(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022082967
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194168
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】水谷 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井納 繁幸
(72)【発明者】
【氏名】浅川 和哉
【テーマコード(参考)】
3C011
【Fターム(参考)】
3C011EE02
3C011EE05
3C011EE06
3C011EE08
3C011EE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】クーラントの温度上昇を抑える構成を備えた工作機械を提供すること。
【解決手段】加工室内においてワークに対し工具による所定の加工を実行するための各種駆動装置と、クーラントタンク内の使用済みのクーラントをクーラントポンプによって前記加工室側へと繰り返し送り込むクーラント装置と、複数の噴出孔が形成され前記クーラントタンク内に配置された冷却用パイプにエア源からのエアを送り込むクーラント冷却装置と、前記駆動装置の駆動を制御する制御装置とを有する工作機械。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工室内においてワークに対し工具による所定の加工を実行するための各種駆動装置と、
クーラントタンク内の使用済みのクーラントをクーラントポンプによって前記加工室側へと繰り返し送り込むクーラント装置と、
複数の噴出孔が形成され前記クーラントタンク内に配置された冷却用パイプにエア源からのエアを送り込むクーラント冷却装置と、
前記駆動装置の駆動を制御する制御装置と、
を有する工作機械。
【請求項2】
前記クーラント冷却装置は、前記エア源から前記冷却用パイプに供給されるエア流量を調整する絞り弁が設けられた請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記クーラント冷却装置は、前記冷却用パイプが前記クーラントタンク底の隅部に沿って配置された請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し使用されるクーラントの温度上昇を抑える構成を備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、加工熱を下げるほか加工個所などから切り屑を洗い流すためにクーラントが使用されている。使用された後のクーラントはクーラントタンクに戻され、ポンプによって再び加工室内へと送られる。繰り返し使用されるクーラントは、発熱するポンプから熱を奪って次第に温度が上昇し、そのままではワークの加工に悪影響を及ぼすことになる。例えば、クーラントとそのクーラントが接するベッドとの温度差によってベッドに熱変形が生じてしまい、ワークの取り付け部分と切削工具を備えた工具台との相対的な位置が変化し、加工精度が低下してしまう。
【0003】
下記特許文献1は、繰り返し使用されるクーラントの温度調整を行う工作機械が開示されている。それはクーラントタンクに、フィルタを介して切屑などが排除されたクーラントを溜めるための温度調整用タンクが設けられ、その温度調整用タンクに対して温度調整装置が接続されている。温度調整装置は、クーラントの温度上昇を抑えるようにしたものであり、冷却させたクーラントを温度調整用タンクとの間で循環させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2017/122288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、加工対象となるワークの加工内容によっては、それほどクーラントの温度管理が厳しく求められないこともあり、そうした場合に高価な温度調節装置の設置することは、必要以上にコストをかけてしまうことになる。その一方で、温度調整に関して何もしなければクーラントの温度が上昇してしまうため、放置すれば加工精度の低下を招く恐れがある。そのため、加工に影響を及ぼすような温度上昇を抑えることが必要である。そこで、ワークの加工精度を維持することができるように、大幅にコストをかけることなく、クーラントの温度上昇を一定程度抑えるようにした工作機械が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、クーラントの温度上昇を抑える構成を備えた工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る工作機械は、加工室内においてワークに対し工具による所定の加工を実行するための各種駆動装置と、クーラントタンク内の使用済みのクーラントをクーラントポンプによって前記加工室側へと繰り返し送り込むクーラント装置と、複数の噴出孔が形成され前記クーラントタンク内に配置された冷却用パイプにエア源からのエアを送り込むクーラント冷却装置と、前記駆動装置の駆動を制御する制御装置とを有する。
【発明の効果】
【0008】
前記構成によれば、クーラント装置によって使用済みのクーラントが繰り返し使用される場合に、発熱するクーラントポンプの熱を奪って温度が上昇するクーラントに対し、クーラント冷却装置によってクーラントタンク内に配置された冷却用パイプにエア源からのエアを送り込むことにより、溜められたクーラント内にエアレーションを生じさせることで温度上昇を一定程度抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】工作機械の一実施形態に関してその内部構造を示した側面図である。
【
図3】クーラント装置の一部を簡略化して示したクーラントタンクの平面図である。
【
図4】クーラントタンク内のクーラント冷却装置を簡略化して示した側面図である。
【
図5】クーラントタンク内のクーラント冷却装置を簡略化して示した正面図である。
【
図6】室温とクーラント温度の変化をグラフにして示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る工作機械の一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態の工作機械の内部構造を示した側面図である。この工作機械1は、車輪を備えた可動ベッド2の上に組み付けられ、ベース3の上面に敷設されたレール301に沿って前後方向(Z軸方向)の移動が可能な構成となっている。可動ベッド2は、主軸装置5などの各種駆動装置が搭載され、機体後方に搭載された制御装置6によって各種駆動装置の駆動制御が行われるようになっている。
【0011】
主軸装置5は、回転自在な主軸に対して主軸チャック11が設けられ、把持したワークWを主軸モータによって回転させるものである。工作機械1には複数の工具からワーク加工に対応したものを選択するタレット装置7が設けられている。タレット装置7は、複数の工具を取り付けた工具台12の旋回割出しによって、加工を行う工具を選択して位置決めするものである。そして、その工具を加工位置に移動させる駆動装置は、該当工具を機体前後方向であるZ軸方向に移動させるZ軸駆動装置8および、機体上下方向であるX軸方向に移動させるX軸駆動装置9である。
【0012】
工作機械1は、不図示のワーク自動搬送機との受け渡しによって主軸チャック11にワークWが把持され、主軸装置5の駆動によって回転が与えられる。タレット装置7では旋回割出しによって当該ワークWの加工に用いられる工具が選択される。そして、Z軸駆動装置8やX軸駆動装置9の駆動によりタレット装置7ごと工具が加工軸方向に移動し、ワークWに対する所定の加工が行われる。ワークWの加工後には、主軸チャック11に対して加工済みワークWが新たなワークWに取り換えられ、繰り返しワークWの自動加工が行われる。
【0013】
工作機械1は、加工を行う加工室10の下側にクーラントタンク15への投入口が形成され、ワークWの加工によって発生した切屑などがクーラントタンク15内に溜められるようになっている。クーラントタンク15にはスクリューコンベア16(
図2参照)が組み込まれているため、切屑はスクリューの回転によって機体後方へと押し流され、外部の回収ボックスへと排出および回収される。また、工作機械1は、潤滑や切屑の洗い流しのためのクーラントおよび、清掃やアクチュエータを作動させるための圧縮エアといった作業用流体が使用される。特にクーラントは、加工室10内において噴射されるため、切屑などとともにクーラントタンク15へと流れ落ちる。
【0014】
工作機械1は、クーラントを繰り返し使用することができるよう構成されている。クーラントタンク15内に溜まったクーラントは切粉なども含まれているためそのままでは使用できない。そこで、ポンプ16へと送られる間にフィルタなどによってクーラントから異物が除去され、再生したクーラントがポンプ16(
図3に示す第2クーラントポンプ29に相当する)によってクーラント管17を通して再び加工室10へと送られる。ところが、こうして繰り返し使用されるクーラントは、発熱するポンプ16から熱を奪うことによって温度が徐々に上がってしまう。そのため、高い精度が要求される加工に対応するには、クーラントの温度を一定にするためのクーラント冷却器が用いられている。
【0015】
一方で、ワーク加工は、クーラントの温度上昇による影響を抑える必要があるものの、クーラント冷却器を用いてまでコストをかけた温度管理を必要としない場合がある。本実施形態は、そうした要求に応じた工作機械を提供する。具体的には循環させるクーラントに対し、クーラントタンク15内においてエアレーションを起こす構成が採られている。
【0016】
ここで、
図2は、クーラントタンク15を示した斜視図である。クーラントタンク15は、ワークWの切削箇所の冷却や切屑の洗浄などに使用されたクーラントが加工室10から落下して溜められる。クーラントタンク15内には一点鎖線で示すようにチップコンベア18が組み込まれている。チップコンベア18には加工室10の底部に開いた投入口801が形成され、切屑やクーラントはこの投入口801から入ってチップコンベア18の貯留槽に溜められる。そして、チップコンベア18の駆動により、切屑だけが機外へと運び出された後に回収されるようになっている。
【0017】
チップコンベア18の貯留槽には微細孔のパンチングメタルなどで塞がれた落し口が形成され、そこから流れ出たクーラントがクーラントタンク15に溜められるようになっている。工作機械1は、こうした使用済みのクーラントを濾過して再び加工室10へと繰り返し送り込むようにしたクーラント装置が設けられている。
図3は、クーラント装置の一部を簡略化して示したクーラントタンク15の平面図である。
【0018】
クーラント装置は、側壁211に囲まれたポンプ室21がクーラントタンク15の角部に形成され、その中に第1クーラントポンプ23が設置されている。側壁211にはメッシュ板を嵌め込んだ吸入窓212が形成され、第1クーラントポンプ23の駆動によってクーラントタンク15内のクーラントをポンプ室21へと引き入れてから吸い上げるよう構成されている。そして、その第1クーラントポンプ23にはサイクロンフィルタ25が接続され、使用済みクーラントがクリーン液とダーティ液とに分けられるようになっている。
【0019】
クーラント装置は、クリーン液を溜めるためのクリーン槽26とダーティ槽27および沈殿槽28とが形成され、サイクロンフィルタ25は、上部に位置する濾液ポートにクリーン槽26が接続され、下部に位置するドレインポートには沈殿槽28が接続されている。クリーン槽26内には第2クーラントポンプ29が設置され、クリーン液となったクーラントが工作機械1の加工室10へと送り込まれ、ワーク加工における潤滑や切屑の洗い流しに再利用される。一方、ダーティ液は沈殿部281から中間部282そしてダーティ槽27へと流れる。そのダーティ槽27とクリーン槽26にはクーラントタンク21に面した側壁上部に切欠きが形成され、オーバーフローしたクーラントがクーラントタンク21へと戻るようになっている。
【0020】
本実施形態では、第1クーラントポンプ23や第2クーラントポンプ29の熱を受けるクーラントの温度上昇を一定程度抑えるようにしたクーラント冷却装置が設けられている。クーラント冷却装置は、
図3に示すように、チップコンベア18の幅方向の外側2箇所に、クーラントタンク15の長手方向(Z軸方向)に沿って冷却用パイプ31が配置されている。冷却用パイプ31は、
図4に示すようにクーラントタンク15の底面に固定され、機体後方側で折れ曲がり、上方に向けて立ち上がっている。ここで、
図4は、クーラントタンク15内のクーラント冷却装置を簡略化して示した側面図であり、
図5は同じく正面図である。
【0021】
2本の冷却用パイプ31は、工場に設置されたコンプレッサ35に接続されたエアパイプ32から分岐した流路を構成するものであり、エアパイプ32にはエアの流量を調整するための可変絞り弁33が設けられている。従って、コンプレッサ35から送られたエアは、可変絞り弁33によって一定程度に絞られて冷却用パイプ31へと供給されるようになっている。冷却用パイプ31は先端が塞がれた円管であって、設置した状態において左右両側に一定のピッチで噴出孔311が形成されている。よって、コンプレッサ35から供給されたエアを噴出孔311から噴き出すことにより、クーラントタンク15内にエアレーションを生じさせることができるようになっている。
【0022】
ところで、工作機械1へと供給されるコンプレッサ35からのエアは、クーラント冷却装置の他にも例えば、主軸に対してワーク加工によって発生した切粉が入らないようにエアパージとしても使用される。そのため、各箇所に所定のタイミングでエアを供給するため、工作機械1にはバルブなど流体機器を備えたエア回路が構成されており、エアパイプ32にも可変絞り弁33のほかに電磁開閉弁34が設けられている。
【0023】
本実施形態では、温度が上昇したクーラントCに対して、それよりも低い温度の大気エアを噴き込むことによって、クーラントCの温度低下を図るものである。なお、エアの噴出によって生じるエアレーションでは、クーラントタンク15の底から噴出するエアによってクーラントC内に泡ができ、水面で弾けて液体が気体になることで液面付近の温度が下がると考えられる。また、噴出するエアによってクーラントタンク15内のクーラントCが攪拌されることにより、温度の偏りを改善することも考えられる。
【0024】
ところで、加工室10で使用されたクーラントCには切粉などが混ざっているが、切粉の全てが第1クーラントポンプ23に吸い上げられてサイクロンフィルタ25へと流れるわけではない。一部の切粉は、淀みの生じやすいタンク底の隅部150に残ってスラッジとして堆積してしまう。従って、クーラントタンク21に関しても定期的に清掃が必要であるが、チップコンベア6が組み込まれた構造であるため、ベース2から取り外して行う清掃は大変な作業である。
【0025】
この点、本実施形態では、クーラントCを冷却するためのエアが副次的効果を発揮するよう構成されている。具体的には、クーラントタンク15の長手方向(Z軸方向)に配置された冷却用パイプ31が、隅部150を作り出す側壁155から一定の距離をとって平行になるよう位置している。これにより、噴出孔311が隅部150に向けてエアを噴出し、付近のクーラントCを攪拌する流れを作り出し、切粉が隅部150に堆積しないようになっている。
【0026】
工作機械1は、前述したようにワークWに対する切削加工などが行われる中、クーラントCが加工点などに噴射されて流れ落ちた後、クーラントタンク15から第1および第2クーラントポンプ23,29を介して加工室10へと繰り返し送り込まれる。こうしたクーラントCは第1および第2クーラントポンプ23,29から熱を奪うなどして温度が上昇する。しかし、本実施形態ではコンプレッサ35からのエア流量が可変絞り弁33によって調整され、供給された冷却用パイプ31の噴出孔311から噴き出すことにより、クーラントタンク15内にエアレーションを生じさせ、熱を持ったクーラントCが冷やされる。
【0027】
ここで、
図6は、工場内温度とクーラント温度の変化をグラフにして示した図である。工場内温度T11,T12はエアコンによって温度管理がされており、温度が設定温度に抑えられるようになっている。従って、工場内の温度が例えば22℃に設定された場合には、グラフに示すように、冷却の繰り返しによっておよそ20℃から22℃の範囲で変化している。これに対してクーラントタンク15におけるクーラントCの温度T21,T22は、工作機械の駆動開始に伴って徐々に上昇する。
【0028】
エアレーションの無い従来の工作機械は、
図6(A)に示すように、クーラントCの温度T21が、駆動開始から途中の稼働停止時間を含めて8時間後の停止時間まで、連続してなだらかに上昇した。そして、駆動停止中はクーラントCの温度T21は徐々に低下するが、丸枠で囲むように、工場内温度にまで下がらないまま次の日、工作機械の駆動を再開させることになった。一方、エアレーションを生じさせる本実施形態の工作機械1は、
図6(B)に示すように、クーラントCの温度T22は連続してなだらかに上昇するが、従来のものに比べて工場内温度T12との差は小さく、温度上昇が抑えられている。また、工作機械1の駆動停止によってクーラントCの温度T22は下がり、丸枠で囲むように、次の日の駆動開始時には温度T22が工場内温度T12よりも1.5℃ほど低くなった。
【0029】
従って、本実施形態の工作機械1は、ワーク加工時に使用されるクーラントCの温度T22が上昇してしまうものの、一定程度抑えられるようになり、クーラントCの温度変化による影響を防止し、加工精度を保つことが可能になる。また、本実施形態では、コンプレッサ35からのエア流量を可変絞り弁33によって調整してクーラントC内に送り込むため、エアの勢いによってクーラントタンク15からクーラントCが溢れてしまったり、第1クーラントポンプ23などにエアが入ってしまうようなことを防止できる。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、クーラントポンプのオン・オフに合わせてクーラントCに対するエアの供給および供給停止を行うようにしてもよい。また、例えばエア流量を温度変化に合わせて段階的に変化させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…工作機械 5…主軸装置 6…制御装置 7…タレット装置 8…Z軸駆動装置 9…X軸駆動装置 15…クーラントタンク 23…第1クーラントポンプ 29…第2クーラントポンプ 31…冷却用パイプ 32…エアパイプ 33…可変絞り弁 34…電磁開閉弁 35…コンプレッサ