(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082887
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
H01L21/60 301P
H01L21/60 321Y
H01L21/60 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194040
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 憲司
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044AA02
5F044CC01
5F044EE07
(57)【要約】
【課題】ワイヤ接続試験の頻度増加に伴う半導体装置の製造効率の低下を抑制する。
【解決手段】半導体装置PKG1は、複数のパッドPDを有する半導体チップCPと、複数のパッドPDのそれぞれに電気的に接続されるワイヤBWと、を有する。複数のパッドPDは、半導体チップCPが備える回路10と電気的に接続され、かつ、ワイヤBW1が接合されている複数のパッドPD1と、ワイヤ接続試験用の電極パッドであって、ワイヤBW2が接合されているパッドPD2と、を含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および前記第1主面において露出する複数の電極パッドを有する半導体チップと、
前記複数の電極パッドのそれぞれに電気的に接続されるワイヤと、
を有し、
前記複数の電極パッドは、
前記半導体チップが備える回路と電気的に接続され、かつ、第1ワイヤが接合されている複数の第1電極パッドと、
ワイヤ接続試験用の電極パッドであって、第2ワイヤが接合されている第2電極パッドと、
を含む、半導体装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2電極パッドは、前記半導体チップ内において前記半導体チップが備える回路と電気的に分離されている、半導体装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ワイヤを介して前記複数の電極パッドと電気的に接続される複数の端子を更に有し、
前記複数の端子は、
前記第1ワイヤを介して前記複数の第1電極パッドに接続される複数の第1端子と、
前記第2ワイヤを介して前記第2電極パッドに接続される第2端子と、
を含み、
前記複数の第1端子と前記第2端子とは電気的に分離されている、半導体装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記ワイヤを介して前記複数の電極パッドと電気的に接続される複数の端子を更に有し、
前記複数の端子は、
前記第1ワイヤを介して前記複数の第1電極パッドに接続される複数の第1端子と、
前記第2ワイヤを介して前記第2電極パッドに接続され、かつ、前記第1ワイヤを介して前記複数の第1電極パッドに接続される第2端子と、
を含む、半導体装置。
【請求項5】
(a)第1主面、前記第1主面の反対側の第2主面、および前記第1主面において露出する複数の電極パッドを有する半導体チップを準備する工程と、
(b)前記(a)工程の後、前記複数の電極パッドのそれぞれにワイヤを接続する工程と、
を含み、
前記複数の電極パッドは、
前記半導体チップが備える回路と電気的に接続され、かつ、前記(b)工程において第1ワイヤが接合される複数の第1電極パッドと、
前記(b)工程において第2ワイヤが接合される第2電極パッドと、
を含み、
前記(b)工程は、
(b1)ワイヤボンディング装置を用いて前記第2電極パッドに前記第2ワイヤを接合し、前記第2ワイヤを接合する際の前記ワイヤボンディング装置の動作を制御している電流または電圧を計測する工程と、
(b2)前記(b1)工程により得られた測定データに基づいて前記ワイヤボンディング装置による加工動作の合否を判定する工程と、
(b3)前記ワイヤボンディング装置を用いて前記複数の第1電極パッドのそれぞれに、順次前記第1ワイヤを接合する工程と、
を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記(b3)工程は、前記(b2)工程の後に実施される、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
請求項5において、
前記(b1)工程において、前記第2電極パッドに前記第2ワイヤを接合する際の前記ワイヤボンディング装置の設定条件と、前記(b3)工程において、前記複数の第1電極パッドに前記第1ワイヤを接合する際の前記ワイヤボンディング装置の設定条件と、は互いに異なる、半導体装置の製造方法。
【請求項8】
請求項5において、
前記ワイヤボンディング装置は、前記(b1)工程において、前記第2ワイヤと前記第2電極パッドとの接合部分に超音波を供給する発振器を備え、
前記(b1)工程では、前記発振器の動作を制御している電流または電圧を計測する、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項6において、
前記(b)工程は、
前記(b2)工程の後、かつ、前記(b3)工程の前に、前記ワイヤボンディング装置による加工動作の合否を判定した結果に基づいて、前記ワイヤボンディング装置の設定条件を変更する工程を含む、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記(b1)工程は、複数の前記第2電極パッドに対して繰り返し実施され、
前記(b2)工程では、複数回の前記(b1)工程により得られた計測データの変化に基づいて、前記ワイヤボンディング装置の設定条件の変更の要否を判定する、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップの電極パッドと、半導体チップの周囲に配置される端子とをワイヤを介して電気的に接続する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体チップにワイヤを接続するワイヤボンディングは、ワイヤボンダと呼ばれる製造装置を利用して実施される。ワイヤボンダを用いて安定的にワイヤボンディングを行うためには、ワイヤボンダの動作状態を確認するためのワイヤ接続試験を定期的に実施することが好ましい。ワイヤボンダの動作状態を正確に計測する観点からは、ワイヤ接続試験の頻度が多い方が好ましい。一方、ワイヤ接続試験用の半導体チップを準備する必要がある場合、ワイヤ接続試験の頻度に反比例して、半導体装置の製造効率が低下する。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態による半導体装置は、第1主面、上記第1主面の反対側の第2主面、および上記第1主面において露出する複数の電極パッドを有する半導体チップと、上記複数の電極パッドのそれぞれに電気的に接続されるワイヤと、を有する。上記複数の電極パッドは、上記半導体チップが備える回路と電気的に接続され、かつ、第1ワイヤが接合されている複数の第1電極パッドと、ワイヤ接続試験用の電極パッドであって、第2ワイヤが接合されている第2電極パッドと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
上記一実施の形態によれば、ワイヤ接続試験の頻度増加に伴う半導体装置の製造効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施の形態である半導体装置の上面図である。
【
図2】
図1に示す半導体装置の実装面側を示す下面図である。
【
図4】
図1に示す封止体を取り除いた状態で配線基板の上面側を示す透視平面図である。
【
図5】
図4に示す複数の電極パッドのうちの一部の電気的な接続関係を模式的に示す説明図である。
【
図7】
図1~
図6を用いて説明した半導体装置の組立工程のフローを示す説明図である。
【
図8】
図7に示す基板準備工程で準備する配線基板の全体構造を示す平面図である。
【
図9】
図7に示すワイヤボンド工程で使用するワイヤボンディング装置とワイヤ接続対象物(電極パッドや端子)との位置関係を示す平面図である。
【
図10】
図9のA-A線に沿った断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本願における記載形式・基本的用語・用法の説明)
本願において、実施の態様の記載は、必要に応じて、便宜上複数のセクション等に分けて記載するが、特にそうでない旨明示した場合を除き、これらは相互に独立別個のものではなく、記載の前後を問わず、単一の例の各部分、一方が他方の一部詳細または一部または全部の変形例等である。また、原則として、同様の部分は繰り返しの説明を省略する。また、実施の態様における各構成要素は、特にそうでない旨明示した場合、理論的にその数に限定される場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、必須のものではない。
【0010】
同様に実施の態様等の記載において、材料、組成等について、「AからなるX」等といっても、特にそうでない旨明示した場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、A以外の要素を含むものを排除するものではない。たとえば、成分についていえば、「Aを主要な成分として含むX」等の意味である。たとえば、「シリコン部材」等といっても、純粋なシリコンに限定されるものではなく、SiGe(シリコン・ゲルマニウム)合金やその他シリコンを主要な成分とする多元合金、その他の添加物等を含む部材も含むものであることはいうまでもない。また、金めっき、Cu層、ニッケル・めっき等といっても、そうでない旨、特に明示した場合を除き、純粋なものだけでなく、それぞれ金、Cu、ニッケル等を主要な成分とする部材を含むものとする。
【0011】
さらに、特定の数値、数量に言及したときも、特にそうでない旨明示した場合、理論的にその数に限定される場合および文脈から明らかにそうでない場合を除き、その特定の数値を超える数値であってもよいし、その特定の数値未満の数値でもよい。
【0012】
また、実施の形態の各図中において、同一または同様の部分は同一または類似の記号または参照番号で示し、説明は原則として繰り返さない。
【0013】
また、添付図面においては、却って、煩雑になる場合または空隙との区別が明確である場合には、断面であってもハッチング等を省略する場合がある。これに関連して、説明等から明らかである場合等には、平面的に閉じた孔であっても、背景の輪郭線を省略する場合がある。更に、断面でなくとも、空隙でないことを明示するため、あるいは領域の境界を明示するために、ハッチングやドットパターンを付すことがある。
【0014】
また、以下の実施の形態では、半導体チップおよび半導体チップに接続される複数のワイヤを備える半導体装置の一例として、半導体チップが配線基板上に搭載され、半導体チップと配線基板とが複数のワイヤを介して電気的に接続された半導体パッケージを取り上げて説明する。ただし、以下で説明する技術を適用して有効な半導体装置には、種々の変形例がある。例えば、半導体チップが搭載されるダイパッドと、ダイパッドの周囲に配置される複数のリードとを有し、半導体チップの複数の電極パッドと、複数のリードとがワイヤを介して電気的に接続される、リード製品に利用可能である。このように以下で説明する技術は、複数の電極パッドを備える半導体チップを有すること、および複数の電極パッドのそれぞれにワイヤが接続されていること、の条件を満たす範囲で、様々な半導体装置に適用可能である。
【0015】
<半導体装置>
図1は本実施の形態の半導体装置の上面側を示す上面図である。また、
図2は、
図1に示す半導体装置の実装面側を示す下面図である。また、
図3は、
図1のA-A線に沿った断面図である。また、
図4は、
図1に示す封止体を取り除いた状態で配線基板の上面側を示す透視平面図である。
【0016】
図1および
図2に示すように、半導体装置PKG1は、平面視において四角形を成す。なお、
図1および
図2では、半導体装置PKG1の平面形状が正方形である例を例示しているが、例えば長方形でも良い。
図3に示すように、本実施の形態の半導体装置PKG1は、配線基板WS、配線基板WS上に搭載される半導体チップCP、および半導体チップCPを封止する封止体MRを有する。半導体チップCPと配線基板WSとは、ワイヤBWを介して接続されている。封止体MRは、配線基板WSの上面(チップ搭載面、主面)WSt上に形成され、上面WSt全体を覆う。また、封止体MRは、半導体チップCPおよび複数のワイヤBWの全体を覆う。
【0017】
図3に示すように、配線基板WSは、上面WSt、および上面WStの反対側の下面(実装面、主面)WSbを備える。また、配線基板WSは、基材である絶縁層IL1、絶縁層IL1の上面(主面、面)IL1tを覆う絶縁膜(保護膜、ソルダレジスト膜)SR1、および絶縁層IL1の下面(主面、面)IL1bを覆う絶縁膜(保護膜、ソルダレジスト膜)SR2を備える。絶縁層IL1の上面IL1tは、半導体チップCPと対向する面であり、下面IL1bは、上面IL1tの反対側の面である。絶縁層IL1は、例えば、ガラス繊維に樹脂を含浸させたプリプレグから成る。絶縁膜SR1、SR2は、複数の配線間の短絡や、断線などを防止する保護膜である。絶縁膜SR1は、配線基板WSの最上面である上面WStに、絶縁膜SR2は、配線基板WSの最下面である下面WSbに、それぞれ形成されている。
【0018】
また、配線基板WSは、絶縁層IL1の上面IL1t側に配置され、複数の導体パターンが形成される配線層WL1と、絶縁層IL1の下面IL1b側に配置され、複数の導体パターンが形成される配線層WL2と、を備える。配線層WL1に形成される導体パターンは、複数の端子BFを含む。複数の端子BFのそれぞれは、配線基板WSの上面WStにおいて絶縁膜SR1から露出する。絶縁膜SR1には、開口部SRk1が形成され、開口部SRk1において端子BFが絶縁膜SR1から露出している。また、配線層WL1に形成される導体パターンは、端子BFに接続される配線WR1を含む。配線WR1は、絶縁膜SR1に覆われる。配線層WL2に形成される導体パターンは、複数のランド(端子)LDを含む。複数のランドLDのそれぞれは、配線基板WSの下面WSbにおいて絶縁膜SR2から露出する。絶縁膜SR2には、開口部SRk2が形成され、開口部SRk2においてランドLDが絶縁膜SR2から露出している。また、配線層WL2に形成される導体パターンは、ランドLDに接続される配線WR2を含む。配線WR2は、絶縁膜SR2に覆われる。
【0019】
配線基板WSは、絶縁層IL1を厚さ方向(
図3のZ方向)に貫通する複数のビア配線WRvを備える。ビア配線WRvは、配線層WL1と配線層WL2とを電気的に接続する層間導電路である。複数の端子BFと複数のランドLDとは、複数のビア配線WRvを介して電気的に接続される。ビア配線は、上面WStおよび下面WSbのうちの一方の面(例えば上面WSt)側から他方の面(例えば下面WSb)側に向かって延びる。
【0020】
複数のランドLDには、複数の半田ボール(半田材)SBがそれぞれ接続される。ランドLDおよび半田ボールSBは、半導体装置PKG1と実装基板(マザーボード)とを電気的に接続するための外部電極(外部接続端子)である。
図2に示すように、複数のランドLDおよび半田ボールSBは、下面WSbに行列状(マトリクス状)に配列されている。
【0021】
なお、本実施の形態では、一例として
図3に示すように、2層の配線層WL1、WL2を備えている配線基板WSを取り上げて説明する。ただし、配線基板WSが備える配線層数は、2層には限定されず、例えば3層以上の場合がある。例えば、
図3に示す絶縁層IL1と絶縁膜SR1との間、および絶縁層IL1と絶縁膜SR2との間にそれぞれ樹脂から成るビルドアップ絶縁層が配置されている場合がある。この場合、絶縁層IL1の上面IL1t側および下面IL1b側に、それぞれ2層の配線層を配置できるので、合計で4層の配線層を備える配線基板が得られる。また、
図2に示す例では、複数の半田ボールSB(複数のランドLD)のそれぞれが、等間隔で配列される例を示している。ただし、複数の半田ボールSB(複数のランドLD)の配列は、
図2に示す態様には限定されない。例えば、複数の半田ボールSB(複数のランドLD)のうち、一部の半田ボールSB(ランドLD)の配列間隔が、他部の半田ボールSB(ランドLD)の配列間隔と異なっている場合もある。
【0022】
また、
図2および
図4に示すように、配線基板WSの上面WSt(
図4参照)および下面WSb(
図4参照)は、四角形を成す。配線基板WSの上面WStには、半導体チップCPが搭載される。
図4に示すように、半導体チップCPは、平面視において配線基板WSの外形に沿った四角形を成し、例えば、上面WStの略中央(中央部)に配置されている。半導体チップCPの周囲には、上面WStに、複数の端子(ボンディングリード、ボンディングパッド)BFが形成されている。複数の端子BFは、ワイヤBWと配線基板WSとを電気的に接続するためのボンディングパッドであって、例えば、銅(Cu)などの金属からなる。
【0023】
また、複数の端子BFは、半導体チップCPの各辺に沿って配置されている。なお、
図4に示す例では、半導体チップCPの各辺に沿って、それぞれ1列で複数の端子BFが配置されている。変形例として、半導体チップCPの各辺に沿って、複数の端子BFが複数列で配置される場合もある。
図4に示す例では、複数の端子BFのそれぞれに対応して開口部SRk1が形成され、端子BFの周囲は絶縁膜SR1に覆われている。ただし、変形例として、複数個の端子BFに亘って開口部SRk1が形成される場合もある。この場合、一つの開口部SRk1内に複数個の端子BFが配置され、隣り合う端子BFの間では、絶縁層IL1(
図3参照)が露出している。
【0024】
次に、配線基板WS上に搭載される半導体チップCPについて説明する。
図3に示すように、半導体チップCPは、表面(主面)CPt、表面CPtの反対側の裏面(主面)CPb、およびこの表面CPtと裏面CPbとの間に位置する側面CPsを備える。また、
図4に示すように半導体チップCPの平面形状(表面CPt、裏面CPbの形状)は四角形である。なお、
図4では、半導体チップCPの平面形状が正方形である例を例示しているが、例えば長方形でも良い。半導体チップCPの表面CPt上には、複数のパッド(電極、チップ電極)PDが形成されている。複数のパッドPDは、半導体チップCPの各辺に沿って表面CPt上の周縁部側にそれぞれ配置されている。
【0025】
半導体チップCPの表面CPtと裏面CPbとの間には、それぞれダイオードやトランジスタなどの複数の半導体素子(回路素子)が形成され、半導体素子上に形成された図示しない配線(配線層)を介して、複数のパッドPDとそれぞれ電気的に接続されている。このように半導体チップCPは、半導体基板上に形成された複数の半導体素子とこれら複数の半導体素子を電気的に接続する配線により集積回路を構成している。
【0026】
なお、半導体チップCPの半導体素子形成面を持つ基材(半導体基板)は、例えば、シリコン(Si)からなる。また、半導体チップCPの最表面である表面CPtには絶縁膜であるパッシベーション膜(図示は省略)が形成されており、複数のパッドPDのそれぞれの表面は、このパッシベーション膜に形成された開口部において、パッシベーション膜から露出している。
【0027】
また、このパッドPDは金属からなり、本実施の形態では、例えばアルミニウム(Al)からなる。さらに、このパッドPDの表面に、例えばニッケル(Ni)膜を介して、金(Au)膜、あるいはこれらの積層膜などの金属膜が形成される場合もある。
【0028】
また、本実施の形態では、半導体チップCPは、裏面CPbと配線基板WSの上面WStとが対向する、所謂フェイスアップ実装方式により配線基板WSに搭載される。半導体チップCPは、接着材DBを介して上面WSt上のチップ搭載領域CPr(後述する
図6参照)に固定される。接着材DBは、配線基板WSの上面WStに半導体チップCPをしっかりと固定できるものであれば、特に限定されないが、本実施の形態では、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂を含むダイボンド材を用いている。
【0029】
また、
図3および
図4に示すように、半導体チップCPは複数のワイヤBWを介してそれぞれ配線基板WSと電気的に接続されている。詳しくは、ワイヤBWの一方の端部は、半導体チップCPの表面CPt上のパッドPDに接続され、他方の端部は、配線基板WSの端子BFに接続されている。ワイヤBWは、例えば金(Au)、あるいは銅(Cu)などの金属材料からなる。
【0030】
図3に示す半導体チップCP、複数のワイヤBW、および複数の端子BFのそれぞれを封止する封止体MRについて説明する。
図1に示すように、封止体MRの上面MRtは、四角形を成す。詳細は後述するが、半導体装置PKG1は、複数のデバイス領域を一括して覆うように封止体を形成した後、封止体および配線基板を一括して切断する方式で製造される。この方式の場合、封止体MRの側面と配線基板WSの側面とが連続的に連なるように形成される。言い換えれば、半導体装置PKG1の厚さ方向において、封止体MRの側面と配線基板WSの側面とが重なる。
【0031】
封止体MRは、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、硬化剤、およびシリカなど、多数のフィラ粒子を主成分とする絶縁性の樹脂体である。また、封止体MRには、着色剤として、カーボン粒子が混入されている。封止体MRは、
図3に示すようにパッケージ内部に配置される半導体チップCP、および複数のワイヤBWと密着した状態で硬化している。つまり、封止体MRは、半導体チップCPおよび複数のワイヤBWを保護する機能を有している。
【0032】
<電極パッドの詳細>
次に、
図4に示す複数のパッドPDの詳細について説明する。
図5は、
図4に示す複数の電極パッドのうちの一部の電気的な接続関係を模式的に示す説明図である。
【0033】
図5に示すように、複数のパッドPDは、半導体チップCPが備える回路10と電気的に接続され、かつ、ワイヤBW1が接合されている複数のパッド(電極パッド)PD1と、ワイヤBWの接続試験用の電極パッドであって、半導体チップCPが備える回路10と電気的に分離され、かつ、ワイヤBW2が接合されているパッドPD2(電極パッド)と、を含む。すなわち、本実施の形態の場合、製品として使用される半導体装置PKG1に内蔵される半導体チップCPが、接続試験用のパッドPD2を備えている。
【0034】
パッドPD1およびワイヤBW1は、半導体装置PKG1が使用される際に、その機能を発揮するための電気的な接続経路を構成するパッドPDおよびワイヤBWである。一方、パッドPD2およびワイヤBW2は、半導体装置PKG1の製造工程において、複数のワイヤBWを接続する際に、ワイヤボンダの動作状態を確認するために使用される試験用のパッドPDおよびワイヤBWである。
【0035】
したがって、パッドPD1は、半導体チップCPが備える回路10と電気的に接続されている必要がある。回路10は、半導体チップCPに形成された集積回路であって、例えば、演算処理回路、メモリ回路、制御回路などのコア回路、あるいは、信号の入出力を制御する入出力回路、あるいは、コア回路や入出力回路を駆動する電力を制御する電源回路などを例示できる。
【0036】
一方、パッドPD2は上記したようにワイヤBWの接続試験用のパッドPDなので、半導体チップCPの回路10とは電気的に分離されていることが望ましい。半導体チップCPが回路10を含む複数の回路を備えている場合、パッドPD2は複数の回路のそれぞれと分離されていることが好ましい。パッドPD2は、ワイヤBW2を介して端子BF2と電気的に接続されている。このため、パッドPD2から端子BF2までの導電経路が半導体チップCP内の回路に影響を及ぼすことを回避するため、パッドPD2は半導体チップCP内の全ての回路と電気的に分離されていることが好ましい。
【0037】
詳細は後述するが、半導体装置PKG1の製造工程において、製品化される半導体チップCP内にワイヤBWの接続試験用のパッドPD2が形成されていることにより、ワイヤボンダの動作状態を製品ごとに正確に計測することができる。また、半導体装置PKG1の製造工程において、製品化される半導体チップCP内にワイヤBWの接続試験用のパッドPD2が形成されていることにより、半導体装置PKG1の製造工程では、ワイヤBWの接続試験用のダミー製品を用意する必要がない。このため、半導体装置PKG1の製造工程では、ワイヤBWの接続試験と、製品として機能するワイヤBW1の接続工程との間の時間的なロスを低減できる。この結果、ワイヤBWの接続試験の頻度が増大しても、半導体装置PKG1の製造効率が低下することを抑制できる。
【0038】
図5に示す例では、配線基板WSが備える複数の端子BFは、ワイヤBW1を介してパッドPD1に接続される複数の端子BF1と、ワイヤBW2を介してパッドPD2に接続される端子BF2とを含む。端子BF1と端子BF2とは電気的に分離されている。この場合、パッドPD2およびワイヤBW2から成る導電経路と、半導体チップCP内の回路とを完全に分離することができる点で好ましい。
【0039】
本実施の形態に対する変形例として
図6に示す態様がある。
図6は、
図5に対する変形例を示す説明図である。
図6に示す変形例の半導体装置PKG2の場合、ワイヤBW2は、ワイヤBW1が接続される複数の端子BFの内の一つに接続されている。言い換えれば、
図6に示す変形例の半導体装置PKG2の場合、複数の端子BFは、ワイヤBW1を介して複数のパッドPD1に接続される複数の端子BF1と、ワイヤBW2を介してパッドPD2に接続され、かつ、ワイヤBW1を介してパッドPD1に接続される端子BF3と、を含む。半導体装置PKG2の場合、半導体チップCP内の回路10は、パッドPD1、ワイヤBW1、端子BF1、およびワイヤBW2を介してパッドPD2と電気的に接続される。ただし、パッドPD2は、半導体チップCP内において、半導体チップCP内の回路10と分離されているので、パッドPD2と回路10とが半導体チップCP内において接続されている場合と比較すると、パッドPD2およびワイヤBW2により構成される導電経路が半導体チップCP内に及ぼす影響を低減させることができる。また、半導体装置PKG2の場合、ワイヤ接続試験用の端子BFを形成しなくてよいので、配線基板WSの設計の自由度を向上させることができる。
【0040】
図5および
図6に示すように、複数のパッドPDは、回路10に接続され、かつ、ワイヤBWが接続されていないパッド(電極パッド)PD3を含む。このパッドPD3は、製品の用途に応じてワイヤ接続の有無を選択する、所謂、NC(Non-Connected)パッドである。パッドPD3を図示しない端子と接続した場合、半導体チップCPの回路10の機能を変更することができる。NCパッドであるパッドPD3とワイヤBWの接続確認用のパッドPD2とは、互いに区別される。パッドPD3は、機能選択用の端子なので、原則として配線基板WSには接続されない。
図5に対する別の変形例として、
図5に示す端子BF2と同様に、ランドLDに接続されない端子BFと、パッドPD3とがワイヤBWを介して電気的に接続される場合がある。ただし、この場合、接続確認用のパッドPDとして機能するパッドPD3と回路10とが電気的に接続されることになるので、回路10への影響を小さくする必要がある。例えば、
図5に示すパッドPD2に接続されるワイヤBW2の場合、回路10と電気的に分離されるので、ワイヤボンダの動作状態を確認することを優先的に考慮して、他のワイヤBWとは異なる条件でワイヤボンディングを行ってもよい。一方、パッドPD3にワイヤBWを接続する場合には、他のワイヤBWと同様の条件でワイヤボンディングを行うことが好ましい。
【0041】
<半導体装置の製造方法>
次に、
図1~
図6を用いて説明した半導体装置PKG1の製造方法について、
図7に示すフロー図を用いて説明する。
図7は、
図1~
図6を用いて説明した半導体装置の組立工程のフローを示す説明図である。なお、
図6に示す半導体装置PKG2は、ワイヤBW2が接続される端子BFが端子BF1になっている点を除き、
図5に示す半導体装置PKG1と同じなので、以下で説明する半導体装置に製造方法と同様の製造工程により製造される。以下では代表例として半導体装置PKG1の製造方法を取り上げて説明する。
【0042】
<基板準備工程>
図7に示す基板準備工程として、
図8に示すような配線基板MSを準備する。
図8は、
図7に示す基板準備工程で準備する配線基板の全体構造を示す平面図である。
【0043】
本工程で準備する配線基板MSは、
図8に示すように、外枠(枠部)MSfの内側に複数のデバイス領域MSdを備えている。デバイス領域MSdの数は、
図8に示す態様に限定されないが、本実施の形態の配線基板MSは、例えば8個のデバイス領域MSdを備えている。配線基板MSは、複数のデバイス領域MSdを有する、所謂、多数個取り基板である。
【0044】
各デバイス領域MSdは、
図4に示す配線基板WSに相当する。デバイス領域MSdは、
図2~
図4を用いて説明した配線基板WSの各部材が形成されている。
図8に示すように、配線基板MSのデバイス領域MSdは、上面WStにおいて絶縁膜SR1から露出する複数の端子BFを備える。複数の端子BFは、チップ搭載領域CPrの周囲を囲むように配列される。チップ搭載領域CPrは、
図4に示す半導体チップCPを搭載する予定領域である。
【0045】
<チップ準備工程>
また、
図7に示すチップ準備工程として、
図3、
図4、および
図5に示す半導体チップCPを準備する。半導体チップCPの構造は、既に説明した通りなので、重複する説明は省略する。
【0046】
<ダイボンド工程>
次に、
図7に示すダイボンド工程として、
図8に示す配線基板MSのデバイス領域MSdの上面WSt上に半導体チップCP(
図4参照)を搭載する。ダイボンド工程において、半導体チップCPは、複数のデバイス領域MSdのそれぞれに搭載される。半導体チップCPは、チップ搭載領域CPr上に、接着材DB(
図4参照)を介して接着固定される。本実施の形態では、半導体チップCPは、裏面CPb(
図3参照)と配線基板MSの上面WStとが対向する、所謂フェイスアップ実装方式により配線基板MS上に搭載される。
【0047】
<ワイヤボンド工程>
次に、
図7に示すワイヤボンド工程として、
図4に示すように、半導体チップCPの複数のパッドPDのそれぞれにワイヤBWを接続する。ワイヤボンド工程において、半導体チップCPと
図8に示す配線基板MSのデバイス領域MSdとは、ワイヤBW(
図4参照)を介して電気的に接続される。詳しくは、
図3に示すように、ワイヤBWの一方の端部は、半導体チップCPの表面CPtにおいて露出するパッドPDに接続され、他方の端部は、配線基板MSの上面WStにある端子BFに接合される。
【0048】
ワイヤボンド工程では、後述するワイヤボンディング装置を用いてワイヤBWを接合するが、多数のワイヤBWを正しく接合するため、ワイヤボンディング装置の動作状態を監視することが好ましい。ワイヤボンディング装置の動作状態を監視する方法として、ワイヤBWの接続状態を試験するための専用の半導体チップを準備する方法が考えられる。この場合、
図8に示す複数のデバイス領域MSdのうちの一つをワイヤ接続試験用のデバイス領域MSdとし、そのデバイス領域MSdに試験用の半導体チップCPを搭載する。この場合、多数個取り基板である配線基板MS毎にワイヤ接続試験を行うことができるが、試験を行ったデバイス領域MSdの製品化はできないので、配線基板MSから取得可能な製品数が低下する。例えば、
図8に示す例の場合、8個のデバイス領域MSdのうち、1個がワイヤ接続試験用に用いられるため、最大で7個の製品しか取得できない。
【0049】
一方、本実施の形態の場合、
図5を用いて説明したように、製品化される半導体チップCPがワイヤ接続試験用のパッドPD2を備えているので、ワイヤ接続試験を高頻度で実施した場合でも、配線基板MS(
図8参照)から取得可能な製品数の低下を抑制できる。例えば、
図8に示す例の場合、8個のデバイス領域MSdのうち、最大で8個の製品を取得可能である。このように、本実施の形態によれば、ワイヤ接続試験の頻度を多くしても、半導体装置の製造効率の低下を抑制できる。上記以外のワイヤボンド工程の詳細については後述する。
【0050】
<封止工程>
次に、
図7に示す封止工程として、半導体チップCPを樹脂で封止して封止体MR(
図1および
図3参照)を形成する。本工程では、複数のデバイス領域MSdが一つの封止体MRに一括して覆われる。
【0051】
<ボールマウント工程>
次に、
図7に示すボールマウント工程として、配線基板MSの下面に形成された複数のランドLD(
図2および
図3参照)に複数の半田ボールSB(
図2および
図3参照)を接合する。本工程では、配線基板MSの下面において露出する複数のランドLDのそれぞれの上に半田ボールSBを配置した後、加熱することで複数の半田ボールSBとランドLDとを接合する。本工程により、複数の半田ボールSBは、配線基板MSを介して半導体チップCPと電気的に接続される。
【0052】
<個片化工程>
次に、
図7に示す個片化工程として、
図8に示す複数のデバイス領域MSdの間のそれぞれの周囲を囲む切断領域に沿って配線基板MSおよび封止体MRを切断し、複数のデバイス領域MSdのそれぞれを個片化する。
【0053】
以上の各工程により、
図1~
図4を用いて説明した半導体装置PKG1が得られる。その後、外観検査や電気的試験など、必要な検査、試験を行い、半導体装置PKG1は出荷され、あるいは、図示しない実装基板に実装される。
【0054】
<ワイヤボンド工程の詳細>
次に、
図7に示すワイヤボンド工程の詳細について説明する。
図7に示すようにワイヤボンド工程は、試験用パッド接続工程と、合否判定工程と、機能パッド接続工程と、を含む。以下、ワイヤボンド工程で使用するワイヤボンディング装置の構成例について説明した後、各工程について順に説明する。
図9は、
図7に示すワイヤボンド工程で使用するワイヤボンディング装置とワイヤ接続対象物(電極パッドや端子)との位置関係を示す平面図である。
図10は、
図9のA-A線に沿った断面を模式的に示す断面図である。
【0055】
本実施の形態のワイヤボンド工程では、例えば
図9に示すように配線基板MSが固定されたステージSTGの隣に、ワイヤボンディング装置WBDを配置する。配線基板MSとワイヤボンディング装置WBDは、例えば
図9に示す位置関係で配置される。すなわち、ワイヤボンディング装置WBDは、平面視においてX方向に沿ってホーンUSHが延びるように配置され、ホーンUSHを挟んで発振器USGの反対側に配線基板MSが配置される。これにより、ワイヤBWのボール部BWb(
図10参照)にはX方向に沿って振動する超音波US1が印加することができる。
【0056】
また、ワイヤボンディング装置WBDは、
図10に示すキャピラリCAP、ホーンUSH、および発振器USGを含むボンディングヘッド部を支持する支持部SUPを有する。支持部SUPは
図9に示すX-Y平面に沿って自在に移動させることが可能であり、支持部SUPとともにボンディングヘッドの位置を移動させることで、配線基板MSの複数のパッドPDのそれぞれにワイヤBWを接続することができる。
【0057】
ワイヤボンディング工程に含まれる試験用パッド接続工程および機能パッド接続工程では、それぞれ以下のようにワイヤボンディングが行われる。
【0058】
まず、本実施の形態のワイヤボンド工程は、
図10に示すように、キャピラリCAPの下端側から突出するワイヤBWの端部に、ボール部BWbを形成した後、ボール部BWbを第1ボンド側の接合対象物(例えば、パッドPD)に接合する、ボールボンディング工程を含む。ボール部BWbは、ワイヤBWの先端に、図示しない電気トーチから放電させることにより形成される。ボールボンディング工程において、ワイヤBWのボール部BWbに印加される荷重は、キャピラリCAPが固定されたホーンUSHの先端部分が下方に押し下げられることにより、キャピラリCAPを介してボール部BWbに伝達される。また、ボールボンディング工程では、ボール部BWbを介して接合対象物に荷重を印加しながら、キャピラリCAPを介してボール部BWbに超音波を印加する。
【0059】
また、本実施の形態のワイヤボンド工程は、ボールボンディング工程の後、キャピラリCAPからワイヤBWを送り出しながらキャピラリCAPの位置を移動させて、ワイヤBWの形状を成形するワイヤ成形工程を有する。
【0060】
また、本実施の形態のワイヤボンド工程は、ワイヤ成形工程の後、ワイヤBWの一部分を第2ボンド側の接合対象物(例えば端子BF)に接合する第2ボンディング工程を有する。第2ボンディング工程の後、ワイヤBWは切断され、
図3に示すようにパッドPDと端子BFとを接続するワイヤBWが形成される。
【0061】
図7に示す試験用パッド接続工程では、試験用パッドであるパッドPD2(
図5参照)にワイヤBW2(
図5参照)を接続する。また試験用パッド接続工程では、
図9および
図10に示すワイヤボンド装置の動作状態を確認するため、ワイヤBW2(
図5参照)を接合する際のワイヤボンディング装置WBD(
図9参照)の動作を制御している電流または電圧の変化を計測する。計測されたデータは、ワイヤボンディング装置WBDに接続されるコンピュータ(制御装置)COM(
図9参照)に伝送され、次の合否判定工程において、その計測結果が評価される。
図9に示す例では、コンピュータCOMは、発振器USGおよびモータSUPMに接続されている。
【0062】
計測対象となる電流または電圧については、種々の変形例があるが、例えば以下のような例を例示できる。上記したボールボンディング工程において、
図10に示すボール部BWbに印加される超音波は、発振器USGから供給される。そこで、第1の例として、試験用パッド接続工程では、発振器USGに供給される電圧波形または電流波形を計測する。例えば、パッドPDの表面に異物などが存在する場合、ボール部BWbとパッドPDとの間での摩擦が異なる。ここで、発振器USGは、ピエゾ素子を構成部品の一つとして用いられているとする。このピエゾ素子に供給される電圧波形または電流波形は、発振器USGが出力する超音波を制御するための指令である。また、ワイヤボンディング装置WBDでは、発振器USGが出力する超音波を一定に制御するため、ボール部BWbをパッドPDへ接合させている間にピエゾ素子に生じる電流波形、電圧波形をモニタし、指令のための電圧波形または電流波形を調整し、出力する超音波を一定に制御している。そのため、ボール部BwbとパッドPDとの間での摩擦が異なる場合、このピエゾ素子に掛かる電流波形、電圧波形に違いが生じることとなり、動作を制御する指令や動作の結果生じる電圧波形または電流波形の値に閾値を設定しておけば、閾値を下回った時、あるいは閾値を超えた時に異常を検出することができる。パッドPDの表面に異物が存在する場合だけでなく、ボール部Bwbのサイズやボール部BwbとパッドPDとの接合の強度が異なることでも、ボール部BwbとパッドPDとの摩擦が異なるため、この異常検出はワイヤボンディング工程の異常検出として有効である。
【0063】
また例えば、ボールボンディング工程では、超音波を印加する前に、ボール部BWbがパッドPDに接触した状態で、ボール部BWbを平面方向に動作(スクラブ動作)させる場合がある。このスクラブ動作は、例えば支持部SUPを平面方向に動作させることにより行われる。そこで、第2の例として、試験用パッド接続工程では、支持部SUPを駆動するモータSUPMに供給される電圧波形または電流波形を計測する。
【0064】
次に、合否判定工程では、試験用パッド接続工程により得られた測定データに基づいてワイヤボンディング装置WBDによる加工動作の合否を判定する。本工程では、上記したように、試験用パッド接続工程で計測される電圧波形または電流波形に対して、予め閾値が設けられ、その閾値を下回った時、あるいはその閾値を超えた時に、コンピュータCOMが異常と判定する。コンピュータCOMが異常と判定した場合、コンピュータCOMは、例えば図示しない表示装置に異常検出信号を送信する。あるいは、コンピュータCOMが異常と判定した場合に、コンピュータCOMがワイヤボンディング工程の作業を停止させる場合もある。
【0065】
図7に示す機能パッド接続工程では、ワイヤボンディング装置(
図9参照)を用いて
図5に示す複数のパッドPD1のそれぞれに、順次ワイヤBW1を接合する。機能パッド接続工程で接続されるパッドPD1は、製品が使用される際に機能を発揮するために必要なパッドPDであり、ワイヤボンディングの異常があれば、製品の信頼性低下の原因になる。本実施の形態の場合、機能パッド接続工程を実施する直前に試験用パッド接続工程および合否判定工程を行い、ワイヤボンディング装置WBDの動作状態に問題がないことを確認した上で機能パッド接続工程を実施する。このため、複数のパッドPD1のそれぞれに対して接続されるワイヤBW1の接続状態は、良好な状態に維持される。
【0066】
図7に示す例では、機能パッド接続工程は、試験用パッド接続工程および合否判定工程の後で実施される。試験用パッド接続工程および合否判定工程を含むワイヤボンダ試験工程(ワイヤボンディング装置試験工程)を機能パッド接続工程の前に実施することにより、ワイヤボンダ試験工程で異常が検出された場合の作業の無駄を省くことができる。ただし、変形例として、機能パッド接続工程を、試験用パッド接続工程および合否判定工程を含むワイヤボンダ試験工程の前に実施する場合もある。この場合でも、複数のデバイス領域MSd(
図8参照)に対する処理の途中で異常が検出された場合、処理前のデバイス領域MSdに対してはワイヤボンディング工程の作業を中止することができるので、作業の無駄を省くことができる。
【0067】
ところで、本実施の形態の場合、試験用パッド接続工程において、
図5に示すパッドPD2にワイヤBW2を接合する際のワイヤボンディング装置BWD(
図10参照)の設定条件と、機能パッド接続工程において、
図5に示す複数のパッドPD1にワイヤBW1を接合する際のワイヤボンディング装置BWD(
図10参照)の設定条件とが互いに異なっている。もちろん、変形例として、試験用パッド接続工程と機能パッド接続工程とで、ワイヤボンディング装置BWDの設定条件が同じであってもよい。
【0068】
ワイヤ接続試験におけるワイヤボンディング装置の動作状態の異常の検出精度に着目すると、必ずしも機能パッド接続工程と同じ条件でワイヤ接続試験を行うことが最適とは限らない。例えば、上記したボールボンディング工程では、
図10に示すボール部BWbを介してパッドPDに荷重を印加するが、機能パッド接続工程で印加される荷重よりも試験用パッド接続工程で印加される荷重の方が大きくなっていることで、ワイヤボンディング装置BWDの動作状態の異常を検出し易くなる場合がある。また例えば、上記したボールボンディング工程では、ボール部BWbに超音波を印加するが、超音波の振幅を大きくする、あるいは超音波の振幅を徐々に大きくすることにより、ワイヤボンディング装置BWDの動作状態の異常を検出し易くなる場合がある。また、上記したボールボンディング工程において、スクラブ動作の動作範囲を変化させる方法もある。
【0069】
前述したように、ワイヤボンディング装置WBDは、ワイヤボンディング装置WBDの動作によって生じる電流波形や電圧波形に応じて、指令として与える電流波形や電圧波形を制御している。このため、ワイヤボンディング装置WBDの動作を制御している電流または電圧の状態に変化が生じやすいような条件で動作させることにより、異常を検知し易くすることができる。
【0070】
例えば、発振器USGの故障によって、出力される超音波の強さが弱くなった場合、荷重が大きいほど、出力される超音波が及ぼすボール部BwbとパッドPDとの接合への寄与が通常の状態よりも弱くなる。したがって、通常よりも大きい荷重が印可された状態で、発振器USGの動作を制御している電流または電圧を計測することにより、ボール部BwbとパッドPDとの摩擦が減少し、発振器USGへの指令やピエゾ素子に生じる電流波形や電圧波形の変化や異常が検知し易くなる。
【0071】
超音波の振幅を徐々に変化させることも同様である。出力を段階的に変化させることで、正常時にはある関数で表すことが可能な出力制御や接合の状態も、異常となった場合は変化が生じ、本来の制御や接合を行えていないことを、出力を段階的に変化させることで関数の情報として検知できるため、一つの動作で判断するより異常検知の精度が向上する。
【0072】
本実施の形態の場合、
図5を用いて説明したように、半導体チップCPがワイヤ接続試験専用のパッドPD2を備えている。このため、試験用パッド接続工程において、機能パッド接続工程の実施時よりも高い付加をパッドPD2(
図5参照)に印加した結果、仮に、パッドPD2が損傷した場合でも、半導体チップCPの回路10(
図5参照)には影響が及ばない。
【0073】
また、上記したように、
図7に示す合否判定工程において、異常が検出された場合の対応として、ワイヤボンディング工程を中止する実施態様について説明したが、異常の程度、あるいは、異常の内容によっては、ワイヤボンディング工程を停止させず、計測データに基づいてワイヤボンディング装置WBDの動作を最適化するように変更することができる。この場合、合否判定工程において、
図9に示すコンピュータCOMは、合否判定結果に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件を変更した後、機能パッド接続工程を実施する。
【0074】
このように、合否判定工程における判定結果に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件を最適化する半導体装置の製造方法では、計測される電圧や電流の僅かな変化を検出する必要がある。そこで、単純に、電圧値や電流値を計測し、予め設定された閾値との大小関係を評価することに加え、以下のような評価を行うことが好ましい。
【0075】
すなわち、
図7に示す試験用パッド接続工程を複数のパッドPD2(
図5参照)に対して繰り返し実施する。合否判定工程では、
図10に示すコンピュータCOMは、複数回の試験用パッド接続工程により得られた計測データの変化に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件の変更の要否を判定する。例えば1個の半導体チップCPに複数のパッドPD2が形成されている場合には、1個の半導体チップCPに対するワイヤボンディング工程の途中でワイヤボンディング装置WBDの設定条件の変更の要否を判定できる。また、1個の半導体チップCPが1個のパッドPD2を備えている場合には、
図8に示す複数のデバイス領域MSdに搭載される複数の半導体チップCPのそれぞれが備えるパッドPD2に対して試験用パッド接続工程を行い、複数回の試験用パッド接続工程により得られた計測データの変化に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件の変更の要否を判定することができる。
【0076】
このように、複数回の試験用パッド接続工程により得られた計測データの変化に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件の変更の要否を判定する方法の場合、繰り返し計測を行うことが前提となるので、判定までの時間は要するが、僅かな変化を検出することができる。一方、上記したように、ワイヤボンディング装置WBDの電圧または電流の値と閾値とを比較して合否判定する方法は、判定までの時間が短い点で優れている。また、ワイヤボンディング装置WBDの電圧または電流の値と閾値とを比較して合否判定する方法と、複数回の試験用パッド接続工程により得られた計測データの変化に基づいて、ワイヤボンディング装置WBDの設定条件の変更の要否を判定する方法とを両方行うことが特に好ましい。
【0077】
また、
図5に示すパッドPD2と複数のパッドPD1のそれぞれとは、材質、厚さ、および下地に配置される構造体(例えば、酸化ケイ素などの無期絶縁膜)の材質のそれぞれは、互いに同じであることが好ましい。また、パッドPD2に接続されるワイヤBW2と複数のパッドPD1のそれぞれに接続されるワイヤBW1とは、材質およびボール部BWb(
図10参照)の径が同じであることが好ましい。上記したボールボンディング工程において、接合される部材間の抵抗成分(例えば摩擦力)が、試験用パッド接続工程における計測データに与える影響が大きいと考えられるので、接合される部材の材質、厚さや接触面積などの条件は揃えた方が合否判定を実施し易いからである。
【0078】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0079】
10 回路
BF,BF1,BF2,BF3 端子(ボンディングリード、ボンディングパッド)
BW,BW1,BW2 ワイヤ
BWb ボール部
BWD ワイヤボンディング装置
CAP キャピラリ
COM コンピュータ(制御装置)
CP 半導体チップ
CPb 裏面(主面)
CPr チップ搭載領域
CPs 側面
CPt 表面(主面)
DB 接着材
IL1 絶縁層
IL1b 下面(主面、面)
IL1t 上面(主面、面)
LD ランド(端子)
MR 封止体
MRt 上面
MS 配線基板
MSd デバイス領域
MSf 外枠(枠部)
PD,PD1,PD2,PD3 パッド(電極、チップ電極)
PKG1,PKG2 半導体装置
SB 半田ボール(半田材)
SR1,SR2 絶縁膜(保護膜、ソルダレジスト膜)
SRk1,SRk2 開口部
STG ステージ
SUP 支持部
SUPM モータ
US1 超音波
USG 発振器
USH ホーン
WBD ワイヤボンディング装置
WL1,WL2 配線層
WR1,WR2 配線
WRv ビア配線
WS 配線基板
WSb 下面(実装面、主面)
WSt 上面(チップ搭載面、主面)