(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083035
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 24/00 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
C08F24/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194265
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】井本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】寳來 健介
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀高
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AL03P
4J100AQ01Q
4J100BA11Q
4J100CA04
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA22
4J100DA48
4J100DA49
4J100DA62
4J100DA66
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA21
4J100JA32
4J100JA33
(57)【要約】
【課題】
α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であり、且つ得られる共重合体中にDMSO等の有機溶媒を実質的に含まない製造方法を提供すること。
【解決手段】
α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、水溶媒中で、α-メチレンラクトン及び(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、
水溶媒中で、前記α-メチレンラクトン及び前記(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、
前記単量体の全量を前記重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合を連鎖移動剤の存在下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合が懸濁重合である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体は、透明性、耐熱性、光学等方性に優れ、光学用途への適用が期待されている。例えば、特許文献1には、所定のα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体(樹脂)の成形体であるフィルム等が、光学用部材の用途に適することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般にα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体は、溶媒に対する溶解性が低い傾向にあることから、無溶媒又はジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中で重合が行われる。しかし、無溶媒での重合では透明性の高い共重合体を得ることができない。また、本発明者らの検討によると、DMSO溶媒中で重合を行うと、得られるα-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体が着色してしまい、透明性が低下してしまう傾向にあることを見出した。さらに、DMSO溶媒中で重合を行うと、可塑剤として機能するDMSOが共重合体中に残り、共重合体から形成されるフィルムの物性が低下する等といった問題もある。
【0005】
そこで本発明は、α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であり、且つ得られる共重合体中にDMSO等の有機溶媒を実質的に含まない製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]~[3]に記載の共重合体の製造方法を提供する。
[1] α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、
水溶媒中で、α-メチレンラクトン及び(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、
単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させる、共重合体の製造方法。
[2] 重合を連鎖移動剤の存在下で行う、[1]に記載の製造方法。
[3] 重合が懸濁重合である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、α-メチレンラクトン由来の構成単位を含む共重合体の製造方法であって、得られる共重合体の透明性を改善することが可能であり、且つ得られる共重合体中にDMSO等の有機溶媒を実質的に含まない製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
[共重合体の製造方法]
本実施形態の共重合体の製造方法は、α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含む共重合体の製造方法である。
【0010】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、α位の炭素にメチレン基が結合したα-メチレンラクトンの重合により形成される。α-メチレンラクトン由来の構成単位の具体的な構造は特に限定されない。ラクトンの環員数は、特に限定されないが、環構造の安定性が高く、この高い安定性に基づいてより高い表面強度が得られることから、好ましくは5員環(γ-ラクトン)又は6員環(δ-ラクトン)である。
【0011】
5員環又は6員環であるα-メチレンラクトンの具体例は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、α-メチレン-δ-バレロラクトンである。これらは置換基を有するものであってもよい。
【0012】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、好ましくは以下の式(1)に示す構造を有する構成単位である。
【0013】
【0014】
式(1)におけるR1~R4は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0015】
式(1)に示す構造を有する構成単位は、以下の式(2)に示すα-メチレン-γ-ブチロラクトンを含む単量体の重合により形成できる。
【0016】
【0017】
式(2)におけるR1~R4は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0018】
炭化水素基は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、例えば、アルキル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8である。アルキル基は直鎖でも分岐を有していてもよく、環状でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素基は特に限定されず、例えば、複素環構造を含んでいてもよい。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0020】
R1~R4は、好ましくは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは全て水素原子である。
【0021】
共重合体におけるα-メチレンラクトン由来の構成単位の含有量は、耐熱性等をより向上させる観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは7.5~45質量%、更に好ましくは10~40質量%である。なお、共重合体における各構成単位の含有量は、共重合体を重溶媒に溶解させ、1H-NMRを測定し各構成単位に対応するピークの面積比を算出することで求めることができる。
【0022】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルの重合により形成される。(メタ)アクリル酸アルキルにおける炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
【0024】
共重合体における(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量は、耐熱性、透明性等をより向上させる観点から、好ましくは95~40質量%、より好ましくは92.5~45質量%、更に好ましくは90~50質量%である。
【0025】
共重合体は、α-メチレンラクトン由来の構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位以外のその他の単量体の構成単位を含んでいてもよい。その具体例としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の単量体由来の構成単位が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0026】
共重合体におけるその他の構成単位の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0027】
本本実施形態の共重合体の製造方法は、水溶媒中で、上記α-メチレンラクトン及び上記(メタ)アクリル酸アルキルを含む単量体を重合させる重合工程を備え、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させることを特徴とする。
【0028】
本実施形態の共重合体の製造方法によれば、得られる共重合体の透明性を改善することができる。さらに、本実施形態の共重合体の製造方法によれば、溶媒として水を用いるので、DMSO等の有機溶媒を実質的に含まない共重合体を製造することができる。
【0029】
水溶媒は、水単独であることが好ましいが、本発明による効果を阻害しない範囲で、非水溶媒(特に水溶性有機溶媒)を含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メチルプロピルアルコール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;等が挙げられる。
【0030】
水溶媒中、有機溶媒の割合は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0031】
重合温度は、好ましくは40~100℃、より好ましくは50~90℃、更に好ましくは70~90℃である。また、重合時間は好ましくは0.5~20時間、より好ましくは1~10時間である。
【0032】
重合工程において、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させるためには、実質的に重合が開始する前に単量体の全量が反応器へ投入されていればよく、例えば、反応器の温度を重合温度まで上昇させる前に単量体の全量を反応器へ投入することができる。
単量体を水溶媒中に分散させるときには、パドル翼等で攪拌して分散させてもよく、高速せん断タービン型分散機、高圧ジェットホモジナイザー、超音波式乳化分散機、媒体攪拌分散機、強制間隙通過型分散機等の乳化分散装置を用いて分散させてもよい。
【0033】
単量体を重合させる際には、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤及び/又は添加剤を添加してもよい。
【0034】
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ化合物などが挙げられる。重合開始剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは100~50000質量ppm、より好ましくは500~30000質量ppm、更に好ましくは1000~20000質量ppmである。
【0035】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、β-メルカプトプロピオン酸等の単官能チオール化合物;両末端メルカプト変性ポリシロキサン等の2官能チオール化合物;側鎖がメルカプト変性された側鎖多官能メルカプト変性ポリシロキサンなどが挙げられる。連鎖移動剤の添加の有無、及び添加する場合には添加量によって、得られる共重合体の分子量を調整することができる。連鎖移動剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは10~10000質量ppm、より好ましくは100~3000質量ppmである。
【0036】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子系分散安定剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム)等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤;その他アルギン酸塩、ゼイン、カゼイン;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、ケイソウ土、ベントナイト、水酸化チタン、水酸化トリウム、金属酸化物粉末等の無機分散剤などが挙げられる。分散剤の添加により、重合反応の安定性を向上させることができる。分散剤の含有割合は、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。
【0037】
添加剤としては、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、アルカン等の非水溶性の有機溶媒、ラジカル捕捉剤等が挙げられる。添加剤の含有割合は特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは0.001~2質量%、より好ましくは0.005~1質量%である。
【0038】
本実施形態の製造方法における重合反応の形態としては、例えば、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。これらの中で、得られる共重合体の透明性をより向上できる点等から、分散剤の存在下で、水溶媒中に単量体を懸濁させて反応を行う懸濁重合が好ましい。
【0039】
本実施形態の製造方法においては、重合工程後に、固液分離することにより、共重合体を回収してもよい。固液分離の方法としては、濾取、遠心分離、それらの組み合わせ等が挙げられる。特に、懸濁重合により得られる共重合体は、粉体として容易に濾取することが可能であり、取り扱い性が高い。
【0040】
得られた共重合体は、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は例えば60℃以上120℃以下とすることができる。
【0041】
また固液分離をせずに直接乾燥により水を取り除いてもよい。各種ドライヤーを用いて乾燥させることで直接共重合体を粉体として取得することができる。
【0042】
本実施形態の製造方法により得られる共重合体は熱可塑性の共重合体であり、重量平均分子量(Mw)は、例えば100,000~2,000,0000、数平均分子量は、例えば50,000~500,000、分散度(Mw/Mn)は、例えば5以下である。
【0043】
本実施形態の製造方法により得られる共重合体は透明性が高い。このことは、当該共重合体からフィルムを形成した際の内部ヘイズが小さいことにより確認できる。また、本実施形態の製造方法により得られる共重合体から形成されるフィルムは、高弾性率、高強度等の高いフィルム物性が得られる。その一因として、可塑剤として機能するDMSO等を実質的に含まないことが挙げられる。
【0044】
本実施形態の製造方法により製造される共重合体から形成されるフィルムは、透明性が高い、すなわち内部ヘイズが小さい。フィルムの形成方法としては、キャスト法、熱プレス法等が挙げられる。フィルムは、従来公知の方法により延伸することもできる。
【0045】
本実施形態の製造方法により製造される共重合体は、光学用途、例えば、導光部材、フィルム用途、レンズ(光学レンズ等)等の各種用途に適用することができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味する。また、各種物性は、次のようにして測定・評価した。
【0047】
[重合における重合反応率]
撹拌重合における重合反応時の反応率は、得られた重合反応液中の未反応単量体の量をガスクロマトグラフィー(島津製作所製、装置名:GC-2014)を用いて測定して求めた。
【0048】
[共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量]
共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は、以下のとおりである。
システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM-M) 2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS-オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0049】
[共重合体中のML含有量]
共重合体中のML含有量(α-メチレン-γ-ブチロラクトン由来の構成単位の含有量)は、1H-NMRにより求めた。具体的には、重溶媒として重DMSO又は重クロロホルムを使用し、核磁気共鳴分光計(BRUKER製、AV300M)を用いて1H-NMR測定を行い、得られた1H-NMRプロファイルの面積比から求めた。
【0050】
[共重合体のガラス転移温度(Tg)]
共重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0051】
[熱分解開始温度(DyTGA)]
共重合体の熱分解温度(DyTGA)はダイナミックTG測定により求めた。具体的には、差動型示差熱天秤装置(リガク製、Thermo plus2 Tg-8120)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温した。このとき、昇温中のサンプルの質量減少速度が0.005質量%/秒以下の場合は昇温速度を10℃/分として、0.005質量%/秒を超える場合は、質量減少速度が0.005質量%/秒以下を保つように階段状等温制御を併用して、昇温した。上記質量減少速度を保つために最初に階段状等温制御とした温度(階段状等温制御とした最も低い温度)を、共重合体のDyTGAとした。
【0052】
[共重合体の内部ヘイズ]
ヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、共重合体を240℃、40MPaで10分間熱プレス成形して得られた未延伸フィルムを用意し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて、光路長10mmの石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μm当たりの内部ヘイズ値として算出した。
【0053】
[共重合体の内部b*値]
共重合体を240℃、40MPaで10分間熱プレス成形して得られた未延伸フィルムを用意し、分光光度計(日本電色工業株式会社製、Colormeter ZE6000)を用いて、光路長10mmの石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、L*a*b*表色系の厚さ100μm当たりのb*値として算出した。
【0054】
[分散剤含有量]
共重合体中の分散剤含有量は、共重合体をメタノール、水に分散させた後に、液側の分散剤量を液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定して決定した。
【0055】
[ドープ液の黄色度(YI)]
ドープ液の黄色度(YI)はJIS Z 8729の規定に準拠して求めた。具体的には分光色差計(日本電色工業株式会社製:Colormeter ZE6000)の透過モードで、光路長10mmの石英セルを用いて測定した。
【0056】
[ドープ液の粘度]
ドープ液の粘度は、BHII型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて25℃にて測定した。
【0057】
[ドープ液のヘイズ]
ドープ液のヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて、光路長10mmの石英セルを用いて測定した。
【0058】
[フィルムの内部ヘイズ]
ヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、延伸フィルムを用意し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて、光路長10mmの石英セルに1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μm当たりの内部ヘイズ値として算出した。
【0059】
[フィルムの厚さ]
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により求めた。
【0060】
[フィルムの全光線透過率]
フィルムの全光線透過率はJIS K7361の規定に準拠して求めた。具体的には、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて測定した。
【0061】
[フィルムの引張試験(弾性率測定)]
延伸フィルムを90mm×20mmの大きさに切り出して試験片とし、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で、JIS K7127に準拠し、オートグラフ(島津製作所製:AG-X)を用いて引張試験を実施した。条件は引張速度を歪0.5%まで0.25mm/分、それ以降は1mm/分とし、チャック間距離を55mm、変位計での測定する標線間隔を25mmとして、25℃で3回試験を行い、その平均値を測定値とした。変位は非接触伸び幅計(島津製作所製:TRViewX)を用いて計測し、弾性率は歪が0.05%から0.25%までの間の傾きとして評価した。
【0062】
[フィルムの鉛筆硬度]
フィルムの鉛筆硬度は、JIS-S-6006が規定する試験用鉛筆を用い、安田精機製作所(株)製 鉛筆引っかき硬度試験機No.533を用いて、JIS K5600-5-4(1999)に準拠して、750g荷重下で延伸フィルムの評価を行い、傷がつかない最も高い鉛筆の硬度を鉛筆硬度とした。
【0063】
[フィルムのフォルダブル試験]
延伸フィルムを15mm×80mmの大きさに切り出して試験片とし、Tension-FreeFolding Clamshell-type(ユアサシステム機器製、DMLHP-CS)にテープで固定した。また、試験片を長辺の半分の位置で折り曲げ、折り畳まれた状態の試験片の長辺の両端部間の距離が5mmとなり、試験片の折り曲げ部分の曲率半径が2.5mmとなるように折り畳まれた状態を設定した。その後、25℃の環境下で、平坦に開いた状態から折り畳まれた状態にすることを1回の屈曲として、1分間に30回の屈曲回数で、10万回屈曲を繰り返した。試験後の折り畳まれた部分のフィルムが破断していなかった場合を「○」、破断していた場合を「×」として評価した。
【0064】
[フィルムの位相差]
延伸フィルムの波長589nmの光に対する面内位相差Re及び厚さ方向位相差Rthを、全自動複屈折計(王子計測機器社製「KOBRA-WR」)を用いて入射角40°の条件で測定した。具体的には、フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとして、下記式から面内位相差Re及び厚さ方向位相差Rthをそれぞれ求めた。なお、下記の実施例においては、フィルムの厚さdを40μmとして、面内位相差Re及び厚さ方向の位相差Rthを求めた。
面内位相差Re=(nx-ny)×d
厚さ方向位相差Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d
【0065】
なお、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(ML)、ベンジルメタクリレート(BMA)は東京化成工業から入手した。パーロイルL(ジラウロイルパーオキサイド、LPO)は日油株式会社より、V601は和光純薬より、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキサノエート(ルペロックス(登録商標)575(R575))はアルケマ吉富社より、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名「ハイテノール(登録商標)NF-08」は第一工業製薬株式会社より、ポリビニルアルコール(PVA205)はクラレ社から入手した。nDMはn-ドデシルメルカプタンを示す。
【0066】
<共重合体の合成及びフィルムの作製>
(実施例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、及び窒素導入管を備えた反応器を用意した。容器にハイテノール(登録商標)NF-08を0.25部溶解した脱イオン水75部を仕込んだ。そこへあらかじめ調製したモノマーとしてMMAを35部、MLを15部、開始剤としてLPOを0.25部混合した液を仕込み、T.K.ホモミクサーMARK II model2.5(プライミクス株式会社製)を用い、3000rpmで5間攪拌して均一な懸濁液とした。
懸濁液に脱イオン水を125部追加し、反応器に移送し、攪拌し窒素ガスを吹き込みながら反応溶液が70℃になるまで加熱した。内温70℃になった時点を反応開始とし、そのまま70℃で反応器を保温して自己発熱により液温がピーク温度に到達した後に75℃に保ち、さらに反応開始2時間後に重合液を90℃まで昇温して4時間攪拌して重合反応を完了させた。その後、反応液(懸濁液)を冷却し、濾過して共重合体を濾取し、さらに熱風乾燥機を用いて乾燥して共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
【0067】
得られた共重合体を240℃で1時間真空乾燥(133Pa(1mmHg))した後に、250℃で熱プレス成型して、厚さ約160μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+20℃の延伸温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)及び横方向(TD方向)の順にそれぞれ延伸倍率が2.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
あらかじめモノマーとしてMMAを30部、MLを20部、開始剤としてLPOを0.25部、連鎖移動剤としてnDMを0.05部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
得られた共重合体をジクロロメタンで希釈し、ポリマー含有量20wt%のドープ液を調製した後、5μmのフィルターで加圧濾過した。ドープ液の物性は表1に示す。ドープ液を目視で確認したところ、均一に分散しており、その後一晩静置してもドープ液の外観に変化は見られなかった。
次にPETフィルムにドープ液を滴下し、アプリケーターを使用して膜厚800μmに塗り広げた。その後、PETフィルムごと乾燥機に入れ40℃で30分、60℃で30分乾燥させた後、塗布したフィルムをPETから剥離した。さらに80℃から130℃で乾燥して、厚さ160μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを実施例1と同様にして逐次二軸延伸機を用いて延伸することで厚さ40μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0069】
(実施例2’)
実施例2で得られた共重合体を、実施例1と同様に熱プレス成型により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
あらかじめモノマーとしてMMAを30部、MLを20部、開始剤としてLPOを0.15部、連鎖移動剤としてnDMを0.1部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
あらかじめモノマーとしてMMAを30部、MLを20部、開始剤としてLPOを0.125部、連鎖移動剤としてnDMを0.05部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0072】
(実施例5)
あらかじめモノマーとしてMMAを30部、MLを20部、開始剤としてLPOを0.75部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0073】
(実施例6)
容器にPVA205を2.5部溶解した脱イオン水75部を仕込み、あらかじめモノマーとしてMMAを30部、MLを20部、開始剤としてV601を0.25部、連鎖移動剤としてnDMを0.05部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0074】
(実施例7)
あらかじめモノマーとしてMMAを40部、MLを10部、開始剤としてLPOを0.25部、連鎖移動剤としてnDMを0.05部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0075】
(実施例8)
あらかじめモノマーとしてMMAを27部、MLを15部、BzMAを8部、開始剤としてLPOを0.25部、連鎖移動剤としてnDMを0.05部混合した液を用意した以外は実施例1と同様に共重合体(粉体)を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
次に実施例2と同様に得られた共重合体をジクロロメタンで希釈してドープ液を調製した。得られたドープ液の物性は表1に示す。さらに実施例2と同様にキャスト法により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0076】
(比較例)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、及び窒素導入管を備えた反応器に、モノマーとしてMMA35部、ML15部、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)を60部仕込み、これに窒素を通じつつ83℃まで昇温させた。その後、重合開始剤としてルペロックス(登録商標)575を0.15部加えて83-90℃で6時間かけて溶液攪拌重合を行った。得られた重合液を240℃で1時間真空乾燥(133Pa(1mmHg))して共重合体を得た。重合完了時のモノマーの転化率と得られた共重合体の物性を表1に示す。
得られた共重合体を、実施例1と同様に熱プレス成型により未延伸フィルムを作製した後、延伸を行い厚さ40μmの延伸フィルを得た。得られた延伸フィルムの物性を表1に示す。
【0077】