(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082732
(43)【公開日】2022-06-02
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/42 20060101AFI20220526BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20220526BHJP
H05B 6/10 20060101ALN20220526BHJP
H05B 6/40 20060101ALN20220526BHJP
【FI】
H05B6/42
H05B6/44
H05B6/10 371
H05B6/40
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063695
(22)【出願日】2022-04-07
(62)【分割の表示】P 2019006347の分割
【原出願日】2019-01-17
(71)【出願人】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
(72)【発明者】
【氏名】西村 昌訓
(57)【要約】
【課題】誘導加熱コイルの内側コイルの冷却を促進し得て被加熱物の軸孔内周面を効率良く加熱できて、軸孔内周面の加熱効率を十分に高めたり、被加熱物の上下面やエッジ部分を良好に加熱できて、被加熱物の全体を均一に誘導加熱可能な誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】
誘導加熱コイルが、コイル導体とコイルカバー及びこれらの基端側を支持しつつ放射温度センサが被加熱物の軸孔方向に指向する状態で取付可能な支持ブロックを有して被加熱物の軸孔内に挿入配置される内側コイルと、被加熱物の外周面に近接配置される外側コイルを有し、コイル導体と導体パイプが高周波電源に接続されて加熱コイルに高周波電流が供給されて被加熱物が誘導加熱され、該誘導加熱時の被加熱物の軸孔内面の温度が放射温度センサで検出可能に構成されると共に、コイルカバー内と導体パイプ内に冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されていることを特徴とする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタインバータからなる高周波電源と、該高周波電源の出力端子に接続される出力変成器と、該出力変成器の出力端子に接続される加熱コイルと、冷却器及び冷却タンクを有する冷却媒体供給手段を備えて、被加熱物の軸孔内面を誘導加熱する誘導加熱装置において、
前記加熱コイルは、所定回数巻回されたコイル導体、該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバー、及び前記コイル導体と前記コイルカバーの基端側を支持しつつ放射温度センサが前記被加熱物の軸孔方向に指向する状態で取付可能な支持ブロックを有し、
前記コイル導体が前記高周波電源に接続されて前記加熱コイルに高周波電流が供給されることで前記被加熱物の軸孔内面が誘導加熱され、該誘導加熱時の前記軸孔内面の温度が前記放射温度センサで検出可能に構成されると共に、前記コイルカバー内に前記冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
トランジスタインバータからなる高周波電源と、該高周波電源の出力端子に接続される出力変成器と、該出力変成器の出力端子に接続される加熱コイルと、冷却器及び冷却タンクを有する冷却媒体供給手段を備えて、被加熱物の軸孔内面と外周面を誘導加熱する誘導加熱装置において、
前記加熱コイルは、所定回数巻回されたコイル導体、該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバー、及び前記コイル導体と前記コイルカバーの基端側を支持しつつ放射温度センサが前記被加熱物の軸孔方向に指向する状態で取付可能な支持ブロックを有して前記被加熱物の軸孔内に挿入配置される内側コイルと、前記被加熱物の外周面に近接配置される外側コイルを有し、
前記コイル導体と前記導体パイプが前記高周波電源に接続されて前記加熱コイルに高周波電流が供給されることで前記被加熱物が誘導加熱され、該誘導加熱時の前記被加熱物の軸孔内面の温度が前記放射温度センサで検出可能に構成されると共に、前記コイルカバー内と前記導体パイプ内に前記冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されていることを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項3】
前記支持ブロックは、貫通状態のセンサ取付孔を有する円盤状に形成され、前記センサ取付孔に前記放射温度センサが装着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記内側コイルのコイル導体は、内部に扁平空間を有する潰し銅パイプからなるコイル状扁平パイプかあるいは銅の薄板等の内部に空間を有さない忠実状の導体であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記高周波電源の出力端子に、前記出力変成器が銅板等で固定的に接続されるかもしくは可撓性ケーブルを介して移動可能に接続されると共に、前記出力変成器の出力端子に、前記加熱コイルが直接固定接続されるかもしくは適宜のケーブルを介して固定接続されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱可能な金属等の材質からなる円筒状部材やリング状部材等であって、その中心位置に軸孔を有する被加熱物の少なくとも内周面(内径面)等を誘導加熱する際に使用される誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の誘導加熱装置としては、例えば特許文献1に開示されている。この誘導加熱装置(円筒物用誘導加熱装置)は、被加熱物の内周面と外周面にそれぞれ隣接する誘導加熱コイルとしての内側コイルと外側コイルを設け、内側コイルと外側コイルが、互いに同位相の電流が同方向に流れるように一つの高周波電源に直列接続されると共に、内側コイルの巻き数が外側コイルの巻き数より少なくとも1巻き多く巻回するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような誘導加熱装置にあっては、誘導加熱コイルの内側コイルと外側コイルが共に断面円形の丸パイプを所定回数巻回することにより形成され、これらが被加熱物の内周面や外周面に所定の間隙を有して近接配置されると共に、外側コイルの巻回状態が被加熱物の軸方向において均等となっているため、内側コイルや外側コイルによる被加熱物の加熱効率が劣ると共に、軸孔内周面や外周面、上下面等の被加熱物の全体を均一に加熱することが難しいという不都合を有している。
【0005】
すなわち、丸パイプを所定回数巻回した内側コイルが単に被加熱物の軸孔に挿入配置され、同コイルへの高周波電流の通電時にその丸パイプ内に冷却水が循環供給されて当該コイルの発熱を抑制する構造であることから、内側コイルを丸パイプの内面側からしか冷却することができず、通電時の内側コイル自体の発熱を十分に抑えることが難しい。その結果、被加熱物の軸孔内周面を誘導加熱する際に、その全域を均一に加熱することが困難であると共に、内側コイルによる加熱効率も劣り、例えば加熱時間が長くなる等、加熱効率を十分に高めることも困難である。
【0006】
また、被加熱物の外周面側に配置される巻き数の少ない外側コイルが、被加熱物の外周面の軸方向全域に亘って均等に巻回配置されると共に、被加熱物の軸孔内に挿入配置される巻き数の多い内側コイルも軸方向に均等に巻回配置されていることから、これらの両コイルで被加熱物を誘導加熱した場合、被加熱物の内周面や外周面はより加熱されるが上下面はその磁束の通過が弱く外周面等に比べて加熱され難くなると共に、被加熱物の内外周面のエッジ部分にも磁束が集中し易く当該エッジ部分が高温に加熱され、その他の内外周面や上下面が低温に加熱される状態となり、結果として、被加熱物全体を均一な温度で加熱することが一層困難となる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、誘導加熱コイルとしての内側コイルの冷却を促進し得て被加熱物の軸孔内周面全域を効率良く加熱でき、被加熱物の軸孔内周面の加熱効率を十分に高めつつ被加熱物の全体を均一に誘導加熱可能な誘導加熱装置を提供することにある。また、他の目的は、前記目的に加え、被加熱物の上下面や内外周面のエッジ部分を良好に加熱し得て被加熱物全体を一層均一な温度で加熱することが可能な誘導加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、トランジスタインバータからなる高周波電源と、該高周波電源の出力端子に接続される出力変成器と、該出力変成器の出力端子に接続される加熱コイルと、冷却器及び冷却タンクを有する冷却媒体供給手段を備えて、被加熱物の軸孔内面を誘導加熱する誘導加熱装置において、前記加熱コイルは、所定回数巻回されたコイル導体、該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバー、及び前記コイル導体と前記コイルカバーの基端側を支持しつつ放射温度センサが前記被加熱物の軸孔方向に指向する状態で取付可能な支持ブロックを有し、前記コイル導体が前記高周波電源に接続されて前記加熱コイルに高周波電流が供給されることで前記被加熱物の軸孔内面が誘導加熱され、該誘導加熱時の前記軸孔内面の温度が前記放射温度センサで検出可能に構成されると共に、前記コイルカバー内に前記冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、トランジスタインバータからなる高周波電源と、該高周波電源の出力端子に接続される出力変成器と、該出力変成器の出力端子に接続される加熱コイルと、冷却器及び冷却タンクを有する冷却媒体供給手段を備えて、被加熱物の軸孔内面と外周面を誘導加熱する誘導加熱装置において、前記加熱コイルは、所定回数巻回されたコイル導体、該コイル導体の外周側を覆う有底筒状のコイルカバー、及び前記コイル導体と前記コイルカバーの基端側を支持しつつ放射温度センサが前記被加熱物の軸孔方向に指向する状態で取付可能な支持ブロックを有して前記被加熱物の軸孔内に挿入配置される内側コイルと、前記被加熱物の外周面に近接配置される外側コイルを有し、前記コイル導体と前記導体パイプが前記高周波電源に接続されて前記加熱コイルに高周波電流が供給されることで前記被加熱物が誘導加熱され、該誘導加熱時の前記被加熱物の軸孔内面の温度が前記放射温度センサで検出可能に構成されると共に、前記コイルカバー内と前記導体パイプ内に前記冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、前記支持ブロックが、貫通状態のセンサ取付孔を有する円盤状に形成され、前記センサ取付孔に前記放射温度センサが装着されていることを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記内側コイルのコイル導体が、内部に扁平空間を有する潰し銅パイプからなるコイル状扁平パイプかあるいは銅の薄板等の内部に空間を有さない忠実状の導体であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記高周波電源の出力端子に、前記出力変成器が銅板等で固定的に接続されるかもしくは可撓性ケーブルを介して移動可能に接続されると共に、前記出力変成器の出力端子に、前記加熱コイルが直接固定接続されるかもしくは適宜のケーブルを介して固定接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のうち請求項1ないし5に記載の発明によれば、少なくとも被加熱物の軸孔内に挿入配置される誘導加熱コイルの内側コイルがコイル導体と有底筒状のコイルカバー及び支持ブロックを有し、コイル導体が高周波電源に接続されると共に、コイルカバー内と導体パイプ内に冷却媒体供給手段から冷却媒体が循環供給可能に構成されているため、誘導加熱コイルの内側コイルのコイルカバー内に循環供給される冷却媒体によりコイル導体を冷却媒体中に浸漬(どぶ漬け)状態で冷却でき、内側コイル自体の発熱を良好に抑制して被加熱物の軸孔内周面全域を効率良く加熱でき、被加熱物の加熱効率を十分に高めつつ被加熱物全体を均一に加熱することが可能になる。
【0014】
また、例えば内側コイルと外側コイルを高周波電源に並列接続すれば、高周波電源を複数台使用することが可能となり内側コイルと外側コイルに供給される高周波電流を調整できる等、被加熱物の形態に応じて最適な高周波電流の供給が可能になる。
【0015】
さらに、放射温度センサが内側コイルの支持ブロックに一体的に配設されると共に、放射温度センサの指向方向がコイルカバーの外周側と被加熱物の軸孔内周面(内部)間に指向し、かつ軸孔内部の放射が的確に受光できるように設定されていることから、誘導加熱コイルをセットしたまま(加熱状態のまま)で軸孔内部の所望位置(例えば軸方向の中央に近い位置)の加熱温度を精度良く逐次に測定できて、結果として軸孔内周面の略全域を所望温度で略均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係わる誘導加熱装置に使用される誘導加熱コイルの一実施形態を示す斜視図
【
図5】同誘導加熱コイルの内側コイルのコイル導体を示す(a)が正面図、(b)がその縦断面図
【
図6】同その(a)が
図5(b)のA部拡大図、(b)が
図5(b)のB部拡大図、(c)が
図5(a)のC-C線矢視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1及び
図2は、本発明に係わる誘導加熱装置に使用される誘導加熱コイルの一実施形態を示している。
図1及び
図2に示すように、誘導加熱コイル1(加熱コイル1という)は、内側コイル2と外側コイル3及びこれらを支持するホルダー4を備えている。
【0018】
前記ホルダー4は、所定幅で所定長さの長尺状の一対の銅板4aを有し、この銅板4aが絶縁板4bを介して圧接されると共に、これらが前記内側コイル2と外側コイル3の両端部を支持するそれぞれ一対の支持板4c、4dとボルト4e等により圧接固定状態とされている。
【0019】
前記内側コイル2は、被加熱物としてのロータWの軸孔Wa内に挿入配置され、その内部に後述するコイル導体2a1が挿入配置されたコイルカバー2a2と、このコイルカバー2a2の基端部を支持する円盤状の支持ブロック2b等を有し、コイルカバー2a2から支持ブロック2bの上面側に所定寸法突出した第1パイプ及び第2パイプとしての丸銅パイプ2c1、2c2が、前記ホルダー4の銅板4aの外面(表面)に支持板4cとボルト4eにより固定支持されている。
【0020】
また、前記外側コイル3は、そのコイル部3aが前記ロータWの外周面Wbの外側に近接配置され、その両端部の上方に延設された基端部3bが前記ホルダー4の銅板4aの外面に支持板4dとボルト4eにより固定支持されている。なお、各銅板4aの外面で内側コイル2と外側コイル3用の支持板4c、4d間には、銅の角パイプからなる側面視コ字状の冷却パイプ5がそれぞれロー付け固着されている。そして、この一対の冷却パイプ5(一方のみ示す)の上方への各突出両端部と、前記内側コイル2の支持板4cから上方に突出した一対の両端部及び前記外側コイル3の支持板4dから上方に突出した一対の両端部には、ホースジョイント6がそれぞれ(合計8個)固着されている。
【0021】
次に、前記内側コイル2の具体的な構成を、
図3~
図6に基づいて説明する。内側コイル2は、
図3に示すように、コイル部2aと、このコイル部2aの基端側(
図4に置いて上方側)を支持する前記支持ブロック2b等を備えている。前記コイル部2aは、
図4に示すように、扁平パイプを軸方向に均等ピッチで所定回数コイル状に巻回したコイル導体2a1と、このコイル導体2a1の外周側と先端側とを覆うベーク材等の絶縁体で形成された有底筒状のコイルカバー2a2を有している。
【0022】
このとき、コイル導体2a1は、導体である所定径の丸銅パイプを直径(断面)方向に潰すことで、内部に扁平空間9(
図6参照)を有した潰し銅パイプが使用され、この潰し銅パイプを直線状の軸芯に沿って所定回数一定ピッチで巻回することによりコイル状に形成されている。なお、コイル導体2a1の基端側には、巻回されることなく上方に所定長さ一体的に延設された直線部2a3が設けられている。
【0023】
また、コイル導体2a1の一方の端部となる先端部(
図4において下方端部)と他方の端部となる直線部2a3の基端部には、一対の直線状の前記丸銅パイプ2c1、2c2の先端部がそれぞれロー付け固着され、一方の丸銅パイプ2c1は、コイル導体2a1の軸心位置を貫通する状態でその基端部が上方に所定長さ延設されている。また、他方の丸銅パイプ2c2は、その上端位置が丸銅パイプ2c1と同一となるように長さが短く設定されて、その先端部がコイル導体2a1の前記直線部2a3の基端部にロー付け固着されている。
【0024】
そして、一方の丸銅パイプ2c1の先端部には、
図6(b)に示すように、連通孔7aが形成されてコイル導体2a1の先端部の扁平空間9に連通状態とされ、他方の丸銅パイプ2c2の先端部にも、
図6(a)に示すように、連通孔7bが形成されてコイル導体2a1の基端部(直線部2a3)の扁平空間9に連通状態とされている。なお、丸銅パイプ2c1と丸銅パイプ2c2の先端部(下端)は開口されて、それぞれコイルカバー2a2内に連通状態とされている。また、コイルカバー2a2は、その開口部となる上端部(基端部)が、後述する支持ブロック2bにその内部空間が気密状態となるように支持されている。
【0025】
これにより、例えば一方の丸銅パイプ2c1の基端部から供給された冷却媒体としての冷却水が、丸銅パイプ2c1内を流れてその先端の開口からコイルカバー2a2の底部内に所定圧で噴出供給され、底部内面で跳ね返された冷却水がコイルカバー2a2内を上方に流れると共に、連通孔7aを介してコイル導体2a1の先端部からその扁平空間9内に流入して該扁平空間9内を上方に流れ、その基端部から他方の丸銅パイプ2c2内に流入する。
【0026】
また同時に、コイルカバー2a2内を上部まで流れた冷却水も、他方の丸銅パイプ2c2の先端部内に流入する。つまり、一方の丸銅パイプ2c1からコイルカバー2a2の底部に供給される冷却水が、コイルカバー2a2内を流通する流路と、コイル導体2a1の扁平空間9内を流通する二系統の流路で流れ、コイル導体2a1がその外部(外面側)と内部(内面側)から同時に冷却されることになる。
【0027】
前記内側コイル2の支持ブロック2bは、
図3及び
図4に示すように、それぞれ絶縁材で形成された、カバー固定ナット2b1、センサ支持板2b2及び分割状態のコイルクランプ2b3等を有し、全体として円盤形状を呈し、コイルカバー2aの上端部を気密状態で支持している。
【0028】
なお、前記センサ支持板2b2(及びカバー固定ナット2b1)には、センサ取付孔8(センサ取付部)が上下方向に貫通状態で設けられており、このセンサ取付孔8に図示しない放射温度センサが下方(ロータWの軸孔Wa方向)に指向する状態で装着されて、ロータWの軸孔Wa内面の高さ(深さ)方向の所定位置の温度を検出(測定)可能となっている。そして、内側コイル2は、カバー固定ナット2b1等により、前記コイル部2aの基端部が丸銅パイプ2c1、2c2等を介して支持ブロック2bに支持されつつ、ホルダー4に支持されている。
【0029】
一方、前記外側コイル3は、
図1及び
図2に示すように、外周面が絶縁材で覆われた導体パイプとしての丸銅パイプを所定回数巻回(図では略4巻)することで形成されたコイル部3aと、このコイル部3aの両端部を上方(ホルダー4方向)に直線状に延設した一対の基端部3bを有している。このとき、コイル部3aは、ロータWの軸方向両端の上面Wdと下面Weに近接配置される上端部分3a1及び下端部分3a2が、例えばそれぞれ略1.5巻に設定(密に巻回)され、この一対の上端部分3a1と下端部分3a2間の巻き数が略1巻に設定(粗に巻回)されている。
【0030】
このように構成された前記加熱コイル1は、
図7に示すように、本発明に係る誘導加熱装置10に接続されて使用される。すなわち、誘導加熱装置10は、高周波電源としてのトランジスタインバータ11と、このトランジスタインバータ11の出力端子に銅板等で固定的に接続されるかもしくは可撓性ケーブルを介して移動可能に接続される出力変成器12と、冷却器や冷却水タンク等を有する冷却媒体供給手段としての冷却水供給装置13と、図示しない制御装置等を備えている。
【0031】
そして、出力変成器12の一対の出力端子に、前記ホルダー4の一対の銅板4aが図示しない例えば固定ボルト等で直接固定接続されるか、適宜のケーブルを介して固定接続される。この接続により、一対の銅板4aに内側コイル2と外側コイル3の丸銅パイプ2c1、2c2や基端部3bがそれぞれ接続されることから、出力変成器12(高周波電源)の出力端子に内側コイル2と外側コイル3が並列接続された状態となる。
【0032】
また、前記冷却水供給装置13は、その供給口が内側コイル2、外側コイル3及び冷却パイプ5の一方のホースジョイント6にホースを介してそれぞれ接続され、その戻り口が内側コイル2、外側コイル3及び冷却パイプ5の他方のホースジョイント6にホースを介してそれぞれ接続される。つまり、冷却水供給装置13に内側コイル2と外側コイル3のコイル部2a、3a及び冷却パイプ5が並列接続された状態となる。
【0033】
なお、この冷却水の循環流路(接続形態)は、並列接続状態に限らず、例えば内側コイル2と外側コイル3及び冷却パイプ5を全て直列状態で接続したり、あるいはこれら3つの内の2つを直列状態で接続することも勿論可能である。また、例えば冷却水供給装置13に冷却水の供給圧力が異なる複数の供給口を設けて内側コイル2と外側コイル3への冷却水の供給圧力を異なる(内側コイル2への圧力を外側コイル3への圧力より高く設定する)ようにして、冷却水の循環量を最適に設定しても良い。
【0034】
そして、
図7の接続状態で加熱コイル1を、図示しないセット台上にセットされているロータWの上面Wd側から下降させて、内側コイル2のコイルカバー2a2部分をロータWの軸孔Wa内に挿入配置すると共に、外側コイル3のコイル部3aをロータWの外周面Wbの外周側に所定の間隔を有して近接配置する。このとき、内側コイル2は、そのコイルカバー2a2の先端部がロータWの下面Weから所定寸法突出し、外側コイル3は、コイル部3aの上端部分3a1と下端部分3a2がロータWの上面Wdと下面Weに略対向するように設定する。
【0035】
この状態で、誘導加熱装置10のトランジスタインバータ11と冷却水供給装置13を作動させると、トランジスタインバータ11から高周波電流が、出力変成器12、ホルダー4を介して、内側コイル2(コイル導体2a1)に供給(給電)されると同時に外側コイル3(コイル部3a)にも供給される。両コイル2、3に高周波電流が供給されると、ロータWの軸孔Wa内周面やロータWの外周面Wb、上面Wd、下面We等に渦電流が誘起されてロータWが誘導加熱される。
【0036】
このとき、内側コイル2のコイル導体2a1が扁平銅パイプであることから、その幅が広くなって軸孔Waの内周面に対向する導体の表面積を例えば単なる丸銅パイプ等に比較して大きく、すなわちコイル導体2a1から軸孔Wa内周面に向けて照射される磁力線の数を増大でき、効率的な誘導加熱状態が得られることになる。
【0037】
この誘導加熱による軸孔Waの内周面の加熱温度は、放射温度センサ(図示せず)で逐次測定され、その信号が誘導加熱装置10の制御装置(図示せず)に入力される。そして、測定温度が制御装置に予め設定してある設定温度となった時点で、例えばトランジスタインバータ11の作動を停止させる。これにより、ロータWの軸孔Wa内周面が所定温度で誘導加熱されることになる。
【0038】
なお、放射光を受光する放射温度センサが、内側コイル2の支持ブロック2bのセンサ支持板2b2等に一体的に配設されると共に、放射光の指向方向がコイルカバー2bの外周側とロータWの軸孔Wa内周面(内部)間に指向し、かつ軸孔Wa内部の放射が的確に受光できるように設定されていることから、加熱コイル1をセットしたまま(加熱状態のまま)で軸孔Wa内部の所望位置(例えば軸方向の中央に近い位置)の加熱温度を精度良く逐次に測定できて、結果として軸孔Wa内周面の略全域を所望温度で略均一に加熱できることになる。
【0039】
一方、内側コイル2の誘導加熱と同時に外側コイル3による誘導加熱でロータWの外周面Wb等も所定温度まで誘導加熱される。この外周面Wbの誘導加熱時において、外側コイル3のコイル部3aの巻き数状態がロータWの上面Wdと下面We部分が中間部分より密に設定(巻回)されていることから、上面Wdと下面Weやエッジ部分Wcの磁束を制御できて、これらを内外周面と略同一に加熱、すなわち、ロータWの全体を均一に誘導加熱することが可能になる。なお、例えばロータWの誘導加熱時の外周面Wbの加熱温度は、前述した内側コイル2用の放射温度センサとは別体の放射温度センサ等で測定されるようになっている。
【0040】
また、トランジスタインバータ11と例えば略同時に冷却水供給装置13が作動すると、冷却水が内側コイル2の一対のホースジョイント6を介してコイルカバー2a2内やコイル導体2a1内に循環供給されて、内側コイル2のコイル導体2a1が外面側と内面側から冷却、つまり、内側コイル2のコイル導体2a1に、その内部に冷却水が流通する流路と、コイルカバー2a2内に冷却水が流通する流路の二系統の冷却水流路が形成されることになる。
【0041】
これにより、冷却水がコイルカバー2a2内を流通してコイル導体2a1を冷却することから、コイル導体2a1が冷却水中に浸漬状態で冷却されると共に、扁平空間9内面と表面(外面)に冷却水が確実に接触しつつ冷却されて、通電時のコイル導体2aの発熱が効率的に抑制されることになる。
【0042】
また、冷却水供給装置13から供給される冷却水は、外側コイル3の丸銅パイプ内にも循環供給されて、外側コイル3が内面側から冷却される。このとき、外側コイル3は内側コイル2に比較して外径が大径でかつ巻き数の少ない丸銅パイプであることから、丸銅パイプ内を冷却水が良好に流通して外側コイル3に内側コイル2と略同程度の冷却状態が容易に得られることになる。
【0043】
また、内側コイル2と外側コイル3の支持板4c、4d間の銅板4a外面(表面)に冷却パイプ5が固着されていることから、支持板4a、4c間の銅板4a自体の発熱が抑えられることになる。つまり、内側コイル2や外側コイル3自体の発熱や両コイル2、3を支持する銅板4a自体の発熱が抑えられて、通電的の加熱コイル1自体の発熱による加熱効率の低下が防止されることになる。
【0044】
そして、このようにして加熱コイル1で軸孔Wa内周面や外周面Wcが加熱されたロータ10は、エッジ部分Wcの異常な加熱によるロータWを構成する積層珪素鋼板端部等の薄利や浮き等の変形が防止され、高品質なロータWを容易に得ることが可能になる。その結果、例えば加熱状態のロータWの軸孔Wa内への回転軸の焼き嵌め等の作業が簡単かつ高精度に行えることになる。
【0045】
このように、前記誘導加熱装置10の加熱コイル1によれば、内側コイル2が、コイル導体2a1と該コイル導体2a1の外周側を覆う有底筒状のコイルカバー2a2を有して、コイル導体2a1の両端部がトランジスタインバータ11に出力変成器12を介して接続されると共に、冷却水供給装置13からコイルカバー2a2内に冷却水が循環供給されるため、コイルカバー2a2内に循環供給される冷却水によりコイル導体2a1を冷却水中に浸漬(どぶ漬け)状態で冷却でき、内側コイル2自体の発熱を良好に抑制しつつロータWの軸孔Wa内周面を効率良く加熱できて、その加熱効率を十分に高めることが可能になる。
【0046】
また、外側コイル3が、ロータWの外周面Wbの上下両端部分が密に巻回されその他の部分が粗に巻回されているため、ロータWの上下面Wd、Weやエッジ部分Wcの磁束を制御できて、ロータW全体を均一な温度で加熱することができ、高品質なロータWを容易に得ることができる。
【0047】
また、内側コイル2のコイル導体2a1がコイル状扁平パイプで形成され、このコイル導体2a1の軸心位置に丸銅パイプ2c1が挿通されて、この丸銅パイプ2c1の先端部とコイル状扁平パイプの先端部が連結されると共に、丸銅パイプ2c1、2c2が支持ブロック2bに支持されているため、丸銅パイプ2c1でコイル導体2a1を確実に支持しつつコイルカバー2a2内に安定配置できると共に、内側コイル2自体をホルダー4に安定支持させることができる。
【0048】
特に、内側コイル2のコイル導体2a1の構成により、次のような格別な作用効果を得ることができる。すなわち、コイル部2aを軸孔Wa内に挿入配置した状態で、コイル導体2a1にトランジスタインバータ11から高周波電流を供給すると共に、冷却水供給装置13からコイルカバー2a2内とコイル導体2a1の扁平空間9内に冷却水を供給して、ロータWの軸孔Wa内周面を誘導加熱するため、コイル導体2a1の外周面の全域と扁平空間9内面を冷却水で同時に冷却できて、コイル導体2a1の通電時の発熱を効果的に抑制しその加熱効率を一層高めることができる。
【0049】
また同時に、コイル導体2a1が、丸銅パイプを扁平状に潰した潰し銅パイプで形成されているため、丸銅パイプを潰して巻回することでコイル状導体2a1を容易に形成することができて、加熱コイル1のコストアップを抑えることが可能になる。
【0050】
また、丸銅パイプ2c1の先端部がコイルカバー2a2の底部内部に連通すると共にコイル導体2a1の先端部に連通孔7aで連通しているため、例えば丸銅パイプ2c1から供給される冷却水をコイルカバー2a2の底部から該カバー2a2内に供給できると共に、冷却水を連通孔7aによりコイル導体2a1内にも供給できて、コイルカバー2a2やコイル導体2a1内に冷却水を一層良好に循環させて、内側コイル2自体の発熱を一層良好に抑制することができる。
【0051】
特に、冷却水供給装置13からの冷却水が、コイル導体2a1の扁平空間9とコイルカバー2b内に供給可能であるため、コイルカバー2b内の冷却水流路を二系統として、ロータWの形態等に応じて冷却系統を設定でき、コイル導体2a1の冷却効果をより最適に設定することができる。このとき、コイル導体2a1の扁平空間9内やコイルカバー2a2内への冷却水の供給を、コイルカバー2a2内の冷却水の温度に基づいて制御するように構成すれば、コイル導体2a1の冷却状態に応じた一層最適な条件での冷却が可能になる。
【0052】
またさらに、内側コイル2と外側コイル3が高周波電源に並列接続されるため、例えば高周波電源を複数台使用することも可能となり内側コイル2と外側コイル3に供給される高周波電流を調整できる等、ロータWの形態に応じて最適条件の高周波電流の供給が可能になり、各種形態のロータWに容易に対応することができる。
【0053】
なお、前記実施形態においては、内側コイル2のコイル導体2a1として、内部に扁平空間9を有する潰し銅パイプからなるコイル状扁平パイプを使用したが、例えば銅の薄板等の内部に空間を有さない中実状の適宜導体をコイル導体として使用することもでき、この場合は、丸銅パイプ2c1、2c2から供給される冷却水は、コイルカバー2a1内にのみ循環供給するように構成すれば良い。
【0054】
また、前記実施形態における、内側コイル2や外側コイル3の巻き数及び粗密の形態、内側コイル2の支持ブロック2bやホルダー4の形態、冷却媒体の形態、誘導加熱装置10の形態等は一例であって、例えば内側コイル2のコイル導体2a1の巻回形態を均等ピッチではなく軸孔Waの上下開口部分と中心部分とで異ならせて、軸孔Wa内周面の全域に一層均一な加熱状態が得られるようにする等、前記実施形態と同等の作用効果が得られかつ本発明に係わる各発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、ロータ等の被加熱物への適用に限らず、少なくとも中心位置の軸孔内周面に誘導加熱が必要な全ての被加熱物に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1・・・誘導加熱コイル、2・・・内側コイル、2a・・・コイル部、2a1・・・コイル導体、2a2・・・コイルカバー、2a3・・・直線部、2b・・・支持ブロック、2b1・・・カバー固定ナット、2b2・・・センサ支持板、2b3・・・コイルクランプ、2c1、2c2・・・丸銅パイプ、3・・・外側コイル、3a・・・コイル部、3b・・・基端部、4・・・ホルダー、4a・・・銅板、4c、4d・・・支持板、5・・・冷却パイプ、6・・・ホースジョイント、7a、7b・・・連通孔、9・・・扁平空間、10・・・誘導加熱装置、11・・・トランジスタインバータ、12・・・出力変成器、13・・・冷却水供給装置、W・・・ロータ、Wa・・・軸孔、Wb・・・外周面、Wc・・・エッジ部分、Wd・・・上面、We・・・下面。