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  • 特開-乳酸製造方法 図1
  • 特開-乳酸製造方法 図2
  • 特開-乳酸製造方法 図3
  • 特開-乳酸製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082290
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】乳酸製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/56 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
C12P7/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193764
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】592063238
【氏名又は名称】イムラ・ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上坊寺 亨
(72)【発明者】
【氏名】滝川 由浩
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD02
4B064CA01
4B064CC06
4B064CC30
4B064CD23
4B064CE20
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料から簡易に乳酸を製造する。
【解決手段】分解するとグルコースを生じるセルロースなどを含むバイオマス原料に塩基性物質を添加したものを加熱粉砕処理し、熱粉砕工したものに水を添加して固液分離し、液状物質として乳酸を含む乳酸混合液を取り出す。バイオマス原料に対して塩基性物質を添加して加熱粉砕処理を施したものに水を添加して固液分離するだけで乳酸を得ることができ、バイオマス原料から簡易に乳酸を製造することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解するとグルコースを生じるセルロースなどを含むバイオマス原料から乳酸を製造する乳酸製造方法であって、
前記バイオマス原料に塩基性物質を添加したものに加熱と粉砕とを同時に実行する加熱粉砕処理を行なう加熱粉砕工程と、
前記加熱粉砕工程の後に水を添加して固液分離して得られる液体を乳酸混合液として取り出す固液分離工程と、
を備えることを特徴とする乳酸製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の乳酸製造方法であって、
前記加熱粉砕工程は、150℃以上に加熱して行なう工程である、
乳酸製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の乳酸製造方法であって、
前記塩基性物質は、前記固液分離工程により得られる残渣(固体)の一部を熱処理して得られる灰状物質である、
乳酸製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の乳酸製造方法としては、セルロースを含むバイオマス原料を加熱及び加圧する加熱加圧工程と、加熱加圧工程により得られる酵素糖化用原料を酵素糖化させて糖を得る酵素糖化工程と、酵素糖化工程により得られた糖を乳酸菌発酵することにより乳酸を得る乳酸菌発酵工程と、により乳酸を得るものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法における加熱加圧工程は、バイオマス原料を150℃~190℃のうち特に好ましい温度として175℃~185℃に加熱すると共に6MPa~26MPaのうち特に好ましい圧力として12MPa~20MPaで加圧することにより行なわれる。酵素糖化工程は、酵素としてセルラーゼやβグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼなどを用いて温度20℃~60℃でpH4.0~6.0とし1日間~5日間の静置することにより行なわれる。乳酸菌発酵工程は、糖に乳酸菌、例えばラクトバチルス・マニホティヴォランス、ラクトバチルス・プランタラム、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・ブルガリカスなどを添加し、乳酸菌発酵を生じさせることにより行なわれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-19633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の乳酸製造方法では、加熱加圧工程と酵素糖化工程と乳酸菌発酵工程とが必要であるため、工程が多く複雑な手法となる。また、加熱加圧工程では、バイオマス原料に対して175℃~185℃の加熱に加えて12MPa~20MPaの加圧が必要となり、装置が大型化してしまう。更に、酵素糖化工程では酵素としてセルラーゼやβグルコシダーゼ、ヘミセルラーゼなどを添加する必要があり、乳酸菌発酵工程でも乳酸菌の添加が必要となる。
【0005】
本発明の乳酸製造方法は、バイオマス原料から簡易に乳酸を製造することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の乳酸製造方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の乳酸製造方法は、
分解するとグルコースを生じるセルロースなどを含むバイオマス原料から乳酸を製造する乳酸製造方法であって、
前記バイオマス原料に塩基性物質を添加したものに加熱と粉砕とを同時に実行する加熱粉砕処理を行なう加熱粉砕工程と、
前記加熱粉砕工程の後に水を添加して固液分離して得られる液体を乳酸混合液として取り出す固液分離工程と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
この本発明の乳酸製造方法では、分解するとグルコースを生じるセルロースなどを含むバイオマス原料に塩基性物質を添加したものに加熱と粉砕とを同時に実行する加熱粉砕処理を行なう。そして、加熱粉砕処理が施されたものに水を添加して固液分離して乳酸混合液を得る。このように、バイオマス原料に対して塩基性物質を添加して加熱粉砕処理を施したものに水を添加して固液分離するだけで乳酸を得ることができ、バイオマス原料から簡易に乳酸を製造することができる。
【0009】
ここで、バイオマス原料としては、稲わらや木材,古着、家庭からの残飯など、分解するとグルコースを得ることができるバイオマスであれば如何なるものであってもよく、ある程度の粗粉砕が施されているのが好ましい。加熱粉砕は、150℃や170℃など150℃以上の温度で行なうのが好ましい。塩基性物質としては、塩基性を呈するものであれば如何なるものであっても構わないが、固液分離工程により得られる残渣(固体)を熱処理して得られる灰状物質を用いるのも好適である。このように残渣から得られる灰状物質を用いるものとすれば、残渣をリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態としての乳酸の製造工程を例示する工程図である。
図2】セルロース(avicel)の加熱粉砕と可溶化率との関係の一例を示す実験データを用いて示す説明図である。
図3】稲わらの加熱粉砕と可溶化率との関係の一例を実験データを用いて示す説明図である。
図4】可溶化液(乳酸混合液)の成分と加熱粉砕との関係の一例を実験データを用いて示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態としてのバイオマス原料から乳酸を製造する様子を例示する工程図である。本実施形態の乳酸製造方法では、まず、分解するとグルコースを得ることができるセルロース(一般式(C6H10O5)n:n=数百~数千)などを含むバイオマス原料に塩基性物質を添加し、これに加熱と粉砕とを同時に行なう加熱粉砕を行なう。バイオマス原料としては、稲わらや木材,古着、家庭の残飯など分解すればグルコースを得ることができるものであれば如何なるものでもよい。塩基性物質としては、実施形態では乳酸の製造により廃棄されるべき残渣に熱処理を加えて灰状にしたものを用いたが、塩基性を呈するものであれば如何なるものでもよい。塩基性物質の添加量は、実施形態の灰状物質の場合、バイオマス原料に対して50重量%としたが、これより多くても少なくてもよい。加熱粉砕の条件としては、温度について150℃以上が好ましい。
【0012】
次に、加熱粉砕された試料(バイオマス原料+塩基性物質)に水を添加し、よく攪拌し、固液分離する。この際、液体として取り出されたものが乳酸を含む乳酸混合液である。固液分離により固体として取り除かれた残渣は、加熱処理して灰状物質とし、バイオマス原料に添加される塩基性物質として用いられる。
【0013】
図2はセルロース(avicel)の加熱粉砕と可溶化率との関係の一例を示す実験データを用いて示す説明図であり、図3は稲わらの加熱粉砕と可溶化率との関係の一例を実験データを用いて示す説明図である。これらの実験データは、セルロース(avicel)や稲わら0.3gに対してボールミル(300rpm)を用いて加熱粉砕を行ない、粉砕時間に対する可溶化率を測定したものである。図中、丸印付き実線は20℃で加熱粉砕したときのデータであり、三角印付き実線は150℃で加熱粉砕したときのデータであり、菱形印付き実線は170℃で加熱粉砕したときのデータであり、四角印付き実線は200℃で加熱粉砕したときのデータである。図2に示すように、セルロース(avicel)の場合には150℃以上の加熱粉砕で短時間でも可溶化率が高くなる。図3に示すように稲わらの場合には、短時間では170℃以下の加熱粉砕で可溶化率が高くなり、4時間以上の加熱粉砕では150℃のときが可溶化率が高くなる。これらのことから、比較的短時間の加熱粉砕では150℃や170℃とするのが好ましいことが解る。
【0014】
図4は、可溶化液(乳酸混合液)の成分と加熱粉砕との関係の一例を実験データを用いて示す説明図である。実験例Aは稲わらに塩基性物質を添加することなく室温で3時間に亘って加熱粉砕したときのデータであり、実験例Bは稲わらに塩基性物質を添加することなく170℃で3時間に亘って加熱粉砕したときのデータであり、実験例Cは稲わらに塩基性物質として灰状物質を50%を添加して室温で3時間に亘って加熱粉砕したときのデータであり、実験例Dは稲わらに塩基性物質として灰状物質を50%を添加して170℃で3時間に亘って加熱粉砕したときのデータであり、実験例Eはセルロース(avicel)に塩基性物質として灰状物質を50%を添加して170℃で3時間に亘って加熱粉砕したときのデータである。各棒グラフにおいて、下段の右下がりの斜め線のハッチングされた部分は乳酸以外に同定できた成分の合計(アルコール類やフラン類、セロオリゴ糖、炭素数6の糖、炭素数5の糖の合計)であり、中段の格子状にハッチングされた部分は乳酸であり、上段のハッチングされていない部分は成分を同定することができなかった成分の合計である。実験例D,Eに示されているように、稲わらやセルロース(avicel)に塩基性物質として灰状物質を50%を添加して170℃で3時間に亘って加熱粉砕することによって乳酸を得ることができる。
【0015】
以上説明した実施形態の乳酸製造方法では、分解するとグルコースを得ることができるセルロースなどを含むバイオマス原料に塩基性物質を添加して150℃や170℃で加熱粉砕を行ない、得られた試料(バイオマス原料+塩基性物質)に水を添加して固液分離により液状物質として乳酸を含む乳酸混合液を得る。即ち、バイオマス原料に対して塩基性物質を添加して加熱粉砕処理を施したものに水を添加して固液分離するだけで乳酸を得ることができ、バイオマス原料から簡易に乳酸を製造することができる。
【0016】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、乳酸の製造産業などに利用可能である。
図1
図2
図3
図4