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  • 特開-化粧シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083087
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20220527BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220527BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/20 Z
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194341
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊瀬谷 隆弘
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20D
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK03A
4F100AK25D
4F100AK51E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100BA10E
4F100CA13A
4F100DD01C
4F100EH23
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ17
4F100EJ54
4F100EJ65E
4F100EJ86
4F100HB00A
4F100HB00B
4F100HB31
4F100JA04A
4F100JA04C
4F100JA07D
4F100JB14D
4F100JB16C
4F100JL10A
4F100JN01C
4F100YY00A
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】エンボス加工時における膜割れを防ぎ、かつ高い耐摩耗性を備える化粧シートを提供すること。
【解決手段】着色フィルム層上に、絵柄印刷層、透明熱可塑性樹脂層、及びトップコート層がこの順に積層された化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボス部が形成されており、前記トップコート層は、電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂及びナノシリカを含み、前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の重量平均分子量は、20000以上50000以下であり、前記ナノシリカの含有量は、前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂に対して1重量%以上40重量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色フィルム層上に、絵柄印刷層、透明熱可塑性樹脂層、及びトップコート層がこの順に積層された化粧シートであって、
前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボス部が形成されており、
前記トップコート層は、電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂及びナノシリカを含み、
前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の重量平均分子量は、20000以上50000以下であり、
前記ナノシリカの含有量は、前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂に対して1重量%以上40重量%以下であることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記エンボス部の深さは、60μm以上160μm以下である請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記トップコート層は、前記エンボス部を加工した後に硬化させて形成された請求項1又は2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記着色フィルム層は、ポリオレフィン系樹脂を含む請求項1から3のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記着色フィルム層の厚さは、50μm以上90μm以下である請求項1から4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記透明熱可塑性樹脂層の厚さは、38μm以上90μm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記着色フィルム層の融点は、前記透明熱可塑性樹脂層の融点より55℃以上高い請求項1から6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンボス模様を施すことにより立体感を付与することを可能にした化粧シートは、深度の大きいエンボスを施すと応力や熱履歴により層間密着が弱くなり、層間剥離を起こしやすくなるという課題があった。
これに対し、化粧シートの接着剤層をマレイン酸変成ポリプロピレン樹脂とエチレン-プロピレン共重合ゴムとに相溶化ゴムを添加したものとすることにより、大深度エンボスを施しても、層間密着性が弱くならない化粧シートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-179024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、深度の大きいエンボスを施す際に、硬いトップコートをエンボス加工前に塗工してしまうと、化粧シートの表面において膜割れが生じるという問題があった。
【0005】
本開示は、エンボス加工時における膜割れを防ぎ、かつ高い耐摩耗性を備える化粧シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る化粧シートは、着色フィルム層上に、絵柄印刷層、透明熱可塑性樹脂層、及びトップコート層がこの順に積層された化粧シートであって、前記透明熱可塑性樹脂層にはエンボス部が形成されており、前記トップコート層は、電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂及びナノシリカを含み、前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の重量平均分子量は、20000以上50000以下であり、前記ナノシリカの含有量は、前記電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂に対して1重量%以上40重量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様に係る化粧シートであれば、エンボス加工時における膜割れを防ぎ、かつ高い耐摩耗性を備える化粧シートを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の第1実施形態に係る化粧シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面に示す構成は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造などが下記のものに限定されるものではない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
<第1実施形態>
(化粧シートの構成)
本開示の第1実施形態に係る化粧シートの基本構成について、図1を用いて説明する。図1は、本開示の第1実施形態に係る化粧シート10の一構成例を説明するための断面図である。
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る化粧シート10は、プライマー層15、着色フィルム層11、絵柄印刷層12、透明熱可塑性樹脂層13、トップコート層14がこの順に積層されている。また、化粧シート10の積層方向の最表層であるトップコート層14には、エンボス部16が賦型されている。以下、各層について詳細に説明する。
【0011】
(着色フィルム層)
着色フィルム層11は、化粧シート10の基材となる層である。本実施形態では、着色フィルム層11として、熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、プロピレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体金属中和物(アイオノマー)等のオレフィン系共重合体樹脂等のポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカーボネート等のポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリアクリルアミド等のアクリル系樹脂、6-ナイロン、6,6-ナイロン、6,10-ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフロロエチレン、エチレン-テトラフロロエチレン共重合体、エチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体等のフッ素系樹脂等或いはそれらの2種以上の混合物、共重合体、複合体、積層体等を使用できる。
【0012】
また、着色フィルム層11には、必要に応じて、例えば、着色剤、充填剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、抗菌剤、防黴剤、減摩剤、光散乱剤及び艶調整剤等の各種の添加剤から選ばれる1種以上の添加剤を添加してもよい。
【0013】
着色フィルム層11の厚さは、50μm以上90μm以下の範囲内であることが好ましい。着色フィルム層11の厚さが50μm以上である場合、隠蔽性や加工性の低下を防ぐことができる。また、着色フィルム層11の厚さが90μm以下である場合、着色フィルム層11を必要以上に厚く形成することがなく、化粧シート10の製造コストを削減することができる。
【0014】
また、着色フィルム層11の融点は、後述する透明熱可塑性樹脂層13の融点より55℃以上高いことが好ましい。これにより、着色フィルム層11がポリオレフィン系樹脂を含む場合に、エンボス加工の際に、紙面温度120℃~130℃において熱伸縮や熱しわの発生を抑制することができ、さらに145℃程度の高熱の温度をかけることが可能となる。
【0015】
(絵柄印刷層)
絵柄印刷層12は、着色フィルム層11上に形成され、意匠性を付与するための絵柄を付加するための層であり、必要に応じて設けられる。絵柄印刷層12は、着色フィルム層11の着色で代用できる場合には、省略も可能である。絵柄印刷層12は、染料又は顔料等の着色剤を適当なバインダ樹脂とともに適当な希釈溶媒中に溶解又は分散してなる印刷インキ又は塗料等を用いて形成される。印刷インキ又は塗料等は、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷等の各種印刷法や、グラビアコート法又はロールコート法等の各種塗工法等によって塗布される。また、バインダ樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化酢酸ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、硝化綿等、或いはそれらの混合物等を用いることができるが、勿論これらに限定されない。また、絵柄としては、任意の絵柄を用いることができ、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、単色無地等、或いはそれらの組み合わせ等を用いることできる。また、化粧シート10の隠蔽性を向上するために、絵柄印刷層12と着色フィルム層11との層間に、二酸化チタンや酸化鉄等の不透明顔料を多く含む不透明な印刷インキや塗料による隠蔽層を設けてもよい。
【0016】
絵柄印刷層12の厚さは、3μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましい。絵柄印刷層12の厚さが3μm以上である場合、印刷を明瞭にすることができる。絵柄印刷層12の厚さが20μm以下である場合、化粧シート10を製造する際の印刷作業性が向上し、かつ製造コストを抑制することができる。
【0017】
また、絵柄印刷層12には、各種機能を付与するために、例えば、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤及び硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
【0018】
また、絵柄印刷層12は、例えば化粧シート10が貼りつけられる下地の色・模様を隠蔽するためにべた塗りされた着色層と意匠性を付与するための絵柄を付加するための絵柄模様層とを有していてよい。
【0019】
(透明熱可塑性樹脂層)
透明熱可塑性樹脂層13は、絵柄印刷層12上に形成される層であり、化粧シート10に衝撃性などの機能を付与するために設けられた層である。また、透明熱可塑性樹脂層13は、絵柄印刷層12とトップコート層14とを接着する接着層としての役割も持っている。
透明熱可塑性樹脂層13の厚さは、38μm以上90μm以下の範囲内であれば好ましい。透明熱可塑性樹脂層13の厚さが上記数値範囲内であれば、エンボスによる凹凸を形成することに支障がないことのほか、耐衝撃性や耐キャスター性において十分な効果が得られる。あるいは、意匠性の面でも、透明熱可塑性樹脂層13の存在が絵柄印刷層12と相俟って、より深みや奥行きを感じさせる効果を持つ。具体的には、透明熱可塑性樹脂層13の厚さが38μm以上であると、耐衝撃性や耐キャスター性の各性能が得られる。一方、透明熱可塑性樹脂層13の厚さが90μm以下であると、製造時の生産性が向上しコスト的にも有利となることがある。
【0020】
透明熱可塑性樹脂層13の材料としては、例えば塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、またポリオレフィン系のポリプロピレン樹脂あるいはポリエチレン樹脂、などを用いることができる。なかでも環境適合性や加工性、価格の点でポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。
上記樹脂のグレードや組成は、そのほかにシーティングの容易さや印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。特に曲げ加工性においては曲げ部の白化や割れが発生しないことを考慮して選択することが重要である。
【0021】
透明熱可塑性樹脂層13は、透明熱可塑性樹脂層13単独の引張り弾性率が1000MPa以上、特に1500MPa以上であれば好ましい。引張り弾性率の上限は特に限定的ではないが、2000MPa程度とすればよい。
【0022】
引張り弾性率は、透明熱可塑性樹脂層13と厚さ及び材質が同じである透明性ポリプロピレン系樹脂シートを作製して測定することができる。なお、本明細書における引張り弾性率は、JIS K6734「プラスチック-硬質ポリ塩化ビニルシート-寸法及び特性-第2部:厚さ1mm未満のシート」の規定に従って測定した値である。
【0023】
透明熱可塑性樹脂層13は、上記透明性ポリプロピレン系樹脂を、例えば、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押し出し法等により透明性接着剤層の上にラミネートしてもよく、また既成のフィルムを用いてもよい。
【0024】
透明熱可塑性樹脂層13の表面であって、後記する表面保護層5を形成する面には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。表面処理は、各処理の常法に従って行えばよい。
【0025】
(トップコート層)
トップコート層14は、透明熱可塑性樹脂層13上に形成される層であり、化粧シート10に耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性などの機能を付与するために設けられた層である。
【0026】
トップコート層14の材料としてはアフターキュア性に優れた高分子の電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂が用いられる。
トップコート層14に用いられる電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量は20000以上50000以下である。アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が20000以上である場合、十分なタックフリー性を備え、上塗り性が向上し、成形時のウォッシュアウトの発生を抑制することができる。すなわち、化粧シートのエンボス形成時における加工性が向上する。ここで、タックフリー性とは、溶剤分を蒸発させただけでべとつきがなくなることを意味している。また、アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が50000以下である場合、ラジカル反応性が向上し、架橋時の硬度が上がらなくなることを防ぐことができる。すなわち、化粧シート全体の耐スクラッチ性を向上させることができる。
また、トップコート層14形成時において、タックフリーで且つ射出成形時に樹脂が流れないようにするために、ガラス転移温度が60℃以上であるアクリロイル基やメタクリロイル基を含有するアクリル樹脂(アクリルアクリレート)を材料とすることが好ましい。
【0027】
このようなアクリルアクリレートは、一般的に、紫外線硬化型樹脂に使用されるオリゴマーやモノマーと比較して、タックフリー性や硬化収縮が少ない等のメリットがある反面、高分子樹脂であるため、紫外線硬化性が劣る傾向にあり、表面硬度が劣ることを補うためにも、ナノシリカ粒子を添加する必要がある。本実施形態において、トップコート層14は、アクリルアクリレート系樹脂に対して、1重量%以上40重量%以下のナノシリカを含有する。ナノシリカの添加量が1重量%以上である場合、十分な硬度を得ることができる。また、ナノシリカの添加量が40重量%以下である場合、耐摩耗性を向上させることができる。なお、平均分子量は、GPC測定でスチレン換算によって算出された値である。
【0028】
トップコート層14の厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましい。トップコート層14の厚さが0.1μm以上である場合、化粧シート10の耐候性、耐傷性等が向上する。また、トップコート層14の厚さが15μm以下である場合、必要以上に多くの量の樹脂材料を使用する必要がなくコストを低減することができる。
【0029】
トップコート層14の形成方法は、まず、トップコート層14の硬化型樹脂の種類に応じて、既知のコーティング装置、熱乾燥装置等を用いてタックフリーの状態にする。そして、後述するエンボス部16を賦型した後に、メタルハライドランプ等を用いて紫外線照射を行い、トップコートを硬化させることでトップコート層14を形成する。エンボス部16を形成した後にトップコート層14を硬化させることにより、エンボス加工によるトップコートの膜割れを防ぐことができる。
【0030】
電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂を硬化させるために用いる電離放射線としては、電離放射線硬化型樹脂(組成物)中の分子を硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子が用いられる。通常は紫外線又は電子線を用いればよいが、可視光線、X線、イオン線等を用いてもよい。
【0031】
紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源が使用できる。紫外線の波長としては、通常、190nm以上380nm以下の範囲が好ましい。
【0032】
電子線源としては、例えば、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、又は直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器が使用できる。その中でも、特に100keV以上1000keV以下の範囲のエネルギーをもつ電子を照射できるものが好ましく、100keV以上300keVのエネルギーをもつ電子を照射できるものがより好ましい。
【0033】
トップコート層14には、必要に応じて、耐侯剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤等の各種添加剤等を含んでもよい。
【0034】
(エンボス部)
化粧シート10の最表層であるトップコート層14の表面に対してエンボス加工(エンボス版を用いた凹凸賦型)を施し、化粧シート10の表面にエンボス部16を賦型(付与)する。化粧シート10は、トップコート層14の表面に賦型されたエンボス部16により、触感による立体感をより感じさせる構成とすることができる。エンボス部16の深さは、60μm以上160μm以下が好ましい。エンボス部16の深さが60μm以上である場合、化粧シート10に立体感を十分に付与することができる。エンボス部16の深さが160μm以下である場合、エンボス部16の深さが化粧シート10の総厚より小さく、エンボス部16が化粧シート10を貫通することがなくなる。
【0035】
エンボス付与方法としては非接触で加熱するヒーターの温度が100~200℃、余熱を与えるロールが70~100℃、加熱状態で表面からエンボス付与後、冷却することで設けることが出来る。エンボス加工では、例えば、トップコート層14と透明熱可塑性樹脂層13との間に形成された導管部の深さまでコートすることにより、化粧シート10に凹凸形状を施すようにしても良い。エンボス部16としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝等がある。
【0036】
(プライマー層)
プライマー層15は、樹脂の接着性を改善することを目的としたアンカーコート層である。また、プライマー層15の機能には、接着性改善のほか、表面処理後の表面安定化、金属表面の防食、粘着性の付与、接着剤の劣化防止等も含まれる。プライマー層15を形成するプライマー(下塗り剤)としては、例えば、二液ウレタン樹脂系のプライマーが使用可能である。プライマーの種類は、被着材や用途に応じて異なる。被着材としては、例えば、金属系又は木質系からなる板状の部材がある。金属系としては、例えば、アルミ、鋼、ステンレス、複合パネル等がある。複合パネルとしては、例えば、芯材となる樹脂層と、樹脂層の両面それぞれに貼り付けられた金属板(アルミニウム、ガルバリウム、ステンレス等)とを備えたものがある。また、木質系としては、MDF(medium density fiberboard:中密度繊維板)、合板、パーチクルボード等がある。
【0037】
<第1実施形態の効果>
本実施形態に係る化粧シート10は、以下の効果を有する。
(1)本実施形態の化粧シート10のトップコート層14は、電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂を含む。
この構成によれば、エンボス加工時に化粧シート10の膜割れを防ぐことができる。
(2)本実施形態の化粧シート10のトップコート層14に含まれる、アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量は20000以上50000以下である。
この構成によれば、化粧シート10の加工性が向上し、また耐スクラッチ性の低下を抑止することができる。
(3)本実施形態の化粧シート10のトップコート層14は、アクリルアクリレート系樹脂に対して1重量%以上40重量%以下のナノシリカを含有する。
この構成によれば、化粧シート10の耐摩耗性を向上させることができる。
【実施例0038】
以下、本開示を実施例によりさらに詳しく説明するが本開示は、実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
着色フィルム層として厚さ50μmのオレフィン素材からなる着色熱可塑性樹脂を用いた。その上に絵柄印刷層として絵柄をグラビア印刷機で印刷して設けた。また、絵柄印刷層上に、透明熱可塑性樹脂層として透明性を有するポリプロピレン樹脂を押出してラミネートした。このとき、透明熱可塑性樹脂層の厚さを38μmとした。その後、透明熱可塑性樹脂層上に、トップコート層として、平均分子量25000の電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂を塗布した。このとき、トップコート層には、電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂に対してナノシリカを20重量%添加した。そして、熱乾燥を行いタックフリーの状態にした後、インライン深エンボス加工を行った。深エンボス加工後に、メタルハライドランプを用いて紫外線照射を行い、トップコートを硬化させた。最後に、着色フィルム層の絵柄印刷層と反対側の面に、二液ウレタン樹脂系のプライマーを乾燥後の坪量1.2g/mで塗工して、プライマー層を形成した。
以上により、実施例1の化粧シートを作製した。
【0039】
<実施例2>
電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量を20000に変更した。また、ナノシリカの添加量を1重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例2の化粧シートを作製した。
【0040】
<実施例3>
ナノシリカの添加量を20重量%に変更した。それ以外は実施例2と同様の方法で、実施例3の化粧シートを作製した。
【0041】
<実施例4>
ナノシリカの添加量を40重量%に変更した。それ以外は実施例2と同様の方法で、実施例4の化粧シートを作製した。
【0042】
<実施例5>
ナノシリカの添加量を1重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例5の化粧シートを作製した。
【0043】
<実施例6>
ナノシリカの添加量を40重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例6の化粧シートを作製した。
【0044】
<実施例7>
電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量を50000に変更した。また、ナノシリカの添加量を1重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例7の化粧シートを作製した。
【0045】
<実施例8>
ナノシリカの添加量を20重量%に変更した。それ以外は実施例7と同様の方法で、実施例8の化粧シートを作製した。
【0046】
<実施例9>
ナノシリカの添加量を40重量%に変更した。それ以外は実施例7と同様の方法で、実施例9の化粧シートを作製した。
【0047】
<実施例10>
着色フィルム層の厚さを45μmに変更した。それ以外は実施例3と同様の方法で、実施例10の化粧シートを作製した。
【0048】
<実施例11>
着色フィルム層の厚さを150μmに変更した。それ以外は実施例3と同様の方法で、実施例11の化粧シートを作製した。
【0049】
<実施例12>
透明熱可塑性樹脂層の厚さを25μmに変更した。それ以外は実施例3と同様の方法で、実施例12の化粧シートを作製した。
【0050】
<実施例13>
透明熱可塑性樹脂層の厚さを150μmに変更した。それ以外は実施例3と同様の方法で、実施例13の化粧シートを作製した。
【0051】
<比較例1>
電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量を15000に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、比較例1の化粧シートを作製した。
【0052】
<比較例2>
ナノシリカの添加量を0.5重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、比較例2の化粧シートを作製した。
【0053】
<比較例3>
ナノシリカの添加量を41重量%に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、比較例3の化粧シートを作製した。
【0054】
<比較例4>
電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量を100000に変更した。それ以外は実施例1と同様の方法で、比較例4の化粧シートを作製した。
【0055】
<評価方法>
上述した実施例1~13、比較例1~4で得られた化粧シートについて、次の評価を実施した。
〔加工性評価〕
実施例1~13、比較例1~4で得られた化粧シートについて、深エンボスを施した後に、エンボス加工を行ったロール表面を目視にて確認し、以下の〇、△、×の3段階で評価した。
<評価基準>
○:トップコート層を構成する材料がロール表面に貼りつかなかった場合
△:加工条件によりトップコート層を構成する材料がロール表面に貼りついた場合
×:トップコート層を構成する材料がロール表面に貼りついた場合
【0056】
〔外観評価〕
実施例1~13、比較例1~4で得られた化粧シートのトップコートにおいて、膜割れの発生の有無について目視にて確認し、以下の○、×の2段階で評価した。
<評価基準>
○:膜割れが発生している場合
×:膜割れが発生していない場合
【0057】
〔耐摩耗性評価〕
実施例1~13、比較例1~4で得られた化粧シートを欧州規格「EN 13329」のAnnex Eに準拠して耐摩耗テストを行い、以下の◎、〇、×の3段階で評価した。
<評価基準>
◎:1400より多く回転しても絵柄の摩耗がない場合
○:1200より多く回転しても絵柄の摩耗がないが、1400以上回転すると絵柄が摩耗する場合
×:1200以上回転すると絵柄が摩耗する場合
【0058】
〔耐スクラッチ評価〕
実施例1~13、比較例1~4で得られた化粧シートを欧州規格「EN 16094」のClass32に準拠して耐スクラッチ試験を行った。2種類の試験方法すなわちMSR-A3とMSR-B3との試験に対する、それぞれ1~5までの試験結果を用いて、以下の◎、〇、×の3段階で評価した。
<評価基準>
◎:評価が4以上である場合
○:評価が3である場合
×:評価が2以下である場合
以上の評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中に表されるように、実施例1から13、比較例1の評価結果から、実施例1から13のように電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が25000以上である場合には、比較例1のように電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が25000より少ない場合と比べて加工性が高いことがわかった。
【0061】
また、実施例1から13、比較例2,3の評価結果から、実施例1から13のようにトップコート層のナノシリカの添加量が1重量%以上40重量%以下である場合には、比較例2,3のようにトップコート層のナノシリカの添加量が1重量%より少ない、もしくは40重量%を超える場合と比べて耐スクラッチ性が高いことがわかった。
【0062】
また、実施例1から13、比較例4の評価結果から、実施例1から13のように電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が50000以下である場合には、比較例4のように電離放射線硬化型アクリルアクリレート系樹脂の平均分子量が50000を超える場合と比べて耐スクラッチ性が高いことがわかった。
【0063】
なお、本開示の化粧シートは、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10:化粧シート
11:着色フィルム層
12:絵柄印刷層
13:透明熱可塑性樹脂層
14:トップコート層
15:プライマー層
16:エンボス部
図1