(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082966
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】基板表面の検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20220527BHJP
G01N 21/95 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/95 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194167
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】592010519
【氏名又は名称】システム精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 慶
【テーマコード(参考)】
2G043
2G051
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043CA05
2G043EA01
2G043EA14
2G043GA01
2G043HA01
2G043JA02
2G043LA01
2G051AA71
2G051AB02
2G051CA01
2G051CB01
2G051CB05
2G051DA06
2G051DA08
(57)【要約】
【課題】ハードディスク用基板等の基板表面の組成に異質な組成が存在するか否かを検査する。
【解決手段】基板表面の検査装置は、基板表面に単波長のレーザ光を照射するレーザ発振器16と、レーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光するフォトルミネセンス用の光検出器18と、レーザ光の基板表面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、基板表面の標準組成によるフォトルミネセンス光の標準強度と、基板表面の異質組成によるフォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、異質強度を放出した基板表面位置の位置座標を演算する演算処理部とを有し、演算処理部からの信号に基づいて、基板表面における異質組成の位置を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面における標準組成とは相違した異質組成を検出する基板表面の検査方法であって、
基板表面に照射された単波長のレーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光し、
前記レーザ光の基板表面に対する照射位置を相対的に走査移動し、
基板表面の標準組成による前記フォトルミネセンス光の標準強度と、基板表面の前記異質組成による前記フォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、
前記異質強度を放出した基板表面の位置を演算し、
基板表面における異質組成の位置を検出する、基板表面の検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の基板表面の検査方法において、前記異質組成の基板表面における位置情報を表示部に表示する、基板表面の検査方法。
【請求項3】
基板表面における標準組成とは相違した異質組成を検出する基板表面の検査装置であって、
前記基板表面に単波長のレーザ光を照射するレーザ発振器と、
前記レーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光するフォトルミネセンス用の光検出器と、
前記レーザ光の基板表面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、
基板表面の標準組成による前記フォトルミネセンス光の標準強度から閾値を設定し、基板表面の前記異質組成による前記フォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、前記異質強度を放出した基板表面位置の位置座標を演算する演算処理部と、
前記演算処理部からの信号に基づいて、基板表面における異質組成の位置を検出する、基板表面の検査装置。
【請求項4】
請求項3記載の基板表面の検査装置において、前記異質組成の基板表面における位置情報を表示部に表示する、基板表面の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク用基板等の基板表面の組成を検査する基板表面の検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクはアルミニウムやガラスからなる基板の表面に磁性体を塗布することにより形成される。ハードディスクを製造するには、磁性体が塗布される前の基板の表面が検査され、さらに、磁性体からなる積層膜が成膜された後の基板の表面が検査される。このような基板表面の検査は、従来から、基板表面にレーザを照射し、基板表面の状態により散乱の強度や回析方向、および正反射光の変位等の複数の光の振る舞い等から欠陥や付着異物等を検査することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されるディスク表面検査装置は、ハードディスクの表面にレーザスポット光を照射する第1の送光系と、ハードディスクの表面に所定幅の平行光を照射する第2の送光系と、第1の送光系からの正反射光を受光する受光素子と、第1の送光系からの散乱光を受光する受光素子と、第2の送光系からの正反射光を受光する受光素子と、第2の送光系からの散乱光を受光する受光素子とを備えている。これら4つの受光素子のうち同時に2つの受光素子が受光した4つのパターンから表面欠陥の種類を特定するようにしている。
【0004】
また、特許文献2に記載された半導体ウエハの蛍光特性検査装置においては、試料に光を照射するパルス光源と、試料からのフォトルミネセンスの波長成分を抽出するためのフィルターと、フォトルミネセンスの強度分布、寿命分布又はその相関分布を求める信号処理装置とを有している。この検査装置は、撮像素子を有するカメラで撮像した画像を被測定光の強度の経時変化を求め、フォトルミネセンスの強度分布像と寿命分布像により、試料の結晶品質等の評価を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-180376号公報
【特許文献2】特開平2-268255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高品質のハードディスクを製造するには、基板表面の組成が均質となっているか、異なる組成が含まれているか、さらに基板表面に不純物が含まれているかについても検査し、一定の表面品質のハードディスクを歩留まり良く製品化することが好ましい。
【0007】
一方、基板表面に意図的に他の標準的な組成とは相違した異質の組成を分布させて基板を製造することがあり、その場合には、必要な領域に必要な異質組成がどの程度分布しているかを検査する必要がある。
【0008】
しかしながら、上述した従来のディスク表面検査装置では、主として欠陥や付着異物等の検出しかできず、基板表面の近傍を構成する物質の分布や不純物等の含有を検査することはできなかった。また、上述した蛍光特性検査装置では、撮像素子によりフォトルミネセンスの強度分布、寿命分布又はその相関分布を求めており、特性検査に時間がかかるという問題点がある。
【0009】
本発明の目的は、ハードディスク用基板等の基板表面の組成に異質な組成が存在するか否かを検査する基板表面の検査技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の基板表面の検査方法は、基板表面における標準組成とは相違した異質組成を検出する基板表面の検査方法であって、基板表面に照射された単波長のレーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光し、前記レーザ光の基板表面に対する照射位置を相対的に走査移動し、基板表面の標準組成による前記フォトルミネセンス光の標準強度と、基板表面の前記異質組成による前記フォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、前記異質強度を放出した基板表面の位置を演算し、基板表面における異質組成の位置を検出する。
【0011】
本発明の基板表面の検査装置は、基板表面における標準組成とは相違した異質組成を検出する基板表面の検査装置であって、前記基板表面に単波長のレーザ光を照射するレーザ発振器と、前記レーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光するフォトルミネセンス用の光検出器と、前記レーザ光の基板表面に対する照射位置を相対的に走査移動する走査機と、基板表面の標準組成による前記フォトルミネセンス光の標準強度から閾値を設定し、基板表面の前記異質組成による前記フォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、前記異質強度を放出した基板表面位置の位置座標を演算する演算処理部と、前記演算処理部からの信号に基づいて、基板表面における異質組成の位置を検出する。
【発明の効果】
【0012】
被検査物の基板表面に照射されたレーザ光により基板表面から放出されるフォトルミネセンス光の強度を検出し、基板表面の標準組成によるフォトルミネセンス光の標準強度と、基板表面の異質組成によるフォトルミネセンス光の異質強度とを比較することにより、基板表面の組成を検査することができる。基板表面の組成が均質となっていない場合や不純物が含まれている場合には、他の部位に対して異質組成となった欠陥組成であり、基板表面の欠陥を検出することができる。また、基板表面に意図的に他の標準的な組成とは相違した異質の組成を分布させて基板を製造する場合には、必要な領域に必要な異質組成がどの程度分布しているかを検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態である基板表面の検査装置を示す構成図である。
【
図2】他の実施の形態である基板表面の検査装置を示す構成図である。
【
図3】被検査物の表面にレーザビームを照射したときにおける被検査面からの散乱光の波長イメージの一例を示す特性線図である。
【
図4】
図3に示した被検査物Wの表面にレーザビームを照射したときにおけるフォトルミネセンス光を受光する光検出器の検出信号の強度を示す特性線図である。
【
図5】(A)は光検出器の検出信号強度が異質組成によりフォトルミネセンス光が多く放出された状態を示す特性線図であり、(B)は光検出器の検出信号が異質組成によりフォトルミネセンス光が少なく放出された状態を示す特性線図である。
【
図6】(A)はレーザ光を走査移動させた範囲が標準組成で均質となっている場合の被検査面を示す平面図であり、(B)は(A)の被検査面からのフォトルミネセンス光のある位置における検出信号の強度が標準組成で均質となっていることを示す特性線図である。
【
図7】(A)はレーザ光を走査移動させた範囲に異質組成がある場合の被検査面の一例を示す平面図であり、(B)は(A)の被検出面からのフォトルミネセンス光のある位置における検出信号の強度が異質の組成であることを示す特性線図である。
【
図8】基板表面の検査装置における処理制御部を示すブロック図である。
【
図9】被検査面における異質組成の検査フローと判定アルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。一実施の形態である基板表面の検査装置10は、
図1に示されるように、例えば、ハードディスク用基板を被検査物Wとし、その表面つまり被検査面Sに不均質組成または不純物組成からなる欠陥組成または異質組成が存在するか否かを検出するために使用される。
【0015】
検査装置10は、支持台11に配置される移動ステージ12を有し、移動ステージ12は、
図1において矢印Xで示す左右方向(X軸方向)、および紙面に垂直の方向(Y軸方向)に移動自在に支持台11に配置されており、移動ステージ12はX軸方向とY軸方向に水平面に沿って移動自在である。移動ステージ12には回転モータ13が装着され、回転モータ13により回転駆動される回転軸14には、金属製の被検査物Wを保持するチャック15が設けられている。被検査物Wである円板形状の基板Wの中央部には貫通孔が設けられており、チャック15は貫通孔の内周面に係合する図示しないコレットを備えている。
【0016】
検査装置10は光源としてのレーザ発振器16を有し、レーザ発振器16は被検査面Sの斜め上方に配置され、被検査面Sに向けて単波長のレーザ光を照射する。単波長レーザ光の入射光路には集光レンズ17が配置され、レーザ発振器16から照射されたレーザ光は集光レンズ17により集光され、被検査面Sには集光されたレーザスポット光が照射される。単波長レーザとしては、例えば、波長532nm、出力1000mWの個体レーザが使用されている。
【0017】
被検査面Sからの散乱光には、弾性散乱光とフォトルミネセンス光とがあり、弾性散乱光は照射光と同一波長の光である。フォトルミネセンス光は、照射されたレーザ光によりフォトルミネセンスの特性を有する物質が光のエネルギーを吸収して励起状態になり、その状態から基底状態に戻ろうとする時に被検査面Sから放出される光である。
【0018】
被検査面Sのレーザスポット光の照射位置に対向させて、フォトルミネセンス光を受光する光検出器18が、集光レンズ19および光学フィルター20を介して、配置されている。集光部材としての集光レンズ19は、被検査面Sからの散乱光を集光して光学フィルター20に向けて散乱光を照射する。集光レンズ19に代えて集光ミラーを集光部材とすることもできる。光学フィルター20は、被検査面Sからの散乱光のうち、弾性散乱光が光検出器18に入射するのを遮断する。したがって、光検出器18にはフォトルミネセンス光が入射する。
【0019】
光検出器18としては、光電子倍増管が使用されており、光学フィルター20としては、例えばノッチフィルターまたはロングパスフィルターやショートパスフィルター、さらにはこれらを組み合わせたものを使用することができる。
【0020】
この検査装置10においては、被検査物Wを高速で移動するためにレーザが照射されたポイントの信号を高速に処理するため、分光によるスペクトル解析は行わない。このことから、処理に時間を要するCCDやCMOSセンサーなどを、光検出器18としては用いない。
【0021】
レーザ光は被検査面Sの所定の照射位置に向けて照射され、被検査物Wは回転モータ13により高速で回転駆動されるとともに、移動ステージ12により被検査面Sの径方向に走査移動される。このように、被検査物Wを走査移動することにより、レーザ光は被検査面Sをスパイラルにスキャンする。ただし、被検査物を固定支持し、レーザ光を被検査面に対して走査移動させるようにしても良い。つまり、レーザ光の被検査面Sに対する照射位置の走査移動は相対的であれば良い。移動ステージ12と回転モータ13は、レーザ光の被検査面Sに対する照射位置を相対的に走査移動する走査機を構成している。
【0022】
図2は他の実施の形態である基板表面の検査装置10aを示しており、
図1に示した検査装置10と共通性を有する部材には同一の符号が付されている。この検査装置10aにおいては、正反射光の光路に、集光部材としての集光レンズ19と、光検出器18が配置される。集光レンズ19と光検出器18との間に配置される光学フィルター20により、弾性散乱光が光検出器18に入射するのが遮断される。このように、フォトルミネセンス光を検出する光検出器18を、
図1に示すように、正反射光路から外れた位置に配置してもよく、
図2に示すように、正反射光路に配置してもよい。
【0023】
図3は、被検査物Wの表面にレーザビームのスポット光を照射したときにおける被検査面Sからの散乱光の波長イメージの一例を示す特性線図であり、被検査面Sを形成する物質の組成を標準組成とした場合の一例を示す。散乱光には、入射光と同じ波長の散乱光である弾性散乱波長域の光と、被検査面Sの組成に応じた波長のフォトルミネセンス光とがある。フォトルミネセンス光には、弾性散乱波長域の光よりも波長の短い短波長側の光と、弾性散乱波長域の光よりも波長の長い長波長側の光とがある。
【0024】
図4は、
図3に示した被検査物Wの表面にレーザビームを照射したときにおける光検出器18の検出信号の強度を示す特性線図である。光検出器18には、光学フィルター20により弾性散乱光の入射は遮断されるので、フォトルミネセンス光のみが光検出器18に入射される。
図4においては、遮断された弾性散乱光は二点鎖線で示されている。
【0025】
図3および
図4は、被検査面Sの組成が標準組成となっている基板が被検査物Wである場合のフォトルミネセンス光を示している。
図4に示されるフォトルミネセンス光を集合させて検出信号強度の中央値または平均値を求め、これを基に標準組成に対する検出信号強度の許容範囲として閾値を設定することができる。
【0026】
図5(A)は、
図4に示した標準組成の被検査面からのフォトルミネセンス光に加えて、符号G1で示す異質組成のフォトルミネセンス光を受光した場合を示しており、光検出器18の検出信号強度はその異質組成により高められる。この場合には、光検出器18が受光するフォトルミネセンス光は、
図4に示した場合よりも大きくなる。したがって、
図5(A)に示される検出信号強度のデータと標準信号強度のデータ(設定された閾値)とを比較すると、被検査面に異質組成があることを検出することができる。
【0027】
これに対して、
図5(B)は、
図4に示した標準組成の被検査面からのフォトルミネセンス光のうち、符号G2で示す異質組成のフォトルミネセンス光のみを受光した場合を示しており、光検出器18の検出信号強度はその異質組成により弱められる。この場合には、光検出器18が受光するフォトルミネセンス光は、
図4に示した場合よりも小さくなる。したがって、
図5(B)に示される検出信号強度のデータと標準強度のデータ(設定された閾値)とを比較すると、被検査面に異質組成があることを検出することができる。
【0028】
被検査面Sが標準的な組成ではなく、不均質組成または不純物組成からなる場合には、
図5(A)、(B)に示されるように、光検出器18が受光するフォトルミネセンス光の検出強度が標準強度の値と相違することになる。したがって、被検査面の組成欠陥を検出することができる。
【0029】
図6(A)は、レーザ光を被検査物Wに対して走査移動させた場合であって、その走査範囲における被検査面Sが標準組成となっている場合の被検査面を示す平面図であり、
図6(B)はその被検査面からのその位置におけるフォトルミネセンス光の検出信号の強度を示す特性線図である。
【0030】
図7(A)は、レーザ光を被検査物Wに対して走査移動させた場合であって、その走査範囲に異質組成がある場合の被検査面の一例を示す平面図であり、
図7(B)はその被検出面からのその位置におけるフォトルミネセンス光の検出信号の強度を示す特性線図である。
【0031】
図6および
図7においては、レーザスポット光が照射された被検査物Wを矢印Jで示す方向に1回転させ、レーザ光を被検査物Wに対して0°の位置から相対的に360°まで走査移動させた場合を示す。矢印Vは被検査物Wに対するレーザ光の走査移動方向を示す。360°走査移動させた後に、レーザ光の照射位置を被検査物Wの半径方向に移動させることにより、被検査物Wの表面全体をスパイラル状に検査することができる。
【0032】
走査された被検査面Sが標準組成であり、異質組成がない場合には、光検出器18によるフォトルミネセンス光の検出信号強度Dは、例えば、
図6(B)に示されるように、標準組成の検出信号強度から設定された閾値で、均質性上限閾値Th1と均質性下限閾値Th2の範囲に納まる。
【0033】
これに対し、被検査面Sの組成に不均質または不純物組成からなる異質組成が存在すると、光検出器18によるフォトルミネセンス光の検出信号強度Dは、例えば、
図7(B)のように変化する。
図7において、符号E1~E3は、光検出器18が受光したフォトルミネセンス光のその位置における検出信号強度が、予め設定された欠陥検出下限値Th4よりも小さくなった場合を示し、符号F1、F2は、光検出器18が受光したフォトルミネセンス光のその位置における検出信号強度が、予め設定された欠陥検出上限値Th3よりも大きくなった場合を示す。これらの検出信号強度E1~E3、F1、F2は、標準組成の検出信号強度Dと大きく相違しており、それぞれの位置に異質組成の部位が存在することを示している。また、符号Hで示す領域は、均質性上限閾値Th1を超えるような信号強度が続き、表面組成が均質でないことを示しており、このような結果が得られた場合には、表面組成は不良であると判定される。
【0034】
図8は基板表面の検査装置10、10aの処理制御部を示すブロック図である。処理制御部はデータ処理回路21を有し、光検出器18の出力信号は、I/V変換器22により電圧信号に変換され、増幅器23により増幅された後に、A/D変換器24によりデジタル信号に変換されて、データ処理回路21に送られる。
【0035】
検査装置10、10aは、走査時における回転モータ13または回転軸14の回転角度を検出するための回転エンコーダ25と、走査時における移動ステージ12の移動距離を検出するためのリニアエンコーダ26とを有し、それぞれのエンコーダ信号はデータ処理回路21に送られる。演算処理部としてのデータ処理回路21は、光検出器18からの検出信号に基づいて、
図6および
図7に示すように、その位置におけるフォトルミネセンス光の検出信号強度Dを演算する。検出信号のデータに基づく検出信号強度Dが、予め基板の品質としての均質性上限閾値Th1と均質性下限閾値Th2の範囲、つまり基準値の範囲に納まっていれば、この範囲における被検査面の組成は、標準組成である。
【0036】
これに対し、検出信号強度Dが
図7に示されるように、欠陥検出下限値Th4と欠陥検出上限値Th3を越えている場合には、被検査面に異質な組成の欠陥がある。異質組成としては、ハードディスク用基板等の基板としては好ましくない不均質組成や不純物組成等の組成欠陥の場合がある。さらには、基板表面に意図的に標準的な組成とは相違した異質の組成を分布させた基板を製造した場合には、必要な領域に必要な異質組成の欠陥がどの程度分布しているかを検査することができる。
【0037】
データ処理回路21は、制御プログラム、演算式、マップデータが格納されるメモリと、制御信号を演算するプロセッサなどを有し、異質組成の被検査面Sにおける位置情報のデータをそれぞれのエンコーダ信号に基づいて演算する。このように、演算処理部としてのデータ処理回路21は、基板表面の標準組成によるフォトルミネセンス光の標準強度と、基板表面の異質組成によるフォトルミネセンス光の異質強度とを比較し、異質強度を放出した基板表面位置の位置座標を演算する。
【0038】
位置情報のデータはマッピング部27に送られ、異質組成の被検査面Sにおけるマップが作られる。さらに、制御部は、判定処理部28を有し、位置信号のデータと検出信号のデータとに基づいて、最終的に異質組成として判定された部位が判定処理部28に設けられた総合マップのディスプレイに表示される。マッピング部27および判定処理部28は、パーソナルコンピュータ29のソフトウエアにより構成されている。
【0039】
図9は異質組成の判定手順のアルゴリズムを示すフローチャートであり、
図9を参照しつつ、上述した検査装置10、10aによる異質組成の検査方法についいて説明する。
【0040】
検査装置10、10aが起動されると、処理制御部は、ステップS1において、検査条件等の初期設定が行われる。これにより、移動ステージ12やレーザ発振器16等の機器は駆動可能な状態に設定される。検査装置10、10aに設けられた図示しない操作盤のスタートスイッチがステップS2において操作されると、レーザ発振器16が点灯され、回転モータ13と移動ステージ12が駆動される。レーザ光が被検査面Sに向けて照射されるとともに、光検出器18は基板表面から放出されるフォトルミネセンス光を受光する。これにより、走査移動工程が実行されて、レーザ光の被検査面に対する照射位置が走査移動され、被検査面Sにおけるレーザ光の照射位置データがデータ処理回路21に読み込まれる(ステップS3)。
【0041】
さらに、ステップS4において、光検出器18が検出したフォトルミネセンス光の検出信号つまり検出強度信号のデータがデータ処理回路21に読み込まれる。例えば、光検出器18による検出信号が、
図4に示したような強度分布の標準組成の被検査面からのフォトルミネセンス光であれば、その検出信号強度Dは均質性上限閾値Th1と均質性下限閾値Th2の範囲内となる。一方、
図5(A)に示すように、標準組成の被検査面からのフォトルミネセンス光に加えて、異質組成領域のフォトルミネセンス光を受光した場合には、検出信号強度は異質組成により高められる。この場合には、光検出器18が受光するフォトルミネセンス光は、
図4に示した場合よりも大きくなる。これに対して、
図5(B)に示すように、異質領域のフォトルミネセンス光のみを受光した場合には、光検出器18が受光するフォトルミネセンス光は、
図4に示した場合よりも小さくなる。
【0042】
検出信号強度Dのデータと位置信号のデータとを信号処理することにより、被検出面のそれぞれの位置における検出強度の値が演算され、検出強度の位置情報が一次マッピング処理される(ステップS5、S6)。マッピング処理されたデータはメモリに格納される。
【0043】
メモリに格納されたデータに基づいて、光検出器18が受光したフォトルミネセンス光の値が、欠陥検出下限値Th4よりも小さくなった場合、または、欠陥検出上限値Th3よりも大きくなった場合には、被検査面の組成が異質組成であり、その位置情報がステップS7において表示される。異質組成は被検査面の組成が不均質であるか不純物が含まれている場合であり、異質組成の位置が表示部に表示される。一方、基板表面に意図的に標準的な組成とは相違した異質の組成を分布させた場合には、分布された異質組成の位置が表示部に表示される。
【0044】
1枚の被検査物Wについての検査が終了したら、ステップS8において、被検査面Sにおける異質組成の位置が最終的にマッピング処理されてメモリに記憶される。異質組成の位置はディスプレイに表示することもでき、画像データとして出力することもできる。
【0045】
被検査物Wとしては、ハードディスク用基板に限定されることなく、平面基板であれば良く、例えば被覆層が形成されたものなどを被検査物とすることができる。
【0046】
上述した検出装置においては、フォトルミネセンス用の光検出器18には、高い応答周波数を有する光電子倍増管などの光検出器が用いられており、被検査物にレーザが照射された瞬間に高速信号化されて判定を行うことができる。光電子倍増管は、複数の受光素子が集約された撮像素子、例えばCCDやCMOSセンサーの反応速度では追い付かないほどの高速で処理することができる。
【0047】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した個体レーザに限られずファイバーレーザや半導体レーザを使用しても良く、レーザの波長も532nmに限られず、出力も1000mWに限られず、500mWや1500Wなどフォトルミネセンス光が得られる単波長レーザであれば良い。レーザ光の被検査物に対する入射角度や散乱光の集光ミラーや集光レンズの種類および受光角度は、フォトルミネセンス光を集光できる角度や機器であれば良い。また、被検査面Sにレーザ光を相対的に走査移動する方式としては、スパイラルスキャン方式に限られることなく、ラスター式またはプログレッシブ式走査方式を使用しても良い。
【符号の説明】
【0048】
10、10a 検査装置
11 支持台
12 移動ステージ
13 回転モータ
14 回転軸
15 チャック
16 レーザ発振器
17 集光レンズ
18 光検出器
19 集光レンズ
20 光学フィルター
21 データ処理回路
22 I/V変換器
23 増幅器
24 A/D変換器
25 回転エンコーダ
26 リニアエンコーダ
27 マッピング部
28 判定処理部