(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082952
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】判別装置、判別端末装置、判別装置の制御方法及び制御プログラム、並びに判別システム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/045 20060101AFI20220527BHJP
A61B 1/24 20060101ALI20220527BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220527BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20220527BHJP
A61C 19/04 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A61B1/045 618
A61B1/24
A61B1/00 511
A61B1/045 614
A61B5/00 G
A61C19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194146
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100196209
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 義邦
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】深見 忠典
(72)【発明者】
【氏名】石川 恵生
【テーマコード(参考)】
4C052
4C117
4C161
【Fターム(参考)】
4C052NN04
4C052NN05
4C052NN15
4C052NN16
4C117XA01
4C117XB08
4C117XB09
4C117XD08
4C117XE43
4C117XG34
4C117XG36
4C117XK05
4C117XP04
4C161AA08
4C161BB08
4C161JJ17
4C161NN01
4C161QQ04
4C161WW02
4C161YY16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熟練した専門医の知見を効果的に判別処理に適用し、精度の高い口腔内腫瘍の判別を実現する判別装置等を提供する。
【解決手段】判別装置は、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置であって、
前記撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、
学習済みの第1判別モデルに対して前記空間周波数スペクトルを入力し、入力された前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、
学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、前記第3判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部と
を有することを特徴とする判別装置。
【請求項2】
前記第2判別部は、前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合に限り、学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する、請求項1に記載の判別装置。
【請求項3】
前記出力部によって出力された各情報を表示する表示部を有する、請求項1又は2に記載の判別装置。
【請求項4】
前記空間周波数スペクトルを入力データとし、前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを示すデータを出力データとして、前記第1判別モデルを学習させ、
前記撮影画像を入力データとし、前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを示すデータを出力データとして、前記第2判別モデルを学習させ、
前記撮影画像を入力データとし、前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像、のいずれかであることを示すデータを出力データとして、前記第3判別モデルを学習させる学習部を有する、請求項1-3のいずれか一項に記載の判別装置。
【請求項5】
前記第2判別モデル及び前記第3判別モデルを学習させるために用いられる前記入力データは、前記撮影した撮影画像を複数に分割した分割画像、並びに、前記分割画像を左右回転した画像、及び前記分割画像を左右反転した画像よりなる群から選択される一種以上の画像を含む、請求項4に記載の判別装置。
【請求項6】
青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別端末装置であって、
前記青色光を照射する照射部と、
所定の撮影方向の撮影対象空間を撮影する撮影部と、
前記撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、
学習済みの第1判別モデルに対して前記空間周波数スペクトルを入力し、入力された前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、
学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、前記第3判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部と
を有することを特徴とする判別端末装置。
【請求項7】
青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置の制御方法であって、
前記撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成し、
学習済みの第1判別モデルに対して前記空間周波数スペクトルを入力し、入力された前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別ステップと、
学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別ステップと、
前記第1判別ステップにおいて前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、前記第2判別ステップにおいて前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別ステップと、
前記第1判別ステップにおいて前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ前記第2判別ステップにおいて前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、前記第3判別ステップにおいて前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、
前記第3判別ステップにおいて前記撮影画像が前記良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、
前記第3判別ステップにおいて前記撮影画像が前記悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力ステップと
を含むことを特徴とする制御方法。
【請求項8】
青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置の制御プログラムであって、
前記撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換機能と、
学習済みの第1判別モデルに対して前記空間周波数スペクトルを入力し、入力された前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別機能と、
学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別機能と、
前記第1判別機能において前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、前記第2判別機能において前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別機能と、
前記第1判別機能において前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ前記第2判別機能において前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、前記第3判別機能において前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、
前記第3判別機能において前記撮影画像が前記良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、
前記第3判別機能において前記撮影画像が前記悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力機能と
を前記判別装置に実現させるための制御プログラム。
【請求項9】
青色光が照射された患者の口腔内を撮影し、撮影された撮影画像を出力する端末装置と、前記撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置とを有する判別システムであって、
前記端末装置は、
前記青色光を照射する照射部と、
所定の撮影方向の撮影対象空間を撮影する撮影部と、
前記撮影された撮影画像を出力する端末出力部とを有し、
前記判別装置は、
前記撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、
学習済みの第1判別モデルに対して前記空間周波数スペクトルを入力し、入力された前記空間周波数スペクトルに対応する前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、
学習済みの第2判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して前記撮影画像を入力し、入力された前記撮影画像が、良性の前記口腔内腫瘍を含む画像、悪性の前記口腔内腫瘍を含む画像、及び前記口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、
前記第1判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ前記第2判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、前記第3判別部によって前記撮影画像が前記口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、
前記第3判別部によって前記撮影画像が前記悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、前記患者の口腔内に前記悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部とを有する
ことを特徴とする判別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示された実施形態は、口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行うための、判別装置、判別端末装置、判別装置の制御方法及び制御プログラム、並びに判別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口腔癌のスクリーニングは、主に医師による視診及び触診によって実施される。近年、口腔癌のスクリーニングにおいて用いられるスクリーニングデバイスとして、蛍光観察装置が実用化されている。
【0003】
蛍光観察装置は、外部からの光照射に対する口腔内の健常組織及び病的組織における励起光の特徴を利用した光学機器であり、435~460nmの波長の青色光を照射する。口腔内の健常組織はコラーゲンを有するため、蛍光観察装置によって照射された青色光により、健常組織において蛍光可視が保持される。一方、口腔内の病的組織では、コラーゲンが壊れているため、蛍光観察装置により青色光が照射されても蛍光可視の低下が起こり、暗色が観察される。このように、医師は、蛍光観察装置を用いることにより、患部に接触することなく、非常に簡便で非侵襲的なスクリーニング検査を実施することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、標的組織から発光する蛍光又は他の微弱光を検出する検査鏡、及び、標的組織を覆うことで周囲室内光等の不都合な光の観察領域への侵入を防止する覆装置又は前置装置について記載されている。また、特許文献2には、カメラ及び蛍光可視装置によって撮影された患者の口腔内のデジタル画像データを管理し、口腔内検診を支援する口腔内検診管理システムについて記載されている。
【0005】
特許文献3には、特定健診項目の測定値を要素とする特徴ベクトルを入力値とし、所定の腫瘍マーカーの測定値を教師値として用いて学習した予測モデルに基づいて、所定の疾病について罹病の可能性を予測する機械学習装置について記載されている。また、特許文献4及び5には、医療画像を用いて学習した学習モデルに基づいて、腫瘍の良悪性を判別する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5681162号公報
【特許文献2】特許6453607号公報
【特許文献3】特開2018-68752号公報
【特許文献4】特開2018-183583号公報
【特許文献5】特表2002-530133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の蛍光観察に係る技術が用いられることで、健常粘膜から口腔粘膜病変をスクリーニングする可能性が向上したが、蛍光観察に係る技術だけでは、経験の浅い医師にとって、口腔内の腫瘍の良悪性の鑑別を行うことは難しかった。このため、口腔癌のスクリーニングにおいて、蛍光観察装置が用いられたとしても、医師の主観的な判断に頼らざるを得ず、診断の精度は、担当医師の経験に依存してしまうという問題が生じていた。
【0008】
また、従来の機械学習を用いた腫瘍の判別技術では、医療画像又は検査装置による測定値を単に入力データとして学習するだけであり、熟練した専門医の知見を効果的に反映した判別処理が実現されていなかった。このような機械学習では、人間によって入力された特徴量が教師データとして用いられることがあり、学習済みの判別モデルによる識別性能は、特徴量を設定した人に依存し、有用且つ潜在的な特徴を見逃している可能性があった。
【0009】
開示された判別装置、判別端末装置、判別装置の制御方法及び制御プログラム、並びに判別システムは、熟練した専門医の知見を効果的に判別処理に適用し、精度の高い口腔内腫瘍の判別を実現することを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示された判別装置は、青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置であって、撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、学習済みの第1判別モデルに対して空間周波数スペクトルを入力し、入力された空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部とを有する。
【0011】
また、開示された判別装置において、第2判別部は、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合に限り、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別することが好ましい。
【0012】
また、開示された判別装置は、出力部によって出力された各情報を表示する表示部を有することが好ましい。
【0013】
また、開示された判別装置は、空間周波数スペクトルを入力データとし、空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを示すデータを出力データとして、第1判別モデルを学習させ、撮影画像を入力データとし、撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを示すデータを出力データとして、第2判別モデルを学習させ、撮影画像を入力データとし、撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像、のいずれかであることを示すデータを出力データとして、第3判別モデルを学習させる学習部を有することが好ましい。
【0014】
また、開示された判別装置は、第2判別モデル及び第3判別モデルを学習させるために用いられる入力データは、撮影した撮影画像を複数に分割した分割画像、並びに、分割画像を左右回転した画像、及び分割画像を左右反転した画像よりなる群から選択される一種以上の画像を含むことが好ましい。
【0015】
開示された判別端末装置は、青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別端末装置であって、青色光を照射する照射部と、所定の撮影方向の撮影対象空間を撮影する撮影部と、撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、学習済みの第1判別モデルに対して空間周波数スペクトルを入力し、入力された空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部と、を有する。
【0016】
開示された制御方法は、青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置の制御方法であって、撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成し、学習済みの第1判別モデルに対して空間周波数スペクトルを入力し、入力された空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別ステップと、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別ステップと、第1判別ステップにおいて撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、第2判別ステップにおいて撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別ステップと、第1判別ステップにおいて撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別ステップにおいて撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別ステップにおいて撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別ステップにおいて撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別ステップにおいて撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力ステップとを含む。
【0017】
開示された制御プログラムは、青色光が照射された患者の口腔内を撮影した撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行う判別装置の制御プログラムであって、撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換機能と、学習済みの第1判別モデルに対して空間周波数スペクトルを入力し、入力された空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別機能と、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別機能と、第1判別機能において撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、第2判別機能において撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別機能と、第1判別機能において撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別機能において撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別機能において撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別機能において撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別機能において撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力機能とを判別装置に実現させる。
【0018】
開示された判別システムは、青色光が照射された患者の口腔内を撮影し、撮影された撮影画像を出力する端末装置と、撮影画像を用いて口腔内腫瘍の存否を判別する判別装置とを有する判別システムであって、端末装置は、青色光を照射する照射部と、所定の撮影方向の撮影対象空間を撮影する撮影部と、撮影された撮影画像を出力する端末出力部とを有し、判別装置は、撮影画像をフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する変換部と、学習済みの第1判別モデルに対して空間周波数スペクトルを入力し、入力された空間周波数スペクトルに対応する撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第1判別部と、学習済みの第2判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であるか否かを判別する第2判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、又は、第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、学習済みの第3判別モデルに対して撮影画像を入力し、入力された撮影画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する第3判別部と、第1判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別され且つ第2判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、又は、第3判別部によって撮影画像が口腔内腫瘍を含まない画像であると判別された場合、患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す健常情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す良性腫瘍情報を出力し、第3判別部によって撮影画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であると判別された場合、患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す悪性腫瘍情報を出力する出力部とを有する。
【発明の効果】
【0019】
判別装置、判別端末装置、判別装置の制御方法及び制御プログラム、並びに判別システムによって、熟練した専門医の知見を効果的に判別処理に適用し、精度の高い口腔内腫瘍の判別を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】判別システムの概要構成の一例を示す図である。
【
図3】(a)は、端末装置の一例を示す斜視図であり、(b)は、端末装置の使用方法の一例を示す図である。
【
図5】(a)及び(b)は、青色光照射画像の一例を示す図であり、(c)及び(d)は、空間周波数スペクトルの一例を説明するためのスペクトル画像を示す図である。
【
図6】(a)は、教師データの入力データの一例を説明するための模式図であり、(b)は、第1判別モデルの一例を示す模式図である。
【
図7】(a)は、第2判別モデルの一例を示す模式図であり、(b)は、第3判別モデルの一例を示す模式図である。
【
図8】判別処理の概要を説明するための模式図である。
【
図9】判別処理の動作フローの一例を示す図である。
【
図10】判別端末装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0022】
(判別システム1の概要)
図1は、判別システム1の概略構成の一例を示す図である。判別システム1は、青色光が照射された患者の口腔内を撮影し、撮影された撮影画像に用いて口腔内腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を実行する。判別システム1は、医師又は看護師等の医療従事者によって操作される端末装置2と、患者の口腔内における腫瘍の存否の判別及び口腔内腫瘍の良悪性の判別を行うための判別装置3とを備える。以下、端末装置2を操作する医療従事者を「ユーザ」と称する場合がある。
【0023】
口腔は、口裂から咽頭に連なる器官であり、舌、口底、頬、口蓋、口唇、歯肉、唾液腺等の部位によって構成される。口腔内腫瘍(口腔腫瘍)は、口腔に生じる腫瘍であり、悪性の口腔内腫瘍と良性の口腔内腫瘍とに分類される。悪性の口腔内腫瘍の多くは、粘膜の上皮から発生する扁平上皮癌(Squamous Cell Carcinoma:SCC)であり、発生部位により、舌がん、歯肉がん及び口底がん等と呼ばれる。良性の口腔内腫瘍は、悪性の口腔内腫瘍と同様に細胞が異常増殖した組織の塊であるが、所謂「浸潤と転移」及び「悪液質」を引き起こさない腫瘍である。
【0024】
端末装置2は、青色光照射機能及び撮影機能を有する口腔内蛍光観察装置である。端末装置2の青色光照射機能により、435~460nmの波長の青色光が照射される。端末装置2の撮影機能により、青色光が照射された口腔内の撮影対象空間が撮影され、撮影された撮影画像が青色光照射画像として出力される。
【0025】
照射された青色光の深達度は400~600μm程度であり、健常組織では蛍光可視が保持(Fluorescence Visualization Retention:FVR)される。このため、青色光照射画像において、健常組織に対応するピクセルは青緑色(Apple-Green)の色情報を有する。これに対して、SCC等の病的組織では蛍光可視の低下が起こる(Fluorescence Visualization Loss:FVL)ため、青色光照射画像において、病的組織に対応するピクセルは暗色の色情報を有する。
【0026】
端末装置2は、多機能携帯電話(所謂「スマートフォン」)、タブレット端末、タブレットPC(Personal Computer)、ウェアラブルコンピュータ等の携帯端末機と、蛍光観察装置とを組み合わせたものでもよい。この場合、蛍光観察装置は、撮影機能を有さず、携帯端末機が、蛍光観察装置によって青色光が照射された口腔内の青色光照射画像を撮影する。例えば、端末装置2として、「ベルスコープ(登録商標)」、「オーラルック(登録商標)」等の、スマートフォンを収容可能な収容部を備える蛍光観察装置が用いられてもよい。
【0027】
判別装置3は、コンピュータ、サーバ等の情報処理装置である。判別装置3は、端末装置2によって撮影された青色光照射画像が、良性の口腔内腫瘍を含む画像、悪性の口腔内腫瘍を含む画像、及び口腔内腫瘍を含まない画像のいずれであるかを判別する判別機能を有する。
【0028】
図1では、1台の判別装置3が判別システム1の構成要素として図示されているが、判別装置3は複数の物理的に別体のコンピュータの集合であってもよい。この場合、複数のコンピュータのそれぞれは、同一の機能を有するものでもよく、1台の判別装置3の機能を分散して有するものでもよい。
【0029】
(端末装置2)
図2は、端末装置2の概略構成の一例を示す図である。
【0030】
端末装置2は、所定の照射方向の一定範囲に向けて青色光を照射する機能と、所定の照射方向と略同一方向の撮影方向の撮影対象空間を撮影する機能とを少なくとも有する。また、端末装置2は、青色光照射画像の画像データを無線通信によって判別装置3に送信する機能を有する。そのために、端末装置2は、端末通信部21と、端末記憶部22と、端末表示部23と、端末操作部24と、照射部25と、撮影部26と、端末制御部27とを備える。
【0031】
端末通信部21は、図示しない無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイントとの間でIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)802.11規格の無線通信方式に基づいて無線通信を行う通信インターフェース回路を備える。端末通信部21は、端末制御部27から取得した青色光照射画像の画像データを無線通信により判別装置3に送信する。また、端末通信部21は、図示しない基地局により割り当てられるチャネルを介して、基地局との間でLTE(Long Term Evolution)方式、第5世代(5G)移動通信システム等による無線信号回線を確立し、基地局との間で通信を行ってもよい。また、端末通信部21は、Bluetooth(登録商標)等の通信方式に従った近距離無線通信を行うためのインターフェース回路を有し、判別装置3に向けて電波を送信してもよい。また、端末通信部21は、青色光照射画像の画像データに対応する各種信号を赤外線通信等によって送信するための送信回路を有してもよい。また、端末通信部21は、有線LANの通信インターフェース回路を備えてもよい。これにより、端末装置2は、端末通信部21を介して判別装置3に青色光照射画像を提供することができる。
【0032】
なお、端末装置2は、端末通信部21に代えて又は端末通信部21とともに、可搬型記憶媒体を着脱可能に保持する入出力装置を備えてもよい。この場合、入出力装置は、端末制御部27から取得した青色光照射画像の画像データを可搬型記憶媒体に記憶する。これにより、端末装置2は、可搬型記憶媒体を介して判別装置3に青色光照射画像を提供することができる。
【0033】
端末記憶部22は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の半導体メモリ装置である。端末記憶部22は、端末制御部27における処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム及びデータ等を記憶する。端末記憶部22に記憶されるドライバプログラムは、端末通信部21を制御する通信デバイスドライバプログラム、端末表示部23を制御する出力デバイスドライバプログラム、端末操作部24を制御する入力デバイスドライバプログラム、照射部25を制御する照射デバイスドライバプログラム、及び、撮影部26を制御する撮影デバイスドライバプログラム等である。端末記憶部22に記憶されるアプリケーションプログラムは、ユーザによる端末操作部24の操作に応じて入力された指示に基づいて、照射部25を動作させて所定の照射方向の一定範囲に向けて青色光を照射させる照射処理、撮影部26を動作させて青色光照射画像の画像データを取得する撮影処理、取得された青色光照射画像の画像データを判別装置3に送信する送信処理等を端末制御部27に実行させるための制御プログラム等である。また、端末記憶部22は、所定の処理に係るデータを一時的に記憶してもよい。
【0034】
端末表示部23は、液晶ディスプレイである。なお、端末表示部23は、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等でもよい。端末表示部23は、撮影された青色光照射画像等を表示する。
【0035】
端末操作部24は、タッチパネル、マウス等のポインティングデバイスである。端末操作部24は、入力キー等でもよい。タッチパネルは、静電容量式の近接センサを備え、ユーザの非接触操作を検出可能に構成されてもよい。ユーザは、端末操作部24を用いて、文字、数字及び記号、若しくは、端末表示部23の表示画面上の位置等を入力することができる。端末操作部24は、ユーザにより操作されると、その操作に対応する信号を発生する。そして、端末操作部24は、発生した信号をユーザの指示として、端末制御部27に供給する。
【0036】
照射部25は、狭帯域光を出射するレーザダイオード(Laser Diode)等の半導体レーザにより構成される。照射部25は、狭帯域の青色光(例えば435~460nmの波長帯域の波長を有する光)を励起光として照射出力する。
【0037】
撮影部26は、光学レンズ及び撮像素子等を有する。光学レンズは、被写体からの光束を撮像素子の撮像面上に結像させる。撮像素子は、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等であり、撮像面上に結像した被写体像の画像を出力する。撮影部26は、撮像素子によって生成された画像から所定のファイル形式の静止画像データを作成して出力する。撮影部26は、画像データを出力する際に、画像データの取得時刻を対応付けてもよい。なお、撮影部26は、連続して撮像素子によって生成された画像から、所定期間毎に所定のファイル形式の動画像データを作成して出力してもよい。
【0038】
端末制御部27は、端末記憶部22に記憶されているオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム及びアプリケーションプログラムをメモリにロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する処理装置である。端末制御部27は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の電子回路、又は各種電子回路の組み合わせである。
図2においては、端末制御部27が単一の構成要素として図示されているが、端末制御部27は複数の物理的に別体のプロセッサの集合であってもよい。
【0039】
端末制御部27は、制御プログラムに含まれる各種命令を実行することにより、照射制御部271、撮影制御部272、及び送信制御部273として機能する。以下、照射制御部271、撮影制御部272、及び送信制御部273の機能の一例を、
図3を参照して説明する。
【0040】
図3(a)は、端末装置2の一例を示す斜視図である。
【0041】
図3(a)に示される端末装置2は略板状であり、端末装置2の表面(例えば、最も広い一対の面の一方の面)に、照射部25及び撮影部26が設置される。照射部25の照射方向及び撮影部26の撮影方向は、ともに表面の垂直方向と略同一である。これにより、照射部25によって照射された青色光の照射空間の少なくとも一部は、撮影部26の撮影対象空間に含まれる。
【0042】
図3(b)は、端末装置の使用方法の一例を示す図である。端末装置2の裏面(例えば、最も広い一対の面の他方の面)に、端末表示部23が設置される。
【0043】
照射制御部271は、ユーザによる端末操作部24の操作に応じて照射指示が入力された場合、所定の照射方向の一定範囲に向けて青色光を照射するように照射部25を制御する。
【0044】
ユーザによる端末操作部24の操作に応じて撮影指示が入力された場合、撮影部26は、所定時間(例えば、1/30秒、1/15秒、又は1秒)ごとに照射方向と略同一方向の撮影方向の撮影対象空間を撮影する。撮影制御部272は、撮影部26による撮影のたびに、撮影された撮影画像を端末表示部23に表示する。
【0045】
図3(b)に示される例では、端末装置2の表面は、ユーザによって患者Pの口腔の方向に向けられている。これにより、照射部25によって照射される青色光の照射方向は患者Pの口腔の方向となる。
図3(b)に示される照射範囲R1は、患者Pに照射された青色光の照射範囲の一例である。
【0046】
また、
図3(b)に示される例では、撮影部26の撮影方向は、照射部25の照射方向と略同一であるため、撮影部26の撮影方向は口腔の方向である。
図3(b)に示される撮影範囲R2は、患者Pに対する撮影範囲の一例である。端末表示部23には、撮影範囲R2に対応する撮影画像が所定時間ごとに表示される。これにより、ユーザは、撮影部26によって現在撮影されている撮影範囲R2をリアルタイムに確認しながら、端末装置2の向きを調整することが可能となる。
【0047】
ユーザによる端末操作部24の操作に応じて取得指示が入力された場合、撮影制御部272は、当該取得指示が入力されたタイミングで撮影された撮影画像を青色光照射画像として取得し、青色光照射画像の画像データを端末記憶部22に記憶する。撮影制御部272は、撮影された撮影画像のうちの少なくとも一部の範囲の画像を、診断範囲の青色光照射画像として取得してもよい。撮影制御部272による診断範囲の青色光照射画像の取得処理は、例えば、撮影された撮影画像のうちの、ユーザによる端末操作部24の操作によって指定された診断範囲に対応する画像が、診断範囲の青色光照射画像として取得される処理である。また、撮影制御部272による診断範囲の青色光照射画像の取得処理は、撮影された撮影画像のうちの、検出領域を抽出する公知の画像処理を用いて自動的に設定された診断範囲に対応する画像が、診断範囲の青色光照射画像として取得される処理でもよい。また、端末装置2は、これら手動による診断範囲設定及び自動による診断範囲設定を切替えるための操作手段(例えばタッチパネルに表示される切替ボタン等)を備えてもよい。なお、以下で述べる「青色光照射画像」は、診断範囲の青色光照射画像(撮影された撮影画像のうちの少なくとも一部の診断範囲の画像)を含む。
【0048】
撮影制御部272は、青色光照射画像の画像データの記憶前及び/又は記憶後に、取得された青色光照射画像を、端末表示部23に表示してもよい。
【0049】
ユーザによる端末操作部24の操作に応じて送信指示が入力された場合、送信制御部273は、端末記憶部22に記憶された青色光照射画像の画像データを取得し、端末通信部21を介して判別装置3に送信する。
【0050】
端末装置2の形状及びサイズは、
図3に示される例に限定されない。例えば、端末装置2は、患者Pの口腔内に挿入可能な形状及びサイズであってもよい。
【0051】
(判別装置3)
図4は、判別装置3の概略構成の一例を示す図である。
【0052】
判別装置3は、端末装置2から送信された青色光照射画像の画像データを受信する受信機能、青色光照射画像を空間周波数スペクトルに変換する変換機能を有する。また、判別装置3は、判別モデルを学習させる学習機能、学習済みの判別モデルを用いて口腔内腫瘍の存否及び口腔内腫瘍の良悪性を判別する判別機能、判別機能による判別結果を出力する出力機能等を有する。そのために、判別装置3は、通信部31と、記憶部32と、表示部33と、操作部34と、処理部35とを備える。
【0053】
通信部31は、ハードウェア、ファームウェア、又はTCP/IPドライバやPPPドライバ等の通信用ソフトウェア又はこれらの組み合わせとして実装される。判別装置3は、通信部31を介して、端末装置2から青色光照射画像の画像データを受信することができる。また、通信部31は、Bluetooth(登録商標)等の通信方式に従った近距離無線通信を行うためのインターフェース回路を有し、端末装置2からの電波を受信してもよい。また、通信部31は、青色光照射画像の画像データに対応する各種信号を赤外線通信等によって受信するための受信回路を有してもよい。また、通信部31は、有線LANの通信インターフェース回路を備えてもよい。これにより、判別装置3は、通信部31を介して端末装置2から青色光照射画像を取得することができる。
【0054】
なお、判別装置3は、通信部31に代えて又は通信部31とともに、可搬型記憶媒体を着脱可能に保持する入出力装置を備えてもよい。この場合、入出力装置は、可搬型記憶媒体に記憶された青色光照射画像の画像データを取得し、取得した画像データを処理部35に供給する。これにより、判別装置3は、可搬型記憶媒体を介して端末装置2から青色光照射画像を取得することができる。
【0055】
記憶部32は、例えば、ROM、RAM等の半導体メモリ装置である。記憶部32は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、又はデータを記憶可能な前記以外の各種記憶装置でもよい。記憶部32は、処理部35における処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム及びデータ等を記憶する。記憶部32に記憶されるコンピュータプログラムは、例えばCD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部32にインストールされてもよい。
【0056】
記憶部32に記憶されるデータは、後述する、第1判別モデルM1、第2判別モデルM2、及び第3判別モデルM3、教師データTD等である。また、記憶部32は、端末装置2から取得した青色光照射画像の画像データを記憶する。記憶部32は、所定の処理に係るデータを一時的に記憶してもよい。
【0057】
表示部33は、液晶ディスプレイである。なお、表示部33は、有機ELディスプレイ等でもよい。表示部33は、処理部35から供給される画像データに基づく青色光照射画像、判別処理の結果情報等を表示する。
【0058】
操作部34は、キーボード、及び/又はマウスである。操作部34は、タッチパネル等のポインティングデバイスでもよい。ユーザは、操作部34を用いて、文字や数字、記号、若しくは、表示部33の表示画面上の位置等を入力することができる。操作部34は、ユーザにより操作されると、その操作に対応する信号を発生する。そして、発生した信号は、ユーザの指示として処理部35に供給される。
【0059】
処理部35は、記憶部32に記憶されているオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム及びアプリケーションプログラムをメモリにロードし、ロードしたプログラムに含まれる命令を実行する処理装置である。処理部35は、例えば、CPU、MPU、DSP等の電子回路、又は各種電子回路の組み合わせである。
図4においては、処理部35が単一の構成要素として図示されているが、処理部35は複数の物理的に別体のプロセッサの集合であってもよい。
【0060】
処理部35は、記憶部32に記憶されたアプリケーションプログラム(制御プログラム)に含まれる各種命令を実行することにより、受信処理部351、変換処理部352、学習処理部353、判別処理部354、及び出力処理部335として機能する。以下、受信処理部351、変換処理部352、学習処理部353、判別処理部354、及び出力処理部335の機能の一例を、
図5-8を参照して説明する。
【0061】
受信処理部351は、端末装置2から送信された青色光照射画像の画像データを、通信部31を介して受信し、受信した青色光照射画像の画像データを記憶部32に記憶する。
【0062】
図5(a)及び(b)は、青色光照射画像の一例を示す図である。
【0063】
図5(a)に示される青色光照射画像は、口腔内腫瘍を含まない画像(健常組織のみを含む画像)の一例であり、
図5(b)に示される青色光照射画像は、悪性の口腔内腫瘍を含む画像である。
【0064】
学習処理部353は、記憶部32に記憶された3種類の教師データTDのそれぞれを用いて学習させた第1判別モデルM1、第2判別モデルM2、及び第3判別モデルM3を生成し、生成した各判別モデルM1-M3を記憶部32に記憶する。
【0065】
3種類の教師データTDのうちの第1教師データTD1は、青色光照射画像をフーリエ変換することにより生成された空間周波数スペクトルを入力データとし、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」のいずれか一方を示すラベルデータを出力データとする教師データである。また、3種類の教師データTDのうちの第2教師データTD2は、青色光照射画像の画像データを入力データとし、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」のいずれか一方を示すラベルデータを出力データとする教師データである。また、3種類の教師データTDのうちの第3教師データTD3は、青色光照射画像の画像データを入力データとし、「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であること」、「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であること」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」のいずれかを示すラベルデータを出力データとする教師データである。
【0066】
第2教師データTD2及び第3教師データTD3は、ユーザ又は判別装置3の管理者等によって生成されたデータである。第1教師データTD1の入力データである空間周波数スペクトルは、変換処理部352によって生成される。以下、変換処理部352の変換処理の一例について説明する。
【0067】
変換処理部352は、記憶部32に記憶された第2教師データTD2を抽出する。次に、変換処理部352は、抽出した第2教師データTD2の入力データである青色光照射画像の画像データを、以下の式(1)で表される公知のフーリエ変換を行った後、式(2)により空間周波数スペクトルを生成する。なお、生成された空間周波数スペクトルは、画像データの中心からの距離rに対応する成分量p(r)である。そして、変換処理部352は、生成された空間周波数スペクトルのデータを入力データとし、抽出した第2教師データTD2のラベルデータを出力データとする第1教師データTD1を生成し、記憶部32に記憶する。
【0068】
【0069】
【0070】
図5(c)及び(d)は、空間周波数スペクトルの一例を説明するためのスペクトル画像を示す図である。
【0071】
図5(c)に示されるスペクトル画像は、
図5(a)に示される青色光照射画像の画像データを、式(1)で表される公知のフーリエ変換によって算出されたF(u,v)に係るパワースペクトルを示す画像を説明するための一例の図である。また、
図5(d)に示されるスペクトル画像は、
図5(b)に示される青色光照射画像の画像データを、式(1)で表される公知のフーリエ変換によって算出されたF(u,v)に係るパワースペクトルを示す画像を説明するための一例の図である。
【0072】
スペクトル画像では、画像の中心付近が低周波成分であり且つ中心から離れるほど高周波成分になる空間周波数スペクトルが示される。例えば、
図5(a)に示されるように、青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像(健常組織のみを含む画像)である場合、健常組織(健常粘膜)では粘膜表面は滑らかであり、ピクセルの位置の変化に対する輝度(画素値)の変化は小さい。このため、
図5(a)に示される青色光照射画像の画像データをフーリエ変換することによって算出されたF(u,v)に係るスペクトル画像は、低周波成分を多く含むスペクトル画像(
図5(c))となる。
【0073】
一方、
図5(b)に示されるように、青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である場合、口腔内腫瘍では粘膜表面に凹凸があり、ピクセルの位置の変化に対して輝度(画素値)が大きく変化する。このため、
図5(b)に示される青色光照射画像の画像データをフーリエ変換することによって算出されたF(u,v)に係るスペクトル画像は、
図5(c)に示されるスペクトル画像に比べて、より高周波の画素値変動成分を含むスペクトル画像(
図5(d))となる。
【0074】
図6(a)は、第2教師データTD2及び第3教師データTD3の入力データの一例を説明するための模式図である。
【0075】
図6(a)に示される青色光照射画像の画像データは、縦及び横が1,600ピクセルの画像である。なお、青色光照射画像の画像データの画像サイズは、
図6(a)に示されるものに限らず、どのようなサイズであってもよい。学習処理部353は、青色光照射画像の画像データを、2,500個の縦及び横が32ピクセルの画像データに分割する。そして、学習処理部353は、分割された画像データを入力データとし、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」のいずれか一方を示すラベルデータを出力データとする第2教師データTD2を生成する。すなわち、
図6(a)に示される青色光照射画像の画像データから、2,500の教師データが生成される。なお、学習処理部353は、2,500の青色光照射画像の画像データのそれぞれに対して、左回転した画像(2,500)、右回転した画像(2,500)、上下反転した画像(2,500)、及び左右反転した画像(2,500)を生成し、これらの合計12,500の画像の画像データを教師データとしてもよい。学習処理部353は、2,500の青色光照射画像、左回転した画像(2,500)、右回転した画像(2,500)、上下反転した画像(2,500)、及び左右反転した画像(2,500)よりなる群から選択される一種類以上の画像の画像データを教師データとしてもよい。例えば、2,500の青色光照射画像、及び、左回転した画像(2,500)の、合計5,000の画像の画像データが教師データとして用いられてもよい。このように、学習処理部353は、口腔内腫瘍を含む青色光照射画像の入手が難しい場合でも、教師データの数を増加させることを可能とする。
【0076】
同様に、学習処理部353は、分割された画像データを入力データとし、「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であること」、「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であること」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」のいずれかを示すラベルデータを出力データとする第3教師データTD3を生成する。
【0077】
次に、学習処理部353による学習処理について説明する。
【0078】
図6(b)は、第1判別モデルの一例を示す模式図である。
図6(b)に示される第1判別モデルM1は、入力層M1-1、隠れ層M1-2及び出力層M1-3を有するニューラルネットワークモデルである。入力層M1-1の所謂「ニューロン」のそれぞれは、第1教師データTD1の空間周波数スペクトルの各rに対応する成分量p(r)が入力されるものである。入力層M1-1の各ニューロンに、空間周波数スペクトルが入力される。なお、入力層M1-1のニューロンのうち、空間周波数スペクトルのrに対応しないニューロンが存在してもよく、この場合、当該ニューロンはバイアスとして機能する。
【0079】
隠れ層M1-2のニューロンの数は、入力層M1-1のニューロンの数よりも多くても少なくてもよい。また、出力層M1-3に含まれる2つのニューロンは、それぞれ「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータ及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」を示すラベルデータに対応する。
【0080】
図7(a)は、第2判別モデルの一例を示す模式図である。
図7(a)に示される第2判別モデルM2は、入力層M2-1、畳み込み層M2-2、プーリング層M2-3及び出力層M2-4を有する畳み込みニューラルネットワークなどを含む深層ニューラルネットワークモデルである。畳み込み層M2-2及びプーリング層M2-3は、それぞれ2以上であってもよい。入力層M2-1のニューロンは、第2教師データTD2の(分割された)青色光照射画像の画像データの各ピクセルに対応する色情報(R値、G値、B値)に対応する。出力層M2-4に含まれる2つのニューロンは、それぞれ「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータ及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」を示すラベルデータに対応する。
【0081】
図7(b)は、第3判別モデルの一例を示す模式図である。
図7(b)に示される第3判別モデルM3は、入力層M3-1、畳み込み層M3-2、プーリング層M3-3及び出力層M3-4を有する畳み込みニューラルネットワークなどを含む深層ニューラルネットワークモデルである。入力層M3-1、畳み込み層M3-2及びプーリング層M3-3は、入力層M2-1、畳み込み層M2-2及びプーリング層M2-3と同様である。出力層M3-4に含まれる3つのニューロンは、それぞれ「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータ、「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータ及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」を示すラベルデータに対応する。
【0082】
学習処理部353は、第1教師データTD1を用いて公知のマシンラーニング学習を実行することにより、ニューラルネットワークにおける各ニューロンの重みが学習された第1判別モデルを生成又は更新する。また、学習処理部353は、第2教師データTD2を用いて公知のディープラーニング学習を実行することにより、多層構造のニューラルネットワークにおける各ニューロンの重みが学習された第2判別モデルを生成又は更新する。また、学習処理部353は、第3教師データTD3を用いて公知のディープラーニング学習を実行することにより、多層構造のニューラルネットワークにおける各ニューロンの重みが学習された第3判別モデルを生成又は更新する。
【0083】
図8は、判別処理の概要を説明するための模式図である。判別処理は、変換処理部352、判別処理部354及び出力処理部355によって実行される。判別処理では、端末装置2から新たな患者の(教師データTDとは異なる)青色光照射画像の画像データが取得された場合、取得された青色光照射画像に対応する判定結果(悪性腫瘍情報、良性腫瘍情報又は健常情報)が出力される。
【0084】
まず、変換処理部352は、取得された青色光照射画像の画像データをフーリエ変換することにより、第1判定処理で用いられる空間周波数スペクトルを生成する。なお、変換処理部352は、取得された青色光照射画像を小サイズ(32画素×32画素)に分割した画像データ又は後述する出力画像の画像データをフーリエ変換することにより、第1判定処理で用いられる空間周波数スペクトルを生成してもよい。
【0085】
次に、判別処理部354は、(取得された青色光照射画像が分割されている場合は)小サイズ(32画素×32画素)に分割された画像から、元の大きさの画像(取得された青色光照射画像)を再構成する。判別処理部354は、青色光照射画像における口腔内の任意の画素について、その画素を含む複数の分割画像を生成し、多数決により判定を行う。判別処理部354は、多数決による判定処理を口腔内領域の全画素に対して行うことで、後述する第2判別処理及び第3判別処理にて用いる最終的な出力画像を出力する。なお、出力画像は、判別対象となる青色光照射画像のうちの一部の画像である。
【0086】
次に、判別処理部354は、第1判別処理及び第2判別処理を実行する。第1判別処理では、判別処理部354は、生成した空間周波数スペクトルを示すデータを入力データとして推定されるラベルデータの確率を、第1判別モデルM1を用いて算出する。そして、判別処理部354は、算出したラベルデータの確率に基づいて、「空間周波数スペクトルに対応する青色光照射画像(取得された青色光照射画像)が口腔内腫瘍を含む画像である」又は「空間周波数スペクトルに対応する青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」のいずれか一方を判別する。例えば、判別処理部354は、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータの確率として82%を算出し、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」を示すラベルデータの確率として18%を算出した場合、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」と判別する。
【0087】
第2判別処理では、判別処理部354は、出力画像(青色光照射画像のうちの一部の画像)の画像データを入力データとして推定されるラベルデータの確率を、第2判別モデルM2を用いて算出する。そして、判別処理部354は、算出したラベルデータの確率に基づいて、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」のいずれか一方を判別する。
【0088】
次に、判別処理部354は、第1判別処理及び第2判別処理の判別結果がともに「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果か否かを判定する。第1判別処理及び第2判別処理の判別結果がともに「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果である場合、判別処理部354は、当該判別結果を出力処理部355に送信する。そして、出力処理部355は、第1判別処理及び第2判別処理の判別結果がともに「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果を取得すると、健常情報を出力する。健常情報は、取得された青色光照射画像が撮影された患者の口腔内に口腔内腫瘍が存在しないことを示す情報である。また、健常情報の出力は、表示部33への健常情報の表示、及び/又は、他装置への健常情報の送信等である。
【0089】
第1判別処理及び第2判別処理の判別結果がともに「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果でない場合(第1判別処理の判定結果及び第2判別処理の判定結果の少なくとも一方が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合)、判別処理部354は、第3判別処理を実行する。
【0090】
第3判別処理では、判別処理部354は、出力画像(青色光照射画像のうちの一部の画像)の画像データを入力データとして推定されるラベルデータの確率を、第3判別モデルM3を用いて算出する。そして、判別処理部354は、算出したラベルデータの確率に基づいて、「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像である」、「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像である」及び「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」のいずれかを判別する。例えば、判別処理部354は、「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータの確率が68%と算出し、「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像であること」を示すラベルデータの確率が23%と算出し、「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像であること」を示すラベルデータの確率が9%と算出した場合、「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像である」と判別する。
【0091】
次に、判別処理部354は、第3判別処理の判別結果を出力処理部355に送信する。出力処理部355は、第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像である」という結果を取得すると、悪性腫瘍情報を出力する。出力処理部355は、第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像である」という結果を取得すると、良性腫瘍情報を出力する。出力処理部355は、第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果を取得すると、健常情報を出力する。なお、悪性腫瘍情報は、取得された青色光照射画像が撮影された患者の口腔内に悪性の口腔内腫瘍が存在することを示す情報である。また、良性腫瘍情報は、取得された青色光照射画像が撮影された患者の口腔内に良性の口腔内腫瘍が存在することを示す情報である。また、悪性腫瘍情報の出力は、表示部33への悪性腫瘍情報の表示、及び/又は、他装置への悪性腫瘍情報の送信等であり、良性腫瘍情報の出力は、表示部33への良性腫瘍情報の表示、及び/又は、他装置への良性腫瘍情報の送信等である。
【0092】
図9は、変換処理部352、判別処理部354及び出力処理部355による判別処理の動作フローの一例を示す図である。
【0093】
まず、変換処理部352は、青色光照射画像の画像データが端末装置2から取得された場合、取得された青色光照射画像の画像データをフーリエ変換することにより、空間周波数スペクトルを生成する(ステップS101)。
【0094】
次に、判別処理部354は、第1判別処理を実行する(ステップS102)。
【0095】
次に、判別処理部354は、第1判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0096】
第1判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合(ステップS103-Yes)、判別処理部354は、処理をステップS106に進める。
【0097】
第1判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果である場合(ステップS103-No)、判別処理部354は、第2判別処理を実行する(ステップS104)
【0098】
次に、判別処理部354は、第2判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果であるか否かを判定する(ステップS105)。
【0099】
第1判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合(ステップS105-Yes)、判別処理部354は、処理をステップS106に進める。
【0100】
第1判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果である場合(ステップS105-No)、判別処理部354は、処理をステップS111に進める。
【0101】
ステップS106では、判別処理部354は、第3判別処理を実行する。
【0102】
次に、判別処理部354は、第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果であるか否かを判定する(ステップS107)。
【0103】
第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含まない画像である」という結果である場合(ステップS107-No)、判別処理部354は、処理をステップS111に進める。
【0104】
第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合(ステップS107-Yes)、第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像である」という結果であるか否かを判定する(ステップS108)。
【0105】
第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が悪性の口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合(ステップS108-Yes)、出力処理部355は、悪性腫瘍情報を出力し(ステップS109)、判別処理を終了する。
【0106】
第3判別処理の判別結果が「青色光照射画像が良性の口腔内腫瘍を含む画像である」という結果である場合(ステップS108-No)、出力処理部355は、良性腫瘍情報を出力し(ステップS110)、判別処理を終了する。
【0107】
ステップS111では、出力処理部355は、健常情報を出力して判別処理を終了する。
【0108】
以上、詳述したとおり、本実施形態の判別システム1は、青色光照射画像を教師データとして学習済みの第2及び第3判別モデルを用いた第2及び第3判別処理を実行するとともに、口腔内の腫瘍の粘膜表面及び口腔内の健常組織の粘膜表面における青色光照射画像での輝度の違いに着目した第1判別モデルを用いた第1判別処理を実行する。これにより、本実施形態の判別システム1において、熟練した専門医の知見を効果的に判別処理に適用することができ、精度の高い口腔内腫瘍の判別を実現することが可能となる。
【0109】
また、本実施形態の判別システム1では、それぞれが異なる第1、第2及び第3判別モデルを用いた第1、第2及び第3判別処理を段階的に実行することで、青色光照射画像を悪性腫瘍、良性腫瘍及び健常に分類する。このため、本実施形態の判別システム1では、第2及び第3判別モデルの教師データの数が十分でなくとも、1種類の判別モデルのみで分類する場合に比べ、より精度の高い判別処理が可能となる。また、第2及び第3判別モデルの教師データとして、1種類の画像データから画像処理(分割、回転、及び/又は反転処理)した複数種類の画像データを用いることで、青色光照射画像の入手が困難であっても判別処理の精度を向上させることが可能となる。このように、判別モデルに用いる教師データの数を低減させることができ、判別装置3の処理負荷及び/又は端末装置2と判別装置3との間の通信負荷を軽減させ、判別装置3の処理リソースを過度に消費することなく、精度の高い口腔内腫瘍の判別を実現することが可能となる。
【0110】
(変形例1)
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、判別装置3を使用せずに、端末装置2に、判別装置3の変換機能、学習機能、判別機能及び出力機能を備えさせた判別端末装置4が用いられてもよい。
【0111】
図10は、判別端末装置4の概略構成の一例を示す図である。判別端末装置4は、判別装置3の変換機能、学習機能、判別機能及び出力機能を備える端末装置2である。なお、
図10において、
図2及び
図4と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0112】
判別端末装置4の変換処理部352、学習処理部353及び判別処理部354は、端末記憶部22に記憶された青色光照射画像(撮影制御部272によって記憶された青色光照射画像)を用いて、それぞれ変換処理、学習処理及び判別処理を実行する。
【0113】
また、出力処理部355は、判別結果(健常情報、悪性腫瘍情報、良性腫瘍情報)を、端末表示部23に表示出力する。
【0114】
このように、判別端末装置4では、1台の装置によって、青色光照射画像の撮影処理、判別処理、及び判別結果の表示が実行されるため、他の装置へのデータの送信処理が不要となるとともに、ユーザは青色光照射画像の撮影後に即座に判別結果を確認することができる。このように、判別端末装置4によって、口腔内腫瘍の判別精度の向上及びスクリーニングに係る時間の短縮が可能となる。
【0115】
(変形例2)
第1判別処理において用いられる第1判別モデルは、サポートベクターマシン(Support Vector Machine,SVM)等であってもよい。この場合、周波数スペクトルが特徴量として用いられ、「青色光照射画像」が、「口腔内腫瘍を含む画像である」及び「口腔内腫瘍を含まない画像である」のいずれかに分類される。
【符号の説明】
【0116】
1 判別システム
2 端末装置
21 端末通信部
22 端末記憶部
23 端末表示部
24 端末操作部
25 照射部
26 撮影部
27 端末制御部
271 照射制御部
272 撮影制御部
273 送信制御部
3 判別装置
31 通信部
32 記憶部
33 表示部
34 操作部
35 処理部
351 受信処理部
352 変換処理部
353 学習処理部
354 判別処理部
355 出力処理部
4 判別端末装置
M1 第1判別モデル
M2 第2判別モデル
M3 第3判別モデル
TD 教師データ