。シールリング10Bが装着溝4に装着された状態において、シールリング10Bの外周面21は、装着溝4の底面4aに接触し、シールリング10Bの内周面22は、ピストンロッド6の外周面6aに接触する。
【0056】
シールリング10Bは、外周面21と、内周面22と、側面23と、側面24とを有する。図9は、側面24側からシールリング10Bを示す図である。側面23は、シールリング10Bにおいて側面24の反対側の側面である。図9に示されるように、シールリング10Bは、密封装置1Bに適用可能である。シールリング10Bが、密封装置1Bのブッシュ7に装着される場合、内周面22が摺動面となる。内周面22は摺動部の一例であり、外周面21は溝底部の一例である。側面23は、シールリング10Bの加圧側面(第1面)の一例である。側面24は、シールリング10Bの非加圧側(第2面)の一例である。シールリング10Bは、側面24から張り出す凸部25と、傾斜面26と、を有する。
【0057】
シールリング10Bの断面において、内周面22は、半円形状を成している。内周面22の頂部22aは、内周面22のうち、シールリング10Bの径方向Yにおいて最も内側に位置する。
【0058】
シールリング10Bの外周面21は、装着溝4の底面4aに当接可能な面を含む。外周面21の頂部21aは、外周面21のうち、シールリング10Bの径方向Yにおいて最も外側に位置する。シールリング10Bの断面において、外周面21のうち頂部21aに対して側面23に近い方の部分は、湾曲形状を成す。外周面21のうち頂部22aに対して側面23から遠い方の部分は、傾斜面26である。
【0059】
次に、シールリング10Bの凸部25について説明する。凸部25は、シールリング10Bの周方向において全周に形成されている。凸部25は、側面25aと、内側傾斜面25bと、外側傾斜面25cとを有する。内側傾斜面25bは、側面25aの内周側に位置し、外側傾斜面25cは、側面25aの外周側に位置する。
【0060】
凸部25の側面25aは、軸方向Xに交差する面を含む。凸部25の側面25aは、軸方向Xにおいて、側面24よりも側面23から遠い方に位置する。凸部25の内側傾斜面25bは、中心線Oに対して傾斜する。凸部25の外側傾斜面25cは、中心線Oに対して傾斜する。
【0061】
次に、シールリング10Bの傾斜面26について説明する。シールリング10Bの外周面21は、傾斜面26を含む。傾斜面26は、中心線Oに対して傾斜する。傾斜面26は、シールリング10Bの周方向と交差する断面において、直線的に形成されている。傾斜面26は端部26a及び端部26bを含む。端部26aは、軸方向Xにおいて、端部26bよりも側面23に近い方に位置する。端部26bは、端部26aよりも中心線Oから近い位置に配置される。換言すると、傾斜面26は、中心線Oから端部26bまでの距離が、中心線Oから端部26aまでの距離よりも短くなるように傾斜する。端部26bは、径方向Yにおいて、端部26aよりも内周面22の近くに位置する。端部26bは、凸部25の外側傾斜面25cに含まれる。傾斜面26は、凸部25の外側傾斜面25cを含む。
【0062】
このようなシールリング10Bにおいても、第1実施形態のシールリング10Aと同様な作用効果を奏する。加圧時において、シールリング10Bは、内周面22がX1方向にずれるように変形する。内周面22の頂部22aは、外周面21の頂部21aよりも、X1方向にずれる。側面23は、ピストンロッド6の外周面6aと交差する垂線に対して傾斜する。側面23の内周面22側の端部23bは、外周面21側の端部23aよりもX1方向にずれている。
【0063】
シールリング10Bでは、加圧時において、反力増加方向がピストンロッド6の外周面6aの法線方向に対して傾斜する。これにより、シールリング10Bでは、従来と比較して、ピストンロッド6の外周面6aに対する反力が弱くなっている。そのため、加圧時におけるシールリング10Bとピストンロッド6との間のフリクションが弱められる。
【0064】
無圧時において、シールリング10Bの側面23は、ピストンロッド6の外周面6aと交差する法線方向に対して傾斜する。側面23の内周面22側の端部23bは、外周面21側の端部23aよりもX1方向にずれている。シールリング10Bは、内周面22の頂部22aは、外周面21の頂部21aよりも、X1方向にずれるように傾いている。無圧時において、シールリング10Bは、傾いた状態でX2方向に移動する。
【0065】
シールリング10Bでは、無圧時において、反力増加方向がピストンロッド6の外周面6aの法線方向に対して傾斜する。これにより、シールリング10Bでは、従来と比較して、ピストンロッド6の外周面6aに対する反力が弱くなっている。そのため、無圧時におけるフリクションが弱められる。
【0066】
次に、図13を参照して、従来技術に係るDリング60における反力増加方向について説明する。ここでは、図1に示される密封装置1Aのピストン2の装着溝4に、図12に示すDリング60が装着された場合の反力増加方向について説明する。この場合、油圧による圧力Pが作用すると、Dリング60は図13に示されるように変形する。Dリング60による反力増加方向F0は、径方向Yに沿う方向であり、シリンダー3の内周面3aの法線方向である。
【0067】
一般的に、シールリングが往復動する場合、シールリングとこのシールリングに接触する相手側の部材との間のフリクションFは下記式(1)によって表現できる。
F=μN…(1)
式(1)中、「μ」は摩擦係数であり、Nはシールリングによる反力である。フリクションを低下させようと考えた場合、摩擦係数μ又は反力Nを下げる必要がある。
【0068】
摩擦係数μは、シールリングと接触する相手側の表面の状態や潤滑状態等を含む使用条件に影響される。そのため、シールリングによって、摩擦係数μを調整することは容易ではない。反力Nを下げるためには、つぶし代を低減したり、ゴム材料の硬度を低減したりする方法がある。しかしながらこの方法では、シール性能の低下を招くおそれがある。
【0069】
一般的に、加圧時のシールリングによる反力Nは、下記式(2)によって表現できる。
=N+S×P…(2)
式(2)中、「N」は、無圧時のシールリングによる反力であり、「S」は、シールリングの接触面積であり、「P」はシールリングに印加される圧力である。シールリングの接触面積Sとは、例えばシールリングの外周面と、相手側の部材であるシリンダー3の内周面3aとの接触面積である。
【0070】
シールリング10Aでは、図5に示されるように、反力増加方向F1がシリンダー3の内周面3aに対して傾斜する。これにより、内周面3aの法線方向L3に沿う反力の成分が減少するので、無圧時及び加圧時のシールリング10Aによる反力が低減される。そのため、シールリング10Aとシリンダー3と間のフリクションが弱められる。
【0071】
なお、前述した実施形態は、本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【0072】
前述の実施形態では、中心線Oに沿うシールリング10Aの断面において、傾斜面16は、直線的に形成されているが、傾斜面16は、直線的に形成されているものに限定されず、傾斜面16は、緩やかに湾曲する部分、凹部などを含んでもよい。また、傾斜面16は、複数の異なる傾斜角θの傾斜面を含んでもよい。
【0073】
前述の実施形態では、凸部15は、シールリング10Aの周方向の全周に形成されているが、凸部15は、周方向において全周に限定されるものに限定されない。
【符号の説明】
【0074】
1A,1B…密封装置、2…ピストン(第1部材)、2a…外周面(第1部材の外周面)、3…シリンダー(第2部材)、3a…内周面(第2部材の内周面)、4…装着溝、5…隙間、6…ピストンロッド(第1部材)、6a…外周面、7…ブッシュ(第2部材)、7a…内周面、10A,10B…シールリング、11…外周面(摺動部)、12…内周面(溝底部)、13,23…側面(加圧側面)、14,24…側面(非加圧側面)、15,25…凸部、16,26…傾斜面、16a,26a…端部(加圧側面から近い方の端部)、16b,26b…端部(加圧側面から遠い方の端部)、21…外周面(溝底部)、22…内周面(摺動面)、O…シールリングの中心線、X…軸方向、Y…径方向(シールリングの径方向)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13