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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082900
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】LED光照射装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 45/54 20200101AFI20220527BHJP
   H05B 45/345 20200101ALI20220527BHJP
   H05B 45/325 20200101ALI20220527BHJP
【FI】
H05B45/54
H05B45/345
H05B45/325
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194065
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】505402581
【氏名又は名称】株式会社イー・エム・ディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】枝本 信雄
【テーマコード(参考)】
3K273
【Fターム(参考)】
3K273AA10
3K273BA31
3K273CA02
3K273CA12
3K273CA14
3K273DA08
3K273EA06
3K273EA17
3K273EA25
3K273EA42
3K273FA03
3K273FA07
3K273FA14
3K273FA26
3K273FA27
3K273HA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】誤検知を生じることなくショート異常を検出することができるLED光照射装置を提供する。
【解決手段】LED光照射装置10は、複数個のLED素子が直列接続されたLEDモジュール11と、使用者が入力した情報に基づいてLEDモジュール11に流す電流値を設定する電流設定部13と、LEDモジュール11に、設定された電流を供給する定電流電源12と、LEDモジュール11の両端電圧値を取得する電圧値取得部141と、LEDモジュール11の温度を測定する温度測定部142と、LEDモジュール11が正常である場合の前記温度と電流の設定値と両端電圧の関係を格納したデータベース143と、温度測定部142で測定された測定値と、電流の設定値と、前記両端電圧の値に基づいて、データベース143を参照し、複数個のLED素子111のいずれかにショート異常が発生したか否かを判定するショート異常判定部144とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 複数個のLED素子が直列に接続されたLEDモジュールと、
b) 使用者が入力した情報に基づいて前記LEDモジュールに流す電流の値を設定する電流設定部と、
c) 前記LEDモジュールに、前記電流設定部で設定された値の電流を供給する定電流電源と、
d) 前記LEDモジュールの両端電圧の値を取得する電圧値取得部と、
e) 前記LEDモジュールの温度に依存して温度が変化する点の温度を測定する温度測定部と、
f) 前記LEDモジュールが正常である場合における、前記点の温度と前記電流の設定値と前記両端電圧の関係を格納したデータベースと、
g) 前記温度測定部で測定された前記点の温度の測定値と、前記電流の設定値と、前記電圧値取得部で検知された両端電圧の値に基づいて、前記データベースを参照し、前記複数個のLED素子のいずれかにショート異常が発生したか否かを判定するショート異常判定部と
を備えることを特徴とするLED光照射装置。
【請求項2】
前記ショート異常判定部がショート異常の発生を判定したときに、前記LEDモジュールが発する光が該ショート異常の無いときと同強度となるように前記電流設定部が前記設定値を増加させることを特徴とする請求項1に記載のLED光照射装置。
【請求項3】
前記LEDモジュールを複数個備え、
前記ショート異常判定部が前記複数個のLEDモジュールのうちの1つにおいてショート異常が発生したと判定したときに、前記複数個のLEDモジュールが発する光が該ショート異常の無いときと同強度となるように前記電流設定部が該1つのLEDモジュール又は他の1又は複数のLEDモジュールにおける前記設定値を増加させる
ことを特徴とする請求項1に記載のLED光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置や露光装置等で使用され、LED(発光ダイオード)素子を用いて可視光、紫外光、赤外光等の光を被照射物に照射する装置に関し、特に複数個のうちの一部のLED素子にショート異常が生じたときにそれを検知することができるLED光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LED光照射装置では一般に、複数個のLED素子を直列に接続したものが用いられている。例えば、特許文献1には16個のLED素子を直列に接続したLEDモジュールが記載されている。
【0003】
LED素子は、長期間使用していると、LED素子内で断線が生じることによって電流が流れなくなり発光しなくなるオープン異常や、LED素子内でショートが生じることによって電流が流れているにも関わらず発光しなくなるショート異常が生じる。複数個のLED素子を直列に接続したLEDモジュールでは、1個のLED素子にオープン異常が生じた場合には電流を流すことができなくなるため直ちに異常に気づくことができる。それに対して1個のLED素子にショート異常が生じた場合には、電流を流し続けることができると共に、当該1個以外のLED素子は点灯し続けるため、容易に異常に気づくことはできない。その結果、ショート異常に気づかないまま、本来よりも低い照度でLED光照射装置を使用し続けてしまうおそれがある。特に、露光装置で用いるLED光照射装置では、一般に装置の下面にLED素子を設け、上方から被照射物に接近させた状態で使用されるため、個々のLED素子の点灯状態を観察して確認することは難しい。
【0004】
そこで従来より、複数個のLED素子を直列に接続したLEDモジュールに印加される電圧又は該LEDモジュールに流れる電流を測定することにより、該LEDモジュール内のLED素子のいずれかにショート異常が生じたことを検知することが行われている(例えば特許文献2)。LED素子から生じる光の強度が電流(再結合する正孔及び電子の数)に依存するため、一般的には、光の強度を一定にすべくLEDモジュールに対して一定の電流が流れるようにLEDモジュールに印加する電圧を制御(定電流制御)することから、該電圧が所定の下限値よりも低下したときにショート異常が生じたと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-279576号公報
【特許文献2】特開2014-160562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LEDモジュールではショート異常以外の何らかの原因によって印加電圧が所定の下限値よりも低下してしまうことがある。そのため、特許文献2に記載の装置では、実際にはショート異常が発生していないにも関わらず、ショート異常が発生したと誤検知してしまうおそれがある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、誤検知を生じることなくショート異常を検出することができるLED光照射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るLED光照射装置は、
a) 複数個のLED素子が直列に接続されたLEDモジュールと、
b) 使用者が入力した情報に基づいて前記LEDモジュールに流す電流の値を設定する電流設定部と、
c) 前記LEDモジュールに、前記電流設定部で設定された値の電流を供給する定電流電源と、
d) 前記LEDモジュールの両端電圧の値を取得する電圧値取得部と、
e) 前記LEDモジュールの温度に依存して温度が変化する点の温度を測定する温度測定部と、
f) 前記LEDモジュールが正常である場合における、前記点の温度と前記電流の設定値と前記両端電圧の関係を格納したデータベースと、
g) 前記温度測定部で測定された前記点の温度の測定値と、前記電流の設定値と、前記電圧値取得部で検知された両端電圧の値に基づいて、前記データベースを参照し、前記複数個のLED素子のいずれかにショート異常が発生したか否かを判定するショート異常判定部と
を備えることを特徴とする。
【0009】
LED素子は使用時に発熱し、高温で継続的に使用すると寿命の低下や破損の原因となる。そのため、LEDモジュールは一般に、空冷や水冷等による冷却を行いながら使用される。その際、例えば水冷に用いる水の温度や流量が変化する等、冷却環境が変化すると、それに伴ってLEDモジュールの温度も変化する。その際、LEDモジュールの温度が上昇すると、LEDモジュールに印加する電圧が低下することから、温度の上昇を考慮しないと、実際には発生していないにも関わらずLED素子のショートが発生したと誤検知するおそれがある。
【0010】
また、例えば露光装置用の光源では、露光対象のレジストの種類に応じて光の強度を変更するために、LEDモジュールに供給する電流値を変更することがあるが、それによってLEDモジュールからの発熱量も変化する。そうすると、冷却の条件によっては、LEDモジュールの発光の強度を高くするために電流値を増加させると、発熱量が増加し、それに伴ってLEDモジュールの温度が上昇することがある。そうすると、個々のLED素子では、温度が上昇するほどキャリアが増加するため、同じ大きさの電流を流すために印加すべき電圧は低くなる。一方、通常はLED素子の電流-電圧特性は温度が一定である条件の下で測定されるため、このようにLEDモジュールの温度が上昇すると、電流を増加させると当該電流-電圧特性から求められる値よりも電圧の値が低下する。このような温度上昇の影響を考慮しないと、実際には発生していないにも関わらず、電圧の値が低下したためLED素子のショートが発生した、と誤検知してしまうおそれがある。
【0011】
そこで、本発明に係るLED光照射装置では、前記LEDモジュールが正常である場合における、前記点の温度と前記電流の設定値と前記両端電圧の関係を示す関係を数式、対照表等の形式でデータベースに格納しておく。LED光照射装置の使用時には、温度測定部によって前記点(以下、「温度測定点」とする)の温度を測定すると共に、電圧値取得部によって両端電圧の値を取得する。そして、ショート異常判定部は、温度測定部で測定された温度、電流設定部で設定された電流の設定値及び電圧値取得部で取得された両端電圧の値に基づいて、データベースを参照して、LEDモジュール内の複数個のLED素子のいずれかにショート異常が発生したか否かを判定する。例えば、温度の測定値及び電流の設定値に対応するデータベースに格納された両端電圧の値と電圧値取得部で取得された両端電圧の値の差が、データベースに格納された両端電圧の値をLEDモジュールが有するLED素子の個数で除した値よりも大きい場合に、ショート異常が発生したと判定する。
【0012】
これにより、LEDモジュールの温度が変化しても、温度測定部によって測定された温度とデータベースに格納されたデータに基づいて、ショート異常の発生の有無を正確に検知することができる。
【0013】
温度測定点は、前述のようにLEDモジュールの温度に依存して温度が変化する点とする。例えばLED素子のうちの1つに接する位置や、LED素子には接していないもののその近傍の位置とすることができる。あるいは、LEDモジュールを水冷する場合には、LEDモジュールを冷却した冷却水の流路上の位置と(すなわち、LEDモジュールの温度に依存して変化する冷却水の温度を測定するように)してもよい。
【0014】
電流設定部において使用者が入力する情報は、電流値そのものであってもよいし、LEDモジュールで発生させる光の強度を設定するパラメータ(「強、中、弱」あるいは「1、2、3…」といった、段階を示す語や数値等)であってもよい。後者の場合、使用者が入力したパラメータに応じて電流設定部が電流値を設定する。また、例えば露光装置用の光源では、露光対象のレジストの種類毎に電流値を定めておき、使用者が入力したレジストの種類に応じて電流設定部が電流値を設定するようにすることもできる。また、電流設定部は定電流電源内に設けてもよい。
【0015】
電圧値取得部は、LEDモジュールの両端電圧を測定することによって該両端電圧の値を取得してもよいし、定電流電源が出力電圧の値の情報を発信可能なものである場合には当該情報により得られる出力電圧の値を該両端電圧の値として取得してもよい。
【0016】
本発明に係るLED光照射装置が複数個のLEDモジュールを有する場合には、電圧値取得部がLEDモジュール毎に印加される両端電圧を取得することにより、ショート異常判定部がLEDモジュール毎にショート異常が発生したか否かを判定することができる。定電流電源及び温度測定部は、LEDモジュール毎に設けてもよいし、複数のLEDモジュールに対して1つ設けてもよい。
【0017】
本発明に係るLED光照射装置において、前記ショート異常判定部がショート異常の発生を判定したときに、前記LEDモジュールが発する光が該ショート異常の無いときと同強度となるように前記電流設定部が前記設定値を増加させるようにしてもよい。これにより、ショート異常が生じたLED素子が消灯しても、残りの正常なLED素子により所定の強度の光を発することができるため、LEDモジュール全体での光の強度の低下を抑えることができる。
【0018】
本発明に係るLED光照射装置が複数個のLEDモジュールを有する場合において、前記ショート異常判定部が前記複数個のLEDモジュールのうちの1つにおいてショート異常が発生したと判定したときに、前記複数個のLEDモジュールが発する光が該ショート異常の無いときと同強度となるように前記電流設定部が該1つのLEDモジュール又は他の1又は複数のLEDモジュールにおける前記設定値を増加させるようにしてもよい。このように複数個のLEDモジュールを有する場合には、ショート異常が発生したLEDモジュールにおける正常なLED素子の光の強度を上げることだけでなく、他のLEDモジュールにおける各LED素子の光の強度を上げることによっても、LEDモジュール全体での光の強度の低下を抑えることができる。特に、複数のLEDモジュールにおける前記設定値を増加させる場合には、1つのLEDモジュールだけで前記設定値を増加させる場合よりも、1LEDモジュールあたりの光の強度の上昇を抑えることができるため、光の強度を均一に近くすることができる。また、電流の設定値を増加させる対象は、ショート異常が発生したLEDモジュールの近傍にある(例えば該LEDモジュールに隣接する)LEDモジュールとすることにより、ショート異常が発生したLEDモジュールで生じる光の強度の低下を補って均一に近い強度とすることができるという点で好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るLED光照射装置によれば、誤検知を生じることなくショート異常を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るLED光照射装置の一実施形態を示す概略構成図。
図2】電流の設定値の相違による、PWM制御におけるON時にLEDモジュールの両端に印加される電圧の相違を同じ冷却条件で測定した例を示すグラフ。
図3】変形例のLED光照射装置を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図3を用いて、本発明に係るLED光照射装置の実施形態を説明する。本実施形態では、LED光照射装置を露光装置で用いる場合を例として説明するが、露光装置以外で用いる場合にも本実施形態のLED光照射装置を適用することができる。
【0022】
(1) 本実施形態のLED光照射装置の構成
本実施形態のLED光照射装置10は、LEDモジュール11と、定電流電源12と、電流設定部13と、ショート異常検出装置14と、異常報知部15とを有する。
【0023】
LEDモジュール11は、複数個のLED素子111を直列に接続したものである。図1にはLEDモジュール11を1個のみ示したが、1個のLED光照射装置10にLEDモジュール11を複数個設けてもよい。その場合には、複数個のLEDモジュール11を直列又は並列に接続したものを1個の定電流電源12に接続してもよいし、定電流電源12を複数個用いて、定電流電源12毎に1個又は複数個(LEDモジュール11全体の個数よりも少ない個数)のLEDモジュール11を接続してもよい。
【0024】
LEDモジュール11には冷却部112が設けられている。冷却部112はLEDモジュール11が有する各LED素子111から発生する熱を外部に放出するものである。本実施形態では、冷却部112には冷却水を循環供給する水冷装置を用いるが、その代わりに、空冷ファンを設けてもよいし、空冷フィンを設けて自然冷却するようにしてもよい。
【0025】
定電流電源12は、電流設定部13で設定された電流値(後述)となるように出力電圧を変更することにより電流を制御する電源制御部と、電流を外部(ここではLEDモジュール11)に出力する2個の端子を有する。LEDモジュール11の両端は前記端子に接続される。
【0026】
本実施形態で用いる定電流電源12はPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御によって出力電流の制御を行うものである。PWM制御では、一定値の電圧を、スイッチング素子によってON/OFFを繰り返しながら出力し、そのONとOFFの比を変更することにより、出力される電流及び電圧の時間平均値を制御する。PWM制御を行う定電流電源の代わりに、連続的に(OFFとすることなく)電流を出力しつつ電圧を変更することによって電流を制御する定電流電源を用いてもよい。
【0027】
電流設定部13は、使用者が数値を入力することによって、定電流電源12から出力する電流値Iを設定するものであり、パーソナルコンピュータ(PC)のCPU、ソフトウエア、入力デバイス(キーボード、マウス、タッチパネル等)等により具現化される。電流設定部13では、使用者が直接電流値を入力するようにしてもよい。あるいは、LEDモジュール11から発する光の強度のパラメータ(「強、中、弱」あるいは「1、2、3…」といった、段階を示す語や数値等)と電流値との対応関係のデータを電流設定部13が有する記憶装置に記録しておいたうえで、使用者が光の強度のパラメータを入力し、それに応じた電流値を電流設定部13が記憶装置から取得して設定するようにしてもよい。また、露光装置で露光対象となるレジストの種類毎に電流値を記憶装置に記録しておいたうえで、使用者がレジストの種類を入力し、それに応じた電流値を電流設定部13が記憶装置から取得して設定するようにしてもよい。
【0028】
ショート異常検出装置14は、電圧値取得部141と、温度測定部142と、データベース143と、ショート異常判定部144とを有する。
【0029】
電圧値取得部141は、LEDモジュール11の両端の電圧を測定することにより、電圧値Eを取得する。本実施形態では、電圧値取得部141はPWM制御におけるON時の電圧値を取得するが、その代わりに、ON時とOFF時を合わせた電圧の平均値を取得するようにしてもよい。定電流電源が連続的に電流を出力する場合には、その連続的な出力の間の電圧を取得する。また、定電流電源12に、それが出力している電圧の値を示す電気信号を送出する機能を有するものを用いたうえで、電圧値取得部141がその電気信号を取得するようにしてもよい。
【0030】
温度測定部142は、LEDモジュール11の温度に依存して温度が変化する点の温度を測定する温度計である。本実施形態では、温度測定部142はLEDモジュール11の近傍の温度測定点1421における温度Tを測定する。その代わりに、LEDモジュール11内のLED素子111のうちの1個又は複数個の温度を温度測定部142が測定するようにしてもよい。また、冷却水を用いてLEDモジュール11を冷却する場合には、LEDモジュール11の近傍を通過した冷却水の温度を温度測定部142が測定するようにしてもよい。
【0031】
データベース143は、予めLEDモジュール11が正常であるときに取得された、温度測定点1421の温度Tと電流設定値Iと両端電圧の値Eとの関係を対照表の形式で格納している。以下、データベース143に格納されている両端電圧の値Eを「正常値」と呼ぶ。なお、データベース143には、対照表の代わりに、温度T及び電流設定値Iを変数として両端電圧Eの値を示す数式を格納してもよい。
【0032】
ショート異常判定部144は、温度測定部142で測定された温度測定点1421の温度と、電流設定部13で設定された電流値と、電圧値取得部141で取得された両端電圧の値に基づいて、データベース143を参照し、複数個のLED素子111のいずれかにショート異常が発生したか否かを判定するものである。具体的な判定方法は後述する。ショート異常判定部144は、ショート異常が発生したと判定したとき、異常の発生を示す電気信号である異常通知信号を異常報知部15に送出する。
【0033】
異常報知部15は、異常通知信号をショート異常判定部144から受信したときに、警報音を発出する。警報音の発出の代わりに、警報ランプを点灯又は点滅させるようにしてもよいし、使用者が使用するPCのディスプレイ上に異常が発生した旨を表示するようにしてもよい。
【0034】
(2) 本実施形態のLED光照射装置の動作及び効果
次に、本実施形態のLED光照射装置10の動作、及び該装置が奏する効果について説明する。
【0035】
使用者が電流設定部13が有するPCの入力デバイスを用いて電流の設定値(又は光の強度のパラメータ若しくはレジストの種類)を入力すると、定電流電源12はLEDモジュール11に印加する電圧を制御しつつ当該値を有する電流をLEDモジュール11に供給する。これにより、LEDモジュール11の各LED素子111が発光する。各LED素子111からは熱が発生し、その熱が冷却部112によってLEDモジュール11の外部に放出される。これにより、各LED素子111の温度は、当初は上昇するものの、やがて、電流が流れていない時よりも高い温度で概ね一定となる。
【0036】
LEDモジュール11に電流を流している間、電圧値取得部141はLEDモジュール11の両端電圧を測定し、また、温度測定部142は温度測定点1421の温度を測定する。ショート異常判定部144はデータベース143より、電流設定部13で設定された電流値と温度測定部142で測定された温度に対応する電圧値(正常値)を取得し、該正常値と電圧値取得部141で取得された両端電圧の測定値を対比する。ここで、該測定値が該正常値よりも小さく、該正常値と該測定値の差が、該正常値をLEDモジュール11中のLED素子111の個数で除した値よりも大きい場合には、少なくとも1個のLED素子111にショート異常が発生したことにより両端電圧が低下したと考えられる。この場合、ショート異常判定部144は異常通知信号を異常報知部15に送出し、該異常通知信号を受信した異常報知部15は警報音を発出する。一方、そのような低い測定値が測定されなかったときには、ショート異常は発生していないため、異常通知信号は発出されず、異常報知部15は動作しない。
【0037】
本実施形態のLED光照射装置10によれば、データベース143に格納されている数値のうち、温度測定部142で測定された温度測定点1421の温度に対応した両端電圧の正常値を用いて測定値と対比するため、ショート異常ではなく温度の上昇によって両端電圧が低下したときにショート異常と誤検知することを防ぐことができる。
【0038】
本実施形態のLED光照射装置10によって防止することができる誤検知の要因の1つとして、冷却部112における冷却条件の変化が挙げられる。例えば、水冷式の冷却部112において供給される冷却水の量が減少すると、LED素子111の温度が上昇するため、従来のLED光照射装置ではショート異常の誤検知が生じるおそれがあった。
【0039】
また、本実施形態によって防止することができる誤検知の要因の他の例として、電流の増加に伴う温度の上昇が挙げられる。使用者が新たな電流の設定値を入力することによって該設定値を変更すると、定電流電源12はLEDモジュール11に印加する電圧を変更することにより、新たな設定値でLEDモジュール11に電流を供給するように制御を行う。ここで電流の設定値が増加したときには、LEDモジュール11が有する各LED素子111からの発熱量が増加するため、たとえ冷却部112によって電流増加前と同じ条件で冷却を行っていたとしても、各LED素子111及び温度測定点1421の温度は上昇する。その結果、LED素子111内のキャリアが増加するため、同じ大きさの電流を流すために印加すべき電圧が低下する。
【0040】
その一例として、図2に、電流の設定値が異なる複数の場合について同じ冷却条件でLEDモジュール11(LED素子111を18個直列に接続)に印加される電圧Eを測定した結果を示す。各設定値Iでは、PWM制御におけるON時間の比率をr=(I[A]×100)%(例えば、I=0.1Aのときには10%、I=1Aのときには100%)とし、印加電圧EはON時間中にLEDモジュール11に印加される電圧として求めた(従って、OFF時間を含めた平均の印加電圧はE×r/100)。図2に示す通り、電流設定値Iが大きくなるほど、印加電圧Eは小さくなっている。例えば、電流設定値Iが0.1AのときにはLEDモジュール11の両端電圧Eの正常値は図2より72.1Vであるため、1個のLED素子111には72.1/18=4.01Vの電圧が印加されている。この場合、1個のLED素子111にショート異常が生じると、両端電圧は4.01×(18-1)=68.2Vとなる。一方、電流設定値Iが1AのときにはLEDモジュール11の両端電圧Eの正常値は図2より68.5Vとなる。従って、電流設定値Iが1Aのときの両端電圧Eの測定値が正常値よりもわずか0.5%小さい68.2Vになると、電流設定値Iが0.1Aのときにショート異常が生じた場合の両端電圧Eと同じ値となってしまう。そのため、仮に電流設定値Iの変化及びそれに伴う温度の変化を考慮しないとショート異常と誤検知してしまうが、本実施形態のLED光照射装置10によればこのような誤検知を防止することができる。
【0041】
(3) 変形例
本発明は上記の実施形態には限定されず、種々の変形が可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態ではLEDモジュール11を1個のみ設けたが、図3に示すように1つのLED光照射装置20にLEDモジュール11を複数個設けてもよい。図3のLED光照射装置20では、複数個のLEDモジュール11の各々に1個ずつ定電流電源12を設けたが、複数個(前記複数個でもよいし、それよりも少ない複数個でもよい)のLEDモジュール11に対して1個の定電流電源12を設けてもよい。この場合、定電流電源12を設けた1個又は複数個のLEDモジュール11毎に、電圧値取得部141により電圧値を取得すると共に温度測定部142により温度を測定し、それらの測定値に基づいてデータベース143を参照してショート異常の有無を判定する。
【0043】
上記実施形態ではショート異常の有無を検知したときに異常報知部15が警報音等を発することによって使用者に通知するが、その後、LED光照射装置10が自動的に何らかの措置を取ることはない。それに対して、図3に示したLED光照射装置20は、上記実施形態のLED光照射装置10には無い増加電流設定部131が電流設定部13内に設けられている。増加電流設定部131は、ショート異常判定部144が或るLEDモジュール11においてショート異常が発生したと判定したときに、そのLEDモジュール11が発する光がショート異常の無いときと同強度となるように、すなわち発光するLED素子111の個数が減少したことを補って正常なLED素子111の各々の発光強度を高くするように、そのLEDモジュール11の電流設定値を増加させる。これにより、たとえ一部のLED素子111にショート異常が発生したとしても、LED光照射装置20全体での光の強度を維持することができる。
【0044】
図3に示した例ではLEDモジュール11を複数個有する場合に増加電流設定部131を設けたが、LEDモジュール11を1個のみ有する場合にも同様の増加電流設定部131を設けることができる。
【0045】
また、図3に示したようにLEDモジュール11を複数個有する場合には、増加電流設定部131は、ショート異常が発生したLEDモジュール11とは異なるLEDモジュール11の電流設定値を増加させるようにしてもよい。この場合にも、LED光照射装置20全体での光の強度を維持することができる。この場合には、光の照射範囲内で光の強度のばらつきが生じることを抑えるために、ショート異常が発生したLEDモジュール11の近傍の(例えば隣接する)LEDモジュール11における電流設定値を増加させることが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
10、20…LED光照射装置
11…LEDモジュール
111…LED素子
112…冷却部
12…定電流電源
13…電流設定部
131…増加電流設定部
14…ショート異常検出装置
141…電圧値取得部
142…温度測定部
1421…温度測定点
143…データベース
144…ショート異常判定部
15…異常報知部
図1
図2
図3