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特開2022-8269培養細胞の凍結保存方法及び細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物
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  • 特開-培養細胞の凍結保存方法及び細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022008269
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】培養細胞の凍結保存方法及び細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/04 20060101AFI20220105BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
C12N1/04
C12N5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021106886
(22)【出願日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020110999
(32)【優先日】2020-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021106454
(32)【優先日】2021-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】上野 耕司
(72)【発明者】
【氏名】濱野 公一
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD21
4B065BD50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、解凍後の細胞生存率が高い培養細胞の凍結保存方法及び細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、(1)培養容器内で細胞を培養する工程、(2)前記培養容器に凍結保存液を加えて、前記工程(1)で培養した培養細胞を前記凍結保存液に浸漬させる工程、(3)前記凍結保存液に浸漬された前記培養細胞及び前記培養容器を、-60℃以上-25℃以下の環境下に静置して凍結処理する工程、を有することを特徴とする培養細胞の凍結保存方法を提供する。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)培養容器内で細胞を培養する工程、
(2)前記培養容器に凍結保存液を加えて、前記工程(1)で培養した培養細胞を前記凍結保存液に浸漬させる工程、
(3)前記凍結保存液に浸漬された前記培養細胞及び前記培養容器を、-60℃以上-25℃以下の環境下に静置して凍結処理する工程、
を有することを特徴とする培養細胞の凍結保存方法。
【請求項2】
前記工程(3)において、冷気を前記培養容器に吹き付けて凍結処理することを特徴とする請求項1記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項3】
前記工程(3)において、非貫流方式の冷却装置で冷気を吹き付けて凍結処理することを特徴とする請求項2記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項4】
前記工程(1)で培養して得られた培養細胞が前記培養容器に接着した状態で前記培養容器に凍結保存液を加えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項5】
前記凍結処理は、0℃以上の環境下で凍結保存液に浸漬された培養細胞を、非段階的に-50℃以上-25℃以下の環境下で行うことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項6】
工程(2)において、ジメチルスルホキシドを含有しない凍結保存液を用いることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項7】
前記凍結処理は、凍結処理開始から10分以内に、凍結保存液の過冷却状態が解除することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項8】
工程(1)で培養して得られた培養細胞の形態は、細胞シート又は三次元細胞培養体であることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項9】
工程(3)において、凍結処理後に細胞シート又は三次元細胞培養体が前記培養容器に接着していることを特徴とする請求項8に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項10】
工程(1)で培養する細胞は、線維芽細胞、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法により保存された培養細胞を含有し、解凍時の細胞生存率が40%以上であることを特徴とする細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養細胞の凍結保存方法及び細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞移植療法は、様々な疾患や組織損傷に対する有効な治療手段として注目されている。細胞移植療法の商業利用及び臨床応用における重要な技術の一つとして、細胞の性質を変化させずに長期間保存する凍結保存方法がある。一般的に、細胞の凍結保存は、細胞培養による細胞変質や雑菌汚染の防止、長期的な安定供給、細胞の輸送などを目的として利用されている。しかしながら、細胞を凍結する過程で生じる細胞内外の水分に由来する氷晶は、細胞に物理的な損傷を与えることが知られている。
そこで、凍結時及び融解時の氷晶による損傷から培養細胞を保護するために、凍結保護剤であるジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセリン、エチレングリコールなどを添加した凍結保存液が使用される。特に、凍結保護剤としては、高い氷晶生成抑制効果を示すDMSOが汎用されている(非特許文献1~3)。
【0003】
細胞を生きた状態で凍結保存する方法としては、主に緩慢凍結法とガラス化法が用いられている。緩慢凍結法は、DMSOなどの凍結保護剤の存在下で、緩慢な冷却速度で長時間かけて細胞を冷却することで細胞内における氷晶の形成を抑えることによって、凍結による細胞の損傷を避ける方法である。しかし、緩慢凍結法は凍結が完了するまでに長時間かかることや、解凍後の細胞の生存率が低いという問題がある。
【0004】
また、ガラス化法は、高濃度のDMSOなどを含む凍結保存液に浸漬した細胞を液体窒素などにより密閉空間で急速に冷却して凍結保存液を過冷却状態にすることで、水分子の動きを制御し、氷晶の形成を抑制することによって、凍結に伴う細胞の損傷を抑制する方法である。ガラス化法として、例えば、特許文献1には、細胞浸透性の凍結保護剤を含む凍結保存液に浸漬した細胞シートを、-269℃以上-20℃以下の気相雰囲気中で凍結することを特徴とする凍結細胞シートの製造方法が開示されている。
しかし、ガラス化法は、培養細胞を凍結保存から解凍した後も機能的な立体構造を維持する必要のある細胞シート(例えば、特許文献2を参照)や三次元細胞培養体などに適用する場合、温度応答性培養容器やメッシュ状支持体などの特殊な細胞培養容器や素材を用意する必要がある。また、ガラス化法において、細胞シートや三次元細胞培養体などの形態で使用できる細胞は、強固な構造を形成する軟骨細胞、上皮細胞、心筋細胞などに限られる。そのために、ガラス化法は、製造効率や汎用性などの観点から、分散した培養細胞以外では臨床応用されていないのが現状である。
【0005】
また、細胞を含む凍結保存容器を入れた容器において、容器の一部を、アルミ等の金属を伝熱手段として用いて-50℃以下で金属を凍結保存容器に接触させて急冷して該部位に氷晶核を発生させること、及び溶液の他の部位を徐冷して細胞を凍結することを含む、細胞凍結方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/167332号パンフレット
【特許文献2】特開2019-000038号公報
【特許文献3】特開2020-10681号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lovelock, J. E. et al., Prevention of freezing damage to living cells by dimethyl sulphoxide., Nature (1959), 183, 1394-1395.
【非特許文献2】Iwatani M. et al., Dimethyl sulfoxide has an impact on epigenetic profile in mouse embryoid body., Stem cells (2006), 24(11), 2549-2556.
【非特許文献3】Katkov, I. I. et al., Cryopreservation by slow cooling with DMSO diminished production of Oct-4 pluripotency marker in human embryonic stem cells., Cryobiology (2006), 53(2), 194-205.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、培養細胞の凍結保存では、DMSOを含む凍結保存液が汎用されている。しかし、DMSOは、細胞や組織に対して、濃度、温度、時間及び細胞組織の種類に依存した毒性を有する。そのため、解凍した培養細胞を患者や個体に使用する場合には、培養細胞をDMSOの含まない環境に移すための洗浄処理を行わなくてはならない。また、DMSOは、DNAのメチル化状態や、未分化マーカー遺伝子の発現量を変化させることなどが報告されている(非特許文献2、3)。このことから、DMSOは、幹細胞の未分化状態を変化させ、形質変化を引き起こすことが懸念されている。したがって、DMSOを必須とせずに細胞生存率が高い凍結保存方法が望まれている。
本願発明の課題は、解凍後の細胞生存率が高い培養細胞の凍結保存方法及び細胞含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、培養細胞を凍結保存する前に、凍結保存液に浸漬された培養細胞を、-60℃以上-25℃以下の環境下に静置して凍結処理を行うことにより、培養細胞の生存率を向上することができるという知見に至り、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
[1](1)培養容器内で細胞を培養する工程、
(2)前記培養容器に凍結保存液を加えて、前記工程(1)で培養した培養細胞を前記凍結保存液に浸漬させる工程、
(3)前記凍結保存液に浸漬された前記培養細胞及び前記培養容器を、-60℃以上-25℃以下の環境下に静置して凍結処理する工程、
を有することを特徴とする培養細胞の凍結保存方法。
この凍結保存方法によれば、培養細胞を凍結保存する前に、-60℃以上-25℃以下の環境下において、凍結保存液を用いて凍結処理を行うことで凍結による細胞の損傷が抑制される。これにより、解凍後の培養細胞の生存率が向上する。
[2]前記工程(3)において、冷気を前記培養容器に吹き付けて凍結処理することを特徴とする上記[1]記載の培養細胞の凍結保存方法。
この凍結保存方法によれば、培養細胞を均一に冷却して凍結することができ、凍結による細胞の損傷が抑制される。これにより、解凍後の培養細胞の生存率が向上する。
[3]前記工程(3)において、非貫流方式の冷却装置で冷気を吹き付けて凍結処理することを特徴とする上記[2]記載の培養細胞の凍結保存方法。
この凍結保存方法によれば、培養細胞をより均一に冷却して凍結することができ、凍結による細胞の損傷が抑制される。これにより、解凍後の培養細胞の生存率がより向上する。
[4]前記工程(1)で培養して得られた培養細胞が前記培養容器に接着した状態で前記培養容器に凍結保存液を加えることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、解凍後に培養細胞が意図せずに培養容器から離れることを防ぐことができる。
[5]前記凍結処理は、0℃以上の環境下で凍結保存液に浸漬された培養細胞を、非段階的に-50℃以上-25℃以下の環境下で行うことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、凍結処理を非段階的に行うことにより、解凍後の培養細胞の生存率を更に向上することができる。
[6]工程(2)において、ジメチルスルホキシドを含有しない凍結保存液を用いることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この凍結保存方法によれば、DMSOを含有しない凍結保存液を用いて凍結処理を行うことで解凍後の培養細胞を安全に使用することができる。
[7]前記凍結処理は、凍結処理開始から10分以内に、凍結保存液の過冷却状態が解除することを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、凍結処理を急速に行うことにより、解凍後の培養細胞の生存率を更に向上することができる。
[8]工程(1)で培養して得られた培養細胞の形態は、細胞シート又は三次元細胞培養体であることを特徴とする上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、培養細胞の形態として細胞シート、三次元細胞培養体を採用することにより、解凍後でも培養細胞の生存率が向上するとともに、細胞シート、三次元細胞培養体の形態を維持することができる。
[9]工程(3)において、凍結処理後に細胞シート又は三次元細胞培養体が前記培養容器に接着していることを特徴とする上記[8]に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、意図しない細胞シート又は三次元細胞培養体の剥離により、細胞シート又は三次元細胞培養体が縮むことを抑制することができる。
[10]工程(1)で培養する細胞は、線維芽細胞、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞であることを特徴とする上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法。
この特徴によれば、培養細胞として線維芽細胞、角膜上皮細胞、網膜細胞、心筋細胞、間葉系幹細胞、多能性幹細胞を選択することにより、解凍後の培養細胞の生存率を更に向上することができる。
[11]上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の培養細胞の凍結保存方法により保存された培養細胞を含有し、解凍時の細胞生存率が40%以上であることを特徴とする細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物。
この細胞含有組成物によれば、[1]~[10]に記載の凍結保存方法により、解凍後の組成物に含まれる培養細胞の生存率が50%以上となることにより、高い製造効率を有する細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、解凍後の培養細胞の生存率が高い培養細胞の凍結保存方法を提供することができる。また、凍結保存液としてDMSOを含有しない液を用いれば、培養細胞の解凍後にDMSOを洗浄する必要がないので、安全性及び製造効率の高い細胞含有組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】解凍後の培養細胞の生存率に対する凍結処理の作用について示す図である。
図2】解凍後の培養細胞の生存に対する凍結処理温度の影響について示す図である。(A)凍結処理温度による培養細胞の生存率をグラフで示したものである。(B)凍結処理温度による培養細胞の生存状態を画像で示したものである。
図3】DMSO含有/非含有の様々な凍結保存液を用い、-35℃で凍結処理した試料の細胞生存率を示すグラフである。
図4】DMSO含有/非含有の様々な凍結保存液を用い、-35℃で凍結処理した試料を解凍して3日目の写真、及び上記試料を解凍してMTS反応を行ってから4時間後の写真である。
図5】DMSO含有/非含有の様々な凍結保存液を用い、-35℃で凍結処理した試料における培養上清中のHGFを調べた結果である。
図6】非接触型冷風冷却装置(図中3Dフリーザー)又は接触型プログラムフリーザーを用いて細胞積層シートを凍結し、その後解凍してから24時間後の細胞生存率を調べた結果である。
図7】凍結処理温度に対する凍結保存液の温度変化について示す図である。(A)-35℃の凍結処理温度における凍結保存液の経時的な温度を示したものである。(B)-45℃の凍結処理温度における凍結保存液の経時的な温度を示したものである。(C)-55℃の凍結処理温度における凍結保存液の経時的な温度を示したものである。
図8A】DMSO含有の凍結保存液(ステムセルバンカー(登録商標))を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8B】DMSO含有の凍結保存液(バンバンカー(登録商標)hRM)を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8C】DMSO含有の凍結保存液(バンバンカー(登録商標))を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8D】DMSO非含有の凍結保存液(Cell Reservoir One)を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8E】DMSO非含有の凍結保存液(クライオスカーレス(登録商標)DMSOフリー)を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8F】DMSO非含有の凍結保存液(ステムセルキープ)を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8G】DMSO非含有の凍結保存液(Cellvation(登録商標))を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
図8H】DMSO非含有の凍結保存液(ReproCryo RM)を用いて凍結した場合の、凍結保存液の温度変化について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る培養細胞の凍結保存方法及び細胞含有組成物の実施形態を詳細に説明する。
なお、実施形態に記載する培養細胞の凍結保存方法及び細胞含有組成物については、本発明を説明するために例示したに過ぎず、これに制限されるものではない。
【0014】
[定義]
本明細書中において、「凍結」とは、細胞内外に氷晶が形成されないか、又は細胞内外に少量の氷晶が形成されるように凍らせた固体状態を意味する。凍結や解凍による細胞への損傷を低減する観点から、細胞内に氷晶が形成されないことが好ましいが、氷晶形成を完全に抑制することは困難である。
本明細書中において、「凍結処理」とは、培養細胞を凍結することを意図する。上記凍結処理には、凍結保存液に浸漬した培養細胞を凍結することも含有する。
本明細書中において、「凍結保存」とは、凍結処理した培養細胞を非常に低い温度により細胞活動を停止させることで、長期間にわたり細胞を安定に維持することを意味する。凍結保存の温度としては、例えば、-269℃以上-80℃以下である。
本明細書中において、「過冷却状態」とは、細胞内外の水が凝固点を過ぎて冷却されても固体化せずに液体の状態を保持することで、氷晶の形成が抑制されている状態を意味する。
本明細書中において、「浸漬」とは、液体に浸すことを意図する。
【0015】
本明細書中において、「治療」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状の進行、増悪を減速又は停止すること、及び細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状を軽快、改善、治癒することを目的とする手段を意図する。
本明細書中において、「予防」とは、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状の発症及び再発を抑制、防止することを目的とする手段を意図する。
本明細書中において、「細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状」とは、細胞、組織、臓器が正常に機能しない状態により引き起こされる疾患であり、例えば、脊髄損傷、膝関節軟骨損傷、虚血性心疾患、加齢黄斑変性、角膜上皮幹細胞疲弊症、再生不良性貧血、重症下肢虚血、難治性皮膚潰瘍などが挙げられる。
【0016】
本明細書中において、「対象」、「個体」、「患者」とは、細胞移植療法を必要とするもの、細胞移植療法を必要とする確率が高いもの、細胞移植療法又は予防のための処置を受けることが望まれるもの、細胞移植療法又は予防のための処置を受けているもの、細胞移植療法又は予防のための処置を受けたものであり、特にヒトや非ヒト動物を意味する。非ヒト動物の具体例としては、例えば、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、ニワトリなどが挙げられる。
本明細書中において、「分化」とは、特殊化していない細胞の機能又は形態が特殊化することを意味する。また、分化していない状態の細胞は、「未分化」であるという。
【0017】
[培養細胞の凍結保存方法]
本発明の凍結保存方法は、(1)培養容器内で細胞を培養する工程、(2)前記培養容器に凍結保存液を加えて、前記工程(1)で培養した培養細胞を前記凍結保存液に浸漬させる工程、(3)前記凍結保存液に浸漬された前記培養細胞及び前記培養容器を、-60℃以上-25℃以下の環境下に静置して凍結処理する工程、を有することを特徴とする培養細胞の凍結保存方法であり、これにより、解凍後の培養細胞の生存率を向上することができる。
まず、凍結保存方法を構成する各工程について、詳細に説明する。なお、各工程に含まれる特定成分の含有量については、特に断りがない場合、組成物などにおける含有量を示す。
【0018】
<工程(1):細胞培養>
工程(1)は、培養容器内で細胞を培養する工程である。これにより、凍結保存するための、培養容器に接着した培養細胞を準備することができる。
【0019】
(培養容器)
培養容器は、培養液中で細胞を培養するための容器である。培養容器は、培養する細胞の種類及び用途に適したものであれば、特に制限されるものではない。
培養容器としては、例えば、デッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用デッシュ、マルチデッシュ、フラスコ、組織培養用フラスコ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルなどが挙げられる。
培養容器の素材としては、培養液を透過させないものであれば、特に制限されるものではない。培養容器の素材としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、シリコン、ナイロン6,6、ガラス、ステンレスやアルミニウムなどの金属などが挙げられる。
培養容器の面積は、特に制限されるものではない。培養容器の面積としては、例えば、0.3cm以上300cm以下である。下限値としては、より好ましくは0.35cm以上、更に好ましくは1.0cm以上、特に好ましくは1.9cm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは200cm以下、更に好ましくは100cm以下、特に好ましくは50cm以下である。
【0020】
培養容器は、表面を細胞接着性物質でコーティングしてもよい。細胞接着性物質は、細胞との接着性を向上するためのものである。
細胞接着性物質としては、例えば、コラーゲンやフィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックス、カドヘリンファミリーやセレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子、コラーゲンゲルや親水性ポリマー、コロナ放電処理したポリスチレンなどの親水性化合物などが挙げられる。
また、これらの細胞接着性物質は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの細胞接着性物質については、接着細胞、浮遊細胞等の培養する細胞の種類に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0021】
(細胞)
細胞は、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状を治療又は予防するための臨床上有用な細胞、非臨床試験などで使用する培養可能な細胞であって、生体から分離された細胞あれば、特に制限されるものではない。培養細胞としては、例えば、生体組織細胞、間葉系組織に属する細胞に分化する能力を有する間葉系幹細胞、様々な生体組織に分化する能力を有する多能性幹細胞、分化誘導される幹細胞や前駆細胞などが挙げられる。なお、培養細胞は、接着細胞であっても浮遊細胞であってもよい。ただし、浮遊細胞を用いる場合は、培養容器に上記細胞接着性物質をコーティングすることが好ましい。
生体組織細胞の具体例としては、例えば、線維芽細胞、角膜上皮細胞、網膜細胞、神経細胞、筋細胞、心筋細胞、筋芽細胞、骨細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞などが挙げられる。
間葉系幹細胞の具体例としては、例えば、脂肪組織由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、臍帯血由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞などが挙げられる。
多能性幹細胞の具体例としては、例えば、誘導多能性幹細胞、胚性幹細胞、核移植胚性幹細胞、胚性腫瘍細胞、胚性生殖細胞などが挙げられる。
また、これらの細胞は、単独で培養してもよいし、二種以上を組み合わせて培養してもよい。これらの細胞については、細胞の用途などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0022】
なお、培養する細胞の由来は、特に制限されるものではない。細胞の由来としては、例えば、哺乳類、鳥類、両生類、魚類、昆虫、植物、微生物などが挙げられる。哺乳類及び鳥類の具体例としては、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、ニワトリなどが挙げられる。
【0023】
培養細胞の形態は、目的とする用途に資するものであれば、特に制限されるものではない。培養細胞の形態としては、例えば、分散状態、細胞シート、三次元細胞培養体などが挙げられる。
分散状態の培養細胞は、細胞が単独又は他の細胞と接触した状態で培養容器に接着しているものである。
【0024】
細胞シートは、細胞同士が接着分子、細胞外マトリックスなどを介して物理的、機能的に連結してシート構造を有するものである。細胞シートの製造方法は、当業者に公知の方法で行えばよく、特に制限されるものではない。細胞シートの製造方法としては、例えば、国際公開第2016/068217号パンフレット、上記特許文献2、特開2011-006490号公報、国際公開第2015/068505号パンフレットなどの文献に教示されている方法が挙げられる。
細胞シートは、1の細胞層から構成される単層構造であってもよいし、2以上の細胞層から構成される積層構造でもよい。積層構造としては、特に制限されるものではないが、2層、3層、4層、5層などの多層構造が挙げられる。
細胞シートの厚みは、特に制限されるものではない。細胞シートの厚みとしては、例えば、0.001mm以上2.0mm以下である。下限値としては、より好ましくは0.01mm以上、更に好ましくは0.03mm以上、特に好ましくは0.05mm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは1.5mm以下、更に好ましくは1.2mm以下、特に好ましくは1.0mm以下である。細胞シートの厚みを上記範囲とすることにより、細胞シート内での高い細胞生存率、及び細胞移植に有利な優れた形状維持能を発揮することができる。
【0025】
三次元細胞培養体は、細胞同士が接着分子、細胞外マトリックスなどを介して物理的、機能的に連結して目的とする三次元構造を有するものである。三次元細胞培養体の製造方法は、当業者に公知の方法で行えばよく、特に制限されるものではない。三次元細胞培養体の製造方法としては、例えば、特開2012-120696号公報、特開2017-176025号公報、特開2015-149905号公報などの文献に教示されている方法が挙げられる。
三次元細胞培養体の厚みは、特に制限されるものではない。三次元細胞培養体の厚みとしては、例えば、0.01mm以上10mm以下である。下限値としては、より好ましくは0.1mm以上、更に好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは4mm以下、特に好ましくは3mm以下である。
【0026】
(支持体)
細胞シート、三次元細胞培養体は、細胞が培養容器に接着できるのであれば、網目構造などを有する支持体を含んでいてもよい。支持体は、培養する細胞を付着、保持し、細胞間相互作用を高めて培養することができる足場材料である。
支持体の素材は、特に制限されるものではない。支持体の素材としては、例えば、コラーゲン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリウレタン、ポリウレア、シリコン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリカプロラクトン、シルクフィブロイン及びそれらの誘導体、共重合体などからなる繊維が挙げられる。
また、これらの支持体の素材は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの支持体の素材については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0027】
支持体の形状は、培養する細胞の用途に適したものであれば、特に制限されるものではない。支持体の形状としては、例えば、シート状、ブロック状、円筒状、円盤状、球状などが挙げられる。
支持体を構成する繊維の長さは、特に制限されるものではない。支持体を構成する繊維の長さとしては、例えば、30μm以上500μm以下である。下限値としては、より好ましくは40μm以上、更に好ましくは45μm以上、特に好ましくは50μm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは400μm以下、更に好ましくは350μm以下、特に好ましくは300μm以下である。
支持体の網目構造の孔径は、特に制限されるものではない。支持体の網目構造の孔径としては、例えば、30μm以上700μm以下である。下限値としては、より好ましくは40μm以上、更に好ましくは45μm以上、特に好ましくは50μm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは600μm以下、更に好ましくは550μm以下、特に好ましくは500μm以下である。
支持体の三次元開口率は、特に制限されるものではない。支持体の三次元開口率としては、例えば、50%以上96%以下である。下限値としては、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。一方、上限値としては、より好ましくは94%以下、更に好ましくは92%以下、特に好ましくは90%以下である。
【0028】
支持体は、表面に細胞有用物質を物理的又は化学的に配置してもよい。細胞有用物質は、細胞との親和性の向上、細胞機能の向上、細胞分化の誘導、細胞への遺伝子導入などに資する物質である。細胞有用物質としては、例えば、フィブロネクチンやラミニン、プロネクチンFなどの細胞外マトリックス、コラーゲンやポリ-D-リジン、ポリ-L-リジンなどの細胞接着因子、リン酸カルシウムやリン石灰などの生体内分子、ペプチドやタンパク質などの生体分子、細胞膜上に発現しているタンパク質、糖脂質などに対する抗体、生理活性物質などが挙げられる。
また、これらの細胞有用物質は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの細胞有用物質については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0029】
(培養方法)
細胞を培養する方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。
細胞を培養する方法としては、例えば、培養容器内に培養液を加えると共に培養する細胞を播種し、培養細胞が培養容器に接着し、目的とする状態まで最適な環境下で培養する方法などが挙げられる。
【0030】
(培養液)
上記細胞を培養する方法に用いる培養液は、細胞の培養に必要な成分を含有した溶液である。培養液は、培養する細胞に適したものであれば、特に制限されるものではない。培養液成分としては、例えば、糖類、アミノ酸、ビタミン類、無機塩、微量金属、添加物などが挙げられる。
また、これらの培養液成分は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。これらの培養液成分については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0031】
糖類の具体例としては、例えば、グルコースやフルクトース、マンノース、ガラクトースなどの単糖類、スクロースやスクラロース、トレハロース、マルトース、ラクトースなどの二糖類、グルコシルスクロースやラクトスクロース、ラフィノースなどの三糖類、アカルボースやマルトテトラオースなどの四糖類、シクロデキストリン、オリゴ糖などが挙げられる。
【0032】
アミノ酸の具体例としては、例えば、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-アルギニン、L-シスチン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-ヒドロキシプロリンなどが挙げられる。
【0033】
ビタミン類の具体例としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、コリン、葉酸、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、チミジン、ビタミンB12などが挙げられる。
【0034】
無機塩の具体例としては、例えば、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
微量金属の具体例としては、例えば、硫酸鉄、硝酸鉄、硫酸銅、硝酸銅、硫酸亜鉛などが挙げられる。
【0035】
添加物の具体例としては、例えば、ウシ胎児血清やウマ血清、ヒト血清などの血清、FGF2やEGF、HGF、VEGF、PDGFなどの増殖因子、アルブミンなどのタンパク質、グルタチオンやアスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体などの抗酸化剤、ペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質、HEPESなどのpH調整剤、乳酸やプロピオン酸などの有機酸、コレステロールなどの脂質、リノレン酸などの脂肪酸、エタノールアミンやプトレシンなどのアミン類、メルカプトエタノールや3-メルカプト-1,2-プロパンジオールなどの還元剤、アルギン酸ナトリウムやポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、プルランなどの増粘剤、フェノールレッドなどのpH指示薬などが挙げられる。
【0036】
上記の培養液成分を含有する培養液としては、例えば、AIM V medium、HFDM-1 Medium、ダルベッコリン酸緩衝食塩液(D-PBS)やハンクス平衡塩溶液(HBSS)などの平衡緩衝液、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)やEMEM(Eagle’s Minimum Essential Medium)、α-MEM(Minimum Essential Medium alpha Modification)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、GMEM(Glasgow’s MEM)、Ham’s F-10 medium、Ham’s F-12 medium、Ham’s F-12K medium、RPMI medium 1640、M-199 medium、L-15 medium、McCoy’s 5A Medium、MCDB105 medium、MCDB107 medium、MCDB131 medium、MCDB153 medium、MCDB201 medium、NCTC109 medium、NCTC135 medium、Waymouth’s MB752/1 medium、CMRL-1066 medium、Williams’medium E、Brinster’s BMOC-3 Medium、E8 mediumなどの基礎培養液などが挙げられる。
また、これらの基礎培養液は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、基礎培養液は、細胞の種類や状態に応じて、培養液成分を追加、除去、増量、減量してもよい。これらの基礎培養液については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0037】
培養容器は、表面が温度や光などの刺激に応答して物性が変化する材料で被覆されてもよい。ただし、培養細胞の形態が細胞シート又は三次元細胞培養体である場合において、凍結処理後に意図せずに細胞シート又は三次元細胞培養体が培養容器から剥離した場合には、細胞シート又は三次元細胞培養体が縮みやすく、細胞シート又は三次元細胞培養体としての機能が低下する可能性がある。そのため、培養細胞の形態が細胞シート又は三次元細胞培養体である場合には、凍結処理後に細胞シート又は三次元細胞培養体が培養容器に接着している状態を維持できる培養容器の材質を選択することが好ましい。なお、「凍結処理後に細胞シート又は三次元細胞培養体が培養容器に接着している」には、凍結処理した細胞シート又は三次元細胞培養体が、上記細胞接着性物質を介して培養容器に接している態様も包含する。また、培養容器から凍結した細胞シート又は三次元細胞培養体が意図せずに剥離して自重で細胞容器に載っている状態は含まれない。
【0038】
温度応答性材料としては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-エチルアクリルアミドやN-イソプロピルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドなどのN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N-ジエチルアクリルアミドやN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミドなどのN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジンや1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリンなどの環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体などが挙げられる。
【0039】
光応答性材料としては、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、スピロベンゾピランを含むN-イソプロピルアクリルアミドゲルなどが挙げられる。
また、これらの温度応答性材料、光応答性材料は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの温度応答性材料、光応答性材料については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0040】
(培養条件)
培養条件は、培養細胞を目的とする状態にできるのであれば、特に制限されるものではない。一般的な培養条件としては、例えば、調整した基礎培養液を用いた37℃、5%COの環境下である。培養条件については、培養する細胞などに応じて適宜設定すればよい。
細胞培養の期間は、培養細胞が目的とする状態になるのであれば、特に制限されるものではない。細胞培養の期間としては、例えば、28日以内、21日以内、14日以内、7日以内、5日以内、3日以内である。
【0041】
培養容器に播種する細胞数は、培養する細胞、培養容器に適したものであれば、特に制限されるものではない。培養容器に播種する細胞数としては、例えば、1×10細胞/mL以上1×1010細胞/mL以下である。下限値としては、より好ましくは2×10細胞/mL以上、更に好ましくは5×10細胞/mL以上、特に好ましくは1×10細胞/mL以上である。一方、上限値としては、より好ましくは1×10細胞/mL以下、更に好ましくは1×10細胞/mL以下、特に好ましくは1×10細胞/mL以下である。
【0042】
培養する細胞の密度は、培養する細胞、培養容器、培養細胞の用途に適したものであれば、特に制限されるものではない。培養する細胞の平面密度としては、例えば、5×10細胞/cm以上1×1010細胞/cm以下である。下限値としては、より好ましくは1×10細胞/cm以上、更に好ましくは2×10細胞/cm以上、特に好ましくは5×10細胞/cm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは1×10細胞/cm以下、更に好ましくは5×10細胞/cm以下、特に好ましくは1×10細胞/cm以下である。
培養する細胞シート、三次元培養体の細胞の密度としては、例えば、5×10細胞/cm以上5×1010細胞/cm以下である。下限値としては、より好ましくは5×10細胞/cm以上、更に好ましくは5×10細胞/cm以上、特に好ましくは5×10細胞/cm以上である。一方、上限値としては、より好ましくは5×10細胞/cm以下、更に好ましくは1×10細胞/cm以下、特に好ましくは5×10細胞/cm以下である。
【0043】
なお、培養する細胞が幹細胞や前駆細胞の場合は、培養液に分化誘導因子を添加し、培養時に分化誘導処理をしてもよい。分化誘導因子としては、例えば、アクチビンA、BMP4、bFGF、VEGF、SCF、VEGF、DKK1、BMPシグナルインヒビター(例えば、NOGGINなど)、TGFβ/アクチビン/NODALシグナルインヒビター(例えば、SB431542など)、Wntシグナルインヒビター(例えば、IWR-1、IWP-2、IWP-4など)、レチノイン酸シグナルインヒビターなどが挙げられる。
また、これらの分化誘導因子は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。これらの分化誘導因子については、目的とする細胞の分化状態などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0044】
<工程(2):凍結保存液置換>
工程(2)は、培養容器に凍結保存液を加えて培養細胞を凍結保存液に浸漬させる工程である。これにより、培養細胞を凍結処理する準備をすることができる。
【0045】
凍結保存液を加える段階において、工程(1)で培養した培養細胞が培養容器に接着した状態で培養容器に凍結保存液を加えることができる。ここで、工程(1)で培養した培養細胞が培養容器に接着した状態とは、工程(1)で培養した培養細胞を、培養容器から剥離することなく、培養過程で培養細胞と培養容器が接着したままの状態を意味する。
【0046】
また、凍結保存液を加える段階、すなわち凍結保存液を加える前又は加えた後であり、凍結処理する前の段階において工程(1)で培養して得られた培養細胞の形態が細胞シート又は三次元細胞培養体である場合には、解凍後に細胞シート又は三次元細胞培養体が培養容器から剥離しやすくするために、細胞シート又は三次元細胞培養体を培養容器から一旦剥離した上で、剥離した細胞シート又は三次元細胞培養体を培養容器に静置してもよい。細胞シート又は三次元細胞培養体を培養容器から剥離する方法としては特に制限されないが、ディスパーゼ、トリプシン、又はコラゲナーゼを用いた酵素処理や、直接ピンセットなどによって摘み、細胞シート又は三次元細胞培養体を培養容器から剥離する、あるいは、ピペッティングにより細胞シート又は三次元細胞培養体を培養容器から剥離する等、物理的な手法を用いてもよい。
【0047】
培養細胞を凍結保存液に浸漬させるには、培養容器内の培養液を凍結保存に置換して培養細胞を凍結保存液に浸漬させる方法を挙げることができる。上記培養容器内の培養液を凍結保存に置換する方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。置換方法の具体例としては、培養細胞が所望の状態になったら、ピペットを用いて、培養容器から培養液を取り除き、凍結保存液を培養容器に加える方法、培養容器から培養液の一部を取り除き、凍結保存液を添加する方法、又は培養容器の培養液に凍結保存液を添加する方法などが挙げられる。また、工程(1)で培養して得られた培養細胞の形態が細胞シート又は三次元細胞培養体である場合には、工程(1)で培養に用いた培養容器とは別の培養容器を用意し、培養した細胞シート又は三次元細胞培養体を剥離して前記別の培養容器へ移して、その別の培養容器で細胞シート又は三次元細胞培養体を凍結保存液に浸漬させてもよい。
【0048】
(凍結保存液)
凍結保存液は、凍結保存による細胞の損傷を低減するための溶液である。凍結保存液は、細胞の凍結保存に適したものであれば、特に制限されるものではない。凍結保存液としては、培養液に含まれる培養液成分、凍結保護剤などを含有してもよい。培養液成分である糖類、アミノ酸、ビタミン類、無機塩、微量金属、添加物については、上記(培養液)の項の説明を充足するものであればよい。また、凍結保存液は、凝固開始温度が-15℃以上-5℃以下の範囲にあるものが好ましい。
【0049】
凍結保護剤は、凍結保存時の凍結や解凍による細胞への損傷を低減するために使用する物質である。凍結保護剤としては、例えば、細胞非浸透性凍結保護剤、細胞浸透性凍結保護剤が挙げられる。好ましい凍結保護剤としては、安全性の観点から細胞非浸透性凍結保護剤である。
細胞非浸透性凍結保護剤の具体例としては、例えば、アルブミン、スクロース、トレハロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリリジンなどが挙げられる。
細胞浸透性凍結保護剤の具体例としては、例えば、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオールなどが挙げられる。
また、これらの凍結保護剤は、単独で配合してもよいし、二種以上を組み合わせて配合してもよい。これらの凍結保護剤については、細胞の種類、凍結保存液の組成などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0050】
DMSOを含まない市販の凍結保存液としては、例えば、ステムセルバンカー(登録商標)DMSOフリーGMPグレード(日本全薬工業社)、バンバンカー(登録商標)DMSOフリー(日本ジェネティクス社)、クライオスカーレス(登録商標)DMSOフリー(バイオベルデ社)、ステムセルキープ(バイオベルデ社)、CryoNovo(登録商標)X12(コスモ・バイオ社)、CryoNovo(登録商標)P24(コスモ・バイオ社)、ヒトES/iPS細胞凍結保存用DMSOフリー細胞凍結保存液(リプロセル社)、Cell Reservoir One(ナカライテスク社)、TheliKeep(登録商標:バイオベルデ社)、Cellvation(登録商標:Protide Pharmaceuticals社)、ReproCryo RM(リプロセル社)、SOFORO Cryo(SARAYA社)などが挙げられる。また、DMSOを含む市販の凍結保存液としては、例えば、ステムセルバンカー(登録商標)GMPグレード(日本全薬工業社)、バンバンカー(登録商標) hRM(日本ジェネティクス社)、バンバンカー(登録商標)(日本ジェネティクス社)などが挙げられる。
【0051】
<工程(3):凍結処理>
工程(3)は、凍結保存液に浸漬された培養細胞を凍結処理する工程である。これにより、細胞内外の氷晶形成を抑制しながら培養細胞を凍結できるので、凍結保存する培養細胞の生存率を向上することができる。
凍結処理の方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。
凍結処理の方法としては、例えば、0℃以上の環境下にある細胞外液を凍結保存液に置換した培養細胞及び培養容器を凍結処理温度まで急速に冷却する方法などが挙げられる。
【0052】
本発明の凍結処理は、培養細胞及び培養容器を静置する環境温度を、細胞培養や細胞外液を置換する0℃以上の環境、好ましくは0℃~25℃の環境から凍結処理温度とするものであり、非段階的に凍結処理温度とすることが好ましく、培養細胞及び培養容器の環境温度を、0℃以上から緩慢的に下げるものではない。
凍結処理に用いる冷却装置は、特に制限されるものではなく、例えば、急速冷凍装置、極低温冷蔵装置などが挙げられる。冷却装置としては、培養容器に伝熱手段を接触させて培養容器及び細胞を凍結させるよりも、伝熱手段と非接触であり、冷気を一方向ではなく多方向、好ましくは全方向から培養容器に吹き付けて凍結する冷凍装置であることが、均一な温度で細胞を凍結して、解凍後の細胞の生存率を高める観点から好ましい。冷気を培養容器に吹き付けて凍結する冷凍装置としては、具体的には、冷却ファンによる冷気循環により、被冷却物を冷却させる冷却装置、例えば、特開2005-127666号公報に開示されている、冷却ファンを備えた非貫流方式の冷却装置などが挙げられる。なお、上記「非貫流方式」とは、被冷却物からの貫流空気の大半が冷却器を通過(貫流)しない方式を意味する。
【0053】
(凍結処理条件)
凍結処理の温度は、培養細胞及び凍結保存液を凍結することができれば、特に制限されるものではない。凍結処理の温度としては、例えば、-60℃以上-25℃以下である。下限値としては、より好ましくは-55℃以上、更に好ましくは-52℃以上、特に好ましくは-50℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは-25℃以下、更に好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-35℃以下である。
凍結処理の時間は、培養細胞及び凍結保存液が凍結すれば、特に制限されるものではない。凍結処理の時間としては、例えば、10分以内である。より好ましくは7分以内、更に好ましくは6分以内、特に好ましくは5分以内である。なお、凍結処理の時間とは、培養細胞及び凍結保存液の過冷却状態が解除されて凍結するまでの凍結処理の時間であり、培養細胞及び凍結保存液が凍結した後に引き続き凍結処理の温度を維持する時間は除いたものである。
凍結処理の温度、時間を上記範囲とすることにより、本発明の培養細胞の凍結保存方法は、氷晶の形成を抑制し、解凍後の培養細胞の生存率を向上することができる。
【0054】
凍結処理する培養容器は、蓋、シール、フィルムなどで被覆してもよいし、被覆しなくてもよい。なお、培養細胞への細菌汚染などを防ぎ品質を向上させる観点から、培養容器を被覆して凍結処理することが好ましい。
【0055】
<その他の工程>
(凍結保存方法)
凍結保存する工程は、凍結処理した培養細胞及び培養容器を凍結保存する工程である。これにより、長期間にわたり細胞を安定に維持することができる。
凍結保存の方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。
【0056】
凍結保存は、細胞を安定に凍結保存することができれば、特に制限されるものではない。凍結保存の方法としては、例えば、冷却剤の液相、気相との接触、超低温冷凍庫の使用などが挙げられる。好ましい凍結保存の方法としては、温度の観点から冷却剤の液相、気相との接触である。
冷却剤としては、例えば、液体窒素、液体エタン、液体プロパン、液体ヘリウム、ドライアイスなどが挙げられる。
【0057】
(凍結保存条件)
凍結保存の温度は、細胞を安定に凍結保存することができれば、特に制限されるものではない。凍結保存の温度としては、例えば、-269℃以上-80℃以下である。下限値としては、より好ましくは-220℃以上、更に好ましくは-196℃以上、特に好ましくは-150℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは-120℃以下、更に好ましくは-100℃以下、特に好ましくは-80℃以下である。
凍結保存の温度までに要する時間は、特に制限されるものではなく、例えば、5分以内、より好ましくは3分以内、更に好ましくは2分以内、特に好ましくは1分以内である。
【0058】
以上の特徴により、本発明の培養細胞の凍結保存方法は、急速に凍結することにより解凍後の培養細胞の生存率を向上することができる。また、本発明の培養細胞の凍結保存方法は、DMSOを含まない凍結保存液を用いることにより、DMSOの細胞毒性を回避し、細胞の分化状態に影響しないことから、臨床上の安全性が高い細胞含有組成物を提供することが可能である。
【0059】
[細胞移植療法に用いるための細胞含有組成物]
本発明の細胞含有組成物は、上記本願発明の[培養細胞の凍結保存方法]により凍結保存された培養細胞を含有し、解凍時の細胞生存率が40%以上であることを特徴とするものである。特に、DMSO不含の凍結保存液を用いた場合には、培養細胞を解凍後に洗浄してDMSOを除く必要がないので、安全性及び製造効率を向上することができる。
細胞移植療法は、細胞、組織、臓器の欠損及び機能障害、機能不全に関連する症状の発症及び再発を抑制、防止するものである。細胞移植療法の対象疾患としては、例えば、脊髄損傷、膝関節軟骨損傷、虚血性心疾患、加齢黄斑変性、角膜上皮幹細胞疲弊症、再生不良性貧血、重症下肢虚血、難治性皮膚潰瘍などが挙げられる。
また、細胞移植療法に用いる細胞は、自己由来細胞、同種非自己由来細胞、異種由来細胞であってもよい。好ましい細胞としては、臨床応用及び安全性の観点からヒト自己由来細胞であり、臨床応用及び生産性の観点から、ヒト非自己由来細胞である。
まず、細胞含有組成物を準備する工程について、詳細に説明する。なお、各工程に含まれる特定成分の含有量については、特に断りがない場合、組成物などにおける含有量を示す。
【0060】
(解凍処理)
解凍処理の方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。
解凍処理の方法としては、例えば、ウォーターバス、インキュベータ、ホットプレートなどの使用や、凍結温度よりも高い温度の融解液に浸漬することなどが挙げられる。
【0061】
融解液は、培養細胞に損傷を与えないものであれば、特に制限されるものではない。融解液に含有する成分としては、例えば、スクロース、グルコース、マルトース、トレハロース、フルクトースなどが挙げられる。また、融解液は、上記(培養液)の項に記載の成分を含有してもよい。
融解液の温度は、凍結温度よりも高い温度であれば、特に制限されるものではない。融解液の温度としては、例えば、20℃以上45℃以下である。下限値としては、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは28℃以上、特に好ましくは30℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは39℃以下、特に好ましくは38℃以下である。
【0062】
解凍時の細胞生存率は、40%以上であれば、特に制限されるものではない。解凍時の細胞生存率としては、例えば、より好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。また、解凍後の培養上清中のHGFに関し、解凍後に等量の培養液で培地交換した後に、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で3日間培養した培養上清中のHGF(pg/mL)が、凍結処理なし(凍結保存液の代わりにPBSを用いて室温で保存)の場合の培養上清中のHGF(pg/mL)と比較して40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上を挙げることができる。
【0063】
解凍処理の温度は、細胞への損傷を抑制して解凍することができれば、特に制限されるものではない。解凍処理の温度としては、例えば、4℃以上50℃以下である。下限値としては、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは33℃以上、特に好ましくは36℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは45℃以下、更に好ましくは40℃以下、特に好ましくは38℃以下である。
解凍時間は、特に制限されるものではなく、例えば、15分以内、より好ましくは10分以内、更に好ましくは1分以内、特に好ましくは30秒以内である。
【0064】
(洗浄処理)
解凍した培養細胞は、必要に応じて、解凍処理直後に細胞洗浄液で洗浄してもよい。細胞洗浄液は、特に制限されるものではなく、上記(培養液)の項に記載の成分を含有してもよい。
細胞洗浄液の温度は、特に制限されるものではない。細胞洗浄液の温度としては、例えば、20℃以上45℃以下である。下限値としては、より好ましくは25℃以上、更に好ましくは28℃以上、特に好ましくは30℃以上である。一方、上限値としては、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは39℃以下、特に好ましくは38℃以下である。
培養細胞の洗浄回数は、特に制限されるものではなく、1回又は複数回(例えば、2回、3回、4回、5回など)である。
【0065】
(使用方法)
本発明の細胞含有組成物は、解凍した培養細胞や支持体を培養容器から剥離し、製剤化したものであり、細胞移植療法などの治療、予防などに用いることができる。
剥離方法、製剤化方法は、特に制限されるものではなく、医療、医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、動物用薬品などの技術分野、及び再生医療、生物工学などの基礎技術分野において使用されている通常の手段を用いることができる。
剥離方法としては、例えば、酵素処理、剥離剤処理、物理的処理、温度応答性材料で被覆した培養容器上で培養した細胞の場合は温度刺激処理、光応答性材料で被覆した培養容器上で培養した細胞の場合は光刺激処理などが挙げられる。
酵素処理で用いる酵素としては、例えば、ディスパーゼ、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、サーモリシン、パパイン、カスパーゼ、ペプシンなどが挙げられる。
剥離剤処理で用いる化合物としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)などが挙げられる。
また、これらの酵素処理、剥離剤処理、物理的処理、温度刺激処理、光刺激処理は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの剥離処理については、培養する細胞などに応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0066】
細胞含有組成物の投与方法は、医療的に許容されるものであれば、特に制限されるものではない。細胞含有組成物の投与方法としては、例えば、静脈投与、皮下投与、外科的処置などが挙げられる。
細胞含有組成物の投与量、投与回数、投与期間は、特に制限されるものではなく、処置対象の状態に応じて、適宜設定すればよい。
【0067】
以上の特徴により、本発明の細胞含有組成物は、凍結保存後の細胞生存率が高く、製造効率を向上することができる。また、DMSO不含の凍結保存液を用いた場合には臨床上の安全性を向上することができる。
【実施例0068】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【0069】
[実施例1]凍結処理及び細胞生存率
(細胞積層シートの作製)
24ウェルプレート(ポリスチレン)の培養容器(2cm/ウェル、3820-024、AGCテクノグラス社)を準備し、2%血清含有AIM V(CTS AIM V Medium、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と等量のHFDM-1培養液(2%血清含有HFDM培養液(HFDM-1(+)(2102P、細胞科学研究所社))からなる培養液を培養容器のウェルに2mL加えた。培養液を加えたウェルに、特開2019-000038号公報に記載の方法にて分離したヒト由来の線維芽細胞を5×10個播種し、1日間、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で培養して細胞積層シートを作製した。得られた細胞積層シートは、培養容器に接着していた。
【0070】
(凍結処理)
上記細胞積層シートを作製した培養容器を氷上に置き、細胞積層シートを剥離することなく、細胞積層シートの底面が培養容器に接着した状態のままで培養容器におけるウェル中の培養液を、4℃に冷却した300μLの凍結保存液に置換して細胞積層シートを凍結保存液に浸漬させた。凍結保存液としては、DMSOを含有するステムセルバンカー(登録商標)(日本全薬工業社)、DMSOを含有しないステムセルバンカー(登録商標)DMSOフリーGMPグレード(日本全薬工業社)を用いた。
細胞積層シートが凍結保存液に浸漬し、培養容器に接着した試料(細胞積層シートが凍結保存液に浸漬した状態で培養容器に接着した、細胞積層シートと培養容器の接着物)の凍結処理は、24ウェルプレート培養容器に蓋をした状態又は蓋をしない状態で、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置(3Dフリーザー(登録商標)KSS-40BLW-2400V、古賀産業社)を用いて、-35℃、-45℃、又は-55℃の温度環境下、ファン速度40Hzで5分間処理した。
なお、凍結処理をしない試料は、培養液の置換のみ行った。
【0071】
(凍結保存)
凍結処理した試料、凍結処理しなかった試料の凍結保存は、凍結保存装置(Forma -86C ULT Freezer、Thermo Scientific社)を用いて、-80℃で2時間行った。
【0072】
(解凍処理)
凍結保存した試料の解凍は、凍結保存装置から試料を取り出して、温度を37℃に設定したプレート(Thermo Plate、東海ヒット社)上に10分間静置することにより行った。
【0073】
(細胞生存の測定)
解凍した試料は、2%血清含有AIM V と HFDM-1培養液の等量培養液で培地交換した後に、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で2日間培養し、さらに低酸素(5%)、33℃、5%COの条件下で1日間培養して、細胞生存の測定に用いた。
試料における生細胞活性は、MTSアッセイシステム(CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay、プロメガ社)を用いて測定した。
細胞生存は、CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagentで1時間処理した試料について、吸光度測定器(2030 ARVO X4、パーキンエルマー社)を用いて測定される490nmの吸光度を細胞生存値として数値化した。図1、2の細胞生存率は、対照群に対する各群の細胞生存値を百分率で算出したものである。また、図1の「凍結処理なし」は凍結処理しなかった試料を凍結保存した試料であり、「対照群」は、凍結処理及び凍結保存していない試料である。
【0074】
(統計解析)
統計解析は、統計処理ソフト(GraphPad Prism8、GraphPad Software社)を用いた。
また、図2における細胞生存率は、One-way ANOVA解析で、各群3検体の平均(標準偏差)で表し、P値が0.05未満である場合に統計的有意差があると判定して「*」を付した。
【0075】
(結果1:細胞生存に対する凍結処理の作用)
図1は、-45℃で凍結処理した試料の細胞生存率について示したものである。
図1に示すように、DMSOを含有する凍結保存液を用いた群とDMSOを含有しない凍結保存液を用いた群を比較すると、DMSOを含有しない凍結保存液を用いた群では、凍結処理を行わないと細胞生存率が対照群の約40%程度まで低下したが、凍結処理を行うことにより、対照群、又はDMSOを含有するステムセルバンカーを用いた群と同等にまで顕著に上昇した。なお、凍結処理した細胞積層シートの底面は、蓋あり、蓋なしのいずれにおいても自然に剥離することなく培養容器に接着していた。
【0076】
したがって、解凍後の細胞生存率は、-45℃で凍結処理することにより、DMSOを含有しない凍結保存液であっても向上することが認められた。
なお、DMSOを含有しない凍結保存液を用いた群における凍結処理による細胞生存率の上昇は、凍結処理時に培養容器に蓋で被覆しない試料では確認できなかった。これは、冷却装置内の気流により、凍結保存液が急激に冷却されることで、氷晶の形状が歪み、氷晶の形成による細胞損傷が生じたためと推察される。
【0077】
(結果2:細胞生存率に対する凍結処理温度の影響)
図2(A)は、DMSO非含有ステムセルバンカーを用いた試料の-35℃、-45℃、-55℃での凍結処理による細胞生存率を示したものである。
図2(A)に示すように、-45℃、-55℃での凍結処理を行った群を比較すると、-45℃での凍結処理では、-55℃の凍結処理に比して細胞生存率が有意に向上した。また、-35℃、-45℃での凍結処理を行った群を比較すると、-45℃での凍結処理では、-35℃の凍結処理に比して細胞生存率が上昇する傾向があるとともに、試料ごとの細胞生存率のばらつきが小さかった。このことは、図2(B)の細胞の生存状態を示した画像において、-35℃での凍結処理を行った群と比較して-45℃での凍結処理を行った群では、ばらつきがほとんどみられないことからも明らかである。
【0078】
したがって、解凍後の細胞生存率は、-35℃、-45℃、-55℃での凍結処理により、50%以上となることが認められた。また、-45℃での凍結処理を行った群では、細胞生存率が90%程度となり、試料ごとのばらつきも一層抑制されることが示された。
なお、細胞積層シートは、凍結保存処理から凍結処理後においても剥離することなく培養容器に接着していた。また、細胞積層シートは、ディスパーゼを添加することにより、培養容器から形状を維持した状態で剥離できた。
【0079】
以上の結果1、2から、細胞を凍結保存する前に-55℃以上-35℃以下で凍結処理を行うことにより、DMSOを含まない凍結保存液を用いた場合でも、細胞生存率が向上することが明らかとなった。
【0080】
[実施例2]凍結処理及び細胞生存率2
(細胞積層シートの作製)
24ウェルプレート(ポリスチレン)の培養容器(2cm/ウェル、3820-024、AGCテクノグラス社)を準備し、1ウェルに特開2019-000038号公報に記載の方法にて分離したヒト由来の線維芽細胞5×10個を、2%血清含有AIM V(CTS AIM V Medium、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)と等量のHFDM-1培養液(2%血清含有HFDM培養液(HFDM-1(+)(2102P、細胞科学研究所社))からなる2mL培養液で培養容器に播種し、3日間、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で培養した。
【0081】
(凍結処理)
上記細胞のウェルの培養液を10PU/mLディスパーゼ(386-02271、合同酒精社)0.5mLと置換して、40分、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で培養後に、ウェルの溶液を除去し、PBS(1102P、細胞科学研究所社)2mLでウェルを2回洗浄した。鑷子で細胞をウェルから剥離することで細胞積層シートが作製された。細胞積層シートを作製した培養容器を氷上に置き、ウェル中の溶液を、4℃に冷却した300μLの凍結保存液に置換して細胞積層シートを凍結保存液に浸漬させた。凍結保存液としては、DMSOを含有する凍結保存液(DMSO含有細胞保存液)としては(1)ステムセルバンカー(登録商標)(日本全薬工業社)、(2)バンバンカー(登録商標) hRM(日本ジェネティクス社)、(3)バンバンカー(登録商標)(日本ジェネティクス社)を用いた。また、DMSOを含有しない凍結保存液(DMSO不含細胞保存液)としては、(4)Cell Reservoir One(ナカライテスク社)、(5)クライオスカーレス(登録商標)DMSOフリー(バイオベルデ社)、(6)ステムセルキープ(バイオベルデ社)、(7)Cellvation(登録商標:Protide Pharmaceuticals社)、(8)ReproCryo RM(リプロセル社)を用いた。
試料の凍結処理は、24ウェルプレートに蓋をした状態で、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置(3Dメディカルフリーザー:古賀産業社)を用いて、-35℃の温度環境下、ファン速度40Hzで20分間処理した。コントロールの細胞積層シートは、凍結保存液の代わりにPBSを加えて室温で保存した。
【0082】
(凍結保存)
凍結処理した試料の凍結保存は、凍結保存装置(Forma -86C ULT Freezer、Thermo Scientific社)を用いて、-80℃で2時間行った。
【0083】
(解凍処理)
凍結保存した試料の解凍は、凍結保存装置から試料を取り出して、温度を37℃に設定したプレート(Thermo Plate、東海ヒット社)上に14分間静置することにより行った。
【0084】
(細胞生存の測定及び培養上清中のHGF測定)
解凍してPBSで洗浄した試料は、2%血清含有AIM V と HFDM-1培養液の等量培養液で培地交換した後に、大気中酸素(約20%)、37℃、5%COの条件下で3日間培養し、細胞生存の測定及び培養上清中のHGF測定に用いた。
【0085】
試料における生細胞は、実施例1と同様にMTSアッセイシステムを用いて測定した。
細胞生存率は、実施例1と同様に細胞生存値を求め、対照群に対する各群の細胞生存値を百分率で算出したものである。
【0086】
培養上清中のHGF測定は、37℃、5%COの条件下で3日間培養後の7日目の培養上清を2.0mLチューブに移し、3000rpmにて5分間遠心した後、上清を新規の1.5mLチューブに分取し、その上清中のHGF濃度をHuman HGF Quantikine ELISA Kit(DHG00B、R&D systems社)を用いて測定した。吸光度の測定と濃度計算には、iMark Microplate Reader(BIO-RAD社)とMPM6.exe(BIO-RAD社)を用いた。
【0087】
(結果)
図3は、-35℃で凍結処理した試料の細胞生存率について示したものであり、図4は-35℃で凍結した場合の解凍3日後の試料及びMTS反応4時間後の写真を示す。対象(コントロール)は、凍結保存液の代わりにPBSを加えて室温で保存したものである。
図3に示すように、DMSOを含有する凍結保存液を用いた群とDMSOを含有しない凍結保存液を用いた群を比較すると、DMSOを含有しない凍結保存液を用いた群では細胞生存率が低下したものの、40%以上を維持しており、特に(6)ステムセルキープと(8)ReproCryo RMでは50%以上、(5)クライオスカーレス(登録商標)DMSOフリーでは75%以上、(4)Cell Reservoir Oneではほぼ100%の細胞生存率であった。また、図4に示すように、バラツキは少なく、均一に凍結されていることが認められた。
【0088】
さらに、図5に示すように、培養上清中のHGFにおいては、いずれも対象と比較して約60%以上HGFを培養上清中に含有しており、特に対象と比較して(6)ステムセルキープでは80%以上、(4)Cell Reservoir One及び(7)Cellvationでは100%以上、(8)ReproCryo RMでは120%以上であった。
【0089】
上記図3~5の結果から、上記非貫流方式の非接触型冷風冷却装置による凍結では、様々な細胞保存液が使用可能であり、かつ、細胞だけでなく、細胞が高密度となる細胞積層シートの状態でも凍結することが可能であること、さらには、解凍後の細胞積層シートはHGFを分泌することが認められた。さらに、ディスパーゼで剥離した細胞積層シートを培養容器に静置して凍結した場合にも生存率を維持し、かつHGFの分泌が確認された。
【0090】
[実施例3]凍結方法による細胞生存率への影響
非貫流方式の非接触型冷風冷却装置で冷気を吹き付けて冷却する場合と、培養ウェルプレートを冷却プレートと接触させて緩慢凍結法による冷却する場合における細胞生存率の影響を調べた。
【0091】
実施例1と同様の方法で細胞積層シートを作製した。細胞積層シートを作製した培養容器を氷上に置き、ウェル中の溶液を、4℃に冷却した300μLの凍結保存液ステムセルバンカー(登録商標)(日本全薬工業社)に置換して細胞積層シートを凍結保存液に浸漬させた。次に、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置(3DフリーザーKSS-40BLW-2400V:古賀産業社)、又は冷却したプレートと培養容器を接触させて冷却する接触型プログラムフリーザー(VIA Freeze:ストレックス社)を用いて細胞積層シートを凍結した。3Dフリーザーによる凍結は-45℃の温度環境下、ファン速度40Hzで5分間処理した。一方、プログラムフリーザーによる凍結は、4℃ 5分ホールド、4℃から-30℃まで-2.0℃/分、-30℃、5分ホールド、-30℃から-80℃まで-1.0℃/分の設定で行った。その後、実施例1と同様の方法で凍結保存及び解凍を行い、解凍24時間後の細胞生存率を求めた。コントロールは、凍結処理なしの細胞積層シートで行った。
【0092】
(結果)
図6は、非凍結(コントロール)或いは2種類の方法で凍結処理した試料の細胞生存率について示したものである。
図6に示すように、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置で凍結した方が、接触型による緩慢凍結した場合と比較して細胞生存率が高いことが明らかとなった。
【0093】
[参考例1]
凍結保存液が、-55℃以上-35℃以下の環境下で凍結する際の温度変化を確認するために、以下の試験を行った。
(凍結保存液の温度測定)
凍結保存液としてステムセルバンカー(登録商標)DMSOフリーGMPグレードを加えて蓋をした24ウェルプレートの培養容器を、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置(3DフリーザーKSS-40BLW-2400V、古賀産業社)により、-35℃、-45℃、-55℃の温度環境下、ファン速度40Hzで冷却した。凍結保存液の経時的な温度変化は、温度測定器(ADL12、アズワン社)を用いて、各群6検体ずつ測定した。また、培養容器の蓋部の温度も同様に測定した。
【0094】
(結果)
図7(A)~(C)は、それぞれ-35℃、-45℃、-55℃での凍結処理による凍結保存液の温度変化を示したものである。また、図中の点線で囲まれた部分は、過冷却状態に特徴的なピークを示している。
図7に示すように、-35℃、-45℃、-55℃の環境下における凍結保存液の温度変化を比較すると、低温処理ほど早い時間に過冷却状態が観察された。
【0095】
したがって、-35℃、-45℃、-55℃での凍結処理により、5分以内に凍結保存液が過冷却状態になることが認められた。なお、凝固開始温度はいずれも-15℃以上-5℃以下であった。
【0096】
以上の結果から、凍結保存液は、-55℃以上-35℃以下の環境下で急速に冷却することで、過冷却状態を経て凍結することが明らかとなった。
【0097】
[参考例2]
様々な凍結保存液を用い、非貫流方式の非接触型冷風冷却装置を用いて凍結した場合とプログラムフリーザーを用いて緩慢凍結した場合の細胞保存液の凍結する際の温度変化を調べた。
【0098】
(凍結保存液の温度測定)
凍結保存液を6ウェルプレートの3ウェル(1ウェルに凍結保存液2mL)に加えて、非接触型冷風冷却装置(3Dメディカルフリーザー:古賀産業社)、又は接触型プログラムフリーザー(ストレックス社)を用いて凍結した。凍結保存液の経時的な温度変化は、温度測定器(ADL12、アズワン社)を用いて、各群3ウェルずつ測定した。凍結保存液は、実施例2と同様に(1)ステムセルバンカー(登録商標)(日本全薬工業社)、(2)バンバンカー(登録商標) hRM(日本ジェネティクス社)、(3)バンバンカー(登録商標)(日本ジェネティクス社)を用いた。また、DMSOを含有しない凍結保存液(DMSO不含細胞保存液)としては、(4)Cell Reservoir One(ナカライテスク社)、(5)クライオスカーレス(登録商標)DMSOフリー(バイオベルデ社)、(6)ステムセルキープ(バイオベルデ社)、(7)Cellvation(登録商標:Protide Pharmaceuticals社)、(8)ReproCryo RM(リプロセル社)を用いた。非接触型冷風冷却装置(3Dメディカルフリーザー)による凍結は実施例2、及び、プログラムフリーザーによる凍結は実施例3と同様の条件である。
【0099】
(結果)
図8A~Hに示すように、非接触型冷風冷却装置を用いた場合は冷却開始から約20分で-30℃に達しており、冷却開始から5分以内に過冷却状態に特徴的なピークを示している。一方、プログラムフリーザーで凍結した場合には、-30℃に達するまでに30分以上必要であり、冷却開始から15分以上経過後に過冷却状態に特徴的なピークを示している。また、
【0100】
図8A~Hより、-35℃での非接触型冷風冷却装置を用いた凍結処理により、過冷却状態を経てすばやく凍結することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の培養細胞の凍結保存方法及び細胞含有組成物によって、細胞を長期間保存できるだけでなく、解凍後の培養細胞の生存率及び臨床上の安全性が高い培養細胞を提供できる。これにより、再生医療分野などにおいて、目的とする細胞を安全に安定供給することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H