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  • 特開-キノコ栽培用培地添加剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008263
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】キノコ栽培用培地添加剤
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/20 20180101AFI20220105BHJP
【FI】
A01G18/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021105782
(22)【出願日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2020109643
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】714004734
【氏名又は名称】テーブルマーク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 久則
【テーマコード(参考)】
2B011
【Fターム(参考)】
2B011AA01
2B011AA03
2B011AA07
2B011BA06
2B011BA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、キノコ栽培用培地添加剤に関する。
【解決手段】本発明のキノコ栽培用培地添加剤は、酵母細胞を含み、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母細胞を含む、キノコ栽培用培地添加剤であって、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる、キノコ栽培用培地添加剤。
【請求項2】
オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量を増加させる、請求項1に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項3】
グアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量を増加させる、請求項1に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項4】
(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる、請求項1-3のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項5】
前記少なくとも1つの成分の含量を、添加剤を添加しない場合と比較して120%以上に増加させる、請求項1-4のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項6】
さらに、キノコの旨味を増加させる、請求項1-5のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項7】
酵母細胞が、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞である、請求項1-6のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項8】
キノコが、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される、請求項1-7のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項9】
キノコが、ブナシメジ又はエノキタケである、請求項1-7のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項10】
さらに、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の要件を満たす、請求項1-9のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
【請求項11】
キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる方法であって、
酵母細胞をキノコ栽培用培地に添加することを含む、前記方法。
【請求項12】
オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量を増加させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
グアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量を増加させる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる、請求項11-13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの成分の含量を、添加剤を添加しない場合と比較して120%以上に増加させる、請求項11-14のいずれか1項に方法。
【請求項16】
さらに、キノコの旨味を増加させる、請求項11-15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
酵母細胞が、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞である、請求項11-16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
キノコが、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される、請求項11-17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
キノコが、ブナシメジ又はエノキタケである、請求項11-18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
さらに、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の効果を奏する、請求項11-19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
さらに、子実体生育時に柄長栽培を行うことを含む、請求項11-20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
オルニチン及び/又はアルギニンの含量を増加させる、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培用培地添加剤、並びに、キノコの成分を増加させる方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)キノコ
キノコ(茸)は、特定の菌類のうち、比較的大型の子実体あるいは担子菌そのものをいう俗称である。日本では約300種類以上が食用にされ、そのうち数十種が人為的に栽培されている。シイタケ、エノキタケ、シメジ類(ブナシメジ、ホンシメジ、ハタケシメジ等)、ヒラタケ、ヒメマツタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、ナメコなどは、非常に良く食べられており、栽培も行われている食用キノコである。
【0003】
キノコの効能については、抗菌、抗ウイルス、コレステロール低下、血糖降下、血圧降下、抗血栓、リンパ球幼若化抑制、抗腫瘍などが報告されている。
キノコは、水分、タンパク質、繊維質、無機質、ビタミン類などを主要成分として含む。微量成分としては、アミノ酸、核酸、有機酸、糖、β-グルカン等を含み、これらの微量成分もキノコの効能、味などに大きな影響を与えている。
【0004】
オルニチンは、アミノ酸の一種で、有害なアンモニアを尿素に変換する尿素回路(「オルニチン回路」とも呼称される)を構成する物質の1つで、アルギニンの分解によって生成する(図1)。オルニチンはタンパク質を構成するアミノ酸ではないが、遊離アミノ酸として、生体内で重要な役割を担っており、機能性食品として知られている。オルニチンを摂取することにより、尿素回路が活性化され、アンモニアの解毒が亢進することがこれまでに報告されている。さらに、肝性脳症改善、成長ホルモン分泌促進、免疫賦活、疲労軽減、肝性脳症改善、成長ホルモン分泌促進、免疫賦活、疲労軽減、などの多くの生理作用がある事がこれまでに報告されているなどの多くの生理作用がある事がこれまでに報告されている。
【0005】
オルニチンは食品中にはシジミ、キハダマグロ、チーズ、ヒラメ、だだちゃ豆などの他に、ブナシメジ等のシメジ類にも多く含まれていることが知られている。さらに、オルニチンを含むサプリメントを始めとした健康機能性食品としての利用も進んでいる。
【0006】
特開2014-100112(特許文献1)は、オルニチンを含有する食品組成物を製造する方法として、乾燥麦焼酎粕を配合した菌床培地において食用担子菌を培養し、産生された遊離型アルギニンを含む子実体又は菌床を採取し、乳酸菌を播種して培養することを含む方法を開示している。当該文献に記載の方法においては、乾燥麦焼酎粕の使用より、培養された食用担子菌には遊離型アルギニンが大量に蓄積している。これを乳酸菌培養に供することによって、遊離型アルギニンがオルニチンに変換される。特許文献1の方法では、オルニチンを増加させるのに乳酸菌培養が必須であった。
【0007】
キノコのアミノ酸、核酸などの成分、特に、オルニチンなどの特に栄養価の高い成分をより選択的に増加させる方法については、本願発明前は知られていなかった。
(2)酵母
酵母菌体には、たんぱく質をはじめビタミン、ミネラル、核酸、グルタチオン、食物繊維など各種の栄養学的に重要な成分が含まれる。そのため、酵母菌体より抽出されたエキスや栄養成分は調味料等に用いられる。酵母エキスを抽出した後の酵母細胞も様々な栄養成分が豊富であり、その利用の検討を行う必要がある。
【0008】
酵母細胞は、栄養成分が多く含まれることから栄養補助食品などとして使われることが多い。キノコに対しても培養原料として用いられることが知られている。例えば、特開平5-284852(特許文献2)には、酵母エキス抽出後酵母を栽培培地に利用することにより、培養日数が短くなり、菌糸体濃度を増加させることができることが記載されている。また、特開2014-121288(特許文献3)は、酵母残渣を培地として担子菌を培養又は発酵させることにより得られることを特徴とする、呈味食品について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-100112
【特許文献2】特開平5-284852
【特許文献3】特開2014-121288
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】特許庁「平成17年標準技術集 キノコの栽培方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、キノコのアミノ酸、核酸、ポリアミンなどの成分、特に、オルニチンなどの特に栄養価の高い成分をより選択的に増加させる方法を見出すために鋭意研究に努めた結果、酵母細胞をキノコの栽培用培地に添加すると、キノコの特定のアミノ酸、核酸、ポリアミン等の成分を増加することを見出し、本発明を想到した。
【0012】
本発明は、キノコ栽培用培地添加剤を提供する。
本発明はまた、キノコの特定の成分を増加させる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
限定されるわけではないが、本発明は以下の態様を含む
[態様1]
酵母細胞を含む、キノコ栽培用培地添加剤であって、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる、キノコ栽培用培地添加剤。
[態様2]
オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量を増加させる、態様1に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様3]
グアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量を増加させる、態様1に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様4]
(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる、態様1-3のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様5]
前記少なくとも1つの成分の含量を、添加剤を添加しない場合と比較して120%以上に増加させる、態様1-4のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様6]
さらに、キノコの旨味を増加させる、態様1-5のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様7]
酵母細胞が、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞である、態様1-6のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様8]
キノコが、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される、態様1-7のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様9]
キノコが、ブナシメジ又はエノキタケである、態様1-7のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様10]
さらに、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の要件を満たす、態様1-9のいずれか1項に記載のキノコ栽培用培地添加剤。
[態様11]
キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる方法であって、
酵母細胞をキノコ栽培用培地に添加することを含む、前記方法。
[態様12]
オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量を増加させる、態様11に記載の方法。
[態様13]
グアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量を増加させる、態様11に記載の方法。
[態様14]
(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる、態様11-13のいずれか1項に記載の方法。
[態様15]
前記少なくとも1つの成分の含量を、添加剤を添加しない場合と比較して120%以上に増加させる、態様11-14のいずれか1項に方法。
[態様16]
さらに、キノコの旨味を増加させる、態様11-15のいずれか1項に記載の方法。
[態様17]
酵母細胞が、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞である、態様11-16のいずれか1項に記載の方法。
[態様18]
キノコが、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される、態様11-17のいずれか1項に記載の方法。
[態様19]
キノコが、ブナシメジ又はエノキタケである、態様11-18のいずれか1項に記載の方法。
[態様20]
さらに、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の効果を奏する、態様11-19のいずれか1項に記載の方法。
[態様21]
さらに、子実体生育時に柄長栽培を行うことを含む、態様11-20のいずれか1項に記載の方法。
[態様22]
オルニチン及び/又はアルギニンの含量を増加させる、態様21に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキノコ栽培用培地添加剤の使用により、キノコの特定の成分、具体的には以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる、という効果を得ることができる。
【0015】
本発明のキノコ栽培用培地添加剤の使用により、乳酸菌培養等の追加培養工程を必要とせず、栄養価の高い特定の成分をより選択的に増加させることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は尿素回路(オルニチン回路)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.キノコ栽培用培地添加剤
本発明は一態様において、キノコ栽培用培地添加剤に関する。前記キノコ栽培用培地添加剤は、酵母細胞を含み、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる。
【0018】
本発明は、酵母細胞をキノコ栽培用培地に添加するとキノコのアミノ酸、核酸、ポリアミン等の成分の含量が増加する、という発見に基づく。
添加剤に含まれる酵母細胞の種類は特に限定されない。一態様において(即ち、非限定的に)、酵母細胞としては、トルラ酵母、パン酵母、ビール酵母、清酒酵母等の細胞が挙げられる。一態様として、トルラ酵母及びパン酵母が含まれる、トルラ酵母(学名:Candida utilis)は、システインペプチド(グルタチオン)が多く、タンパク質資源としての家畜用飼料や、加工食品の添加物として用いられる。パン酵母(学名:Saccharomyces cerevisiae(サッカロミセス・セレビジエ)は、主に、パンの製造に使用される酵母として広く知られている。
【0019】
また、酵母細胞は、圧搾酵母、乾燥酵母、活性乾燥酵母、死滅酵母、殺菌乾燥酵母等の種々の形態であってもよい。
一態様において、酵母細胞は、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された残留した酵母細胞であってもよい。「内容成分が菌体外に放出された」とは、酵母細胞の内容成分が菌体外に放出され、内容成分の一部が残留した状態の状態を意味する。「熱処理」は、非限定的に、例えば、約40℃~約100℃で、30分~20時間程度処理することをいう。一態様において、熱処理はアルカリ条件下で行う。「酵素処理」は、一態様において、例えば、プロテアーゼ処理を意味する。熱処理及び/又は酵素処理により、タンパク質含量及び/又は細胞壁含量が高くなった酵母細胞を使用してもよい。「内容成分」とは、酵母菌体から各種処理により漏洩してくる成分のことである。主成分としてアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含み、「調味料」、「微生物培養の培地」、「家畜飼料」、「健康補助食品」、「肥料」などに用いられる。一態様において、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞を乾燥させたものを使用してもよい。
【0020】
一態様において、酵母細胞は熱処理/又は酵素処理を行わないものを使用してもよい。熱処理/又は酵素処理を行わない酵母細胞を乾燥させたものを使用してもよい。
酵母細胞は、1種類のみを使用してもよく、あるいは2種類以上を混合した混合物を使用してもよい。
【0021】
上記キノコ栽培用培地添加剤を用いた場合のキノコ栽培用培地中の酵母細胞の濃度は特に限定されない。非限定的に、キノコ栽培用培地中の酵母細胞の濃度は、0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上、0.7重量%以上、0.8重量%以上、0.9重量%以上、1.0重量%以上、1.1重量%以上、1.2重量%以上、1.3重量%以上、1.4重量%以上、1.5重量%以上、1.6重量%以上、1.7重量%以上、1.8重量%以上、1.9重量%以上であってよい。一態様において、キノコ栽培用培地中の酵母細胞の濃度は、0.5重量%以上、0.8重量%以上、1.0重量%以上、1.5重量%である。非限定的に、キノコ栽培用培地中の酵母細胞の濃度は、10.0重量%以下、8.0重量%以下、6.0重量%以下、5.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1.5重量%以下、1.2重量%以下、1.1重量%以下であってよい。一態様において、キノコ栽培用培地中の酵母細胞の濃度は、0.3重量%~2.0重量%、0.5重量%~2.0重量%、1.0重量%~2.0重量%、1.0重量%~1.5重量%である。
【0022】
上記キノコ栽培用培地添加剤を提供しうるキノコの種類は特に限定されない。好ましくは食用キノコである。非限定的に、キノコは、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される。一態様において、キノコは、ブナシメジ又はエノキタケである。
【0023】
「キノコ栽培用培地」は、特に限定されない。当業者はキノコの種類に応じて適切なものを適宜使用可能である。非限定的に、培地基材、任意の成分を含むことが好ましい。
培地基材としては、オガクズ、おがこ、チップ、チップダスト、コーンコブミール(トウモロコシの穂軸粉砕物)が挙げられる。
【0024】
任意の成分としては、栄養剤、添加剤及び他の成分を含むことができる。栄養剤、添加剤及び他の成分は、本発明の効果を達成できる範囲で、従来公知のものを自由に組み合わせて用いることが可能である。栄養剤、添加剤としては、例えば、米糠、コーンコブ、コーンブラン、グレインソルガム、トウモロコシの茎、ワタミガラ、マメカワ、フスマ、キトサン、オカラ、マイロ、ビートパルプ、ビタミン、ミネラル、タンパク質(大豆粕、大豆ミール、コーングルテンフィード、ポテトプロテイン、綿実粕、ナタネ粕、ラッカセイ粕、トウフ粕、酒粕、ビール粕、乾燥ビール酵母等)、糖分、タカラクリーン(タカラバイオ株式会社)、キノコライム(丸栄株式会社製)等が挙げられる。栄養剤及び添加剤は、市販品を用いてもよいし、公知の方法により製造してもよい。
【0025】
他の成分としては、例えば、稲わら、麦わら、とうもろこしの雌花穂の中軸、ふすま、もみがら、枯草類を破砕、粉砕した有機質材、もしくは珪藻土、白土、火山灰質土等の無機質材、山土、松林の土などの松茸の培養に適した土壌に所要量の白土、腐葉土を混合したもの、消石灰、貝化石、窒素源、ビタミン、ミネラル、糖分等が挙げられる。
【0026】
例えば、ブナシメジの栽培用培地としては、本明細書の実施例に記載したYKB培地、YK2培地(組成 コーンコブミール、コメヌカ、粉ビート、ワタミガラ、フスマ、乾燥オカラ、貝化石)等が使用可能である。エノキタケの栽培用培地としては、本明細書の実施例に記載したYK3培地等が使用可能である。
【0027】
キノコの培養方法も、キノコの種類に応じて適宜公知の方法を適用可能である。非限定的に、例えば、ブナシメジ、エノキタケ、シイタケ、ナメコ、ヒラタケ、マイタケ、ヤナギマツタケ、ハタケシメジ、エリンギ、ナラタケ、ヌメリスギタケ、ウスヒラケ、ヤマブシタケ、ホンシメジは下記のような栽培工程が知られている。
【0028】
ブナシメジの栽培工程
[栽培工程]
培地殺菌→種菌接種→培養→菌回り(菌糸が培地全体に行きわたった状態)→培養(栽培期間)→菌掻き(子実体形成させるための刺激)→子実体生育→収穫
エノキタケの栽培工程
[栽培工程]
培地殺菌→種菌接種→培養(栽培期間)→菌掻き(子実体形成させるための刺激)→芽出し→抑制→子実体生育→収穫
ナメコの栽培工程
[栽培工程]
培地殺菌→種菌接種→培養(栽培期間)→菌掻き(子実体形成させるための刺激)→芽出し→子実体生育→収穫
上記栽培工程のうち、少なくとも「培養(栽培期間)」の工程に使用する栽培用培地に、上記キノコ栽培用培地添加剤を添加する。
【0029】
その他、キノコの栽培工程について、特許庁「平成17年標準技術集 キノコの栽培方法」(国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1249443)の文献に記載されている。
【0030】
上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量が、添加剤を使用しない場合と比較して増加する。上記キノコ栽培用培地添加剤は、上記キノコの成分を(使用しない場合と比較して)増加させる効果を奏する。好ましくは、上記キノコの各成分は、添加剤を使用しない場合と比較して101%以上、102%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、180%以上、200%以上に増加する。
【0031】
上記キノコ栽培用培地添加剤の使用によるキノコの各成分の増加割合は、使用するキノコの種類、酵母細胞の種類によって変動しうる。
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤は、添加剤を含む培地を用いて栽培されたキノコにおいて、(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤は、添加剤を含む培地を用いて栽培されたキノコにおいて、(1)-(5)の物質のうち、3以上のグループの成分、4以上のグループの成分、あるいは、全てのグループの成分の含量を増加させる。
【0032】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上のアミノ酸成分が増加する。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、(1)に記載の全てのアミノ酸成分が増加する。
【0033】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、2以上の核酸成分が増加する。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコはグアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量が増加する。
【0034】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量が増加する。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインからなる群から選択される成分の2以上の含量が増加する。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインからなる群から選択される成分が全て増加する。
【0035】
オルニチンは尿素回路においてアルギニンから生成される遊離アミノ酸である。好ましくは、オルニチンの含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上に増加する。
【0036】
アルギニンの含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上に増加する。
【0037】
ピログルタミン酸は、グルタミン酸のカルボキシル基とアミノ基が分子内縮合反応を起こして、ラクタムを形成したアミノ酸である。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、ピログルタミン酸の含量が増加する。好ましくは、ピログルタミン酸含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、180%以上、200%以上に増加する。
【0038】
好ましくは、グルタミン酸含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、102%以上、104%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上に増加する。
【0039】
好ましくは、アスパラギン酸含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、103%以上、105%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、180%以上、190%以上に増加する。
【0040】
好ましくは、アラニン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上に増加する。
【0041】
好ましくは、チロシン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上、118%以上、120%以上、125%以上、130%以上に増加する。
【0042】
好ましくは、リシン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、118%以上、120%以上、125%以上、130%以上、140%以上、150%以上、170%以上に増加する。
【0043】
好ましくは、グルタミン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、170%以上、200%以上、250%以上に増加する。
【0044】
好ましくは、シトルリン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、120%以上、125%以上、130%以上、135%以上、140%以上に増加する。
【0045】
好ましくは、S-アデノシルメチオニン(SAM)は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、120%以上、125%以上、130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上、160%以上に増加する。
【0046】
好ましくは、ヒドロキシプロリンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上、118%以上に増加する。
【0047】
好ましくは、β―アラニンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上、118%以上に増加する。
【0048】
エルゴチオネインは、希少なアミノ酸誘導体の一種で、強力な抗酸化作用のある物質である。好ましくは、エルゴチオネインは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上、118%以上、120%以上に増加する。
【0049】
γ―アミノ酪酸(GABA)は、主に抑制性の神経伝達物質として機能するアミノ酸の一種である。好ましくは、GABAは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、108%以上、110%以上、112%以上、115%以上、118%以上、120%以上に増加する。
【0050】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、グアニル酸(GMP)の含量を増加させる。好ましくは、GMP含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、180%以上、200%以上、250%以上に増加する。グアニル酸は、キノコの旨味に関与する核酸として知られている。
【0051】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、アデニル酸(AMP)の含量を増加させる。好ましくは、AMP含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、118%以上、120%以上、130%以上、140%以上、160%以上、180%以上、200%以上に増加する。
【0052】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、ウリジル酸(UMP)の含量を増加させる。好ましくは、UMP含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、115%以上、118%以上、120%以上、130%以上、140%以上に増加する。
【0053】
一態様において、キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、グアニル酸(GMP)とアデニル酸(AMP)の双方の含量を増加させる。
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤は、添加剤を含む培地を用いて栽培されたキノコにおいて、キノコの旨味を増加しうる。「キノコの旨味を増加させる」とは、上記キノコ栽培用培地添加剤を使用しない場合と比較して、キノコの旨味をより強く感じる、ことを意味する。非限定的に、例えば、本明細書の実施例のように官能試験を行った場合、添加剤を添加しない対照を標準(0)として±4段階(計9段階)評価した場合、評価が好ましくは0.05以上、0.1以上、0.2以上であることを意味する。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、キノコの旨味成分の1種である、グルタミン酸の含量が増加する。好ましくは、グルタミン酸含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上に増加する。
【0054】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤は、添加剤を含む培地を用いて栽培されたキノコにおいて、ポリアミンの含量を増加しうる。「ポリアミン」は、第一級アミノ基が3つ以上結合した直鎖脂肪族炭化水素の総称で、第一級アミノ基が2つのみ結合したジアミンを含める場合もある。ウイルスからヒトまであらゆる生体中に含まれ、細胞分裂やタンパク質合成などの活動に関与している成長因子である。ヒト生体の場合、20種類以上のポリアミンが含まれていると考えられているが、主なものに、プトレスシン(putrescine、PUT)、スペルミジン(spermidine、SPD)及びスペルミン(spermine、SPM)が含まれる。上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコにおいて増加するポリアミンは、非限定的に、スペルミジン、スペルミン及び/又はプトレスシンを含む。一態様において、ポリアミン含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、140%以上に増加する。
【0055】
好ましくは、スペルミジンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、120%以上、125%以上、130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上に増加する。
【0056】
好ましくは、スペルミンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、170%以上、180%以上、200%以上、250%以上、300%以上に増加する。
【0057】
好ましくは、プトレスシンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、120%以上、125%以上、130%以上に増加する。
好ましくは、スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンのうち2以上のポリアミン、又は全てのポリアミンの双方が増加する。
【0058】
好ましくは、コリンは、添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、103%以上、105%以上、108%以上、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上に増加する。
【0059】
好ましくは、トリゴネリンは、添加剤を使用しない場合と比較して、101%以上、105%以上、110%以上、120%以上、125%以上、130%以上、135%以上、140%以上、145%以上、150%以上に増加する。
【0060】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、キノコ中のタンパク質の含量が増加する。一態様において、タンパク質含量は添加剤を使用しない場合と比較して、102%以上、105%以上、110%以上、115%以上、120%以上に増加する。
【0061】
一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤を含む培地において栽培されたキノコは、収量は実質的に変化しない。非限定的に、「実質的に変化しない」とはキノコの収量の変化(増減)が、添加剤を使用しない場合と比較して、10%以内、9%以内、8%以内であることを意味する。
【0062】
上記キノコ栽培用培地添加剤は、キノコの特定のアミノ酸及び/核酸の含量を増加させる、ことに加えて、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の要件を満たすものであってもよい。一態様において、上記キノコ栽培用培地添加剤は上記(i)-(ii)のうち2以上の要件を満たす。
【0063】
2.キノコ成分を増加させる方法
本発明はまた、一態様において、キノコ成分を増加させる方法に関する。本発明の方法は、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる方法であって、
酵母細胞をキノコ栽培用培地に添加することを含む。
【0064】
一態様において、上記方法は、(1)-(5)の物質のうち、2以上のグループの成分の含量を増加させる。一態様において、上記方法は、(1)-(5)の物質のうち、3以上のグループの成分、4以上のグループの成分、あるいは、全てのグループの成分の含量を増加させる。
【0065】
一態様において、上記方法は、前記少なくとも1つの成分の含量を、添加剤を添加しない場合と比較して120%以上に増加させる。
一態様において、上記方法は、キノコにおいて、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上のアミノ酸成分を増加させる。一態様において、上記方法は、(1)に記載の全てのアミノ酸成分を増加させる。
【0066】
一態様において(即ち、非限定的に)、上記方法は、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインの含量を増加させる。一態様において、上記方法は、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインからなる群から選択される成分の2以上の含量を増加させる。一態様において、上記方法は、オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン及び/又はエルゴチオネインからなる群から選択される成分の全てを増加させる。
【0067】
一態様において、上記方法は、グアニル酸(GMP)及び/又はアデニル酸(AMP)の含量を増加させる。
一態様において、さらに、キノコの旨味を増加しうる。
【0068】
一態様において、酵母細胞は、酵母菌体を熱処理及び/又は酵素処理することにより、内容成分が菌体外に放出された酵母細胞である。
一態様において、キノコは、ブナシメジ、エノキタケ、ホンシメジ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ヒメマツタケ、シイタケ、マッシュルーム、ポルチーニ、ホンシメジ、エリンギ、マツタケ、トリュフ、ナメコ、タモギタケ及びバカマツタケからなる食用キノコから選択される。一態様において、キノコは、ブナシメジ又はエノキタケである。
【0069】
一態様において、上記方法において、酵母細胞の使用によりキノコの収量は実質的に変化しない。
一態様において、上記方法において、酵母細胞の使用によりキノコ中のタンパク質の含量が増加する。
【0070】
「酵母細胞」、「栽培用培地」、「栽培工程」、「キノコ」、各成分等の増加割合などに関する定義、説明は、特に明記しない限り、「1.キノコ栽培用培地添加剤」に記載した通りである。
【0071】
上記方法は、酵母細胞の添加によりキノコの特定のアミノ酸及び/核酸の含量を増加させる、ことに加えて、以下の;
(i)キノコの旨味を増加させる;
(ii)キノコ中のポリアミンの含量を増加させる;
(iii)キノコ中のタンパク質の含量を増加させる;及び
(iv)キノコの収量は増加させない;
からなる群から選択される1つまたはそれ以上の効果を奏してもよい。一態様において、上記方法は、上記(i)-(ii)のうち2以上の効果を奏する。
【0072】
本発明のキノコ成分を増加させる方法は、さらに、子実体生育時に柄長栽培を行うことを含んでもよい。
「柄長栽培」は、植物の生育時に柄となる部分を紙で巻き、柄が長く成長するようにさせる方法である。キノコの場合、子実の生育時の期間中又はその期間の一部において、子実体を紙で巻き、子実体の横への広がりを防止し、柄が長く成長するようにさせる。エノキタケの栽培では一般に柄長栽培が行われている。本発明においてはブナシメジの栽培において、傘部と柄部の遊離アミノ酸含量を比較したところ、オルニチン回路(図1)に関与するオルニチン、アルギニン、アスパラギン酸などのアミノ酸含量が柄部に多いことを発見し、それらのアミノ酸含量を増やすためには柄部を長く成長させることが検討したものである。本発明において、ブナシメジにおいても柄長栽培を行い、得られるキノコ中の成分に対する効果を調べた。
【0073】
子実体生育時に柄長栽培を行うことは、酵母細胞の添加と組み合わせた場合に、特に種々のキノコの成分を増加させる。特に、オルニチン、アルギニンの含量は、酵母細胞を添加せず、柄長栽培をしない場合と比較して増加する。好ましくは、オルニチンの含量は、酵母細胞を添加せず、柄長栽培をしない場合と比較して、110%以上、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上に増加する。好ましくは、アルギニンの含量は、添加剤を使用しない場合と比較して、115%以上、120%以上、130%以上、150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上に増加する。
【0074】
本発明はまた、酵母細胞の、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる方法への使用、に関する。
【0075】
本発明はまた、キノコの以下の成分:
(1)オルニチン、アルギニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、チロシン、リシン、ピログルタミン酸、グルタミン、シトルリン、S-アデノシルメチオニン、ヒドロキシプロリン、γ―アミノ酪酸及びエルゴチオネインからなる群から選択されるアミノ酸;
(2)グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)及びウリジル酸(UMP)からなる群から選択される核酸;
(3)スペルミジン、スペルミン及びプトレスシンからなる群から選択されるポリアミン;
(4)コリン;並びに/あるいは
(5)トリゴネリン
の少なくとも1つの成分の含量を増加させる方法へ使用されるための、酵母細胞、に関する。
【実施例0076】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
材料及び方法
本明細書の実施例において、特に明記しない限り以下の材料および方法を用いた。
(1)酵母細胞の製造方法
本明細書において、特に明記しない限り、酵母細胞は以下のように製造したものを用いた。
【0078】
DYP:パン酵母を、タンパク質含量が高くなるよう処理し乾燥させた、酵母細胞(商品名:DYP-SY-02、富士食品工業)
TFD:トルラ酵母を、細胞壁含量が高くなるよう処理し乾燥させた酵母細胞
FD:パン酵母を、細胞壁含量が高くなるよう処理し乾燥させた酵母細胞(商品名:Yeast Powder FD、富士食品工業)
BY:パン酵母を、熱処理/又は酵素処理を行わずに乾燥させた酵母細胞
(2)ブナシメジの栽培
[供試品種] 「長野農工研NN12」 1品種
[栽培容器] 容量:850ml 口径:58mm PPビン・キャップ
[栽培工程]
培地殺菌→種菌接種→培養→菌回り(菌糸が培地全体に行きわたった状態)→培養(栽培期間)→菌掻き(子実体形成させるための刺激)→子実体生育→収穫
[栽培期間及び検体数]
【0079】
【表1-1】
【0080】
(3)エノキタケの栽培
[供試品種] 「シナノアーリー」、「長野農工研iQ2」、「TR19」 3品種
各品種の特徴
【0081】
【表1-2】
【0082】
[栽培容器] 容量:850ml 口径:58mm PPビン・キャップ
[栽培工程]
培地殺菌→種菌接種→培養(栽培期間)→菌掻き(子実体形成させるための刺激)→芽出し→抑制→子実体生育→収穫
子実体生育期間中、紙巻(柄長栽培)を行った。本明細書の実施例において、エノキタケの栽培の場合、特に明記しない限り柄長栽培を行った。
【0083】
[栽培期間及び検体数]
【0084】
【表1-3】
【0085】
実施例1 ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加効果(1回目)
本実施例では、ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析及び官能評価を行った(1回目)。
【0086】
1-1.ブナシメジの栽培
ブナシメジの栽培培地として用いたYKB-1培地の組成は表2-1の通りである。
【0087】
【表2-1】
【0088】
おが粉:木材を鋸(大鋸(おが))で挽いたとき、刀で引きちぎられてできる木粉
コーンコブ:トウモロコシの芯を粉砕したもの
ワタミガラ(綿実殻):綿実を破砕し、核を取り出した後の殻と短繊維の混合物
マメカワ:大豆等の豆類の皮。破砕物、粉状物を含む。
【0089】
YKB-1培地に表2-2に示す濃度で酵母細胞DYP又はFDを添加した。
【0090】
【表2-2】
【0091】
「タカラクリーン」(タカラバイオ株式会社製社製)は、ブナシメジ用活性剤である。
本実施例では栽培期間(種菌摂取から菌掻きまで)は83日であった。菌回り日数、生育日数および株の揃い・収量、並びに、その他の子実体特性を表2-3~表2-5に記載した。
【0092】
【表2-3】
【0093】
【表2-4】
【0094】
収量は対照とほぼ同等であった。
【0095】
【表2-5】
【0096】
1-2.成分分析
<供試験体>
YKB-1培地に、表2-2に示した、対照(酵母細胞添加なし)、DYP2.5g、DYP5g、FD2.5g、FD5gを各々添加した培地で栽培したブナシメジ
<分析項目と分析法>
【0097】
【表2-6】
【0098】
<前処理>
1)栄養分析とβ―グルカン
ブナシメジ株の可食部(根元から約1cm程度)をカットし、さらに包丁で細断(微細切り)し分析用サンプルとした。
【0099】
2)β―グルカン以外の成分分析
(1)ブナシメジ株の可食部(根元から約1cm程度)をカットし、さらに包丁で細断(微細切り)する。
【0100】
(2)(1)の細断物25gに蒸留水35gを加え、ホモジェナイズする。
(3)(2)を、沸騰するまでに5分、次いで、煮沸6分で加熱抽出する。
(4)(3)を遠心分離(3000rpm×10分)する。
【0101】
上記前処理により得られた上清を成分分析のサンプルとした。
<水分>
【0102】
【表2-7】
【0103】
<一般分析>
【0104】
【表2-8】
【0105】
DYP、FDの酵母細胞の添加によりブナシメジのタンパク質含量の増加を認めた(DYP5g 115%、FD5g 126%)。
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0106】
【表2-9】
【0107】
きのこの旨味成分であるグアニル酸(GMP)が顕著に(対照と比較して約160%~約290%)増加した。アデニル酸も対照と比較して約120%~約230%に増加した。
【0108】
<有機酸>
【0109】
【表2-10】
【0110】
ピログルタミン酸含量が増加した(対照に対し約140%~約190%)。ピログルタミン酸は、グルタミン酸のカルボキシル基とアミノ基が分子内縮合反応を起こしてラクタムを形成したアミノ酸であり、抗がん作用を有することが知られている。
【0111】
<糖・糖アルコール>
【0112】
【表2-11】
【0113】
酵母細胞の添加による、対照との大きな相違はなかった。
<β-グルカン>
【0114】
【表2-12】
【0115】
酵母細胞の添加による、対照との大きな相違はなかった。
<遊離アミノ酸>
【0116】
【表2-13】
【0117】
【表2-14】
【0118】
遊離アミノ酸の含量は合計で、酵母細胞の添加区において約10%以上増加し、DYP、FDの添加量が多い方が増加した。ブナシメジの主要な遊離アミノ酸であるオルニチンの含有量は、DYP5g、FD5g添加区で対照に対し約140%であった。尿素回路で、オルニチンの前駆体であるアルギニン含量も対照に対し約130%~約160%と増加した。同様に尿素回路においてシトルリンとともにアルギノコハク酸を形成するアスパラギン酸の含量も対照に対し約130%~約160%と増加した。さらに、アラニン、並びに、強い旨味を有するグルタミン酸も増加した。
【0119】
1-3.官能評価
<供試験体>
YKB-1培地に、表2-2に示した、対照(酵母細胞添加なし)、DYP2.5g、DYP5g、FD2.5g、FD5gを各々添加した培地で栽培したブナシメジ
<前処理>
(1)ブナシメジを根元から約1cmで切断する。
【0120】
(2)(1)の供試験体80gを皿に計量しラップ掛けする。
(3)電子レンジ加熱処理(500W、3分)を行う。
(4)ラップをしたまま30分放置後、官能評価試験に供する。
【0121】
<官能評価試験>
試験者:9~14名(20代~60代男女、訓練されたパネラー)
評価項目:甘味、旨味、苦味(えぐみ)、食感(シャキ感)、総合評価(おいしさ)
評価指標:対照を標準(0)として±4段階(計9段階)評価
評価品:対照のみ明示し試験区はブラインド(A、B、C、D)で実施
<官能評価結果>
【0122】
【表2-15】
【0123】
DYP2.5g以外の酵母細胞添加区は、対照と比較して旨味評価が高い傾向であり、シャキ感も感じられた。総合評価でも高い評価であった。
実施例2 ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加効果(2回目)
本実施例では、ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析及び官能評価を行った(2回目)。
【0124】
2-1.ブナシメジの栽培
ブナシメジの栽培培地として用いたYKB-1培地の組成は、1回目と同様に表2-1の通りである。
【0125】
<供試験体>
ブナシメジの栽培時期は、表1-1に記載の69日、83日、97日の3種類とした。
1回目の対照(酵母細胞添加なし)、並びに、DYP5g、FD5gに加え、酵母TFD5g、BY6.7gを添加した酵母細胞添加区を準備した。BYの添加量が多いのは熱処理/又は酵素処理をしていない(酵母エキスを抽出していない)酵母細胞を用いたためである。
【0126】
<栽培経過>
菌回り日数、収量等の結果を表3-1に示す。
【0127】
【表3-1】
【0128】
表3-1に示されるように、酵母細胞を添加した栽培培地を用いて栽培したブナシメジは、収量は対照とほぼ同じが若干多い程度であった。傘の厚さは対照と比較してやや薄い傾向であった。
【0129】
2-2.成分分析(ブナシメジ全体)
<前処理>、<分析項目と分析法>は実施例1と同様である。
<栄養成分>
【0130】
【表3-2】
【0131】
【表3-3】
【0132】
いずれの栽培期間、いずれの酵母細胞を添加した場合も、酵母細胞の添加によりブナシメジのタンパク質含量の増加を認めた。栽培期間が長くなるとタンパク質含量が若干上昇する傾向がみられた。
【0133】
<遊離アミノ酸>
【0134】
【表3-4】
【0135】
遊離アミノ酸の含量は合計で、酵母細胞添加区において約10%以上増加した。オルニチン含量、アルギニン含量も約120%~約160%増加した。アスパラギン酸の含量も約120%~約140%増加した。さらに、グルタミン酸も対照に対し約100%以上-約120%増加した。
【0136】
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0137】
【表3-5】
【0138】
栽培期間83日、96日において、グアニル酸(GMP)及びその他の核酸も増加した。
<有機酸>
【0139】
【表3-6】
【0140】
いずれの栽培期間においても、ピログルタミン酸含量が増加した(対照に対し約120%~約200%)。特に栽培69日において酢酸含量が増加した(対照に対し約120%~約200%)。特に栽培97日においてコハク酸含量が増加した(対照に対し約120%)。
【0141】
2-3.成分分析(傘部・柄部分析)
以下、DYP5.0g添加区またはFD5,0g添加区、栽培期間97日のブナシメジについて、傘部と柄部に分けて成分分析を行った。
【0142】
「傘部」とは、キノコの上部の帽子のような部分、「柄部」とは、キノコの傘の下についている円筒状の部位である。
<栄養分析>
【0143】
【表3-7】
【0144】
【表3-8】
【0145】
酵母細胞の添加によりタンパク質含量が高くなる。DYPは傘部、FDは柄部の含量が上昇した。
<遊離アミノ酸>
【0146】
【表3-9】
【0147】
調べた大半の遊離アミノ酸は柄部に比べて傘部の方が含量が高かったが、オルニチンとアスパラギン酸のみ、柄部の方が含量が高かった。
【0148】
【表3-10】
【0149】
酵母添加により、オルニチン及びアルギニンは傘部、柄部共に含量が増加した。アスパラギン酸も傘部、柄部共に含量が増加したが、DYP添加区は特に傘部において、FD添加区は特に柄部において増加した。
【0150】
オルニチン、アルギニン、アスパラギン酸などの尿素回路(オルニチン回路、図1)に関するアミノ酸について傘部よりも柄部の方が増加していることが示唆された。
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0151】
【表3-11】
【0152】
柄部に比べて傘部の方が核酸含量が高い。
【0153】
【表3-12】
【0154】
傘部において、グアニル酸(GMP)及びウリジル酸(UMP)が対照と比較して増加した。
アデニル酸(AMP)は傘部、柄部ともに増加した。
【0155】
<有機酸>
【0156】
【表3-13】
【0157】
柄部よりも傘部に多い有機酸:ピログルタミン酸、酢酸、クエン酸、リン酸
傘部よりも柄部に多い有機酸:乳酸、リンゴ酸
柄部、傘部同程度:コハク酸
【0158】
【表3-14】
【0159】
柄部にFDを添加した区は、ピログルタミン酸含量が対照と比較して増加した。
柄部にDYP を添加した区は、酢酸の含量が対照と比較して増加した。
2-4.官能評価
実施例1の「1-3.官能評価」と同様に、試験者:9~14名(20代~60代男女、訓練されたパネラー)による甘味、旨味、苦味(えぐみ)、食感(シャキ感)、総合評価(おいしさ)の官能評価を行った。
【0160】
酵母添加区は旨味を強く感じる傾向があった。若干ではあるが、酵母添加区の方が総合評価が好ましい傾向にあった。
実施例3 エノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加効果(1回目)
本実施例では、エノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析及び官能評価を行った(1回目)。
【0161】
3-1.エノキタケの栽培
エノキタケの栽培培地として用いたYK3培地の組成は表4-1の通りである。
【0162】
【表4-1】
【0163】
コットンハル:綿実を破砕し、核を取り出した後の殻と短繊維の混合物
グレインソルガム:学名Sorghum bicolor 食用の穀物として使用されるイネ科モロコシ属の1年草。
【0164】
コーンコブ:トウモロコシの芯を粉砕したもの
バカス:サトウキビの絞り粕
YK3培地に表4-2に示す濃度で酵母細胞DYP又はFDを添加した。
【0165】
【表4-2】
【0166】
「きのこライム」(信州生科研株式会社)は、きのこ培地調整剤である。
3-2.成分分析
<供試験体>
YK3培地に、表4-2に示した、対照(酵母細胞添加なし)、DYP2.5g、DYP5g、FD2.5g、FD5gを各々添加した培地で栽培したエノキタケ。
【0167】
使用したエノキタケの種類、栽培期間及び検体数は表1-3に記載した通りである。
<分析項目と分析法>
実施例1ブナシメジの<分析項目と分析法>と同様である。
【0168】
<前処理>
1)栄養分析とβ―グルカン
エノキタケの付け根の上端の線より2cm上部で裁断し、株元を除き、1~1.5cmにカットし分析用サンプルとした。
【0169】
2)β―グルカン以外の成分分析
(1)エノキタケの付け根の上端の線より2cm上部で裁断し、株元を除き、1~1.5cmにカットする。
【0170】
(2)(1)の50gに蒸留水70gを加え、ホモジェナイズする。
(3)(2)を、沸騰するまで5分、次いで、煮沸5分で加熱抽出する。
(4)(3)を遠心分離(3000rpm×10分)する。
【0171】
上記前処理により得られた上清を成分分析のサンプルとした。
<水分>
【0172】
【表4-3】
【0173】
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0174】
【表4-4】
【0175】
きのこの旨味成分であるグアニル酸(GMP)が顕著に(対照と比較して約120%~約160%)増加した。
<有機酸>
【0176】
【表4-5】
【0177】
ピログルタミン酸含量が増加した。特に、FD添加区では対照に対し約250%~約290%となった。コハク酸も増加した(対照と比較して約110%~約170%)。
<糖・糖アルコール>
【0178】
【表4-6】
【0179】
酵母細胞の添加による、対照との大きな相違はなかった。
<β-グルカン>
【0180】
【表4-7】
【0181】
酵母細胞の添加による、対照との大きな相違はなかった。
<遊離アミノ酸>
【0182】
【表4-8】
【0183】
エノキタケの主要な遊離アミノ酸であるオルニチンの含有量は、すべての酵母細胞添加区で増加した。対照と比較して約110%~約130%)。尿素回路で、オルニチンの前駆体であるアルギニン含量もDYP5gの場合、対照に対し約130%増加した。
【0184】
3-3.官能評価
<供試験体>
YK3培地に、表4-2に示した、対照(酵母細胞添加なし)、DYP2.5g、DYP5g、FD2.5g、FD5gを各々添加した培地で栽培したエノキタケ
<前処理>
(1)エノキタケの付け根の上端の線より2cm上部で裁断する。
【0185】
(2)(1)の供試験体80gを皿に計量しラップ掛けする。
(3)電子レンジ加熱処理(500W、1分20秒)を行う。
(4)ラップをしたまま30分放置後、官能評価試験に供する。
【0186】
<官能評価試験>
試験者:12名(20代~60代男女、訓練されたパネラー)
評価項目:甘味、旨味、苦味(えぐみ)、食感(シャキ感)、総合評価(おいしさ)
評価指標:対照を標準(0)として±4段階(計9段階)評価
評価品:対照のみ明示し試験区はブラインド(A、B、C、D)で実施
<官能評価結果>
【0187】
【表4-9】
【0188】
酵母細胞添加区は、甘味以外の旨味、苦味(えぐみ)、食感(シャキ感)、総合評価(おいしさ)評価がプラスであった(対照と比較して優れている)。DYP添加区に比較してFD添加区のプラス点が高い傾向にあり、FD5g添加区が総合評価を含め最も高い点数であった。
【0189】
実施例4 エノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加効果(2回目)
本実施例では、3品種のエノキタケ(シナノアーリー、長野農工研iQ2、TR19)を使用しエノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析及び官能評価を行った(2回目)。
【0190】
4-1.エノキタケの栽培
エノキタケの栽培培地として用いたYK3培地の組成は、1回目と同様に表4-1の通りである。
【0191】
<供試験体>
YK3培地に、表4-2に示した、対照(酵母細胞添加なし)、DYP5g、FD5gを各々添加した培地で栽培したエノキタケ。
【0192】
使用したエノキタケの種類、栽培期間及び検体数は表1-3に記載した通りである。
4-2.成分分析
<前処理>、<分析項目と分析法>は実施例3と同様である。
【0193】
<栄養成分>
【0194】
【表5-1】
【0195】
【表5-2】
【0196】
いずれの栽培期間、いずれの酵母細胞を添加した場合も、酵母細胞の添加によりエノキタケのタンパク質含量の増加を認めた
<遊離アミノ酸>
【0197】
【表5-3】
【0198】
遊離アミノ酸の含量は合計で、酵母細胞添加区において約10%以上増加した。オルニチンの含有量は、すべての酵母細胞添加区で増加した。グルタミン酸、アルギニン、アラニン、チロシン、リジンの各遊離アミノ酸も増加した。
【0199】
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0200】
【表5-4】
【0201】
シナノアーリー及びiQ2では、グアニル酸(GMP)、アデニル酸(AMP)、ウリジル酸(UMP)及びシチジル酸(CMP)(即ち、調べた核酸のうちイノシン酸(IMP)以外)が増加した(対照と比較して約110%~約150%)。TR19はCMP及びUMPが増加した。
【0202】
<有機酸>
【0203】
【表5-5】
【0204】
いずれの品種もピログルタミン酸含量が増加した(対照と比較して約125%~約160%)。その他、複数の有機酸が酵母細胞添加区で増加した。
4-3.官能評価
実施例3の「3-3.官能評価」と同様に、試験者:9~13名(20代~60代男女、訓練されたパネラー)による甘味、旨味、苦味(えぐみ)、食感(シャキ感)、総合評価(おいしさ)の官能評価を行った。
【0205】
酵母添加区は旨味、甘味を強く感じる傾向があった。若干ではあるが、酵母添加区の方が総合評価が好ましい傾向にあった。
実施例5 ポリアミン分析
実施例1-4において、ブナシメジにおいて酵母細胞添加区のオルニチン含量が増加した。これは、キノコ栽培用培地への酵母細胞添加によるポリアミン含量への影響を示唆するものである。本実施例では、ブナシメジのポリアミン含量の分析を行った。
【0206】
<供試験体>
ブナシメジ
品種: 長野農工研NN12
培地: YKB-1培地(水分65%、1ビン当たり505g)
対照:DYP無添加、 DYP区:DYP5g(培地中1%)
培養: 89日
<分析法>
株元を取り除いた可食部について、日本食品分析センターHPLC法で分析した。
【0207】
分析項目: スペルミジン、スペルミン、プトレスシン
<分析結果>
ブナシメジのポリアミン分析結果
【0208】
【表6-1】
【0209】
対照、DYP添加区ともにプトレスシン及びスペルミジンが検出された。DYP区の方が対照と比較して含量が多く、プトレスシン及びスペルミジンの合計量が対照の約145%であった。DYP添加によりポリアミンが増加することが示唆された。
【0210】
実施例6 ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加効果(3回目)
本実施例では、ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析を行った(3回目)。本実施例では、酵母細胞の添加量を実施例1、実施例2よりも増やし、培地中の1重量%、1.5重量%、2重量%とした。
【0211】
6-1.ブナシメジの栽培
ブナシメジの栽培培地として用いたYKB-1培地の組成は、1回目と同様に表2-1の通りである。
【0212】
ブナシメジの栽培時期は、97日とした。培養は温度20℃、湿度50-80%、CO 3000ppmの条件下で行った、その後、菌掻き→芽出し→抑制→生育(21日)を行った。
【0213】
栽培培地の組成は表7-1に示した通りである。対照(酵母細胞添加なし)、並びに、DYP5g(培地中の重量1%)、DYP7.5g(1.5重量%)、DYP10g(2重量%)、FD5g(培地中の重量1%)、FD7.5g(1.5重量%)、FD10g(2重量%)を添加した酵母細胞添加区を準備した。
【0214】
【表7-1】
【0215】
対照、DYP5g、DYP10gの栽培培地の栄養分析値を表7-2に示す
【0216】
【表7-2】
【0217】
酵母細胞の添加量が多くなると菌糸増殖が遅くなった、即ち、培養中、菌糸が培地全体に広がる速度が遅くなった。菌周り日数は、対照で27日、DYP5gで29.5日、DYP7.5gで33日、DYP10gで35日、FD5gで28.5日、FD7.5gで30日、FD10gで31.5日であった。子実体の生育速度に大きな違いはなかった。
【0218】
収量等の結果を表7-3に示す。
【0219】
【表7-3】
【0220】
表7-3に示されるように、酵母細胞を添加した栽培培地を用いて栽培したブナシメジは、収量は対照とほぼ同じが若干多い程度であった。
6-2.成分分析(ブナシメジ全体)
<前処理>、<分析項目と分析法>は実施例1と同様である。
【0221】
<栄養成分>
【0222】
【表7-4】
【0223】
酵母細胞の添加量が増加するとブナシメジ中のタンパク質含量が増加した。ブナシメジ中のタンパク質含量の増加は、栽培培地中のタンパク質含量の増加と関連する。
<遊離アミノ酸>
【0224】
【表7-5】
【0225】
【表7-6】
【0226】
酵母細胞の添加増により、20種類の主要遊離アミノ酸含量の合計は約10%以上増加した。DYP7.5g、DYP10g添加した場合、約140%に増加したが、DYP10gでほぼ頭打ちとなった。FDを5g、7.5g、10g添加した場合、添加量に応じて増加し、FD10g添加で約130%に増加した。
【0227】
DYP、FDの添加量増により、多くのアミノ酸が増加した。グルタミン、グルタミン酸、オルニチン、アルギニン等もともと含有量の多いアミノ酸で変化が大きい傾向であった。対照を100とした相対値では、特に以下のアミノ酸が増加した。
【0228】
アスパラギン酸:約95~約194
グルタミン:約137~約294
スレオニン:約124~約212
アルギニン;約126~約190
オルニチン;約120~約143
オルニチンは、DYP添加では、DYP7.5gが最も高く、DYP10gでは低下傾向であった(2回の栽培試験で同じ傾向)。FD添加では、FD10gが最も高かった。市販されているブナシメジのオルニチン含量は70~150mg/100g程度(ホクト社シメジ包装に記載)でありDYP、FDを添加することによりこれを大きく超え200mg/100g以上を含有することが確認された。
【0229】
<糖>
【0230】
【表7-7】
【0231】
糖類は、トレハロース含量が最も多く、対照では1%程度含有したが、DYP、FD添加量が多くなるに従い低下した。
<有機酸>
【0232】
【表7-8】
【0233】
DYP、FDの添加に伴い、ピログルタミン酸含量が増加した(対照に対し約254%~約925%)。
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0234】
【表7-9】
【0235】
実施例7 エノキタケジ栽培培地への酵母細胞の添加効果(3回目)
本実施例では、エノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加した場合の成分分析を行った(3回目)。本実施例では、酵母細胞の添加量を実施例3、実施例4よりも増やし、培地中の0.9重量%、1.3重量%、1.8重量%とした。
【0236】
7-1.エノキタケの栽培
エノキタケの栽培培地として用いたYK-3培地の組成は、1回目と同様に表4-1の通りである。
【0237】
エノキタケの栽培時期は、20日とした。培養は温度17~21℃、湿度70±5%の条件下で行った、その後、菌掻き→芽出し→抑制→子実体生育を行った。
栽培培地の組成は表8-1に示した通りである。対照(酵母細胞添加なし)、並びに、DYP5g(培地中の重量0.9重量%)、DYP7.5g(1.3重量%)、DYP10g(1.8重量%)、FD5g(培地中の重量0.9%)、FD7.5g(1.3重量%)、FD10g(1.8重量%)を添加した酵母細胞添加区を準備した。
【0238】
【表8-1】
【0239】
対照、DYP5g、DYP10gの栽培培地の栄養分析値を表8-2に示す
【0240】
【表8-2】
【0241】
収量等の結果を表8-3に示す。
【0242】
【表8-3】
【0243】
表8-3に示されるように、酵母細胞を添加した栽培培地を用いて栽培したエノキタケは、収量は対照とほぼ同じが若干多い程度であった。
7-2.成分分析(エノキタケ全体)
<前処理>、<分析項目と分析法>は実施例3と同様である。
【0244】
<栄養成分>
【0245】
【表8-4】
【0246】
DYPの添加量が増加するとエノキタケ中のタンパク質含量が増加した。FDの場合、添加量に応じたタンパク質含量の増加は観察されなかった。
<遊離アミノ酸>
【0247】
【表8-5】
【0248】
【表8-6】
【0249】
酵母細胞の添加量が増加すると、20種類の主要遊離アミノ酸含量の合計は増加した。DYPを添加した場合、約110%~約117%に増加した。FDを添加した場合、約105%~約112%に増加した。
【0250】
DYP、FDの添加量増により、多くのアミノ酸が増加した。グルタミン、アラニン、フェニルアラニン、リシン等のもともと含有量の多いアミノ酸で変化が大きい傾向であった。対照を100とした相対値は以下の通りである。
【0251】
グルタミン:約109~約137
アラニン:約101~約118
フェニルアラニン:約113~約148
リシン:約116~約134
バリン、イソロイシン、プロリン、アルギニン等はほとんど変化しなかった。オルニチン回路に関与するオルニチン、アスパラギン酸は、酵母細胞の添加量増により減少した。
【0252】
GABA(γ-アミノ酪酸)は、DYP5g、FD5gで停滞し、DYP7.5g、DYP10g、FD7.5g。FD10gで再上昇した。DYP10gで最も高く、対照を100としたときの相対値は124であった。
【0253】
<糖>
【0254】
【表8-7】
【0255】
糖類は、トレハロース含量が最も多く、対照では0.61%程度含有したが、DYP、FD添加量が多くなるに従い低下した。
<有機酸>
【0256】
【表8-8】
【0257】
DYの添加に伴い、ピログルタミン酸含量が増加した(対照に対し約106%~約170%)。FDの添加に伴い、ピログルタミン酸含量が減少した。
<5’-リボ核酸(無水2Naとして)>
【0258】
【表8-9】
【0259】
DYP、FDの添加により、最も多いリボ核酸である、アデニル酸(AMP)が増加した(対照に対し、約114%~約130%)。
実施例8 ブナシメジ栽培培地への酵母細胞の添加効果: キャピラリーカラム電気泳動質量分析(CE-MS分析)
本実施例では、ブナシメジ栽培培地へのDYPを実施例1、実施例2と同じように培地中の1重量%添加した。栽培したブナシメジを熱水抽出した液について、キャピラリーカラム電気泳動質量分析(CE-MS分析)を実施し、検出された機能成分を調べた。
【0260】
8-1.ブナシメジの栽培
ブナシメジの栽培培地として用いたYKB-1培地の組成は、1回目と同様に表2-1の通りである。栽培培地の組成は、表2-2のDYP5gの場合と同様である(1瓶505g)。
【0261】
ブナシメジの栽培時期は、表1-1に記載の69日、83日、97日の3条件で実施した。培養は温度20℃、湿度50-80%、CO 3000ppmの条件下で行った、その後、菌掻き→、芽出し→抑制→生育を行った。
【0262】
8-2.キャピラリーカラム電気泳動質量分析(CE-MS分析)
収穫したブナシメジの可食部を裁断、加水(シメジ25g、水35g)、ホモジナイズした後、湯浴上で加熱水温95℃以上6分間加熱抽出し遠心分離液を分析に供した。
【0263】
CE-MS分析は、山形大学農学部の及川彰教授に委託して行われた。使用された機器は、以下の通りである。
Agilent G7100A CE Instrument(Agilent Technologies, Sacramento,CA)、
Agilent G6224A TOF LC/MS system、
Agilent 1200 Infinity series G1311C Quad Pump VL、
G1603A Agilent CE-MS adapter、および
G1607A Agilent CE-ESI-MS sprayer kit
また、G1601BA 3D-CE ChemStation software for CE およびG3335-64002 MH Workstationを使用した。
【0264】
フューズドシリカキャピラリー(50μm内径×全長100cm)を使用し、カチオン分析のために1Mギ酸、またはアニオン分析のための20mMギ酸アンモニウム(pH10.0)を電解質として使用し、分離を行った。キャピラリー温度は20℃に保持した。試料溶液は50mbarで15秒間(15nl)注入した。印加電圧は30kVで、カチオンイオンおよびアニオンイオンのESI-TOFMS分析を行った。検出された同定できた機能性成分ピーク面積のDYP添加と対照との相対比より、DYP添加により増える傾向にある物質を表9-1にまとめた。
【0265】
【表9-1】
【0266】
グルタミン:筋肉組成アミノ酸の30~50%以上、筋肉タンパク合成関与。激しい運動後の筋肉の破壊防止効果、筋肉疲労回復早める。免疫増強、胃粘膜保護;
アルギニン:成長ホルモンの分泌促進による筋肉増強作用、血流改善作用、生活習慣病のリスク低減、免疫力増強;
オルニチン:アンモニア代謝促進、成長ホルモン分泌促進による筋肉増強作用、筋肉量維持、免疫力を増強、睡眠質改善効果;
シトルリン:血管拡張作用、疲労を軽減、運動能力向上、酸化ストレス低減;
スペルミジン:ポリアミン、新賃代謝活性化、大腸バリア機能向上、抗炎症作用、抗アレルギー作用、DNA安定化・変異抑制、アンチエージング;
スペルミン:ポリアミン、新賃代謝活性化、大腸バリア機能向上、抗炎症作用、抗アレルギー作用、DNA安定化・変異抑制、アンチエージング;
S-アデノシルメチオニン(SAM):神経機能増進サポート、肝臓の解毒作用サポート;
ピログルタミン酸:記憶力や思考力アップ、アルコールによる脳内ダメージケア、アガリスクの機能性成分;
コリン:アセチルコリンの原料(脳でアセチルコリンに変換)、アセチルコリンは記憶、情報伝達の役割を担う神経伝達物質;
トリゴネリン:血管内皮細胞での一酸化窒素生産を促し柔らかい血管を保つ;
ヒドロキシプロリン:肌のコラーゲン構造の安定化に寄与(皮膚に多く含まれる);
βーアラニン:カルノシンの原料、神経筋疲労軽減、持久力向上、パントテン酸の原料。
【0267】
以下、各物質に関する詳細なデータを記載する。
DYP添加によるオルニチン回路、ポリアミン回路に関するアミノ酸代謝系への影響
【0268】
【表9-2】
【0269】
特に、アルギニン、シトルリン、スペルミジン、スペルミン、SAMの増加が著しかった。その他、アスパラギン酸等も増加した。
DYP添加によるクエン酸回路に関するアミノ酸代謝系への影響
【0270】
【表9-3】
【0271】
【表9-4】
【0272】
特に、グルタミン、アルギニン、オルニチン、シトルリン、ピログルタミン酸の増加が著しかった。その他、アスパラギン酸等も増加した。
DYP添加による核酸合成系に関与する物質への影響
【0273】
【表9-5】
【0274】
核酸合成系に関する物質として、核酸とその分解物について分析を行った。特に、核酸の分解物であるβ-アラニン、グルタミンの増加が著しかった。その他、アラントイン酸(allantoate)、AMP、GMP等も増加した。
【0275】
実施例9 エノキタケ栽培培地への酵母細胞の添加効果:キャピラリーカラム電気泳動質量分析(CE-MS分析)によるエルゴチオネインの分析
本実施例では、実施例7と同様に栽培したエノキタケを熱水抽出した液について、キャピラリーカラム電気泳動質量分析(CE-MS分析)を実施し、エルゴチオネインを調べた。酵母細胞の添加量は実施例7と同様に、培地中の1重量%、1.5重量%、2重量%とした。
【0276】
CE-MS分析は、実施例8と同様に、山形大学農学部の及川彰教授に委託して行われた。機器は、Agilent G7100A CE Instrument (Agilent Technologies, Sacramento, CA)、Agilent G6224A TOF LC/MS system、Agilent 1200 Infinity series G1311C Quad Pump VL、G1603A Agilent CE-MS adapterおよびG1607A Agilent CE-ESI-MS sprayer kitを使用し、実施例8と同様の方法で行った。
【0277】
結果を表10-1に示す。
【0278】
【表10-1】
【0279】
DYP、FDの添加により、エノキタケ中のエルゴチオネインの含量が増加した。DYP添加の場合は添加量に応じて増加し、対照に対し約111%~約129%に増加した。FD添加の場合は添加量にかかわらず対照に対し約110%程度に増加した。
【0280】
実施例10 柄長栽培の有機酸含量への影響
本実施例では、ブナシメジの子実体生育時にエノキタケと同様に紙を巻くことにより、柄部を長くする栽培法(柄長栽培)を試みた。実施例2の結果より、柄部にオルニチン、アルギニンなどの尿素回路(オルニチン回路、図1)に関係するアミノ酸含量が大賀zつたことから、エノキタケと同様の方法により柄部の成長を長くすることによりこれらのアミノ酸が増加するのでは、との仮説の元、本実施例を行った。本実施例では、酵母細胞の添加量は、培地中の1重量%又は2重量%とした。ブナシメジの栽培培地として用いたYKB-1培地の組成は、1回目と同様に表2-1の通りである。
【0281】
栽培培地の組成は表7-1と同様で、対照(酵母細胞添加なし)、並びに、DYP5g(培地中の重量1%)、DYP10g(2重量%)を添加した酵母細胞添加区を準備した。
【0282】
ブナシメジの栽培時期は、97日とした。培養は温度20℃、湿度50-80%、CO 3000ppmの条件下で行った、その後、菌掻き→芽出し→抑制→生育(21日)を行った。この生育時にブナシメジの子実体に紙を巻いた。これにより、ブナシメジの柄が紙を巻かない場合より長く成長する。
【0283】
対照1(通常栽培、DYP添加なし)、対照2(柄長栽培、DYP添加なし)、DYP5g(柄長栽培、DYP5g添加)、DYP10(柄長栽培、DYP10g添加)の各場合の、収量等の結果を表11-1に示す。
【0284】
【表11-1】
【0285】
柄長栽培により、柄部の比率が高くなる、即ち、子実体が長く成長する。一方、実施例7等の結果の通り、DYP添加により1株重量は増加する。柄長栽培をした場合でも、DYP添加量が多くなると、柄部比率が低下した。柄部比率が低いと子実体が広がる力が強く、巻紙が取れてしまう傾向があった。
【0286】
対照1(通常栽培、DYP添加なし)、対照2(柄長栽培、DYP添加なし)、DYP5g(柄長栽培、DYP5g添加)、DYP10(柄長栽培、DYP10g添加)の各場合の栄養分析値を表11-2に示す
【0287】
【表11-2】
【0288】
表11-2の結果と表7-4の結果を併せて考察する。対照1と対照2の比較から、柄長栽培によりタンパク質が減少する。DYPの添加量に応じてタンパク質が増加するが、柄長栽培と組み合わせると、DYPの添加によりタンパク質増加の程度が減少する。
【0289】
遊離アミノ酸(18種類)の含量を調べた結果を表11-3に示す。
【0290】
【表11-3】
【0291】
柄長栽培のみでは、18種類の主要遊離アミノ酸含量の合計は対照(通常栽培)とほぼ変わらなかった。一方、DYPの添加量が増加すると、18種類の主要遊離アミノ酸含量の合計は増加した。DYPの添加を柄長栽培と組み合わせると、遊離アミノ酸含量はさらに増加した。柄長栽培とDYPの組み合わせにより、通常栽培、柄長栽培のみと場合と比較して、主要遊離アミノ酸含量は、約109%~約143%となった。
【0292】
オルニチン含量は、柄長栽培により増加した。DYP添加によっても増加した。柄長栽培とDYP添加の組み合わせによりさらに増加した。DYP10(2重量%添加)、柄長栽培の組み合わせで、240mg/100gと本明細書の実施例で最高値となった。
【0293】
アルギニンは、柄長栽培のみでは対照(通常栽培)とほぼ変わらなかった。一方、DYPの添加量が増加すると、アルギニン含量は増加した。DYPの添加を柄長栽培と組み合わせると、アルギニン含量はさらに増加した。
図1