(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083000
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】扉閉止補助装置
(51)【国際特許分類】
E05F 5/02 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
E05F5/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194214
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】592166126
【氏名又は名称】株式会社中尾製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 義人
(57)【要約】
【課題】扉枠と回動式の扉の一方に取り付けた装置本体の引込アームと他方に取り付けたトリガーとを係合させて扉の閉止動作を補助する扉閉止補助装置において、扉開放時の引込アームの保持位置の異常に簡単に対応でき、かつその扉閉止補助機能を安定して保持できるようにする。
【解決手段】引込アーム3として、その先端側と基端側に開口し、トリガーのトリガー軸33と係合する係合溝3aと、係合溝3aの基端側の開口部に連続する補助溝3bが形成されたものを用い、扉開放時に引込アーム3の保持位置に異常が生じていても、扉を閉じていくと、トリガー軸33が引込アーム3の補助溝3bに入り込んだ後、係合溝3aの基端側の開口部を閉じているスライド片11をスライドさせて係合溝3aに入り込んで、扉を正常に閉止でき、そのトリガー軸33は、係合溝3aへの掛かりが小さくても、安定して係合溝3aと係合する構成とした。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉枠とその扉枠に対して回動可能に設けられた扉のうちの一方に取り付けられる装置本体と、他方に取り付けられるトリガーとからなり、前記装置本体は、横長の本体ケースと、前記本体ケースに前記扉の開放状態に対応する待機位置と扉の閉止状態に対応する引込位置との間で回動可能に支持され、前記トリガーと係合可能な引込アームと、前記引込アームをその回動面内で付勢する付勢機構と、前記引込アームの待機位置から引込位置への回動を制動する制動機構とを備えており、
前記扉が開いた状態で前記装置本体の引込アームがトリガーと係合していないときは、前記引込アームが前記付勢機構から受ける付勢力によって前記待機位置に保持され、前記扉が閉じられるときは、その過程で引込アームと係合したトリガーが引込アームの待機位置での保持を解除することにより、前記付勢機構が引込アームを前記引込位置へ回動する方向に付勢するようになり、前記引込アームがトリガーと係合した状態で前記制動機構によって制動されながら回動して、前記扉を扉枠に引き寄せるようにした扉閉止補助装置において、
前記引込アームは、その先端側と基端側に開口し、前記トリガーに設けられた係合部材と係合するための係合溝を有するものであって、基端側を前記本体ケースに回動可能に支持されるアーム本体と、前記アーム本体に前記係合溝の基端側の開口部を開閉する方向にスライド可能に組み付けられるスライド片と、前記スライド片を前記係合溝の基端側の開口部を閉じる方向に付勢するスライド片押圧ばねとを備えており、
前記扉が開いているときに前記引込アームが前記待機位置にある正常な状態の場合は、前記扉を閉じていくことにより、前記トリガーの係合部材が引込アームの係合溝にその先端側の開口部から入り込んでいき、
前記扉が開いているときに前記引込アームが前記引込位置にある異常な状態の場合は、前記扉を閉じていくことにより、前記トリガーの係合部材が引込アームのスライド片に当接した後、前記スライド片押圧ばねの付勢力に抗してスライド片を係合溝の基端側の開口部を開く方向にスライドさせながら係合溝に入り込んでいくようにしたことを特徴とする扉閉止補助装置。
【請求項2】
前記引込アームのスライド片は、前記扉と対向する側に前記スライド片押圧ばねの付勢方向に対して傾斜する傾斜面を有し、その傾斜面を前記トリガーの係合部材に押圧されることにより、前記係合溝の基端側の開口部を開く方向にスライドするものであることを特徴とする請求項1に記載の扉閉止補助装置。
【請求項3】
前記引込アームの係合溝は、前記アーム本体に前記スライド片を組み付けることによって形成されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の扉閉止補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物や部屋の出入口等に設けられた回動式の扉を閉じる際に、その過程で扉を扉枠に引き寄せて扉の閉止動作を補助する扉閉止補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物や部屋の出入口等の開口部を開閉する回動式(ヒンジ式)の扉に対して、開いた扉をゆっくりと自動的に閉じることのできるドアクローザーを設置するケースが増えてきている。一般に知られているドアクローザーは、扉枠の上框と扉の上端部を連結アームでつなぎ、バネと油圧の作用によって扉の開閉動作を制御するようになっている。しかし、このようなドアクローザーを設置した場合は、扉の開閉が重く感じることが多くなるし、扉を支えているヒンジに常時負荷がかかるため、扉開閉時のヒンジ取付部分からの異音やヒンジの破損といった不具合が生じることもある。
【0003】
これに対し、特許文献1等では、扉枠とその扉枠に対して回動可能に設けられた扉のうちの一方に取り付けられる装置本体と、他方に取り付けられるトリガーとからなり、扉が閉じられるときには、その過程でトリガーと係合した装置本体の引込アームが回動することにより、扉を扉枠に引き寄せるようにした扉閉止補助装置が提案されている。
【0004】
その扉閉止補助装置は、具体的には、装置本体の引込アームが、扉の開放状態に対応する待機位置と扉の閉止状態に対応する引込位置との間で装置本体の本体ケースに回動可能に支持されており、扉が開いた状態で引込アームがトリガーと係合していないときは、引込アームが付勢機構から受ける付勢力によって待機位置に保持され、扉が閉じられるときは、その過程で引込アームと係合したトリガーが引込アームの待機位置での保持を解除することにより、付勢機構が引込アームを引込位置へ回動する方向に付勢するようになり、引込アームがトリガーと係合した状態で制動機構によって制動されながら回動して、扉を扉枠に引き寄せるようにしたものが多い。
【0005】
上記のような構成の扉閉止補助装置では、上述したドアクローザーと異なり、扉枠と扉とをつなぐ連結アームを備えておらず、扉が閉止位置にある程度近い領域のみで扉の動きを制御するようになっている。したがって、開いた扉を人手である程度閉じれば、その時点からドアクローザーと同様に扉をゆっくりと自動的に閉じることができるし、扉の開閉動作全体を制御しないので比較的軽く扉を開閉できる。また、ヒンジへの負担が少ないため、扉開閉時の異音やヒンジの破損も生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1の扉閉止補助装置では、扉を開放しているとき、通常は扉枠に取り付けられた装置本体の引込アームが待機位置で保持されているが、誤って何らかの力を受けた引込アームが引込位置に保持されている場合でも、扉を正常に閉止できるようになっている。
【0008】
すなわち、その引込アームの下面側に、通常動作の際にトリガーのトリガー軸(係合部材)が入り込んで係合する係合溝のほかに、係合溝の近傍に一端を有し他端が開放された補助溝を設けるとともに、トリガー軸を付勢手段でトリガーのアーム上面から突出させた状態で保持し、扉が開放されているのに引込アームが引込位置にある異常な状態の場合でも、扉を閉じていくと、扉に取り付けられたトリガーのトリガー軸が、引込アームの補助溝に入り込んだ後、付勢手段の付勢力に抗して沈み込みながら補助溝と係合溝の間を乗り越えて係合溝に入り込み、通常と同様に扉が閉止されるようにしている。
【0009】
しかしながら、上記のように付勢手段でトリガーのアーム上面から突出させたトリガー軸を引込アームの下面側の係合溝に係合させる構成では、その引込アームとトリガーの係合が不安定になって、正常に作動しなくなるおそれがある。
【0010】
すなわち、ヒンジ式の扉は使用しているうちにヒンジと反対の側がヒンジ側に比べて低くなるように傾いてくる(垂れる)ことが多く、そうなるとトリガー軸が引込アームの係合溝に入り込む長さ(係合溝への掛かり)が小さくなる。このため、扉の閉止状態から速いスピードで扉を開いたときに、係合溝の側壁に当接したトリガー軸が傾き、引込アームが待機位置に到達する前に、トリガー軸に作用する力の下向きの成分が付勢手段の付勢力を上回ることによりトリガー軸が沈み込んで係合溝から外れてしまう可能性がある。トリガー軸が引込アームを待機位置まで引き出す前に係合溝から外れると、引込アームが付勢機構の作用によって引込位置に戻ってしまい、次に扉を閉じるときにその閉止動作の補助を行えないことになる。
【0011】
そこで、本発明は、扉枠と回動式の扉の一方に取り付けた装置本体の引込アームと他方に取り付けたトリガーとを係合させて扉の閉止動作を補助する扉閉止補助装置において、扉開放時の引込アームの保持位置の異常に簡単に対応でき、かつその扉閉止補助機能を安定して保持できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、扉枠とその扉枠に対して回動可能に設けられた扉のうちの一方に取り付けられる装置本体と、他方に取り付けられるトリガーとからなり、前記装置本体は、横長の本体ケースと、前記本体ケースに前記扉の開放状態に対応する待機位置と扉の閉止状態に対応する引込位置との間で回動可能に支持され、前記トリガーと係合可能な引込アームと、前記引込アームをその回動面内で付勢する付勢機構と、前記引込アームの待機位置から引込位置への回動を制動する制動機構とを備えており、前記扉が開いた状態で前記装置本体の引込アームがトリガーと係合していないときは、前記引込アームが前記付勢機構から受ける付勢力によって前記待機位置に保持され、前記扉が閉じられるときは、その過程で引込アームと係合したトリガーが引込アームの待機位置での保持を解除することにより、前記付勢機構が引込アームを前記引込位置へ回動する方向に付勢するようになり、前記引込アームがトリガーと係合した状態で前記制動機構によって制動されながら回動して、前記扉を扉枠に引き寄せるようにした扉閉止補助装置において、前記引込アームは、その先端側と基端側に開口し、前記トリガーに設けられた係合部材と係合するための係合溝を有するものであって、基端側を前記本体ケースに回動可能に支持されるアーム本体と、前記アーム本体に前記係合溝の基端側の開口部を開閉する方向にスライド可能に組み付けられるスライド片と、前記スライド片を前記係合溝の基端側の開口部を閉じる方向に付勢するスライド片押圧ばねとを備えており、前記扉が開いているときに前記引込アームが前記待機位置にある正常な状態の場合は、前記扉を閉じていくことにより、前記トリガーの係合部材が引込アームの係合溝にその先端側の開口部から入り込んでいき、前記扉が開いているときに前記引込アームが前記引込位置にある異常な状態の場合は、前記扉を閉じていくことにより、前記トリガーの係合部材が引込アームのスライド片に当接した後、前記スライド片押圧ばねの付勢力に抗してスライド片を係合溝の基端側の開口部を開く方向にスライドさせながら係合溝に入り込んでいく構成とした。
【0013】
上記の構成によれば、扉開放時に引込アームが引込位置にある異常状態であっても、扉を閉じていくと、トリガーの係合部材が引込アームの係合溝の基端側の開口部を閉じているスライド片をスライドさせて係合溝に入り込むことにより、扉を正常に閉止することができる。また、トリガーの係合部材は、前述の上向きに付勢されたものと異なり沈み込むことがないので、係合溝への掛かりが小さくても、安定して引込アームと係合する。したがって、扉の閉止状態から扉を開いたときには、係合部材が係合溝から外れることなく確実に引込アームを待機位置まで回動させることができ、扉閉止補助機能が安定して保持される。
【0014】
ここで、前記引込アームのスライド片としては、前記扉と対向する側に前記スライド片押圧ばねの付勢方向に対して傾斜する傾斜面を有し、その傾斜面を前記トリガーの係合部材に押圧されることにより、前記係合溝の基端側の開口部を開く方向にスライドするものを採用することができる。
【0015】
また、前記引込アームの係合溝を、前記アーム本体に前記スライド片を組み付けることによって形成されるものとすれば、引込アームの構造の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の扉閉止補助装置は、上述したように、扉開放時に引込アームが引込位置にある異常状態でも、扉を閉じていくとトリガーが引込アームに係合して扉を正常に閉止することができるし、扉を長期間使用しても、扉を開く際にはトリガーが引込アームと安定した状態で係合して確実に引込アームを待機位置まで回動させるので、正常な扉閉止補助機能を保持し続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態の扉閉止補助装置の設置状態を示す下方からの斜視図
【
図2】
図1の扉閉止補助装置の横断平面図(扉を閉める途中の状態)
【
図4】(a)は
図3の引込アームの組立状態の斜視図、(b)は(a)のIV-IV線に沿った断面図
【
図5】
図2の装置本体の要部を拡大して示す横断平面図
【
図6】
図5に対応して引込アームが引込方向へ回動している状態を示す横断平面図
【
図7】
図2に対応して扉閉止補助装置の扉閉止時の状態を示す横断平面図
【
図8】
図2のアーム押圧ばねの押圧力調整方法を説明する横断平面図
【
図9】
図8のアーム押圧ばねの押圧力調整作業を示す下方からの斜視図
【
図10】(a)、(b)は、それぞれ引込アームが引込位置にある場合の扉閉止時の動作の説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。この扉閉止補助装置は、
図1に示すように、家屋の部屋の出入口を開閉するヒンジ式の扉Dに対して設置されるもので、出入口の周縁に設けられた扉枠Fの上框に取り付けられる装置本体1と、扉枠Fの一方の縦枠にヒンジ(図示省略)を介して回動可能に設けられた扉Dの上端部に取り付けられるトリガー31とからなる。なお、扉枠Fはヒンジと反対側の上隅に戸当りSがない部分が設けられており、この部分に装置本体1が取り付けられるようになっている。また、以下の説明では、装置本体1が扉枠Fの他方の縦枠と対向する側を一端側、その反対側を他端側としている。
【0019】
前記装置本体1は、
図2および
図3に示すように、金属製の上ケース2aと下ケース2bとからなる横長の本体ケース2と、本体ケース2に回動可能に支持され、後述するようにトリガー31と係合可能な引込アーム3と、引込アーム3をその回動面内で付勢する付勢機構4と、引込アーム3の回動を制動する制動機構5とを備えている。
【0020】
本体ケース2は、引込アーム3、付勢機構4および制動機構5等の各部品を内蔵する状態で、上ケース2aと下ケース2bとが複数のケース固定ねじ6によって一体化される。そして、長手方向が扉枠Fの上框と平行となり、正面(閉じた扉Dに対向する面)の開口から引込アーム3を出没させる姿勢で、ケース全体を貫通する複数のケース取付ねじ7(
図3では図示省略)によって扉枠Fの上框の下面に取り付けられる。そのケース固定ねじ6は、上ケース2aの上面側から下ケース2bに固定された筒状のケーシングスペーサー8にねじ込まれ、ケース取付ねじ7は、上下ケース2a、2b間に配される筒状の取付ねじ用スペーサー9に通された状態で扉枠Fの上框にねじ込まれるようになっている。また、本体ケース2の下面には正面の開口に連続する切欠きが上面と同じ形状で形成されており、後述するように扉Dを閉じる際に、引込アーム3がトリガー31の一部を本体ケース2と干渉させずに本体ケース2の下方まで引き込めるようになっている。
【0021】
引込アーム3は、
図4(a)、(b)にも示すように、基端側を本体ケース2に回動可能に支持され、先端側でトリガー31と係合するアーム本体10と、アーム本体10の先端側に組み付けられる平面視三角形状のスライド片11と、スライド片11をアーム本体10の基端側へ付勢するスライド片押圧ばね12とからなる。そのアーム本体10およびスライド片11は樹脂製部材である。
【0022】
アーム本体10の先端側部分には、幅方向の一側に平面視略台形の平板状で、スライド片11のアーム本体10に沿った移動を案内するスライド片案内部10aが設けられている。また、そのスライド片案内部10aには、アーム本体10の長手方向に延び、スライド片押圧ばね12を収容するばねポケット10bがあけられている。
【0023】
スライド片11は、その上下方向の中央位置に、アーム本体10の幅方向中央側を向く側面と基端側を向く側面に開口し、スライド片案内部10aの一部が挿入される平面視三角形状のスリット11aと、アーム本体10の先端側を向く側面(スリット閉塞面)からばねポケット10bに重なる位置まで延びるばね保持穴11bとを有している。なお、このスライド片11をアーム本体10に組み付ける際には、アーム本体10のばねポケット10bにスライド片押圧ばね12を配したうえで、スライド片11を、アーム本体10の側方でスリット11aがスライド片案内部10aに対向する位置から、ばね保持穴11bでスライド片押圧ばね12を保持するようになるまで弾性変形させながら押し込んでいけばよい。
【0024】
アーム本体10に組み付けられたスライド片11は、スライド片押圧ばね12でばね保持穴11bの底面を押圧されてアーム本体10の基端側へ付勢されるとともに、スリット閉塞面の壁がスライド片案内部10aに当接してアーム本体10の基端側への移動を規制された状態となる。これにより、スライド片11は、スライド片押圧ばね12を圧縮させる方向の力を受けると、スライド片押圧ばね12とスライド片案内部10aに案内されてアーム本体10の先端側へスライドするようになっている(
図10(a)、(b)参照)。
【0025】
そして、このスライド片11の組み付けによって、引込アーム3には、アーム本体10の先端側部分の下面側に、後述するようにトリガー31と係合するための直線状の係合溝3aと係合溝3aに連続する補助溝3bが形成されている。係合溝3aはその一端が引込アーム3の先端に開口しており、その係合溝3aの他端側(引込アーム3の基端側)の開口部に連続する補助溝3bが引込アーム3の正面側に開口している。また、スライド片11は係合溝3aの基端側の開口部を開閉する方向にスライド可能なものとなっており、スライド片押圧ばね12はスライド片11を係合溝3aの基端側の開口部を閉じる方向に付勢するものとなっている。
【0026】
一方、アーム本体10の基端側部分には、本体ケース2の回動軸孔2cに回動自在に差し込まれる回動軸部10cと、上下方向に配される受圧ピン13の両端部を支持する受圧部10dと、同じく上下方向に配される連結ピン14の両端部を支持する連結部10eとがそれぞれ上下一対で設けられている。
【0027】
アーム本体10の回動軸部10cを中心とする回動は、本体ケース2の上下面から内向きに突出するストッパ2dと、本体ケース2の一端(
図2における左端)近傍のケーシングスペーサー8とによって規制され、引込アーム3が、扉Dの開放状態に対応する待機位置と扉Dの閉止状態に対応する引込位置との間で回動可能となっている。なお、ストッパ2dは、アーム本体10を撓みにくくするため、アーム本体10の回動中心に対して長く延びる先端側と同じ側に当接するようになっている。また、回動軸部10cの周囲には環状溝が形成されており、この環状溝に回動軸孔2cの周縁部をバーリング加工して形成した内向きの環状凸部が嵌まり込むとともに、図示省略した潤滑材が保持され、引込アーム3が安定して回動できるようになっている。
【0028】
そして、このアーム本体10の受圧部10dは、受圧ピン13とその軸方向中央部に摺動自在に嵌め込まれた受圧ローラ15を介して、付勢機構4から押圧力を受けるようになっている。また、連結部10eは、連結ピン14とその軸方向中央部を一側の孔に通された小判状のジョイント金具16によって制動機構5と連結されている。
【0029】
前記付勢機構4は、本体ケース2の長手方向に沿うように配される(長手方向に沿って付勢力を発生させる)アーム押圧ばね17と、アーム押圧ばね17の両端部をそれぞれ保持する第1ばねケース18および第2ばねケース19と、第2ばねケース19にアーム押圧ばね17と反対の側で当接するカム部材20とを備えており、そのアーム押圧ばね17が第1ばねケース18を介して引込アーム3に取り付けられた受圧ローラ15を押圧することにより、引込アーム3をその回動面内で付勢するものである。
【0030】
第1ばねケース18は、第2ばねケース19と対向する側の面に設けられたばね挿入穴18aにアーム押圧ばね17の一端部が挿入され、その反対側に設けられた押圧面18bで引込アーム3の受圧ローラ15に当接している。一方、第2ばねケース19は、第1ばねケース18と対向する側の面に設けられたばね挿入穴19aにアーム押圧ばね17の他端部が挿入され、その反対側に設けられた傾斜カム面19bでカム部材20と当接している。この第2ばねケース19の傾斜カム面19bは、平面視で本体ケース2の長手方向に対して傾斜するように形成されている。また、両ばねケース18、19は、それぞれの上下面に形成された帯状の突部18c、19cが、それぞれ本体ケース2の長手方向に延びる上下のガイド溝2e1、2e2に摺動可能に嵌め込まれている。
【0031】
カム部材20は、第2ばねケース19の傾斜カム面19bと平行に摺接する傾斜カム面20aを有し、上下面に形成された矩形板状の突部20bが、それぞれ本体ケース2の幅方向に延びる上下のガイド溝2fに摺動可能に嵌め込まれている。そして、カム部材20を前後方向(本体ケース2の幅方向)に貫通するばね調整ねじ21が、カム部材20の傾斜カム面20aと反対側の面に開口する中空部に回動不能に収納された調整ナット22とねじ結合している。そのばね調整ねじ21は、先端部が装置本体1の他端付近に配される前述の取付ねじ用スペーサー9の外周面に当接し、頭部が平面視L字状のねじホルダー23の短辺部に通された状態で本体ケース2に収容されており、本体ケース2の正面にあけられた孔を介して本体ケース2の幅方向外側から回動操作が可能となっている。
【0032】
前記制動機構5は、本体ケース2の長手方向に沿うように配される直動式のダンパー24と、ダンパー24の筒部24aを軸方向移動可能に保持するダンパーホルダー25と、ダンパー24の軸部24bの先端部に係合する側面視コの字状のダンパーキャップ26と、ダンパー24の筒部24aの底面とダンパーホルダー25との間に配される緩衝ばね27とを備えており、そのダンパー24がダンパーキャップ26およびジョイント金具16を介して引込アーム3の回動を制動するものである。なお、ダンパー24は、筒部24aに対して軸部24bが没入していくときの抵抗と突出していくときの抵抗をほぼ同程度に調整したものが用いられている。
【0033】
ダンパーホルダー25は、取付ねじ用スペーサー9を通す基端部25aと、その基端部25aからダンパー24と平行に延びてダンパー24の筒部24aを挟持する上下の腕部25bとからなる。その基端部25aは、前述のカム部材20と対向する側壁に、ばね調整ねじ21の先端部を取付ねじ用スペーサー9に当接させるための孔があけられている。そして、上側の腕部25bの上面と下側の腕部25bの下面に形成された突起25cが本体ケース2の位置決め孔2gに嵌まり込むことにより、ダンパーホルダー25全体が位置決めされるようになっている。
【0034】
ダンパーキャップ26は、ダンパー24の軸部24bの先端部が挿入される係合穴26aを有している。また、その上下面に形成された複数の突部26bが、それぞれ本体ケース2の長手方向に延びる上下のガイド溝2hに摺動可能に嵌め込まれている。そして、コの字形状の上下の腕部を連結ピン28が貫通し、この連結ピン28の軸方向中央部が前述のジョイント金具16の他側の孔に通されており、これによってダンパーキャップ26が引込アーム3と連結されている。なお、ダンパーキャップ26の上下面から突部26bの間に突出する連結ピン28の両端部は、本体ケース2のガイド溝2hに収まるように小径に形成されている。
【0035】
この扉閉止補助装置の装置本体1は上記の構成であり、
図1および
図2に示すように、本体ケース2の一端面が扉枠Fの他方の縦枠の上端部に僅かな隙間をおいて対向し、引込アーム3が扉Dに向かって出没する姿勢で、扉枠Fの上框に取り付けられる。
【0036】
一方、前記トリガー31は、
図1および
図2に示すように、カバー32と、カバー32の上面から突出する係合部材としてのトリガー軸33を備えており、扉Dがその閉止位置にある程度近い領域にあるときに、トリガー軸33が装置本体1の引込アーム3に形成された係合溝3aと係合するように、扉Dのヒンジと反対側の上端部に取り付けられる。
【0037】
次に、この扉閉止補助装置の動作について説明する。まず、
図1に示すように、扉Dが開いて装置本体1の引込アーム3がトリガー31と係合していないときは、引込アーム3が待機位置で(本体ケース2から引き出された状態で)保持されている。このように引込アーム3が保持されるのは、
図5に示すように、引込アーム3の受圧ローラ15と付勢機構4の第1ばねケース18の押圧面18bとが、引込アーム3の回動中心Oに対する付勢機構4の思案点の集合である直線(回動中心Oからアーム押圧ばね17の付勢方向と平行に延びる直線)Aよりも図面上側(引込アーム3の制動機構5との連結側)で当接して、引込アーム3が付勢機構4からの付勢力により反時計方向のモーメントを加えられるとともに、本体ケース2のストッパ2dによって反時計方向の回動を規制されている(
図2参照)からである。
【0038】
そして、開いた扉Dを閉止方向に回動させていくと、その過程で、
図2に示すように、トリガー31のトリガー軸33が装置本体1の引込アーム3の先端部と当接する(一部が係合溝3aに先端側の開口部から入り込む)。このとき、引込アーム3はその先端部をトリガー軸33に押圧されて時計方向にわずかに回動し、引込アーム3の受圧ローラ15と付勢機構4の第1ばねケース18との接点が、付勢機構4の思案点(直線A)を乗り越える。
【0039】
すると、引込アーム3の待機位置での保持が解除されて、
図6に示すように、付勢機構4のアーム押圧ばね17の付勢力により、第1ばねケース18が装置本体1の一端側へ移動すると同時に、引込アーム3が時計方向(引込方向)に回動していく。そして、これに伴ってトリガー軸33が引込アーム3の係合溝3aの奥側へ相対移動する(引き込まれる)ことにより、トリガー31と一体に扉Dが自動的にヒンジのまわりに回動して扉枠Fに引き寄せられていく。その後、
図7に示すように、引込アーム3が本体ケース2内の引込位置でケーシングスペーサー8に当接して停止し、扉Dも閉止位置で停止する。
【0040】
ここで、引込アーム3の待機位置から引込位置への回動は、引込アーム3の連結部10eに連結された制動機構5の作用によって制動される。すなわち、引込アーム3が待機位置から時計方向に回動するときには、引込アーム3の連結部10eが連結ピン14およびジョイント金具16を介して、制動機構5のダンパーキャップ26およびダンパー24の軸部24bを押圧することになるので、ダンパー24の軸部24bの筒部24aへの没入に対する抵抗により、引込アーム3の回動が減速される。これにより、人手等により扉Dに閉止方向の強い力が加えられた場合でも、扉Dがゆっくりと閉じていき、扉枠Fの戸当りSに当接するときの衝撃音を生じないようになっている。
【0041】
しかも、この扉閉止補助装置では、下記のメカニズムにより、扉Dに加えられる閉止方向の力が小さい場合でも、トリガー軸33が引込アーム3の先端部と当接すると引込アーム3が確実に引込方向に回動していくようになっている。
【0042】
すなわち、
図5に示すように、付勢機構4の引込アーム3との当接部である第1ばねケース18の押圧面18bは、付勢機構4の付勢方向と直交するアーム保持面18b1と、アーム保持面18b1に連続し、引込アーム3の回動中心Oから離れる方向に傾斜する傾斜面18b2とからなり、そのアーム保持面18b1で待機位置にある引込アーム3の受圧ローラ15と当接し、傾斜面18b2の途中に付勢機構4の思案点(直線A)が位置するように形成されている。このため、扉Dが閉じられる過程で、トリガー31が待機位置にある引込アーム3に当接して引込アーム3をわずかに回動させると、すぐに受圧ローラ15が第1ばねケース18の傾斜面18b2に当接するようになって、引込アーム3の回動に対する抵抗が小さくなる。これにより、付勢機構の引込アームとの当接面を付勢方向と直交する面だけで形成している場合に比べて、受圧ローラ15と第1ばねケース18との接点が思案点(直線A)を乗り越えやすくなっている。
【0043】
さらに、引込アーム3の回動を制動する制動機構5において、ダンパー24の筒部24aの右側に空間を設け、その空間に緩衝ばね27を配置することにより、引込アーム3の引込方向への回動開始当初は、ダンパー24による制動作用がほとんど生じず、引込アーム3の連結部10eに押されたダンパーキャップ26およびダンパー24の軸方向移動を緩衝ばね27で制動するようにして、引込アーム3の回動抵抗を小さくしている。
【0044】
したがって、開いている扉Dに対してトリガー軸33が引込アーム3に軽く当接する程度の力を加えるだけでも、引込アーム3の待機位置での保持が解除され、引込アーム3の引込方向への回動によって確実かつスムーズに扉Dを閉じることができる。
【0045】
そして、
図7に示すように閉じた状態にある扉Dを開くときは、上述した閉止時と逆の動作となる。すなわち、閉じている扉Dを開放方向に回動させると、トリガー軸33が引込アーム3の係合溝3aの先端側へ相対移動することにより、引込アーム3が反時計方向に回動していく。その後、引込アーム3が待機位置でストッパ2dに当接して停止し、その状態で付勢機構4によって保持されるようになる。引込アーム3が停止すると、トリガー軸33が引込アーム3の係合溝3aの先端側の開口部から脱出し、扉Dが引込アーム3と独立に回動して開放される。
【0046】
また、この実施形態では、
図8および
図9に示すように、装置本体1を扉枠Fに取り付けたまま、付勢機構4のばね調整ねじ21を本体ケース2の正面側の孔からハンドドライバーHで回動操作することにより、付勢機構4の付勢力を調整できるようになっている(
図8の矢印は付勢力を大きくする方向の調整動作を示している)。
【0047】
すなわち、ばね調整ねじ21は本体ケース2の正面壁と取付ねじ用スペーサー9によって軸方向移動不能に保持されており、そのばね調整ねじ21にねじ結合している調整ナット22はカム部材20に回動不能に収納されているので、ばね調整ねじ21を回動させると、調整ナット22とカム部材20が一体にばね調整ねじ21の軸方向(本体ケース2の幅方向)に移動する。これと同時に、カム部材20の傾斜カム面20aと摺接する傾斜カム面19bを有している第2ばねケース19が、本体ケース2の長手方向に移動する。これにより、アーム押圧ばね17の圧縮量が変化して、付勢機構4の付勢力が調整されるようになっている。
【0048】
そして、上記のようにばね調整ねじ21を回動操作して付勢機構4の付勢力の調整を行うことにより、扉Dの重量によらず、扉Dの閉止動作を確実に補助し、かつ扉Dを開くときにあまり重く感じないようにすることができる。
【0049】
しかも、この扉閉止補助装置では、ばね調整ねじ21は横長の本体ケース2の幅方向に延びるように設けられており、その回動操作は扉Dを開放した状態で扉枠Fの正面側から行えるので、ケース本体の長手方向に延びるように設けたばね調整ねじを扉枠の上框と平行な方向から回動操作する場合に比べて、付勢力の調整作業がしやすい。
【0050】
また、この扉閉止補助装置では、扉Dを開放しているとき、通常は引込アーム3が待機位置で保持されているが、誤って何らかの力を受けた引込アーム3が回動して引込位置に保持されてしまっている異常な状態の場合でも、下記のように、扉Dを正常に閉止できるようになっている。
【0051】
すなわち、扉Dが開放されていて引込アーム3が引込位置にある場合、扉Dを閉じていくと、扉Dと一体に回動するトリガー31のトリガー軸33が、本体ケース2の下面の切欠きの位置から、
図10(a)に示すように引込アーム3の補助溝3bに入り込んで、スライド片11の扉Dと対向する側の一つの側面に当接する。ここで、スライド片11は、トリガー軸33と当接する側面がスライド片押圧ばね12の付勢方向に対して傾斜する傾斜面となっているので、
図10(b)に示すように、トリガー軸33に押圧されることにより、スライド片押圧ばね12の付勢力に抗して引込アーム3の先端側へ(係合溝3aの基端側の開口部を開く方向に)スライドしていき、トリガー軸33はスライド片11をスライドさせながら、係合溝3aの基端側部分に入り込んでいくことになる。そして、トリガー軸33全体が係合溝3aに入ると、スライド片11がスライド片押圧ばね12の付勢力で元の位置に戻り(
図7の状態)、扉Dが通常と同様に閉止されることになる。
【0052】
また、スライド片11は、扉Dと対向しない側で係合溝3aを形成する側面がスライド方向と平行になっているので、係合溝3aに入り込んだトリガー軸33から扉Dを開く方向(スライド方向と略直交する方向)の力を受けても、係合溝3aの基端側の開口部の開方向にスライドすることはない。そして、トリガー軸33は、前述の従来のものと異なり沈み込むことがないので、係合溝3aへの掛かりが小さくても、安定して引込アーム3と係合する。したがって、
図7の状態から扉を開く際には、トリガー軸33が係合溝3aの基端側の開口部から脱出するおそれがないし、扉Dが長期間の使用により多少垂れた状態となっていても、トリガー軸33が係合溝3aと安定した状態で係合して確実に引込アーム3を待機位置まで回動させるので、正常な扉閉止補助機能を保持し続けることができる。
【0053】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0054】
例えば、上述した実施形態では装置本体を扉枠に設置し、トリガーを扉に設置したが、これと逆に、装置本体を扉に設置し、トリガーを扉枠に設置するようにしてもよい。
【0055】
また、引込アームは、実施形態のようにアーム本体へのスライド片の組み付けによって係合溝が形成されるものとすることで構造の簡素化が図れるが、アーム本体自体に係合溝が形成されたものとすることもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 装置本体
2 本体ケース
3 引込アーム
3a 係合溝
3b 補助溝
4 付勢機構
5 制動機構
10 アーム本体
11 スライド片
12 スライド片押圧ばね
31 トリガー
33 トリガー軸(係合部材)
D 扉
F 扉枠
S 戸当り