(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082477
(43)【公開日】2022-06-02
(54)【発明の名称】クルクミン含有口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/35 20060101AFI20220526BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20220526BHJP
A61K 8/39 20060101ALI20220526BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20220526BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
A61K8/35
A61K8/34
A61K8/39
A61K8/86
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020193922
(22)【出願日】2020-11-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和2年1月1日にヘルスビジネスマガジン社発行、調剤薬局ジャーナル、2020年1月号(通巻第40号)、9Pにおいて公開 令和2年2月25日に https://www.saraya.com/news/2020_1/115017.htmlにおいて公開 令和2年3月2日にサラヤ株式会社、東京サラヤ株式会社にて販売
(71)【出願人】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】瀬古雄亮
(72)【発明者】
【氏名】雲井拓磨
(72)【発明者】
【氏名】濱名実咲
(72)【発明者】
【氏名】松村玲子
(72)【発明者】
【氏名】山本将司
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AC431
4C083AD041
4C083BB55
4C083EE32
4C083EE33
4C083EE34
(57)【要約】
【課題】クルクミンは、水に対する溶解性や光安定性が極めて悪く、さらに着色性が高い特徴がある。そのため、口腔衛生剤に配合した際に効果や品質を担保することが困難であった。本発明では上記課題を解決した口腔用組成物に関する。
【解決手段】本発明者は、以上のような点に鑑み、クルクミンの溶解性、組成物の分離安定性や光安定性に優れ、さらに対象物への着色が抑制された口腔衛生組成物の提供を目的として鋭意研究を行った結果、クルクミンおよびHLBが14以上の乳化剤と2価アルコールを配合し、平均粒子径が100nm以下であり、水/2価アルコールが2以上100以下である口腔用組成物が上記の課題を解決することを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クルクミンを0.00001~0.003質量%、(B)2価アルコール1~30質量%、(C)HLBが14以上の乳化剤0.5%~5.0質量%を含有し、光に対する安定性が91%以上であり、かつ対象物へのクルクミン由来の着色率が99%以下である口腔用乳化組成物。
光に対する安定性は1000Lxsの光を3時間照射した後の乳化組成物中のクルクミン残存率であり、対象物への着色率はクルクミン試薬を50%エタノールに溶解したものを標準溶液とし、歯ブラシ(GUM#211ふつう)を乳化組成物および標準溶液に1時間浸漬させた後流水ですすぎ、エタノール10mLを入れた遠沈管にすすいだ歯ブラシを30分間浸漬させて歯ブラシに着色したクルクミン溶液を抽出し、標準溶液と乳化組成物の抽出溶液の吸光度(425nm)を比較した値である。
【請求項2】
前記(C)乳化剤がポリグリセリン脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1記載の口腔用乳化組成物。
【請求項3】
乳化組成物の平均粒子径が3nm~100nmである請求項1~2記載の口腔用乳化組成物。
【請求項4】
水/2価アルコール(重量比)が2以上100以下の請求項1~3記載の口腔用乳化組成物。
【請求項5】
請求項1~4の口腔用乳化組成物を含む口腔用製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クルクミンの溶解性、組成物の分離安定性や光安定性に優れ、さらにクルクミンによる対象物への着色を抑制することができる口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクミン((1E,6E)-1,7-bis(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-1,6-heptadiene-3,5-dione、C21H20O6:分子量約368.4g/mol)は植物ウコンの根茎に含まれる黄色のポリフェノール化合物であり、カレー等のスパイスや染料だけでなく、抗炎症作用や抗腫瘍作用および抗酸化作用を期待する健康食品素材としても広く利用されている。さらに近年、口腔内細菌に対する増殖抑制効果も報告されており、口腔衛生剤への利用が期待されている(非特許文献1)。
【0003】
しかし、クルクミンは水への溶解度および光に対する安定性が極めて悪く、さらに歯ブラシなどの対象物を着色してしまうという課題があり、口腔衛生剤に配合することは困難であった。これらの課題を解決する手段として、以下に示す方法が提案されている。
【0004】
クルクミンは油溶性成分であるため水への溶解度の低さから口腔衛生剤に配合した場合の含有量は少なく、経時的に沈殿物として析出して容器底部に固着し、商品価値を大きく損ねてしまっていた。この課題を解決するために、HLBが9以上の乳化剤、油性物質、多価アルコールを配合することで水に容易に分散または可溶化させる技術が示されている(特許文献1)。さらにHLB14以上のポリグリセリンラウリン酸エステルを用いる可溶化方法が示されており、この方法を用いることで透明に可溶化することができた(特許文献2)。しかし、これらの公報においては乳化剤と多価アルコールが分散や可溶化に利用し得るという可能性が示されているにすぎず、光に対する安定性や対象物への着色の改善については検討されていなかった。
【0005】
また、クルクミンを配合した製剤を店頭等の光照射下で保管すると急速に分解や退色が起こり、使用時には製剤中のクルクミン濃度が減少しているという課題があった。この課題を解決するために、製品を遮光ボトル等で保存することが考えられるが、容器の材質によっては完全に遮光することができないため、製剤自体の光安定性を高めることが望まれる。この課題を解決するために、一定の粒子径に粉砕したクルクミン粒子を乳化剤等で分散状態にする方法がある(特許文献3)。しかしながら、、乳化剤のHLBが低い場合には、目視で溶解しているように見えても光安定性が低下するという問題がある(比較例1)。
【0006】
さらに、クルクミンを配合した口腔衛生剤を使用すると、歯ブラシや洗面台のシンクにクルクミン由来の着色が発生し、対象物の外観を大きく損なわせてしまうという課題があった。使用上の審美性は使用者の継続使用の意欲に大きく関係するため、可能な限り軽減させる必要がある。この課題を解決させる方法として、カテキン類の着色に対して、一定量のポリリン酸又はその塩を含有してキレート効果を有する有機酸を特定のpHで配合することにより、防止できることが示されている(特許文献4)。しかし、カテキン類は親水性の成分であり、クルクミンのような油溶性成分で実施する際には、可溶化の工程が必要となる。さらに、ポリリン酸塩などの縮合リン酸塩には渋味や苦味などがあり、マスキングが必要となってしまうため、口腔衛生剤への適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-208555号
【特許文献2】特許第3935346号
【特許文献3】特許第5094466号
【特許文献4】特許第5572346号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Izui et al. (2016). Antibacterial Activity of Curcumin Against Periodontopathic Bacteria. J Periodontol, 87 (1): 83-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、クルクミンの溶解性、組成物の分離安定性や光安定性に優れ、さらに対象物への着色を抑制できる口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、以上のような点に鑑み、クルクミンの溶解性、組成物の分離安定性や光安定性に優れ、さらに対象物への着色が抑制された口腔衛生組成物の提供を目的として鋭意研究を行った結果、クルクミンおよびHLBが14以上の乳化剤と2価アルコールを配合し、平均粒子径が100nm以下であり、水と2価アルコールの重量比(水/2価アルコール)が2以上100以下である口腔用組成物が上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、組成物中へのクルクミンの溶解性に優れ、かつ作製直後の透明な外観を維持する安定性の高い組成物を提供することができる。
【0012】
さらに、本発明の口腔用組成物はクルクミンの光照射による分解および対象物への着色を抑制し、より使用者にクルクミンの効果や品質を担保した口腔衛生剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明につきさらに詳細に説明する。本発明は、(A)クルクミン、(B)2価アルコール、(C)HLBが14以上のポリグリセリン脂肪酸エステルまたはPOE硬化ヒマシ油からなる口腔用組成物ものであり、(D)平均粒子径が100nm以下であり、(E)水/2価アルコールが2以上100未満である。
【実施例0014】
本発明で用いる(A)成分のクルクミンは、クルクミン単体からなる試薬だけでなく、クルクミンを含む植物の溶媒抽出物や粉末としても配合することができる。植物は特に限定されないが、ウコンの根茎を用いることができ、クルクミンの含有量が規定量であれば春ウコンや秋ウコンなどのウコンの種類は特に制限されない。ウコンの根茎を溶媒で抽出した抽出物や微細に粉砕したウコン粉末等、様々な形態で配合することができる。なおこれらは公知のものを使用することができ、市販品を使用してもよく、例えば、クルクミン単体としては富士フィルム和光純薬株式会社製のクルクミン試薬、ウコン根の溶媒抽出物としては日油株式会社製のウコンエキスBG、ウコン粉末として伊藤漢方製薬株式会社製の秋ウコン粉末100%という名称で入手することができる。
【0015】
上記クルクミンの配合量は、クルクミンとして純分換算で組成物全体の0.00001~0.003%(質量%、以下同様)が好ましく、0.00003~0.001%がより好ましい。0.00001%未満では、クルクミンの口腔内細菌に対する効果が劣る場合があり、0.003%を超えるとクルクミンの着色を抑制できないことがある。
【0016】
(B)成分である2価アルコールは、2個のヒドロキシ基が相異なる2個の炭素原子に結合している脂肪族あるいは脂環式化合物の総称であり、湿潤剤あるいは基剤として配合されるもので、歯磨剤組成物に使用されるものであれば特に限定されない。このような2価アルコールとしては市販品を使用でき、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。これらは単独でまたは2つ以上を混合して用いることができる。
【0017】
上記2価アルコールの配合量は、組成物全体の1~30%が好ましく、5~20%がより好ましい。2価アルコールの配合量が1%未満だとクルクミンの溶解性が十分ではないため、クルクミンの効果が発揮されにくい。30%を超えると使用中における口腔内のべたつきや組成物の苦みが強くなるため好ましくない。
【0018】
本発明における口腔用組成物は、水/2価アルコールが2以上100以下で調整することが重要である。水/2価アルコールが2未満では、2価アルコールの割合が多くなり、クルクミンの光安定性が悪くなる(比較例11、12)。100を超えるとクルクミンの溶解性が十分ではなく効果が発揮されにくい(比較例13)
【0019】
(C)成分である乳化剤は油溶性成分の可溶化剤として配合されるもので、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を1種類または2種類含むことが好ましい。乳化剤の親水性、親油性の度合いはHLB(Hydrophile Lipophile Balance)で表されるが、本発明の口腔用組成物を得るためにはHLBが14以上であることが必要である。HLBが14未満であると透明なクルクミン可溶化組成物が得られないだけでなく、クルクミンの光安定性や対象物への着色抑制が十分でない(比較例1~5)。
【0020】
光安定性については、特許5094466号において可溶化剤等で溶解すると、光安定性が極端に悪くなることが示されている。このような技術背景のもとでは、クルクミンを乳化剤で溶解させて光安定性が向上することは全く予想することができなかったものである。さらに、乳化剤だけでなく、組成物中の水と2価アルコールの割合によって変化することも全く予想ができなかったものである(比較例11、12)。
【0021】
HLBの求め方は特に限定されるものではなく、既存の種々の手法が利用できる。例えばエステル型の乳化剤の場合、けん価と構成脂肪酸の酸価から次式によって算出することができる。
【0022】
HLB=20×(1-S/A)
S:けん価、A:構成脂肪酸の酸価
また、親水基としてポリオキシエチレン鎖だけをもつものは次式で算出できる。
HLB=E/5
E:ポリオキシエチレン基の重量分率
これらの算術的な方法のほか、実験的にHLBを求めることもできる。すなわちHLB既知の乳化剤と未知の乳化剤を組み合わせて、HLB既知の油脂と水を乳化し、もっとも乳化状態が良い混合比のものを選定して、次式より算定できる。
【0023】
{(Wu×HLBu)+(Wa×HLBa)}/(Wu+Wa)=HLBo
Wu:HLB未知の乳化剤の重量分率
Wa:HLB既知の乳化剤の重量分率
HLBu:HLB既知の乳化剤のHLB(求める乳化剤のHLB)
HLBa:HLB既知の乳化剤のHLB
HLBo:油脂の所要HLB
【0024】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは平均重合度10のポリグリセリンと以下に示す脂肪酸の中から1つ選択した脂肪酸とのエステルからなるグリセリン脂肪酸エステルである。脂肪酸はラウリン酸、ミリスチン酸が挙げられる。
【0025】
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油は酸化エチレンの平均付加モル数が40~80モルが好ましく、40~60モルのものがより好ましい。
【0026】
これらの乳化剤の配合量は0.5~5%が好ましく、0.5~3%がより好ましい。乳化剤の配合量が0.5%未満の場合では、クルクミンの溶解性や対象物への着色抑制が十分でなく、5%を超えるとブラッシング時の泡立ちが高くなりすすぎにくくなるため口腔用として好ましくない。
【0027】
本発明における口腔用組成物は、レーザー光散乱法による平均粒子径が100nm以下になるように調製することが重要である。これより大きくなると、調製直後の外観が半透明または白濁するだけでなく、光安定性が悪化してしまう(比較例2~5)。
【0028】
本発明の口腔用組成物の残部は水で調整される。本発明で使用される水は、本発明の効果を損なわないようなものであればよく、好ましくは精製水、蒸留水、イオン交換水、及びRO水を挙げることができる。
【0029】
本発明のクルクミン配合口腔用組成物としては、例えば、練歯磨剤、液体歯磨剤、ジェル歯磨き等の歯磨剤類および洗口液、口中清涼剤、口腔用塗布剤、または食品などを挙げることができる。本発明の口腔用組成物では、本発明の効果を著しく阻害しない限り、口腔用組成物における通常成分を適宜配合することができる。このような通常成分としては研磨剤、粘結剤、保湿剤、界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、保存安定製剤、pH調整剤、薬用成分等が挙げられる。
【0030】
収容容器の材質は特に制限されず、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなど、通常の歯磨剤および洗口液等に使用される容器を選択できる。収容容器の形状についても特に制限されず、例えば、チューブ、ボトル、パック、ポーション等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明の特徴及び効果を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例によって限定されるものではない。なお、以下の例において%は記載のない限りいずれも質量%である。
実施例1~7より本発明の口腔用組成物はHLBが14以上の乳化剤を0.5%以上配合することでクルクミンの溶解性、分離安定性、光安定性、対象物への着色抑制に優れることが分かった。一方、HLBが14未満の比較例1~5ではこれらを改善することはできず、△および×判定が多くなった。
実施例2より本発明の口腔用組成物はクルクミン、乳化剤、2価アルコールで構成することでクルクミンの溶解性、分離安定性、光安定性、対象物への着色抑制に優れることが分かった。一方、乳化剤を配合しない比較例8では、クルクミンが溶解しても安定ではなく、翌日には沈殿し分離安定性が×となった。2価アルコールであるプロピレングリコールを配合しない比較例9ではクルクミンの溶解性が×となった。実施例2および比較例10より、2価アルコールを3価アルコールに変更すると溶解性が悪化した。
実施例2および6~8より水と2価アルコールを特定の割合で配合することによりクルクミンの溶解性、分離安定性、光安定性、対象物への着色抑制に優れることが分かった。一方、2価アルコールの配合量が多いまたは少ない比較例11~13では、光安定性や溶解性が悪化し、△または×になった。
以上の結果から、本発明のクルクミン配合口腔用組成物はクルクミンの溶解率が高く、組成物が分離せず安定であり、光照射後においても高いクルクミン残存率を示し、光に対しても安定である。さらには対象物への着色率が低く、クルクミン由来の着色を抑制することができる。