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  • 特開-トーショナルダンパー 図1
  • 特開-トーショナルダンパー 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083084
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】トーショナルダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
F16F15/126 D
F16F15/126 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194338
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草原 彰吾
(57)【要約】
【課題】設計自由度を高く維持させつつ、衝撃を受けた際に、より狭い範囲内に収めることを可能とするトーショナルダンパーを提供する。
【解決手段】ダンパー本体200は、スリーブ210の内周面が第2円筒部140の外周面に圧入されることでハブ100に固定されると共に、ダンパー本体200は、第2円筒部140に対して、軸線方向において第1円筒部110とは反対側にはみ出した状態、かつダンパー本体200が軸線方向において第2円筒部140側から第1円筒部110側に向かって衝撃を受けた際に、第1円筒部110側に向かってスライドし得る状態で、ハブ100に固定されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに取り付けられるハブと、前記ハブと同心的に設けられるダンパー本体と、を備えるトーショナルダンパーであって、
前記ハブは、クランクシャフトに固定される第1円筒部と、第1円筒部に対して軸線方向にずれ、かつ第1円筒部よりも径方向の外側の位置で第1円筒部と同心的に設けられる第2円筒部とを有し、
前記ダンパー本体は、スリーブと、前記スリーブと同心的に径方向外側に設けられる振動リングと、前記スリーブと前記振動リングとの間に設けられるゴム状弾性体とを一体的に有し、
前記ダンパー本体は、前記スリーブの内周面が第2円筒部の外周面に圧入されることで前記ハブに固定されると共に、
前記ダンパー本体は、第2円筒部に対して、軸線方向において第1円筒部とは反対側にはみ出した状態、かつ前記ダンパー本体が軸線方向において第2円筒部側から第1円筒部側に向かって衝撃を受けた際に、第1円筒部側に向かってスライドし得る状態で、前記ハブに固定されていることを特徴とするトーショナルダンパー。
【請求項2】
前記ハブは、第1円筒部における軸線方向において第2円筒部側の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側先端に設けられる第1プーリーとを有しており、
第2円筒部は、第1プーリーよりも径方向外側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のトーショナルダンパー。
【請求項3】
前記振動リングの外周面は第2プーリーにより構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のトーショナルダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジンのクランクシャフト(回転駆動軸)に発生する捩じり振動を低減するために用いられるトーショナルダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのクランクシャフトには、その捩じり振動を低減させるために、トーショナルダンパーが取り付けられている。従来例に係るトーショナルダンパーについて、図3を参照して説明する。図3は従来例に係るトーショナルダンパーがクランクシャフトに取り付けられた状態を示す断面図である。
【0003】
トーショナルダンパー500は、クランクシャフト20に対してボルト30により固定されるハブ510と、振動リング530と、ハブ510と振動リング530との間に設けられるゴム状弾性体520とを一体に備えている。また、ハブ510の外周面には第1プーリー511が設けられ、振動リング530の外周面には第2プーリー531が設けられている。
【0004】
ここで、自動車の車体には、車体が衝撃を受けた際に衝撃を緩衝するために、クラッシャブルゾーンと呼ばれる空間が設けられている。そのため、車体内の各種部材は、衝撃を受けた際に、所定の領域内に収まる必要がある。近年、エンジンルームの過密化などの影響により、トーショナルダンパーの設置スペースが狭くなる傾向にある。例えば、図3に示す従来例において、少なくともトーショナルダンパー500が衝撃を受けた場合に、太い点線L1,L2よりも矢印側に、トーショナルダンパー500を収めることが要求される場合がある。しかしながら、トーショナルダンパー500を小型にすると、振動リング530の慣性モーメントも小さくなるため、設計自由度も狭くなり、振動吸収効果を十分に発揮させるのが難しくなる。また、トーショナルダンパー500は剛性が高いため、ある程度の衝撃を受けても、変形したり破損したりすることはなく、トーショナルダンパー500を所定の領域内に収めることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-52061号公報
【特許文献2】特開平7-310787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、設計自由度を高く維持させつつ、衝撃を受けた際に、より狭い範囲内に収めることを可能とするトーショナルダンパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0008】
本発明のトーショナルダンパーは、
クランクシャフトに取り付けられるハブと、前記ハブと同心的に設けられるダンパー本体と、を備えるトーショナルダンパーであって、
前記ハブは、クランクシャフトに固定される第1円筒部と、第1円筒部に対して軸線方向にずれ、かつ第1円筒部よりも径方向の外側の位置で第1円筒部と同心的に設けられる第2円筒部とを有し、
前記ダンパー本体は、スリーブと、前記スリーブと同心的に径方向外側に設けられる振動リングと、前記スリーブと前記振動リングとの間に設けられるゴム状弾性体とを一体的に有し、
前記ダンパー本体は、前記スリーブの内周面が第2円筒部の外周面に圧入されることで前記ハブに固定されると共に、
前記ダンパー本体は、第2円筒部に対して、軸線方向において第1円筒部とは反対側にはみ出した状態、かつ前記ダンパー本体が軸線方向において第2円筒部側から第1円筒部側に向かって衝撃を受けた際に、第1円筒部側に向かってスライドし得る状態で、前記ハブに固定されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ダンパー本体が衝撃を受けると、第1円筒部側にスライドすることで、衝撃を受けた場合には、トーショナルダンパー全体をより狭い領域内に収めることが可能となる。その一方で、衝撃を受ける前の状態では、ダンパー本体は第2円筒部に対して、軸線方向において第1円筒部とは反対側にはみ出した状態で、ハブに固定されている。従って、ダンパー本体の慣性モーメントをより高くすることが可能となり、設計自由度を高くすることができる。これにより、振動吸収効果も十分に発揮させることができる。
【0010】
前記ハブは、第1円筒部における軸線方向において第2円筒部側の端部に設けられる外向きフランジ部と、前記外向きフランジ部の径方向外側先端に設けられる第1プーリーとを有しており、
第2円筒部は、第1プーリーよりも径方向外側に設けられているとよい。
【0011】
また、前記振動リングの外周面は第2プーリーにより構成されているとよい。
【0012】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、トーショナルダンパーの設計自由度を高く維持させつつ、衝撃を受けた際に、より狭い範囲内にトーショナルダンパーを収めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は通常時における本実施例に係るトーショナルダンパーがクランクシャフトに固定された状態を示す断面図である。
図2図2は衝撃を受けた際の本実施例に係るトーショナルダンパーの状態を示す断面図である。
図3図3は従来例に係るトーショナルダンパーがクランクシャフトに取り付けられた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
(実施例)
図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係るトーショナルダンパーについて説明する。図1及び図2は本実施例に係るトーショナルダンパーがクランクシャフトに固定された状態を示す断面図であり、図1は通常時の状態、図2はトーショナルダンパーが衝撃を受けた状態を示している。なお、トーショナルダンパーは略回転対称形状であり、図1
2においては、トーショナルダンパーの中心軸線を含む面で、トーショナルダンパーを切断した断面を示している。
【0017】
<トーショナルダンパー>
本実施例に係るトーショナルダンパー10は、クランクシャフト20に取り付けられるハブ100と、ハブ100と同心的に設けられるダンパー本体200とから構成される。
【0018】
ハブ100は、金属製の環状部材である。このハブ100は、クランクシャフト20に固定される第1円筒部110と、第1円筒部110の一端側に設けられる外向きフランジ部120と、外向きフランジ部120の径方向外側先端に設けられる第1プーリー130と、第2円筒部140とを備えている。
【0019】
第1円筒部110の内周面側にはボスなどが設けられ、ボルト30によって、クランクシャフト20に固定される。なお、本実施例においては、第1円筒部110が、クランクシャフト20に直接取り付けられている。しかしながら、本発明においては、例えば、クランクシャフトの外周面側に設けられるスリーブなどの部材を介して、ハブがクランクシャフトに間接的に取り付けられる場合も含まれる。第2円筒部140は、第1円筒部110に対して軸線方向にずれ、かつ第1円筒部110及び第1プーリー130よりも径方向の外側の位置で第1円筒部110と同心的に設けられるように構成されている。なお、外向きフランジ部120は、第1円筒部110における軸線方向において第2円筒部140側の端部に設けられている。
【0020】
ダンパー本体200は、金属製のスリーブ210と、スリーブ210と同心的に径方向外側に設けられる金属製の振動リング230と、スリーブ210と振動リング230との間に設けられるゴム状弾性体220とを一体的に有している。スリーブ210は円筒状の部材により構成される。振動リング230の外周面は第2プーリー231により構成されている。環状に設けられるゴム状弾性体220は、スリーブ210の外周面と振動リング230の内周面との間に圧入された状態で設けられている。このゴム状弾性体220は、加硫成形により得られるものである。ゴム状弾性体220の材料として、耐久性,耐熱性及び振動低減効果などに優れたエチレンプロピレンゴム(EPDM)などを好適に用いることができる。
【0021】
以上のように構成されるダンパー本体200は、スリーブ210の内周面が第2円筒部140の外周面に圧入されることでハブ100に固定される。そして、ダンパー本体200は、第2円筒部140に対して、軸線方向において第1円筒部110とは反対側にはみ出した状態でハブ100に固定される。また、ダンパー本体200は、ダンパー本体200が軸線方向において第2円筒部140側から第1円筒部110側に向かって衝撃を受けた際に、第1円筒部110側にスライドし得る状態で、ハブ100に固定される。すなわち、図1に示す通常状態から、ダンパー本体200が図2中矢印X方向に所定以上の衝撃(軸荷重)を受けると、ダンパー本体200は第1円筒部110側に向かってスライドする。
【0022】
ここで、トーショナルダンパー10としての機能を満たすために、各部材の寸法や材料、及び、圧入量(スリーブ210と第2円筒部140とが接する領域における軸線方向の寸法)等については、次のように設定するのが望ましい。すなわち、自動車の通常の運転時に、ダンパー本体200に作用する負荷の範囲内においては、スリーブ210と第2円筒部140との間で摺動しないように設定されるのが望ましい。その一方で、ダンパー本体200に所定以上(例えば、軸線方向の荷重が20kN以上)の衝撃を受けた場合には、スリーブ210と第2円筒部140との間で摺動し、ダンパー本体200が第1円筒部110側に向かってスライドするように設定するのが望ましい。
【0023】
<本実施例に係るトーショナルダンパーの優れた点>
本実施例に係るトーショナルダンパー10によれば、ダンパー本体200が所定以上の衝撃を受けると、第1円筒部110側に向かってスライドする。これにより、衝撃を受けた場合には、トーショナルダンパー10全体を、より狭い領域内に収めることが可能となる。これにより、背景技術で説明したように、クラッシャブルゾーンを設ける必要性などの関係で、衝撃を受けた際に、トーショナルダンパー10を、図2中太い点線L1,L2よりも矢印側に収めることが要求される場合でも、この要求に応えることができる。また、クランクシャフトが備えられるエンジン本体への衝撃を抑制することができる。
【0024】
その一方で、衝撃を受ける前の状態(通常状態)では、ダンパー本体200は第2円筒部140に対して、軸線方向において第1円筒部110とは反対側にはみ出した状態で、ハブ100に固定されている。これにより、ダンパー本体200は、太い点線L1の外側に飛び出している(図1参照)。このような構成により、ダンパー本体200は、トーショナルダンパー10のクランクシャフト20に対する固定部分(第1円筒部110による固定部分)から、より離れた位置に配することができる。これにより、慣性モーメントをより高くすることが可能となる。従って、使用状態において、点線L1,L2よりも矢印側にトーショナルダンパー10全体を配置させる場合に比べて、設計自由度を高くすることができる。これにより、振動吸収効果も十分に発揮させることができる。なお、トーショナルダンパー10においては、クランクシャフト20が共振する周波数の振動が伝わると、振動リング230が振動することによって、クランクシャフト20の共振を抑制する機能を発揮する。本実施例に係るトーショナルダンパー10においては、クランクシャフト20における回転方向(捩じれ方向)の振動に対して、クランクシャフト20の共振を抑制するように、ダンパー本体200は設計されている。
【符号の説明】
【0025】
10 トーショナルダンパー
20 クランクシャフト
30 ボルト
100 ハブ
110 第1円筒部
120 外向きフランジ部
130 第1プーリー
140 第2円筒部
200 ダンパー本体
210 スリーブ
220 ゴム状弾性体
230 振動リング
231 第2プーリー
図1
図2
図3