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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083119
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】一本歯式下駄
(51)【国際特許分類】
   A43B 3/00 20220101AFI20220527BHJP
【FI】
A43B3/00 102E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194389
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】500458088
【氏名又は名称】株式会社菱屋
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】廣田 裕宣
【テーマコード(参考)】
4F050
【Fターム(参考)】
4F050AA19
4F050BB24
4F050HA58
4F050LA07
(57)【要約】
【課題】本発明は、歩行性及び耐久性に優れ、静止時・歩行時にマッサージ効果等、健康増進効果をも有する樹脂製一本歯式下駄を提供することを目的とする。
を提供する。
【解決手段】 本樹脂製一本歯式下駄では、天面で足裏全体を担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、前記台の底面の前後方向中央近傍の所定範囲内の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯と、一本形状部材の両端を前記台の後穴で固定し、略中央部を略V字状に折り曲げて足甲の上に配設する鼻緒と、鼻緒の折り曲げられた略中央部を一端側の環状部に通し、他端側を前記台の前穴に挿入固定して、親指と人差し指との間に挟まれる前坪とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天面で足裏全体を担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、
前記台の底面の前後方向中央近傍の所定範囲内の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯と、
一本形状部材の両端を前記台の後穴で固定し、略中央部を略V字状に折り曲げて足甲の上に配設する鼻緒と、
該鼻緒の折り曲げられた略中央部を一端側の環状部に通し、他端側を前記台の前穴に挿入固定して、親指と人差し指との間に挟まれる前坪とを備える、樹脂製一本歯式下駄。
【請求項2】
天面で踵部より前方の足裏のみを担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、
前記台の底面の後端から所定範囲の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯と、
一本形状部材の両端を前記台の後穴で固定し、略中央部を略V字状に折り曲げて足甲の上に配設する鼻緒と、
該鼻緒の折り曲げられた略中央部を一端側の環状部に通し、他端側を前記台の前穴に挿入固定して、親指と人差し指との間に挟まれる前坪とを備える、樹脂製一本歯式下駄。
【請求項3】
前記歯は、タイプAデュロメータで硬さ85.0以上95.0以下の樹脂材料で成形される、請求項1又は2に記載の樹脂製一本歯下駄。
【請求項4】
前記台と前記歯とは、別個独立に準備され、
前記台の底面には前後方向複数の位置に前記歯を位置決めする歯の案内手段が形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂製一本歯式下駄。
【請求項5】
前記歯は、幅方向内側に向かって高さが低くなるように形成される、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂製一本歯式下駄。
【請求項6】
前記台及び前記歯は、着色材料を含んだ樹脂材料で成形される、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂製一本歯式下駄。
【請求項7】
前記樹脂製の台及び前記歯は、EVA樹脂(エチレン ビニルアセタート コポリマー)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂製一本歯式下駄。
【請求項8】
前記歯の底部には、その底部表面に滑り止め形状を有するウレタンゴム製の板状部材を接着固定する、請求項1~7のいずれか1項に記載の樹脂製一本歯式下駄。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行性及び耐久性にも優れ、雨天時履きや室内履きにも適しており、使用時による健康増進をも企図し得るEVA製等の一本歯式下駄に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂サンダル式の履物では、足裏を地面から所定高さ担持する台と、台の上で足が入る隙間を開けた状態で台の踵部分両側一対の後穴から親指及び人差し指側の幅方向中央に1つの前穴まで略V字状に配置して足を固定する鼻緒と、で構成される。
【0003】
この鼻緒を有する履物としては、概ね和式と西洋式のタイプがあり、代表的な西洋式として、ビーチサンダルが存在する。西洋式のビーチサンダルは、EVA樹脂製の板状の台の底面が直接地面に接して天面で足裏を担持し、左右両側各1本のゴム等の鼻緒それぞれの後端を後穴に挿入固定し、後穴から延びる鼻緒の前端を一体に束ねて前穴に直接挿入固定している。そして、鼻緒の弾性により幅方向に開くことでユーザの足形状に合わせて足を固定する。概ねビーチサンダルの場合、足裏を担持する台をEVA樹脂製にしているため軽量で耐水性に優れている点で有利である。
【0004】
一方、和式の履物における鼻緒は歴史的に、鼻緒を前穴に直接固定せず、前穴と鼻緒との間に追加の部材としての前坪を介在させ、前坪に鼻緒を連結し、その前坪を前穴に固定することで前坪分の高さを確保する構成を採用している。このため甲高の足や寒冷期に足袋を重ね履きして使用することにも適している。
【0005】
このような事情からビーチサンダルの代替として発明者は和式の鼻緒を備えたビーチサンダルと同材料のEVA樹脂製の和草履を提供している(特許文献1 参照)。さらに、日本のような多湿で雨天時が多い地域での通常使用を考慮してEVA樹脂製の和草履として、発明者はEVA樹脂製の下駄(特許文献2 参照)を開発した。このEVA樹脂製の下駄は、台の底部から下方に幅方向に並列する歯が延びているため台は地面から所定高さの位置に持ち上げられており、雨天時での問題も改善されてた。さらにこのEVA樹脂製下駄では、EVA樹脂素材であってもユーザの自重で歯がつぶれてしまったり、歯が台との連接部近傍で前後に折れ曲がったりすることによる歩行性及び耐久性の問題も解決する適正なEVA樹脂についても開示している。
【0006】
しかしながら、EVA樹脂製の下駄は素材がEVA樹脂である以上、ある程度の可撓性を有するものであり、従来的な視点で下駄を場合、可撓性を有することはEVA樹脂を下駄素材として採用するに当たっての欠点と考えられるが、今般、発明者は逆にこの可撓性素材の特性を履物としての優位なものとして捉えることができないかに注目し、検討・開発を行った。また、昨今、外国人にも日本文化が浸透しつあり、ビーチサンダル感覚で日本文化を味わいたい外国人にとっては上記既に提供している歯が並行に並んでいる所謂二本歯のEVA樹脂製の下駄では、歩行時の体重移動に慣れが必要であることもわかってきており、外国人にとっての歩行性の確保や歩行を慣れるだけの付加価値が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-209609号公報
【特許文献2】登録実用新案第3226064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上に鑑みて本発明は創作されたものであり、歩行性及び耐久性に優れ、静止時・歩行時にマッサージ効果等、健康増進効果をも有する樹脂製一本歯式下駄を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決すべく創作された本発明の樹脂製一本歯式下駄は、
天面で足裏全体を担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、
前記台の底面の前後方向中央近傍の所定範囲内の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯と、
一本形状部材の両端を前記台の後穴で固定し、略中央部を略V字状に折り曲げて足甲の上に配設する鼻緒と、
該鼻緒の折り曲げられた略中央部を一端側の環状部に通し、他端側を前記台の前穴に挿入固定して、親指と人差し指との間に挟まれる前坪とを備える。
【0010】
本発明の基本構成は、一本の歯を台の中央近傍に設けたEVA等の樹脂製一本歯式下駄である。樹脂製の下駄において、歯を台の中央近傍に一本だけ設ける所謂一本歯式の形状にするとユーザが履いたときに自重により歯を支柱として台の前後端を下に撓むこととなる。これにより、まず静止時には土踏まずに集中的に自重が掛かり、土踏まず近傍の足裏部分に青竹踏みのような足裏マッサージ効果を奏する。
【0011】
また、歩行時には台及び歯が前方に傾斜し、傾斜しながら足指側(鼻緒の前坪側)に自重が掛かる位置がずれていき、それに伴って歯から掛かる力が傾斜して作用する。したがって、静止状態から一歩進む過程で青竹踏みの効果が土踏まずの位置から前方に移動していくこととなる。さらに次の一歩を踏み出す過程で元の足側の前傾傾斜は復元し、新たに踏み出した足の自重が掛かる位置が前方に移動していく。したがって、静止時には特に土踏まずに青竹踏みの効果の効果が大きく、歩行時には土踏まずから前方の足裏全体にわたって青竹踏みの効果を奏することとなり、所謂足つぼサンダルのような局部刺激や痛さまでに至らない緩やかな力による健康増進効果を奏する。
【0012】
また、本樹脂製一本歯式下駄では、一般下駄の歩行に慣れていないユーザにとっても歩行性が良好である。たとえEVA等の樹脂製であっても従来の二本歯式の下駄では歩行時の台は水平状態と前傾状態との2段階があり、この2段階を階段的に変えるよう揺動させて歩行する。したがって、不慣れなユーザや前傾歩行のユーザにとって歩行に難しさを感じる場合もある。これに対して本樹脂製一本歯式下駄の場合、歩行姿勢に追従して台が撓むことでスムーズに揺動し、台の前端が着地してからも撓むため容易に歩行を行うことができる。むしろ、硬い地面等を歩く場合、歯の存在による膝への負担軽減効果や台の前端の着地後の撓みによるクッション効果により本樹脂製一本歯式下駄の方が通常の洋式サンダルよりも歩きやすいと感じるユーザも存在することがわかった。
【0013】
さらに、台の底面に設ける歯の位置は、概ねユーザの土踏まずの位置になるように配設されるが、ユーザの所望に応じて前後できるように台の前後方向中央近傍の所定範囲内の位置に配設される又は複数の位置のラインナップが用意される。また、台上で足指を固定する鼻緒の前端の前坪は、鼻緒を台から所定高さに離間させて、その高さに足指を挿入させるものであり、前坪が高さを有するためユーザは足の位置を所望の位置にずらすことも可能である。したがって、本樹脂製一本歯式下駄ではユーザがその都度求める位置に足をずらして足つぼ効果を期待することができ、歯の位置が固定であっても青竹ふみ用の履物としての自由度が高い点も有利である。
【0014】
また、本樹脂製一本歯式下駄は他に、天面で踵部より前方の足裏のみを担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、
前記台の底面の後端から所定範囲の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯と、
一本形状部材の両端を前記台の後穴で固定し、略中央部を略V字状に折り曲げて足甲の上に配設する鼻緒と、
該鼻緒の折り曲げられた略中央部を一端側の環状部に通し、他端側を前記台の前穴に挿入固定して、親指と人差し指との間に挟まれる前坪とを備える場合もある。
【0015】
本発明の樹脂製一本歯式下駄の他の構成として、踵部がない台の場合もある。この場合、一本の歯が台の後方で土踏まずの位置近傍に配設されることとなる。したがって、踵部がない場合、静止時・歩行時ともにユーザは基本的に歯を支柱として台の前端が着地する前傾姿勢となり、歯の位置を自重反力が作用する頂部となる点は踵部がある場合と同様であるが踵部がある場合よりも前端に作用する自重反力が大きくなる。したがって、土踏まずのみならず足裏の前方全体に作用する力が大きくなり、且つ前傾姿勢を維持するため健康維持に加え、大きな痩身効果をも奏することとなる。
【0016】
さらに、上述した基本構成の樹脂製一本歯式下駄と同様に土踏まずから足裏前方に対する青竹踏みの効果を有することは基本構成の場合と同様である。
【0017】
上記樹脂製一本歯式下駄において、前記歯は、タイプAデュロメータで硬さ85.0以上95.0以下の樹脂材料で成形される、ことが好ましい。
【0018】
この樹脂製一本歯下駄では、歯の硬さを樹脂材料の硬度測定として標準化されているタイプAデュロメータで硬さ85.0~95.0としている。発明者は、歯の材質をトライアンドエラーで検証した結果、硬さ85.0以上95.0以下の樹脂材料であれば、ユーザの自重による歯の座屈変形も少なく、歯の耐摩耗性を有することを知得している。また、台については撓むことで足つぼマッサージ効果を奏することをを前提にしており、歩行時の前傾姿勢に追従するスムーズな前方変形及び復元を維持する観点から使用用途やユーザの一般的な自重の範囲に応じた硬さとしてタイプAデュロメータの硬さ85.0~95.0が好ましい。
【0019】
また、前記台と前記歯とは、別個独立に準備され、
前記台の底面には前後方向複数の位置に前記歯を位置決めする歯の案内手段が形成されても良い。
【0020】
前述するように台に対する歯の前後方向位置は、ユーザの姿勢、歩き方、青竹踏みを特に所望する足裏位置に適応させることが好ましいが、実際の汎用品とする場合としては複数の位置候補を明示しておき、そこに歯を案内してユーザが試着してみて、その後、業者又は自己で固定することが簡易オーダーメイド品として望ましい。
【0021】
また、前記歯は、幅方向内側に向かって高さが低くなるように形成されても良い。
【0022】
概ね下駄の歯は使用により幅方向外側に削れていく傾向にあり、特にEVA等樹脂製の場合には顕著である。また、幅方向外側が削れることによる転倒等も防止することが好ましい。さらに、幅方向内側の歯の高さが低くなることにより足の内転筋に負荷が掛かるため健康増進効果も期待できる。この観点からこの例では、歯を幅方向内側に向かって高さが低くなるように形成している。
【0023】
また、前記台及び前記歯は、着色材料を含んだ樹脂材料で成形しても良い。
【0024】
この樹脂製一本歯下駄によれば、素材自体に着色材料を含んだ樹脂材料を台及び歯に用いることで一般の下駄のように木材の表面に別途着色材料を塗布する工程なく多色の樹脂製下駄を容易に準備することができる。また、台及び歯の素材自体が元々着色されているため塗布した着色材料が地面との摩擦等で剥離等するようなこともない点でも有利である。
【0025】
また、前記樹脂製の台及び前記歯は、EVA樹脂(エチレン ビニルアセタート コポリマー)を素材とすることが例示される。
【0026】
台及び歯を形成する樹脂材料にはビーチサンダルにも汎用されるEVA樹脂が使用されることが好ましい。EVA樹脂は成形、加工が容易であり、耐水性も高く、上述したようにタイプAデュロメータによる硬さ90.0が緩衝材等に種々の用途多様される標準化された汎用品であり、安価である点でも有利である。
【0027】
さらに、前記歯の底部には、その底部表面に滑り止め形状を有するウレタンゴム製の板状部材を接着固定しても良い。
【0028】
この例によれば、歯の接地面をEVA樹脂そのままにしておく又はEVA樹脂の底面に滑り止め形状を形成する場合よりも滑り止め専用のウレタンゴム製の板状部材を装着する方が良好な滑り止め効果を有する。
【発明の効果】
【0029】
本発明のEVA等の樹脂製一本歯式下駄では、ユーザが履いたとき静止時には土踏まずに集中的に自重反力が掛かり撓むことで、土踏まず近傍の足裏部分に青竹踏みのような足裏マッサージ効果を奏する。また、歩行時には前方傾斜することやユーザが足の位置をずらすことで足指側に自重が掛かる位置が徐々にずれていき、足裏マッサージ効果も移動させることが可能であることから足裏全体にわたって足裏マッサージ効果を奏することとなり、局部刺激や痛みにまで至らない緩やかな刺激による健康増進効果を奏する。
【0030】
また、本樹脂製一本歯式下駄では、歩行姿勢に追従して台が撓みスムーズに揺動し、台の前端が着地してからも撓むため下駄の歩行に慣れていないユーザにとっても歩行性が良好であり、膝への負担軽減効果やクッション効果をも得られうr点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を前方斜め上方から見た斜視写真図が示されている。
図2】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を幅方向側から見た正面写真図が示されている。
図3】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を幅方向に図2と反対側から見た背面写真図が示されている。
図4】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を上方から見た天面写真図が示されている。
図5】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を下方から見た底面写真図が示されている。
図6】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を図1左側から見た左側面写真図が示されている。
図7】本発明の実施形態の樹脂製一本歯式下駄を図1右側から見た右側面写真図が示されている。
図8図1図7の本樹脂製一本歯式下駄を実際にユーザが履いて自重を掛けたときの様子を示した図3と同視点の背面写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
≪本発明案の実施形態の例示≫
本発明の樹脂製一本歯式下駄の実施形態例について図1図8を参照しつつ以下、説明する。
【0033】
図1は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を前方斜め上方から見た斜視写真図、図2は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を幅方向側から見た正面写真図、図3は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を幅方向に図2と反対側から見た背面写真図、図4は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を上方から見た天面写真図、図5は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を下方から見た底面写真図、図6は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を図1左側から見た左側面写真図、図7は本樹脂製一本歯式下駄の実施形態例を図1右側から見た右側面写真図が示されている。
さらに、図8はEVA樹脂製の本樹脂製一本歯式下駄を実際にユーザが履いて自重を掛けたときの様子を示した図3と同視点の背面写真図である。
【0034】
まず、図1図7に示す本樹脂製一本歯式下駄1の写真図を参照して、本樹脂製一本歯式下駄1の基本的な構成から説明する。本樹脂製一本歯式下駄1は、足を下方から担持する台2が設けられており、この台2は、薄板状のものであり、その天面2aに直接足裏に当って足裏を担持する。
【0035】
台2の下方には歯7が1つ配設される。歯7は、幅方向に台2の幅(図6及び図7の左右方向)と略同一の長さの幅で台2の底面2bから下方に延びており、台2を地面から浮かせるように所定高さa(図2参照)を有する。また、歯7は台2の底面2bの前後方向中央近傍(足の土踏まず近傍)の所定範囲内の位置で台2bの幅方向全体に延びている。
【0036】
また、台2の上方には足の指から踵方向(図2の右方向)にわたって略V字状に鼻緒3が延びている。鼻緒3は、布地又は皮地等一本の棒筒状部材であり、半分に折り曲げられ、折り曲げ箇所で前坪4を介して台2に固定されている。前坪4は、一端側に環状部4aを有し、環状部4aに鼻緒3の折り曲げ箇所を通し、他端側を台22の表裏(上下)を貫通して穿けられた前穴5に挿入され、台の2の底面2bに結び目3aを設けることで鼻緒3を台2に固定している。この結び目3aを調節することで鼻緒3の折り曲げ箇所の高さ(図2に鼻緒3の左端高さ)を調節することもできる。
【0037】
また、鼻緒3の両端(図2に鼻緒3の右端)はそれぞれ、台2の踵側に上下に貫通して穿けられた2つの後穴6に挿入され、台2の底面2a側で幅方向に互いに結んで(図5等に示す結び目3b参照)を設けることで鼻緒3の両端を台2に固定している。
【0038】
次に本樹脂製一本歯式下駄1をユーザが実際に履いた状態における機能について説明する。
図8を参照すれば、図1図7の樹脂製一本歯式下駄1を実際にユーザが履いて自重を掛けたときの様子が示されている。
【0039】
図8ではユーザが静止状態での樹脂製一本歯式下駄1に自重を掛けた様子が示されており、図3の自然状態に対して、歯7を支柱として台2の前後端(図3及び図8の左右端)がそれぞれ下がるよう撓んでいることがわかる。このとき特に歯7の上方に位置する足裏の所謂土踏まず部分には地面から上向きに自重の反力が集中して作用し、青竹踏みのような足裏マッサージ効果を奏することとなる。台2はEVA等の樹脂製の薄板であり、適度な硬さを有する弾性素材(後述)であるため図8に示す台2の撓み同様に歯7を頂点とする略正規分布で自重反力が分布する。したがって、所謂足つぼサンダルのような局部刺激や痛みにまで至らない緩やかな刺激による健康増進効果を奏する。
【0040】
また、鼻緒3の折り曲げ箇所は前坪4(環状部4a)に連結し、鼻緒3は前坪4を先端に台2の天面2aから所定高さに離間して配設されており、足指はその高さに挿入し、前坪4を挟むようにして鼻緒3の張力と相まって前進(図3の右方向の進行)をある程度規制している。ただし、前坪4は台2の天面2aの前穴5を支点として前後方向にある程度揺動するため足裏を台2上で滑らせて前進・後退させることができ、これにより足裏と歯7との前後位置もずれ、ユーザが所望する足裏位置作用する自重反力の集中箇所もずらすことができる。したがって、ユーザがその都度求める位置に足をずらして足つぼ効果を期待することができる。
【0041】
また、図8では静止時に様子が示されているが、歩行時には図8よりも前傾姿勢となり、樹脂製であるため台2の撓みが緩やかに前傾し、材料自重反力の応力分布において頂部が徐々に前方に移動していくこととなる。したがって、足裏に作用する自重反力の集中箇所も徐々に前方移動し、歩行により足裏全体にマッサージ効果を得ることができる。さらに歩行時の姿勢に台2が揺動して撓みが追従するため着地箇所(歯7)からの自由反力が集中し過ぎることはなく、樹脂製のクッション効果と相まって歩行時の膝への負担が通常の履物よりも軽減する。
【0042】
次に、本樹脂製一本歯式下駄1における台2及び歯7の材質について説明する。
樹脂製一本歯式下駄1の台2及び1つの歯7は共に、EVA樹脂で成形されている。EVA樹脂は、エチレン ビニルアセタート コポリマーの略称であり、エチレン‐酢酸ビニル共重合体の合成樹脂であり、水を吸わない性質からビーチサンダル等のような水場周りで汎用される素材である。EVA樹脂は刃物でカットし易く、シート素材から切り出して使用できるので製造工程も安価・容易である。
【0043】
樹脂製一本歯式下駄1の台2及び歯7を形成するEVA樹脂は、顔料や染料を練り込んで着色している。図1図8の写真図はグレースケールで示しているが、実際には黒色や黄色等に着色しており、その他、他の着色剤を練り込んだ多種のカラーラインナップを準備している。
【0044】
台2及び歯7におけるEVA樹脂の適正な硬度について説明する。
ゴムや樹脂の硬さは、一般にデュロメータにより測定する。デュロメータ硬さは,規定した条件下で試験片に規定の押針を押し込んだときの押針の押込み深さから得られる値である。デュロメータには,タイプA,タイプD,タイプE及びタイプAMがあり,通常、タイプA及びDを用いるが、その選択は,タイプ Dデュロメータで硬さが20未満の値を示す場合は,タイプAを用い、タイプAデュロメータで硬さが20未満の値を示す場合は,タイプEを用いる。また、タイプAデュロメータで硬さが90を超える値を示す場合は、タイプDを用い、薄い試験片(厚さ6.0 mm 未満)の場合は,タイプAMを用いる。
【0045】
一般に履物に使用するEVA樹脂は、標準化されたタイプAデュロメータの硬度50、70であり、特に硬い靴底等で硬度90を使用することがある。したがって、足裏を直接担持する部分の場合、硬度50、70の使用が当業者に一般的である。これを参考として発明者はまず台2、12において硬度50、70について検証した。その結果、硬度70の場合、非歩行時の台2は通常のユーザの自重に十分に耐えることができるが、撓み過ぎ且つ復元力も弱いため図8に比して自重反力の応力分布における頂部が急進的であり、履物として長時間使用する場合、痛みを伴う場合もあり、好ましくない。また、硬度70の場合、歯7がユーザの自重で大きく座屈し、成人用としては優先採用できるものとは言えない。さらに対象ユーザ・使用用途に応じて歯7を硬度90.0とし、それより台2を柔らかくし、硬さを70.0とすることも考えられるが、台2と歯7とは同硬さの樹脂である方が連結性・耐久性が高いため、総じて台2及び歯7ともに硬度50,70,90のうちでは硬度90が好ましい。さらに、歯7を硬く台2を柔らかくするして硬度を変えることは台2の方が軟らかいため歩行時の前傾姿勢に追従する前方変形(及び復元)を台2が中心として担うこととなり、下駄として良好な台2の揺動ができないという点でも採用に適するとは言えない。
【0046】
このように樹脂製一本歯式下駄1として使用するEVA樹脂の素材の硬度は、標準化された50、70、90のうちでは90が好ましいことがわかったが、そもそもタイプAデュロメータの測定には公差があり、少なくともこれを加味する必要がある。タイプAデュロメータの加圧板の直径は、18.0±0.5(mm)であり、これを面積で換算すると306.25π~342.25π(mm2)となる。したがって、直径18.0(mm)を1とすると面積の公差は、0.945~1.056となり、公差±約5.5%となる。これを硬さ90に当てはめると硬さ±約5.0が公差となる。したがって、樹脂製一本歯式下駄1の台2及び7の硬さは85.0~95.0が好ましいことがわかった。
【0047】
また図示しないが、本樹脂製一本歯下駄は図1図8の実施形態の他の実施形態も例示される。
【0048】
具体的に他の実施形態としての樹脂製一本歯下駄では、台に踵部がない場合、すなわち台の天面で踵部より前方の足裏のみを担持し、前方の幅方向略中央に1つの前穴と後方に幅方向に並列する2つの後穴とを有する板状樹脂製の台と、台の底面の後端から所定範囲の位置で幅方向に延びて該台を固定担持する樹脂製の1つの歯とで構成されるものである。この踵部なしの樹脂製一本歯式下駄の場合、図1図8の例と同様に一本の歯が台の土踏まずの位置近傍に配設されているが、ここでは踵部がないため歯は台の後方に位置している。踵部がない場合、静止時・歩行時ともにユーザは基本的に歯を支柱として台の前端が着地する前傾姿勢となり、歯の位置を自重反力が作用する頂部となる点は同様であるが図1図8の例より前端に作用する自重反力が大きくなる。したがって、土踏まずのみならず足裏の前方全体に作用する力が大きくなり、且つ前傾姿勢を維持するため健康維持に加え、大きな痩身効果をも奏することとなる。
【0049】
さらに、図1図8の樹脂製一本歯式下駄1や上記他の実施形態の踵部なしの樹脂製一本歯式下駄であっても、ユーザへの提供時に歯7は鼻緒3を有する台2と別個に準備することが可能である。台2に対する歯の前後方向位置は、ユーザの姿勢、歩き方、青竹踏みを特に所望する足裏位置などユーザに応じたその好み、要望が異なることがある。実際の汎用品とする場合、ユーザの希望に応じた複数の位置候補を明示しておき、そこに歯を案内してユーザが試着してみて、その後、業者又は自己で固定する簡易オーダーメイド品とされることもある。例えば、図3では歯7の幅長さをbとしているが、歯7の幅長さb程度の範囲内で歯7を台2の底面2b上を前後にずらして業者が接着等する。このとき図示しないが台2の底面2bに数箇所案内用の目印や歯7を受容する幅方向の凹部を複数設ける場合がある。
【0050】
以上、本発明における樹脂製一本歯下駄についての実施形態およびその概念及び周辺技術について説明してきたが本発明はこれに限定されるものではなく実用新案登録請求の範囲および明細書等に記載の精神や教示を逸脱しない範囲で他の変形例、改良例が得られることが当業者は理解できるであろう。
【符号の説明】
【0051】
1…樹脂製一本歯下駄
2…台
2a…天面
2b…底面
3…鼻緒
3a…
3b…
4…前坪
4a…環状部
5…前穴
6…後穴
7…歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8