IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧 ▶ 二村機器株式会社の特許一覧

特開2022-82377振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法
<>
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図1
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図2
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図3
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図4
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図5
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図6
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図7
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図8
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図9
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図10
  • 特開-振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082377
(43)【公開日】2022-06-01
(54)【発明の名称】振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20220525BHJP
   B23B 25/00 20060101ALI20220525BHJP
   B23B 23/00 20060101ALI20220525BHJP
   F16F 15/18 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
B23Q11/00 A
B23B25/00 Z
B23B23/00 A
F16F15/18 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193888
(22)【出願日】2020-11-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年8月20日に、2020年度精密工学会秋季大会学術講演会のウェブサイト(https://download.gakkai-web.net/jspe/JSPE20A.zip)にて講演論文集が掲載 令和2年9月1日に、2020年度精密工学会秋季大会学術講演会のウェブサイト(http://www.jspe.or.jp/event/jspe_meeting/2020-09autumn/)にて講演発表動画が公開
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】599136991
【氏名又は名称】二村機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】高杉 敬吾
(72)【発明者】
【氏名】中尾 円香
(72)【発明者】
【氏名】二村 忠宏
【テーマコード(参考)】
3C011
3C045
【Fターム(参考)】
3C011AA04
3C045FE01
3C045HA10
(57)【要約】
【課題】ワークの振動を抑制できる振動抑制装置を提供する。
【解決手段】振動抑制装置18は、軸芯に沿って延びるワークWの一端部を把持してワークWを軸芯を中心として回転させる主軸台12と、ワークWの他端部を支持しかつワークWとともに回転する回転センタ24を有する心押台14とを備える旋削装置10に用いられる振動抑制装置であって、導電性を有する導電性部材34と、導電性部材34に作用する磁界を発生させる磁界発生部材36とを備え、導電性部材34は、ワークWとともに磁界発生部材36に対して回転することによって、ワークWの回転に対して、導電性部材34に流れる渦電流に基づいて発生しかつワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台とを備える旋削装置に用いられる振動抑制装置であって、
導電性を有する導電性部材と、
前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材とを備え、
前記導電性部材および前記磁界発生部材の一方は、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する、
振動抑制装置。
【請求項2】
前記導電性部材および前記磁界発生部材は、前記心押台に内蔵される、
請求項1に記載の振動抑制装置。
【請求項3】
前記導電性部材は、前記回転センタに固定されて前記ワークとともに回転する、
請求項1または2に記載の振動抑制装置。
【請求項4】
前記導電性部材は、それぞれが前記ワークの回転軸線を中心とする径方向の外方に突出しかつ前記回転軸線を中心とする周方向に間隔を空けて並ぶ複数の凸部を有し、
前記磁界発生部材は、前記周方向に沿う環状であり、前記径方向において前記複数の凸部の外方に設けられる、
請求項1から3のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項5】
前記周方向において、前記複数の凸部の幅は異なる、
請求項4に記載の振動抑制装置。
【請求項6】
前記周方向において、前記複数の凸部の間隔は異なる、
請求項4または5に記載の振動抑制装置。
【請求項7】
前記磁界発生部材は、前記回転軸線を挟んで対向する1つのN極と1つのS極とを有する環状の磁石である、
請求項4から6のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項8】
前記磁界発生部材は、ハルバッハ配列された複数の磁石を有する、
請求項4から6のいずれか1項に記載の振動抑制装置。
【請求項9】
軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、
前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台と、
導電性を有する導電性部材と、
前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材とを備え、
前記導電性部材および前記磁界発生部材の一方は、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する、
旋削装置。
【請求項10】
軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台とを備える旋削装置に用いられる振動抑制方法であって、
導電性を有する導電性部材および前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材の一方が、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する、
振動抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動抑制装置、旋削装置、および振動抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークを回転させて切削または研磨する旋削装置が知られている。たとえば、特許文献1には、棒状のワークの一端部を把持してワークを回転させる主軸装置と、当該ワークの他端部を支持してワークとともに回転する心押台と、ワークを切削するための工具とを備える工作機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-213658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の工作機械では、回転するワークに工具を当接させると、ワークが振動してしまい、ワークの面性状の低下等に繋がるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ワークの振動を抑制できる振動抑制装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る振動抑制装置は、軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台とを備える旋削装置に用いられる振動抑制装置であって、導電性を有する導電性部材と、前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材とを備え、前記導電性部材および前記磁界発生部材の一方は、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する。
【0007】
本発明の一態様に係る旋削装置は、軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台と、導電性を有する導電性部材と、前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材とを備え、前記導電性部材および前記磁界発生部材の一方は、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する。
【0008】
本発明の一態様に係る振動抑制方法は、軸芯に沿って延びるワークの一端部を把持して前記ワークを前記軸芯を中心として回転させる主軸台と、前記ワークの他端部を支持しかつ前記ワークとともに回転する回転センタを有する心押台とを備える旋削装置に用いられる振動抑制方法であって、導電性を有する導電性部材および前記導電性部材に作用する磁界を発生させる磁界発生部材の一方が、前記ワークとともに他方に対して回転することによって、前記ワークの回転に対して、前記導電性部材に流れる渦電流に基づいて発生しかつ前記ワークの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力を付与する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワークの振動を抑制できる振動抑制装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る旋削装置を示す斜視図である。
図2図2は、図1の旋削装置の心押台を示す断面図である。
図3図3は、渦電流に基づいて発生する制動力を説明するための図である。
図4図4は、図1の旋削装置に用いられている振動抑制装置による振動抑制方法を説明するための図である。
図5図5は、磁界発生装置の他の例を示す図である。
図6図6は、振動抑制装置の他の例を示す図である。
図7図7は、導電性部材の他の例を示す図である。
図8図8は、ハンマリング試験を行った箇所を示す図である。
図9図9は、ハンマリング試験の条件を示す図である。
図10図10は、比較例に係る旋削装置および本発明に係る旋削装置のそれぞれについて、各位置におけるコンプライアンスを示すグラフである。
図11図11は、比較例に係る旋削装置および本発明に係る旋削装置のそれぞれについて、各周波数における振動変位を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ならびに、工程および工程の順序等は、一例であって本発明を限定する主旨ではない。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0013】
また、本明細書および図面において、x軸、y軸およびz軸は、三次元直交座標系の三軸を表しており、x軸およびy軸は、互いに直交し、かつ、いずれもz軸に直交する軸である。
【0014】
また、以下の実施の形態において、平行および直交等の、2つの方向の相対的な姿勢を示す表現が用いられる場合があるが、これらの表現は、厳密にはその姿勢ではない場合も含む。たとえば、2つの方向が直交である、という場合、特に断りのない限り、当該2つの方向が完全に直交であることを意味するだけでなく、実質的に直交であること、すなわち、たとえば数%程度の差異を含むことも意味する。
【0015】
(実施の形態)
図1は、実施の形態に係る旋削装置10を示す斜視図である。図2は、図1の旋削装置10の心押台14を示す断面図である。図2の(a)は、x軸に直交する断面を示し、図2の(b)は、図2の(a)のIIb-IIb線における断面を示す。図1および図2を参照して、旋削装置10の構成について説明する。
【0016】
図1および図2に示すように、旋削装置10は、ワークWを旋削するための装置である。この実施の形態では、旋削装置10は、ワークWを切削するための切削装置である。たとえば、切削装置は、回転するワークWにバイトを接触させることによって、ワークWを加工する旋盤である。旋削装置10は、主軸台12と、心押台14と、ベース15と、切削工具16と、振動抑制装置18とを備えている。
【0017】
主軸台12は、軸芯に沿って延びるワークWの一端部を把持してワークWを当該軸芯を中心として回転させる。つまり、ワークWの軸芯とワークWの回転軸線Oとは一致している。この実施の形態では、ワークWは、棒状である。主軸台12は、ワークWを掴んで把持するチャック20を有しており、チャック20は、主軸台12に含まれている主軸(図示せず)に固定されている。当該主軸がモータ(図示せず)によって回転されることによって、チャック20とともにチャック20に把持されているワークWが回転軸線Oを中心に回転する。
【0018】
心押台14は、ワークWに対して主軸台12とは反対側に設けられており、ワークWの他端部を支持する。たとえば、心押台14は、テールストックである。心押台14は、筐体22と、回転センタ24と、ベアリング26と、シール部材28とを有している。
【0019】
筐体22は、回転センタ24の一部、ベアリング26、シール部材28、および振動抑制装置18を収容している。筐体22は、主軸台12に対して回転軸線O方向に移動可能となるように、ベース15に支持されている。これによって、回転センタ24等は、主軸台12に対して回転軸線O方向に移動可能となる。
【0020】
回転センタ24は、ワークWの他端部を支持しかつワークWとともに回転する。回転センタ24は、ベアリング26によって回転軸線Oを中心に回転可能に支持されている。回転センタ24は、筐体22よりも主軸台12側に突出しており、主軸台12側に向かうにつれて縮径する円錐状の円錐部30を有している。回転センタ24は、円錐部30の頂部32がワークWの他端面の中央に設けられている凹部に嵌め込まれた状態でワークWに押し付けられることによってワークWの他端部を支持し、ワークWが回転するとワークWとともに回転軸線Oを中心に回転する。
【0021】
ベース15は、主軸台12と一体的に設けられており、上述したように、筐体22を回転軸線O方向に移動可能となるように支持している。
【0022】
切削工具16は、回転軸線Oを中心とする径方向の外方から、回転するワークWに接触することによって、ワークWを切削する。なお、以下の説明において、回転軸線Oを中心とする径方向を、単に、径方向ともいう。たとえば、切削工具16は、バイトである。
【0023】
振動抑制装置18は、ワークWの回転に対して、渦電流に基づいて発生しかつワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与し、ワークWの振動を抑制する装置である。このように、振動抑制装置18は、渦電流に基づいて発生する制動力Fを付与する渦電流式のブレーキである。振動抑制装置18は、導電性部材34と、磁界発生部材36とを有している。導電性部材34および磁界発生部材36は、心押台14に内蔵されている。
【0024】
導電性部材34は、導電性を有する部材であり、ワークWとともに磁界発生部材36に対して回転する。導電性部材34は、筐体22内において回転センタ24に固定され、回転センタ24およびワークWとともに回転軸線Oを中心に回転する。たとえば、導電性部材34は、金属等によって形成されている。導電性部材34は、本体38と、複数(この実施の形態では、4つ)の凸部40とを有している。
【0025】
本体38は、回転軸線Oを中心とする周方向に沿う円筒状であり、本体38の内方には、回転センタ24が挿通されている。なお、以下の説明において、回転軸線Oを中心とする周方向を、単に、周方向ともいう。本体38は、回転センタ24の外周面に固定されている。たとえば、本体38は、本体38の内方に回転センタ24が圧入されることによって、回転センタ24に固定されている。
【0026】
複数の凸部40のぞれぞれは、本体38の外周面から径方向の外方に突出している。複数の凸部40は、周方向に等間隔で並んでおり、周方向における複数の凸部40の幅は、等しい。複数の凸部40のそれぞれは、磁界発生部材36の内周面43と間隔を空けて対向する外周面42を有している。複数の凸部40のそれぞれの外周面42は、磁界発生部材36の内周面43に沿って湾曲している。複数の凸部40のそれぞれの周方向の両端面は、回転軸線Oに向かって傾斜している。導電性部材34において、凸部40が設けられている部分の径方向の厚みは、凸部40が設けられていない部分の径方向の厚みよりも大きい。
【0027】
磁界発生部材36は、導電性部材34に作用する磁界を発生させる。磁界発生部材36は、周方向に沿う環状であり、径方向において複数の凸部40の外側に設けられている。つまり、磁界発生部材36は、径方向において導電性部材34と対向している。磁界発生部材36は、筐体22に固定されており、ワークWとともに回転しない。
【0028】
磁界発生部材36は、回転軸線Oに直交する方向に磁界を発生させる。磁界発生部材36は、回転軸線Oを挟んで対抗する1つのN極と1つのS極とを有する環状の磁石である。N極およびS極のそれぞれは、周方向に沿う半円弧状である。周方向におけるN極の一端とS極との境界44と、周方向におけるN極の他端とS極との境界46とは、回転軸線Oを挟んで対向している。つまり、境界44と境界46とは、周方向に180°ずれた位置に設けられている。このような磁界発生部材36によって、境界44と境界46との間に、境界46から境界44に向かう磁界が発生する、つまり、回転軸線Oに直交する方向に磁界が発生する。言い換えると、磁界発生部材36は、周方向のうち、回転軸線Oと境界44との間において回転軸線O側から境界44側に向かう磁界を発生させるとともに、回転軸線Oと境界46との間において境界46側から回転軸線O側に向かう磁界を発生させる。このように、磁界発生部材36は、周方向の一部において径方向に磁界を発生させる。
【0029】
以上、旋削装置10の構成について説明した。
【0030】
図3は、渦電流に基づいて発生する制動力を説明するための図である。図3を参照して、渦電流に基づいて発生する制動力について説明する。
【0031】
図3に示すように、たとえば、固定された磁石1の近傍で金属製の円筒2を回転させた場合、円筒2のある領域を貫く磁束が時間変化すると、電磁誘導効果によって円筒2の外面には誘導起電力が発生する。誘導起電力の方向は、右手の法則によって決定され、流れる電流は、磁石1を挟んで逆向きの2つの渦を描き、これらを渦電流と呼ぶ。渦電流は、右ねじの法則によって円筒2の外面に磁束を発生させる。磁石1による磁束と、当該磁束よりも回転方向の前方側の渦電流による磁束とは、引き合う。一方、磁石1による磁束と、当該磁束よりも回転方向の後方側の渦電流による磁束とは、反発する。これによって、結果として、円筒2には、回転を妨げる方向の制動力が発生する。
【0032】
以上、渦電流に基づいて発生する制動力について説明した。
【0033】
図4は、図1の旋削装置10に用いられている振動抑制装置18による振動抑制方法を説明するための図である。図4を参照して、振動抑制装置18による振動抑制方法について説明する。
【0034】
図4に示すように、導電性部材34は、ワークWとともに磁界発生部材36に対して回転することによって導電性部材34に渦電流を発生させ、ワークWの回転に対して、ワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与する。
【0035】
上述したように、導電性部材34のうち、凸部40が設けられている部分の径方向の厚みは、凸部40が設けられていない部分の径方向の厚みよりも大きい。したがって、回転軸線Oと境界44との間または回転軸線Oと境界46との間を、導電性部材34のうち、凸部40が設けられている部分が通過するときに発生する制動力Fは、凸部40が設けられていない部分が通過するときに発生する制動力よりも大きい。
【0036】
図4の(a)に示すように、導電性部材34のうち凸部40が設けられている部分が、回転軸線Oと境界44との間または回転軸線Oと境界46との間を通過するとき、制動力Fが発生する。一方、図4の(b)に示すように、導電性部材34のうち凸部40が設けられている部分が、回転軸線Oと境界44との間および回転軸線Oと境界46との間を通過しないとき、制動力Fは発生しない。
【0037】
導電性部材34がワークWとともに磁界発生部材36に対して回転することによって、導電性部材34のうち凸部40が設けられている部分が回転軸線Oと境界44との間または回転軸線Oと境界46との間を断続的に通過するので、制動力Fが断続的に発生し、ワークWの回転に対して制動力Fが断続的に付与される。
【0038】
また、ワークWが1回転する間に、導電性部材34のうち凸部40が設けられている部分が回転軸線Oと境界44との間または回転軸線Oと境界46との間を複数回通過するので、ワークWの回転の周期よりも短い間隔で制動力Fが発生し、ワークWの回転に対してワークWの回転の周期よりも短い間隔で制動力Fが付与される。
【0039】
このように、ワークWの回転に対して、ワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与することによって、ワークWのびびり振動を抑制できる。
【0040】
以上、振動抑制装置18による振動抑制方法について説明した。
【0041】
実施の形態に係る振動抑制装置18は、軸芯に沿って延びるワークWの一端部を把持してワークWを軸芯を中心として回転させる主軸台12と、ワークWの他端部を支持しかつワークWとともに回転する回転センタ24を有する心押台14とを備える旋削装置10に用いられる振動抑制装置18であって、導電性を有する導電性部材34と、導電性部材34に作用する磁界を発生させる磁界発生部材36とを備え、導電性部材34は、ワークWとともに磁界発生部材36に対して回転することによって、ワークWの回転に対して、導電性部材34に流れる渦電流に基づいて発生しかつワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与する。
【0042】
これによれば、ワークWの回転に対して、導電性部材34に流れる渦電流に基づいて発生しかつワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを付与することによって、回転するワークWの振動が大きくなっていくことを抑制でき、ワークWの振動を抑制できる。
【0043】
また、実施の形態に係る振動抑制装置18において、導電性部材34および磁界発生部材36は、心押台14に内蔵される。
【0044】
これによれば、振動抑制装置18を設けることによって旋削装置10が大きくなることを抑制できる。たとえば、既存の心押台に元々内蔵されて回転センタを支持していたベアリングに代えて、振動抑制装置18を設けることによって、既存の旋削装置が大きくなることを抑制できる。
【0045】
また、実施の形態に係る振動抑制装置18において、導電性部材34は、回転センタ24に固定されてワークWとともに回転する。
【0046】
これによれば、導電性部材34がワークWを支持する回転センタ24に固定されることによって、ワークWの回転に対して、渦電流による制動力Fを容易に付与することができ、ワークWの振動を容易に抑制できる。
【0047】
また、実施の形態に係る振動抑制装置18において、導電性部材34は、それぞれが径方向の外方に突出しかつ周方向に間隔を空けて並ぶ複数の凸部40を有し、磁界発生部材36は、周方向に沿う環状であり、径方向において複数の凸部40の外方に設けられる。
【0048】
これによれば、複数の凸部40のそれぞれは、径方向の外方に突出しているので、導電性部材34のうち、凸部40が設けられている部分の径方向の厚みと、凸部40が設けられていない部分の径方向の厚みとを、異ならせることができる。これによって、磁界発生部材36によって形成されている磁界を、導電性部材34のうち、凸部40が設けられている部分が通過するときに発生する制動力Fと、凸部40が設けられていない部分が通過するときに発生する制動力とを容易に異ならせることができる。また、複数の凸部40は、周方向に並んでいるので、制動力FをワークWの回転の周期よりも短い時間間隔で容易に発生させることができる。これによって、ワークWの回転に対して、ワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを容易に付与することができ、ワークWの振動を容易に抑制できる。
【0049】
また、実施の形態に係る振動抑制装置18において、磁界発生部材36は、回転軸線Oを挟んで対向する1つのN極と1つのS極とを有する環状の磁石である。
【0050】
これによれば、N極とS極との境界44および境界46の間に境界46から境界44に向かう磁界を発生させることができる。つまり、周方向において、回転軸線Oと境界44との間において径方向に磁界を発生させ、回転軸線Oと境界46との間において径方向に磁界を発生させることができる。これによって、導電性部材34のうち凸部40が設けられている部分が、回転軸線Oと境界44との間または回転軸線Oと境界46との間を通過する度に制動力Fを容易に発生させることができるので、ワークWの回転に対して、ワークWの回転の周期よりも短い間隔で発生する制動力Fを容易に付与することができ、ワークWの振動を容易に抑制できる。
【0051】
図5は、磁界発生部材の他の例を示す図である。図5を参照して、磁界発生部材の他の例について説明する。
【0052】
図5に示すように、磁界発生部材36aは、複数の電磁鋼板が積層されて構成されている積層体50と、ハルバッハ配列された複数の磁石52とを有している。複数の磁石52は、回転軸線Oに直交する方向に磁界が発生するように磁化方向が定められ、ハルバッハ配列されて積層体50に埋め込まれている。具体的には、複数の磁石52は、回転軸線Oに直交する軸線Pを中心として軸線P方向の磁界が発生するように、ハルバッハ配列されて積層体50に埋め込まれている。つまり、磁界発生部材36aは、周方向のうち軸線P付近において軸線P方向の磁界を発生させる。磁界発生部材36に代えて磁界発生部材36aを用いることによって、磁界発生部材36を用いた場合と同様に、ワークWの回転に対して制動力Fを付与することができる。
【0053】
以上、磁界発生部材36aについて説明した。
【0054】
磁界発生部材36aは、ハルバッハ配列された複数の磁石52を有する。
【0055】
これによれば、導電性部材34に作用する磁界を所定の方向に容易に発生させることができるので、ワークWの振動を容易に抑制できる。
【0056】
図6は、振動抑制装置の他の例を示す図である。図6を参照して、振動抑制装置の他の例について説明する。
【0057】
図6に示すように、振動抑制装置18aの導電性部材34aは、複数の凸部40に代えて、複数の凸部40a,40b,40c,40dを有している点において、振動抑制装置18と主に異なっている。
【0058】
周方向において、複数の凸部40a~40dの幅は異なっている。具体的には、周方向において、凸部40aの幅は、凸部40cの幅と等しく、凸部40bの幅および凸部40dの幅よりも大きい。周方向において、凸部40bの幅は、凸部40dの幅と等しい。
【0059】
また、周方向において、複数の凸部40a~40dの間隔は異なっている。具体的には、周方向において、凸部40aの一端部から凸部40bの一端部までの間隔は、凸部40cの一端部から凸部40dの一端部までの間隔と等しく、凸部40bの一端部から凸部40cの一端部までの間隔および凸部40dの一端部から凸部40aの一端部までの間隔よりも大きい。周方向において、凸部40bの一端部から凸部40cの一端部までの間隔は、凸部40dの一端部から凸部40aの一端部までの間隔と等しい。つまり、回転軸線Oと凸部40aの周方向の一端部とを繋ぐ直線および回転軸線Oと凸部40bの周方向の一端部とを繋ぐ直線がなす角度、ならびに、回転軸線Oと凸部40cの周方向の一端部とを繋ぐ直線および回転軸線Oと凸部40dの周方向の一端部とを繋ぐ直線がなす角度を、A[°]とし、回転軸線Oと凸部40bの周方向の一端部とを繋ぐ直線および回転軸線Oと凸部40cの周方向の一端部とを繋ぐ直線がなす角度、ならびに、回転軸線Oと凸部40dの周方向の一端部とを繋ぐ直線および回転軸線Oと凸部40aの周方向の一端部とを繋ぐ直線がなす角度を、B[°]としたとき、A[°]はB[°]よりも大きい。
【0060】
凸部40aおよび凸部40cは、回転軸線Oを挟んで対象であり、凸部40bおよび凸部40dは、回転軸線Oを挟んで対象である。
【0061】
以上、振動抑制装置18aについて説明した。
【0062】
振動抑制装置18aにおいて、周方向において、凸部40aおよび40cの幅と凸部40bおよび40dの幅とは、異なる。
【0063】
これによれば、制動力Fが発生する期間を異ならせることができるので、ワークWの振動をさらに抑制できる。
【0064】
また、振動抑制装置18aにおいて、周方向において、凸部40aおよび凸部40bの間隔ならびに凸部40cおよび凸部40dの間隔と、凸部40bおよび凸部40cの間隔ならびに凸部40dおよび凸部40aの間隔とは、異なる。
【0065】
これによれば、制動力Fが発生する時間間隔を異ならせることができるので、ワークWの振動をさらに抑制できる。
【0066】
図7は、導電性部材の他の例を示す図である。図7を参照して、導電性部材の他の例について説明する。
【0067】
図7に示すように、導電性部材34bは、複数の凸部40e,40f,40g,40hを有している。
【0068】
ここで、不等ピッチ工具を用いることによる再生効果の抑制について説明する。たとえば、2枚刃の工具を用いる場合、前の刃の振動が再生効果により再生する成分である再生効果成分と、現在の刃の振動成分である切削成分に分解して考えると、2枚の刃の各再生効果成分が互いに打ち消し合う位相差πであれば、再生効果が打ち消されてびびり振動が抑制される。この原理から、1枚目の刃に対する2枚目の刃の位相遅れと、2枚目の刃に対する1枚目の刃の位相遅れとの差が、次の式を満たす場合、再生効果が消去される。
【0069】
【数1】
【0070】
n[min-1]は工具の回転数であり、θ[°]およびθ[°]は各ピッチ角度であり、f[Hz]はびびり振動周波数である。
【0071】
4枚刃工具の場合、θ=θとし、θ=θとし、θ+θ=πとすると、次の式によって、再生効果の抑制に最適なピッチ角度を求めることができる。
【0072】
【数2】
【0073】
たとえば、加速度センサ等によってびびり振動周波数を測定するだけで、再生効果の抑制に最も最適なピッチ角度を求めることができる。
【0074】
たとえば、主軸の回転数を3000[rpm]とし、びびり振動周波数を720[Hz]とし、m=0とすると、図7に示すように、θ=85[°]となり、θ=95[°]となる。ここでは、複数の凸部40e~40hのうちの隣り合う凸部の間の凹んだ部分のピッチ角度を、30[°]としたので、凸部40eのピッチ角度および凸部40gのピッチ角度は、65[°]となり、凸部40fのピッチ角度および凸部40hのピッチ角度は、55[°]となる。
【0075】
以上、導電性部材34bについて説明した。
【0076】
このようにして、導電性部材34bは、主軸の回転数が3000[rpm]であり、びびり振動周波数が720[Hz]であり、m=0である場合に、再生効果を最も抑制できるように形成されているので、この場合、ワークWの振動をさらに抑制できる。
【0077】
図8は、ハンマリング試験を行った箇所を示す図である。図9は、ハンマリング試験の条件を示す図である。図10は、比較例に係る旋削装置および本発明に係る旋削装置のそれぞれについて、各位置におけるコンプライアンスを示すグラフである。図11は、比較例に係る旋削装置および本発明に係る旋削装置のそれぞれについて、各周波数における振動変位を示すグラフである。図8から図11を参照して、実験結果について説明する。
【0078】
図8に示すように、チャック、ワーク、および回転センタにおける7箇所(図8のドット部分参照)においてハンマリング試験を行った。なお、本発明に係る旋削装置においては、元々回転センタを支持していた複数のベアリングのうちの1つのベアリングの代わりに、本発明に係る振動抑制装置(導電性部材と磁界発生部材)を設けて、ハンマリング試験を行った。つまり、本発明に係る旋削装置は、回転センタを支持していた複数のベアリングのうちの1つのベアリングの代わりに振動抑制装置(導電性部材と磁界発生部材)を設けている点において、比較例に係る旋削装置と主に異なっている。
【0079】
図9の(a)に示すように、直径15[mm]かつ長さ300[mm]の円柱状であるSUS製のワークを用いた。また、図9の(b)に示すように、主軸回転速度を4760[mm]とし、周速度を224[m/min]とし、送り速度を0.2[mm/rev]とし、テールストック推力を3.0[kN]として実験を行った。
【0080】
図10に示すように、比較例に係る旋削装置では1次モード678[Hz]が支配的であり、本発明に係る旋削装置では2次モード648[Hz]が支配的であり、支配的なモードにおいて、比較例に係る旋削装置および本発明に係る旋削装置はともに、ワークの中心部分で振動するモード形状である。本発明に係る旋削装置のコンプライアンスは、比較例に係る旋削装置のコンプライアンスよりも大きい傾向にあることがわかる。図10のグラフにおける距離350[mm]付近は、回転センタが設けられている付近であり、この付近における、本発明に係る旋削装置のコンプライアンスは、比較例に係る旋削装置のコンプライアンスよりも大きい。つまり、ベアリングに代えて振動抑制装置を設けたことによって、本発明に係る旋削装置の回転センタ付近の剛性が低下していると考えられる。
【0081】
図11の(a)に示すように、本発明に係る旋削装置で切り込み量を0.1[mm]として切削を行った場合、比較例に係る旋削装置で切り込み量を0.1[mm]として切削を行った場合よりも、ピーク値において振動変位が87.0[%]減少した。また、図11の(b)に示すように、本発明に係る旋削装置で切り込み量を0.2[mm]として切削を行った場合、比較例に係る旋削装置で切り込み量を0.2[mm]として切削を行った場合よりも、ピーク値において振動変位が75.4[%]減少した。上述したように、本発明に係る旋削装置の剛性が比較例に係る旋削装置の剛性よりも低下したにもかかわらず、びびり振動変位を大幅に減少させることができた。これは、剛性の低下によるびびり易さの影響よりも、振動抑制装置の制動力による振動抑制効果が上回ったためであると考えられる。
【0082】
(他の実施の形態等)
以上、本発明に係る振動抑制装置および旋削装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではない。実施の形態に対して当業者が思いつく変形を施して得られる形態、および、複数の実施の形態における構成要素を任意に組み合わせて実現される別の形態も本発明に含まれる。
【0083】
上述した実施の形態では、旋削装置10が、切削装置である場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、旋削装置は、研磨装置であってもよい。たとえば、研磨装置は、回転するワークに微細な砥粒を接触させることによって、ワークを加工する装置である。
【0084】
また、上述した実施の形態では、導電性部材34および磁界発生部材36が、心押台14に内蔵されている場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、導電性部材および磁界発生部材は、主軸台に内蔵されていてもよい。この場合、たとえば、導電性部材および磁界発生部材の一方は、主軸台に含まれる主軸等に固定されてワークとともに回転してもよい。
【0085】
また、上述した実施の形態では、導電性部材34が、筐体22内において回転センタ24に固定される場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、導電性部材は、筐体外において回転センタに固定されてもよい。この場合、磁界発生部材も、筐体外に設けられてもよい。また、たとえば、導電性部材は、回転センタ以外のワークとともに回転する部材に固定されてもよい。
【0086】
また、上述した実施の形態では、導電性部材34が、ワークWとともに磁界発生部材36に対して回転する場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、導電性部材は、ワークWとともに回転せず、磁界発生部材が、ワークWとともに導電性部材に対して回転してもよい。
【0087】
また、上述した実施の形態では、磁界発生部材36が、径方向において導電性部材34と対向している場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、磁界発生部材は、回転軸線方向において導電性部材と対向していてもよい。
【0088】
また、上述した実施の形態では、磁界発生部材36が、1つのN極と1つのS極とを有している場合について説明したが、これに限定されない。たとえば、磁界発生部材は、複数のN極と複数のS極とを有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る旋削装置は、ワークを回転させてワークを研削または研磨する装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
10 旋削装置
12 主軸台
14 心押台
15 ベース
16 切削工具
18,18a,18b 振動抑制装置
20 チャック
22 筐体
24 回転センタ
26 ベアリング
28 シール部材
30 円錐部
32 頂部
34,34a,34b 導電性部材
36,36a 磁界発生部材
38 本体
40,40a,40b,40c,40d,40e,40f,40g,40h 凸部
42 外周面
43 内周面
44、46 境界
50 積層体
52 磁石
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11