(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082364
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】二重殻式容器
(51)【国際特許分類】
F17C 3/04 20060101AFI20220525BHJP
B65D 90/02 20190101ALI20220525BHJP
C01B 33/16 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
F17C3/04 Z
B65D90/02 Z
C01B33/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193875
(22)【出願日】2020-11-20
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ウー ラダー
(72)【発明者】
【氏名】李 官益
【テーマコード(参考)】
3E070
3E170
3E172
4G072
【Fターム(参考)】
3E070AA04
3E070AA08
3E070AA09
3E070AB32
3E070CA01
3E070GB02
3E070GB04
3E070NA10
3E170AA04
3E170AA08
3E170AA09
3E170AB29
3E170CA01
3E170GB02
3E170GB04
3E170NA10
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB01
3E172AB05
3E172AB11
3E172BA06
3E172BB06
3E172BB10
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172BC05
3E172BC06
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD01
3E172BD03
3E172BD05
3E172DA20
3E172JA01
3E172KA02
3E172KA22
3E172KA23
4G072AA28
4G072BB05
4G072CC07
4G072DD03
4G072DD05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH29
4G072HH30
4G072JJ13
4G072JJ23
4G072KK01
4G072KK03
4G072LL11
4G072LL15
4G072MM01
4G072MM26
4G072PP05
4G072PP06
4G072QQ07
4G072RR05
4G072RR12
4G072UU07
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】 液化石油ガスや液体水素を貯蔵したり、運搬するためのタンクに用いて好適な二重殻式容器を提供すること。
【解決手段】 内筒体10と、外筒体20と、内筒体10と外筒体20の間に設けられたエアロゲル充填用空間30と、エアロゲル充填用空間30に充填された断熱材とを有する二重殻式容器であって、前記断熱材は、一次粒子の集合体であるクラスターで骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、前記一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子を含むことを特徴とする。この微粒子は、弱結合超微粒子エアロゲル粉末であるとよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒体と、外筒体と、前記内筒体と前記外筒体の間に設けられたエアロゲル充填用空間と、前記エアロゲル充填用空間に充填された断熱材とを有する二重殻式容器であって、
前記断熱材は、一次粒子の集合体であるクラスターで骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、前記一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子を含むことを特徴とする、
二重殻式容器。
【請求項2】
前記微粒子は、その総数の50%以上が粒子径について0.1μm以上1.0μm以下に最頻値をもって分散することを特徴とする、請求項1に記載の二重殻式容器。
【請求項3】
前記断熱材は、さらに中空粒子を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の二重殻式容器。
【請求項4】
前記中空粒子は殻を有し、殻の内側の中空部分に空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されていることを特徴とする、請求項3に記載の二重殻式容器。
【請求項5】
前記内筒体と前記外筒体の間に設けられた前記エアロゲル充填用空間に、空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されていることを特徴とする、請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【請求項6】
前記内筒体と前記外筒体の間に設けられた前記エアロゲル充填用空間が、大気圧よりも低い気圧に減圧されていることを特徴とする、請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【請求項7】
前記二重殻式容器は、前記外筒体に固定されて前記内筒体を支持する支持機構を備え、
前記支持機構は、前記内筒体と前記外筒体との間の直線距離よりも長い部材を折り曲げて、又はコイル状に巻装されて構成されていることを特徴とする、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【請求項8】
前記支持機構は、前記外筒体の底面側に少なくとも3個設けられており、
前記外筒体の側面側に少なくとも1個設けられていることを特徴とする、請求項7に記載の二重殻式容器。
【請求項9】
前記内筒体又は外筒体の少なくとも一方が、さらに繊維を含む部材で被覆されていることを特徴とする、請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【請求項10】
前記繊維を含む部材は、ガラス繊維又は炭素繊維の少なくとも一方を含むことを特徴とする、請求項9に記載の二重殻式容器。
【請求項11】
前記内筒体は、上面に大略中央部を頂部とする緩やかな傾斜面が形成してあることを特徴とする、請求項1から請求項10のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【請求項12】
前記外筒体は、底面に大略中央部を底部とする緩やかな傾斜面が形成してあることを特徴とする、請求項1から請求項11のうちのいずれか1項に記載の二重殻式容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化石油ガスや液体水素を貯蔵したり、運搬するためのタンクに用いて好適な二重殻式容器に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のために、CO2排出量を削減するためのクリーンエネルギーの研究が盛んに行われている。水素エネルギーは、発電時のCO2排出量がゼロであること、燃料である水素が保存可能で輸送可能であることから、クリーンエネルギーとして最も可能性のあるエネルギー源の一つである。水素の長期間貯蔵や長距離輸送には、同じ重量で気体の約1/800の体積を持つ液体が選ばれている(例えば非特許文献1参照)。水素エネルギーの応用には、(1)長距離輸送と(2)長期間貯蔵の2つが最も困難な部分である。LNG(液化石油ガス)やLN2(液体窒素)などの液体ガスの保存には保冷容器が広く応用されている。しかし、LH2(液体水素)の保存温度は-253℃以下と、LNGやLN2の保存温度に比べてかなり低い温度で保存しなければならない。LH2を保存するためには、長期的な保冷性に優れた容器でなければならず、LH2を冷却するために多くの電気エネルギーを消費する必要がある。
【0003】
本発明は、水素(液体、気体、またはそれらが共存する状態)の貯蔵・輸送用の二重殻断熱容器を提案するものである。超低熱伝導率を実現するために、断熱材として弱結合の超微粒子エアロゲル粉末を適用する。断熱層を充填し、二重殻断熱容器の断熱性を発揮する。また、圧縮水素貯蔵の安全性を確保するために、内槽の外側にはガラス/炭素繊維を巻いてある。
【0004】
<水素の貯蔵について>
極低温容器は、LN2やLNGの保存に広く利用されている。他方で、一気圧での水素の沸点が-253℃と低いため、極低温容器には超低熱伝導率(希望値:10mW/mK以下)が求められている。従来、断熱材としてはパーライトが選ばれてきた。パーライトは、二重殻の間の層(断熱層)を埋め、極低温容器の断熱性を提供する。しかし、パーライトの断熱性はLH2の貯蔵には十分ではない。極低温容器の断熱性をさらに向上させるためには、断熱層に高い真空度が必要となる。
【0005】
ガスボンベは、圧縮ガスの貯蔵に応用されてきた。しかし、圧縮された水素を貯蔵するのは、一般的な圧縮ガスを貯蔵するのに比べて非常に困難である。水素ガスは引火性の高いガスとして知られており、通常の空気と少量でも混ざると引火する。空気中の酸素と反応の簡単さと化学的性質から、空気中の水素の体積比が4%程度でも発火することがあるが、水素は空気中の酸素と反応しているため、空気中の水素の量が少なくても発火する。
また、圧縮水素貯蔵のもう一つの難点は、水素脆化(水素誘起割れ)である。水素の発火を避けるために、水素脆化しにくい材料をガスボンベの材料として選定した。また、ガスボンベを覆う材料としてガラス/炭素繊維を使用することで、水素誘起発火をさらに防止している。
【0006】
<低温液体用タンクについて>
特許文献1では、低温断熱圧力容器が開示してある。即ち、インナーおよびハウジングの二層構造とし、中間層を真空引きして高真空断熱構造を形成し、中間層での放射熱伝達を減少させるために、インナー表面には断熱材料を被覆してある構造を有している。断熱材料としては、高反射能力を有するアルミ箔と低熱伝導率で難燃性のガラス繊維紙が交互に積層されている。
特許文献2では、車載LNGタンクなどの低温液体タンクの断熱保冷に適した構造体を提案している。即ち、内筒体及び外筒体を含む低温液タンクを有し、複合断熱性として放射防止材料層と、これに接触したエアロゲルブランケット熱遮蔽層、及びエアロゲルブランケット熱遮蔽層外側に設置する真空断熱層を含む複合積層構造を含み、真空断熱層は内筒体の片側に近寄って鏡面ステンレスが敷設され、真空断熱層外側クラッドは外筒体に接触したEVAの発泡材料層が設けられている。
【0007】
特許文献3では、球形タンクが提案されている。石油および化学産業では、液体などを大型タンク構造物内に貯蔵することが慣例となっており、通常は屋外に設置され、熱および寒さの両方の要素にさらされている。これらの貯蔵タンクは通常、スチールやその他の金属製のタンク構造で構成されており、屋外に設置されているため、タンク内に貯蔵されている製品を所望の温度に保つために、適切な断熱材を備えている。
特許文献4では、長期間の貯蔵を提供することができ、軽量であることを特徴とする航空機の極低温液体貯蔵タンクが提案されている。
特許文献5では優れた断熱性と柔軟性を備えたシリカ系エアロゲルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第110220107号明細書
【特許文献2】中国実用新案第207112350号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20180202607号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20120279971号明細書
【特許文献5】特許第6288382号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】CO2フリー水素導入構想と技術開発、川崎重工業、(2015)、スライド17、25、28 https://www.nedo.go.jp/content/100765860.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水素エネルギー社会の実現に向けて、LH2を貯蔵・輸送するためには、超低熱伝導率(希望値:10mW/mK)の極低温槽が必要である。しかし、現在の極低温槽は、断熱材であるパーライトが最新の断熱材と比較して優れた断熱性を発揮しないため、断熱性に劣っている。このため、高い断熱性を実現するためには、断熱層の真空度を高くする必要がある。
【0011】
本発明の解決する課題としては、以下のものが挙げられる。
(1)特許文献2、3に示すような従来の低温液体タンクの断熱材の特性は、LH2の長期間貯蔵に適していない。
(2)特許文献2、3に示すような従来の低温液体タンクでは、保冷層の高真空レベルを維持するために、電気エネルギーの使用量がかさむ。
(3)特許文献2、3に示すような従来の低温液体タンクでは、LH2を冷却するために、電気エネルギーの使用量がかさむ。
(4)特許文献1~4に示すように断熱材としてエアロゲルを用いる場合には、エアロゲルの材料費が高い。
(5)特許文献5に示すような柔軟性を有するエアロゲル製のパネル材やブランケット材を断熱材として用いることも可能であるが、球殻への貼付け作業が必要となる。また球殻やタンクに設けられる断熱層は狭い隙間なので、断熱材を均一に充填することが必要となり、充填作業の難易度が高い。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、水素を保存するための二重殻式極低温容器を提案するものである。本発明を用いて、液体状態、気体状態、またはそれらが共存する状態の水素を保存することができる。また、本容器では、弱結合の超微粒子エアロゲル粉末を使用しているため、LH2貯蔵用の断熱性を所望の値にすることが、容易にできる。
【0013】
[1]本発明の二重殻式容器は、例えば
図1に示すように、内筒体10と、外筒体20と、内筒体10と外筒体20の間に設けられたエアロゲル充填用空間30と、エアロゲル充填用空間30に充填された断熱材とを有する二重殻式容器であって、前記断熱材は、一次粒子の集合体であるクラスターで骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、前記一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子を含むことを特徴とする。この微粒子は、弱結合超微粒子エアロゲル粉末であるとよい。
ここで、一次粒子について説明する。従来のエアロゲル粉末粒子の三次元網目構造において、その骨格を構成する単位は二次粒子と呼ばれている(例えば、特許文献5の第0035段落参照)。一次粒子とは、複数個が集まってこの二次粒子を構成する、より小さな単位の粒子である。なお、同文献によれば、二次粒子の径が概ね2nm~50μmであるのに対して、一次粒子の径は0.1nm~5μmであるとされる。但し、技術常識として普遍的に、一次粒子、二次粒子の粒子径について、それぞれの絶対値に画一的な範囲が規定されているわけではない。
【0014】
[2]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、前記微粒子は、その総数の50%以上が粒子径について0.1μm以上1.0μm以下に最頻値をもって分散しているとよい。なお、ここで言う粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置による観測値である。レーザー回折式粒子径分布測定を本明細書では、PSD(particle size distribution)測定と略す。本明細書において、粒子径についてはPSD測定を前提として説明する。ただし、PSD測定では、粒子自体の径だけではなく、粒子の凝集も粒子径として観測されるため、真の粒子径は測定値よりも小さい可能性が高い。測定法に依存した粒子径の相違があれば、粒子径を適宜に換算して、読み替えてよい。
[3]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、前記断熱材は、さらに中空粒子を含むとよい。前記断熱材が、さらに中空粒子を含むことにより、断熱材の熱伝導率をさらに下げることができる。
[4]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、前記中空粒子は殻を有し、殻の内側の中空部分に空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されているとよい。これにより、断熱材の熱絶縁性能をさらに高めることができる。
[5]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、内筒体10と外筒体20の間に設けられたエアロゲル充填用空間30に、空気よりも熱伝導率の低い気体が封入されているとよい。これにより、断熱材の熱絶縁性能をさらに高めることができる。
[6]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、内筒体10と外筒体20の間に設けられたエアロゲル充填用空間30が、大気圧よりも低い気圧に減圧されているとよい。これにより、断熱材の熱絶縁性能をさらに高めることができる。
【0015】
[7]本発明の二重殻式容器において、例えば
図1に示すように、好ましくは、前記二重殻式容器は、外筒体20に固定されて内筒体10を支持する支持機構50を備え、支持機構50は、内筒体10と外筒体20との間の直線距離よりも長い部材を折り曲げて、又はコイル状に巻装されて構成されているとよい。これにより、内筒体10と外筒体20を接続する支持機構50を通した熱伝導を抑えることができ、二重殻式容器全体の熱絶縁性能が向上される。
[8]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、支持機構50は、外筒体20の底面側に少なくとも3個設けられており、外筒体20の側面側に少なくとも1個設けられているとよい。
【0016】
[9]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、内筒体10又は外筒体20の少なくとも一方が、さらに繊維を含む部材で被覆されているとよい。
[10]本発明の二重殻式容器において、好ましくは、前記繊維を含む部材は、ガラス繊維又は炭素繊維の少なくとも一方を含むとよい。
【0017】
[11]本発明の二重殻式容器において、例えば
図3に示すように、好ましくは、内筒体10は、上面に大略中央部を頂部とする緩やかな傾斜面が形成してあるとよい。
[12]本発明の二重殻式容器において、例えば
図3に示すように、好ましくは、外筒体20は、底面に大略中央部を底部とする緩やかな傾斜面が形成してあるとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二重殻式容器によれば、以下のような効果がある。
(1) 低温貯蔵・運搬タンクの断熱材にエアロゲル粉末を用いているので、従来の低温貯蔵・運搬タンクの断熱材であるパーライトと比較して、極低温槽の断熱性を大きく向上させることができる。
(2) エアロゲル粉末を使用することで極低温槽の保冷性が向上するため、保冷層に必要な真空度が低くなり、断熱層の高真空度を維持するための電気代を低減できる。
(3) エアロゲル粉末を使用することで極低温槽の断熱性が向上しているため、LH2の冷却に必要なエネルギーが少なくて済む。
(4) 本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末は非常に密度が低く、同じ重量でも体積は一般的なエアロゲルの6~10倍にもなる。そこで、断熱層に本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末を充填すれば、エアロゲルの材料費を大幅に節約することができる。
(5) 本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末は非常に良好な流動性を示す。また、実施例のようにタンク上面や底面の傾斜形状を設けると、弱結合超微粒子エアロゲル粉末が断熱層を適切に充填することを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の二重殻式容器の一実施例を示すエアロゲル断熱タンクの断面構造図である。
【
図2】本発明の二重殻式容器の一実施例を示すエアロゲル断熱タンクの厚み方向の温度分布を説明する断面図である。
【
図3】本発明の二重殻式容器の各種実施例を示すエアロゲル断熱タンクの形状の概略図である。
【
図4】一般的なエアロゲルの構造及びこれを粉砕して作られるエアロゲル粉末を模式的に示す説明図である。
【
図5】本発明のエアロゲル及びこれを粉砕して作られる超微粒子エアロゲル粉末を模式的に示す説明図である
【
図6】本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末を製造する方法の一例を示す製造プロセス図である。
【
図7】高速粉砕工程における粉砕機の回転数の制御例を示す説明図である。
【
図8】高速粉砕工程の後の粒子サイズの分布を示す分布図である。
【
図9】本発明の二重殻式容器に用いられるエアロゲル粉末の嵩を説明する画像である。
【
図10】本発明の二重殻式容器に用いられるエアロゲル粉末の密度の比較図である。
【
図11】試作された超微粒子エアロゲル粉末に振動を加えたときの圧縮特性を示すグラフである。
【
図12】異なる圧力と温度下での市販のエアロゲル粉末の熱伝導率を説明する図である。
【
図13】本発明の二重殻式容器が用いられる用途である液体水素輸送の説明図で、船舶搭載用を示している。
【
図14】本発明の二重殻式容器が用いられる用途である液体水素貯蔵の説明図で、球形タンクを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
図1は、本発明の二重殻式容器の一実施例を示すエアロゲル断熱タンクの断面構造図である。図において、エアロゲル断熱タンクは、内筒体10、外筒体20、エアロゲル充填用空間30、支持機構50、センサ60並びに内筒体10の収容物である液体水素40を有している。
内筒体10は、インナーとも呼ばれるもので、アルミなどの水素脆化しにくい金属を用いるとよいが、LNG等の低温用圧力容器用構造材料として用いられる低温脆性の少ないオーステナイト鋼、ステンレス鋼、炭素繊維やガス繊維で強化したプラスチック等でもよい。ガラス繊維/炭素繊維被覆層12は、内筒体10の外筒体20側の面を被覆するもので、内筒体10の周面を補強している。内筒体10の容積は、例えば圧力容器に関する規格や消防法の規格を考慮して、運搬や貯蔵に適合するように定めるとよい。
外筒体20は、ハウジングとも呼ばれるもので、ステンレス鋼、炭素鋼等の構造用材料として通常用いられる金属や炭素繊維やガス繊維で強化したプラスチック等を用いるとよい。ガラス繊維/炭素繊維被覆層22は、外筒体20の表面を被覆するもので、外筒体20の周面を補強している。
【0021】
エアロゲル充填用空間30は、内筒体10と外筒体20の間に位置する球殻状、楕円体殻、又は断面直方体の領域で、熱伝導率が低い断熱層として作用する。エアロゲル充填用空間30に充填されるエアロゲル粉末に関しては、後で説明する。
エアロゲル充填用空間30の底部には、重曹+酸の固体形態(クエン酸結晶など)が敷き詰められており、CO2をゆっくりと放出する機構を備えている。この重曹+酸の固体形態の上側に、弱結合の超微粒子エアロゲル粉末が充填されている。
【0022】
液体水素40は、内筒体10に収容されて貯蔵又は運搬されるものである。内筒体10の内部では、液体水素40と水素ガス41の混合物となっている。水素ガスの許容圧力は、例えば圧力容器に関する規格に適合するように定めるとよく、例えば内圧0.2MPa未満であれば、現行の日本国内の規格では圧力容器の規制対象となっていない。しかし、圧縮水素ガスの許容圧力が過度に小さいと、貯蔵や運搬の間に水素ガスをベントする必要が生ずるため、ベントにより水素ガスが排出されることになる。
外筒体20の球殻、楕円体殻又は断面直方体殻の上面には、液体水素を供給または吸出するための液体水素供給/吸出口42が設けられている。水素ガス/液体水素供給口43は、外筒体20の球殻、楕円体殻又は断面直方体殻の上面に、水素ガス又は液体水素を供給するために設けられている。水素ガス吸出口44は、外筒体20の球殻、楕円体殻又は断面直方体殻の上面に設けられている。
エアロゲル充填口45、46は、外筒体20の球殻、楕円体殻又は断面直方体殻の上面に、エアロゲル粉末を充填するために設けられている。
安全弁48は、液体水素又は水素ガスにより、内筒体10の内圧が異常に上昇して、内筒体10の耐圧を超えるのを防止するために設けられている。
【0023】
支持機構50は、内筒体10を外筒体20で弾性的に支持するもので、二重殻式容器が、例えば輸送船やタンカーに搭載される場合やトラックに搭載される場合に生ずる振動や揺動から内筒体10を保護する。支持機構50は、外筒体側固定端52と内筒体側固定端54を有しており、ダンパー56は外筒体側固定端52と内筒体側固定端54の間を弾性的に支持するもので、併せて支持機構50を通した内筒体10と外筒体20との間の熱伝導を抑えるような構造とするのが良い。そこで、ダンパー56は内筒体10と外筒体20との間の直線距離よりも長い部材を折り曲げて、又はコイル状に巻装されて構成されているとよい。外筒体側固定端52と内筒体側固定端54は対となるもので、ここでは内筒体10の底面側と上面側に複数個設けられている。支持機構50は、エアロゲル充填用空間30に設けられるので、内筒体10と外筒体20の間の熱伝導率に対して、影響が少ないように低い熱伝導率の材料を用いるとよい。
【0024】
支持機構50は、外筒体20の底面側に少なくとも3個設けられていれば、外筒体20で内筒体10を浮き支持できる。支持機構50は、外筒体20の側面側に少なくとも1個設けられていれば、二重殻式容器が、例えば輸送船やタンカーに搭載される場合やトラックに搭載される場合に、加減速や水平面内の振動や揺動から内筒体10を保護できるが、これに限定されるものではなく、支持機構50は、外筒体20の前後の側面側や左右の側面側のみでなく、外筒体20の上面側に設けてもよい。
センサ60は、内筒体10の周面のエアロゲル充填用空間30側に設けられるもので、エアロゲル充填用空間30の真空度や温度を測定する。
【0025】
図2は、本発明の二重殻式容器の一実施例を示すエアロゲル断熱タンクの厚み方向の温度分布を説明する断面図である。内筒体10の内側には液体水素40が存在し、液体水素40は-253℃以下である。外筒体20の外側には外気があり、外気の常温は、例えば25℃であるが、外部環境により、例えば極地の-30℃程度から砂漠の昼間のように50℃まで変化する。エアロゲル充填用空間30では、内筒体10と外筒体20の間で、温度分布が-253℃から例えば25℃まで傾斜した温度分布を有する。
【0026】
図3は、本発明の二重殻式容器の各種実施例を示すエアロゲル二重殻断熱タンクの形状の概略図である。二重殻式容器の形状が、球殻(sphere)、楕円体(ellipsoid)、断面直方体(cuboid)状の円筒タンクの場合について、内筒体(Inner layer)と外筒体(Outer layer)の断面形状を表している。内筒体の中央頂部には凸状又はコーン状の突端部が設けられており、この突端部を中心として上傾斜の天井面を有している。この上傾斜の天井面により、充填時に断熱層30にエアロゲル粉末の流動性が高く、十分に充填される。
外筒体の底面中央には凸状又はコーン状の下向き突端部が設けられており、この突端部を中心として下傾斜の底面を有している。この下傾斜の底面により、エアロゲル粉末充填時に断熱層30にエアロゲル粉末の流動性が高く、十分に充填される。
【0027】
表1は二重殻式容器の幾何学的形状の設計指針を説明する表である。
内筒体10や外筒体20の板厚は、二重殻式容器の容器容量と容器材料並びに容器内圧力によって定まるもので、例えば液体水素に関する各国の圧力容器規格や消防法の規制に準拠して定められる。二重殻式容器の容量は、例えば5万m
3以下が好ましく、0.5万m
3以下がさらに好ましく、最適な範囲としては0.15万m
3以下が好ましい。内筒体10の板厚は、例えば2mm以上1000mm以下が好ましく、5mm以上300mm以下がさらに好ましく、最適な範囲としては10mm以上150mm以下が好ましい。外筒体20の板厚は、例えば2mm以上300mm以下が好ましく、3mm以上100mm以下がさらに好ましく、最適な範囲としては5mm以上50mm以下が好ましい。エアロゲル充填用空間30の厚みは、例えば3mm以上1500mm以下が好ましく、10mm以上600mm以下がさらに好ましく、最適な範囲としては30mm以上300mm以下が好ましい。エアロゲル充填用空間30の真空度は、10
-3Pa以上0.1MPa以下が好ましく、0.13Pa以上0.1MPa以下がさらに好ましく、最適な範囲としては133Pa以上0.1MPa以下が好ましい。
【表1】
【0028】
次に、本発明の二重殻式容器に用いられる保冷断熱材について説明する。
保冷断熱材は、内筒体10と外筒体20の間の球殻状、楕円体殻、又は断面直方体の空間に充填されるもので、弱結合超微粒子エアロゲル粉末を含む。ここで、弱結合超微粒子エアロゲル粉末とは、一次粒子の集合体であるクラスターで骨格を構成された三次元網目構造を有するエアロゲルを原料とし、その一次粒子で骨格を構成された三次元網目構造を有する微粒子である。これにより、内筒体10と外筒体20の間の球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間に充填される断熱材が、低コストかつ高性能で実現される。ここでその微粒子は、1.0μm以下に分散の最頻値(ピーク)をもつとよく、特にその総数の50%以上が0.1μm以上1.0μm以下に分散のピークをもつとより好適である。これにより、嵩密度を従来のエアロゲル粉末の数分の1に低減することができるので、内筒体と外筒体の間の空間を充填するために必要なエアロゲルの量を従来の数分の1に抑えることができる。
【0029】
一般に、ゾルゲル法で作成したゲルを超臨界乾燥等することにより、微細な空孔を有する三次元網目構造を持つエアロゲルが作成できることが、よく知られている。金属アルコキシド溶液を加水分解・縮合して生成されたゾルをゲル化して湿潤ゲルを生成し、熟成した後、超臨界乾燥法により溶媒成分を取り除くことによって、エアロゲルが生成される。金属アルコキシド溶液では、一次粒子が溶媒に溶けた状態であり、加水分解と縮合によってこの一次粒子が互いに縮合してコロイドを形成する。これがゲルであり、形成されたコロイドは縮合する前の一次粒子に対して二次粒子と呼ばれる。ゲル化した状態では溶媒成分を含む湿潤ゲルである。湿潤ゲルから超臨界乾燥法等により溶媒成分を取り除くと、二次粒子を単位として構成される三次元網目構造が残る。これがエアロゲルである。このようなエアロゲルは、機械粉砕することにより、概ね数十μm~数mmの粉末にして利用される。
【0030】
本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末は、熟成の進行を従来よりも抑えたエアロゲルを生成し、それを超高速粉砕して生成される。これにより、従来のエアロゲルを機械粉砕した場合の約1000分の1の微粒子粉末となっている。弱結合超微粒子エアロゲル粉末は、PSD測定によって観測したときに、その粒子径が1.0μm以下に分散の最頻値(ピーク)をもつとよく、特にその総数の50%以上が、粒子径について100nm以上1.0μm以下に最頻値をもって分散するような熟成条件及び粉砕条件で超高速に粉砕することによって製作されるとより好適である。本発明者がPSD測定によって観測した弱結合超微粒子エアロゲル粉末の粒子径は、約300nmを最頻値として分布する。詳しくは後述する。
【0031】
本発明の個々の弱結合超微粒子エアロゲルの粉末粒子は、三次元網目構造を持っている。従来のエアロゲル粉末粒子も三次元網目構造を持っているが、本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末は、その骨格を構成する単位が異なる。即ち、特許文献5の第0035段落に「エアロゲル粒子1は、複数の一次粒子から構成される二次粒子の態様を取っていると考えられており」とされるように、従来のエアロゲル粉末粒子の三次元網目構造は、二次粒子を単位として構成されるのに対して、本発明に用いられる超微粒子エアロゲル粉末は、その骨格を構成する単位が一次粒子である点に特徴がある。
【0032】
図4は、一般的なエアロゲル及びそれを粉砕して作られるエアロゲル粉末の構造を模式的に示す説明図で、(A)は一般的なエアロゲル130の構造及びそれを粉砕するときの切断面140を、(B)はその三次元網目構造の骨格を構成する二次粒子120を、(C)は(A)のエアロゲル130を粉砕して作られるエアロゲル粉末150を、それぞれ模式的に示す。
図4(A)に示すように一般的なエアロゲル130では、乾燥される前のゲルに含まれていたコロイドが二次粒子120となって、二次粒子120を骨格の単位とする三次元網目構造130が形成されている。このようにして作成されたエアロゲルでは、三次元網目構造の体積の約10%で骨格が形成され、他の約90%が空孔によって形成されている。その空孔の大きさが空気など空孔を満たす気体の平均自由工程よりも小さいときには、気体分子の衝突による熱伝導がほとんど発生しない。このため、エアロゲルは熱絶縁材料として用いられている。
【0033】
図4(C)には、一般的なエアロゲルを粉砕したときのエアロゲル粉末150の構造が模式的に示されている。
図4(A)に示した一般的なエアロゲルを粉砕するとき、粉砕機による切断面140は、二次粒子120そのものではなく、二次粒子が連結している箇所となる。これは、
図4(B)に示すように、二次粒子は一次粒子が密に凝集しているので結合が強く、二次粒子相互の結合の方がはるかに弱いためであると考えられる。その結果、一般的なエアロゲルを粉砕したときのエアロゲル粉末150は、二次粒子120によって骨格が形成された三次元網目構造をもつこととなる(
図4(C))。
【0034】
図5は、本発明の熟成後のエアロゲル131及びそれを粉砕して作られる弱結合超微粒子エアロゲル粉末151の構造を模式的に示す説明図で、(A)は本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末151を作成する過程で、熟成工程後に生成されるエアロゲル131の三次元網目構造を、(B)は(A)に示したエアロゲルの三次元網目構造の骨格を構成する二次粒子121を、(C)は(A)に示したエアロゲル131を粉砕するときの切断面140を、(D)は本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末151を、それぞれ模式的に示す。
【0035】
本発明では、一般的な工程よりも熟成を抑えてエアロゲルを生成する。このため生成されるエアロゲル131の三次元網目構造は、一次粒子111が従来よりも疎に密集する二次粒子121(
図5(B))を骨格として構成されることとなる(
図5(A))。このような三次元網目構造131(
図5(A))をもつエアロゲルに超高速粉砕を施すと、骨格を構成する二次粒子121相互の結合部分だけではなく、
図5(C)に示されるように二次粒子121そのものにも粉砕機による切断面140が存在して、二次粒子121そのものが粉砕されるものと考えられる。その結果、本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末151は、
図5(D)に示されるように一次粒子111によって骨格が形成された三次元網目構造をもつこととなる。なお、二次粒子121は、
図5(B)に示されるように一次粒子111が疎に凝集して形成されているため、実際の二次粒子121の外縁は不明確となっているが、
図5(C)には理解を助けるために外縁に相当する部分が破線の円で示されている。
〔実施形態1〕
【0036】
以下、本発明に用いられる超微粒子エアロゲル粉末の製造方法の一例を説明する。
図6は、本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末を製造する方法の一例を示す製造プロセス図である。
【0037】
シリカエアロゲルは、主に以下の2ステップにより製造される。ゾルゲル法による湿潤ゲルを形成するステップと、その湿潤ゲルを乾燥するステップである。湿潤ゲルはナノ構造の固体シリカの網目と液体の溶媒からなり、シリカ前駆体分子を加水分解、縮合して製作される。このシリカ前駆体は、TEOS(Tetraethoxysilane)とメタノールを混合することによって製作される(混合工程)。さらにこの混合液に、合計6.3gのシュウ酸(0.01M)が添加され、最後に1.5gの水酸化アンモニウム(NH4OH 0.5M)が加えられ、アルコゾルとなる。このアルコゾルは室温で放置されるとゲル化する(ゲル化工程)。ゲル化に続けて、アルコゲルは60℃のメタノール中でそれぞれ3時間、6時間、12時間の熟成を行った(熟成工程)。熟成工程でメタノールが全部蒸発するのを防止するため、過剰な量のメタノールをゲルに加えるとよい。この過剰な量のメタノールの添加量は、熟成工程でのメタノールの蒸発量や熟成温度と熟成時間を考慮して定めるとよい。
【0038】
表面修飾の逆反応を避けるために、アルコゲルは60℃のヘキサンに10時間浸され、表面を修飾するために、ヘキサンのみの溶媒はヘキサンとTMCS(Trimethylchlorosilane)の混合液に代替された(溶媒置換工程)。ここでヘキサンとTMCSの体積比は一定値である4に保たれた。表面修飾工程において、アルコゲルはヘキサンとTMCSの60℃の混合液に24時間浸された(修飾工程)。アルコゲルの乾燥の前に、試料は60℃の純ヘキサンに6時間浸されて、過剰なTMCSが除去された(洗浄工程)。エアロゲルを作成する最後のステップは乾燥である(乾燥工程)。乾燥工程は、第1から第3のステップと冷却ステップからなる。第1ステップでは40℃で4時間、第2ステップでは80℃で2時間、第3ステップでは120℃で1時間保持されたのち、加熱炉全体とともに冷却された。
【0039】
乾燥工程の後、エアロゲル試料に対して、高速粉砕が施された(粉砕工程)。大阪ケミカル株式会社製ワンダークラッシャーWC-3を用い、
図7に示すように、11200rpm~21000rpmの高速で約5分間のプログラムを3回実施した。
【0040】
なお、ゲル化と熟成を完璧に峻別することは事実上困難であり、ゲル化と同時に微細な粒子の凝集が進行して、熟成と同様な反応が進行することに注意されたい。なお、ここでは熟成を促進するため、アルコゾルの温度を室温から60℃に上昇させているが、微細な粒子が好ましい用途では、アルコゾルの温度を室温に保持したままでもよく、また熟成工程は1秒から1分程度の短い時間であって、ゲル化工程と明確に区別出来ない態様でもよい。
【0041】
図8は、高速粉砕工程の後の粒子サイズの分布を示す分布図である。熟成時間が3時間、6時間、12時間の試料それぞれについて、粒子径をログスケールで横軸に取り、相対粒子量の頻度(左の縦軸)と累積値(右の縦軸)が示されている。比較のために従来の(市販の)エアロゲル粉末のデータを合わせて示す。ここで、粒子径はPSD測定によって観測した。より具体的には
図8は、株式会社島津製作所製レーザー回折式粒子径分布測定装置SALD-2300を用いて測定した結果である。なお、PSD測定では、粒子自体の径だけではなく、粒子の凝集も粒子径として観測されるため、測定値は正方向に偏っている(真の値よりも大きな値が測定される誤差が多い)ことに注意する必要がある。しかし、以下のように、本発明に用いられるエアロゲル超微細粉末の特徴を説明するには、十分な情報が得られている。
【0042】
従来のエアロゲル粉末では、約300μmの粒子径を平均値として相対粒子量は1つのピークのみをもつ。これに対して、本発明のエアロゲル超微細粉末では、熟成時間が3時間、6時間、12時間の試料について、高速粉砕工程の後の相対粒子量の頻度がそれぞれ双峰性のピークを持つ。熟成3時間の試料では、第1ピークは平均0.32μm、標準偏差0.10、第2ピークは平均21.14μm、標準偏差0.14、熟成6時間の試料では、第1ピークは平均0.66μm、標準偏差0.15、第2ピークは平均31.89μm、標準偏差0.40、熟成12時間の試料では、第1ピークは平均0.96μm、標準偏差0.13、第2ピークは平均38.52μm、標準偏差0.21である。
【0043】
このように双峰性のピークに分かれることは、それぞれのピークを構成する粒子に本質的な違いがあることを強く推認させる。仮に本質的な変化がなく、熟成条件によって生成される粒子の径が変化するだけであれば、ピークの位置がそれに伴って変化することがあっても2つのピークが現れることは考えにくいからである。したがって、粒子径の大きい第2ピークを構成する粒子は、従来通り二次粒子を骨格の単位とする三次元網目構造を持つのに対して、粒子径の小さい第1ピークを構成する粒子は、一次粒子を骨格の単位とする三次元網目構造を持つと考えるのが自然である。即ち、
図4及び
図5を参照した上述の説明を裏付ける結果となっている。
【0044】
また、熟成の条件を変化させることによって、高速粉砕された後に生成される粒子の性質、即ち、二次粒子を骨格の構成単位とするか一次粒子を骨格の構成単位とするかを、顕著に変化させること、即ち制御するができることがわかる。粒子径が大きい方の分散の最頻値は10μm以上であり、粒子径が小さい方の分散の最頻値は1μm以下である。熟成時間が6時間と12時間でその後高速粉砕された試料では、相対粒子量の累積値が50%を超えるのが、粒子径が大きい方のピーク側にある。相対粒子量の累積値が50%を超えるのは、熟成時間が6時間でその後高速粉砕された試料では粒子径が約20μm、熟成時間が12時間でその後高速粉砕された試料では粒子径が約40μmであり、いずれも第2ピーク側である。
一方、熟成時間が3時間でその後高速粉砕された試料では、相対粒子量の累積値が50%を超えるのが、粒子径が約0.3μmであって粒子径が小さい方のピーク(第1ピーク)側にある。別の観点から表現すれば、熟成時間が6時間と12時間でその後高速粉砕された試料では、60%~70%の粒子が10μm以上の径をもつ粒子であって、その大きさから二次粒子を骨格の構成単位とする粒子が主であるのに対して、熟成時間が3時間である本実施形態の弱結合超微粒子エアロゲル粉末では、約80%の粒子が0.1μmから1.0μmの範囲の径を持つ粒子、即ち、その大きさから一次粒子を骨格の構成単位とする粒子が主であることがわかる。
【0045】
なお、熟成条件は、上述のように時間を従来よりも短縮する以外に、温度を従来よりも下げることも効果的である。即ち、本発明に用いられる超微粒子エアロゲル粉末を製作するための熟成の条件は、熟成温度が15℃~70℃が好ましく、より好適には20℃~70℃、さらに好適には25℃~60℃、熟成時間が0~24時間が好ましく、より好適には0~12時間、さらに好適には3~12時間である。粉砕パラメータは、粉砕機の回転数が10,000~28,000rpmが好ましく、より好適には10,000~25,000rpm、さらに好適には11,000~22,000rpmであり、粉砕時間が1~120分が好ましく、より好適には3~60分、さらに好適には5~45分である。
【0046】
図9は、本発明の二重殻式容器に用いられるエアロゲル粉末の嵩を説明する画像で、重量5gのエアロゲル粉末を容量200cc又は500ccのビーカーに収容する場合を示している。左から、市販のエアロゲルを粉砕したエアロゲル粉末、熟成時間が12時間、6時間、3時間の超微粒子エアロゲル粉末の試料を示している。超微粒子エアロゲル粉末の試料は、
図8で説明したものである。熟成時間が3時間と短い場合には、弱結合超微粒子エアロゲル粉末の嵩は、市販のエアロゲル粉末の10倍以上に増大する。
【0047】
図10は、本発明の二重殻式容器に用いられるエアロゲル粉末の密度の比較図である。
試作された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の嵩密度は、0.018g/cm
3と測定された。これは市販のエアロゲル粉末の嵩密度0.06g/cm
3~0.20g/cm
3と比較して1/3~1/11である。一方、熱伝導率は23mW/mKと測定され、これは市販のエアロゲル粉末の熱伝導率23mW/mKと同等レベルである。
【0048】
図11は、試作された弱結合超微粒子エアロゲル粉末に振動を加えたときの圧縮特性を示すグラフである。底面積一定の容器に試作された超微粒子エアロゲル粉末を入れて、振動を加えたときのエアロゲル粉末の高さの経時変化を測定したもので、市販のエアロゲル粉末と比較して示す。横軸の振動時間は任意単位である。従来のエアロゲル粉末は、初期の高さの82%で一定値に達したのに対して、試作された弱結合超微粒子エアロゲル粉末は69%で一定値に到達した。この特性を使って、嵩密度が経時変化によって圧縮された飽和点を推定すると、上述の試作された弱結合超微粒子エアロゲル粉末の嵩密度0.018g/cm
3は、振動によって最大0.026g/cm
3に達すると考えられる。一方同様の考え方によれば、市販のエアロゲル粉末の嵩密度0.12g/cm
3は、最大0.13g/cm
3に達する。その違いは若干縮まるものの、なお1:5の比がある。本発明に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末は、従来のエアロゲル粉末と比較して数分の1の嵩密度であり、同じ空間を充填するために必要な量が数分の1に抑えられる。
【0049】
図12は、異なる圧力と温度下での市販のエアロゲルの熱伝導率を説明する図で、図中に示す文献より引用したものである。
市販のエアロゲルの熱伝導率は、圧力の減少と共に減少するもので、常圧である760Torr(0.1MPa)では20mW/mK程度であり、10Torr(1333Pa)では14mW/mK程度であり、1Torr(133Pa)では4mW/mK程度である。
市販のエアロゲルの熱伝導率は、温度の低下と共に減少するもので、常温である25℃で23mW/mK程度であり、液体窒素温度である-196℃で9mW/mK程度である。
【0050】
表2は本発明の二重殻式容器に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末の組成範囲を説明する表である。本発明の二重殻式容器に用いられる弱結合超微粒子エアロゲル粉末としては、粒子径としては0.1~400μmが好ましく、より好適には0.1~50μm、さらに好適には0.1~1μmである。また密度としては、0.003~0.15[g/cm
3]が好ましく、より好適には0.01~0.08[g/cm
3]、さらに好適には0.015~0.03[g/cm
3]である。
【表2】
【0051】
以上説明したように、本発明において、弱結合超微粒子エアロゲル粉末を二重殻式容器における内筒体と外筒体の間の球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間へ充填する断熱材として用いれば、嵩密度が従来のエアロゲル粉末の数分の1であるから、充填に必要される断熱材のコストを大幅に抑えることができる。また超微粒子エアロゲル粉末は疎水性でありため、球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間に残存する水分との間の反応による経年劣化がほとんど発生しないので、定期的に断熱材を交換するような保守コストも大幅に低減される。さらには、超微粒子エアロゲル粉末は非常に微細であるため、内筒体と外筒体の間の球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間に狭窄部分があっても隅々まで充填することができ、二重殻式容器としての熱絶縁性能を高めることに大きく貢献する。
〔実施形態2〕
【0052】
上記実施形態1の二重殻式容器においては、内筒体10と外筒体20の間の球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間に断熱材として充填される弱結合超微粒子エアロゲル粉末に、さらに中空粒子を添加してもよい。これにより、断熱材の熱伝導率を下げることができる。
【0053】
断熱材としてエアロゲルを用いることにより、エアロゲルの空孔の大きさが空気の平均自由行程よりも小さいために、気体分子の衝突によるまたは対流による気体を介した熱伝導が抑えられ、空孔が真空である場合に近い熱絶縁性能が期待される。しかし現実には真空の性能には及ばない。その原因を本発明者が探求した結果、エアロゲル粉体を充填された断熱材には、微細な連通孔が残存しており、その連通孔を通して上述のような熱伝導が生じていることがわかった。そこで本発明者らはエアロゲルに中空粒子を添加してハイブリッド化することにより、熱伝導率を低下させる技術を創作した(特願2020-120921として特許出願済み)。添加した中空粒子が上述のような微細な連通孔を塞いで、僅かに生じていた気体による熱伝導を抑えるため、熱伝導率を低下させることができるのである。
【0054】
また、中空粒子を構成している球殻は機密性が高いので、球殻内に空気よりも熱伝導率の低い気体を封入することにより、断熱材の熱伝導率をさらに下げることができる。
添加する中空粒子は、特に限定されないが、ナノ中空粒子、マイクロ中空粒子、またはその両方とすることができる。ナノ中空粒子は、好ましくは、外径が30nm~360nm、球殻の厚さが7.5nm~65nmの範囲に調製される。外径については常温常圧の空気の平均自由行程の約1/2~約5倍の範囲に相当する。このように、ナノ中空粒子は、中空の大きさが空気の平均自由行程と同じオーダーに調製されているため、エアロゲルに添加された場合には、断熱効果への寄与が大きい。マイクロ中空粒子は、好ましくは、外径が1μm~23μm、球殻の厚さが0.35μm~3μmの範囲に調製される。外径については常温常圧の空気の平均自由行程の15倍よりも大きく、断熱効果への寄与に加えて網目の構造的強度を高める効果がある。エアロゲルには、上述したような微細な連通孔が残存しているが、添加された中空粒子はこの連通孔を塞ぎ、連通孔によって生じていた対流などの気体を介した熱伝導を抑えるため、断熱効果を高める。
【0055】
ナノ中空粒子は、例えば、ソフトテンプレート法によって製造することができる。即ち、エタノール中で高分子電解質の表面をアンモニアで修飾し、シリカ(SiO2)でコーティングすることにより、中核と球殻からなる粒子が生成される。これを洗浄または焼成することによって中核に封じ込められていた媒質を取り除き、中空粒子が生成される。
マイクロ中空粒子の製造には、例えば二重エマルジョン法が好適である。界面活性剤を含む油相と前駆体及び界面活性剤からなる水相のような非混和性液体からなる分散多相システムから、乳化によって油相を連続相とし、水相を中心とする液滴を含むエマルジョンが生成され、これに水相を加えることによって水相の連続相にゲルを中心とする液滴を含むエマルジョンに変わる。これを洗浄/濾過または焼成することによって、マイクロ中空粒子が製造される。
【0056】
本発明に用いられる超微粒子エアロゲル粉末を製造する方法において、中空粒子は、
図6に示される製造プロセス図のゲル化工程の前に、シリカ前駆体として調製(混合工程)されたTEOSとメタノールの混合液に添加されるとよい。また、添加後、混合液を超音波振動によって十分に撹拌し、添加された中空粒子を均一に分散させるとよい。中空粒子の添加量は、ハイブリッド化されたエアロゲル全体に対して、例えば以下の組成となるように調整される。
【0057】
ナノ中空粒子は、好ましくは0.01重量%~30重量%、さらに好ましくは0.10重量%~15重量%、最も好ましくは1.00重量%~10重量%である。またマイクロ中空粒子の場合も同様に、好ましくは0.01重量%~30重量%、さらに好ましくは0.10重量%~15重量%、最も好ましくは1.00重量%~10重量%である。
【0058】
以上のように、二重殻式容器において、内筒体10と外筒体20の間の球殻状、楕円体状又は断面直方体の空間に断熱材として充填される弱結合超微粒子エアロゲル粉末に中空粒子を添加することにより、断熱材の熱伝導率を下げることができる。
【0059】
続いて、本発明の断熱材が使用される液体水素輸送や液体水素貯蔵用の機器について説明する。
図13は、本発明の二重殻式容器が用いられる用途である液体水素輸送の説明図で、船舶搭載用を示している。本発明の二重殻式容器は、船舶搭載用容器として用いるのに適している。
図14は、本発明の二重殻式容器が用いられる用途である液体水素貯蔵の説明図で、球形タンクを示している。本発明の二重殻式容器は、液体水素貯蔵用容器として用いるのに適している。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の二重殻式容器は、液体状態、気体状態、またはそれらが共存する状態の水素を保存することができる。また、本発明の二重殻式容器では、弱結合の超微粒子エアロゲル粉末を使用しているため、LH2貯蔵用の断熱性を所望の値にするためには、より低い真空度が好ましい。
【符号の説明】
【0061】
10 内筒体(インナー)
12 ガラス繊維/炭素繊維被覆層
20 外筒体(ハウジング)
22 ガラス繊維/炭素繊維被覆層
30 エアロゲル充填用空間(真空断熱層)
40 液体水素
41 水素ガス
42 液体水素供給/吸出口
43 水素ガス/液体水素供給口
44 水素ガス吸出口
45、46 エアロゲル充填口
47 エアロゲル充填用空間のガス排出口
48 安全弁
50 支持機構
52 外筒体側固定端
54 内筒体側固定端
56 ダンパー
60 センサ
111 一次粒子
120 二次粒子
121 一次粒子が疎に密集する二次粒子
130 二次粒子を単位とする骨格で形成された三次元網目構造
131 一次粒子が疎に密集する二次粒子を単位とする骨格で形成された三次元網目構造
140 粉砕機による切断面
150 一般的なエアロゲル粉末
151 弱結合超微粒子エアロゲル粉末