(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083101
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造
(51)【国際特許分類】
B68G 7/052 20060101AFI20220527BHJP
A47C 31/02 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
B68G7/052 A
A47C31/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194361
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】591285789
【氏名又は名称】株式会社高畑
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 雅彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製造コストが上昇することなく作業性が良好な吊り込み部材を提供する。
【解決手段】吊り込み部材は、シートのクッションパッドに表皮32を吊り込む部材であって、表皮32の端部に沿って設けられる線状の吊り部材200と、線状の長手方向に沿って、インナーワイヤ300と、インナーワイヤ300を保持するワイヤ保持部および吊り部材200を係止させる係止部を備えた保持係止部材400とから構成される。ワイヤ保持部によりインナーワイヤ300が保持された複数の保持係止部材400が長手方向に間隔を空けて連結されて、間隔を空けた各保持係止部材400が吊り部材200を係止して表皮32を吊り込む。保持係止部材400の係止部は、係止された吊り部材200が係止部から抜けることを防止するとともに、係止された吊り部材200が係止部内で揺らぐことを防止する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションパッドに表皮を吊り込む吊り込み部材であって、
前記表皮の端部に沿って設けられる線状の吊り部材と、
前記線状の長手方向に沿って、前記クッションパッド内に設けられるインナーワイヤと、
前記インナーワイヤを保持するワイヤ保持部および前記吊り部材を係止させる係止部を備えた保持係止部材と、
を含み、
前記ワイヤ保持部により前記インナーワイヤが保持された複数の前記保持係止部材が前記長手方向に間隔を空けて連結されて、前記間隔を空けた各前記保持係止部材が前記吊り部材を係止し、
前記係止部は、
前記係止された前記吊り部材が前記係止部から抜けることを防止する抜け防止部と、
前記係止された前記吊り部材が前記係止部内で揺らぐことを防止する揺らぎ防止部と、
を含む、吊り込み部材。
【請求項2】
前記吊り部材の断面形状は、丸みを帯びた略V字形状で、開口側が前記略V字よりも緩やかな曲線または直線で閉じられた形状を備えるとともに、前記略V字の開口側で前記表皮が挟持され、
前記保持係止部材は、前記吊り部材が接近する方向から順に、前記係止部の抜け防止部、前記係止部の揺らぎ防止部、前記ワイヤ保持部を備え、
前記抜け防止部の断面形状は、前記緩やかな曲線または直線の部分を係止する係止内面を備えるとともに、前記吊り部材の先端を誘導する形状の傾斜外面を備え、
前記揺らぎ防止部の断面形状は、前記吊り部材が前記ワイヤ保持部側へ進行すると前記吊り部材の外表面が当接して進行を阻止する丸みを帯びた突起部を備える、請求項1に記載の吊り込み部材。
【請求項3】
前記インナーワイヤの両端には、樹脂製のカバーが設けられる、請求項1または請求項2に記載の吊り込み部材。
【請求項4】
前記吊り部材および前記保持係止部材は樹脂製であって、前記保持係止部材の係止部は可撓性を備える、請求項1~請求項3のいずれかに記載の吊り込み部材。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の吊り込み部材を用いたシートの吊り込み構造であって、
前記クッションパッドに形成された吊り込み用の溝部における前記クッションパッド内部に、前記インナーワイヤと、前記長手方向に間隔を空けた複数の前記保持係止部材のワイヤ保持部とが設けられ、
前記溝部に、前記複数の保持係止部材の係止部が設けられ、
前記溝部に前記表皮が差し込まれ、前記表皮側の端部に沿って設けられた前記吊り部材が前記係止部により係止された、吊り込み構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用途等のシートのクッションパッド(クッション材)表面を被覆する表皮(シートカバー、トリムカバー)の吊り込み構造に関し、特に、表皮側に設けられる吊り部材およびその吊り部材を保持するためにクッションパッド側に設けられる保持係止部材(吊り部材と保持係止部材とインナーワイヤとを含めて吊り込み部材と記載する場合がある)ならびにそれらを用いたシートの吊り込み構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用途等のシートのカバーリングにおけるメイン部の固定方法として、シートの表皮裏面やパッドに結束されたCリングに対し吊り込みワイヤを通して表皮の吊り込みを行う吊り込み方法や、トリムゴムを表皮裏面等に結束されたCリングに通すトリムゴム方法や、面ファスナーに表皮を貼り付ける面ファスナー方法などが広く採用されている。これらにおける吊り込み方法においては、座席形状にモールド加工した発泡体クッション材(クッションパッド)に対してトリムカバー(表皮)を取り付けるための構造として、クッション材に溝状の吊り込み部を形成し、この吊り込み部にトリムカバーの一部を差し込み、クッション材に締結してトリムカバーを吊り込む構造が多く利用されている。
【0003】
このような吊り込み構造として、特許第5665115号公報(特許文献1)は、トリムカバー(シートカバー)の裏面に吊り布(吊り袋)を縫い付けておき、この吊り布と、クッション材に埋め込んだワイヤー(シートバックワイヤー)とをCリングでホグリング止めすることによって吊り込む、シートカバー取付構造を開示する。
この特許文献1に開示されたシートカバー取付構造においてはトリムカバーの裏面に吊り布を縫製する必要があることに鑑みて、特開2016-202673号公報(特許文献2)は、このような吊り布を縫製する手間とコストとを削減するシートの吊り込み構造を開示する。特許文献2に開示されたシートの吊り込み構造は、シートを構成するシート部材に対してトリムカバーを吊り込み支持するシートの吊り込み構造において、前記トリムカバーの表面側に配置された吊り込み用の線状吊り部材と、前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に差し込まれた状態の前記線状吊り部材を前記シート部材に留め付ける留付部材と、を有することを特徴とする。
【0004】
さらに、特許文献2に開示されたシートの吊り込み構造においては工具を使用する必要があることに鑑みて、特開2017-006601号公報(特許文献3)は、工具を使用しなくても吊り込み作業が可能なシートの吊り込み構造を開示する。特許文献3に開示されたシートの吊り込み構造は、シートを構成するシート部材に対してトリムカバーを吊り込み支持するシートの吊り込み構造において、前記トリムカバーの表面側に配置された吊り込み用の線状吊り部材と、前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に差し込まれた状態の前記線状吊り部材を係止させる可撓性のある係止部を有し、この線状吊り部材を前記シート部材に留め付ける樹脂製の留付部材と、を有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5665115号公報
【特許文献2】特開2016-202673号公報
【特許文献3】特開2017-006601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これらの特許文献2および特許文献3に開示されたシートの吊り込み構造は、特許文献1に開示されたシートカバー取付構造に対して、トリムカバーに吊り布を縫製する必要がない点で有利としても、線状吊り部材はトリムカバーの表面側に配置され、さらにトリムカバーの表面側で包み込まれてしまい直接視覚で確認することができないために線状吊り部材を留付部材によってシート部材に留め付ける作業性が好ましくない。一方、特許文献1に開示されたシートカバー取付構造および特許文献2のシート吊り込み構造においてはCリングを用いてホグリングしているために工具が必要となったり、特許文献1の
図5に示すようにシートバックワイヤ(インナーワイヤ)の両端部をカール加工させる必要があったり、特許文献2および特許文献3の
図2に示すように線状吊り部材の両端を作業時に扱いやすく、かつ、長手方向に動きにくくするために両端部を丸める(カール)加工させる必要があったりするという問題点がある。
【0007】
これらの問題点を踏まえると、Cリングならびに両端を丸め加工したインナーワイヤおよび線状吊り部材を用いるのではなく、線状吊り部材を直接視覚で確認できるようにトリムカバーの端部に沿って線状吊り部材を設けて、特許文献3に開示されるような係止部を備えた留付部材に線状吊り部材を係止させて、シートを吊り込むことが考えられる。
しかしながら、トリムカバーとともに(トリムカバーを巻き込んで)線状吊り部材を留付部材の係止部に係止させる場合に対して、(トリムカバーを巻き込むことなく)線状吊り部材のみを留付部材の係止部に係止させた場合には、線状吊り部材が留付部材の係止部から抜け出したり、留付部材の係止部から抜け出さないとしても係止部は(トリムカバーを巻き込むことなく)線状吊り部材のみしか係止していないのでガタついて係止部内で線状吊り部材が揺れたりするという問題点が発生し得る。また、これらの問題点を解決するために、線状吊り部材を留付部材の係止部に係止する余裕寸法を小さくすると、線状吊り部材を留付部材の係止部に係止するときの作業性が低下する。
【0008】
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、自動車用途等のシートのクッションパッドに表皮を吊り込む作業性が良好で(少なくとも作業工数が増加することなく)、かつ、この吊り込み部材の製造コストが上昇することを抑制することのできる、吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造は以下の技術的手段を講じている。
すなわち、本発明のある局面に係る吊り込み部材は、クッションパッドに表皮を吊り込む吊り込み部材であって、前記表皮の端部に沿って設けられる線状の吊り部材と、前記線状の長手方向に沿って、前記クッションパッド内に設けられるインナーワイヤと、前記インナーワイヤを保持するワイヤ保持部および前記吊り部材を係止させる係止部を備えた保持係止部材と、を含み、前記ワイヤ保持部により前記インナーワイヤが保持された複数の前記保持係止部材が前記長手方向に間隔を空けて連結されて、前記間隔を空けた各前記保持係止部材が前記吊り部材を係止し、前記係止部は、前記係止された前記吊り部材が前記係止部から抜けることを防止する抜け防止部と、前記係止された前記吊り部材が前記係止部内で揺らぐことを防止する揺らぎ防止部と、を含む。
【0010】
好ましくは、前記吊り部材の断面形状は、丸みを帯びた略V字形状で、開口側が前記略V字よりも緩やかな曲線または直線で閉じられた形状を備えるとともに、前記略V字の開口側で前記表皮が挟持され、前記保持係止部材は、前記吊り部材が接近する方向から順に、前記係止部の抜け防止部、前記係止部の揺らぎ防止部、前記ワイヤ保持部を備え、前記抜け防止部の断面形状は、前記緩やかな曲線または直線の部分を係止する係止内面を備えるとともに、前記吊り部材の先端を誘導する形状の傾斜外面を備え、前記揺らぎ防止部の断面形状は、前記吊り部材が前記ワイヤ保持部側へ進行すると前記吊り部材の外表面が当接して進行を阻止する丸みを帯びた突起部を備える。
【0011】
さらに好ましくは、前記インナーワイヤの両端には、樹脂製のカバーが設けられるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記吊り部材および前記保持係止部材は樹脂製であって、前記保持係止部材の係止部は可撓性を備えるように構成することができる。
本発明の別の局面に係るシートの吊り込み構造は、上述したいずれかに記載の吊り込み部材を用いたシートの吊り込み構造であって、前記クッションパッドに形成された吊り込み用の溝部における前記クッションパッド内部に、前記インナーワイヤと、前記長手方向
に間隔を空けた複数の前記保持係止部材のワイヤ保持部とが設けられ、前記溝部に、前記複数の保持係止部材の係止部が設けられ、前記溝部に前記表皮が差し込まれ、前記表皮側の端部に沿って設けられた前記吊り部材が前記係止部により係止されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、自動車用途等のシートのクッションパッドに表皮を吊り込む作業性が良好で(少なくとも作業工数が増加することなく)、かつ、この吊り込み部材の製造コストが上昇することを抑制することのできる、吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態に係る吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造が適用されるシートを示す図である。
【
図2】(A)本発明の実施の形態に係る吊り込み部材を用いたシートの吊り込み構造を説明するための図であって、(B)
図2(A)と比較するためのCリングを用いた従来のシートの吊り込み構造を説明するための図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る、(A)表皮の端部に沿って設けられる線状の吊り部材を示す斜視図であって、(B)吊り込み部材を構成するインナーワイヤで接続された複数の保持係止部材を示す斜視図であって、(C)保持係止部材が吊り部材を係止した状態を示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態に係る、(A)表皮の端部に沿って設けられる線状の吊り部材の断面形状を示す図であって、(B)吊り込み部材を構成する保持係止部材の係止部の断面形状を示す図であって、(C)保持係止部材が吊り部材を係止した状態の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る吊り込み部材100およびその吊り込み部材100を用いたシートの吊り込み構造500について、吊り込み部材100および吊り込み構造500が適用される一例であるシート10を示す
図1、吊り込み部材100を用いた吊り込み構造500を説明するための
図2(A)、
図2(A)と比較するためのCリングを用いた従来のシートの吊り込み構造を説明するための
図2(B)、表皮(シートカバー、トリムカバーと記載する場合がある)32の端部に沿って設けられる吊り部材200を示す斜視図を示す
図3(A)、インナーワイヤ300で接続された複数の保持係止部材400を示す斜視図を示す
図3(B)、保持係止部材400が吊り部材200を係止した状態を示す斜視図を示す
図3(C)、表皮32の端部に沿って設けられる吊り部材200の断面形状を示す
図4(A)、保持係止部材400の断面形状を示す
図4(B)、保持係止部材400が吊り部材200を係止した状態の断面形状を示す
図4(C)、および、
図4(C)の拡大図である
図5を参照して、詳しく説明する。
[好適に適用されるシート]
本実施の形態に係る吊り込み部材100およびその吊り込み部材100を用いたシートの吊り込み構造500を説明するにあたり、これらの吊り込み部材100および吊り込み構造500が好適に適用される、主として自動車(以下において車両と記載する場合がある)用途のシート10について、
図1を参照して簡単に説明する。なお、本発明に係る吊り込み部材100およびその吊り込み部材100を用いたシートの吊り込み構造500が、自動車用途のシートに限定されて適用されるものではない。
【0015】
図1(A)にシート10の外観斜視図を、
図1(B)に背もたれ30の分解斜視図を、それぞれ示す。このシート10は、車両のフロアパネル上で前後に移動可能な座20と、座20に対してリクライニング可能な背もたれ30とを備える(ヘッドレストはシート10に含めていない)。座20および背もたれ30は、それぞれ、シート10を構成するシート部材であり、発泡体からなるクッション材を備え、そのクッション材に本実施の形態に係る吊り込み部材100を用いたシートの取付構造500が適用されて表皮(シートカバー、トリムカバー)32が着脱(係止および離脱)可能に設けられている。
図1(B)に示すように、背もたれ30はクッション材34を備え、そのクッション材34に本実施の形態に係る吊り込み部材100を用いたシートの取付構造500が適用されて表皮(シートカバー、トリムカバー)32が着脱可能に設けられている。このように、座20および背もたれ30には、本実施の形態に係る吊り込み部材100を用いたシートの取付構造500が適用されてトリムカバーの着脱が可能となっている。
【0016】
ここで、背もたれ30を一例に挙げて説明すると、背もたれ30を構成するクッション材は、乗員の背中を後方から支持するためのメインクッション部と、乗員の背中を横から保持するためのサイドクッション部とを有しているものが一般的である。
次に、
図1および
図2(A)を参照して、吊り込み構造500について説明する。吊り込み構造500は、吊り込み溝36、線状の吊り部材(以下において線状吊り部材と記載する場合やサスペンダーと記載する場合がある)200、インナーワイヤ300、保持係止部材(クリップと記載する場合がある)400で構成される。
【0017】
吊り込み溝36は、メインクッション部とサイドクッション部の境界部分に沿って背もたれ30の縦方向に所定の深さに形成された凹部からなるもので、シート10の外観を形成する。通常時、凹部は、クッション材34の弾力によってメインクッション部とサイドクッション部との間で圧迫され塞がった状態となるが、便宜上、
図1~
図5においては理解しやすいように拡がった状態の凹部を示している。
【0018】
なお、背もたれ30には、上述した吊り込み溝36のほかに、横方向(背もたれ30の幅方向)に沿って延びる吊り込み溝38がさらに設けられ、また、座20にも吊り込み溝が設けられているが、本実施の形態においては上述したように縦方向に形成された凹部からなる吊り込み溝36を例に説明することとする。
インナーワイヤー300は、背もたれ20のクッション材34の内部であって、吊り込み溝36を形成する凹部の底から所定量深い部分に埋設されている。この所定量は、保持係止部材400で、インナーワイヤー300を保持して、かつ、線状吊り部材200を係止する際に、保持係止部材400のサイズ等を考慮して適宜設定される。
[吊り込み部材]
この吊り込み部材100は、クッションパッド(クッション材)34に表皮32を吊り込む部材である。この吊り込み部材100は、大きくは3つの部品から構成され、表皮32の端部に沿って設けられる線状の吊り部材200と、線状の長手方向(
図3参照)に沿って、クッションパッド34内に設けられるインナーワイヤ300と、インナーワイヤ300を保持するワイヤ保持部450および吊り部材200を係止させる係止部410を備えた保持係止部材400とから構成される。そして、
図3(A)に示すようにワイヤ保持部450によりインナーワイヤ300が保持された複数の保持係止部材400が長手方向に間隔を空けて連結されて、
図3(C)に示すように間隔を空けた各保持係止部材400が吊り部材200を係止して表皮32を吊り込む。ここで、保持係止部材400の係止部410は、係止された吊り部材200が係止部410から抜けることを防止する抜け防止部412と、係止された吊り部材200が係止部410内で揺らぐことを防止する揺らぎ防止部414とを含むものである。
【0019】
さらに詳しくは、
図4(B)および
図4(C)ならびに
図5に示すように、この吊り部材200の断面形状は、丸みを帯びた(ここでは曲線214で形成された)略V字形状で、開口側(直線212側)が略V字(曲率R(Rは一定とは限らない)で示される曲線214側)よりも緩やかな曲線または直線(ここでは直線212)で閉じられた形状を備えるとともに、略V字の開口側(直線212側)で表皮32が挟持されている。保持係止部材400は、吊り部材200が接近する方向(図における黒塗り矢示の方向)から順に、係止部410の抜け防止部412、係止部410の揺らぎ防止部414、ワイヤ保持部450を備える。そして、抜け防止部412の断面形状は、緩やかな曲線または直線(ここでは直線212)の部分を係止する係止内面412Bを備えるとともに、吊り部材200の先端218を誘導する形状の傾斜外面412Aを備える。一方、揺らぎ防止部414の断面形状は、吊り部材200がワイヤ保持部450側へ進行すると(吊り部材200が図における白抜き矢示の方向に進行すると)吊り部材200の外表面(ここでは曲率R(Rは一定とは限らない)の曲線214で形成される外表面)が当接してその進行を阻止する丸みを帯びた突起部414Aを備える。
【0020】
さらに詳しくは、インナーワイヤ300の両端には、樹脂製のカバー320が設けられている。この樹脂製のカバー320は、インナーワイヤ本体310と一体成型される。このため、ワイヤ本体310の両端を曲げ(カール)加工する必要がなくなる。
さらに詳しくは、吊り部材200および保持係止部材400は樹脂製であって、保持係止部材400の係止部410は可撓性を備える。このように、互いに係止される吊り部材200および保持係止部材400が樹脂製であって馴染みが良好で係止および離脱しやすい。さらに、係止部410が可撓性を備えるために、この係止部410(抜け防止部412を形成する一対の係止爪の部分)を撓ませ変形させることにより吊り部材200を容易に係止および離脱させることができる。このような樹脂製の係止部410を変形させる作業は素手でも行なうことができるものであり、工具を使わずとも吊り込み作業あるいは表皮(シートカバー、トリムカバー)32を取り外す作業をすることを可能とする。このように、係止部410の抜け防止部412を形成する一対の係止爪の部分は、吊り部材200を係止させる部分で可撓性を備え、これら一対の係止爪により吊り部材200を挟み込み係止する。
【0021】
なお、吊り込み部材の素材(材質)については、保持係止部材400が可撓性を備えた樹脂製であることが好ましいことに加えて、吊り部材200については、樹脂製ではなく鉄、アルミニウムといった金属製でもよいし、ゴム製などであってもよいが、本実施の形態においては上述した通りポリプロピレン、ポリエチレンといった樹脂製であるとして説明する。また、インナーワイヤ300のワイヤ本体310については、従来と同じく金型に設けた磁石により位置決めしてインサート成形することによりクッション材を製造するという工程を踏襲することによりクッション材の製造工程における作業性を低下させないために、磁性体(磁石)に反応する金属製であることが好ましい。
【0022】
図5を参照して、吊り込み部材100を構成する保持係止部材400のワイヤ保持部450について詳しく説明する。
保持係止部材400のワイヤ保持部450として、インナーワイヤ300のワイヤ本体310を挟持して保持できる直径のワイヤ保持穴452が長手方向に貫くように設けられている。このワイヤ保持穴452にワイヤ本体310を挿入して嵌めることにより、ワイヤ保持部450にインナーワイヤ300のワイヤ本体310が挟持されて保持される。なお、このワイヤ保持穴452の直径は、保持係止部材400がワイヤ本体310上をその長手方向に移動可能なほどに大きくすると、吊り込み作業時に保持係止部材400の位置が設計位置からずれてしまうので好ましくない。なお、
図3(B)に示す状態で、より詳しくはワイヤ保持部450によりインナーワイヤ300が保持された複数の保持係止部材400が長手方向に間隔を空けて連結された状態で、ウレタン発泡用の金型に設けられた磁石によりインナーワイヤ300(ここではワイヤ本体310は磁性体(磁石)に反応する金属製とする)が位置決めされて、金型内でウレタンが発泡されて、インナーワイヤ300がインサート成形で埋め込まれる。この点で、従来のシートのクッション材の製造工程となんら変わりはなく、クッション材の製造時の作業性が低下するものではない。
【0023】
すなわち、クッション材の発泡工程を簡単に説明すると、(1)金型に離型剤を塗布して、(2)副資材として、裏打ち材に加えて、
図3(B)に示す状態であるワイヤ保持部450によりインナーワイヤ300が保持された複数の保持係止部材400が長手方向に間隔を空けて連結された状態のインナーワイヤ300および保持係止部材400を金型に設けられた磁石により位置決めして金型内にセットして、(3)ウレタン原料を金型内に投入して、(4)金型を閉めてウレタン原料を発泡させて、(5)金型を開いてインナーワイヤ300および保持係止部材400がインサート成形されたクッション材を取り出す。このようなクッション材の発泡工程は、従来の発泡工程となんら変わりはなく、クッション材の製造時の作業性が低下するものではない。
【0024】
次に、
図5を参照して、吊り込み部材100を構成する保持係止部材400の係止部410の抜け防止部412による吊り部材200の抜け防止機能、係止部410の揺らぎ防止部414による吊り部材200の揺らぎ防止機能について、詳しく説明する。
上述したように、
・吊り部材200の断面形状は、丸みを帯びた(ここでは曲線214で形成された)略V字形状で、開口側(直線212側)が略V字(曲線214側)よりも緩やかな曲線または直線(ここでは直線212)で閉じられた形状を備え、
・抜け防止部412(一対の係止爪の部分)の断面形状は、緩やかな曲線または直線(ここでは直線212)の部分を係止する係止内面412Bを備えるとともに、吊り部材200の先端218を誘導する形状の傾斜外面412Aを備え、
・揺らぎ防止部414の断面形状は、吊り部材200がワイヤ保持部450側へ進行すると(吊り部材200が図における白抜き矢示の方向に進行すると)吊り部材200の外表面(ここでは曲線214で形成される外表面)が当接してその進行を阻止する丸みを帯びた突起部414Aを備える。
【0025】
従来の保持係止部材400の係止部410の抜け防止部412の係止内面412Bは、
図4および
図5に点線で示すような(または
図4および
図5の水平方向の直線のような)吊り部材200の断面形状における開口側(直線212側)の曲線または直線(ここでは直線212)に合致しない形状であった。これに対して、本実施の形態においては、吊り部材200の緩やかな曲線または直線(ここでは直線212)の部分の形状と一致してそこを係止する係止内面412Bを、保持係止部材400の係止部410の抜け防止部412が備える。このため、保持係止部材400の係止部410に一旦係止された吊り部材200が抜けることを極めて有効に防止することができる。
【0026】
さらに、従来の保持係止部材400の係止部410の係止空間414Sには、
図4および
図5に示すような、揺らぎ防止部414が形成されていなかった。これに対して、本実施の形態においては、吊り部材200がワイヤ保持部450側へ進行すると(吊り部材200が図における白抜き矢示の方向に進行すると)吊り部材200の外表面(ここでは曲率R(Rは一定とは限らない)の曲線214で形成される外表面)が当接してその進行を阻止する丸みを帯びた突起部414Aを備える。このため、保持係止部材400の係止部410に一旦係止された吊り部材200が揺らぐことを極めて有効に防止することができる。
【0027】
特に、
図5に示す距離L(1)および距離L(2)ならびに吊り部材200の外表面(曲線214で形成される外表面)における曲率R(Rは一定とは限らない)を含む形状を適宜設定することにより、抜け防止機能を最大限に発現しながら、揺れを最小に抑制することができる。たとえば、L(1)=0のときにL(2)が僅かな値を備えることにより、抜け防止機能を最大限に発現しながら、揺れを最小に抑制することができる。なお、この場合において、吊り部材200を保持係止部材400へ係止させる作業性と、吊り部材200を保持係止部材400から離脱させる作業性とが低下しないように設定することは言うまでもない。
[吊り込み構造および吊り込み方法]
以上のような構成を備えた吊り込み部材100を用いたシートの吊り込み構造500および吊り込み方法について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0028】
この吊り込み構造500は、上述したように、クッションパッド34に形成された吊り込み用の溝部(吊り込み溝36)におけるクッションパッド34の内部に、インナーワイヤ300と、長手方向に間隔を空けた複数の保持係止部材400のワイヤ保持部450とが設けられ、溝部(吊り込み溝36)に、複数の保持係止部材400の係止部410が設けられ、溝部(吊り込み溝36)に表皮32が差し込まれ、表皮32側の端部に沿って設けられた吊り部材200が係止部410により係止された構造を備える。
【0029】
図2(A)にその断面を示すこのような吊り込み構造500は、
図2(B)に示す吊り部材201、インナーワイヤ301およびCリング401を用いた従来の吊り込み構造に比較して、工具が不要であったり、組付け工数が少なく(以下に示す吊り込み方法のように)作業性が好ましい。
なお、本実施の形態に係る吊り込み部材100を用いることにより、インナーワイヤの
両端部をカール加工させる作業も不要となる。さらに、保持係止部材400の長手方向の大きさを従来のクリップに比較して容易に小さくすることができるので、予め曲げておいたインナーワイヤに追従させやすくなりシートデザインの細かなカーブ形状にも容易に対応することができる。
【0030】
さらに、シートの吊り込み方法(吊り込み手順)について、以下に簡単に説明する。
まず、表皮32の端部に沿って線状の吊り部材200を設ける。吊り部材200を表皮32とともに、
図3および
図4に示す黒塗り矢示方向に移動させて、吊り込み溝36に差し込む。
このとき、インナーワイヤ300および保持係止部材400は、インサート成形により、ワイヤ保持部450によりインナーワイヤ300が保持された複数の保持係止部材400が長手方向に間隔を空けて連結された
図3(B)に示す状態で、インナーワイヤ300のワイヤ本体310と樹脂製のカバー320とはクッション材34の内部であって、吊り込み溝36を形成する凹部の底から所定量深い部分に埋設されており、溝部(吊り込み溝36であってクッション材34の内部ではない部分)に、複数の保持係止部材400の係止部410が設けられている。この状態で、溝部(吊り込み溝36)に吊り部材200が表皮32とともに差し込まれ、表皮32側の端部に沿って設けられた吊り部材200が係止部410により係止される。
【0031】
同様にして、他の所定箇所においても保持係止部材400により吊り部材200を係止する作業を繰り返す。以上の作業により、吊り部材200を保持係止部材400の係止部410に係止して、表皮32を背もたれ30に吊り込むという吊り込み作業を終了して、本発明に係る吊り込み構造を実現することができる。
なお、表皮32を取り外す際の作業手順としては、上述した吊り込み方法の逆手順になる。
【0032】
この場合において、特許文献3に開示されたシートの吊り込み方法においては、樹脂クリップ(本願における保持係止部材400に相当)により線状吊り部材(本願における吊り部材200に相当)とインサートワイヤー(本願におけるインナーワイヤ300に相当)を締結する際は、線状吊り部材を樹脂クリップの係止部に係止させる作業と、樹脂クリップのファスニング部をインサートワイヤーに引っ掛ける作業との両方の作業を必要とするが、本発明に係る吊り込み構造における吊り込み方法においては吊り部材200を保持係止部材400の係止部410により係止する1つの作業だけでよく、しかも、その1つの作業のみで、保持係止部材400の係止部410の抜け防止部412による吊り部材200の抜け防止機能、係止部410の揺らぎ防止部414による吊り部材200の揺らぎ防止機能が発現されるものである。
【0033】
以上のようにして、本実施の形態に係る吊り込み部材およびそれを用いたシートの吊り込み構造によると、自動車用途等のシートのクッションパッドに表皮を吊り込む作業性が良好で(少なくとも作業工数が増加することなく)、かつ、この吊り込み部材の製造コストが上昇することを抑制することができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、自動車用途等のシートのクッションパッド(クッション材)表面を被覆する表皮(シートカバー、トリムカバー)の吊り込み構造に好ましく、作業性が良好で(少なくとも作業工数が増加することなく)、かつ、この吊り込み構造に用いる吊り込み部材の製造コストが上昇することを抑制することができるに特に好ましい。
【符号の説明】
【0035】
10 シート
100 吊り込み部材
200 吊り部材
300 インナーワイヤ
400 保持係止部材
500 (吊り込み部材100を用いたシートの)吊り込み構造