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特開2022-83139スラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022083139
(43)【公開日】2022-06-03
(54)【発明の名称】スラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/72 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
B29C33/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020194417
(22)【出願日】2020-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 浩士
(72)【発明者】
【氏名】若山 琢行
(72)【発明者】
【氏名】板倉 哲憲
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AM13
4F202CA06
4F202CB01
4F202CS02
(57)【要約】
【課題】金型の洗浄に使用する洗浄液の量が少なくて済む、汎用性の高いスラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置を提供する。
【解決手段】凹状に形成された成形面(4a)を上に向けて金型(3)を保持する。次いで、金型(3)の成形面(4a)が形成する凹状部(5)内に、成形面(4a)の全体が浸らない量の洗浄液(S)を注入する。そして、金型(3)を揺動させることで、成形面(4a)の洗浄液(S)に浸かっていない部分を洗浄液(S)に晒して、成形面(4a)の全体が濡れている状態にし、成形面(4a)の全体が洗浄液(S)で濡れている状態を維持するように金型(3)の揺動を所定の時間に亘って繰り返す。その後、凹状部(5)内の洗浄液(S)を回収する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラッシュ成形用金型(3)の凹状に形成された成形面(4a)を洗浄する方法であって、
前記成形面(4a)を上に向けて前記金型(3)を保持し、
前記金型(3)の前記成形面(4a)が形成する凹状部(5)内に、前記成形面(4a)の全体が浸らない量の洗浄液(S)を注入し、
前記金型(3)を揺動させることにより、前記成形面(4a)の前記洗浄液(S)に浸かっていない部分を前記洗浄液(S)に晒して、前記成形面(4a)の全体が濡れている状態にし、
前記成形面(4a)の全体が前記洗浄液(S)で濡れている状態を維持するように前記金型(3)の揺動を所定の時間に亘って繰り返した後、前記凹状部(5)内の前記洗浄液(S)を回収する
ことを特徴とするスラッシュ成形用金型の洗浄方法。
【請求項2】
スラッシュ成形用金型(3)の凹状に形成された成形面(4a)を洗浄する装置であって、
洗浄液(S)を溜める洗浄液タンク(30)と、
前記成形面(4a)を上に向けた状態で前記金型(3)を保持するラック(40)と、
前記ラック(40)に保持された前記金型(3)の前記成形面(4a)が形成する凹状部(5)内に前記洗浄液タンク(30)から前記洗浄液(S)を供給する洗浄液供給手段(50)と、
前記金型(3)の前記凹状部(5)内から前記洗浄液(S)を回収する洗浄液回収手段(60)と、
前記金型(3)を保持した状態の前記ラック(40)を揺動させる駆動装置(70)と、
前記駆動装置(70)の動作を制御する制御装置(90)と、を備え、
前記制御装置(90)は、前記金型(3)の前記凹状部(5)内に前記成形面(4a)の全体が浸らない量の前記洗浄液(S)が注入された状態で、前記駆動装置(70)に前記ラック(40)を繰り返し揺動させることにより、前記成形面(4a)の前記洗浄液(S)に浸っていない部分を前記洗浄液(S)に晒し、前記成形面(4a)の全体が前記洗浄液(S)で濡れている状態を所定の時間に亘って維持する
ことを特徴とするスラッシュ成形用金型の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、スラッシュ成形用金型の凹状に形成された成形面を洗浄液により洗浄することが行われている。例えば、特許文献1には、洗浄液としての薬液を溜める薬液槽と金型の内部空間との間で薬液を循環させる洗浄方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示の金型の洗浄方法では、薬液導入口および薬液排出口が設けられた蓋を金型の開口部に取り付け、薬液槽から薬液導入口を通じて金型の内部に供給された薬液を、薬液排出口を通じて薬液槽に戻す。蓋の形状は、蓋の下面と金型の内壁面との間に所定の隙間を形成するように定められる。そのことで、金型の内部空間に貯留する薬液の量を最小限にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-82253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示の金型の洗浄方法では、金型の種類に応じた蓋の使用が伴うため、種類の異なる金型ごとに、その金型の形状に合わせた蓋を準備する必要があり、汎用性が低い。また、金型の洗浄時に内部空間に貯留する薬液の量を最小限にしているとしても、金型の成形面を全体に亘って同時に薬液に浸すためには、比較的多い量の薬液が必要になる。金型の内部空間に貯留する薬液の量が多いと、金型が薬液の荷重により変形するおそれがある。これに対して、金型の強度を高めようとすると、金型にかかるコストが嵩む。
【0006】
本開示の技術の目的は、金型の洗浄に使用する洗浄液の量が少なくて済む、汎用性の高いスラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、金型の内部に成形面の一部が浸るように洗浄液を溜め、その状態で金型を揺動させることで、成形面の洗浄液に浸っていない部分も洗浄液に晒すようにした。
【0008】
具体的には、本開示の第1の態様は、スラッシュ成形用金型の凹状に形成された成形面を洗浄する、スラッシュ成形用金型の洗浄方法を対象とする。第1の態様の洗浄方法では、前記成形面を上に向けて前記金型を保持し、前記金型の前記成形面が形成する凹状部内に、前記成形面の全体が浸らない量の洗浄液を注入し、前記金型を揺動させることにより、前記成形面の前記洗浄液に浸かっていない部分を前記洗浄液に晒して、前記成形面の全体が濡れている状態にし、前記成形面の全体が前記洗浄液で濡れている状態を維持するように前記金型の揺動を所定の時間に亘って繰り返した後、前記凹状部内の前記洗浄液を回収する。
【0009】
本開示の第2の態様は、スラッシュ成形用金型の凹状に形成された成形面を洗浄する、スラッシュ成形用金型の洗浄装置を対象とする。第2の態様の洗浄装置は、洗浄液を溜める洗浄液タンクと、前記成形面を上に向けた状態で前記金型を保持するラックと、前記ラックに保持された前記金型の前記成形面が形成する凹状部内に前記洗浄液タンクから前記洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記金型の前記凹状部内から前記洗浄液を回収する洗浄液回収手段と、前記金型を保持した状態の前記ラックを揺動させる駆動装置と、前記駆動装置の動作を制御する制御装置とを備える。そして、前記制御装置は、前記金型の前記凹状部内に前記成形面の全体が浸らない量の前記洗浄液が注入された状態で、前記駆動装置に前記ラックを繰り返し揺動させることにより、前記成形面の前記洗浄液に浸っていない部分を前記洗浄液に晒し、前記成形面の全体が前記洗浄液で濡れている状態を所定の時間に亘って維持する。
【発明の効果】
【0010】
第1の態様のスラッシュ成形用金型の洗浄方法によれば、金型の成形面が形成する凹状部内に成形面の一部のみが浸かる量の洗浄液を使用して成形面を全体に亘り洗浄できるので、金型の洗浄に使用する洗浄液の量が少なくて済む。そして、当該スラッシュ成形用金型の洗浄方法は、金型の種類に応じた付随的な機具や装置を必要としないので、汎用性が高い。
【0011】
第2の態様のスラッシュ成形用金型の洗浄装置によれば、第1の態様のスラッシュ成形用金型の洗浄方法を具体的に実施できる。よって、金型の凹状部内に成形面の一部のみが浸かる量の洗浄液を使用して成形面を全体に亘り洗浄でき、金型の洗浄に使用する洗浄液の量が少なくて済む。さらに、当該スラッシュ成形用金型の洗浄装置は、金型の種類に応じた付随的な機具や装置を必要としないので、汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】スラッシュ成形装置の構成を例示する断面図である。
図2】スラッシュ成形装置を使用して成形されるインストルメントパネルの表皮材を例示する斜視図である。
図3】スラッシュ成形用金型の洗浄装置の構成を示す図である。
図4】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において洗浄液を注入し始めたときの様子を示す断面図である。
図5】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において洗浄液を所定量まで注入した状態を示す断面図である。
図6】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において金型を揺動させている様子を示す断面図である。
図7】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において金型を揺動させている様子を示す断面図である。
図8】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において金型の内部から洗浄液を回収するときの様子を示す断面図である。
図9】スラッシュ成形用金型の洗浄方法において金型の内部から洗浄液を回収し終えたときの様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
この実施形態では、本開示の技術に係るスラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置について、2つの金型本体を一体とした大型の金型を対象とする場合を例に挙げて説明する。
【0015】
-洗浄対象の金型およびスラッシュ成形装置-
本開示の技術に係る金型の洗浄方法および洗浄装置の洗浄対象である金型3は、自動車のインストルメントパネルの表皮材をスラッシュ成形するのに用いられるスラッシュ成形用金型である。図1は、スラッシュ成形用金型3を備えたスラッシュ成形装置1の構成を例示する断面図である。図2は、スラッシュ成形装置1を使用して成形されるインストルメントパネルの表皮材101を例示する斜視図である。
【0016】
図1に示すように、スラッシュ成形装置1は、金型3と、金型フレーム7と、粉体ボックス9とを備える。金型3は、第1金型本体3aと第2金型本体3bとが一体に接合されて構成される。第1金型本体3aおよび第2金型本体3bはいずれも、図2に示すような表皮材101を成形する成形面4を有する。金型3は、表皮材101を二枚取りするための大型の金型である。
【0017】
第1金型本体3aおよび第2金型本体3bの各成形面4は、凹状に形成される。2つの成形面4は、1つの凹状部5を構成する。凹状部5は、スラッシュ成形装置1による表皮材101の成形時に粉体ボックス9の内部に向けられる開口6を有する。金型3は、金型フレーム7によって保持される。金型フレーム7には、金型3の長手方向において水平に延びる回転軸8が連結されている。金型フレーム7は、粉体ボックス9との接合および分離が可能である。
【0018】
粉体ボックス9は、粉体樹脂材料Rを収容する。粉体樹脂材料Rとしては、例えばポリ塩化ビニル(PVC)や熱可塑性ポリウレタン(TPU)などが用いられる。スラッシュ成形装置1では、加熱した金型3を金型フレーム7に保持させ、その金型フレーム7を粉体ボックス9と接合してなる接合体10を回転軸8周りに回転させることにより、粉体樹脂材料Rが第1金型本体3aおよび第2金型本体3bの各成形面4に供給され、個々の成形面4に表皮材101が成形される。
【0019】
第1金型本体3aおよび第2金型本体3bの各成形面4には、シボ加工が施されていることがある。粉体樹脂材料Rは、各成形面4のシボ加工された部分や凹部の隅に固着し易い。金型3を用いて表皮材101を繰り返し成形すると、粉体樹脂材料Rが成形面4に固着することで、表皮材101の表面にシボが十分に転写されずに艶が出たり、成形面4の凹部の隅に対応する表皮材101の角部が歪に成形されたり、表皮材101の表面に固着物が付いたりするといった成形不良を起こす問題がある。
【0020】
そこで、この実施形態では、金型3の各成形面4に固着した粉体樹脂材料Rからなる固着物を除去すべく、洗浄液Sを用いて金型3の各成形面4を洗浄する。
【0021】
-金型の洗浄装置-
図3は、スラッシュ成形用金型3の洗浄装置20の構成を示す図である。金型3の洗浄には、図3に示す洗浄装置20が使用される。洗浄装置20は、金型3の凹状に形成された成形面4を洗浄する装置である。洗浄装置20は、洗浄液タンク30と、ラック40と、液供給系50と、液回収系60と、駆動装置70と、操作部80と、制御装置90とを備える。
【0022】
洗浄液タンク30は、洗浄液Sを溜める容器である。洗浄液Sは、金型3の各成形面4に付いた固着物を溶解するかまたは膨潤させることにより、その固着物を成形面4から除去可能な状態にする液体である。洗浄液Sの成分は、洗浄対象とする固着物の種類に応じて調整される。例えば、洗浄液Sとしては、強アルカリ性を有する周知の洗浄液が用いられる。また、洗浄液タンク30は、中に溜めた洗浄液Sをその洗浄性能が活性化する温度に調節する調温機能を備える。
【0023】
ラック40は、各成形面4を上に向けた状態で金型3を保持する支持台である。本例のラック40には、金型3を保持した状態の金型フレーム7が取り付けられる。ラック40は、保持フレーム42と、支持脚48とを有する。保持フレーム42は、略U字状に形成される。保持フレーム42の長手方向における両側にはそれぞれ、クランプ44と、揺動軸46とが設けられる。クランプ44は、金型3の回転軸8を回転不能に固定する構造部である。揺動軸46は、保持フレーム42の外側に向けて延びる。支持脚48は、揺動軸46を揺動自在に支持する。そのことで、ラック40は、揺動軸46を中心として揺動可能になっている。
【0024】
ラック40には、角度検出センサ49が設けられる。角度検出センサ49は、揺動軸46の回転角度を検出するセンサであり、揺動軸46の近傍に配置される。例えば、角度検出センサ49は、揺動軸46に設けられた図示しない複数のカムの互いに異なる位置にある凸形状の接近を検知することで、いずれのカムの凸形状が接近しているのかに応じて揺動軸46の回転角度を検出するように構成される。角度検出センサ49の検出結果(揺動軸46の回転角度に関する情報)は、制御装置90に出力される。
【0025】
液供給系50は、ラック40に保持された金型3の2つの成形面4が形成する凹状部5内に洗浄液タンク30から洗浄液Sを供給する。液供給系50は、洗浄液供給手段の一例である。液供給系50は、給液配管52と、給液ホース54とを有する。給液配管52の一端は、洗浄液タンク30の底部側に接続される。給液配管52の他端には、給液ホース54が接続される。洗浄液タンク30内の洗浄液Sは、大気圧により給液配管52を通じて給液ホース54に送られ、給液ホース54の給液配管52とは反対側の開口である吐出口54aから吐出される(図4参照)。
【0026】
液回収系60は、金型3の凹状部5内から洗浄液Sを洗浄液タンク30に回収する。液回収系60は、洗浄液回収手段の一例である。液回収系60は、戻り配管62と、収液ホース64とを有する。戻り配管62の一端は、洗浄液タンク30の上側に接続される。戻り配管62の他端には、収液ホース64が接続される。戻り配管62の中途部には、1つのポンプ66と、第1ストレーナ67および第2ストレーナ68とが設けられる。ポンプ66は、第1ストレーナ67および第2ストレーナ68よりも洗浄液タンク30側に位置する。ポンプ66は、戻り配管62内の洗浄液Sを収液ホース64側から洗浄液タンク30側に送り出す。
【0027】
第1ストレーナ67は、第2ストレーナ68よりも収液ホース64側に位置する。すなわち、第2ストレーナ68は、第1ストレーナ67とポンプ66との間に位置する。第1ストレーナ67は、粗い目のフィルタを有する。第2ストレーナ68は、細かい目のフィルタを有する。金型3の凹状部5内に溜められた洗浄液Sは、ポンプ66を駆動することにより、収液ホース64を通じて戻り配管62に送られ、第1ストレーナ67および第2ストレーナ68で順に濾過されて、戻り配管62から洗浄液タンク30に戻される。
【0028】
駆動装置70は、金型3を保持した状態のラック40を揺動させる装置である。駆動装置70は、モータ72と、伝動機構76とを有する。モータ72は、駆動軸74を有し、その駆動軸74の回転方向を切り換えられるように構成される。伝動機構76は、モータ72の動力をラック40の揺動軸46に伝達する機構である。伝動機構76は、プーリ77と、ベルト78とを有する。プーリ77は、揺動軸46に軸心を一致させて設けられる。ベルト78は、モータ72の駆動軸74とプーリ77とに掛け渡される。モータ72が駆動軸74を所定のタイミングで回転方向を切り換えつつ回転させると、ベルト78は、駆動軸74の回転に応じた方向へ走行し、プーリ77と一体に揺動軸74を回転させる。そうして、揺動軸74がモータ72の駆動軸74に連動して回転することで、ラック40が揺動する。
【0029】
操作部80は、作業者の操作による金型3の洗浄処理に関する入力を受け付ける。操作部80は、物理的な操作ボタン82,84により構成される。操作ボタン82,84としては、開始ボタン82および停止ボタン84が設けられる。開始ボタン82は、洗浄処理の開始を指示するスイッチである。停止ボタン84は、洗浄処理の停止を指示するスイッチである。操作部80は、開始ボタン82が操作されると、開始信号を制御装置90に出力する。また、操作部80は、停止ボタン84が操作されると、停止信号を制御装置90に出力する。なお、操作部80は、タッチパネルにより構成されてもよい。
【0030】
制御装置90は、駆動装置70の動作を制御する装置である。制御装置90は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラである。制御装置90は、CPU(Central Processing Unit)やメモリなどで構成される。制御装置90には、角度検出センサ49、駆動装置70(モータ72)および操作部80が電気的に接続される。制御装置90は、操作部80から開始信号が入力されると、メモリに記憶されたプログラムを実行することにより、角度検出センサ49から入力された検出結果に基づいて、駆動装置70によるラック40の揺動、ひいては金型3の揺動を制御する。
【0031】
具体的には、制御装置90は、後述するように金型3の凹状部5内に成形面4の全体が浸らない量の洗浄液Sが注入された状態で、駆動装置70にラック40を繰り返し揺動させる(図6および図7参照)。これにより、成形面4の洗浄液Sに浸っていない部分を洗浄液Sに晒し、成形面4の全体が洗浄液Sで濡れている状態を所定の時間に亘って維持する。ラック40ごと金型3を揺動させる際の揺動軸46の回転速度は、金型3の凹状部5内に溜められた洗浄液Sが凹状部5外に溢れない程度の速度に設定される。金型3を揺動させる時間は、例えば30分程度に設定される。
【0032】
-金型の洗浄方法-
上記構成の洗浄装置20を使用してスラッシュ成形用金型3を洗浄する方法は、金型セットステップと、洗浄液注入ステップと、金型揺動ステップと、洗浄液回収ステップと、削剥ステップと、水洗ステップと、ブラストステップと、エアブローステップとを含む。金型セットステップ、洗浄液注入ステップ、金型揺動ステップ、洗浄液回収ステップ、削剥ステップ、水洗ステップ、ブラストステップおよびエアブローステップは、この順に行われる。
【0033】
金型セットステップでは、作業者が手動で、スラッシュ成形装置1で使用した金型3を金型フレーム7と共に、成形面4を上に向けてラック40に保持させる。このとき、金型3の回転軸8をクランプ44で回転不能に固定する。そして、揺動軸46を回転させるなどしてラック40を傾斜させ、金型3を開口6が真上を向く姿勢から回転軸8周りの一方側に傾斜させた状態にする(図4参照)。このときの金型3の姿勢は第1傾斜姿勢である。第1傾斜姿勢の金型3では、第1金型本体3aが相対的に下側に位置し、第2金型本体3bが相対的に上側に位置する。
【0034】
図4は、金型3の洗浄方法において洗浄液Sを注入し始めたときの様子を示す断面図である。図5は、金型3の洗浄方法において洗浄液Sを所定量まで注入した状態を示す断面図である。図4に示すように、洗浄液注入ステップでは、作業者が手動で、給液ホース54の吐出口54aを第1傾斜姿勢の金型3の凹状部5内に入れ、その凹状部5内に成形面4の全体が浸らない量の洗浄液Sを注入する。
【0035】
金型3における第1金型本体3aの成形面4には、凹状部5内に洗浄液Sを溜めるときの洗浄液Sの液面位置の基準となる基準線Lsが設けられる。基準線Lsは、金型3の凹状部5の開口6端縁の付近に延びる。基準線Lsは、例えばケガキ線や凹条部、凸条部からなる印である。図5に示すように、作業者は、洗浄液Sをその液面が基準線Ls付近になるまで金型3の凹状部5内に注入し、金型3の成形面4の一部が洗浄液Sで浸った状態とする。そうして、金型3の凹状部5で第1金型本体3a内に寄せて洗浄液Sを溜める。このとき、第1金型本体3aの成形面4は洗浄液Sに浸るが、第2金型本体3bの成形面4は洗浄液Sに浸らない。
【0036】
図6および図7は、金型3の洗浄方法において金型3を揺動させている様子を示す断面図である。金型揺動ステップは、金型3の凹状部5内に洗浄液Sを溜めた後に、作業者が操作部80の開始ボタン82を操作することで開始される。図6および図7に示すように、金型揺動ステップでは、駆動装置70の動作により揺動軸46を回転させ、ラック40ごと金型3を揺動軸46周りに繰り返し揺動させる。
【0037】
金型揺動ステップにおいて、金型3は、第1傾斜姿勢から第2傾斜姿勢に移行する(図6参照)。第2傾斜姿勢は、第1傾斜姿勢とは反対側に開口6を向けるように金型3を傾斜させた姿勢である。第2傾斜姿勢の金型3では、第1金型本体3aが相対的に上側に位置し、第2金型本体3bが相対的に下側に位置する。金型3を第1傾斜姿勢から第2傾斜姿勢に移行させると、金型3の凹状部5で第1金型本体3a内に寄せて溜められた洗浄液Sが第2金型本体3b内に流動する。それにより、金型3の成形面4の洗浄液Sに浸かっていない部分、つまり第2金型本体3bの成形面4を流動する洗浄液Sに晒して、成形面4の全体が濡れている状態にする。このとき、金型3の成形面4に固着物がある場合、その固着物に洗浄液Sの流動圧が作用する。
【0038】
金型揺動ステップにおいてさらに、金型3は、第2傾斜姿勢から第1傾斜姿勢に移行する(図7参照)。金型3が第2傾斜姿勢から第1傾斜姿勢に移行すると、金型3の凹状部5で第2金型本体3b内に寄せて溜められた洗浄液Sが第1金型本体3a内に流動する。それにより、第1金型本体3aの成形面4を流動する洗浄液Sに晒して、第1金型本体3aの成形面4を濡れた状態に保つ。このときにも、金型3の成形面4に固着物がある場合、その固着物に洗浄液Sの流動圧が作用する。
【0039】
このように、金型揺動ステップでは、金型3の姿勢を第1傾斜姿勢と第2傾斜姿勢とに所定の時間に亘って切り換え、成形面4の全体が洗浄液Sで濡れている状態を維持するように金型3の揺動を所定の時間(例えば30分程度)に亘って繰り返す。それにより、金型3の成形面4に付いた固着物は、洗浄液Sに同じ時間だけ浸し続けた場合と同様に、洗浄液Sに溶解するか、または洗浄液Sで膨潤して成形面4から剥離し或いは剥離し易い状態となる。
【0040】
金型揺動ステップは、作業者が操作部80の停止ボタン84を操作することで終了される。金型揺動ステップの終了時には、金型3は第1傾斜姿勢または第2傾斜姿勢とされる。なお、金型揺動ステップは、金型揺動ステップを開始してから所定の時間が経過した時点で自動的に終了してもよい。
【0041】
図8は、金型3の洗浄方法において金型3の内部から洗浄液Sを回収するときの様子を示す断面図である。図9は、金型3の洗浄方法において金型3の内部から洗浄液Sを回収し終えたときの様子を示す断面図である。図8に示すように、洗浄液回収ステップでは、作業者が手動で、収液ホース64の吸込口64aを第1傾斜姿勢または第2傾斜姿勢の金型3の凹状部5内に入れて洗浄液Sに浸ける。そして、ポンプ66を駆動させることにより、その凹状部5内の洗浄液Sを第1ストレーナ67および第2ストレーナ68で濾過しつつ洗浄液タンク30に回収する。
【0042】
削剥ステップでは、金型3の凹状部5の開口6周縁部に付いた固着物を、スクレイパーなどを用いて削り剥ぎ取る。金型3の開口6周縁部にも粉体樹脂材料Rからなる固着物が付くことが多いが、金型3の開口6周縁部には洗浄液Sによる洗浄が施されないため、削剥ステップを行う。なお、金型3の開口6周縁部は、スラッシュ成形品の製品外に対応した部位であるので、洗浄液Sによる洗浄を施さなくても特に問題はない。削剥ステップは、金型3をラック40に支持させたまま行う。
【0043】
水洗ステップでは、作業者が手動で、金型3を凹状部5の開口6が側方に向くように立てた姿勢とし、金型3の成形面4および開口6周縁部に水を掛けながらブラッシングを施す。そうすることで、残った洗浄水Sや固着物の一部などの残留物を洗い流す。なお、水洗ステップでは、ブラッシングを行わず、高圧で噴射される水を吹き付けるだけであってもよい。
【0044】
ブラストステップでは、作業者が手動で、金型3の開口6周縁部に研掃材を吹き付ける。これにより、削剥ステップで剥ぎ取れなかった固着物を除去する。例えば、ブラストステップでは、ドライアイスブラストを金型3の開口6周縁部に施す。ドライアイスブラストは、ドライアイスを研掃材とするため、研掃材の回収や廃棄の手間が省けてコスト面で有利である。
【0045】
ブローステップでは、作業者が手動で、ブロワーを用いて金型3の成形面4および開口6周縁部に乾燥した空気を吹き付ける。そうすることで、金型3に付いた水や異物を吹き飛ばし、金型3を乾燥させる。
【0046】
以上のようして、金型3の成形面4を洗浄することができる。
【0047】
-実施形態の特徴-
この実施形態のスラッシュ成形用金型3の洗浄装置20およびそれを用いた金型3の洗浄方法によると、金型3の凹状部5内に成形面4の一部のみが浸かる量の洗浄液Sを使用して2つの成形面4を全体に亘り洗浄できるので、金型3の洗浄に使用する洗浄液Sの量が少なくて済む。それにより、金型3が洗浄液Sの荷重により変形することを抑制できる。したがって、金型3の強度を洗浄のために高めなくてもよく、金型3にかかるコストを低減できる。さらに、当該金型3の洗浄装置20および洗浄方法は、金型3の種類に応じた付随的な機具や装置を必要としないので、汎用性が高い。
【0048】
そして、この実施形態のスラッシュ成形用金型3の洗浄装置20およびそれを用いた金型3の洗浄方法によると、金型3の成形面4を洗浄する際に金型揺動ステップにて金型3の凹状部5内を洗浄液Sが流動するので、洗浄液Sの流動圧が固着物に作用することになり、洗浄液Sによる洗浄効果を高めることができる。これによって、金型3の成形面4に付いた固着物を、よりいっそう洗浄液Sに溶解させるかまたは洗浄液Sで膨潤させやすくなり、好適に除去できる。また、金型3の洗浄に要する時間を短縮できる。
【0049】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0050】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0051】
上記実施形態では、金型3の洗浄において、洗浄液タンク30の洗浄液Sを凹状部5内に注入する洗浄液注入ステップと、凹状部5内の洗浄液Sを洗浄液タンク30に回収する洗浄液回収ステップとを、作業者が手動で行うとしたが、これに限らない。これら洗浄液注入ステップおよび洗浄液回収ステップは、操作部80で開始ボタン82が操作されると、シーケンス制御に従い自動で行われてもよい。このことは、削剥ステップ、水洗ステップ、ブラストステップおよびエアブローステップにおいても同じである。
【0052】
上記実施形態では、表皮材101を2枚取り可能な大型の金型3を洗浄対象とする洗浄装置20およびそれを用いた洗浄方法を例に挙げて説明したが、これに限らない。本開示の技術に係るスラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置は、表皮材101を個別に成形する金型を洗浄対象とすることもできるし、表皮材101以外のものを成形する金型を洗浄対象とすることも可能なことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本開示の技術は、洗浄液を用いるスラッシュ成形用金型の洗浄方法および洗浄装置について有用である。
【符号の説明】
【0054】
Ls 基準線
R 粉体樹脂材料
S 洗浄液
1 スラッシュ成形装置
3 スラッシュ成形用金型
3a 第1金型本体
3b 第2金型本体
4 成形面
5 凹状部
6 開口
7 金型フレーム
8 回転軸
9 粉体ボックス
10 接合体
20 洗浄装置
30 洗浄液タンク
40 ラック
42 保持フレーム
44 クランプ
46 揺動軸
48 支持脚
49 角度検出センサ
50 液供給系(洗浄液供給手段)
52 給液配管
54 給液ホース
54a 吐出口
60 液回収系(洗浄液回収手段)
62 戻り配管
64 収液ホース
64a 吸込口
66 ポンプ
67 第1ストレーナ
68 第2ストレーナ
70 駆動装置
72 モータ
74 駆動軸
76 伝動機構
77 プーリ
78 ベルト
80 操作部
90 制御装置
101 表皮材
図1
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